複雑・ファジー小説

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ある暗殺者と錬金術師の物語(更新一時停止・感想募集中)
日時: 2015/02/18 00:42
名前: 鮭 (ID: Y9aigq0B)

魔法、科学等様々な分野で発展する世界。広い世界には様々な国がありそれがいくつあるか、どんな国があるのか、どれだけの分野の学問があるのかそれらを知る者は誰もいなかった。


一般的な人間は他の国に興味を持たず、その日その日を普通に生活するものだった。例外はもちろんいた。一般的に知られているのは旅人。世界を回り生活をする人間。そういった人間はその国にはない文化を伝える場合もあり、国の発展に貢献することがある。 

しかし一般には知られない人間もいる。それが隠密行動を行う者。情報収集などを中心としたスパイ、人の命を密かに奪う暗殺者等が当たる。

そのいくつもある国の中の一つから物語は始まる

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初めまして。今回ここで小説を書かせてもらおうと思います鮭といいます。

更新は不定期ですが遅くても一週間に1話と考えています。人物紹介等は登場する度に行っていきます。実際の執筆自体は初めてということがあり至らない点はあると思いますがよろしくお願いします。

・更新履歴

 11/3 3部21話追加
 11/7 3部22話追加
 11/14 3部23話追加
 11/22 3部24話追加
 12/3 3部25話追加
 12/10 3部26話追加
 12/17 3部27話追加
 12/20 3部28話追加
 12/26 3部29話追加
 12/30 3部30話追加
 12/31 人物詳細2追加
 1/4  3部31話追加
 1/7  3部32話追加
 1/10 3部33話追加
 1/14 3部34話追加
 1/18 3部35話追加
 1/23 3部36話追加
 1/25 人物詳細3追加
 1/31 3部37話追加
 2/4 3部38話追加
 2/10 番外編追加
2/18 番外編追加 更新一時停止


・本編

 第1部
 人物紹介
 キル リーネ サクヤ カグヤ ジン>>5

 第1話>>1 第2話>>2 第3話>>3 第4話>>4 第5話>>6
 第6話>>7 第7話>>8 第8話>>9 第9話>>10 第10話>>11
 第11話>>12 第12話>>13 第13話>>14

 第2部 
 人物紹介
 リーネ フラン シン バード リンク フィオナ カグヤ>>16

 第1話>>15 第2話>>17 第3話>>18 第4話>>19 第5話>>20
 第6話>>21 第7話>>22 第8話>>23 第9話>>24 第10話>>26
 第11話>>27 第12話>>28 第13話>>29 第14話>>30 第15話>>31
 第16話>>32 第17話>>33 第18話>>34

 第3部(後々鬱、キャラ死亡等含むため閲覧注意)
 人物データ1>>36
 人物データ2>>46

 第0話>>37
 第1話>>38 第2話>>39 第3話>>40 第4話>>41 第5話>>42
 第6話>>43 第7話>>44 第8話>>45 第9話>>47 第10話>>48
 第11話>>49 第12話>>50 第13話>>51 第14話>>52 第15話>>53
 第16話>>54 第17話>>55 第18話>>56 第19話>>57 第20話>>58
 第21話>>59 第22話>>60 第23話>>61 第24話>>62 第25話>>63
 第26話>>64 第27話>>65 第28話>>66 第29話>>67 第30話>>68
 第31話>>70 第32話>>71 第33話>>72 第34話>>73 第35話>>74
 第36話>>75 第37話>>77 第38話>>78

 人物・用語詳細1(ネタバレ含)>>25
 人物詳細2(ネタバレ含)フィオナ リオン レミ>>69
 人物詳細3(ネタバレ含)ジン N マナ(I) シン バード>>76

・筆休め・気分転換
 番外編

 白騎士編 
 >>79 >>80

 2部終了に伴うあとがきの様なもの>>35

 軌跡
 7/18 参照400突破
 10/14 参照600突破
 12/7 参照700突破
 1/28 参照800突破

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.6 )
日時: 2014/06/24 16:41
名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)

