複雑・ファジー小説

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ある暗殺者と錬金術師の物語(更新一時停止・感想募集中)
日時: 2015/02/18 00:42
名前: 鮭 (ID: Y9aigq0B)

魔法、科学等様々な分野で発展する世界。広い世界には様々な国がありそれがいくつあるか、どんな国があるのか、どれだけの分野の学問があるのかそれらを知る者は誰もいなかった。


一般的な人間は他の国に興味を持たず、その日その日を普通に生活するものだった。例外はもちろんいた。一般的に知られているのは旅人。世界を回り生活をする人間。そういった人間はその国にはない文化を伝える場合もあり、国の発展に貢献することがある。 

しかし一般には知られない人間もいる。それが隠密行動を行う者。情報収集などを中心としたスパイ、人の命を密かに奪う暗殺者等が当たる。

そのいくつもある国の中の一つから物語は始まる

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初めまして。今回ここで小説を書かせてもらおうと思います鮭といいます。

更新は不定期ですが遅くても一週間に1話と考えています。人物紹介等は登場する度に行っていきます。実際の執筆自体は初めてということがあり至らない点はあると思いますがよろしくお願いします。

・更新履歴

 11/3 3部21話追加
 11/7 3部22話追加
 11/14 3部23話追加
 11/22 3部24話追加
 12/3 3部25話追加
 12/10 3部26話追加
 12/17 3部27話追加
 12/20 3部28話追加
 12/26 3部29話追加
 12/30 3部30話追加
 12/31 人物詳細2追加
 1/4  3部31話追加
 1/7  3部32話追加
 1/10 3部33話追加
 1/14 3部34話追加
 1/18 3部35話追加
 1/23 3部36話追加
 1/25 人物詳細3追加
 1/31 3部37話追加
 2/4 3部38話追加
 2/10 番外編追加
2/18 番外編追加 更新一時停止


・本編

 第1部
 人物紹介
 キル リーネ サクヤ カグヤ ジン>>5

 第1話>>1 第2話>>2 第3話>>3 第4話>>4 第5話>>6
 第6話>>7 第7話>>8 第8話>>9 第9話>>10 第10話>>11
 第11話>>12 第12話>>13 第13話>>14

 第2部 
 人物紹介
 リーネ フラン シン バード リンク フィオナ カグヤ>>16

 第1話>>15 第2話>>17 第3話>>18 第4話>>19 第5話>>20
 第6話>>21 第7話>>22 第8話>>23 第9話>>24 第10話>>26
 第11話>>27 第12話>>28 第13話>>29 第14話>>30 第15話>>31
 第16話>>32 第17話>>33 第18話>>34

 第3部(後々鬱、キャラ死亡等含むため閲覧注意)
 人物データ1>>36
 人物データ2>>46

 第0話>>37
 第1話>>38 第2話>>39 第3話>>40 第4話>>41 第5話>>42
 第6話>>43 第7話>>44 第8話>>45 第9話>>47 第10話>>48
 第11話>>49 第12話>>50 第13話>>51 第14話>>52 第15話>>53
 第16話>>54 第17話>>55 第18話>>56 第19話>>57 第20話>>58
 第21話>>59 第22話>>60 第23話>>61 第24話>>62 第25話>>63
 第26話>>64 第27話>>65 第28話>>66 第29話>>67 第30話>>68
 第31話>>70 第32話>>71 第33話>>72 第34話>>73 第35話>>74
 第36話>>75 第37話>>77 第38話>>78

 人物・用語詳細1(ネタバレ含)>>25
 人物詳細2(ネタバレ含)フィオナ リオン レミ>>69
 人物詳細3(ネタバレ含)ジン N マナ(I) シン バード>>76

・筆休め・気分転換
 番外編

 白騎士編 
 >>79 >>80

 2部終了に伴うあとがきの様なもの>>35

 軌跡
 7/18 参照400突破
 10/14 参照600突破
 12/7 参照700突破
 1/28 参照800突破

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.11 )
日時: 2014/06/24 21:49
名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)

第10話

「ごちそうさま!」

リーネは昼食のチャーハンを食べ終えて大きな声で食事の終了を大きな声で宣言し、食器を流しに置いた。

「確か今日はキルが当番だよね?」
「ああ。そういえばカグヤと変わったな」 

先日カグヤと皿洗いの当番を変わったことを思い出したキルは面倒そうにため息をした。

「それで…あんたはいつまでいるのよ?」
「ん?」

カグヤの睨みの対象になったのは何事もないようにチャーハンを食べるジンだった。
カグヤと組み手をしてから3日になるがジンはそのまま居座り続けていた。

「あはは。ここがあまりに居心地がいいからつい居座ったよ」
「もうカグヤちゃんったら。好きなだけいていいからね?」

サクヤがにっこりとしたまま話をする中、リーネが部屋を出ようとしている様子に気づいたカグヤは普段と違うリーネに首を傾げた。

「リーネ?あんたまたお昼寝?」
「違うよ!えっと…ちょっと用事があるの!夕食までには戻るから!」

カグヤの言葉に答え、リーネはそそくさと部屋を出ていってしまった。

「夕食には来るのかよ…」
「あら?リーネちゃんが来ないと夕ご飯は食べられないわよ?」

キルの呆れた様な呟きに対しサクヤはにこやかに夕食に影響のある言葉を発して、すぐさま慌てるキルに3人は笑っていた。

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家に帰った私はすぐに地下室に向かった。

この部屋を私が見つけたのはちょうど数日前。夕食のために出かけようとして廊下で転んでしまい、その時に床が抜けて偶然見つけた地下室。

梯子を下りて行くと中は石造りで、広さは6畳ほどの部屋になっていた。私がここに優先してくるようになったのは本棚に置いてあった一冊の本だった。

(お父さん…ここでいつも勉強していたんだ…)

