複雑・ファジー小説

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ある暗殺者と錬金術師の物語(更新一時停止・感想募集中)
日時: 2015/02/18 00:42
名前: 鮭 (ID: Y9aigq0B)

魔法、科学等様々な分野で発展する世界。広い世界には様々な国がありそれがいくつあるか、どんな国があるのか、どれだけの分野の学問があるのかそれらを知る者は誰もいなかった。


一般的な人間は他の国に興味を持たず、その日その日を普通に生活するものだった。例外はもちろんいた。一般的に知られているのは旅人。世界を回り生活をする人間。そういった人間はその国にはない文化を伝える場合もあり、国の発展に貢献することがある。 

しかし一般には知られない人間もいる。それが隠密行動を行う者。情報収集などを中心としたスパイ、人の命を密かに奪う暗殺者等が当たる。

そのいくつもある国の中の一つから物語は始まる

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初めまして。今回ここで小説を書かせてもらおうと思います鮭といいます。

更新は不定期ですが遅くても一週間に1話と考えています。人物紹介等は登場する度に行っていきます。実際の執筆自体は初めてということがあり至らない点はあると思いますがよろしくお願いします。

・更新履歴

 11/3 3部21話追加
 11/7 3部22話追加
 11/14 3部23話追加
 11/22 3部24話追加
 12/3 3部25話追加
 12/10 3部26話追加
 12/17 3部27話追加
 12/20 3部28話追加
 12/26 3部29話追加
 12/30 3部30話追加
 12/31 人物詳細2追加
 1/4  3部31話追加
 1/7  3部32話追加
 1/10 3部33話追加
 1/14 3部34話追加
 1/18 3部35話追加
 1/23 3部36話追加
 1/25 人物詳細3追加
 1/31 3部37話追加
 2/4 3部38話追加
 2/10 番外編追加
2/18 番外編追加 更新一時停止


・本編

 第1部
 人物紹介
 キル リーネ サクヤ カグヤ ジン>>5

 第1話>>1 第2話>>2 第3話>>3 第4話>>4 第5話>>6
 第6話>>7 第7話>>8 第8話>>9 第9話>>10 第10話>>11
 第11話>>12 第12話>>13 第13話>>14

 第2部 
 人物紹介
 リーネ フラン シン バード リンク フィオナ カグヤ>>16

 第1話>>15 第2話>>17 第3話>>18 第4話>>19 第5話>>20
 第6話>>21 第7話>>22 第8話>>23 第9話>>24 第10話>>26
 第11話>>27 第12話>>28 第13話>>29 第14話>>30 第15話>>31
 第16話>>32 第17話>>33 第18話>>34

 第3部(後々鬱、キャラ死亡等含むため閲覧注意)
 人物データ1>>36
 人物データ2>>46

 第0話>>37
 第1話>>38 第2話>>39 第3話>>40 第4話>>41 第5話>>42
 第6話>>43 第7話>>44 第8話>>45 第9話>>47 第10話>>48
 第11話>>49 第12話>>50 第13話>>51 第14話>>52 第15話>>53
 第16話>>54 第17話>>55 第18話>>56 第19話>>57 第20話>>58
 第21話>>59 第22話>>60 第23話>>61 第24話>>62 第25話>>63
 第26話>>64 第27話>>65 第28話>>66 第29話>>67 第30話>>68
 第31話>>70 第32話>>71 第33話>>72 第34話>>73 第35話>>74
 第36話>>75 第37話>>77 第38話>>78

 人物・用語詳細1(ネタバレ含)>>25
 人物詳細2(ネタバレ含)フィオナ リオン レミ>>69
 人物詳細3(ネタバレ含)ジン N マナ(I) シン バード>>76

・筆休め・気分転換
 番外編

 白騎士編 
 >>79 >>80

 2部終了に伴うあとがきの様なもの>>35

 軌跡
 7/18 参照400突破
 10/14 参照600突破
 12/7 参照700突破
 1/28 参照800突破

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.61 )
日時: 2014/11/14 22:45
名前: 鮭 (ID: BOBXw5Wb)

第23話

無表情のままRが見据えていたのはターゲットとなる街とその周辺の地図だった。会議が終わってもRは部屋を出るわけでもなく机の上に広げられた地図を見たままシミュレーションを続けていた。その相手は当然Kだった。

「まだ続けるのかい?」

部屋を改めて訪れたNは未だに部屋に残るRに気付き話しかけるがそれに答えるわけでもなくRはジッと地図を見続けていた。

「聞こえていないか」
「シカタナイ…KハR二ハトクベツ…」

いつの間にか後ろにいたG に視線を向けたNは小さくため息をした。Gは戦闘力が高いが言語能力が乏しいことからRの下に着くことになったがNには何を考えているか分からなかった。そもそもGの戦闘を見たことがなかったNにとっては不気味以外の何者でもない存在だった。

「そういう意味じゃない…」

突然言葉を発したRに視線を向けた二人を気にすることもなくRは地図を円筒にしてそれを持った。

「Kは…ライバルだった…だから…負けたくないだけ…」

部屋をゆっくりと出ていくRとすれ違った時、Nは見逃さなかった。いつも無表情なRが浮かべていた小さな笑みを…。

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殺風景な部屋の中にある窓から漏れた月明かりに照らされている中、大剣の磨く青年の姿があった。

————ねえリオン?明日の話どう思う?
「役所とやらを狙うという話か?どこでも俺は問題ない…」
————そうじゃないの!もっと派手にドンパチしたかったの!