第5話

「ふう…リーネはできてる?」
「うう…まだぁ〜」

リーネの手にはゴチャゴチャと何を作っているか分からない紙が握られていた。
頭自体は悪くないのに手先は本当に不器用なんだから…。

「やっぱりあんたに造花は無理なのよ」

むくれて私の作った造花を見るリーネに自分の口元が緩んだ。

元々、お姉ちゃんのやっている花屋を少しでも手伝えるように始めた造花。飽きっぽい私だけど仕事だと思えば案外続けられた。というよりお姉ちゃんの助けになれたから続けられたんだと思う。

「カグヤちゃ〜ん…できないよ〜」
「もう…ほら…貸してみなさい」

涙目で何か分からないものになっている紙をリーネから取り、眼の前で説明をしていきながら再び造花を作っていき、白い造花のバラをリーネの前に置いた。

「はい。これで出来上がり。もう大丈夫?」
「作り方はもう分かっているけど…思うようにできないんだよね…」

リーネらしい言葉に私は思わず笑ってしまった。

涙目のまま私の作った造花を見るリーネに新しい紙を手渡した。

「ほら次。今度は一緒に作ってあげるわよ」
「うん…今度こそ上手に作るよ!」

再び紙を握り教えた通りに作り始めた様子を見てから自分も作り始めようとした時、家の呼び鈴が部屋の中に鳴り響いた。

「お客?今日は定休日だから作り貯めしておきたいのに…」
「私が出ようか?」
「じゃあお願いするわ。どうせ任せても進まないだろうし。」
「すみません…誰かいませんか?」
「は〜い!ただいま〜」

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リーネは扉をあけて来客を見た。

金髪で色白。瞳の色はグリーン。服装は上下で白の軍服に皮のブーツを履いている。顔立ちも美人で思わずリーネは茫然としてしまった。

「えっと…どちらさま?」

ハッとしたように一度首を振ってから普段見ない相手に問いかけ、その質問に答えるように懐から目の前の人物の顔写真が書かれた手帳を見せられた。

「僕はフラン・リーゼル。昨晩のある事件の聞き込みで来ました。昨晩何か気付いたことはありませんか?」
「ほえ?えっと…男の人?」

フランの提示した手帳に書かれた内容でリーネが真っ先に眼を付けたのは性別の項目だった。
ちょっとした呟きにフランはムッとしたようにリーネを睨み、手帳をしまって軽く咳払いをしてから聞き込みを再開し始めた。

「…それで昨日の夜に何か怪しい奴を見たり変わったことはなかったか?」
「えっ?えっと…私は…昨日…すぐ寝たから分からないんだよね…」

性別を間違えられたことがよほどショックだったのか、あるいは気に入らなかったのか言葉の節がきつくなった感じに多少びくつき、昨晩完全に寝入っていたことを話した。

収穫がない回答にため息を漏らし、フランはリーネに視線を向けた。何かを見出したように。

「君…名前は?」
「リーネだよ?急にどうしたの?」
「いや…少し気になっただけだ」

フランからの言葉に軽く首を傾げるリーネを見た後、右手を縦に軽く振り直後に先に持っていた手帳は光とともに消えた。

「えっ?すごい!今のどうやったの?」
「錬金術だ。今はこれを分解したんだ…そして再構成だ」

再び片手を縦に振り手帳が光とともに現れ、リーネは現れた手帳を奪い見回した。

「すごい…元に戻っている…」
「もし錬金術に興味がある場合は3ヶ月後…そのころには任務も空くから街の交番に来るといい。君には才能があるみたいだ。」
「わ…私にもできるの?」
「君の努力次第だ。ただ一人ではやるな。最初は制御が難しい。」
「うん…分かった」

手帳を再び懐にしまい、そのまま踵を返し帰るフランを見送りリーネは自分の手に視線を見た。

(私にもあんな力が?)

