複雑・ファジー小説
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- ある暗殺者と錬金術師の物語(更新一時停止・感想募集中)
- 日時: 2015/02/18 00:42
- 名前: 鮭 (ID: Y9aigq0B)
魔法、科学等様々な分野で発展する世界。広い世界には様々な国がありそれがいくつあるか、どんな国があるのか、どれだけの分野の学問があるのかそれらを知る者は誰もいなかった。
一般的な人間は他の国に興味を持たず、その日その日を普通に生活するものだった。例外はもちろんいた。一般的に知られているのは旅人。世界を回り生活をする人間。そういった人間はその国にはない文化を伝える場合もあり、国の発展に貢献することがある。
しかし一般には知られない人間もいる。それが隠密行動を行う者。情報収集などを中心としたスパイ、人の命を密かに奪う暗殺者等が当たる。
そのいくつもある国の中の一つから物語は始まる
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初めまして。今回ここで小説を書かせてもらおうと思います鮭といいます。
更新は不定期ですが遅くても一週間に1話と考えています。人物紹介等は登場する度に行っていきます。実際の執筆自体は初めてということがあり至らない点はあると思いますがよろしくお願いします。
・更新履歴
11/3 3部21話追加
11/7 3部22話追加
11/14 3部23話追加
11/22 3部24話追加
12/3 3部25話追加
12/10 3部26話追加
12/17 3部27話追加
12/20 3部28話追加
12/26 3部29話追加
12/30 3部30話追加
12/31 人物詳細2追加
1/4 3部31話追加
1/7 3部32話追加
1/10 3部33話追加
1/14 3部34話追加
1/18 3部35話追加
1/23 3部36話追加
1/25 人物詳細3追加
1/31 3部37話追加
2/4 3部38話追加
2/10 番外編追加
2/18 番外編追加 更新一時停止
・本編
第1部
人物紹介
キル リーネ サクヤ カグヤ ジン>>5
第1話>>1 第2話>>2 第3話>>3 第4話>>4 第5話>>6
第6話>>7 第7話>>8 第8話>>9 第9話>>10 第10話>>11
第11話>>12 第12話>>13 第13話>>14
第2部
人物紹介
リーネ フラン シン バード リンク フィオナ カグヤ>>16
第1話>>15 第2話>>17 第3話>>18 第4話>>19 第5話>>20
第6話>>21 第7話>>22 第8話>>23 第9話>>24 第10話>>26
第11話>>27 第12話>>28 第13話>>29 第14話>>30 第15話>>31
第16話>>32 第17話>>33 第18話>>34
第3部(後々鬱、キャラ死亡等含むため閲覧注意)
人物データ1>>36
人物データ2>>46
第0話>>37
第1話>>38 第2話>>39 第3話>>40 第4話>>41 第5話>>42
第6話>>43 第7話>>44 第8話>>45 第9話>>47 第10話>>48
第11話>>49 第12話>>50 第13話>>51 第14話>>52 第15話>>53
第16話>>54 第17話>>55 第18話>>56 第19話>>57 第20話>>58
第21話>>59 第22話>>60 第23話>>61 第24話>>62 第25話>>63
第26話>>64 第27話>>65 第28話>>66 第29話>>67 第30話>>68
第31話>>70 第32話>>71 第33話>>72 第34話>>73 第35話>>74
第36話>>75 第37話>>77 第38話>>78
人物・用語詳細1(ネタバレ含)>>25
人物詳細2(ネタバレ含)フィオナ リオン レミ>>69
人物詳細3(ネタバレ含)ジン N マナ(I) シン バード>>76
・筆休め・気分転換
番外編
白騎士編
>>79 >>80
2部終了に伴うあとがきの様なもの>>35
軌跡
7/18 参照400突破
10/14 参照600突破
12/7 参照700突破
1/28 参照800突破
- ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.66 )
- 日時: 2014/12/20 16:16
- 名前: 鮭 (ID: n9Gv7s5I)
第28話
フィオナと別れて約1週間、私はリオンと一緒に故郷である村に向かっていた。村自体は森に囲まれていて小さいながらも自然が豊かな名もない村。リオンは一度村に帰って報告するということだから村に帰る予定の私とは同じ道を歩くことになった。
「このペースなら明日には到着するな」
「そうだね私は年に1回は帰っていたけどリオンは久しぶりだからね」
夜の森の中で私達は村までの最後の休憩にと焚き火をして私達は向かいあう形で座っていた。リオンは騎士になるのだからと学校から白銀の鎧を受け取り体に馴染むようにと旅に出てからずっと見に付けていた。最も私やフィオナもプレゼント自体はもらった。フィオナは私達に比べて力が弱い召喚獣をもらったことから立派な魔導書、私は最近覚えた剣技に使う双剣。今考えると私達3人は凄く優遇されていた気がした。そしてそれによって身に付けた力…だからこそ今度はみんなのためにと考えられるようになったんだと思う。
