複雑・ファジー小説
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- ある暗殺者と錬金術師の物語(更新一時停止・感想募集中)
- 日時: 2015/02/18 00:42
- 名前: 鮭 (ID: Y9aigq0B)
魔法、科学等様々な分野で発展する世界。広い世界には様々な国がありそれがいくつあるか、どんな国があるのか、どれだけの分野の学問があるのかそれらを知る者は誰もいなかった。
一般的な人間は他の国に興味を持たず、その日その日を普通に生活するものだった。例外はもちろんいた。一般的に知られているのは旅人。世界を回り生活をする人間。そういった人間はその国にはない文化を伝える場合もあり、国の発展に貢献することがある。
しかし一般には知られない人間もいる。それが隠密行動を行う者。情報収集などを中心としたスパイ、人の命を密かに奪う暗殺者等が当たる。
そのいくつもある国の中の一つから物語は始まる
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初めまして。今回ここで小説を書かせてもらおうと思います鮭といいます。
更新は不定期ですが遅くても一週間に1話と考えています。人物紹介等は登場する度に行っていきます。実際の執筆自体は初めてということがあり至らない点はあると思いますがよろしくお願いします。
・更新履歴
11/3 3部21話追加
11/7 3部22話追加
11/14 3部23話追加
11/22 3部24話追加
12/3 3部25話追加
12/10 3部26話追加
12/17 3部27話追加
12/20 3部28話追加
12/26 3部29話追加
12/30 3部30話追加
12/31 人物詳細2追加
1/4 3部31話追加
1/7 3部32話追加
1/10 3部33話追加
1/14 3部34話追加
1/18 3部35話追加
1/23 3部36話追加
1/25 人物詳細3追加
1/31 3部37話追加
2/4 3部38話追加
2/10 番外編追加
2/18 番外編追加 更新一時停止
・本編
第1部
人物紹介
キル リーネ サクヤ カグヤ ジン>>5
第1話>>1 第2話>>2 第3話>>3 第4話>>4 第5話>>6
第6話>>7 第7話>>8 第8話>>9 第9話>>10 第10話>>11
第11話>>12 第12話>>13 第13話>>14
第2部
人物紹介
リーネ フラン シン バード リンク フィオナ カグヤ>>16
第1話>>15 第2話>>17 第3話>>18 第4話>>19 第5話>>20
第6話>>21 第7話>>22 第8話>>23 第9話>>24 第10話>>26
第11話>>27 第12話>>28 第13話>>29 第14話>>30 第15話>>31
第16話>>32 第17話>>33 第18話>>34
第3部(後々鬱、キャラ死亡等含むため閲覧注意)
人物データ1>>36
人物データ2>>46
第0話>>37
第1話>>38 第2話>>39 第3話>>40 第4話>>41 第5話>>42
第6話>>43 第7話>>44 第8話>>45 第9話>>47 第10話>>48
第11話>>49 第12話>>50 第13話>>51 第14話>>52 第15話>>53
第16話>>54 第17話>>55 第18話>>56 第19話>>57 第20話>>58
第21話>>59 第22話>>60 第23話>>61 第24話>>62 第25話>>63
第26話>>64 第27話>>65 第28話>>66 第29話>>67 第30話>>68
第31話>>70 第32話>>71 第33話>>72 第34話>>73 第35話>>74
第36話>>75 第37話>>77 第38話>>78
人物・用語詳細1(ネタバレ含)>>25
人物詳細2(ネタバレ含)フィオナ リオン レミ>>69
人物詳細3(ネタバレ含)ジン N マナ(I) シン バード>>76
・筆休め・気分転換
番外編
白騎士編
>>79 >>80
2部終了に伴うあとがきの様なもの>>35
軌跡
7/18 参照400突破
10/14 参照600突破
12/7 参照700突破
1/28 参照800突破
- ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.16 )
- 日時: 2014/05/29 15:40
- 名前: 鮭 (ID: OqA7j1VN)
登場人物2
名前:リーネ・アニミス
年齢:18歳
性別:女
身長:157センチ
体重:48kg
性格:明るく元気な性格で怖いもの知らずなのは相変わらず。一年たっても鈍感で天然なままで基本的な部分は成長していない。錬金術を習得したことにより誰かのために役に立ちたいと考えるようになる。
容姿:茶髪の髪を後ろで一つに纏め、薄い 水色を主にしたフリル付きの上着に半ズボン。黒のソックスを履いて羽が付いた茶色のチロリアン帽子を装備。顔は相変わらずの童顔で赤い瞳の肌は色白。
蒼い毛並みのウルフは体調80センチ程で要所毎にリーネをサポートしてくれるが多少性格は捻くれているところもある。
武器:錬金術 杖
職業:役員兼錬金術師
名前:フラン・リーゼル
年齢:21歳
性別:男
身長:170
体重:62kg
性格:落ち着いた性格で冷静沈着だが面倒事などに巻き込まれやすい。大勢の前、地位が高い人、初対面または会って間もない女性の前になると緊張してしまいうまく話せなくなる。無駄にお節介な部分もあり慣れた相手に対しては意見をズバズバとうるさいほど言うようになる。
