頑張りやがれクズ野郎
作者/ トレモロ

【初対面ですよ】
あ~。
日記を付けて二日目か。
一気に書くのは正直キツイから、ちょっとずつ書くことにする。
で、今思ったんだが、コレ過去の出来事を書いてるけど、あんまし日記って感じがしないよな?
だから、これは日記じゃなくて自叙伝的なモノになるのかもしれない。
まあ、どっちだっていいんだけどな。
そうそう一つ読者さんに愚痴を言っておきたい事があるんだがな。
この自叙伝は、俺の過去の出来事をこうやって、その時の感情を乗せて俺なりに丁寧に書いてんだが。
この前【アイツ】に見せたら。
『ナンナンデスカこの内容。あなたやる気あるのかしら?』
なんて、良い笑顔で言われちまったよ。
女ってのはおっかねえよな。
それはさておき、そろそろあんたらは。
【アイツ】って誰だよ?
って感情を持ち始めてると思う。
だから、前も書いたとおり【アイツ】との出会いに触れることにするわ。
実は前回書いた、俺が善人になろうとした不良を刺しちまった後な、そこから話が始まるんだよ。
じゃなかったら、わざわざ自分の嫌な過去掘り下げねえって。
なんとなく導入部にゃちょうどいいと思ってな。
じゃあ、始めるぜ。
【アイツ】との出会いは。
俺があの【殺害現場】から去って。
あてもなくプラプラ街を歩いていた時のことだ……。
苛々していた。
理由は解ってる。
人を殺したからだ。
いくら屑とはいえ、誰か人間をころすってのはそういう事だ。
別に罪悪感なんて欠片もねえが、それでもどこか突っかかる気分になる。
なんとも言葉にしづらい感覚なのだが、敢えてするとすれば。
苛つくという言葉が当てはまるんだろう。
と、そんな事を考えながら、ふと俺は周りに目を向けて見る。
汚い場所だった。
数々の廃棄ビルが所狭しと並んでやがり、空気は暗く淀んでいる。
暗くて汚くて淀んでいて。
吐き気を催しそうな情景が、俺の目の前に広がっていた。
それだけじゃない。
黒くて薄汚いコンクリの道路の脇には、同じように黒くて汚い人間が転がっている。
喧嘩や殺し合いに負けて傷ついたのか、それとも死んだのか。
どっちかは分からないが、助けるつもりも毛頭ないので構いやしない。
全てを無視して、俺は道路の真ん中を歩いていく。
車なんて通る気配が一切ない道路に、根元から折れまがっている信号機。
秩序なんて言葉が一切合切消失しちまった、無法都市。
それがこの街。
【第三廃棄都市】だ。
世界から見捨てられた都市。
全ての自由と、全ての無茶が通る街。
ここは【ゴミ箱】だ。
世界中のゴミが集められた、巨大な入れ物だ。
その所為か、この街は【ゴミ箱】という、そのまんまの二つ名を持っている。
誰が付けたのか知らんが、そいつに俺は拍手を送ってやりたいね。
「ったく。今日も嫌な日になんのかねぇ」
上を見上げ、薄汚れた街とは対照的暗、澄んだ綺麗な青空に悪態をつきながら、
俺はまた前を向き歩き出す。
何も考えたくなかった。
朝っぱらから偶々合った婆さんから金を奪った事も。
そんなババアを助けようとした屑を殺したことも。
自分がなんでこんな街に来たのかという事も。
何も考えたくも、思い出したくも無かった。
だからなのかは分からないが、俺はその時気付く事が出来なかった。
こんな街に住んでいるんだ。
常に周りに気を配って然るべきだったのだが、如何せん俺は心の底から這い上がってくる不快感を、忘れ様とする事に気を取られていたのだ。
故に対策が立てられ無かった。
ナイフを持って突っ込んでくる奴に対して【対策が立てられ無かった】。
「ぐっ!?」
熱い。
背中から体中に、電流の様なものが走ったかと思うと、一気に熱さが背中から広がっていく。
指先が細かく震えて、背中は熱いのに体の芯は冷えていく感覚がする。
刺されたと理解するのに、そう時間はかからなかった。
それは昔から何度も喧嘩した事があり、刺された回数も一回や二回ではないから。という事もあるだろうが、なによりある種の覚悟をしていたのかもしれない。
自分は屑だ。
人からの恨みもかなり買っている。
なら、何時か殺されることもあるだろうと。
尤も。
殺されてやる気なんて微塵も無かったが。
「……ぐっ、があっ!!」
俺は痛みを抑えつけて、軽く叫びながら後ろを振り向く。
勿論俺を刺しやがった糞野郎を、ぶっ殺してやるためだ。
だが、俺を刺したやつの顔を見た瞬間。
俺は固まった。
思考が停止した。
一瞬痛みさえも忘れた。
何故なら。
「いやぁ~、どうも屑さん。死ぬ一歩手前でこんにちは!」
その顔がまだあどけない、【少女】のものだったからだ……。

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