「レミ…結局決めたのか?帰るまで何もプランがないと怒られるんだろ?」
「あはは…特にお父さんには怒られるだろうね…」
私のお父さんは凄く厳格で怒ると怖い。でも私が幼いころに魔法学校に行きたいと言った時に最初に納得してくれたのもお父さんだった。だからこそ恩返しをしたいと思った立派になって帰って喜ばせたかった。
「レミ…一緒に来るか?」
「えっ…?」
「騎士の枠がもう一人あるらしい。俺の補佐になる奴を選考すると言っていた」
「私が騎士?でも…大丈夫かな…」
「お前は俺たちと同じトップ卒業者だろ?それに…ぐずぐずしているとおいていくぞ?」
リオンの言葉は幼いころに冒険ごっこで遅れている私に何度も言った言葉だった。そして決まって私が言う言葉はこうだった。
「すぐにそっちに行くから待っていなさいよ!」
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夜が明けて歩き始めた俺達の視界に村の入口が入ったのはお昼頃だった。ただし違和感があった。村の入口は立て札があり村を覆っている木製の柵はボロボロになっていてさらに入口に立っていたのは見たことがない筋肉質な男が大きな斧を持って立っていた。
「ねえリオン?あの人誰だろ?」
「あまりいい雰囲気でもないな…」
レミの声色には不安もあった。俺達が村の入口に近づいていくとその男も俺達に気付いたようで、にやりと浮かべていた笑みは正直不愉快なものだった。
「何だお前ら?この村に用か?」
「俺達はこの村の人間だ」
「あなた達は誰なの?」
俺達の言葉にその男は村の方に向けて何かの合図をしたそれと共に現れたのは同じような風貌の男たちだった。持っていた武器は斧や剣と様々だったがそのどの武器にも血が付いていた。その様子を見て真っ先に頭をよぎったのは最悪の状況だった。
「お父さん!お母さん!」
俺の言葉を待たずにレミは自分の家族の名前を呼ぶとともに村に向かって飛び込んで行った。それに続こうとした俺の前には進行を邪魔するように男達が立ちはだかった。その中で集団のボスらしき男は俺は殺してレミは生け捕りにしろというような指示を出していた。ここまでの会話でこいつらが山族などの類だと理解できた。
「村のみんなは…どうした…?」
「決まっているだろ?皆殺しだ。どうせこの村は国に認可されていない。騎士様も現れないからやり放題だったな」
男は口々に村での行いを話していった。正直聞くに堪えない内容ばかりだった。そしてレミもこの事実をすぐに知るだろう。
「もういい…言いたいことは終わりか…」
「何だと?」
「この世に残していく言葉はそれで終わりかと聞いたんだ…」
気が付けば俺は背中の大剣を引き抜くと共に召喚の詠唱を唱えた。
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気が付いた時私の周りにはいくつもの屍が転がっていた。我を失っていたようで気が付けば村の中央で血に染まった双剣を握ったまま立って空を見上げていた。
「レミ…怪我はないか?」
「うん…大丈夫…」
声が聞こえた方向に視線を向けるとそこには白銀の鎧と大剣に大量の返り血を浴びていたリオンが立っていた。こんな相手に怪我をするわけがないと答えようとした時自分の体にも大量の返り血を浴びていたことに気付いた。
「はは…こんなに苦しいなら…さっさとやられればよかったかな…」
私の呟きにリオンは答えてくれなかった。今の私にはリオンと向き合うだけの元気がなかった。恐らくリオンも同じような状態なんだと思う。
「血に染まった騎士が何と言うか知っているか?」
不意に聞こえた声は知らない奴だった。視線を向けた先にいたのは黒いローブに包まれていて顔が見えない奴だった。声色的には男だというのは分かった。
「誰だ?あいつらの仲間か?」
「ある騎士の話がある。そいつは人々を苦しめる悪魔を倒すために戦いついにその悪魔を倒した」
男はリオンの問いかけに答えずに話を続けていった。こいつは何だろう。何が言いたいのだろう。そんなことだけが私の頭には浮かんでいた。
「しかし悪魔を倒した騎士は悪魔の返り血を浴び悪魔になってしまった。今のお前達みたいにな」
そう言われた時今の自分の状況に気付いた。返り血やそう言ったことではない。たった今何十人もの人間を殺めてしまったのにも拘らずまったく罪悪感がない。何も言わないということはリオンもそうなのかもしれない。
「お前たちは変だと思わないか?世界中には村はたくさんあるが世界中の村の殆どはここと同じだ。守られているのは国に許可の出ている村だけだ」
「何が言いたい…」
「お前たちは面白い…我々の元に来い…」
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「という経緯で今のこの場所で出会った訳」
レミの悠長な口調で話していく様子はフィオナにとっては耐えられないほどの苦痛だった。それを抑えようと手に持った魔導書を握りしめ話を聞き続けた。
「話が長くなったね。休憩にはちょうど良かった?」
「レミ…あなた…」
笑顔で問いかけてくるレミにフィオナは愕然としてしまった。レミは確かに最年少で学校を卒業できるほどの優秀な人物だったがそれゆえに幼く心が壊れてしまったのだと理解してしまったからだ。
「さて…今度は私が遊ぼ…っ!ディキ?」
「ディキ?そうか…あの子たちも頑張っているんだ…」
Lから視線を外せないフィオナの背後では先にレミが召喚した召喚獣が何かと戦っていた。それがだれかはフィオナには見なくても分かっていた。