頭の中に直接聞こえてくる声に耳を塞げないレミの声にため息を漏らすリオンは磨き終わった大剣を鞘に納めてから光と共にレミと体を入れ替えた。

「あっ!ちょっと!無視しないでよ!」
———ちゃんと聞いている…。前みたいに油断して失敗はやめろよ
「盗賊団のこと?そんなのここに来る前の話じゃない!それにあの子の剣技は私と互角だったし!油断しなければ勝っていたよ!」

昔あった話を出されたレミは頬を膨らませてその時のことを思い出していた。レミが純粋な剣術で負けたのはその一度だけだった。

「でも楽しかった…またああやって全力を出しつくした戦いがしたいよ…」
————つくづくお前は戦闘狂バーサーカーだな…。
「その呼ばれ方は黒歴史だからやめてよ。リオンなんかあまりに静かで沈黙サイレントって言われていたじゃない!」
————懐かしいなもう一人の知識(ジー二アス)は何をしているんだろうな…
「だから!無視しないでよ!」

窓から漏れてくる笑い声は一晩中続いた。それはとても純粋でこの場所にはとても不似合いなものだった。

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姿を消したIを探すためにいつも彼女が縄張りにしている森にやってきたJは木の上に座っているIの姿を見つけた。

「珍しいな…お前がこんなにあからさまに姿を晒すなんてな」
「別に…全力で戦いたいだけ…」

普段はローブに身を包んだままのIが以前の任務の際同様にオレンジの衣服と短パンにブーツ、そして鮮やかな銀髪を晒している姿で弓の調整をしていた。

「お前がいいなら構わないが何かあったのか?」
「別に…」
「もしかして俺が行く直前まで一緒にいた奴のせいか?」

Jの言葉にIの手が止まった。それを見逃さなかったJは密かい笑みを浮かべていた。

「お前を惑わす存在ならこの件が終わったら消して…」

Jが言いかけたところでJの頬をかすめる形で矢が飛んでいった。当然その矢を放ったのはIだった。

「それ以上言うと…殺す…」

その赤い瞳はJを見下ろす形で睨みつけられており言葉を間違えれば即座に2射目が飛んできそうだった。そんな中でもJはただ笑っているだけで悪びれる様子も見られなかった。

「冗談だ。本気でやるからには明日は期待しているぞ」
「言われるまでもない…」

再び枝の上に座りこんだIを他所にJはその場から立ち去った。Jの気配が周囲から完全に消え去るとIは星が散りばめられた夜空を見上げた。

————この戦いが最後…そして…

誰もいなくなりマナとなったIは一人静かに今後のことを決意していた。

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「バードさん。リンクさんが今日は終わりにするように言っていましたよ」
「シンか…。」

町の近くの森の中で修行として大剣で素振りをしていたバードはシンからの呼び出しで腕を止めた。すっかり日が落ちて月明かりだけが辺りを照らす中でバードは帰るための用意をしていた。

「そういえばシン…お前は今回の戦いが終わった後はこの街に残るのか?」
「そのつもりですよ。バードさんは街を出るんですか?」
「ああ。この街は嫌いじゃないが…こう言ったら変かもしれないが世界を見てみたいんだ」

バードの言葉の後に辺りが静かになり視線をシンに向けるとまるで変なものでも見ているような表情を浮かべている姿が映った。

「おい!何だよ!」
「いろいろ言いたいですが…本気で言っているならいろいろ引きます」
「何だよそれ!…まあ今回のこともあるが俺の知らないことがたくさんあるって分かったからな」
「…それは僕もです…まだまだこの世界には分からないことがたくさんあるんだと思い知りましたね」

これまでこの街で暮らしてきた二人にとって今回の戦いや話はとても信じられないものだった。それでも関わってしまったからには知らないでは済まされなかった。

「バードさん。その旅僕も行きますよ」
「は?いきなりどうしたんだよ?」
「バードさん一人では心配ですからね。それとも僕がいると邪魔ですか?」

まったく予測知っていなかったシンからの申し出はバードにとっては嬉しいものだった。戦力としても旅の相棒としてもバードにとっては彼女は最適な存在だった。

「邪魔な訳ないだろ…なら契約の破棄をされないように指切りでもするか?」
「子供じゃないんですから…」

すっかり暗くなりシンの表情がバードにはよく分からなかったが小指を立てて差し出した右手に答えるように差し出されたシンの左手で指切りを交した。今後の旅、そしてお互い生きて戦いを終えようという約束を…。

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役所の広場でフィオナとリンクの監視の元でカグヤとジンは何度も組み手を繰り返していた。以前は完全にジンが勝利していたものの今ではほぼ互角になっている様子にフィオナは上機嫌気味だった。

「二人ともすごいですね…」
「うん。二人ともリンクくんと互角かそれ以上かもね?」
「あのジンという少年にはとても敵いませんよ」
「でも彼女はそれが納得できないみたいだよ」

昼間から何度も組み手を繰り返す二人を最初から見続けていたフィオナはにこやかにリンクに話す中、カグヤの放った横薙ぎの蹴りをジンが鞘で受け止めその衝撃でがくりと片膝を付いた。

「うお!?」
「隙あり!」

態勢を崩したジンに対して即座に拳を振り下ろそうとした時カグヤの視界が反転した。次の瞬間には地面に倒れている自分、そして目に入ったのは青く光る刀を構えているジンの姿だった。

「これで俺の何連勝目だ?」
「今のでちょうど20連勝だよ」

フィオナからの戦歴を聞きながら刀を納めるジンに対してむくれた様子のまま体を起こすとため息をしながらいつの間にか暗くなっている空を見るとこれ以上は無理だと判断して立ちあがった。

