複雑・ファジー小説

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ある暗殺者と錬金術師の物語(更新一時停止・感想募集中)
日時: 2015/02/18 00:42
名前: 鮭 (ID: Y9aigq0B)

魔法、科学等様々な分野で発展する世界。広い世界には様々な国がありそれがいくつあるか、どんな国があるのか、どれだけの分野の学問があるのかそれらを知る者は誰もいなかった。


一般的な人間は他の国に興味を持たず、その日その日を普通に生活するものだった。例外はもちろんいた。一般的に知られているのは旅人。世界を回り生活をする人間。そういった人間はその国にはない文化を伝える場合もあり、国の発展に貢献することがある。 

しかし一般には知られない人間もいる。それが隠密行動を行う者。情報収集などを中心としたスパイ、人の命を密かに奪う暗殺者等が当たる。

そのいくつもある国の中の一つから物語は始まる

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初めまして。今回ここで小説を書かせてもらおうと思います鮭といいます。

更新は不定期ですが遅くても一週間に1話と考えています。人物紹介等は登場する度に行っていきます。実際の執筆自体は初めてということがあり至らない点はあると思いますがよろしくお願いします。

・更新履歴

 11/3 3部21話追加
 11/7 3部22話追加
 11/14 3部23話追加
 11/22 3部24話追加
 12/3 3部25話追加
 12/10 3部26話追加
 12/17 3部27話追加
 12/20 3部28話追加
 12/26 3部29話追加
 12/30 3部30話追加
 12/31 人物詳細2追加
 1/4  3部31話追加
 1/7  3部32話追加
 1/10 3部33話追加
 1/14 3部34話追加
 1/18 3部35話追加
 1/23 3部36話追加
 1/25 人物詳細3追加
 1/31 3部37話追加
 2/4 3部38話追加
 2/10 番外編追加
2/18 番外編追加 更新一時停止


・本編

 第1部
 人物紹介
 キル リーネ サクヤ カグヤ ジン>>5

 第1話>>1 第2話>>2 第3話>>3 第4話>>4 第5話>>6
 第6話>>7 第7話>>8 第8話>>9 第9話>>10 第10話>>11
 第11話>>12 第12話>>13 第13話>>14

 第2部 
 人物紹介
 リーネ フラン シン バード リンク フィオナ カグヤ>>16

 第1話>>15 第2話>>17 第3話>>18 第4話>>19 第5話>>20
 第6話>>21 第7話>>22 第8話>>23 第9話>>24 第10話>>26
 第11話>>27 第12話>>28 第13話>>29 第14話>>30 第15話>>31
 第16話>>32 第17話>>33 第18話>>34

 第3部(後々鬱、キャラ死亡等含むため閲覧注意)
 人物データ1>>36
 人物データ2>>46

 第0話>>37
 第1話>>38 第2話>>39 第3話>>40 第4話>>41 第5話>>42
 第6話>>43 第7話>>44 第8話>>45 第9話>>47 第10話>>48
 第11話>>49 第12話>>50 第13話>>51 第14話>>52 第15話>>53
 第16話>>54 第17話>>55 第18話>>56 第19話>>57 第20話>>58
 第21話>>59 第22話>>60 第23話>>61 第24話>>62 第25話>>63
 第26話>>64 第27話>>65 第28話>>66 第29話>>67 第30話>>68
 第31話>>70 第32話>>71 第33話>>72 第34話>>73 第35話>>74
 第36話>>75 第37話>>77 第38話>>78

 人物・用語詳細1(ネタバレ含)>>25
 人物詳細2(ネタバレ含)フィオナ リオン レミ>>69
 人物詳細3(ネタバレ含)ジン N マナ(I) シン バード>>76

・筆休め・気分転換
 番外編

 白騎士編 
 >>79 >>80

 2部終了に伴うあとがきの様なもの>>35

 軌跡
 7/18 参照400突破
 10/14 参照600突破
 12/7 参照700突破
 1/28 参照800突破

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.26 )
日時: 2014/06/26 13:19
名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)

第10話

私が役所でお仕事を始めてから一カ月が経った。
お仕事はシンちゃんとバードさんの3人が主で、時々お師匠様やカグヤちゃんにお手伝いしてもらう形だった。

仕事の内容は以前の遺跡の調査以降は危険もなくスムーズに進んでいた。
バードさんはとても退屈そうだったけど、シンちゃんは手もしっかり治療できて、少し前にカグヤちゃんから銃を返してもらっていた。
ちなみにそれまで使っていたライフルも気に入ったみたいで組み換え式でもらっていた。

あの発見した遺跡については調べてフルスシュタットという、かつては水の街と呼ばれている場所だと分かった。
ただ私が水を氷漬けにしたせいで今は氷の遺跡と命名されてしまった。
ちなみに問題になるからと持ち出した指輪や遺跡が凍った経緯は秘密になっていて、他の皆には氷の遺跡になってしまった謎を新たに与えてしまう形になった。


「ふう…これで今回の報告書も終わりですね」

最近はシンちゃんが完全に報告書係になってしまった。
リンクさんが言うに私やバードさんの報告書を読み解く方がかえって時間が掛るからと免除されたのだった。楽にはなったけど複雑…。

「じゃあさっさと報告に行くか」
「そうですね。これで僕達も休暇ですね」

背伸びをしながらシンちゃんは報告書を提出に行った。

「そういえばリーネは休暇中もまた修行か?」
「うん!なんか今回は大掛かりな修行みたい」
「つーかそろそろ師匠を超えるところに来てないのか?」
「えっ?私が?」

バードさんの質問に私は驚いた。
今までお師匠様を超えるとかそういった考えがなかった。
私に錬金術を教えてくれる頼りになる人としか考えていなかっただけに自分が上になるということは想像さえできなかった。