容姿:金髪で瞳の色はグリーンの色白。服装は白が主の軍服、ズボンを履き両手には白い手袋を付けている。 戦闘の際は錬金術を使い槍を生み出す。
武器:錬金術 槍術
職業:保安官
名前:リンク・インティリ
年齢:25歳
性別:男
身長:174
体重:62kg
性格:気難しい性格で細かいこと、特に予算や時間などについてはうるさい。説教癖があるものの本質は相手を思ってのことのため根っからの嫌われ者というわけではない。
容姿:金髪の若干長髪気味な髪を後ろで纏め、赤い瞳にフレームレスの眼鏡を掛けている。白と青を主にした軍服にネクタイを身に付け外への外出の際はマントとレイピアを装備
武器:レイピア 魔術(主に風属性)
職業:役員経理部長
名前:フィオナ・セレスティナ
年齢:19歳
性別:女
身長:165
体重:59kg
性格:誰に対しても面倒見がよく上司などに対しても特に対応が変わらない。無類の動物好きで特に犬がお気に入り。責任感が強くその有能性から秘書に任命された。
容姿:ストレートの桃色の長髪に特徴的な黄色の瞳、青と赤を主にした軍服と膝丈のスカート。片手には分厚い本を持ち大人びた風貌。本格的な戦闘の際は黒の三角帽子とマントを装備。
武器:魔術書
職業:役員魔道士兼秘書
名前:シン・エトワル
年齢:15
性別:女
身長:151
体重:42kg
性格:基本的にクールで下手な同年代よりも大人びている。他人に対してはやや冷たいが仲がいい相手や見知った人物については対応は柔らかくなる。人の生死について非常に敏感で人間として脆い部分もある。
容姿:茶髪のショートカットで緑色の瞳。中世的な顔立ち。首にはゴーグルを下げ一緒に赤いマフラーを巻き、灰色のズボンに緑色のジャケット。腰には銃を2つ下げている。外に出る時などはフード付きの帽子と灰色のコートを装備。両手には翠の革製手袋を装備。
武器:拳銃 ナイフ 暗器
職業:役員兵士
名前:バード・ウィンゲル
年齢:21歳
性別:男
身長:176
体重:68kg
性格:面倒見がよく責任感は強いもののどこか抜けている。調子がいい部分もあり人辺り自体は悪くない。リーネ、シンのことを妹のように大切にしており過保護な部分もある。
容姿:赤の短髪に青い瞳を持ち騎士風の黒い鎧と腰には剣と銃を下げている。背中には身の丈ほどの大剣を装備。両手には黒い手袋とブーツを装備。
武器:大剣、帯剣、拳銃
職業:役員兵士
名前:カグヤ・ティタニア
年齢:18歳
性別:女
身長:163
体重:47kg
性格:相変わらずの強気な性格で毒舌家。リーネやシンに対して世話焼き気味で時におせっかいな部分もある。誰に対しても強気な態度。
容姿:黒髪で腰まで伸びる長髪をポニーテールにしている。瞳は蒼色で若干眉が釣り上がった目つき。黒い肩出しの上着と短パン、上に肌を晒さないようにとポンチョを羽織って愛用のローラーブレードを履いている。黒ぶちの眼鏡を掛けている
武器:サブマシンガン
格闘術
職業:鍛冶屋、銃職人
- ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.17 )
- 日時: 2014/06/25 15:00
- 名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)
第2話
「武器…ですか?」
フィオナさんの唐突なお題に私は意味が分からず首を傾げた。
「そう。これからはバード君がいつでもいるとは限らないし、一人で材料採取やお使いにも行ってもらうのに大変ですからね」
「僕も戦闘はできますが…やはり戦闘要員は欲しいですからね」
フィオナさんとシンちゃんに言われて、これまでの外での戦闘を思い出していた。
考えるとバードさんに守ってもらったり、シンちゃんにサポートしてもらったりとお世話になったことしか思いつかなかった。
「まあ俺も後衛がいてくれると助かるよな」
「僕が後衛だと不満そうですね」
「いや…そういうつもりじゃ…」
私が考えごとをしている間に二人の言葉を聞き、フィオナさんも腕組をして笑っていた。
「でも何がいいかな?私の身体能力だと後衛は確定だけど…魔法は使えないし…」
「なら錬金術師がみんな使う杖なんてどう?」
考え込んでいる私に対して、フィオナさんは片手に持つ本をペラペラとめくりながら話していく。
フィオナさんが持つ本は様々な情報が書かれているらしいけど私には何が書いているか分からない。
フィオナさんが言うには自分にしか読むことが出来ないといっていた。
「杖か…しかしそんなもので戦えるようなものなのか?」
「それを言ったら私だってこの本で戦っているわよ?せっかくだし今後のことも兼ねて講義をしましょうか」
「こ…講義…」
「そう。リーネちゃんのためだから、しっかり聞くように!」
バードさんの問いかけが気になったのか、それとも私の講義に対する反応が気になったのか、フィオナさんのスイッチが入ったことにより諦めたバードさんは椅子に座り、シンちゃんは黒板を用意してフィオナさんの近くに設置した。
ここまで用意されたら私も観念して椅子に座った。
「今回は関係ないけどバード君みたいな前衛なら剣、斧が普通ね。最前線だから防御も攻撃も重視しないとね。他にも拳やナイフ、短剣、槍もあるけど、そのあたりはシンちゃんみたいに、防御は低いけどすばやくうごける中衛の人が使う場合が多いですね。」
「じゃあ後衛は撃たれ弱くて動きが遅い人がなるんですか?」
フィオナさんの説明を聞いて自分が当てはまるポジションのことを考えた。
私の問いかけに対してフィオナさんはがっくりと肩を落として、バードさんは声を出して笑い、シンちゃんに至っては顔を隠しているけど絶対笑っている…。