「今日は負けたけど明日こそは勝つから覚悟してなさいよ」
「えー。明日もやるのかよ…。少しは俺にも遊ばせろよ」
「うるさいわね!勝ち逃げなんかしたら許さないんだから!」

捨て台詞と共に走っていくカグヤにただ茫然と見送っていくジンを見たフィオナはカグヤが見えなくなったのを確認してから笑い始めた。

「うお!いきなりどうしたんだ!フィオナ?…さん…?」
「フィオナでいいよ。ただカグヤちゃんはまだまだ強くなれそうだと思ってね」

ニコニコしたままのフィオナにジンはたじろぎながらも明日もカグヤの相手をするのかとため息をしていた。この時ジンは何となく明日にはカグヤに追い抜かれてしまうのではないかと考えてしまっていた。

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.62 )
日時: 2014/11/22 00:07
名前: 鮭 (ID: BOBXw5Wb)

第24話

パチパチと音を立てる焚き火を見つめたまま私は茫然としていた。この時期は寒いわけじゃないのに何故か寒気が収まらない私は後ろにキルを寝かせてその蒼い毛並みと体温の温もりで暖を確保していた。

「ねえキル?寝ちゃった?」

後ろを振り向くとキルはすでに私の声が聞こえていないようで完全に熟睡している状態だった。そんな様子に笑いかけて頭を撫でてあげた。

「駄目だよ。もう一人の方のキルはそんな呑気に熟睡なんてしないよ?…多分…」

最初は後先も考えないで付けてしまったこの子の名前。でも今はこの名前にして本当によかったと思う。この名前を呼ぶことで私はキル…そしてみんなを思い出せた。そのおかげで折れそうになった私の心を保つことが出来た。

「一度報告したら…お別れかな…」

私の頭の中ではこのまま街に戻った後のことを考えていた。もしかしたら私はまだまだ未練が残っているのかもしれない。帰らないといけないと思う一方で帰りたくないと考えてしまっている。

「ねえキル…私…後…どのくらい…生きていられるのかな…」

夜空を見上げる私は雲一つない星が輝くに向けて何も考えることもなく呟いた。
今感じている不安を口にすることで少しでもそれを解消したかったから…。

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ティタニア家の屋根の上でキルは一人横になり、その横には一匹の黒猫も横になっていた。クロはキルの周辺が気に入っているのかサクヤから離れると次にやってくるのはキルの元だった。

「お前も飽きない奴だな…おれのそばにいて何がいいんだ?」

問いかけても答えるわけもないクロに問いかけたキルは自分のしている無駄な行動に笑みを浮かべて夜空を見上げていた。その時にキルの頭のすぐ上にある屋根裏部屋の窓が開いた。

「二人ともいないと思ったらここにいたのね?」
「サクヤか?出かけていたのかと思ったぞ?」
「カグヤちゃんがさっき帰ってきたからお話していたの。疲れていたみたいだからすぐに寝ちゃったけど」

窓から顔を出して話すサクヤに気付いたのかクロはすぐに起き上がりサクヤの元に飛びついて行った。それに合わせるようにキルもゆっくりと上半身を起こしてから視線を街に下ろしていった。

「キルは…もう帰るの?」
「そうだな…。明日も早いからな」

ゆっくりと立ち上がったキルは思い出したように視線をサクヤに向けた。その表情は最近見せていた厳しいものではなく以前のように柔らかいものだった。

「そう言えば…俺がここを離れた時のことだが…」
「えっ?」

キルの言葉でサクヤはキルがいなくなった時に自分が伝えた言葉を思い出してしまい顔を真っ赤にしてしまいクロを強く抱きしめ俯いた。

「まだ有効なら…この戦いが終わったら答える…」
「う…うん…」

真っ赤になったまま視線を上げていくとキルはサクヤにすでに背を向けており、それを確認した次の瞬間にキルは大きく跳躍して街へと消えていった。見えなくなってからもサクヤはクロを抱いて夜の街を見続けた。

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いつもと変わらない昼時の時間。週に一度行われていた食事会ということで普段のメンバーはティタニア家に集合していた。最もフィオナ、リンクについては役所でやることがあるからと揃ったのはシン、バード、キル、ジンの4人だった。そのことからテーブルの上に用意された皿は6枚だけだった。

「そう言えば最近あいつ見ないよな…」
「もしかしてフランさんですか?」
「ああ…あいつなら今頃山に籠っているわよ?」

バードとシンの疑問に答えたのはカグヤだった。
フランはちょうどそれぞれが修行を始めた辺りから姿を消しており特に目立った事件が起きていなかったことから保安官がいなくてもそれほど気になることがなかった。

「それに細かい作業はフィオナさんがしてくれていたみたいだよ?たまにうちに来て作業をしていたし」

追加して説明したサクヤの言葉を聞きながらも特に気にすることもなくキルはクロに用意されていたお皿にミルクを注いであげ残りのミルクは自分で飲んでいた。

「それでもここまで顔を出さないと多少は心配かもな」



ティタニア家で食事会が進んでいた頃役所の屋上ではフィオナが一人、魔導書を開いて街の外に視線を向けていた。そんな中で屋上への扉が開くと姿を現したのはリンクだった。

「あっ…どうしたのリンクくん?」
「いえ…この時間になるといつも姿が見えないので何をしているのかと思いまして…」
「奇襲がないように街の周りに結界を貼っているんだよ?」
「結界ですか?」

用語自体はよく聞くものだったが実際詳細な情報を持っていないリンクは疑問を感じたまま街の外に向かって視線を向けた。しかし特にそう言ったものは目視出来ず何が行われているかリンクには理解できなかった。