「リーネ!いつまで時間掛っているの!」

奥からカグヤの声を聞きリーネは慌てて家に戻った。フランに言われた言葉を頭に浮かべたまま。

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.7 )
日時: 2014/05/06 03:14
名前: 鮭 (ID: XaDmnmb4)

第6話

「はい。オムライスよ」

やや乱暴にテーブルに置かれたオムライスを見て俺は一度対面に座るサクヤに視線を向けた。にこやかに笑顔を向けるサクヤ、その妹で不機嫌そうに料理を運びサクヤの隣に座るカグヤ、そしてまったく気にすることなく隣でオムライスを食べるリーネとミルクを飲むクロ。

ことの発端は少し前に戻る。

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「ただいまぁ」
「あっ!おかえり〜」

サクヤの帰宅に伴い、家の奥から元気な声が玄関まで聞こえてきた。それから殆ど時間を置かずに現れた茶髪の声から女の子か?いきなり現れれば間違えそうな風貌だった。

「ずいぶん遅かっ…ちょっと…あんた誰よ?」
「あっ!本当だ!誰?」

奥から現れたもう一人はサクヤと同じ黒髪の女の子で、その言葉に茶髪の女の子も俺に気づいたようだった。というか気づいてなかったのか。

「待ってカグヤちゃん。この人はキル。私を助けてくれたの!」

サクヤはカグヤと呼ばれる人物にここまでの経緯を説明していった。ムスッとしたままカグヤは納得したのかようやく黙った。

「えっとキル?妹のカグヤちゃん。それとよく遊びに来るリーネちゃん。よろしくしてあげてね?」
「ああ。しかし邪魔していいのか?」
「いいのよ!お姉ちゃんが連れてきたお客だからね!」

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そうして俺はここにいるわけだが、正直カグヤが不機嫌な理由が分からない。逆に隣のリーネは全く気にせずにオムライスを食べ続ける様子にため息を漏らしてしまった。
気を紛らわすようにとカグヤが作ったオムライスを口に運んだ。

「ん?」
「あら?口に合わなかった?」

表情の変化を見られたのか、サクヤからの問いかけに作ったカグヤも気になったのか視線を俺に向けてきた。

「いや…素直にうまいから驚いてしまった」
「当たり前だよ!カグヤちゃんが作ったんだからね!」
「バカなこと言ってないで早く食べなさいよ!」

僅かに赤くなり自分のオムライスを食べるカグヤに笑うリーネとサクヤを見て少し動揺した自分に気付いた。
食事というと今ままではただの栄養補給という認識だった。そのためこういったしっかりとした料理というのは、もしかしたら初めてだったかもしれない。

「あれ?どうしたのキル?」
「ちょ!いくらなんでも泣くことないじゃない!」

リーネ達からの指摘に咄嗟に眼に手を当てた。手にはこれまで流したことがなかった涙があった。

「なんで…」
「あの…キル?よかったらこれから毎日ご飯だけでいいからうちに来ない?」

涙に戸惑う俺に対してサクヤは予想外な提案をしてきた。その提案には俺だけでなく他の二人も驚いていた。

「ちょっとお姉ちゃん!」
「サクヤちゃん!」

カグヤの言葉をサクヤが制止させ、カグヤはもちろん俺自身も驚いた。ここまで見て来たサクヤからは予想できない姿だった。

「急にどうした?何かあったか?」
「ううん…すごく簡単な理由よ。」
「簡単?」

サクヤの言葉の意味が分からなかった。今ここに自分がいるだけで違和感があるのにも拘らず、毎日来るという意味が俺には分からなかった。

「もしかしてあんた家族とかいないんじゃない?」
「えっ?そうなの!」

椅子に座ったままのカグヤからの問いかけに対してリーネも俺に視線を向けて来た。

「確かに家族はいないが…」
「サクヤお姉ちゃんはそういうことすぐ見抜いちゃうんだ」

俺自身は家族という者は確かにいない。正確にはどういうものか分からない。
戦闘技術や暗殺術ばかりを学んだり、教え込まれ続けたからこそこういった場面は新鮮で温かさを感じた。

「俺はこれだけじゃ足りないからな…」

食べ終えた皿の上にスプーンを置き、目の前のサクヤに視線を向けるとサクヤは満面の笑顔を向けて頷いた。

「じゃあ明日からは一人分追加ね。あるいは今夜からかしらね」

周りで笑い合う風景に俺は何か温かいものを感じた。ここを出ていく時が来るまでの間だけ、その間だけこの関係を続けるのもいいかもしれない。心の深層で俺はそんなことを考えていた。