「まあ今回の仕事で一応長期休暇だろ?次に会ったときは楽しみにしているからな?」
「別にそんな劇的に変わったりしないよ…」

バードさんの言葉に苦笑いしガチャリとドアが開く音を聞くとシンちゃんとフィオナさんが入ってきた。

「はい!今日までお仕事頑張ったわね!明日からは5日の休暇だからしっかり休んでおいてね!」
「はーい!」
「りょーかい」
「分かりました」

それぞれ返事をしてから休み前のお給与をもらい私達は役所を出た。

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「さて…今夜は久しぶりに飲むかな!お前らも来るか?」
「未成年を酒場に誘わないでください…」
「そうだよ!」

バードの提案に2人は全く乗り気な様子ではなく、完全否定されているバードにキルはニヤッと笑っていた。

「たまにはいいだろ!ほら?仕事仲間の付き合いだ!」
「仕方ないですね…バードさんのおごりですから行きましょうか…」
「あっ!それなら行く!」
「何!?ちょっと待て!なんでそうなる!?」
「言いだしておいて女性にお金を払わせるんですか?」

シンの言葉にバードは大げさなため息をして財布と今日もらった給料を確認し無言でOKのサインを出した。
酒場に着くとあまり見ない来客にリーネは驚いた。

「あれ?サクヤお姉ちゃんにカグヤちゃん?それにお師匠様まで…なんで?」

小さな酒場には少ないテーブル席にサクヤとカグヤ、フィオナが座っており、カウンター席にはフランとリンクが座っていた。

「遅いわよリーネ!」
「えっと…何で皆がいるの?」
「仕事納めの時は皆集まるんだよ!ほら!リーネちゃんもおいでよ」

サクヤは最近になって飲めるようになったお酒を飲みながらリーネに手招きしシンと一緒にテーブル席に座り、バードはカウンターに座りお酒を注文し始めた。

「それにしてもサクヤさんがお酒を飲むなんて意外ですね」
「私も一応大人だからね」
「だからって飲みすぎよ…少しは加減してよ」

顔を赤くした状態のサクヤにカグヤはお酒を取り上げ代わりに運ばれていた料理を差し出した。

「あはは…カグヤちゃんも大変だね…」
「そうですね…」

二人の様子に苦笑いし、ふとシンに視線を向ければ赤くなった顔のシンに驚き、その隣にいるフィオナがシンのグラスにお酒を注いでいる様子とそれを躊躇なく飲んでいるシンに気付いた。

「ちょっと!フィオナさん!何でシンちゃんのグラスにお酒入れているんですか!」
「いいの!少しは大人の味も覚えないといけませんから〜」

もはやハチャメチャという言葉を使うに相応しい状況にリーネは大きくため息を付き、気を紛らわそうと料理に手を付け始めた。

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「おなかいっぱい…」

皆がお酒を飲み終えるまでご飯を食べ続けた私は、お店の前の噴水のある広場にあるベンチに座って休んでいた。
皆お酒が回りきって寝てしまったからとお店のご主人は泊めてくれるということになり、今はみんなそれぞれ寝てしまっていた。

「何をしている?」

星空だけが灯りとなっている夜の暗闇から現れたのはお師匠様だった。
そういえばお師匠様はあまり飲んでいなかったかな。

「お腹いっぱいになったから休んでいるんだよ。シンちゃんもカグヤちゃんも飲まされて寝ちゃったしキルもお腹いっぱいみたいで動かないし」
「だからあんなに早く皆寝たのか」

お師匠様は呆れたように一度お店に視線を向けてから私に視線を向けた。
私はお師匠様が座れるように横にずれてスペースを空け、お師匠様もベンチに腰を下ろした。

「リーネもあそこで仕事をし始めて一カ月か…少しは慣れたか?」
「うん!私の力が皆に役に立って嬉しいんだ!私…錬金術師になれてよかったよ」
「そうか…リーネは錬金術師になれた訳だが今後はどうする気だ?何か目標はないのか?」
「えっ?それは…お父さんみたいな…」
「違う。君自身が考える錬金術師の姿の話だ」

お師匠様からの問いかけに私は言い淀んでしまった。

正直お父さんのような錬金術師になれればとしか考えていなかった。
俗に言う賢者の石やエリクシールの生成に興味はなかったし、過去の3人の錬金術師のように街を統治といったことにも興味はなかったし何か違う気がしていた。

「聞き方が悪かったか?なら君はどんな錬金術師になりたい?」
「どんな?…えっと…」
「…なら明日までに考えてこい。君が目指す錬金術師がどんなものか…」

お師匠様は小さく一言を残してから立ち上がった。
同時に小さな金属の塊を取り出し、金属は光りに包まれ形を変えていくと一つの槍になった。
お師匠様は武具を普段は金属の塊にしていて、必要になると錬金術で武器に戻している。

「明日、君に僕からしてあげられる最後の修行をする。所謂卒業試験だ」
「えっ?卒業試験?」
「君の錬金術の力はもう僕以上だ。だから遅くなったが卒業試験だ」

お師匠様の目はどこか悲しそうだった。
教え子を送り出す先生みたいな気分?
それとも過酷な内容なのかな?

「お師匠様?卒業試験は何をするの?」
「僕と君の一騎打ちだ」
「一騎討ち?えっと…練成の?」
「武術のだ。待ったなしの真剣勝負だ」

お師匠様の言葉の意味が私には分からなかった。

真剣勝負な上に待ったなし?
それは命を掛けた戦い?
なんで?