「結界は大げさかな…この街に近づいてきた存在を私に知らせてくれるって程度。それなら街の人くらいは避難させられるでしょ?」
「奇襲の対策ですか」
「そう。最も私の知っている人がいるならあまり効果がないかもしれないけどね」

フィオナの表情は現状分かっている不安要素に普段と違いあまり余裕のようなものがないようだった。

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「あら?結界があるわね」

街からそれほど離れていない場所にLはいた。目の前に広がっているのはただの草原。そして少し先には森林が広がっていた。Lの後ろにはさらに何人かの人物が控えていた。

「ここ?何もない…」
「ああ…ダメダメ。ここを超えちゃうと術者にばれちゃうよ?」

Lの言葉を無視して進もうとするRに制止を促すと結界に向かって歩を進めたLは結界ギリギリの位置で立ち止まった。

「どうなんだい?面倒な結界なのかい?」
「ある意味ね?魔法の素養がない人なら気付かないだろうから奇襲のつもりが逆に待ち伏せされているね」
「待ち伏せ?」
「そう!これは警告を知らせる結界。ここを超えると不法侵入が術者に知らされるの」

術について全く感じることがないNとRはLの話を聞いていき、そんな様子をIは黙ったまま見ていた。普段と違いIは黒いローブを身に着けておらずこう言った場所でなかった場合はLが黙っていそうになかった。

「そうなると奇襲が出来るのはIとLくらいだな」
「ちょっとJは行かないわけ?」
「一応今回は参謀を任せられているからな」

Jの横ではGがIと同様に無言で立っているだけで、そのままJは作戦の配分を決めていってしまった。そのことをあまりよく思っていないLはあまり話を聞かずに結界に視線を向けていた。

「ねえ?こんなことできる人に一人心当たりない?」
————そうだな…。あいつならこれくらい簡単にやりそうだ

Lの中に存在するもうひとりの存在もその正体を予測しており知っている人物だからこそ警戒をしているようだった。

「リーネちゃんがいないからつまらないと思ったけど…楽しめそうだね?」

作戦の説明が終わった様子を確認したLは小さなため息で一息つき結界のギリギリの位置で走るためにと準備運動を始めた。

「俺達が到着するまでにある程度は潰しておけよ」
「はいはい…やれる限りはやっておくわよ」

Lの言葉と共にIはその場から姿を消し、残ったのは強い力で地面を蹴ったことでできた痕跡だけだった。

「あら?早すぎね…じゃあ私も先に行かせてもらうわね」

すでに森の中に消えていった様子のIに呆れたまま話していくと続くようにLもその場から結界を突き抜けて街へと向かっていった。それに続くように残ったメンバーも街に向かい足を踏み出していった。

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.63 )
日時: 2014/12/03 17:29
名前: 鮭 (ID: n9Gv7s5I)

第25話

頭の中に警告を示すように軽い痛みがフィオナを襲った。フィオナの掛けていた結界は侵入者を感知すると警告として軽い頭痛を与えるものになっている。そして結界内にいる侵入者の魔力を察知できるようになり侵入者の居場所とおおよその実力も知ることが出来る。

「来たみたい…。じゃあリンクくんはすぐにみんなを避難させてね。ここは私が守るから」
「分かりました。ではお互い無事で」
「うん。じゃあ片付いたらみんなで祝賀会だよ」

最後のフィオナの言葉にリンクは軽く手を上げって簡単な返事をしてから住宅街に向かい走っていった。その様子を確認し終えると言所の敵の位置を確認した。今確認できた敵の数は6つ。そのいずれもフィオナ自身が想定していたものよりも小さかった。そのことがフィオナにとっては違和感があった。
6つの魔力は確かに小さかったがどれもがあまりに小さすぎた。

「先制されたのはこっちだったのかな…」

役所の門の前でフィオナは小さく呟きすでに無人になっている役所の前で必ず自分の前に現れると確信している人物を待っていた。

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「来たか…」

食事を終えそれぞれ談笑している中でキルは立ち上がった。特に魔力を感じたりしたわけではなかった。長く組織にいたことで感じる同族の気配に敏感だったキルにしかない感覚だった。

「いよいよ…ですね…」
「そうだな。じゃあ俺とシンは役所の守りだったな」

元々この時が来た時の各々の配置や役目は決めていたことから早々と役所の守りの予定だったバードとシンはすぐに家を出ていった。フィオナの話だと自分の元にほぼ間違いなく来るからと配置を多くしていた。

「じゃあ俺とキルは外の奴らを撃退だったな」
「それで私は住人の避難補助と護衛をリンクさんとだったわね。お姉ちゃんもクロを連れてすぐに避難してね」

待たせている相手がリンクということもあり、カグヤは必要なことを早々と伝えていくとすぐに家を出ていった。
そんな様子を見たサクヤはクスクスと笑い、ちょうどミルクを飲み終えた様子のクロを抱き上げて避難の準備を始めた。その横ではジンが刀を手に取り出発の準備を済ませていた。

「よし…俺はいつでもいいぞキル」
「分かった。じゃあ行くか」

ジンの言葉を聞くなりいつもと変わらず特に何か準備をするわけでもなく出発しようとしていた。正確には常に準備が出来ている状態だともいえる。

「あっ…キル…」
「何だ?」
「あの…無事に帰って来てね?」
「帰ってくるから安心して待っていろよ」

サクヤからの言葉も特に特別な返事をすることもなく先に家を出たジンに続いてキルも普段の任務に出かける時と変わらず家を出ていった。

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街から少し離れた森の中にある木の上でマナは予定の時間を待っていた。Iとしての彼女の任務は街への第一撃目の攻撃だった。それに合わせて他のメンバーが攻撃を開始する。つまり彼女の攻撃が戦闘の開始を意味していた。