「身も蓋もないけどその通りです…。後衛はまず私のような魔法使いが魔術書、杖が基本ですね。魔法が使えない人は銃とか弓がよくあります。」
「じゃあ私は弓とか銃がいいと思うけど…」
「それはやめろ!」
「やめてください。」
私の提案に対しバードさんはおろかシンちゃんにまで却下された。
何も声を合わせなくてもいいのに…。
「あなたに銃を預けたら僕達に飛んできそうです」
「まったくだ。仲間に殺されるのはごめんだぞ…」
失礼なことをいう二人に対してむくれてそっぽを向く私に、フィオナさんは手を叩いて話を戻した。
「はいはい。じゃあリーネちゃんに杖を進めた理由だけど錬金術をするには確かその練成対象に触れる必要があるのよね?」
「はい。でもそれが武器と何か関係があるんですか?」
「大ありよ?錬金術師が使う杖は例えば杖で触れているものを練成対象に出来るらしいわよ?他にも力を増大できるし、いろいろ使い方があります。」
フィオナさんはポンと本を閉じながら話をしていき、懐から懐中時計を取り出して時間を確認し始めた。
「あら?そろそろ所長がサボり始めるころですね。では武器作成期間は3日。早くできる分にはいいからできたら見せに来てくださいね!」
じっくり講義が出来たからか、満足した様子で私達に大きく手を振ってから部屋を出て行った。
講義が終わったことで陰に隠れて眠っていた様子のキルは欠伸をしながら姿を現した。
「なんだ?お前今まで隠れていたのかよ?いい睡眠になったな。」
「それよりリーネの武器をどうにかしましょう。」
「どうにかと言っても…杖なんて作ったことないよ…」
私は周りに置かれている資料に一度視線を向けてからため息をして呟いた。
こういったジャンルの話にはバードさんは役に立たないしこの場合頼りになるのは…。
「ではカグヤに聞くのはいかがですか?彼女は武器については詳しいですからね」
「あいつか…まあ…あいつなら確かにそうかもな」
「なら行きましょうかリーネ」
「うん分かった。」
さっさと話しを進めていくシンちゃんに私は付いていき、バードさんもキルを引っ張りながらついてきた。
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「あらリーネちゃん?お仕事は終わったの?」
カグヤちゃんの家まで行くと出迎えてくれたのはサクヤお姉ちゃんだった。
「違うよ。カグヤちゃんに用事が合って来たんだけどいる?」
「カグヤちゃんなら裏庭にいるわよ?」
「ありがとうございますサクヤさん」
お礼を言うシンちゃんに対してサクヤお姉ちゃんはニコニコとしながら答え、バードさんに一度視線を向けた。
「バードさんもお仕事ですか?今後もリーネちゃんをよろしくお願いしますね?」
「分かりました。というかこいつを放って置いたらカグヤに怒られますからね」
冗談交じりに話すバードさんとキルを置いて私達は裏庭に向かった。
裏庭にはいつものように銃のメンテナンスをするカグヤちゃんの姿があった。仕事中だからか軽装で銃を分解して掃除をしていた。
「カグヤちゃん!」
「こんにちはカグヤ」
私達の声に反応してカグヤちゃんは手を止めて視線を向けてから口元に笑みを浮かべていた。
「てっきりクビになったかと思ったけどシンがいるということは違うみたいね。あんた達がいるということはバードも来ているわけ?」
「いて悪いのかよ?」
カグヤちゃんが話し終えた辺りでバードさんが遅れて裏庭にやってきた。
「あれ?キルは?」
「サクヤさんに預けて来たよ。別に外に行かないし平気だろ?」
「それより何の用事かしら?武器のメンテナンスとか?」
私はここまでの経緯を話していった。
武具類に詳しいカグヤちゃんならいいアドバイスがもらえるかと思ったけど予想に反して困った様子を見せた。
「杖か…私の専門外ね…魔力を使う武具になると魔道士とかが詳しいわよ?」
「困りましたね…フィオナさんは忙しいからこれ以上聞き回るわけにいきませんし・・・」
「しかし他にそういうのに詳しそうな奴はいないからな。」
シンちゃんとバードさんが考え込む中、私は一つ思い当たる可能性を思い出した。
「そうだ…お父さんの残した資料の中で杖の話があった気がするよ…」
「おいおい…そんなのがあったなら早く言えよ。」
「だって私も今思い出したんだもん!じゃあ…ちょっと私は家に戻ってくるから二人は待っていてね」
バードさんに対してむくれながら話した後、二人を置いて私は一度自宅に戻って行った。
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リーネが家に向かっていく様子を見てから、僕はせっかく時間が出来たからと腰に下げた黒いマグナムを取り出した。
「すみませんカグヤ。せっかくだからメンテナンスをいいですか?」
「いいわよ。これは今日中じゃないし。」
カグヤは僕の銃を手に取ると鼻歌交じりに銃を分解し始めた。
本当に彼女は銃が好きなんだと考えながら近くの椅子に座りバードさんも近くの木に寄り掛った。
「それにしてもキルの奴リーネとサクヤには本当に懐いているよな。俺なんか最初はいきなり噛まれたからな」
「僕は噛まれませんでしたよ?バードさんの接し方が悪かったんですよ」
僕とバードさんのやり取りに対してカグヤは表情を一度曇らせた。
「お姉ちゃんに取ってキルは…あの名前には深い意味があるのよ。」
「深い意味?」
カグヤの言葉に対して僕たちは首を傾げた。
バードさんは分からないけど、僕は街に来て間もないから過去のサクヤさんやカグヤはもちろんリーネについても分からなかった。