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「そういえばリーネは一人暮らしみたいだけど家族とかいないのか?」

昼食を終えてジンは早々にいなくなったリーネについて椅子に座ったまま、事情を知っていると見られるサクヤに問いかけた。

忘れていたが実際、俺は身寄りがないからという名目で食事の世話になっていることを考えれば、リーネも同じ境遇だと予測はできる。

「えっと…リーネちゃんの家族はリーネちゃんが小さいころに亡くなっちゃったの。でもお父さんはすごく有名な錬金術師だって話は聞いていたことあるなぁ…」
「ん?もしかしてそれってクロム・アニミスって錬金術師か?」

話を聞いているうちに俺は以前にとある人物から聞いた名前を思い出した。

「あら?まさかキルがそういうことに詳しいと思わなかったわね」

カグヤの意外そうな口ぶりに思わず苦笑いをしてしまった。
こいつの中で俺はどんな扱いになっているんだ…。

「一時期は錬金術師としては五本の指に入るとか言われていたからな。」
「そんなすごい人なのに亡くなったのか?」

ジンの言葉を聞き、カグヤは小さなため息を漏らしてから椅子に寄り掛り天井にゆっくりと視線を向けた。

「リーネの家族はね。普通に死んだわけじゃないの…」
「カグヤちゃんだめよ!」

カグヤの言葉に対してサクヤは制止を掛けた。
サクヤが大きい声で制止を掛けることはそうはないことからよほどのことがあったと考えられた。

「サクヤ姉ちゃんがそんな声出すなんて余程だな…」
「何があった?あいつの家族に…」

ジンの言葉もあり俺も気になった。
興味本位に聞いたわけではなかった。遠い記憶にあるやり取りを思い出したからだ。

「リーネの家族は殺されたの。しかも二人とも体から魔力が残らずなくなっていたらしいわ」

説明をしたのはカグヤだった。サクヤは俯いたまま黙っていた。

「魔力って所謂体力とかそういうものじゃないのか?」
「それ以前に物質を構成するためのものでしょ?だから遺体は触った瞬間に砂みたいになったわ…」

カグヤは説明をしていく中、体を震わせていた。

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私はお父さんが残してくれていた本を読んで少しずつ確実に頭に入れていった。

錬金術は何もないところから物を生み出すものではない。
材料の構成を作り替え別の物を生み出す力であること
その力を使えるのは素養があるものであること
体の魔力を自在に操れる、具体的に魔力を一時的になくすことで行える術であること。

(前にフランって人が見せたのは何だったんだろう)

考えを巡らせたが今の私には分からなかった。ふと本の間から一枚のメモが落ち、拾ったメモに視線を向け書かれていた内容に視線を向けた。

「えっ?」

メモに書かれていた内容に私は思わず声をあげてしまった。
そこに書かれていたのは私の名前とある文章、図面だった。

「う…うそ…じゃあ…私が魔法を使えないのって…」

無意識に錬金術でメモを燃やして投げ捨てた。
錬金術で空気中の酸素に刺激を与えメモを燃やしたんだと理解した頃には私は家を飛び出していた。

「あら?リーネちゃん?」

サクヤお姉ちゃんの声が聞こえた気がした。
でも私は走った。
今走るのをやめたらどうにかなりそうだったから…。

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「あっ!お姉ちゃん。どうかしたの?」
「カグヤちゃん?えっと…いまリーネちゃんが街の外に向かって走っていったから…」

庭で商品となる花の手入れをしながらサクヤはカグヤに今あったことを説明していった。

「えっ?ちょっとそれまずいわよ!今外に魔物が出ているらしいから気をつけるようにって回覧が来たから注意しに来たのに…」
「えっ?大変!早く呼び戻さないと!」

サクヤはリーネが走って行った方向に視線を向け、呼び戻そうとするがすでに姿は見えなかった。
同時に飛び出したカグヤはローラーブレードで街の外に走って行った。

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.12 )
日時: 2014/06/24 18:08
名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)

第11話

私は街を出て森の中に入った。
無意識のままに走り続け、不意に木の根に引っかかって視界が一瞬暗転した。

「いたた…」

ゆっくりと体を反転させて、仰向けになった私の目の前には、森の木々とその間からは青空が見えていた。肌に感じるのは今の時期的にやや肌寒い風。

(私…何をしているのかな…)

頭の中が真っ白になり勢いで飛び出してしまった。
そういえば途中でサクヤお姉ちゃんに声を掛けられた気がした。

(帰ろうかな…でも…)

頭の中で葛藤している時、不意に獣の鳴き声が耳に入った。
大型の魔物ではなく小さな獣の声だった。

「誰?誰かいるの?」

ガサガサと茂みが揺れる中、緊張しながら少しずつ距離を置いて正体を伺う。
ジッと茂みの中から現れたのは、あちこちに怪我をした蒼い毛並みのウルフだった。大きさは子犬と変わらないから多分、子どもだと思う。

「ボロボロ…大丈夫?おいで…」

フラフラとした足取りでありながらも私に対して威嚇するように小さな唸り声を上げ震えている。

「大丈夫…私は何もしないよ…」

ゆっくりと私は小さいウルフに歩み寄った。
その瞬間、今まで聞いたことがないような鳴き声が辺りに響いた。
その声に驚いた様子のウルフもビクッとして体を震わせている。
今度は恐怖の表情のように感じた。
大きな木々をなぎ倒して近づいてくる足音に、私自身も体が震えたから。