「そろそろ…みたい…」

枝の上に座っていたマナはそのまま地面に着地してから愛用している弓を右手で取った。それと共に反対の手を横に振ると紅色の光が出現しそれは矢の形を形成し始めた。

「時間…」

用意を終えるとともにマナはその矢を手に取り上空に向けて射るとそれは街に向かって飛んでいき、そのまま一本の矢は分裂を始めていき雨のように光の矢は降り注いでいった。



「合図だね」

位置としては街の入口にいる門番が目視できるところだった。はるか上空をいくつもの細い光が飛んでいくことを確認してからLはその場に片膝をついて片手を地面に付けた。

—————あまり呼び過ぎてへばるなよ?
「だから今回は50で許してあげる…」

笑みが浮かんだまま中にいるもう一人に話しかけるLは小さく詠唱を始めていき足元に魔法陣が浮かび上がり大量の召喚術を発動させた。最も召喚した者たちがLの目視できる範囲に召喚されることはなかった。

「後はJが勝手にやってくれるわね…」
————なら行くぞ…。キルと交戦になるとお前のお気に入りに怒られるぞ
「分かっているわよ。だからさっさと街に入るわよ」

召喚術が終わった頃には城壁の中からは煙が上がっておりその様子を見てからLはその場を離れていった。

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「なんだあれ?」

役所に向かって走っている途中でバードは空に見えるキラキラと光るものに気付いた。その正体に真っ先に気付いたシンは腰に納めた銃を上空に向け発砲した。銃弾は光りに当たったもののいくつあるか分からない光のうちの一つを相殺しただけで6発しか装填できない銃では撃ち落としきれなかった。

「落としきれませんね…」
「ひとまず…回避だな!」

迫ってきた光が姿を見せると確認できたのは赤い光の矢で二人は回避をベースにして矢をやり過ごしていった。
着弾した矢の中には地面に突き刺さるものと小さな爆発を起こすものが混ざっていた。

「危なかったな…」
「ええ…でも街の被害が少なくて…」

周りの家にも多少の攻撃が命中しながらも予想よりも被害が少なかったことで安心していると地面に突き刺さっていた矢は跡形もなくなり代わりにその下に魔法陣が浮かび上がっていった。

「おいおい…この魔法陣って…」
「召喚魔法ですね…しかも…」

魔法陣を確認からシンはすぐに辺りを見回しあちこちに魔法陣が浮かび上がっていることを確認した。その数は確認できる範囲だけでも10はあった。そのことを確認し終えると白銀の甲冑に身を包んだ兵士たちが現れ目は赤い光を放ち、手にはそれぞれ長剣と盾を持っていた

「どうやらすぐに役所にはいけませんね…」
「まあ何とかなるだろ?こいつらくらいは俺達が片付けるぞ」

10はいる甲冑の兵士達に囲まれた状態のままシンはもう一つの銃を手にとり、バードは大剣と帯剣を構えて兵士達に応戦を始めた。

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あの時もこんな青空だった…

雲一つない青空を見つめていた私は昔を思い出していた。

————私達の力はこの世界のために使う

今考えると子供のような…でも凄く単純な誓い。
その誓いの元で私は2人と別れてこの街でその力の限りを尽くして来た。
恐らくこっちに向かってきている2人は私と別れてからどんな旅をして何を見て来たんだろう…。

青空を見ていた私は視線を下げた時、現実に戻された。
最初の攻撃により燃やされた家、その中で避難が遅れてしまっていた人だったもの…。そして召喚によって呼び出された中身の入っていない鎧たちの残骸。
結界内であるこの街の中ということもあり、それぞれどういった状況なのかは把握できた。

キルは街の外で一人と交戦。ジンくんも同様だけど2人の距離は大分開いている。
リンクくんは召喚獣と戦いながら移動してすぐ近くでカグヤちゃんが一人と交戦中。
シンちゃんとバードくんは召喚獣と交戦中。
一人は森の中で…動かないから多分待機中。
そして…

「久しぶりだねレミ」
「本当だね?あの時とはお互いにいろいろ変わったけどね?」

レミは昔と変わらない屈託のない笑顔で話していた。再会がこういった形でなかったらとどうしても考えてしまう。

「おとぎ話の中でのお話だと思っていたけど…実現したんだね…魂の共有…」
「フュージ二アン…それが今の私とリオンの状態だよ。ねえフィオナ?降伏しない?」
「無理だよ。この街を見捨てるなんて私にはできないからね」
「そう…残念だね…」

その一言と共にレミの足元に魔法陣が現れた。そしてそれが召喚の魔法陣であることをすぐに理解できた。そして次に現れた巨大な魔法陣と共に現れたのは5mはあるドラゴン。ただし普通のものとは違っていた。ドラゴンは白銀の軽装な鎧を身につけ片手には巨大なランスを握っていた。

「ドラゴンソルジャーの王…確かディキだったかな」
「そう…ただフィオナの相手じゃないよ?後ろから向かってきている邪魔な人たちの相手だよ」

召喚を終えたレミの体が光るとそれと共に姿を現したのはリオンだった。あらためて挨拶をしようと考えているとリオンは無言で大剣を抜いた。

「久しぶりなんて…2回目はいらないよね?」
「ああ…昔馴染みでも悪いが…容赦はしない」
「そういえば勉学が互角でも模擬戦ではリオンに勝ったことなかったね…じゃあ今日はリベンジさせてもらうからね?」