「まあ…あんた達はリーネの同僚になる訳だし話しておこうかしら。私達にあった話とキルという名前についてね」
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「あった!この本だ!」
私は家の地下室でお父さんが残した資料を探しまわっていた。
その中からようやく一冊の本を見つけた。
そこには一つの杖の作成方法が記載されていた。
そして一緒に予想していなかった用語も書かれていた。
「セレナ…?お母さん?」
私は本の中にあった内容から部屋に置いてあった一つの箱を見つけ出した。
私が手に触れた時、掛っていた鍵が突然外れた。
中を見ると先端に翼の飾りが付いた黒い杖があった。
長い間放置されていたせいで汚れてしまっていて、作りは杖としては珍しい金属製。
それでも軽くて手に馴染むような感覚を感じた。
「これが…お母さんの杖?」
私は杖と一緒に置かれていた小さな手紙を見つけた。そこに書いてあったのは今まで知らなかったお母さんのことだった。
- ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.18 )
- 日時: 2014/06/25 15:18
- 名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)
第3話
「私が知っているキルについてのお話はここまでよ」
カグヤは1年前にあった話を聞かせてくれた。
その表情は普段リーネに見せていた…もしかしたらそれ以上に穏やかな表情をしていたかもしれない。
僕が来る前にあった出会い、出来事、そしてキルという青年が残してくれた思い出。
もう一人少年がいたけどあまり詳しく話さないところを見ると、カグヤにとって何か面白くない思い出があるのだというのも予想できた。
「話は分かったが…なんでそいつとあのウルフを同じ名前にしたんだ?」
「ああ…あれはリーネよ。勝手に出て行ったから帰ってきたらバカにするためだとか言っていたわ」
「安易な奴…」
カグヤの説明にバードさんは呆れたように呟いていた。
でも僕にはそれだけが理由だと思わなかった。
きっとリーネなりにサクヤさんのことを考えたんだと思う。
現にサクヤさんがキルと接しているときは本当に楽しそうだった。サクヤさんにとってあの名前は本当に大切なものであったのだと思う。
「僕も会ってみたいですね…どんな人なのか興味があります」
「そうだな。どんな奴か実際お目に掛りたいな」
「さて…出来たわよ。簡単でいいから感触を確認して頂戴」
カグヤは笑みを浮かべたまま銃の手入れを終わらせた銃を差し出した。
受け取った銃は手にしっかりと収まり申し分ない出来上がりだった。
「いい出来です。試し打ちをいいですか?」
「いいわよ。マグナムだからあの鉄板に撃って頂戴」
僕の銃はリボルバー式のマグナム銃で反動が大きく、威力が高いから普通の的の場合壊れてしまう。
そのため実践以外で試し打ちが出来るのはこの場所だけだった。
約10m先の木から吊るされている鉄板にゆっくりと銃を構え、一発発砲しその反動を受けながらも銃弾の命中具合を見て、的の中央にぶつかったことにより左右にぶれずに前後に揺れる的を確認した。
「お見事。調子は悪くないみたいね」
「ええ。いい仕事でした」
銃を納めてからここに来てずいぶん時間が経過していることに気付いた。
空はいつの間にか赤く染まり始め夕暮れ模様が見えていた。
「リーネの奴遅いな。まだかかるのか…」
「あの子が地下に籠ったら遅いわよ?待つなら夕食用意してあげるわよ。」
「おっ!ということはサクヤさんの手料理が食べられるのか?」
「残念ながら今日の当番は私よ」
バードさんとカグヤのにぎやかなやり取りの話を聞きながら、僕は隣のリーネの家に視線を向けた。
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「手紙?この杖・・・やっぱりお母さんの・・・」
手紙に書かれていたのはお母さんからのメッセージだった。私にはお母さんの記憶が殆どなかった。
覚えていたのは私を優しく抱いてくれたあの感触
私の頭を優しく撫でてくれた手
小さく私は呟き手紙を読み始めた。
リーネへ
これを読んでいるということは、私はもうこの世にいないのかな
この杖は貴女に直接渡しかったけどそれが叶わなかった時のためにこの手紙を残すね
リーネがお父さんやお母さんみたいに錬金術師を目指す時この杖を使ってね
私達の代わりにきっと貴女を守ってくれるから
私達の代わりに貴女のそばにいてくれるから
私達の代わりに貴女を見守ってくれるから
だから貴女は自分のやりたいことをしてね。お父さんもお母さんも応援しているからね。
「お母さん…ありがとう…」
頬を伝う熱いものに私は瞳を閉じて杖を抱き締めた。今はお父さんとお母さんが近くにいてくれていると思ったから…。
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「しかし美味いな…なんか…意外だ…」
「あんた…ぶっとばすわよ?」
バードさんとカグヤのやり取りにサクヤさんは笑みを浮かべたままパンをちぎりキルに与え、この家で飼っている黒猫であるクロは 僕の隣で皿に入れられたミルクを飲んでいた。
「でも正直カグヤは器用ですね」
武具の扱いもそうだけど料理に関してもしっかりとした仕事をしてくれる。
もっとも、他のことはあの飽きっぽさからあまり褒められないけど、それは言わないでおこう。
「まあ食事はね。毎日同じようなものばかり食べると飽きるじゃない」
「おかげで毎回色々食べられて嬉しいわ」