「君が錬金術師としての覚悟を見たい」
「でも…」
「錬金術師は様々な分野で重宝される存在だ。いい意味でも悪い意味でも。欲望のままに練成を続けた場合、世界を滅ぼすのは簡単だ。だから君を育てた僕には責任がある。君に資格がない場合、僕は君を殺してこの街を出る」
「お師匠様…」

お師匠様の言葉に私はこれまでを振り返っていた。

初めてお師匠様に会った時に言われた私の可能性
初めてお師匠様と呼んだときに見せた赤い顔
初めて練成が成功した時に喜んでくれた笑顔
そしてここまで陰ながら支えてくれた姿

今回のこの試験も本当は言い出すのが辛かったはずなのに、それを断ったらもうこの人をお師匠様なんて呼べない。

「大丈夫だよ…だって私は死なないよ。ちゃんと卒業する。お師匠様はこの街から出してあげないから!」
「場所は以前、君達が入った立ち入り禁止区域だ。時間は正午でいいか」
「大丈夫だよ」

お師匠様の言葉を私はしっかりと聞き、今日はお師匠様と別れた。

家に戻った私はすぐに地下のお父さんの本が置いてある場所に戻った。
私がここに来たのは明日の卒業試験のためではなかった。

「どんな錬金術師に…」

多分この答えが出ないと私は真に卒業できたとは言えない気がする。
だからお父さんの本を見ていた。
他の錬金術師がどんな思いでこの道を進んで来たのか見るために。もちろんそんな答えが書いていることはなかった。

「答えは皆の胸の中か…」

私はそのまま床に横になった。
頭の中で答えが見つからない問いかけを繰り返しながら私は瞳を閉じた。

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.27 )
日時: 2014/06/26 14:16
名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)

第11話

「ねえ…何で二人とも付いて来たの…」

お昼近くにキルを迎えに行くために酒場に寄って行ったら待っていたのはシンちゃんとバードさんだった。どうやら昨日の私とお師匠様の会話を盗み聞きしていたみたい。

「一応あなたを死なせてしまうわけにいきませんから…」
「それにこういうのは立会人がいるだろ」

横にいるキルも何か言いたそうに私を見ていた。
多分私を一人で行かせてくれるなんてこの人たちはさせてくれないかな。

「皆ありがとう。でもこれは卒業試験だから皆は絶対見ているだけだよ?」
「努力します」
「というより手を出すような状況にするなよ?」

私達はほぼ時間通りにしていのエリアに到着した。

久しぶりに訪れた水晶に覆われたその空間は幻想的でつい辺りにある水晶に視線が行ってしまいそうになった。
お師匠様は手近な水晶に腰を下ろしていた。
私の姿を確認したみたいで、私は皆に一度合図をしてから一人で進んだ。

「来たよ?お師匠様」
「一人では来なかったみたいだな」

予想されていたのか特に怒る様子もなく、お師匠様は視線をバードさんやシンちゃんに向けた。

「一応心配だからな」
「単純に保護者と見ていただければいいです」

二人の言葉を聞いたことで私の中で僅かに揺らいでいた決心が固まった気がした。

ここまで一緒に暮らして楽しませてくれたカグヤちゃんとサクヤお姉ちゃん
何も知らなくて不安だった私を気遣ってくれた役所の皆
お仕事の時、支え助けてくれたシンちゃんとバードさん
一人でさびしい時もそばにいて助けてくれたキル
錬金術の基本から勉強まで教えてくれたお師匠様

ここまで頑張って来られたのは支えてくれた皆のおかげ。今度は私が皆に答えたい。

私は背中から杖を取り出してからキルに制止の合図を出した。

「皆ありがとう。それと…ごめんね?」

二人が私に何かを言いかけているのが分かった。
それでも私は杖を振るい錬金術を発動させた。
術の発動により道を塞ぐ形で氷の壁を作り、道を塞いだ。氷は透明度が高く厚く張ったはずなのに3人の姿がはっきりと映った。

「空気中の水蒸気を集めて指輪で練成の力を倍増させたか。見事な練成だな」
「私はまだまだ未熟だよ…皆がいなかったらちゃんと決意が出来なかったから」

私に向かって何かを言う3人の姿が見えていたけど氷の壁のせいで声が聞こえることはなかった。
私は笑顔のまま3人に手を振ってから視線をお師匠様に向けた。

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「始めるか?」
「うん!私は覚悟を決めたよ…」

リーネの瞳には到着した時に感じていた揺らぎがなくなっており、僕は安堵したまま静かに槍を練成して構えた。
それに合わせるようにリーネは杖を構え身構えた。
隙だらけのようだが向けられた瞳には、どんな動きも見逃さないと言った感情が感じられ、彼女の成長に内心感じる喜びに戸惑った。

「なら始めるぞ?最終試験だ!」

僕はそのまま槍を構えて動きを止めた。
リーネも杖を構えたまま一切の動きを見逃さないように警戒を続けた。
すぐに飛び込んでくると予想していただけに意外だった。

「まずは手始めだ」

槍に術を掛けることで光り、同時に伸びて高速で先端がリーネに向かっていった。

「お師匠様のその技はもう効かないよ」

リーネは伸びて来た槍に対して横から杖で弾いて槍の攻撃の軌道をずらした。
同時に飛び込んできたリーネの姿を確認した。
その手には杖が握られており、片手で伸ばした槍を持っているために動けないことで反対の手で受け止めた。

「うっ…か…固い…」
「君の腕力で打撃は無理だぞ!」

杖を受け止めたまま、元の長さに戻す途中の槍の柄でリーネを横に薙ぎ払い、まともに攻撃が入ったリーネは最初に作った氷に叩きつけられた。

「もう終わりか?」
「ま…まだまだ…」

手ごたえからそれなりのダメージはあったと思われ、ふらついたまま立ち上がるリーネの姿見えた。

「お師匠様…左手見た方がいいよ…」

リーネの言葉に僕はすぐに軍服の左手の部分を引き裂いた。
左手には手甲を仕込んでいたが縦に大きくひびが入っていた。あの接触の瞬間に錬金術で金属破壊をしたことが分かった。
裏を返せばこれがなかったら腕が使い物にならなくなるところだった。