「召喚獣の維持は術者の魔力次第。どうやら結構きついみたいだね?」
「そうだね…ごめんリオン…集中するからお願い…」
————分かった…。
光に包まれたレミの姿は半透明になり代わりにリオンの姿が実体化した。それと共に大剣を引き抜き地面に突き刺すと衝撃と共に半透明だったレミの姿も消えた。
「相変わらず厄介だよね…同じ魔力をぶつけて魔術を無効化する魔封…マジックキャンセルだったかしら?」
「いちいち人の技に名前を付ける癖を直せ…」
「あら?卒業してからはそんなことしてないよ」
冗談交じりな口調で話して平静を装うフィオナに対してリオンは再び大剣を構え直した。
「なるほどね…心が壊れたレミをリオンは見守っていたんだね」
「あれ以降あいつは泣かなくなった。どんなことがあっても…。だから俺はこうなることを選んだんだ」
「そんな体になった経緯は話してくれないんだね」
「聞きだしてみろ」
その言葉と共に大剣を振りかぶって飛び込んできた。振り下ろしてきた大剣に対してフィオナは片手を前に出すと魔法陣が描かれた半透明な障壁が現れ大剣の進行を阻んだ。
「魔法障壁か…だが…」
リオンの言葉と共に大剣が光ると障壁は煙のように消え去りそのままフィオナに向けて振り下ろされていった。当然分かっていたフィオナは体を横にずらして大剣を避け、そのまま地面を蹴って距離を取った。
「懐かしいなあ…初めて戦った時はそのまま一撃を受けて私が負けたんだよね」
「そうだったな…」
「でも…無効化するのに同等の魔力を消費する…。だったら話は簡単…我慢比べだよ」
「そういうことか…こっちの魔力が先に尽きるか…」
「私の体力が先に尽きるか…勝負だよ」
魔導書を開いたフィオナの顔つきが変わり、それを察したリオンも大剣を構え直して再び二人は対峙した。
- ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.67 )
- 日時: 2014/12/27 15:41
- 名前: 鮭 (ID: n9Gv7s5I)
第29話
シンとバードが戦いを始めて数十分が経過した頃に現れたドラゴンは二足歩行で鎧を装備し巨大なランスを握っていた。リザードマンという魔物も存在はするもののそれらよりも遥かに大きく知的で戦闘能力も高かった。
「おいシン…ちゃんと生きているよな?」
「死人はしゃべりませんよ…」
ドラゴンに対峙している二人は呼吸を僅かに乱して疲労を見せている状態だった。散々修行をしてきた二人にとっては魔物の相手だけで苦戦していることが面白いものでもなかった。すでに視界内に入っている役所に近づけないでいることがより彼らに焦りを与えてしまっていることもあり完全に力を出し切れていないというのも時間が掛っている原因だった。
そんな中で役所の方から何度も爆発音が二人の耳に届いた。
「フィオナさん…派手にやっていますね…」
「大丈夫だと思うが…急いだ方がいいよな…」
すでに何度も戦闘による衝撃音が耳に届いていた二人は助けの邪魔をする目の前にいるドラゴンを見上げ再び身構え始めた。
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リオンの大剣が振り下ろされ、フィオナは再び片手を出して障壁を作り出して大剣を受け止めた。その動きを呼んでいたリオンはすぐに障壁を消しそのままフィオナの腕の動きが追いつかないように大剣の軌道を縦から横に変化させ横薙ぎの剣技を放った。
「そうはいかないよ」
動きを見ていたフィオナはそのまま視線を大剣が迫ってくる方向に向けると同時に障壁が大剣の進行を妨げた。予想外の防御に一瞬硬直したリオンにフィオナが右手を差し出し同時に魔導書が蒼く光りだした。
それが何かをすぐに察したリオンは地面を蹴って距離を取ろうとした瞬間、いくつもの氷の槍がフィオナの周辺に形成されていき、そのままリオンに向けて何本も飛んでいった。
「こんなもの!」
四方八方から飛んでくる氷の槍は大剣で叩き落してもすぐに形を形成し直してリオンの元に向かっていった。回避する空間がなくなったところでリオンは地面に大剣を力強く突き刺すことで周辺に衝撃を発生させて氷の槍をすべて弾き飛ばした。
「流石だね…無効化できないくらい撃てばと思ったけど…まさか全部無効化にするなんてね」
地面に突き刺した大剣を引き抜いたリオンの周りには力を失ってバラバラになった氷の槍が転がっていた。
「訂正してやるか…弱くなっていないな。その探究心や術技…昔のままだ…何も変わっていない」
リオンの言葉と共にその体が光った時リオンの姿が消えた。それと共にフィオナは反射的に左に飛んでその場から移動するとほぼ同時に先ほどフィオナがいた位置に剣閃が走った。そしてその剣閃を放ったのはレミだった。
「ごめんねフィオナ。本当は1対1をさせてあげたかったけど…相手があなただと時間が掛るからね」
「そうだね…私も長く時間を掛けられないと思っていたんだよね…」
二人は向かい合い話すとフィオナは本を開き足元に魔法陣が浮かび上がった。それと共にレミの姿が光に包まれリオンが再び姿を現し大剣を構え直した。
「レミが相手するわけじゃないんだ…」
「ああ…あいつは召喚獣の維持をしているからな…お前の力をぶつけてこい…」
「じゃあ行くよ…テオ!」
フィオナの呼びかけと共にフィオナの頭上に氷の塊が集まりそれが砕けて現れたのはフィオナがテオと呼ぶ氷のドラゴンだった。
「テオのブレスは知っているよね?」
「ああ…テオ…いや…召喚獣は呼び出す時と維持には魔力は必要だ。だが攻撃は魔力がない」
「よく勉強しているね…じゃあ…これはご褒美だよ!」