にこやかに話していくカグヤとサクヤさんの話を聞いてカグヤの飽きっぽさがこんなところで生かされているんだと感心してしまった。
そんな中で呼び鈴が部屋の中に響いた。
「こんばんは〜みんないる?」
「リーネね。開いているから入ってきなさい!」
カグヤの声とともに扉が開く音とドタドタという足音が響き、現れたリーネは黒く変色してしまっている杖を片手に持ってきた。
「あら?もしかしてそれがリーネちゃんの杖なの?」
「ううん…これはお母さんの杖だよ。」
杖の説明を聞いて僕はリーネが持つ杖に視線を向けた。
あまり見ないタイプの金属製なのは分かるものの特に特別な杖には見えず、正直普通の棒の方がまだマシな印象を受けた。
「へえ…でもボロボロじゃない…そんな杖使えるわけ?」
僕の考えていたことを殆ど直訳して聞いてくれたカグヤに小さく笑ってしまった。
「もちろんこのままだと使えないよ…お母さんとお父さんのメモにこの杖を使えるようにする方法が書いてあったの。」
リーネはテーブルの上に杖の元々の設計図らしいものを広げた。
それを見ていくと現状はただの外観だけが完成しているもので杖として機能はしないこと、完成させるのにはさらに素材と錬金術が必要だということが分かった。
「と言っても…一個だけだな…というか水晶竜の角ってなんだよ?」
「水晶竜って昔絶滅したっていう幻の竜だったかしら?お姉ちゃん知っている?」
「ううん。聞いたことがないわね…代用品とかはないの?」
まったく聞いたことがない素材だったこともあり正直これといったアドバイスはできそうになかった。
カグヤやサクヤさんも聞いたことがないようだった。
「役所の資料室なんか良くないか?もしかしたらヒントなんかあるかもしれないぞ」
「バードさんにしては的確なアドバイスですね」
「うるせえよ!それより3日しかないんだから方針は早めに決めないとだめだからな」
バードさんは何も考えてないようでしっかり考えているから助かる。
僕とリーネの補助、前衛としての仕事も僕が知る限り一番だ。調子に乗るから実際には言わないけど…。
「じゃあ明日は役所の資料室に集合だね!遅刻は駄目だよ!」
「どう考えても一番心配なのはあんたでしょ!」
「ええ!?そ…そんなことないよ!」
リーネとカグヤのやり取りを見てサクヤさんやバードさんは笑っていた。僕も何となく表情が緩んでしまった感覚を感じた。
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いつものように私はキルを連れて役所に向かってキルと一緒に走った。いつもと違うのは背中に掛けた杖。
役所に着いて早速向かったのは資料室。いつもは殆ど人がいないけど今日は私とキル、シンちゃんにバードさんで調べ物。
「水晶竜って…これですね。」
「なんだ?もう見つけたのか?」
早々と情報を見つけたのはシンちゃん。見つけた内容は水晶竜の詳細だった。
水晶竜は全身をクリスタルに包んだ一本角のドラゴン。その体の水晶は特殊で魔法等を吸収して自らの栄養にし、その角は魔法力を蓄積していることから魔法力を引き上げるブースターとして最適な材料だった。ただし高度も非常に高いことから加工が出来るのは一部の錬金術師だけだということだった。そして水晶竜はすでに絶滅していると記述されていた。
「絶滅ってことは…もう完成は無理なんじゃないか?」
「いえ…その代用品になら心当たりがあります。」
「えっ?そうなの?」
シンちゃんの話を聞いて私は首を傾げた。
そのままシンちゃんは立ち上がって一冊の本を取り出した。それにはこの町周辺でとれる鉱石について書かれていた。
「この中から気になったのはこの魔石です。材料の硬度は下がりますがおそらく問題はないと思います。」
「でもこんな石どこで取れるんだ?」
「もしかして…」
私には一か所だけ覚えがあった。
それはお師匠様との修行の際に一度だけ行った鉱山。あるエリアまで行ってからこの先はまだ早いからと引き返した地点があった。
その奥にはキラキラと光る石がいくつも見えた気がした。
「ええ…水晶鉱山です。あそこの奥に恐らく手頃な石があると思います」
「なら早めに出発した方がいいな。あまり遅くなると帰れなくなるからな」
「うん!じゃあ私達3人とキルで大丈夫かな?」
人数を確認していきそこからが大変だった。
まずはリンクさんへの外出許可の申請、危険な場所に乗り込むことから回復薬や食料の用意。鉱山の入口に到着したころにはお昼を回っていた。
「用意はできているか?」
「僕は問題ありませんよ?」
「私もキルも大丈夫だよ!」
私達は互いの装備や荷物を確認してからいつも用に一番前にバードさんそこからシンちゃん、私、キルの順番で辺りを警戒していきながら鉱山へと足を踏み入れて行った。
- ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.19 )
- 日時: 2014/06/25 15:39
- 名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)
第4話
暗い坑道をランプで私が照らしていきながら、辺りにある鉱石などを採取して進んでいった。
「それにしても何もいないよな」
「まあ僕としてはその方が楽でいいけど…」
シンちゃんらしい言葉に私は小さく笑い、妙に辺りを警戒している様子のキルに視線を向けた。
特に変わった様子もないようには見えたけど一度足を止めた。
「どうかしましたか?」
「えっと…キルの様子がおかしいから…」
私はキルの前でしゃがみ様子を伺った。
もしかしてこの坑道自体に何か私達が知らないようなことがあるのかな?