「非力を錬金術で補った訳か。君の覚悟よくわかった…」
「うん…そうじゃなかったらここまでしないよ…」

息を乱したままリーネは杖を構えた。
すでに迷いを見せないリーネに僕は大きく息を付き、槍を構え直した。

「僕はまだ覚悟が甘かったようだ…。次はないぞ」
「もちろんだよ」

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お師匠様の目つきが変わったのが分かった。
さっきは槍を折るつもりだったけどできなかった。
今ひびが入ったはずの手甲も元に戻っていた。
そのことから武器破壊の勝利は無理なのが分かった。

頭の中で対処方法を考えている間に槍を構えたお師匠様の姿に気づき、縦に振りおろされてきた槍を杖で受け止めた。

「うっ…お…重い…」
「悪いがここまでだな…」

その瞬間槍は命が宿ったように形状を変え杖に巻きついていき、そのまま私の手から引き離されてしまい、意識が一瞬杖に向いたときには腹部に蹴りが入り氷の壁に背中を打った。

「う…うう」

腹部に感じる痛みから意識が飛びそうになるもゆっくり立ち上がり、氷の向こうにいる皆に視線を向けるとそこには氷の壁を砕こうとするバードさんと今にも泣き出しそうな顔をしたシンちゃん、必死に堪える様子のキルが目に付いた。
一度私は皆に向かって小さく手を振った。
自分は大丈夫だと伝えるためにできるだけ笑顔を向けて。

「まだまだ…終わらないよ…」
「杖もなしで戦えるのか?」

金属に絡めとられた杖を地面に落とし、鞭のように形状が変化していた槍は元の形に戻り静かに私に向けられた。

「戦えるよ…だって…私はまだ死んでないから…生きているから」
「そうか。ならここで終わらせるぞ!」

しっかりと向かってくるお師匠様を見てから振り下ろされてくる槍を横にかわし、即座に片手を伸ばし周りの水蒸気を集めて私とお師匠様の間に水の壁を作った。

「くっ…目眩ましか…」

一度後ろに引いたお師匠様に対して私はすぐにお師匠様を囲むように水の壁を広げ、同時に床に転がった杖に向かって走った。
杖を握った時後ろから感じる気配に私はすぐにその場を離れた。
同時に槍が地面を砕く様子を確認できた。

「やられたな…杖がなくてもすっかり戦えるようになったな」
「いつまでも…誰かに頼れないから…」

最初の一撃を受けた時の怪我で息苦しさを感じ、気を抜くと意識が飛びそうになった。
お師匠様は槍を再び構えた。
私も形だけ杖を構えた。
多分次はかわすのも防ぐのも無理みたい。

「もう終わりか?」
「ま…だ…終わらないよ…」

殆ど無意識に答えた私は槍を構えたまま飛び込んでくる様子が見えた。
不思議とその動きはゆっくりとしていた。だけど体は動かすことが出来ず私に振り下ろされていく槍を見つめていた。

この刃を受ければ楽になれるのかな…
終わっていいのかな…

頭によぎる自問自答。
もう終わるのだと考えていた時、思い出したのは昨晩のお師匠様からの言葉だった。

「私が目指す…錬金術師…」

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フランの振り下ろす槍は先と同様に杖で受け止めた。

「うう…」
「さっきと一緒だぞ!」

フランが金属の形状変化をしようとした時、唐突に槍は粉々に砕け散った。

「何!?」

一瞬の動揺から動きが鈍ったところで振られたリーネの杖を手甲で受けて距離を取った。

「武器破壊か…」
「お師匠様は…金属の形状変化の時、一瞬だけど…金属の温度を上げるから…だから逆に槍の温度を…可能な限り下げたんだよ…」
「温度の急な変動で脆くなったというわけだな…」

呼吸を乱したままリーネは話していき再び杖を構え直し同時に視線を下げた。

「お師匠様…私…見つけたよ。私が目指す…目標」
「なら聞かせてもらうか…この戦いが終わってからな」

フランは手甲を外し、それを槍に変えてから構えた。リーネも視線を上げ、小さく息を付いてから身構えた。

Re: ある暗殺者と錬金術師の物語(6/6 本編追加) ( No.28 )
日時: 2014/06/26 14:58
名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)

第12話

「ねえ…バードさん…」
「何だよ…気が散るだろ…」

バードさんは氷を砕くためにバードさんは大剣を使っていた。
厚い氷はしっかりとしたもので多少傷が付くだけで砕けるように見えなかった。
僕の横にいるキルは今にも飛び込もうとはしているようだけど動こうとしなかった。

「もう…待ちましょう…」
「何だよ?諦めるのかよ?」
「これはリーネの試練です…だから…止めるわけにいかない気がします…。それに…」

視線を氷の向こうに向けた時見えたのは槍を振るうフラン、その槍を杖で受け止め反撃を繰り返すリーネの姿で、すでに僕らが立ち入れる領域でないことが分かった。
バードさんの驚いたような表情が視界に映った。同時に辺りが霞んで見えた。

「分かったよ…あいつを信じればいいんだろ?」

大剣を背中に納める様子が見えたけど僕の意識はすでに二人の戦いに視線が向いてしまっていた。

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最後の一撃のつもりで挑んだはずなのにいったいどのくらい時間が経っただろう…。

最初の一撃はお師匠様に避けられて、それから槍の攻撃を杖で受け止めた。
そのままお師匠様は武器を破壊されないように形状を変えずに第二、第三の攻撃を繰り出したけどこの辺りからは正直どうやって避けているか分からなかった。

「はあ…はあ…うっ…」
「どうした?もう終わりか!お前が目指すものは僕程度に潰されるほど弱いのか!」

徐々に疲労から動きが鈍りそうになっていく体と意識を無理矢理に動かして槍、錬金術、そして時折繰り出す体術を回避し続けた。

お師匠様を止める方法は思いつくのは3つ。

その1はお師匠様が言うとおり殺す。これはもちろん伽却下。
その2は武器の破壊。ただ前のゴーレムのように砂とかならできても金属の練成に不慣れな私には一度の練成に時間が掛りすぎる。
さっき使った温度変化も水の力でできたけどお師匠様が槍の形状変化を使わないから使えない。