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.8 )
日時: 2014/06/24 16:50
名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)

第7話

キルが私達の家に通うようになって一週間。

今日は私が買い物係。
それといつもより買う物が多いからということで、お姉ちゃんに荷物持ちとして一緒に行くように言われて渋々付いてきたこいつ。

「ちょっとキル?早くしなさいよ」
「お前は歩いてないから早いんだろ。足に変なもの付けてないで歩けよ」
「変なものじゃないわよ!ローラーブレードよ!しかも私の魔力に反応して…」
「分かった分かった。もう何度も聞いた。」

聞いていたってどう考えてもあの時は寝ているようにしか見えなかったけど…なんて言うのも面倒。

私のこの装備は自作したもので、私自身の魔力に反応してスピード調節も可能な特注品。
最近は外を歩くのもこれじゃないとなんだか物足りなさを感じるほど馴染んでいる。

市場に到着して必要な食材を買ってはキルに渡すという行動を繰り返し、ようやく最後の品物を買い終えた頃にはすっかりお昼時で人もぞろぞろと集まり始め、飲食店はどこも繁盛していた。

「はい。カグヤちゃん。それとおつりだよ」
「ありがとおばさん。」

私は購入した瓶入りのミルクを一本キルに向かって投げて、片手でキャッチしたキルを見てから会計を済ませた。

「手伝いをさせられてその報酬がミルクだけかよ」
「何言っているのよ。私と一緒に買い物の時点で十分な報酬でしょ?」
「罰ゲームの間違いだろ。」
「なんですって!」

さっさとミルクと荷物を入れた紙袋を持ったまま歩いて行ってしまうキルに対して空しく私の声が響いた。

キルはこの一週間でずいぶん変わった気がする。
表情も幾分柔らかくなったし口数も多少増えたかしら?というより今まで足りなかった物が補われた感じ?
最近はなんだか口喧嘩が成立しているだけで驚いている。

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帰路に着くために市場を歩く二人の前に人が集まり道を塞いでいた。
カグヤはため息をしてキルも人ごみに視線を向けて様子を探った。

「なんだ?また何かあったか?」
「喧嘩みたいね」

人ごみを抜けていき、二人の目に入ったのは5人に囲まれた少年と女の子の姿だった。

白銀の短髪でライトグリーンの瞳が印象的で10代後半くらいの風貌。薄い水色のコートの中には黒のジャケットにズボンで腰には刀を下げている。

「何かあったのか?」
「あの子が子どもを助けたんだよ」

キルの言葉に隣にいた男が説明した。
話によるとゴロツキとぶつかって絡まれている女の子を少年が庇ったということだった。

「ちょっとキル助けた方がいいんじゃない?」
「いや…必要ないだろ。」
「必要ない?」

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キルの言う意味が私には分からなかった。囲まれた状況に加えて女の子を庇う様子はどう考えても不利に見えた。

「それで?どうしても見逃してくれない?」

少年の楽しげそうに聞こえる声を聞き、ゴロツキ達の内の一人が棍棒を振り下ろした。
その瞬間、右手で子どもを庇いながら腰にある刀を鞘に納めたまま掴み、振り上げることで棍棒を叩き落とし、そのまま重力に任せて鞘から抜け落ちてきた刀を右手で抜き、男の腹部に剣閃が走った。

「斬ってはいないから安心しろよ」

刀と鞘をそれぞれ持ったまま倒れる男に言い放つ少年を見て、ようやく私はキルの言葉の意味が分かった。

彼はゴロツキよりも圧倒的に強かった。
当然のように残った男達も立ち向かうも、鞘と刀で的確に一撃を入れて倒していった。

「後はあんただけだな。どうする?」

残った男が後ずさりし周りを見回す中、不意に私と眼が合い、その瞬間男が私に向かって来た。

(人質にでもしようとしているのかな。)

と考えながらローラーブレードに魔力を込めた。
男が手を伸ばしてきたところでその手を横に避けつつ腹部に一撃拳を入れて、怯んだ所で魔力を込めたことでブーストされた蹴りで足を払い転ばせた。
気絶をしているところを見るとちょっと強すぎたかしら?