フィオナの呼びかけと共にテオは口を開き放たれた蒼く輝くブレスはまっすぐリオンに向かっていった。当然のようにリオンはそれを横に飛び避けた。ブレスが触れた箇所は凍りつき、テオはブレスを吐いたまま攻撃を避けたリオンを追いかけていき、大剣を構えて避けきれなかったブレスを受け止めたリオンの体は徐々に凍りついて行った。
「なら…こっちも行くぞ…」
ブレスを放っているテオの下で術の詠唱をしているフィオナの様子を確認したリオンは一人呟き、同時に黒い魔法陣が足元に浮かび上がった。
「行くぞ…ディオス…」
リオンの呼びかけと共にリオンのすぐ横に黒い穴のようなものが現れ、フィオナがそれを確認した瞬間、軽い衝撃と共に体に脱力感が襲った。
「なっ…何…」
フィオナが気付いた時、地面に倒れていて立つことが出来なかった。顔を上げてリオンに視線を向けるとその後ろには黒い肌にレミのディキ同様の二足歩行の巨大なドラゴンが立ち、その周辺はパチパチと電撃を帯びていた。鱗は刺々しくフィオナには雷を連想させた。
「そういうこと…黒い閃光龍ディオス…学校側も…凄い子…渡したんだね…」
「俺とレミは自分の特性と逆の召喚獣をもらったからな…。早さに長けたレミは力のディキ。そして俺は早さのこいつだ。ディオスのブレスは殺傷能力こそ低いが身体能力をマヒさせる」
倒れているフィオナに歩み寄るリオンにテオは主人を守ろうとリオンに突進をするも途中でディオスに捕まり地面に押さえつけられた。
「凄い子だね…光のような速さの移動…反則だよ…」
「魔力維持は大変だけどな…そろそろ降伏してもらえるか?」
「駄目だよ…」
リオンの言葉に対して体を震わせながらフィオナは立ち上がった。当然体がまともに動かないその体はフラフラとしておりちょっとした衝撃で倒れてしまいそうに見えた。
「貴方達を追い払ったら…みんなで打ち上げの予定だからね…」
「そんなボロボロの体でまだ向かってくるつもりか?」
リオンは大剣をフィオナに向けたまま問いかけていくと不意に辺りの気温が下がり寒気がリオンを包みこんだ。
リオンは真っ先に召喚獣のテオの仕業と考えたもののディオスに押さえつけられたままで、次にフィオナに視線を向けるとフィオナの桃色の髪は白銀に変わり目つきも普段と違い鋭いものに変わっていた。
「リオンは変わっていないって言っていたよね?じゃあ…変わった私を見せるよ…」
フィオナの言葉と共にフィオナの足元から地面が凍り始めていき辺りが白銀の世界に変わった。その様子を確認したリオンはすぐに大剣を構えフィオナに飛び込もうとしたその時だった。
————リオン!防御して!
レミの声に咄嗟に大剣を前に出し魔力の防御をした瞬間強くリオンがこれまでに感じたことがない程冷たい衝撃が発せられた。咄嗟にリオンが防御しなかった場合リオンも白銀の景色の一部になるところだった。ただしテオを押さえつけていたディオスはこの空間に耐えきれず凍りついてしまった。
「私があの学校に元々通っていたのはこの強すぎる魔力を抑える修行のためなの…。だからテオにはお世話になったよ。私が本気の状態でもそばにいられるのはあの子だけだったから」
「つまりここからは…本当のお前の本気か…」
「そうだよ…残念だけど終わりにするよ…」
フィオナが片手をゆっくりと横に手を振るとそれと共に強い冷気の固まりがリオンに迫り、今まで同様にそれに大剣を振り下ろして無力化させると急激な脱力感がリオンを襲った。
「これは…」
「リミッターを外した私の一撃は無力化にそれなりに力を使うはずだよ」
口調もやや力が籠ったフィオナにリオンは一度小さく息を吐きジッと視線をフィオナに向けた後に大剣を背中に納めた。
「レミ…悪いが力を貸してくれ…」
————分かっている。フィオナが本気を見せたんだから私達も見せないとね
その言葉と共にリオンの髪はオレンジに変わっていき体は僅かに発光し始めた。それと共に背中に納めた大剣の姿は消え代わりにリオンの持つ大剣でもレミの持つ細身の双剣ではなく大きさはちょうどその中間に当たる剣が姿を現しリオンの手に握られた。それと共にテオを抑えていたディオスも姿を消え自由になったテオはフィオナの元に戻った。
「フュージ二アンの真の力だね…本来それは二人の力を一つにして力を倍増させるもの…」
「ああ…だが本当にそうなるにはいろいろと鍛錬とパートナーとの信頼が不可欠だがな…」
「参ったなぁ…一気に決めるつもりが…無理みたいだね」
再び飛び込んできたリオンは今まで以上の速度で、目で追うのは困難になっていた。その速度のままリオンはフィオナの横に移動し剣を横薙ぎに振るとフィオナの翳した手の先でできた氷の壁がその進行を抑えた。
「確かに短期決戦は無理みたいだな」
「でもこれだけは分かるよ…この戦いの決着が近いってことはね」
————そうだね。あなたの敗北でね
「そんなことないよ…勝つのは私だよ」
レミの言葉に答えると共にフィオナの開いた魔導書が光り、それに答えるように刀身が光り始めた剣をリオンは握り持ったまま互いに視線を重ねた。
- ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.68 )
- 日時: 2014/12/30 15:06
- 名前: 鮭 (ID: n9Gv7s5I)
第30話
この状態は正直負担が大きい。魔力を抑えてないせいでただ立っているだけで魔力が減っていく。その上、体がまともに動かないから余計に魔力を消費する。その上リオンの動きがレミと同等にまで上がっていた。