その3…。

「これしか…ないよね…」

お師匠様の槍を正面から受け止めて視線をお師匠様に向け、そのまま発動させた術は周囲の水分を凍らせること。
それにより私とお師匠様の足元は氷漬けになり、私の手と杖自身、そして杖に触れていた槍を凍らせお互いの身動きを封じた。

「なに!?リーネ!お前は…」
「お師匠様に勝つにはこれくらい無茶しないと…いけないから…」

意識が飛びそうな感覚を堪え身動きを封じたお師匠様に対して、最後の力を振り絞って空気中の水を集め小さなボール状の固まりを作りだした。

「今度こそ…最後…だよ…」

同時に水の固まりから勢いよく水を噴射し、それを腹部に受けたお師匠様は吹き飛んですぐ後ろの壁に叩きつけられた。

「もう…無理…」

薄れゆく意識の中で私やお師匠様の氷、そして進路を塞いだ氷が砕け散った様子が見えた気がした。

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「うっ…うう…」
「気が付きましたか?」

リーネは目を覚ました時、目の前に反転した状態で自分を見下ろすシンの姿が目に入った。
両手は何故か、うまく動かすことが出来ず、体も力が入らず起き上がれなかった。
後頭部に感じる地面とは違う温かさと柔らかさからようやく自分がシンに膝枕をしてもらっていることが分かった。

「シンちゃん…私…」
「両手両足は凍傷、腹部はあばらにはひび。しばらく安静だな」
「お師匠様?」

よく見ると両手には包帯が巻かれており、両足も靴が脱がされて包帯が巻かれていた。
それに対して自分がボロボロなのにも拘らずまったく怪我をしている様子がないフランに驚きながらもすぐ後ろにいるバードとキルはおかしそうに笑っていた。

「よく言うな。お前だって両手両足凍傷で体力も大分使ってフラフラだろ。弟子の前だと大変だな」
「バードさんは黙っていてください」

笑うバードに対して苦笑いするフランを見てシンは小さく一言を発して睨み黙らせた。

「形はどうでも君の勝ちだ…」
「私の?…じゃあ…」
「君は卒業だ。これから君は一人前の錬金術師だ。君の覚悟を確かめるための試験だったが…ここまでやるとはな…」

フランは椅子の代わりになる場所に腰を下ろしバードとキルはその場に座り込んだ。
それぞれ視線をリーネに向けたのはリーネの言葉を聞くためだった。

「そろそろ聞かせてもらうか…リーネがどんな錬金術師になりたいか…聞かせてくれ」
「私…練成したいものがあるの…」
「練成したいもの?よく聞くものとかじゃないだろ?」
「確かに…ここまで無理をしてまで練成したかったものは何ですか?」

横になったままリーネは周りを見回してからにっこりと笑顔を向けた。

「みんなの幸せだよ」
「はっ?」

まったく予測していなかった言葉にバードは呆気に取られ、フランとシンに至っては堪えるようにして笑っていた。
その様子に真面目に答えたつもりだったであろうリーネはきょとんとしていた。

「やはりリーネは面白いですね」
「まったくだ…だがある意味では君らしいな」
「シンちゃんもお師匠様も何なの!?」

体を動かせたら暴れていそうなリーネの様子を3人は笑い、リーネはむくれた様子のまま視線をずらした。

「そういえば卒業したんだからいい加減お師匠様はやめてくれ…。一応一人前だろ」
「でもお師匠様はお師匠様だし…」
「フランも大変だな?普通に名前で呼んでやればいいだろ」
「えっと…フラン?」
「なんだリーネ?」

バードの言葉に改めてフランに視線を向けたリーネは今までとは違う呼び方に緊張したようにして名前を呼びおかしそうに笑いながらフランは答えた。
その様子に安心したのか笑顔のままリーネは眠りに付いた

「さて…問題はここからだぞフラン?」
「そうですね…このリーネの姿を見てカグヤさんが何を言うでしょうね…」

二人の言葉にフランはこの後に起こると思われる悲劇に顔を青ざめ大きなため息を漏らした。

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同時刻、水晶に囲まれた洞窟の中を一人の少女があるいていた。
少女は長髪の銀髪を黒のリボンでツインテールにし、黒のローブと黒衣のマントを身につけおり背中には少女には不似合いな大鎌を背負っていた。
道なりに歩いて行くと広い空間に出て少し離れた位置に目的の人物が座っていたことに気付いた。

「やっと見つけた…一人でサボり…」
「サボりじゃない。少し気になっただけだ…」

黒髪で黒のジャケットとズボンを身に付けた青年はさらに下に見えた広場を見下ろしていた。
少女が視線を向けるとそこには何人かの人影があった。
青年の表情は普段と違い和らいでいてその表情を少女は嫌っていた。
少女の知る青年ではなくなってしまう気がするからだった。

「楽しそう…」
「そうか?いつも通りだぞ…さっさと行くぞ。何かは知らないが任務は終わったんだろR」
「終わった。Kも帰るよ…」

Rの意図が分からないままKは一度下に見えた人影に視線を向けてからRに続いてその場を立ち去った。

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「そろそろ街に着くぞ…」

リーネを背負ったままバードはシンとフラン、キルに話しかけいつものように門番の前を通って行った。

「ひとまずカグヤさんの家に行きましょうか?」
「なら僕は交番に戻る。薬とか多少はあるだろうからな」

フランと一度別れ、カグヤの家に向かう途中でリーネは目を覚まし辺りを見回した。

「目覚めたか?」
「バードさん?ありがとう…」
「そろそろ到着しますよ。カグヤの説教は覚悟しないといけませんね…」

一同はこの後起こるであろう説教を覚悟しながらカグヤの家に入った。
庭には誰もいないことから裏庭で仕事をしていると思われ、裏庭に向かうと予想通りカグヤは銃の手入れをしていた。