「ちょっとキル…。わざと助けなかったでしょ?」
「必要ないだろ?その気になればお前一人でもあいつらを倒せるだろ」
「どこまで本気なのかしら…。というより…ちょっとあんた!何見逃しているのよ!…あれ?」

怒りの矛先を変えようとしたところで私は唖然としてしまった。
そこには、先ほどの少年がゴロツキの男たちと一緒に眼を回して倒れていた。

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.9 )
日時: 2014/06/24 16:56
名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)

第8話

「いや〜本当に助かった!」
「1週間も何も食べてないなんて信じられない奴」

街で眼を回したまま倒れた銀髪の少年を連れてきて原因を見れば、単なる空腹の限界だったということで本人の希望から白米をお昼にしていた。

「それにしても白米なんて久しぶり」
「白米は滅多に出回らないもんね」

キルが今日の荷物持ちに選ばれた理由はまさにこの重い白米を運ぶためだった。
サクヤとリーネの話を聞きながら、キルはすでに食べ終えた茶碗を流しに運んだ。

「それで?俺はまだお前の名前を聞いてないぞ」

キルの問いかけに対し、隣で家事をこなしているカグヤも視線を少年に向けた。

「そうだった。俺はジン・ヴァンド。旅の剣士だ」
「すごーい。どのくらい旅をしているのかしら?」

ジンの話に興味深い様子で、サクヤの問いかけに続くようにリーネも話を聞こうとしていた。
キルも多少興味があったのか視線をジンに向けていた。

「興味があるなら行ったら?後は私が片付けておくわよ」
「いいのか?今日は俺が片付けだろ?」
「いいのよ。どうせ興味ないし今度変わってもらうから」
「じゃあ悪いがよろしくな」