「ん?おいリーネ。もしかしてあの分かれ道か?」
「えっ?」
私は視線をバードさんが指さした方向に向けた。
そこにはランプで照らしたわけでもないのに光を放っているものが見えた。すぐにシンちゃんは走り発光源を確認した。
「これは…水晶ですね…」
「水晶?こんなものあったんだな」
「えっと…古くからは水精とも言われる石だよね。でも魔石というわけではないよね?それに何で勝手に光ったんだろ?」
落ちていた水晶を見てから以前に進まなかった道に視線を向けた。
「光っていますね…。」
「そうだな…それにフランが注意したということはここからが本番なんだろ?」
「多分…」
私達はもう一度お互いの確認をした。
準備の確認ではなく危険な場所に足を踏み入れようとする意志の確認を…
------------------------------------------------
「魔力が二つか…まさかこんな所に来る奴がいるなんてな」
白銀の騎士の風貌な青年は腰を下ろしていた水晶から立ち上がった。
年齢は20代前半程で蒼い短髪。背中には赤いマントを装備しその上に一本の大剣を背負っていた。
「ああ…そろそろ退散しないとな。」
青年は一人言葉を口にして歩を進めた。
その周りには何体もの魔物たちが倒された状態で転がっていた。
「何だ?……おい…待てよ…」
青年は誰かと話すようにしながら侵入者の正体を確認しようと入口に向かって歩いて行った。
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「さっきは暇だったけどここは面倒だな…」
バードさんは愚痴りながら再び襲って来たクリスタルを体に纏ったウルフを背中の大剣で薙ぎ払った。
その後ろには同様にクリスタルを纏った鳥の魔物とクリスタルそのものがいくつか集まった状態で浮いた魔物が姿を見せていた。
「エレメントは僕が叩きますから他はお願いします」
「うん!キル!お願い!」
私の声とともにキルは周りの水晶の壁を蹴って高く跳躍して鳥を前足で叩き落していき、それを補助するようにシンちゃんは銃で一つずつ確実にエレメントと呼ばれる水晶の塊を撃ち落としていった。
「バードさん!それで終わりですよ!」
「分かっている!」
バードさんが最後の魔物を腰に納めた帯剣を使って斬り隙が出来たところをシンちゃんが銃で撃ち抜き魔物を撃退した。
「ふう…明らかに外の魔物より手ごわいな。」
「恐らくこの環境が魔物を強化したんでしょうね。」
剣を納めながら倒した魔物を確認するバードさんに対して、手頃な水晶を椅子の代わりにして座るシンちゃんは銃に弾を込めていた。
「でも…手ごわいだけじゃなくて多くないかな?まだ入って一時間は経っていないのに5回は戦ったよ?」
「多めに薬とか持ってきてよかったな」
以前私が襲われた時に対峙したウルフやグリズリーまでなら今の私達で殆どダメージを受けることなく追い払えるのに、バードさんが回復薬を服用しているということは言うほど楽な戦闘ではないことが分かった。
「しかしこんな場所があるなら帰った後に報告の必要がありますね」
「げっ…。報告書なんて面倒だぞ…」
「いいですよ…バードさんに任せたら面倒だから僕が書きます…」
「それはそれでなんか頭に来るな…」
二人の会話を見て笑ってから進む先の道に視線を向けた。
広い空間となっている大部屋のようなこの場所は辺りを見回せることから危険も察知しやすくて一先ずの休憩にはちょうど良かった。
「これだけあれば、手頃な物がすぐに見つかると思いましたが、なかなか難しそうですね」
「うん…そこまで大きくなくていいのに…」
私は杖を取り出して先端にある翼の装飾部分の中央部にある窪みに視線を向けた。
杖の設計図を見る限りでは、この窪みに加工した鉱石をはめ込むのは分かっていたけど予想より難しかった。
「まあそんな顔するなよ。ギリギリまでは粘るから安心しろよ」
「いえ…むしろもう少し探したら一度戻るべきですね」
シンちゃんの意見に対して反論しようとするバードさんに対して、すぐに手持ちの銃弾の入れ物を見せた。中身は半分近くまで減った状態だった。
「バードさんは大丈夫でも僕の銃弾が持ちそうにありません。」
「そういうことかよ…。ずいぶん消費しているな…」
「仕方ないよ。シンちゃんのポジションはどうしても消費が激しいから。キルも補助しているけど全部は無理だからね」
疲れた様子を見せるキルの頭を撫でて二人に笑いかけ、バードさんも納得したのか軽く息を付いた。
「確かにシンまで戦えなくなったらとても守りきれないからな」
「バードさんに守ってもらうのが嫌なだけですけど…」
「それが本音か!?」
二人のやり取りが私は好きだった。
まるで本当の兄妹みたいで、信頼し合っているからこそお互いを包み隠さずに接することが出来るんだと思う。
その時、部屋の中心に大きな魔法陣が部屋の中央に光を発して現れた。
「えっ?何?」
「あれは…シン…まさか…」
「ええ…召喚術ですね…」
二人の言葉の意味を聞こうとしたが必要はなかった。光が収まると同時に水晶でできた手足、それらの中心にはクリスタルでできた体、肩には2つの砲台がそれぞれに搭載、一つの鈍い光を放つ頭。身の丈は大体15mはありそうだった。
「ゴーレムですか…本来は魔法で叩くものですが…」
「無理だな…今は魔法が使える奴がいない…」
「じゃあ逃げた方がいいかな?」
私達が戦闘態勢に入りながら話をしていた時ゴーレムの肩にある砲台が光り始めた。
「っ!二人とも下がれ!」
バードさんの言葉とともにシンちゃんと私は後ろに下がり、バードさんもそのまま後ろに下がった。同時に一直線の光が放たれてバードさんを飲み込むのが目に入った。