今も私の目では殆ど負えない速さで斬りかかってくる。この攻撃を防げているのは殆ど反射的で見切れているわけではなかった。
「テオ!ブレス!」
私の掛け声と共にテオは息を吸い込み蒼く輝いたブレスを吐くとリオンは当然のようにそれを横に避け剣を振り上げ飛び込んできた。振り下ろされてきた剣の軌道は迷わずに私に向かって振り下ろされ、それを私は剣の横に術をぶつけて攻撃の軌道を変えた。
対象を凍りつかせる風の術「アイスウインド」。ただし攻撃の範囲を細かく絞れないことから普段は使わない術。でもこの相手にはそんなことを考えていられなかった。
「剣が見えて来たか?」
リオンの言葉でようやく今の自分が最初は見切れていなかった剣が見えるようになっていたことに気付いた。リオンの攻撃に的確に対処できてきているのもそのおかげだと分かった時、さらに一歩が見えるようになってきた。
「そうだね…戦いの勘…戻ってきたみたい」
縦横無尽に放たれていく連撃の一つ一つを捌いていき、その間にテオのブレスを織り交ぜた攻防が続いていた。互いに疲労が見えていく中、リオンと背後にいるレミの呼吸の乱れが見えた。
「そろそろ魔力がきついかな…」
「そうだな…次で決めるぞ?」
その言葉と共に飛び込んできたリオンを見て私も最後の力を振り絞り飛び込んだ。リオンが渾身の力を込める時、剣を振り上げる癖は知っていた。予測していた通り振り下ろされてきた剣は私の眼前まで近づいてきたのを確認したところである予感が私の頭の中によぎった。
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恐らくこれが最後のこいつとの激突だと思われた。最後の一撃をと考えて飛び込んだところで俺の頭を過ったのはこの攻撃が今まで同様に弾かれそのまま反撃をされる未来だった。そう考えた時、そのまま縦に振り下ろそうとした剣を止め、その攻撃を防ごうとして右手を翳したフィオナの右脇に蹴りを入れて態勢を崩させた。
「ぐっ!?」
予想外な攻撃だったのか目を見開き思惑通り態勢を崩したフィオナを確認し、止めた剣を改めて構え直し横薙ぎに斬りかかった。そんな時フィオナの口元に笑みが浮かんでいたことに気付いた。それと共にその剣が氷の盾によって防がれた。
————嘘!?
俺は当然レミも予想していなかった防御だった。その予想外の防御に動揺してしまった間に俺の腹部に手を翳して放たれた術。
「これで終わりだよ!」
蒼い閃光が俺の目で確認できた時、そのまま吹き飛ばされて壁に叩きつけられ体が動けなくなった。体を見ると凍りついてしまい身動きが取れない状態だった。そもそも体に力が入らない。どの道身動きが取れそうにない状態だった。
「はあ…はあ…こ…れで…私の魔力も…切れたよ…」
「そうだな…この状態の魔力切れはレミの魔力切れも意味している…。お前の勝ちだ…」
————悔しい!絶対勝てると思ったのに!
レミの悔しそうな声に思わず苦笑いをしてしまい、フィオナの魔力切れが影響してか俺の体を包み込んでいた氷も砕け散った。思えばここまで全力で戦ったのはいつ以来だったか…。
そんなことを考えている時、急にフィオナはその場に倒れた。魔力が尽きたからかと考えていたが腹部から血が流れていることが確認できた。すぐに呼びかけようとした時聞き覚えのある声が耳に届いた。
「ご苦労だったなL…」
--------------------------------------
「いったいどうなっているんだよ?」
「分かりません…一先ず役所に急ぎましょう」
シンとバードは巨大なドラゴンと交戦をしていたが、役所から見えた蒼い光と共にドラゴンは姿を消してしまった。周りに何体もいた筈の召喚獣達も姿を消しとりあえずと遅れながらも役所に向かっていた。
「でも召喚獣が消えたってことはフィオナが勝ったんだろ?」
「恐らく…でも…嫌な予感がします…急ぎましょう…」
シンは消費した弾丸を装填しながら役所へと向かい、バードは辺りを警戒しながら走っていた。第一撃の攻撃以降時間が大分経過してしまっていることから家の殆どは崩壊しており元々の街は見る影もなかった。
「シン…まだ行けるだろ?」
「当たり前です…この時のために体力づくりもしてきましたから」
話をしていきながら役所の前に到着した時、二人の目に入ったのは3人の人間だった。一人は地面に倒れているフィオナ。役所の壁に寄り掛ったL。そしてその前に立っている黒いローブに身を包んだ人物だった。
「フィオナさん!」
倒れているフィオナに駆け寄ったシンはフィオナを抱き起そうとしたがそのまま言葉を失ってしまった。腹部を何かで貫かれた痕が残っていた。
「シン…ちゃん?」
「フィオナさん!何で…」
予想していなかった状況にシンは珍しく声を上げて呼びかけバードはローブの人物に視線を向けていた。
「J…お前…何をしに来た…」
「簡単だ。後処理だ」
Jは片手をLに向けて話していくと何かしらの術を詠唱し始め、それと共にLの姿は二人の人間に別れた。一人はリオン。そしてもう一人は二人が何度も見て来たレミの姿だった。
「白騎士?何で…引き分けだったのか?」
「いや…そこで倒れている女の勝利だ。まさかLを一人で倒す奴がいると思わなかったぞ」
「そのLにお前は何をしているんだよ」
「使えない奴の後処理だ。融合させて力を与えてやったのにこれでは使い物にならないから俺がその力を使ってやる」
その言葉を残してその男は二人の目の前から消えた。すぐに警戒して辺りを見回したバードは何もないことを確認したから壁に寄りかかったリオンに駆け寄った。
「おい…大丈夫かよ?」