「こんにちはカグヤ」
「あら?」

シンの呼びかけに対してのカグヤの反応に一同は違和感を得た。
真っ先に怒鳴られると思っていたがまったく動じている様子がなく作業をしていた手を止めて立ち上がった。

「初めての客よね?何で私のこと知っているわけ?」
「えっ…なんで…?」

カグヤの言葉にリーネは何を言っているのか分からず小さく言葉を零した。

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.29 )
日時: 2014/06/26 16:51
名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)

第13話

「参りましたね…」
「参ったな…」
「おい…君らはこの状況が分からないのか…」

フランの前にいるのはテーブルに並んだ食事をガツガツと食べ続けるバードとシンでその横のベッドにはリーネが眠りキルもベッドのそばで眠っていた。

「とりあえず…この状況を整理しよう…」
「そうですね。整理と言っても殆どまとめられませんが…」
「街の全員が俺達のことを忘れているなんてな」

街に来て真っ先に寄ったカグヤの店では完全に一同のことは忘れられており、役所に状況を確認しに行くと3人は役員として登録さえもされていなかった。
役所から提供された家で過ごしていたシンとバードは行き場を失い仕方なくリーネの家に集まる形になっていた。

「しかしここまで見た限りだと外に出ていた人間のことだけがなくなっている感じがする」
「ということは、たまたま俺らは外にいたからみんなに忘れられたのか?」
「ある意味幸いでしたね。このまま残ったら僕らが気づかないうちに記憶が奪われていました」

シンの言葉は二人に恐ろしい事実を想像させた。

「なあフラン…俺…いやなこと考えたんだが…」
「僕もだ…」
「何か大変なことでもあるの?」

不意に聞こえたリーネの声に一同はベッドに視線を向けた。
リーネはまだ怪我が癒えてないせいか表情を曇らせて体を起こした。

「リーネ?起きて大丈夫ですか?」
「大丈夫…それより…何か分かったの…おし…じゃなくてフラン…」

まだ呼び方を変えたことに慣れていないせいか一度言い間違え掛けながら言い直し、その様子に半分呆れた様子でフランは立ち上がり壁に寄り掛かった。

「僕が考えたのはこの記憶消去が初めてのことなのかどうかだ…」
「つまり僕達が知らない間に何度も記憶の改変が行われている可能性があると?」
「まだ分からない…。だから少し調べる必要があるな…過去や他の町に同じようなことが起こっていないかな」

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うす暗い石造りの通路をKは一人で歩いていた。
表情は険しく、やや早足気味に歩いており目的にしていた場所には何人かが招集されており、中にいたのは見知った少女のR、黒いローブに身を包む人物、黒の長髪に侍の身につける着物や袴に近い衣装を身に付けた青年がいた。

「K…珍しい…こういう集まりはいつも来ないのに…」
「ああ…今回の作戦のことを聞きたくてな…」

Kの表情は険しいままで、普段見ないKの表情がRは嫌いだった。
前にドラゴンと戦っていた時も本来なら簡単に仕留められたのに散々手間取った挙句に生かしたままだったことが彼女にとっては気に入らないことだった。

「メズラシイナ…R。キゲン…ワルイゾ…」
「そんなことない…」

黒いローブに身を包んだ人物はやや聞き取りにくい小さな声を発した。
声色からは性別は分からないが、身長についてはKと殆ど変らない大柄な人物。
Rはそっけなく答え、その様子を見てKは椅子に座り、傍らで見ていた青年はいつものことなのか軽くため息をした。

「RもGも静かに。せっかくKが来たんだからね。」

青年の言葉にRとGと呼ばれる黒のローブの人物は沈黙した。
実力自体は3人とも拮抗していることから本来はそのさらに上の人物が指揮を取るものだが現状ではその人物はいなかった。

「それでK?何か用事かい?」
「別に…お前でなくJに用事があったんだ…」
「NじゃなくてJに用事…?何かあった?」

青年からの問いかけにKはそっけない様子で答え意外だったのかNと呼ばれる青年の代わりにRは疑問をぶつけた。
JはR、G、Nの3人の首領的な存在であり組織の中でも重要なポジションの人物だった。
Kとしては彼を人間的にも好んでおらず滅多なことで話さないことは3人とも知っていたことからRの疑問は当然だった。

「記憶消去と街の人間を一人捕まえたと聞いた。」
「ああ…街の外で見つけたらしい…」

Kの言葉にNは意図が分からず聞いていた報告をそのままK に伝えた。
しかし、RはKの質問の意図が分かった。
今回の記憶消去についてKは全く知らされておらず、さらにそのターゲットになった街は以前Kが僅かの期間の間に暮らしていた街だからだった。

「K…あの町に未練?」
「…捉えた奴は?どこだ…」
「今は地下の牢獄だ。どうするかは明日の会議で決める。」

Nからの言葉を聞きKは立ち上がり黙ったまま部屋を出て行った。

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「やっぱり…この場所の書物は変わっていないよ」
「そうみたいだ。この家については他と違って干渉を受けていないようだな」

私達は、今置かれている状況を調べるために二手に分かれていた。
私とフランはお父さんの地下室で過去に似た様な事を調べ、バードさんとシンちゃんには街に他に変わったことがないかを調べてもらっていた。
シンちゃんについてはついでにカグヤちゃんの家で銃の調整もお願いしてくると言っていた。

「お父さんの日記も…中身が変わっていない…」
「やはりこの家だけは特別なようだな」

フランは本棚にある資料を確認していきながら答えて、周りを確認し始めた。
その中から壁に埋め込まれた鉱石に目を付けたみたいで片手で触れさせていた。
鉱石は鈍く青い光を放っておりこの部屋がある程度明るいのはこの鉱石のおかげだった。