「グリズリー?」

真っ先に姿を見せたのは私よりも大きい熊の魔物だった。ぞろぞろと現れた魔物に後ずさりし、何匹もいる魔物の内何匹かはウルフを狙っているようだった。

「あっ!だめ!」

ウルフを狙おうとする様子を見た私は、咄嗟にウルフを抱き走りだした。

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リーネはウルフを抱いたまま魔物たちから逃げ続けた。本来魔物はここまで町の近くまで来ることもなく、さらに集団で群れをなすのは一部だけだった。

「何で…急に…それに…」

リーネが気にしていたのはもう一つの要因だった。木々をなぎ倒していたのは明らかに今見たグリズリーよりも巨大だった。
しかしこの周辺で一番大きい魔物は今見たグリズリーであった。

走りながら思考を巡らせ続ける中、新しく現れた魔物に足を止めた。
現れたのは黒いウルフの集団だった。その瞬間、抱いていたウルフがビクリとした。
ウルフ達の様子からリーネは状況を理解した。

「もしかして…君…皆に苛められたの?」

この周辺にいるウルフの魔物は黒いものが普通であり、蒼い毛並みの魔物は本来存在しなかった。
そのことから同族から虐げられたと思われた。

(この子は絶対…守らないと…)

リーネはウルフをしっかりと抱きしめて逃げようとするが、すっかり辺りは魔物達に囲まれてしまっていた。
リーネが辺りに神経を巡らせている間にウルフの一匹が飛びかかってきた。
それに気付くのが遅れて反応出来ずにいた瞬間、黒い影が目の前を通り抜け同時にウルフは地面に叩きつけられた。

「この!バカ!!心配したでしょ!」
「カグヤ…ちゃん…」

驚いて座り込んだ状態のリーネを見降ろすのはカグヤ。今までに見せたことがない程の怒りの表情を浮かべていた。

「あんたに対する説教は後!とりあえず…まずはここから逃げないとね。」

周りにいる魔物は2種類。狼と熊がそれぞれ5,6体ずつ集まっていた。

「やっぱり危ないよ。早く逃げないと」
「問題ないわよ。そ・れ・と・も!私がやられると思っているわけ?」

リーネの視線には顔を近づけて問いかけるカグヤとその後ろから熊の魔物が爪を煌かせて迫る姿だった。

「カグヤちゃん!」
「うるさいわね!どいつもこいつも!」

すぐに魔物に視線を向け、振り下ろされる腕をローラーブレードに魔力を込めたまま蹴りあげ、怯んだ所に拳を入れ魔物は重力を感じさせないように吹き飛び木に叩きつけられた。
それと共に腰からサブマシンガンを取り出しウルフの集団に乱射して牽制した。

「それにしても何でこんなに出てきているのよ!」

次々と迫る魔物たちに対して、細い手足からは信じられないほどの攻撃で次々と魔物をなぎ倒していき、最後の一匹に対して横蹴りで倒し軽く息を整えた。

「カグヤちゃん…。私…」
「何よ?言い訳?一応聞いてあげるわよ」

座ったままのリーネはウルフを抱きしめたまま瞳に涙を溜めており、さすがのカグヤもリーネの前にしゃがむ。

「私ね…お父さんとお母さんの本当の子供じゃないの…。それどころか…」
「何よ?遺伝子操作でもされていたとか?」
「えっ?」

カグヤは立ち上がり、腰に手を当ててため息を見せつけるようにしてからポンとリーネの頭に手を乗せた。

「あんた…まさかそんなことで私達があんたを嫌いになるとか思ったんじゃないわよね?」
「で…でも…私…」

今にも泣きだしそうなリーネにカグヤは肩に手を当てて視線を重ねる。

「あんたが何であろうといいわよ。…その…あんたが何であろうと私の友達なのよ!分かった!」
「カグヤちゃん…」

涙を流すリーネにカグヤは視線を外して頬を掻き赤くなる中、不意に地響きが辺りに響いた。

「えっ?今の奴らだけじゃないわけ!?」
「うん…なんかすごく大きいのがいそう…」

同時にリーネに抱かれたウルフは地面に下り一点を見つめている。
その先からは7〜8メートルはある黒い巨体に背中には翼、いかなるものも砕くことが出来そうな牙を持つ爬虫類が姿を現した。。

「えっと…リーネ?私の勘違いかしら?私にはドラゴンに見えるけど?」
「うん…私にもドラゴンに見えるよ…」

足が竦んでしまいそうなほどの怒号が辺りに響き渡り、ウルフとともにカグヤとリーネも身動きが取れなくなった。

「何でドラゴンがこんな場所にいるのよ…。この辺にこんな魔物いなかったじゃない…」

すでに魔物の処理のせいでサブマシンガンが弾切れの上に移動のために魔力を大幅に使い、残りの魔力も魔物との戦闘により完全に尽きたカグヤ、戦闘能力が皆無のリーネのみでは到底倒せそうにない相手だった。