「バードさん!」
思わず叫んだ私に答えるように、光の中から飛び出してきたバードさんはゴーレムの足元に移動し、背中の剣を抜いて横に振り払った。
「くっ…固いか…!」
剣を弾くゴーレムの体にバードさんは下がって、いつの間にか水晶の高台にまで移動していたシンちゃんはさっきまでとは別の銃を抜いた。同時に発砲音が響いたもののゴーレムには全くダメージが与えられていないようだった。
「マグナムでも傷一つないとなると…まずいですね…」
高台を飛びおりたシンちゃんの言葉を聞き二人では全くダメージを与えられそうにないことが分かった。
「じゃあ…逃げた方が…」
「それは無理だな…」
回復薬を服用しながらバードさんは私達が入ってきた入口を指さした。
そこにはさっきの砲台によってできたがれきの山だった。
「出口を塞がれたから逃げられませんね。」
「じゃあ…」
「ああ…こいつを倒してからじゃないと脱出は無理だな。」
------------------------------------------------
「侵入してきたのは二人じゃなかった?あの子は魔物だから仕方ないけど…失態だよ?」
少女は水晶を椅子にしてやや前屈みになったままゴーレムと3人と一匹を奥で見下ろしていた。
金髪のストレートな長髪に白銀の軽装な鎧を装備し腰には二本の剣を装備し年齢は10代後半くらいに見える。
「はいはい。確かにちょっと派手なものは呼んじゃったね。でも問題ないよ」
口元に微笑を浮かべたまま一人で話し、ゆっくりと立ち上がって戦闘の様子を見下ろした。
戦況は全くダメージを受けていない様子のゴーレムに対して、対峙している3人と一匹は攻撃をかわしたりするも少しずつ消耗しているようだった。
「あの子たちが死んだら私が責任もって止めるからね。だからそれまではこの面白いショーを堪能するわ」
明らかに消耗してきている侵入者達を見下ろしながら少女は楽しいショーを見下ろし続けた。
- ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.20 )
- 日時: 2014/06/25 16:13
- 名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)
第6話
「こいつは本気でやばくなってきたな…」
戦闘を始めてどのくらい経過したか分からなかった。バードさんは3本目の回復薬を使い終え、シンちゃんも弾丸を節約しようとナイフ等を織り交ぜた攻撃を始めた。
「参りましたね…このままだと…ほ…本当に…」
「シンちゃん!だ…大丈夫だよ…落ち着いて…」
シンちゃんの動きが鈍っていることに気づいてキルにバードさんに援護をお願いして、シンちゃんと一緒にゴーレムの攻撃範囲から離れた。
「状況が悪化したな…しばらく頼むぞキル…」
シンちゃんは普段落ち着いていて冷静だけど、こういった極端に不利、または仲間の生死に関わる状況になるとまともに動けなくなる。
今も体を震わせて歯をカタカタといわせていた。
シンちゃんがこの状態になったということは今のままでは私達は…。
「いよいよ…まずいかもな…」
キルとバードさんがゴーレムの攻撃で飛ばされながら私達の近くに着地して、キルもその隣で呼吸を乱しながらゴーレムを睨んでいた。
バードさんが用意していた回復薬は今飲んでいるのを抜いたらあと一本。
それに対してゴーレムは全くダメージを受けている様子はなかった。
「せめてお前達くらいは守ってやるからな。」
「待ってください…このまま行ったら…」
体を震わせながらシンちゃんは立ち上がり、キルも息を乱しながらもゴーレムを見据えた。
私が出来ること。戦闘はできなくてもできることそれは…。
「みんな…勝機は…あるよ…」
「なんか弱点を見つけたのか?」
「弱点じゃないよ…でも試したいことがあるの…」
「どうせ詰んでいるか…。シン…とっておきを頼めるか?」
バードさんは大剣と腰の帯剣を抜きシンちゃんに視線を向けた。
小さく頷き体を震わせたまま一度深呼吸をした。
「弾は一発です…照準を合わせている間は守ってくださいね…」
バードさんに聞こえているのか分からないような声が私には聞こえた。
シンちゃんはコートの中から細い銃口部分の部品とスコープを取り出した。
その間にキルはゴーレムに飛びついて頭部に体当たりし、バードさんは両手の剣で足に斬りかかりバランスを崩させ、私は辺りを見回した。
このゴーレムを倒す方法には杖の完成が不可欠だからだ。
「リーネ…どのくらい時間がかかりそうですか?」
「…5分くらい…それで逆転できるか分かるよ…」
「では…10分だけ…時間を…稼ぎます…」
シンちゃんの体はまだ震えていた。
見えていた死の恐怖に抗うようにしてマグナムに先ほどのパーツを取り付けて行った。
私も負けていられない。
そう考えながら地面に膝をついて水晶の地面に手を当ててから目を閉じて集中した。水晶と目的の鉱石は必ず違いがある。
「みんな!水晶に触れないように飛んで!!」
私の声に反応するようにバードさん、シンちゃん、キルの順番で跳躍したのを確認してから頭に描いたのは私から水晶に伝わる熱。
私の体の熱が水晶に伝わったことで発生する熱エネルギーを一瞬だけ引き上げることで起こるイメージのままに錬金術を発動させた。
その瞬間、辺り一面がほんの一瞬だけ赤く染まったことを確認した。ある一点を除いて。
「あった!キル!」
すぐに私はキルを呼び戻した。
ゴーレムがそれに反応しようとしたけどそこをバードさんがゴーレムの頭部に斬りかかってフォローした。水晶を壁蹴りして着地したキルにすぐに跨るとゴーレムの後方の一点を指さした。
「キル!あそこにお願い!」