「フラン?えっと…何かあったの?」
「ああ…君の父親は凄いな…この石は魔法の類の結界だ。この石のおかげでこの家は魔法に関する影響を受けないようになっている…」

フランの説明を聞いて私はすぐに辺りを見回して設置されている鉱石に視線を送った。
この石一つ一つが今まで私を守ってくれていたんだという安心感が自然と込みあがってきた。
同時に今の状況の原因に関して一つの答えが出た。

「じゃあ…この急激な変化は魔法のせい?」
「ああ…それもかなり高度なものだ…確か…古代の魔法に人の記憶を結晶化するものがあったはずだ」
「そ…そんな魔法があるの?」
「ああ…だがすでに失われた術な上にその危険性から禁呪とされていたはずだ…。下手をすると自分が都合のいいように世界を変えられるからな」

フランの説明を聞き言葉にできない恐怖を感じた。
もしフランの言うとおりだとしたら下手をすると今の私の記憶も偽りの記憶なのかもしれない。

「おーい?何か分かったか?」
「リーネ?大丈夫ですか?」

不安に押しつぶされそうになった私の意識を逸らしたのは、街の調査に行っていたバードさんの声だった。続くように下りて来たシンちゃんは私の様子に気づいたのか首を傾げて話しかけた。

「うん…大丈夫だよ?えっと…そっちは分かったことあった?」
「ええ…実は行方が分からない人が一人いました。しかもその人に関する記憶もみんなから消されていました。」

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目を覚ました私はゆっくりと体を起こした。
辺りは冷たい印象を持たせる徹底の壁に囲まれていて窓も設置されていなかった。
今まで倒れていた場所はベッドのようでゆっくりと立ち上がった私はいくつか設置されていた扉を確認していった。中にあったのは浴室、お手洗い、衣装部屋とどこかの宿屋を思わせるものだった。

「ここは…」

徐々に頭が覚醒していき状況を整理し始めた。

朝に家に戻ってからカグヤちゃんを連れて帰って、それから街の外に植えていた花の様子を見に行って…それから街の方が光っているのに気付いたら急に意識が遠くなって…

頭の中でここまでのことを考えていると不意に扉をノックする音が聞こえた。
その扉は先ほど開けられなかった扉で私はすぐに後ずさりして扉から離れた。
次に扉が空いた時に私は一瞬言葉を失った。
それは見慣れていた黒髪と赤い瞳を持つ青年でずっと空いたあった人。

「キ…ル…?」
「覚えていたか…お前は魔法を受けなかったんだな…」

キルの言葉が私には分からなかった。
辺りを見回してから扉を閉めた。
私は一歩も動けずただキルの様子を見ているしかできなかった。

「これでここでの会話は誰にも聞こえない…」
「キル…あの…」
「ここでは俺はKだ…」

たくさん話したいことがあった…でも何を話したらいいか分からなかった。

「久しぶりだなと再会を喜べない状況だ…」
「えっ?」
「今から話すことは今の状況と今後のお前の行動だ…。一つでも間違えたら俺もお前も最後だ…」

キルの言葉に私は小さく頷いた。今置かれているこの状況で信じることが出来るのは彼だけだから。

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.30 )
日時: 2014/06/26 17:05
名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)

第14話

Kはサクヤとの会話を終えてから部屋を出て扉に鍵を掛けた。
久しぶりの再会とはいえ緊張をしていた自分にKは戸惑った。
そして今から自分がやろうとしていることに関しても今までなら考えなかったことだった。

「K…」

不意に掛けられた声にKは我に返りすぐ横にいたRの存在に内心驚いた。
組織の中でもRは気を許している人物ではあるもののここまで無警戒に近づかせることは今までなかった。

「Rか…どうした…」
「あなたに任務を伝えに来た…他の皆…もう出かけたから…」
「そうか…なら…歩きながら聞くぞ」

Rはいつもと違って気が緩んでいるようにしか見えないKに苛立っているようで、普段に比べて言葉に棘があるように感じたRにKも小さく息を吐きその場を立ち去りながら聞こうとした。

「ここで聞いて…私は…ここに用事がある…」
「用事?なんかの任務か?」
「…ここの女を狩る…」

Rが指を扉に向けて当たり前のことを話すように言葉を発してKは予測していたこととはいえ、そのあまりに速い決定に動揺を隠せなかった。

「どういうことだ…」
「あの女…危険…KをKじゃなくする…」
「それがあいつの決定か…」
「首領関係ない…。私の…独断…」

Rは普段から勘が鋭く、今までもKがRを出し抜くことはできずにいた。
今回もKの考えを見抜き先手を打ってきたのだとすぐに判断できた。

「そうなると…俺がすることは…」
「裏切り…?私が…それを許すと思う?」
「裏切り者には死。よく聞く話だが理に叶っているよな?組織の秘密は守れ、余計な敵も作らないからな」

Rの言葉にKは微笑を浮かべ話していき、その赤い瞳は柔らかく鋭さがなくなっておりRの嫌いなものになっていた。

「裏切り者の処刑…K…残念ね…」
「やる気か?おもしれえ…」

Rは背中から大鎌を下ろし、Kも腰から銃を引き抜き同時に二人の姿はその場から見えなくなった。

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キルが部屋を出てから私は今の状況を整理した。

ここはキルの所属する組織であること。
私の街に対して大掛かりな魔法を掛けられてしまったこと。
その魔法を解くために必要なものがあること。
教えてくれたのはその3つだけだった。

「私がやらなくちゃだめなこと…」

キルに言われていたことは自分が戻るまでの間に誰にも見つからないようにしておくこと。
そして成るべく動かないで体力を温存しておくようにすること。

「つまり…布団の中で隠れながら眠っていれば…いいかな…」

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「ずいぶん腕を上げたな…」
「Kは弱くなった…戦いの時…そんな風に緩んでなかった…」