「ちょっとまずいわね…」
「カグヤちゃん!早く逃げて」

リーネの言葉と同時か少し遅れてドラゴンは火炎のブレスを吐き、その炎で二人と一匹が焼かれそうとしていた。その瞬間、目の前で突風が吹き炎を消し去った。

「えっ?今の…何?カグヤちゃん?」
「違うわよ。魔法?でも魔力なんて感じなかった。」

二人が困惑している間にさらにドラゴンが何かの衝撃を頭に受けて後ずさりする。

「何だ?この辺りはドラゴンが出るのか?」

背後からの声に驚き、振り向く二人にはすでに見知った人物が立っていた。

「キル?今のあんたがやった訳!?」
「話は後だ。それで…こいつはどうした方がいい?」

銃を片手に持ったキルは、怯みながらもドラゴンの敵意を自分に向けさせた。
銃を持ったまま見せる冷徹ささえ見える笑みにカグヤは一瞬恐怖を感じた。
今までに見たことのないその表情は普段とは全く違っていた。その様子に気づきながらもリーネは視線をキルに向けた。

「キル…」
「何だ?」
「あの子は倒さないで…多分訳があってここにいるから…だから…」

リーネに一度視線を向けるキルはドラゴンに視線を戻してから大きく深呼吸し、そのまま今度はいつものような笑みを浮かべた。

「つまり…こいつの命を奪わずに戦闘不能にするんだな。なかなか難しいな」
「キルならできるでしょ?お願い。」
「…分かった。この依頼の報酬は高いからな?」

ドラゴンを前にしたキルの表情には恐怖がまったく感じられなかった。
むしろ先ほどと違い、楽しげな表情を浮かべていた。それがドラゴンを目の前にしたリーネとカグヤに安心感を与えた。

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.13 )
日時: 2014/06/24 22:49
名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)

第12話

本日のターゲット。

ああ…問題ない。

K…詰まらなそうね。

ああ…つまらないな…簡単で気分も悪い…

そんなの変…任務にそんな感情いらない。

俺はそう考えるのは無理だ…。いずれ俺もRと同じになるだろ。

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目の前にいるドラゴンは7〜8メートルはある巨体、後ろにはカグヤとリーネ。
状況的にも俺にとって不利以外のなにものでもなかった。

「とりあえずこの状況は良くないよな。」

小さく呟き、同時に跳躍してドラゴンの顔の前で握り拳を作り、そのまま横に殴り巨体を倒した。

「ちょっとあんた!今…」
「ん?ああ…お前の技とは違う。ただの素手だ。」

カグヤの言いたいことを何となく察し簡単に答えた。

ドラゴンは怒号を上げながら立ち上がったが、その隙に銃弾を3発腹部に発砲した。
しかし衝撃で後ずさりするが、傷自体はまったく受けていなかった。

「こいつは思ったより頑丈だな」

ドラゴンはそのまま大きな爪を振り下ろし、それを横に避けつつ銃弾を3発反対の腕に打ち込み、連続攻撃を妨害しながら距離を取った。

「ちょっと!大丈夫なわけ?」
「まあな。とりあえず単純な攻撃では無理だな」

銃弾、打撃共に殆ど効果がない様子の魔物を前にしているにも関わらず、俺は不思議と恐怖はなかった。

今まで同様に命を奪うあるいはその手前にするのは簡単。
正直ターゲットを無事なまま動きを止めるというのは初めてで、任務としてはある意味最も困難だった。
それでも今までのような気分の悪さはなかった。

「さて…そろそろ任務を遂行するか」

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「変わった…」
「えっ?」

リーネの呟きにカグヤは振り向いた。
近くにいたウルフもリーネの近くで落ち着いた様子で寄り添っていた。

「変わったって?」
「キルの目の色…それに…何か…今までと違う。」 

目を凝らしてキルに視線を向け、カグヤもようやく異変に気付いた

「目が…青になっている?」

キルは銃のシリンダーを開き銃弾を込める。
すでにその瞳は何かを見通しているようにさえ見えた。
弾を込め終えたキルはドラゴンに対して銃を構える。

「あいつ!何をする気!?それじゃあさっきと…」

カグヤが言葉を発する途中でキルは銃弾を4発ドラゴンの両手両足に一発ずつ発砲し、その衝撃で一瞬怯んだところでそのまま銃弾を2発発砲した。

「外れた?」
「えっ?外れたわけ?」

銃弾がドラゴンの顔の横をギリギリ走る形で外れていく弾道を確認したリーネの言葉に、カグヤは視線をドラゴンに向ける。
その瞬間ドラゴンは地響きをたて倒れた。

「ターゲット・バインド」

銃を納めるキルに対してリーネはドラゴンにすぐに歩み寄った。

「この子…死んじゃったの?」
「一時的な硬直だ。人間で言う軽い脳震盪だ。」

ドラゴン自体は意識があるようだが身動きが取れないようだった。

「あんた…さっき銃弾外れていたの?」
「ああ。正確には外したんだ。銃弾が頭をかすめることでその時の衝撃で脳を刺激させるって奴だ。」
「でも相手はドラゴンよ?それに銃弾の衝撃って…人間ならまだしも!」