「悪いが…魔力を奪われた…しばらく動けない…いや…もう…」
何かを言いかけたところでリオンの言葉は途切れてしまった。
「テオ…テオは…どこ…」
急に後ろから聞こえて来たフィオナの声にバードが振り向くとシンに介抱されたフィオナが手を震わせながらも伸ばす様子が見えた。
「大丈夫です…今…向こうで休んでいます…」
「よかった…さっきから…何も見えなくて…心配だったの…」
すでに手を施せない状態だと分かったバードはシンがついた嘘になにも言わなかった。フィオナから流れ落ちる血は全く止まる様子もなく徐々に顔色が悪くなっているのが二人は気付いた。
「少し疲れたみたい…ちょっと…休ませてもらうね…」
「分かりました…」
「あれ…?雨…?風邪を…引かないようにね…?」
青空の元でフィオナの言葉が途切れるとそのまま瞳が閉じられた。シンは無言のままフィオナを寝かせてあげた。バードが視線をLと呼ばれていた二人に視線を戻すとすでにリオンはフィオナ同様に動かないでいた。
「ねえ…ちょっと…いい?」
「お前…無事だったのか?」
「魔力を取られたけどなんとかね…」
レミからの呼びかけにバードは驚きながらも地面に仰向けのままのレミに歩み寄った。
「ちょうどいいから…一つお願いをいい?フィオナのためにもね…」
「何だよそのお願いって…」
-----------------------------------------------------------------
二人は私とフィオナをリオンの隣に座らせる形で移動させてくれた。リオンの右隣に私…左隣にフィオナ。この並びは昔からの並び方だった。
「主人がこれでごめん…動けないからテオとディキ、ディオスをよろしくね…」
「ええ…でも貴方達のためではありません…フィオナさんのためにです…」
「どっちでもいいよ…ほら…さっさと行く…」
目が赤くなっている娘はシンだったかな…こんなときでも冷静でいようとして…か…わいい…。
「バードさん…行きましょう…あのJという人…まだ近くにいるはずです」
「そうだな。じゃあ俺達は行くからな」
多分…あの口の動きは…そう言ったんだと思う…。なんだか周りの音が聞こえないよ…。分離しても…魔力の核がないから…もう無理かな…。
————レミ。ほら行こう
————置いて行くぞ?
二人の声が聞こえた気がしたのは。とっくに逝ったのかと思ったのに待っていたんだ…。しょうがないな。
「いま…そっち…に…いく…からね…」
最後に感じたのは柔らかくて暖かい風でなんだか悪いものではなかった。いろいろあったけど…あっちではみんなに会えるのかな…。ここでできることは終わっちゃうけど…あっちでも…あっちでこそ…楽しく…生きられればいい…。それが…今の私の望み。
そんなことを考えながら私は待ってくれている二人の元に駆け寄っていった。
- ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.69 )
- 日時: 2014/12/31 13:01
- 名前: 鮭 (ID: n9Gv7s5I)
キャラ詳細
フィオナ・セレスティナ
役所の秘書でありメンバーのお姉さん的な存在。魔術に長けており魔術書を自らの魔力の源にして戦う。
幼いころに自らの強すぎる魔力を制御できずに家族を死なせ心を閉ざしてしまったが父親の知人に当たる魔法学校の校長の元で修行をして制御の術を身につけ、その時に出会った召喚獣のテオと過ごして徐々に心を開いていった。
卒業後は探求の旅に出かけていきその果てに現在の街に辿り着いた。詳細については誰が聞いてもはぐらかす為に分かってはいない。
・召喚獣
異世界の扉を魔力を消費して開きそこの住人を呼び出す術。ただし呼び出すためには基本的に契約を結ぶ必要がありその方法は召喚獣個々によって変わってくる。また召喚している間は魔力を消費し続けるために長い間の召喚にはそれなりに魔力を必要とする。
・テオ
フィオナの召喚獣で氷に身を包んだ龍の召喚獣。別名銀竜と呼ばれており火山の中でも問題なく行動できるほどの力を持った召喚獣。本来召喚の契約が困難だが幼いころからフィオナと共に過ごしてきたことから生まれた信頼関係からほぼ無条件で契約を交わした。主にブレス攻撃が攻撃手段でその威力は溶岩をも鎮めるほど。触れるものを凍らせるその背に乗れるのはフィオナだけで専用の移動召喚獣でもある。
・魔導書
テオと共に卒業の際に学校からもらったもの。フィオナの大きすぎる魔力を溜めこむバッテリーのような役割が主な用途。また様々な知識が収納されておりフィオナが学んだりするたびにページが更新される。見た目は変わらないが実際には様々な辞書を何千と集約させたほどの内容になっている。フィオナの術のリミッターの役割もあるため本を閉じた時に放たれる術が彼女の本来の力になる。
リオン
二人のLのうちの一人魔法と大剣を扱う魔法剣士。基本的な魔術は使いこなせるが主に使うのは魔術を無力化させる魔封が主に使う術。魔法学校では魔法を主に勉強していたが剣術も独学で学び、剣術の方が長けていたことから学校内では変わりものとして扱われていた。そんな中でも魔法学校では初のトップ卒業者であったことから魔法学校の歴史には名前を残す形になった。
・魔法学校
一言で言うと魔術を学ぶための学校。入学、卒業共に困難で殆どは自主退学してしまう。ただし卒業が出来た場合大魔道士として扱われ様々な国から求められ一生が安泰すると言われている。学校の規模自体も大きく学生寮等も校内に完備されている。ただし殆どが女子生徒のため男は目立ってしまいリオン本人もレミに押されなかったら入学しなかったという話だった。