銃に弾を込めながら俺はRと対峙していた。
狭い廊下を抜けた先にある広間で交戦をしたが以前組み手をした時に比べて実力は格段に上がっていた。
銃弾を納めると同時にRの動きを確認するためにそのまま銃弾を撃ち込んだ。
銃弾はまっすぐRに向かって飛んでいきそのまま二つに切り裂かれた。同時に銃弾を切り裂いた大鎌を片手で持ちかえた。
本来、常人なら持ち上げることさえも難しい巨大鎌を重力が感じられないように片手で軽々と持ち上げた。

「相変わらずの腕力だな…その細い手でよくやる」
「しゃべりすぎ…貴方はもう…Kじゃない…」

普段は無表情にしか見えないRの表情には怒りや苛立ちの感情が見えた。
Rは大鎌を両手で持ち構えるとそのまま飛びこんで来た。
鎌で防ぐことが出来ないこの瞬間に俺はすぐに2発の銃弾を発砲したが再び銃弾が切り裂かれた。
Rにとって大鎌は小回りが利いた武器で、片手で高速回転させた大鎌はどこかの国にあった削岩機と相違なく、すぐに俺の横に移動したRはそのまま地面を削りながら回転した鎌を振るって来た。

「くっ!」

俺はすぐに後ろに跳躍して鎌を避け、すぐに延ばされたRの手を銃で弾き距離を取った。
Rは大鎌のあまりに強い印象から目立たないが、その大鎌を片手で振るう腕力はもはや人のものではなく、今俺を掴み損ねた手は床の一部を掴み砕いた。
近接戦闘に関しては俺が知る限りRが最強だ。

「俺がKじゃないか…」
「Kはもっと寡黙…。私に遅れなんか取らない…殺しに躊躇はない…」
「躊躇か…」

Rの言葉に対して俺が一番聞いたのは最後の台詞だった。
まったくその気がなかったはずなのにどこかにあった人を殺すことに対する躊躇。
そしてまったく俺を殺すことに躊躇がなかったR。
それが今の俺とRの差で追い詰められている結果。

「やっぱり駄目だな…今まで通りだと勝てないな」
「弱くなったK…もういらない…」

大鎌を構えたRはそのまま鎌を振り下ろし、その鎌は躊躇なく俺に振り下ろされていった。
その瞬間俺の目に映る世界から色素が消え、白黒の世界が広がった。

------------------------------------------------

突如Kの瞳は赤から青に変わり、Rの振り下ろした鎌を横に避けて同時に銃の先がRの額に当てられた。
その動作を予測していたRはKの銃を持つ手を掴んだ。

「捕まえた…」

このまま腕を握りつぶして怯んだところを大鎌で両断すれば終わると思考したRは突然横から受けた衝撃をまともに受けた。

「うっ!くっ…」

衝撃でKから引き離されたRは衝撃を受けた脇を抑えて態勢を立て直した。
その直後3発の銃声を聞きとりすぐに銃弾を叩き落そうと身構えたがその銃弾は正面からではなくまったく予測していなかった左右や下からRの両足と鎌を持つ腕を打ち抜いた。

「な…なんで…」
「何もただ撃つだけが銃じゃないぞ?」
「まさか…兆弾…?」
「一応この銃とずっといたからな」

両足を撃たれたRはその場にしゃがみ込みKを見上げた。
Kの瞳はいつもの赤いものに変わっており銃弾に弾丸を込めていた。Rは体の痛みを耐えながら立ち上がり身に着けていたマントを床に落とした。

「裏切りは…許さない…」
「R…お前も外を見たらどうだ?」
「外…何…言って…」
「お前はまだ変われると思っただけだ…他の奴らよりよっぽどな…」
「…あなたに…あなたに…」

Rは目の前にいる標的を見据えて鎌を構え直し飛び込んだ。

「あなたに!私の何が分かるの!」

その表情はこれまでKにさえも見せたことがない感情が入り混じった表情であり今までで一番人間らしい表情をしていた。

「俺には分からないが…それが分かるのはお前自身だろ!」

振り下ろされた鎌は地面に突き刺さり床には大きく亀裂が入った。
同時にRの視線には左に鎌を避けたKの蹴りが自分に当たりその衝撃で鎌を手放してしまい、次の瞬間には柱に体を叩きつけられそのまま柱に寄りかかり倒れていた。

「う…とどめを…」
「悪いな…もう俺は人を殺すつもりはない…」

同時にKは銃弾を発砲した。
銃弾は相手を眠らせるもので弱り切った状態のRには効果があったことからそのまま眠りに着いた。

「時間が予定より掛ってしまったな…急がないとな…」

Kは銃を納めてから目的の物を探すためにすぐにその場を離れた。

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キルがここを出てどれくらいの時間が経ったのだろう…。
いつの間にか眠ってしまっていた私は辺りを見回すが時間を確認するものはなくベッドに座ったまま私はキルが戻るのを待った。

「待たせたな…」
「キル?」

扉が開いたと同時に部屋に入ってきたのはキルだった。片手には小さな赤い宝石だった。

「キル…それは?」
「これがここ最近にあの町で奪われた記憶の結晶だ」
「記憶の結晶?」
「あの町の人間は一部の記憶を奪い取られてその記憶が結晶化したものがこれだ」

キルの持つ宝石に街の皆の記憶が収まっていることを理解した私はキルがここまで何をしに行ったのかようやく理解できた。

「ただ…こいつを結晶化するのが魔道士だが戻せるのは錬金術師だけだ」
「錬金術師?それだったら…いるよ?」
「リーネか?」
「リーネちゃんならきっとできるよ?」
「あいつに頼むしかないか…ひとまずここから脱出だ。いくぞサクヤ」
「はい!」

ようやく呼んでくれた名前に私はこんな状況なのに嬉しかった。


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