カグヤの問いかけに対してキルは2種類の弾丸を取りだした。
一つは一般的な銃弾に対し、もう一つは緑の銃弾だった。

「こっちの緑色の弾は魔法弾だ。属性は風。衝撃波を撃てる弾丸だ。後は同じ生き物だからどこに撃つと効果的なのかは簡単だ」

キルの赤い瞳がドラゴンに向けられ、生きていることが分かったリーネは安心したように座り込んだ。

「さっさと戻るぞ。もう少しでこいつ動けるようになるぞ。」

キルは銃を納めてカグヤとリーネもその場を去ろうとした時、リーネの隣にいたウルフが倒れた。

「キル!この子怪我している」
「緊張が解けたのか。しかし初めて見る種類だな。突然変異か?」

倒れたウルフを見たキルは今まで見たことがない魔物を見てジッと体を確認していった。

「キル?あんた分かるの?」
「基本的な生物は全部同じだからな。こいつ…怪我しているな…骨か…」

キルはウルフに視線を向けていき異変に気付いた。
緊張は解けたことにより痛みから倒れたと考えられた。

「早くこの子を病院に!」
「無理よ…魔物を見てくれる病院なんかないわよ」

街には動物病院自体はあるものの魔物の面倒を見てくれるような病院は当然なかった。

「…じゃあ…私が…」
「リーネ?あんた…魔法なんて全然使えないじゃない」
「魔法は使わないよ…」

リーネはジッとウルフに視線を向け、そっと手を怪我していると思われる箇所に触れさせた。

「リーネ?あんた何を…」
「リーネにまかせてやれ」

瞳を閉じて集中をしているような様子のリーネに対して声を掛けようとする様子のカグヤをキルは制止した。

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私はウルフから感じる体温、肌の感触だけを感じとるために瞳を閉じて集中した。

(この子を助けるには…今は…)

私はこの何日かだけ読んだ本を思い出していた。様々な専門書の中にあった魔物に関する内容を頭に描く。

(魔物の骨格は頭に入っている…直すための材料になる骨もこの子の中にある…)

頭に練成の内容を浮かべ、幸い材料も揃っている。後は私が出来るかという点だけだった。

意識をさらに集中させていき、本に書いてあった術を発動させた。その瞬間倒れたウルフが光に包まれ始めた。

「光?」
「錬金術だな…」

二人の声が聞こえる中、頭の中で少しずつウルフの骨が再生していくイメージをしていった。
生物練成は本来、禁忌で初心者の私には無謀なのは分かっていた。

(でも…この子を…私は助けたいから…)

光が徐々に収まり、さっきまで苦しんでいた様子のウルフの呼吸が落ち着いて来たように見えた。
ボロボロの体が見た目では回復できているようで私はキルに視線を向けた。

「キル…大丈夫かな?」
「…心音は安定している…骨格もおかしくない…頑張ったな。」

キルの言葉を聞いて成功したことが分かった。同時に意識がそのまま暗転した。

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「リーネ!」
「大丈夫だ…いきなりのこんな練成で疲れたんだな。」

リーネとウルフは落ち着いたような様子で眠っていた。俺は一度倒れたままのドラゴンに視線を向けた。

「カグヤ。少し調べたいことがあるから先に帰っていてくれ。リーネが助けたこいつも連れて行ってやれよ。後で泣かれると困るからよ」
「まあ別にいいけど…重いからさっさと来なさいよ」

カグヤはリーネを背中におぶりウルフを抱き上げて街へと戻って行った。
カグヤ達の姿が見えなくなってから、いつまでも倒れているドラゴンに再び視線を向けて辺りを見回した。

「いいかげん出てこいよ」

森の茂みに視線を向け、茂みから現れたのは10代前半くらいの少女。
長髪の銀髪を黒のリボンでツインテールにし黒のローブで膝丈までの長さのスカートと一対になっている。ローブの上には肩パット付きの黒衣のマントを身につけている。そして背中には少女よりもはるかに大きい大鎌を背負っていた。

「K…久しぶり…」
「Rか…何の用だ?」
「この子の回収。それとあなたへの呼び出しの伝言」

Rは俺の所属している組織の中で上位ランクに位置する存在で、実力も5本の指に入る。
Rが背中の鎌を片手に持ち倒れているドラゴンを軽く叩き、ゆっくりと起き上がるドラゴンに跨った。

俺は目の能力が特化しているのに対しRが特化しているのは腕力。
その気になれば、今跨っているドラゴンも片手で運べる。また生き物と会話もでき、ドラゴンとともに戦闘をこなす。ある国では竜騎士とも呼ばれている。

「お前のドラゴンだったのか。ずいぶん凄いのを見つけたな。」
「…あなた…本当にK?普段のあなたならこの子くらい簡単に止められるはず…。とりあえず明日…集合。用件は伝えた…」

俺の言葉に対して、Rは全く表情を変えずに一度俺に視線を向けてから用件だけ伝えて背中に鎌を戻し、そのまま飛び去って行った。

「明日か…いよいよこことも別れの時だな…」

いつの間にか当たり前のようになっていた日常を思い出しながら、俺はいつもよりも赤く見える夕焼けを眺め続けた。

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.14 )
日時: 2014/06/25 00:51
名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)

13話

「それにしても良かった。やっぱりキルに外を頼んで正解だったわね」

家に帰ってきたキルを迎えながら私は話しかけた。
心なしかキルはいつもより…というより初めて会った時に戻ってしまったように見えた。

「ああ…ジンは?」
「街を探してくると言って出て行ったからそろそろ帰ってくると思うわ」
「そうか…リーネとカグヤは?」
「えっ?カグヤちゃんならリーネちゃんを家に送って行ったわ。心配だから泊まるらしいけど」

キルに先に帰って来た二人の話をしていると、街を探していたジン君が帰って来た。

「おっ!キルがいるってことは見つかったのか?」
「まあな。むしろ街中を探しまわったお前の方が大変だっただろ。」

帰って来たジン君との話を聞きながら、私は夕食の用意を始めようとした。

「じゃあ私は夕食を作るから待っていてね。」
「あっ!俺今日は夕食いいよ。明日には旅を再開するからさ」
「そうなの?なんだか残念ね」
「とりあえず明日朝に挨拶にだけ来るからじゃあな!」