魔導書を開いた私は大剣を構えたリオンに対して身構える形になった。そんな中で先にレミが呼んだドラゴンが歩いて行く様子を私は見ていることしかできなかった。

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.64 )
日時: 2014/12/10 22:38
名前: 鮭 (ID: n9Gv7s5I)

第26話

もうすぐ街の出口に到着しようとした時空にいくつもの光が見えた。前方を走るジンもそれに気付いたのか一度足を止めて空を確認した。

「なんだあれ?」
「あれは…まずい!ジン!避けろ」

ジンに言葉を伝えた時、赤い光を纏った矢が雨のように降り注ぎ始めた。何本かは地面に突き刺さりさらに何本かは地面に突き刺さると共に爆発し何とかすべての攻撃を回避しきると第2射が放たれる前にとすぐに街の出口に向かった。

「おい!キル!待ってくれよ!」

後ろから聞こえてくるジンの声がさほど離れていないことからしっかりとついて来ていることが認識できた。街の出口を通りかかるところでいつもいるはずの門番の姿がなく、代わりにいつもそいつらが付けている鎧や武器だけが地面に転がっていた。

俺が一瞬視線が前方から視線が逸れた時だった。横から強い衝撃を感じた。日ごろの経験が影響してか無意識に体は反応しており衝撃は銃身を使って防いでいた。そしてその襲撃の元凶を確認して目に入ったのはRだった。Rは鎌の先端で俺の体を押していきダメージこそなくてもその力で俺の体は森の中へと吹き飛ばされていった。

「ぐっ…油断…したな…」

森の大木に叩きつけられる形で何とか止まることが出来た俺はゆっくりと体を起こしながら辺りを警戒したが以外にもRは大鎌を肩に乗せたままゆっくりと歩いてきた。いや…Rだからこそ正面から堂々と姿を見せて来たのだろう。

「お前が不意打ちなんて…どんな心境変化だ?」
「簡単…あなたが他のことに気を取られないようにするため…」
「変わってないな…。昔から何も…」
「あなたは変わった…どんどん弱くなっている…」
「それでも負けているつもりはないぞ」

銃に新しく銃弾を装填し直し、そんな中でRは身の丈を超える大鎌を片手で持ち構えた。

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「キル!」

前方を走っていたキルが黒い影に捕まって森の中に消えていったことを確認したジンはすぐに追いかけようとしたがすぐにその行く手を阻む存在が現れた。

「残念だけど…ここから先は行かせないよ」
「…お前が俺の相手かよ?確か…Nだったよな」

ジンの前で刀を抜いたNは刀を片手に握ったまま構えた。ジンも同様に刀を鞘に納めたまま居合の構えのまま身構えた。

「君が生きているのは僕にとっては都合がよくないからね。君の命、そしてその刀はいただくよ」
「悪いが…前の俺のままだと思っていると痛い目にあうぞ?」

ゆっくりとした動作で体を前屈みにして次の瞬間に強く地面を蹴ったジンはNに向かって飛び込み、それと共に居合抜きを放った。閃光のようにNの体を両断しようとした刀は金属音と共に行く手を阻まれた。Nは片手に持った刀でジンの居合を受け止めガチガチと金属音がジンの耳に届いた。そのまますぐにジンは反対の手に握ったままの鞘をNに向けて横薙ぎに振るった。その瞬間ジンの攻撃は空を切りNの姿が消えていた。ジンはそのままの勢いで刀を鞘に納め反転した。

「凄い早さだな…それがあんたの力かよ?」

いつの間にか背後に立っていたNに反転しながら話していくと再び刀を構え直した。一度地面を見ると地面を蹴ったような跡が残っていた。

「元々僕は脚力が組織の中で一番でね。早さに関しては負けないつもりだよ」
「元々ってことは…今は違うんだろ?」

ジンの言葉にNの表情が一瞬歪んだことをジンは確認できた。そのことを確認しジンは刀を再び構え直しNと対峙した。

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「リンクさん!そっちに行った!」
「任せてください」

カグヤの掛け声と共に避難民に向かっていく鎧の兵士にリンクはレイピアによる高速の連続突きを放ち撃退した。倒れた兵士の中身は空っぽになっていた。リビングアーマーと呼ばれているこの魔物は術者が倒れない限り何度もよみがえる魔物でランクはCに分類されているものの限りなくBに近く、兵士たちもその撃退に手こずっている状態だった。
人数の関係上避難を何度かに分けて行うことを決めたリンクとカグヤは最初のひなんがなかなか進めずにいることに焦りを感じ始めていた。

後方を守っていた兵士の悲鳴が聞こえたのはまさにそんな時だった。突然のことでカグヤとリンクは兵士達に任せて後方に戻った。

「ちょっと…これ…」

カグヤの目に飛び込んできたのは目をそむけたくなるような光景だった。後方を守っていた兵士のうち二人は腹部を貫かれており一人は鎧で隠れていたがおびただしい量の血が流れ出ていた。そして最後の一人は目の前にいる黒マントの大柄な人物の腕に腹部を貫かれた状態で絶命していた。

「む…惨いですね…」
「あんた誰よ!」

二人の存在に気付いた様子の黒マントの人物は兵士をそのまま地面に投げ捨てて血を振るい落とした。手の色は褐色で背丈は2m近くありそうな人物に二人は身構えた。

「ワタシハ…G…ココノ…ニンゲンヲ…コロス…」
「G?ということは貴方も例の組織の人間ですね…」

聞き取りにくい声から何とか名前の情報を聞き出したリンクが話している途中でGはリンクに向けて飛び込んだ。それと共にGの右腕がリンクの体を捉えようとした時、その腕の横から急な衝撃が起きGは咄嗟に距離を取った。