食器をまとめてからキルは席に着き、聞きそびれた質問を繰り返した。

「それでどのくらい旅をしているんだって?」
「10歳のときに旅に出て…それから6年だよ」
「16でそんなに刀を使いこなしているのか…」

キルは驚いたような口ぶりで話し、その様子を珍しく感じたサクヤは首を傾げた。

「そんなに珍しいことなの?」
「ああ。刀を使いこなすにはなかなかの修練が必要だと聞いたな。よほどいい師匠でもいたんだろうな」
「いや?我流だぞ?」

ジンからの言葉に驚く中、一人だけクロを抱いたままポカーンとしている人物がいた。

「ねえ…がりゅうって何?」

リーネは普段聞くことがない言葉だったためか首を傾げてサクヤに聞いていた。
それに答えたのは洗い物を終わらせたカグヤだった。

「自己流のことよ。自分ひとりで編み出したってこと。」
「ほえ〜。それすごいね。だからみんな驚いていたんだね」
「というかそこが疑問を持つところかしら…」

説明をするカグヤに対してジンは視線をカグヤに向けた。

「俺としてはこの人が思ったより強くて驚いたけどな」
「あら?ずいぶん上から目線じゃない?」

お互いに視線を合わせる様子を見てから大きく手を叩く音が響いた。

「そうだ!せっかくだから裏で腕試しなんてどうかしら?カグヤちゃん相手がいないって言っていたし!」

言いだしたのは意外にもサクヤだった。
こうこういったことは好きではないと思っていたキルにとっては意外な言葉だった。それだけに自然と視線がサクヤに動いてしまった。

「いいのか?そんなことして」
「大丈夫!裏にカグヤちゃんが組み手用にいつも使っている場所があるから。それに二人ともこのままだと納得いかないみたいだしね」

二人に視線を向けると今にも暴れだしそうな雰囲気を感じ、まったくその様子を感じとっていないのはリーネだけのようだった。

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「ここに来たのは久しぶりだなあ」

リーネは家の裏庭を見回していた。
広いグラウンド、周りには様々な銃や工具が転がっており、銃の一つ一つにはしっかりと手入れが施されていた。

「お前…俺の銃を見た時もそうだったが…ここまで集めると武器庫だな…」
「平気よ!ちゃんと暴発しないように弾は入れていないから」

カグヤは簡単に説明をしてから一つの銃を手に取った。
手に持ったのは黒いサブマシンガンでいくつか並んだマガジンから一つを手に取ってセットした。

「訓練用のペイント弾よ。これなら怪我はしないわよね。」
「俺はむしろお前の拳とかのほうが怖いぞ」

準備を進めていくカグヤを見て、ジンは力ない笑いを浮かべ、腰の刀を手に取って広場の中央に立った。

「それで?ルールはどうするの?」
「うーん…なら5分戦ってダウンを取った方が勝ちでよくない?」
「なら逆に5分過ぎた時は俺の負けでいいぞ」

リーネの問いに簡単にルールを決めていく中、ジンの言葉にカグヤはムッとした表情を浮かべた。

「つまり5分以内に私をダウンできるってわけね」
「んっ?まあそれくらいの逆行の方が燃えるからな」

二人のやり取りを見ながら、リーネとサクヤはどちらが勝つかと予想し合って楽しそうに笑い合い、その横でキルは二人に視線を向けて行き、大凡の戦闘の結果を予測した。

「ねえキルはどっちが勝つと思う?」
「さあな。」

リーネからの問いかけに対してキルはそっけなく答え、むくれるリーネをサクヤは頭を撫でて宥め、クロに至ってはサクヤに抱かれたまま欠伸を漏らしていた。

そんな緊張感がまったくない雰囲気の中で、カグヤとジンの組み手という名の真剣勝負は始まった。

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.10 )
日時: 2014/06/24 17:05
名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)

第9話
「一撃目はそっちに譲るぞ?」
「あら?それはありがとう!」

カグヤはジンの言葉を聞くなりローラーブレードに魔力を込めた。
カグヤはそのままジンとの間合いを一気に詰め、その勢いを利用して拳をジンにめがけて放った。
しかしその拳は空を切る形になる。まるですり抜けたような感覚だった。

「えっ?」

カグヤは勢いを殺すようにすぐにブレーキを掛け、バランスを取るためにしゃがみ手を付いた。
ジンはその場に立ったままで、カグヤに視線を向けて今までと変わらない笑みを浮かべていた。

「一撃目は受けてくれるって言ってなかった?」
「そうは思ったけど、とても女のパンチじゃなかったからな」

ゆっくりと立ち上がるカグヤに対しジンは冗談交じりな口調で笑っており、カグヤは頭に血が上りそうな感覚を感じ一度小さな深呼吸をした。

(一度落ち着かないとね。今度こそ動きを見極めないと)

カグヤが頭の中で落ち着こうと意識を一瞬集中した瞬間。
その一瞬の隙にジンは距離を詰めており、同時にカグヤの目には閃光が走ろうとしていたのを確認した。

(やられる!?)

カグヤが目を閉じ、その痛みを覚悟したが一向にその痛みは感じることがなかった。
代わりに頭を軽く片手で叩かれてカグヤは瞳を開いた。

「えっ…」
「真剣勝負中に眼を閉じていいのか?」
「なっ…余計なお世話よ!」

カグヤはすぐにローラーブレードで威力が増強された蹴りをジンの足元に繰り出すも尚もその蹴りは空を切ってしまう。

(当たらない?なんで?)

姿は見えているがいくら拳や蹴りを放ってもジンの体をすり抜けて当たらない。まるで一人稽古をしているような感覚だった。

------------------------------------------------

「すご〜い。カグヤちゃんの攻撃が全然当たらないよ。」
「リーネちゃんよく見えるね?私には早くてよく分らないわ。」
「確かにジンの動きはサクヤには見極められないな」

ジンの動きは非常に特殊だった。カグヤの一撃目については急な高速移動でカグヤの後ろに回り込んで避けていた。
第3者として見ていれば一連の動きを確認できるがカグヤにとっては目の前の人間の体をすり抜けたような感覚だろう。