ジン君は手を振りながら割とあっけない感じに帰って行った。たった3日しかいなかったはずなのに、彼の存在はとっても強い印象を与えてくれた。

「そうなると今日はキルの分ね。何か食べたい物はあるかしら?」
「なら…一度だけ作ってくれたシチューを頼みたいな」
「えっ?でも…時間掛るわよ?」

正直想定していないメニューに私は驚いた。
以前に作った時はあまり食べてもらえた記憶がなかった。それに今から材料の下ごしらえ、煮込む時間を考えるとすぐに食べられるような物ではなかった。

「サクヤが迷惑でないならでいい。多少なら手伝うぞ」
「うん。それなら腕によりを掛けて作らないとね」

考えるといつもは食べたい物を聞いても何でもいいとしか言わなかったキルが、しっかりとしたリクエストをしたのは初めてだったかな。

「よし!じゃあキルにも働いてもらうからね!」
「ああ。任せろよ。」

私はキルに言うなりすぐに後ろを向いて台所に走った。
何故か感じる顔の火照りと、気を抜くと表情が強張ってしまうような感覚に私は戸惑っていた。
先に一人で台所に入った私は、何とか落ち着こうと大きく深呼吸をしてから材料の用意を始めた。

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「何かあったのかあいつ?」

キルは普段と少し違うサクヤの様子に疑問を感じながら台所に向かい、中に入るとサクヤはいつもと変わらない様子で材料を用意していた。

「キル包丁使える?野菜を切ってもらっていい?」
「切ればいいんだろ?」

キルは包丁を手に取り用意された野菜を切り始め、サクヤは煮込むための道具を用意し始めた。
ジャガイモ、玉ねぎ、人参を一口台に切り分け、鶏肉を切り終えた頃には調理の準備が完了していた。

「よし。後は私に任せて」
「…というかこんな適当に切って大丈夫か?」
「大丈夫。これくらい問題ないよ。じゃあ少し待っていてね。」

キルの切った食材は大きさがバラバラで調理が難しそうに見えたが、その心配はなくサクヤはクリームシチューを完成させた。

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「キル?もう大丈夫?」
「ああ。うまかったよ。」

キルはいつもの倍は食べたのではないかと考えるほどの食欲を見せた。
いつも見せないような姿を見せてくれるキルに私は何故か嬉しさを感じた。
最初に会った時に比べて雰囲気は変わってきていたけど、本質の変化はあまりなかったように見えたから。

「今日はたくさん食べるけどどうかしたの?」
「いや…このシチューは本当にうまかったからな」

キルからの言葉は素直にうれしかった。
いつからかな…。私がこの人のことばかり考えるようになったのは。
キルと一緒に過ごして、楽しいと思ったのはいつからだろう。多分最初から…あの夜に会ったときから私はきっと…。

「よかった。じゃあまた作ってあげる。キルの好物がわかったからね。」
「いや…今日で最後だ」
「え?」

キルはゆっくりと立ち上がり、テーブルの上で横になるクロの頭を撫でた。私の頭の中ではキルが今何を言ったのか理解しようと必死だった。

「最後って?どういうこと」
「この町から離れることになったんだ。」

キルが街を出ていく。

それは初めて、キルに会ったときに戻ることを表していると私は悟った。
だから私は聞かずにはいられなかった。

「また…誰かを…人を殺すの?」

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サクヤからの問いかけにキルは黙ったままだった。サクヤは普段見せないような、しっかりとした表情でキルに視線を向けた。

「見えすぎるのも考えものだな」
「何を言っているの?」

キルにはサクヤの表情から別のものが見えていた。瞳に今にも浮かびそうな涙を。

「俺は表で生きる人間じゃない。だから俺を忘れて普通に暮らせ」
「できるわけないわ!」

サクヤの強い口調にキルは僅かに怯んだ。
サクヤがここまで感情を露わにしたのは初めてだった。その瞳には大粒の涙が溜まったままでキルに向けられていた。

「忘れられるわけないでしょ?人を殺してあんなに悲しそうにしていた瞳を…私達にこんなに思い出を残してくれたあなたを…」
「なら…仕方ないな…悪いが俺が暗殺者だと知っているなら死んでもらうぞ。」

キルは銃を抜き、サクヤの額に向けた。
そのまま瞳を閉じたサクヤに僅かにキルは驚いた。
逃げるわけでもなく、命乞いをするわけでもない相手を見たのは初めてだった。
いつも以上に重く感じた銃を向けたまま小さく言葉を発した。

「最後に言うことはあるか?」

キルの言葉にサクヤはゆっくりと瞳を開いた。
その表情はいつもの皆が大好きだった笑顔だった。

「キル…好きだよ…」

サクヤの言葉とともにキルは銃を発砲した。

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フワフワとしたまどろみの中で眩しい光が私を覚醒させた。ゆっくりと体を起こすと私はベッドに眠っていた。

「お姉ちゃん!大丈夫!?」

聞こえたのはカグヤちゃんの声だった。

夢?