「オマエ…ターゲット…」
「リンクさん…ここは私が抑えるから避難を進めて」

Gが次に視線を向けたのはカグヤだった。軽くつま先を地面にコンコンと蹴ったカグヤはGに向き直し身構えたままリンクに話した。当然リンクはそれを制止させようとしたがGの視線はカグヤに集中していることに気付くとレイピアを納めた。

「分かりました。無理はしないでください」

カグヤに一言を残すと第2の避難民のためにとその場を走っていった。そんな様子を見たカグヤは視線をGに向けたままサブマシンガンを片手に持った。

「G…だったわね…カグヤよ」
「カグヤ…」

Gがゆっくりと名前を復唱すると黒いマントを取り払った。白い短髪でボサボサとした髪、肌は褐色で目は赤く光り赤のシャツとズボンと簡単な服装に腕に黒いグローブを装備していたGの姿は鬼という言葉があっていた。
不意にGの左手が薄く光っていることが確認できた。

————魔力!?

事前に魔力の動きが見えるようになったのはフィオナの修行の成果でありカグヤはすぐに身構えられた。それでも構うことなくGは左手を勢いよく振り上げ、それにより発生した衝撃波がカグヤに向かっていった。

「こんな程度で私はやられないから!」

カグヤの両手が光るとそのまま手を前にかざして衝撃波を受け止めて無効化にした。

「オモシロイ…スコシハ…タノシメソウダ」
「魔力で身体強化ってわけね…戦い方が同じなんて気に入らない…」

両手をひらひらとさせて小さく呟きすぐにカグヤは構え直した。Gの動きを少しでも見失ったら自分の命がないと理解できたからだった。

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辺りは戦闘による衝撃や流れた攻撃によりボロボロに崩壊している中でフィオナとLは対峙していた。大剣を握ったLは全く呼吸を乱している様子もなく尚も目の前のフィオナを見据えていた。

「強くなったね…衰えるどころか…強くなっているよ」
「お前は弱くなった。全力の出し方…忘れたか?」
「そうかもね…リオンと違って私は戦いに明け暮れていたわけじゃないからね…」

リオンの言葉にフィオナは皮肉めいたような口調で呟き手に持っていた魔導書を閉じた。そのまま大きく息を吸うとフィオナはリオンに視線を向け、そして笑みを浮かべた。

「学生のころは3人一緒だった。そして誓い合ったよね…私達の力を世界のために…」
「俺達の力をみんなのために…それが俺達の夢だったな…」
「そしていつかの再会を誓い私は二人と別れた…何があったの?」

フィオナの言葉にリオンは黙ったまま大剣の剣先を地面に付けた。視線はフィオナに向けたままだったがその眼は先ほどまでと違い穏やかなものだった。フィオナは簡単に詠唱をしていくと足元に小さな魔法陣を生み出した。

「あなたも話していいよレミ?今なら聞こえるからね」
————相変わらず変な術ばかり覚えて来るよね?

フィオナの視線にはリオンの背後で前屈み気味になっているレミの姿が半透明で見えていた。恐らくリオンもレミのことはこうして見えているのだと考えていた。

「そうでもないよ?この術は肉眼で見えないものを見たり聞いたりするものなの…」
「だからだな…奇襲にも的確に応対していた」
「話が脱線してごめんね?聞かせて?二人にあったこと…」

リオンは一度瞳を閉じた。それと共にレミが表に出てきてリオンが半透明な姿になった。それと共にフィオナには今まで見たことがないレミの沈んだ表情が映った。

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.65 )
日時: 2014/12/17 23:49
名前: 鮭 (ID: n9Gv7s5I)

第27話

蒼い空が俺の目に映っていた。背中に感じる芝生は暖かく、肌に感じるほのかな風、昼寝にはちょうどいい場所であり環境だった。

「リオ—ン!またお昼寝?」

せっかくの昼寝を嵐が邪魔し始めた。仕方なく俺は体を起こすと嵐の元凶であるレミの姿が目に入った。赤を主にした制服に身を包み膝丈までの長さのスカート、そして成績上位組が付ける緑のスカーフが一応この学校の生徒であり成績が優秀であることを判断させてくれる。

「どうしたんだ?一緒にいるとからかわれるとか言っていなかったか?」

この学校は約7割が女で人によっては羨ましがる奴もいるようだが正直居心地はよくない。まともに話せる奴も幼馴染であるこいつくらいで他の奴とは正直話しにくい。

「今日はリオンを紹介してほしいという人を連れて来たの」
「俺を?誰だよ?」
「私だよ」

レミの返事の代わりに聞こえて来たのはどこか気の抜けた声色だった。声の主は同じ学生のはずのレミと並んでいるのにも拘らず大人と子供と考えてしまうほど雰囲気が違っていた。当然この場合の子供はレミの方だ。

「俺に何か用か?」
「男子唯一の成績上位者の君の実力を確かめたくて来たの」

手に握られていた魔導書を見て頭の中にあった噂を思い出した。魔導書だけを武器に様々な強豪と模擬試合をして連勝を続けている奴がいる。

「次の授業が始まるまでなら付き合う…。その前に…名前は?」
「フィオナ」

これが俺達の出会いだった。

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「あの頃は楽しかったね」
————そうだな…
「結局あの日はリオンの全勝でフィオナは悔しそうだったよね」