「いい加減にしろ!」
「俺だってそんな凶悪な攻撃当たりたくないぞ!」

お互いに言い合いをしながら、カグヤはひたすら攻撃を繰り返していくもまったく当たる様子がなかった。

「この!」

そのままカグヤは大振りでローラーブレードのローラー部で蹴り上げようとし、それに対してジンは鞘に納めたまま刀を振り上げて蹴りを受け止めた。

ここまで見てカグヤは自分の魔力で肉体強化をして戦闘を行うというスタイルだと分かった。
それに対して、ジンは緩急と急スピードを繰り返して相手を撹乱させて戦うタイプと見える。

「すごいね!カグヤちゃんのキックって岩だって砕けるのに…」
「あら?今そんなに本気出していたの?」

リーネの話にサクヤは驚いたようだった。
正直、俺もその蹴りを何事もないように片手で受け止めたジンに対して驚いた。
リーネに言われていなかったら、普通なら何事もないただの蹴りを受け止めたようにしか見えない。

「あいつ…強いな。あれでまだ刀術があるのか…」
「もしかして最初の刀での寸止め?」
「見えたのか?」

ジンは一度だけ刀を抜いていた。それがカグヤの一瞬だけ隙を見せた時のことだった。
鞘から刀を抜く際の勢いを利用して行われる居合抜きから寸止め、そこから刀を鞘に戻し、カグヤの頭を叩くまでの一連の動きは俺にしか見えていなかったと思った。それをリーネは見極めていたようだった。

「えっ?刀抜いていたの?私には見えなかったわ」
「一瞬だったからよくは分からなかったけどそんな気がしたんだ。」

実際サクヤの反応が普通だろう。
おそらく当のカグヤも抜刀の瞬間は見れていないし本能的に危険を感じたようだった。

------------------------------------------------

「そろそろ…時間じゃないかしら?」
「そうだな。大体…後30秒くらいだな」

常に魔力を込めての攻撃を繰り返し続けて疲労を見せるカグヤに対して、全く呼吸を乱さず楽しそうに答えるジンにカグヤは笑みを浮かべてしまった。

「飛び道具がない奴に使うのは卑怯かと思ったけど使うわね?」
「来いよ。負けるつもりはないけどな」

二人の状況を見ればどちらが勝ちかは誰が見ても明らかだった。
そんな中カグヤは一番最初に用意していたサブマシンガンを手に取り、ジンに向かって構えた。

「じゃあ私の最後の攻撃よ。受け取りなさいよ!」

同時にカグヤは引き金を引き、辺りに銃弾の音が休みなく鳴り響いた。が銃弾は当然のようにジンの体をすり抜けた。カグヤがそれを確認した時には視界が反転した。

「ちょっと遅かったか…」

カグヤが状況を把握した時にはジンに押し倒された形で首元には刀の鞘が突き付けられた状態だった。

「そうだな。数秒だけ時間切れだったな。」

キルは時計を見ながら話し、リーネとサクヤも笑ったまま拍手をして二人の戦いを称えた。

「すごかったよ!カグヤちゃんもジンもナイスファイトだね!」
「本当。見応えがあったわよ。」

ゆっくりと立ち上がるジンに対してカグヤはむくれて地面に座ったジンを睨んだ。

「あんた…手加減していたでしょ?どういうつもりよ?」
「そりゃあ組み手だからな。腕試しで本気にはなれないからな」

ジンの一言にカグヤはきょとんとしそんな様子を見たサクヤはカグヤの頭を撫でた。

「よく頑張ったね。カグヤちゃん」
「ちょっと!やめてよお姉ちゃん…」

恥ずかしさから真っ赤になりながらカグヤは立ち上がり、片手に持ったままのサブマシンガンを腰に戻した。

そんな3人の様子を見てリーネは密かに表情を曇らせた。

「どうした?お前にしてはずいぶん沈んでいるな」
「むう…。私にしてはというのは余計だよ。皆すごいなって思ったの…。自分の力でジンもカグヤちゃんもあんなに強くなって…私はこのままでいいのかなって思っちゃって…」
「どう考えるかはおまえ次第だろ?ただ焦ってもいいことはないぞ?」

キルの言葉にリーネはもう一度ジンとカグヤを見た。

「でも…やっぱりこのままじゃ駄目だよ…」

リーネは踵を返してからその場を離れた。迷いを胸に抱いたまま。


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