キルは私を乗せたまま全速力で移動していった。
しかしその間にゴーレムはバードさんを大きな手で横に弾き飛ばして今度は私に手を伸ばそうとしていた。
「二人とも伏せてください!」
その声にキルは進行方向を横に逸れ、シンちゃんはさっきの改造でライフルに作り替えた銃を発砲した。発砲した銃弾はゴーレムの腹部に命中して爆発した。
シンちゃんが撃ったのはカグヤちゃん特製の銃弾で命中した後に爆発する仕組みになっている。だけど作るのが大変で一発限りの大技になっている。
ゴーレムが怯んで、時間が稼げた私は目的の場所に移動した。
「これだ…」
一見他の水晶と変わらない鉱石に手を触れさせ、もう一度術を発動させて熱の伝わりを確認した。
「この石だけ熱伝導率が違う…これなら…」
私は鉱石に手を触れさせて瞳を閉じた。
本で見たことはあったから加工の方法は分かっていた。後は設計図の内容をアレンジしていけばいいはず。
「リーネ!まだかかるか!」
バードさんはゴーレムの攻撃を抑えながら私から少しずつゴーレムを引き離してくれて、シンちゃんもフォローしてくれているのが分かった。
「あと少し!もうちょっとだけ!」
最後の仕上げのために私は杖を取り出した。
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「マジで限界だな…」
ゴーレムの重い鉄拳を後方に跳躍してかわしその鉄拳が地面の水晶を砕く様子を確認した。
「とはいえ…このまま…ただで…やられるつもりは…ありませんよ…」
シンは体を震わせながらも必死に抵抗して発砲し、バードもゴーレムの体を支える足や弱点と思える頭部に銃弾や剣による攻撃を繰り返した。
そんな中で見えていたリーネの手元が光っているのに気付き、ゴーレムもその異変を察知して動きを止めた。
「なんだ…あれ?」
「錬金術?でもあんなに術の発動がはっきり見えたのは初めてです…」
光が収まると同時に見えたのは白い翼の装飾の中央に見える蒼く透明感のある石。
そして杖全体も銀色の立派な杖に生まれ変わっていた。
「できた!お母さんの杖!」
「だったら…とりあえずこいつをどうにかしろ!」
バードの言葉に対してリーネはゴーレムに視線を向けた。
ここまで見たゴーレムの体の構成、体の水晶の色合い、仲間達の攻撃を受けている個所から硬度、目に見えるすべての情報入れて、頭の中に目の前のゴーレムと同じものを描いた。
「分かった!行くよ!」
同時にリーネは杖をゴーレムに向けて投げた。
ゆっくりと弧を描いて飛んだ杖はゴーレムに命中し、ゴーレムの体が光り始めるとそのまま砂となり崩れ去ってしまった。
「おいおい…」
「ゴーレムを…水晶を砂に変えた?」
砂の中央に突き刺さった状態の杖をリーネは手に取り、しっかりと仕上がった状態の杖を確認して笑みを浮かべた。
そんな様子を見たバードはリーネの頭に手を乗せ、危機が去りシンもいつも通りに戻りキルと一緒に駆け寄った。
「すげえな…水晶を砂に変えるなんて…本当に錬金術は便利だな。」
「違うよ。このゴーレムはただの泥のゴーレムだよ」
「そうなんですか?」
「うん。水晶はそこまで丈夫じゃないんだ。水晶玉だって落としたらひびが入ったり壊れたりするでしょ?だからバードさんやシンちゃんの攻撃でまったく傷がないのはおかしいと思ったの」
リーネの話を聞き二人は少なからず驚いた。
普段のリーネから予想できない洞察力は別人と勘違いしてしまいそうになった。
「じゃあ元はただのゴーレムってことか?」
「魔力で硬度を強化してあるけどね。あれだけ強化されているから召喚自体にはそんなに力は使えないと思ったし」
「一番下級ですと泥の塊ですからね。いくら魔力を込めても形がなかったら意味がありませんからね」
リーネの説明を聞いて納得したバードとシンに対して疲れ切ったキルは欠伸をし始めた。
彼にとっては余程退屈な説明だったようだった。
「ふふ…面白かったよ」
不意に背後から聞こえた声に3人は振り向いた。そこにいたのはここまで戦闘を眺めていた少女だった。
「誰だお前?」
「名前は秘密。でも呼びにくいだろうから白騎士なんて名乗るよ。ちょっと格好つけすぎかな?」
「白騎士…?貴女は何者ですか?」
「それも秘密!一つだけ教えると君達が戦ったゴーレムを呼んだのは私ってことかな。」
まったく緊張感がないような様子で話す白騎士に3人は警戒し、不意に姿を消した白騎士にバードとシンは驚いた。
「貴女すごいね?名前を聞きたいな」
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何が起こったのか分からなかった。
気が付いたらこの人は私の目の前にいて白く細い手が私の頬に当てられていた。
「リ…リーネ…だよ…」
ここまで怖い人は初めてだったと思う。
気を抜いたら体が震えて倒れてしまいそうになった。
「リーネちゃんね。一つだけ貴女の説明に訂正。一番弱いゴーレムに魔力を掛けたのは、貴方達ならあれで十分だと思ったからよ?」
頬を伝う汗はとても冷たくて目の前の相手から視線を外せなくなっていた。
同時に遅れて反応したバードさんとシンちゃんが見えたけど次の瞬間には私達の間から消えて元の位置に戻っていた。
「なっ…何だ?」
「分かりません…でも…普通じゃないです…」
白騎士の人は二人には視線を向けておらず、その瞳は私に向けられたままだった。
「ふふ…今日はいい出会いがあったよ。じゃあね…リーネちゃん」
一言の言葉を残してから笑顔で手を振り、白騎士は光に包まれそのまま姿を消してしまった。
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