混乱している私の手をカグヤちゃんが握ってくれたことによって感じた温もりが、夢ではないことを私に教えてくれた。

「カグヤちゃん?…何で?」
「応急処置が出来ていたからよかったみたい。2日は寝ていたんじゃないかしら?」

2日も寝ていたということを聞いてから曖昧な記憶を戻そうとしていた。
確かキルに撃たれて…意識がなくなって…。

「キル…カグヤちゃん!キルは?」
「えっ?えっと…キルは…これ…」

キルのことを聞いてカグヤちゃんは、表情を曇らせてゆっくりと小さなメモを差し出した。
ゆっくりと手を出して中を開くと中には一言だけ言葉が残されていた。

「またな…?」

読み上げるとともに頬を伝わる熱いものを感じた。
感情が抑えられないような感覚に必死に耐えようにも抑えられなかった。

「う…うう…キル…」
「お姉ちゃん…きっと帰ってくるよ…。だから…」

カグヤちゃんの言葉が私の耐えていた感情を崩した。抑えていた感情が爆発したように私は泣いた。涙が枯れ切ってしまうほどの勢いで。
今日すべての涙を流し切るんだ。
明日から笑顔になれるように…キルが帰ってきてから笑顔で迎えられるように…。

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キルがいなくなってから一年が経った。

私はいつものようにベッドから飛び起きて茶髪の髪を纏めた。
服はいつものように薄い 水色を主にしたフリル付きの上着に半ズボン。そういえばあまり足を出すものじゃないって怒られたから黒のソックスを履いて最後に羽が付いた最近お気に入りの茶色のチロリアン帽子で…

「よし!準備完了!さあ!行こうキル!」

私の声を聞き青い毛並みのウルフ、キルは起き上がった。
扉を開けて、朝日を感じながら誰もいない家に向かって一度視線を向けた。

「さあ…錬金術師リーネの新しい一日だよキル!じゃあ行ってきます!」

私は新しいキルとともに街を走り始めた。
今日から錬金術師としてお仕事をしていくために。

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.15 )
日時: 2014/06/25 02:59
名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)

第1話

朝の眩しい太陽の光を浴び私は家を出た。同時にウルフのキルも家を飛び出した。
今日から街の役所でのお仕事をすることになっていることから遅刻をするわけにはいかなかった。

「あら?おはようリーネちゃん。キルもおはよう」

真っ先に聞こえてきたのはサクヤお姉ちゃんの声。
いつも私がお世話になっていて、友達のカグヤちゃんのお姉さん。
サクヤお姉ちゃんは以前、悲しいことがあったって聞いたけど私にはよく分らなかった。
それでも今では笑顔が絶えなくて、近所では評判なお姉さん。

「おはようサクヤお姉ちゃん!」
「今日からお仕事?頑張ってね!」
「うん!サクヤお姉ちゃんもお仕事がんばってね!」

私は手を大きく振ってから一緒に連れたキルと共に通勤経路の市場を走った。

市場の周りからは馴染み深い店員のおじさんやおばさんが声を掛けてくれて、一人一人に手を振りながら挨拶を繰り返し、半年以上通い詰めた交番の前に到着した。
規模自体は大きくなく、中は机が一つと資料などが置いてある。
そしてその一つだけの机に座っているのは私のお師匠様。

「おはようございます!」
「珍しく時間通りだったな。」
「今日は初出勤だよ?私だってわきまえているよ!」
「頼むから寝坊して僕が起こしに行くというのは勘弁してくれよ。」

お師匠様の名前はフラン・リーゼル。
金髪で瞳の色はグリーンの色白。服装は白が主の軍服、ズボンを履き両手には白い手袋を付けている。 前に聞き込みで来た人で私に錬金術の可能性を見つけてくれた人。

「それじゃあ案内するから付いてこい。」
「はい!お師匠様!」
「いい加減その呼び方はやめてくれ…」

お師匠様はため息を漏らしながら交番の扉にclauseの札を掛けて歩き始め、私とキルは付いて行くようにすぐ横を歩き始めた。

「それにしても君が錬金術師か…」
「もしかして心配してくれているの?」
「街に迷惑が掛りそうで心配だ。」
「酷いよ!ちゃんとお師匠様に手取り足取り隅々まで面倒見てもらったのに…」
「頼むから誤解を招くような表現はやめてくれ…」

お師匠様が大きくため息を漏らし歩いて行くと、軽快な車輪の音が私の耳に入ってきた。

「あれ?もしかして?」

私はすぐ横の階段に視線を向けると上から飛びこんでくる影が見え、そのまま私の目の前で着地した。

「やっぱり!カグヤちゃん!」

階段から飛びこんできたのはカグヤちゃん。
サクヤお姉ちゃんの妹で私の幼馴染の友達。
最近は動き安さを重視して黒い肩出しの上着と短パン、上に肌を晒さないようにとポンチョを羽織って愛用のローラーブレードを履いている。ここ最近では黒ぶちの眼鏡を掛けて知的な感じに見えるようになった。

「あら?こんなところで道草食ってさっそくクビになった?」
「そんなことないよ!今から役所に行くの。」

相変わらずのカグヤちゃんのあいさつに私はむくれたままそっぽを向いた。
横ではお師匠様が、カグヤちゃんから距離をとってさっさと行こうとしてあっさりカグヤちゃんに捕まった。

「ちょっとフラン?挨拶とかないわけ?」
「あ…ああ…お…おはよう…か…カグヤ…」
「まったく…いい加減慣れなさいよね!」

お師匠様は女の人が苦手で役所で一緒に仕事をする人は平気だけど、カグヤちゃんはもちろんサクヤお姉ちゃんについてはまともに会話もできない。

というか私とカグヤちゃんは同い年なのに扱いに差があるのが納得できない…。

「ほら!何一人でむくれているのよ。私は帰るからあんたも頑張りなさいよ」
「うん。じゃあまた夜に行くね?」
「はいはい。なら今夜は初出勤のお祝いをしてあげるわ」

お師匠様をからかってから私の頭をポンポンと叩いて、カグヤちゃんはローラーブレードで帰って行った。
カグヤちゃんがいなくなるとキルが私の足を前足で叩き、公園の時計を私に教えてくれた。