・ディオス
闇の属性を持っている雷の龍。別名は闇の閃光龍。呼び出すだけでも大きく魔力を消費するために召喚の扉脱を開けそこから攻撃させるのが主な使用方法。攻撃力自体は他の2体に比べると低いものの圧倒的なその速さは常人では見切れないほど。ブレス攻撃は雷属性で敵の動きをマヒさせる。
・フュ—ジョ二アン
魔力値が限りなく近い二人が術などで融合した人工的な生命体。融合により魔力や身体能力を大幅に引き上げられる。融合した当人達は意思疎通が可能であり自由自在に人格の入れ替えも可能となる。入れ替わった際は武器防具なども入れ替わるため単純な二重人格とはいえない。また二人の意思が完全に同調した時に限界を超えた力を引き出せる。ただしここで言う完全な同調は目的は当然ながら指先の動きまで完全に一致する必要があるため発動できるのはごく一部だけ。
レミ
2人のLの一人。双剣を扱う魔法剣士。得意な術は召喚術で一度に何体もの召喚を行うことが出来る。元々は自分のやりたいことを見つけるためにと魔法学校に入学したがフィオナやリオンと学生生活を満喫してしまい結局、魔法学校の最年少卒業生という肩書を手に入れただけとなった。
・ディキ
光属性を持つ大地の龍。特別な能力やブレスが使えるわけでもない代わりに圧倒的な攻撃力と防御力が特徴。主にレミの守りと足りない攻撃の補強にと契約した召喚獣。屈強な見た目は敵に圧倒的な存在感を与えるが性格自体は心優しい。
・双剣
レミが卒業時にもらった剣で元々は名前があったものの名前を忘れたと本人が言うために無名の名刀となってしまった。重量は軽く非力気味のレミでも扱えるものになっている。また一定量の魔力を注ぎ込むことにより一本の剣に姿を変えることが出来る。ただし必要な魔力が高いために普段は双剣としか使わない。
- ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.70 )
- 日時: 2015/01/04 22:54
- 名前: 鮭 (ID: n9Gv7s5I)
第31話
「おいシン!どんどん走っているがあいつがどこに行ったのか分かるのかよ?」
瓦礫になってしまっている街の中をシンとバードは走っていた。先導するシンがどこに向かっているつもりなのか分からないでいるバードはシンに向かって話しかけた。普段考えがないままに移動するということをしないシンの行動には何か意図があると分かっていながらもやはり気になってしまった。
「あの人は…力を使ってやると言っていました…」
「それが何だって言うんだ?」
「多分その力はあの3人の召喚獣です。だから呼び出す為に適した場所があります」
「適した場所?」
思っていたより落ち着いている様子のシンにバードは寒気のようなものを感じてしまい続く言葉を待った。
「多分ですが…街の中央にいます。あそこなら呼び出すのに十分広いスペースとそこからどこにでも召喚獣を向かわせることが出来ます」
「なら街の中央に行けばいいんだな。」
納得したバードはシンの後を追い急いで街の中央へと向かっていった。
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街の中央についたところで目的の人物を見つけるのに時間は掛らなかった。赤い炎で辺りは燃やされていて嫌な臭いが鼻に届き自然と表情が歪んでしまいそうになった。Jと呼ばれていた男は街の噴水の前に立って魔法陣を地面に展開しており俺達の存在に気がつくと男は視線を俺達に向けて来た。
「思ったより早かったな」
「3人の召喚獣を返してください」
いつもに比べて口調が強いシンが俺には気になった。ここに来るまでに至る冷静な分析力を考えれば心配ないと考えられる。ただいつも以上に安心をして見てはいられなかった。
「俺はまだ仕事があるから付き合えないがせっかくだ。お前達で試すか」
「試す?どういうことだ?」
「返してほしいなら返してやる」
その言葉と共に地面の魔法陣が光り、姿を現したのは黒く巨大な二足歩行の竜だった。ただし先ほどと違い黒く、それでも透明感がありキラキラと輝いており赤い瞳、漆黒の防具にランスを装備していた。さっきまで戦っていた龍と大きさこそ変わらなかったが威圧感は比べ物にならなかった
「何だよ…これ…?」
「短時間だったがいいものが出来た。これで仕上げだ」
Jのさらなる術の発動により龍の首に黒い宝玉が着いた首輪が装着されるとその竜の視線が俺達の方向に向けられた。
「あれは…まさか…」
「あの3体を融合させたものだ。素晴らしいものが出来たな」
「融合?お前!何やっているんだ!?」
召喚獣については知識がない俺でもやっていいことと悪いことがあるくらいは分かった。融合させるのにその個々の意識がどうなるかと考えると黙っていられなかった。
しかしJからの返答はなく代わりに聞こえたのは一発の銃声だけだった。そしてその銃を発砲したのはシンだった。
右手に持っていたマグナムから放たれた銃弾はJに向かって放たれたがそれはJの手に収まるようにして吸い込まれてしまった。
「テオ達を戻してあげてください」
「それは無理だな。あのできそこないの二人と違って今度は完全な融合だ。元には戻せない」
Jの言葉と共に大きく雄たけびを上げた龍の声は心なしか悲しげに聞こえ、同時にその衝撃で辺りで燃えていた火は消し飛び倒れかけていた家屋は崩れていった。
「さて…長居はよくないな。後は任せたぞ」