沈んでいた表情を浮かべていたレミには笑顔が戻りフィオナも目の前にいる相手を敵としてではなく旧友として話をしていた。

「歴代最年少、歴代初の男の卒業生、歴代1の頭脳。そして歴代最優秀。私達だけで大分伝説を残しちゃったよね」
「後輩にも面白い娘はいたよ。だからそんな伝説すぐに塗り替えられるよ。レミだってそのうち最年少は抜かれるかもよ?」

冗談混じりに話す二人とそんな様子を見るリオンはこんな場所でなかったら穏やかな風景だったかもしれなかった。不意にレミは表情を暗くしてため息を漏らした。

「でも楽しかったのはここまで…」
「私と別れる時に村に一度帰るって言っていたよね?何があったの?」
「そうだね…全部話しておくよ。気になってそれを負けた言い訳にしてほしくないからね」

冗談を交えて笑おうとしていることがフィオナには理解していた。だからこそフィオナはそのまま二人に対して視線を向けていた。

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魔法学校の卒業式は正直退屈なものだった。僅かな卒業者への卒業証書の授与、退屈な長い話、まあこれは私達をお祝いしてくれているわけだから感謝はしても面倒がるのはよくないと二人に怒られてしまうかな。
そんなことを頭の中で考えていると卒業生のトップは召喚獣をもらえるけど今回は私とリオンにフィオナが満点トップだった。何だかんだで負けず嫌いな私達の勝負は結局では測りきれないようだった。

「レミ?どうしたのこんなところで?」
「うん…私の召喚獣はすぐに終わったからね。フィオナもその子とずっといたから簡単だったみたいだね」
「まあ私の場合はそれと属性もあるからな。二人の召喚獣は光と闇だから習得が大変だよ」
「リオンは闇だからさらに大変かもね」

魔法学校で学んだ限りだと召喚獣は数を数えればそれこそ人間以上の数がいるけどそれぞれ属性がある。人間で言う人種のようなものらしい。ただその中でも潜在能力が高い光と闇の召喚獣はその契約が困難ということだった。

「もう二人は終わったみたいだな」
「あっリオン。今日は最後だったみたいね。レミよりも後に来るなんて余程大変だったのかな?」
「まあ…少し慣れないと呼び出すのは無理だな」

フィオナの言葉にリオンは特に反論をせずに表情には普段見せないような疲労の色が見え、それを察した様子のフィオナもからかうのをやめた。

「この学校ともいよいよお別れだね…二人はこの後どうするの?」

卒業後のことをしっかり考えていなかった私は村に帰ることだけを考えていて他のことは特に考えていなかった。だから二人の意見を参考にしようという思惑があったけどフィオナにはそのことが見抜かれているようだった。

「うーん…とりあえず私は世界を回るつもりだよ?ここでは身に付かないような魔法があるかもしれないしそれを知りたいんだ」
「知識の探求かフィオナらしいな」

リオンの言葉は私も同じ意見だった。フィオナは本当に勉学を欠かさないし手を抜かない。そんな彼女だからこそこの学校の知識だけでは満足できなかったのかな。

「私に聞いておいて二人はどうするつもりなのかな?」
「俺は一度村に帰る。それから騎士になるつもりだ」
「騎士?リオン…本気なの?」

リオンからの言葉には私はもちろんフィオナの顔にも驚きの表情が浮かんでいた。
騎士はすべての兵士たちの中のエリート中のエリートだけがなることが出来るものであり、本来は名家の実力者達をさらに厳選して与えられる剣士が目指す最後の称号でもあった。

「実はある国から卒業後に国に来てくれないかと言われていたんだ。その際は騎士として迎えたいと言っていた」
「私が聞く限りだと…いくらここの卒業者でも騎士になれたのは初めてじゃないかな?」
「ああ…それは校長も言っていた。正直俺なんかが騎士でいいのかと悩んだけどな…。だが俺を必要としてくれているならやろうと思う」

ずっと一緒にいた筈なのにリオンがそんなことを考えていたのは知らなかった。二人の話に私は黙って聞いているしかできなかった。何も考えていなかったのは私だけだったんだと思うと情けなくなってきた。

「それでレミはどうするの?」
「えっ?わ…私は…」

フィオナの問いかけに私は答えることが出来なかった。何も考えていなかったなんて正直言いたくなかった。そんな私を見た二人は何かを察したようで、フィオナは笑みを浮かべた。

「そういえばこの場所が私達3人が初めて揃った場所だよね?」
「そう言えばそうだったな…」

フィオナの言葉にリオンは頷いた。突然の言葉に私はフィオナが何を言いたいか分からず何も言えなかった。

「だからお別れもここでしようか。もちろん一時的なお別れだよ?」
「えっ?お別れ?」
「もちろん永遠じゃないよ?私達の力は世界のために使うの。そうすればまた再会できるよ。道がみんな同じならね!」

フィオナの言葉…正直私には意味が分からなかった。でもリオンは何かを理解したようだった。それと共に背中の大剣を抜き地面に突き刺した。

「なら別れの前に誓うか。再会するためにな」
「リオンにしてはいい考えだね」

右手の甲を上にして前に出したリオンの動作を見てからフィオナはそのままリオンの手に重ねるように右手を重ねそれから私に視線を向けた。

「レミはしないの?」
「えっ?」
「今は分からないかも知れなくても目指す道は一緒でしょ?」

フィオナの言葉で私はようやく意図が分かった気がした。そして私も手を重ねてから二人に視線を向けた。その様子を見たフィオナは笑みを浮かべた。

「よし!じゃあ行くよ?」
「大丈夫かレミ?」
「平気。さあ…行くよ?私達の力は…」
「「「世界のために!」」」

私達は声の限りに誓いの言葉を声に出して発した。まだ分からない未来へと旅立つための第一歩にするために…。


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