「あっ!そろそろ時間がぎりぎりになっているよ!」
「まずい!早くしないとリンクさんに怒られるな。」

公園に設置されている時計を見てお師匠様の言葉を聞き、遅刻した場合の状況を想像してから我先にと走り始めた。

「あっ!おい!先に行くな!」

お師匠様も後を追うように走ってきた。
足の速さでは勝てないからすぐに追いつかれてしまったけど、時間的にはギリギリで役所の前に到着した。

「ギリギリだったか…」
「よかった…間に合っ…」
「いえ…アウトですよ。」

背後から聞こえてきた声に驚き、ゆっくりと振り向く。そこにいたのは私とお師匠様がもっとも恐れていた人。
金髪の若干長髪気味な髪を後ろで纏めて白と青を主にした軍服にネクタイを身に付け、赤い瞳を鋭い目つきにフレームレスの眼鏡のせいで如何にも気難しそうな風貌。年齢は多分お師匠様より少し年上。

この人はリンクさん。役所の経理の仕事をしていて時間と予算については細かい。

「リンクさん!でも約束の時間には今なったばかりですよ!」
「集合は5分前が基本ですよ。フランがいながらまったく…」
「す…すみません」

私達が怒られている間に、欠伸をしているキルに視線を向けるとため息を漏らしてしまった

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ようやく説教が終わりお師匠様は交番に戻り、私とキルはリンクさんに案内されて、一つの扉の前に立ち軽くノックしてからゆっくりと扉を開いた。

「失礼します。所長」
「御苦労リンク。アニミス君もよく来たね」

部屋に入り真っ先に眼に入ったのは大きな机の前に座る立派な髭を持った中年の人物。

「あっ…こんにちはレクス所長。」

黒い立派な軍服に身を包んだ人はレクス所長。
この役所の中で一番偉い人で町の様々な取り決めや管理などをする人。私がここでお仕事するための手続きをしてくれたのもこの人のおかげ。

「リンク。ありがとう。後はこちらで対応しよう。」
「分かりました。所長…サボりはいけませんよ?」

リンクさんがこう言うのは所長にはサボり癖があるから。
私に負けずサボり癖があると皆は言っているから耳が痛い私は、大きくため息を漏らしキルも理解しているように笑っていた

「大丈夫ですよ!そのために私がいるんですから!」

背後から聞こえたのは女性の声。
ストレートの桃色の長髪に特徴的な黄色の瞳、青と赤を主にした軍服と膝丈のスカート。片手には分厚い本を持つ大人びた風貌のこの人はフィオナさん。私の一つ上のお姉さんなのにすごく大人っぽくて魔法が得意。所長の秘書も兼任している凄い人。

「フィオナさん!こんにちは!」
「こんにちはリーネちゃん。所長へのあいさつなんかいいのよ?」
「なんかとは酷いぞフィオナ君。」
「所長の場合は甘やかすと調子に乗りますからいいです。」

所長とフィオナさんのやり取りは、この役所の名物でやり取りだけ見ていると、どちらが所長か分からない。
私はもちろんリンクさんもこのやり取りには笑ってしまう。

「所長への予定の前に、リーネちゃんはいつも通り仕事部屋に行っていてね?シンちゃんとバート君も待っているから。お仕事は後で私が伝えに行きます」
「分かりました!じゃあ待っている間に挨拶をしてきます。」

私は三人に対して頭を下げてから部屋の外に出て、すぐにキルを連れて仕事部屋に向かった。
いつものように中に入ると普段通りのあいさつが聞こえた。

「おはようリーネ、キル。」

茶髪のショートカットで緑色の瞳。普通に見ると男か女か分からない顔立ち。首にはゴーグルを下げ一緒に赤いマフラーを巻き、灰色のズボンに緑色のジャケット。
この子はシンちゃん。少し前に街にやってきた人でいろいろと器用な子。年齢は私より3つ下。

「所長へのあいさつはできたか?」

真っ先に背中に背負った大剣に目が行ってしまい、次に赤の短髪と騎士風の黒い鎧が目に付く。腰には別の剣と銃を下げているこの人はバードさん。
私の仕事で外に行く時などに護衛をしてくれた人で、前に聞いた時は確かサクヤお姉ちゃんの二つ上だったかな。

「挨拶くらいできたよ!失礼しちゃうよ!」
「そうだよ。いくらリーネでも挨拶くらいできるよね。」
「ちょっとシンちゃん!どういう意味!」

シンちゃんの言葉に対して笑うバード君とキルにとりあえず手近にいたキルの頭をポカリと叩き、そんな中でフィオナさんが部屋に入ってきた。

「何をしているの?」
「リーネがキルを苛めています」

フィオナさんの問いかけにシンちゃんが当たり前のように答え、その瞬間私の頭に鉄拳が降り注いだ。

「痛い…」
「キルを苛めたリーネちゃんが悪い!」

フィオナさんは動物が好きで特にキルがお気に入り。私は頭を押さえながら本を開いたフィオナさんの前に3人で並んだ。

「さて!では記念すべき最初の仕事を発表しましょう」

今までお手伝いだけだった私の初めての仕事。
どんな大きな仕事か私は緊張したまま聞き入った。

「とりあえずリーネちゃんの武器作りから始めましょうか」
「えっ?」

まったく予想していなかった内容に私達は唖然としてしまった。


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