その言葉を残しJは姿を消し、残されたのは龍と俺達二人だけとなった。黙ったままのシンは消費した銃弾を装填していきながら龍に向き合った。
「バードさん…」
「何だよ?逃げたいとかはなしだぞ?」
「はい…だから…この子を止めるために…協力してください…」
「それこそ…駄目だと言っても協力するさ」
銃を二つ抜いたシンの横で大剣を構えてきょう二回目の龍と対峙した。
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街の外の前にある森の中。ジンとNが刀で切り結び続け金属音だけが響き渡り続け、ジンが鞘から居合の形で横薙ぎに刀を振るとそれに対して下から斬り上げるようにして受け止めて対峙した。
「やっぱり…正面からの攻撃は無理みたいだな…」
「いつまで遠慮しているつもりだい?まさか命を奪わないで勝とうとしていないよね?」
「そうだよな…遠慮はもうやめるからな」
左手に持った鞘をくるりと回して持ち替えたジンは刀でNの刀を弾き空いた頭に向かって鞘を振り下ろす。それに合わせるように左手を出して防御姿勢に入った。防御した腕を砕くつもりの勢いで鞘を振り下ろし腕に当たった時、ジンは違和感に気付いた。命中した感触は腕を砕くものではなく金属がぶつかり合うような手応えだった。視線を腕に向けたジンはその腕に装着された手甲の存在を確認し、先に弾いたNの刀が再び向かってくるのを確認した。
「ぐっ!」
咄嗟に刀を使って防御しながらもその刀の力強さに吹き飛ばされ木に背中を叩きつけられた。態勢を立て直そうと視線をNに向けると刀を振り上げている動作が見えた。
「あれは…」
「以前君を追い込んだ技…朱雀だよ」
そのまま剣を振り下ろした時炎に包まれた巨大な鳥がジンの元に向かって来た。
「前の俺とは違うのをみせてやるよ」
すぐに刀を納め居合の構えをすると白い光を放った刀が引き抜かれその剣圧により炎を纏った鳥は消え去った。すぐに刀を納め直したジンはそのまま飛び込み、大技を出した直後のNに居合を放ちギリギリで避けようとしたNの上半身に僅かな切り傷を付けた。
「危なかった…まさか奥義の相殺からすぐに攻撃してくるなんてね」
「あの時の俺ではないってことだ。次は何だ?もう一つの奥義を出すのかよ」
「そうだね…もう一度君の一撃を見てから決めるよ」
その言葉と共に刀を構えることなくただ片手に持ったまま無防備に歩み寄ってきた。その意図が分からないジンは先ほどと同様に居合の構えのまま飛び込んだ。刀がNへと届く位置にまで近づいた瞬間、ジンの引き抜いた刀が空を切り目の前にいた筈のNの姿が消えた。
「消えた!?」
ジンが言葉を発した瞬間全身に痛みを感じた。地面へと倒れていく中自分の体、手足に斬撃を受けてそのまま倒れた。急所は外れており手足も切り落とされていなかったが重力に任せるように地面に倒れた。
「くっ…」
「今ので終わらせようと思ったけど…浅かったみたいだね」
自分を見下ろしているNを見上げたままあジンはNの握っている刀に視線を向けるとその刀はジンの持っている刀同様に光り輝きその白い光がジンの目を細めさせた。
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「七発…」
二人から離れた大木の上でIは木に寄りかかったまま戦いを見ていた。最後の激突の瞬間彼女の目に見えたのは居合を後ろに下がって避けてから七回斬りつけていく様子だった。
元々彼女の任務は街への最初の一撃を入れること、出口からの逃走者の撃退。しかしその任務の内容を知らないNとRが来たせいで何もすることがなくなりその場で行われていた二人の戦いの見物をすることになった。
「まだ…覚醒…出来ていないんだ…刀の覚醒が見られたから…もしかしたらと思ったけど…駄目なのかな…」
彼女にとっては兄だと確信できた人物が自分の格下と思っている人物に負けている状況が気に入らなかった。見ている人間が他にいないということもありそろそろ助けるべきかと考えていた時ジンはゆっくりと立ち上がった。
「まだ…戦えるんだ…頑丈…」
小さく呟きながらもその手にはいつでも矢が放てるように弓が握られており再びIは二人の様子を伺い始めた。
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「その刀も…妖刀かよ…?」
「現在確認されている妖刀で唯一の光の属性を持つ白夜。力なら君の持つ刀と変わらないはずだよ」
光り輝いている刀は俺の持っている刀以上の輝きで変わらないと言われていても同じだとは思えなかった。そう思わせてしまっているということは使い手本人の差ということか…。
「まだまだ…修行が足りないよな。本当に…」
無言のまま俺をただ見るNに思わず笑ってしまった。当然おかしくてじゃない。こいつに勝てた時俺自身はどこまで強くなれるのだろうと考えてしまうと高ぶる気持ちが抑えられなかった。
「こんな状況で笑うか…ここで終わらせるよ…まだ君が知らない奥義でね」
「どんな技でも来いよ…打ち破ってやる」
この瞬間、自分の体に起こったことが俺には理解できなかった。痛みで目が霞みそうだったのに急に視界がクリアになり何故かNの動きがスローモーションに見えた。正確にはそう思えてしまった。一つ一つの動作をするための体の動きから目の動きまですべてが見えてしまった。
「っ!?何だ?」
突然のことで動揺してしまった俺の目に映ったのは自分の頭の中で描いたイメージ通りに動作するNの姿だった。
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