頑張りやがれクズ野郎
作者/ トレモロ

【殺しますよ】
三日目。
何をやっても長続きしない俺だが、この日記はどこまで続けられるだろうか?
まあ、やめたくても【アイツ】の許可がなけりゃあ、やめる事は出来ないのだが……。
そういや、前回は【アイツ】に刺された所で終わっていたな。
じゃあ、余計な前振りは抜きにして、続きを書いちまうか。
この日記……じゃなくて、自叙伝だったな。
【アイツ】にも、自叙伝でいいだろと言ったら、了承の返事をもらったから、今日からこの日記は自叙伝という事にする。
おめでとう、世界の誰か。
さて、与太話もこの位にして、続きを書くか。
【アイツ】に刺された後、俺がどうしたか。
ああ、ったく、今思い出しても相当痛かったぜ……。
「あぁ? 俺が……屑だっ……て?」
「そうだよ! おじさんは屑人間さんでしょう? 違うとかほざかないでね?」
なんてにこやかな笑顔でとんでもねぇ事を言いやがるんだ、このガキは。
俺の苦悶の表情を見てもそんな表情が出来るとは。
まともな神経じゃねえ。
普通なら、心配してしかるべきだろう。
尤も、普通の人間なら、人を殺そうとはしねえだろうがな。
つまりこれは単純な話ってことだ。
こいつも【屑】。ってことさ。
笑えるねェ。心の底から笑いがこみ上げてきちまう。
どうやら、ナイフで刺された所の痛みも消えてきたみてぇだ。
怒りってのは、全ての事象を塗りつぶすって事だろうなぁ。
「オイ、ガキ」
「ん? 何おじさん。遺言?」
「てめぇよぉ、俺をおじさんと言ったな?」
「言ったけど?」
こいつは知らない。
俺が世界で一番嫌いな種類の人間を。
見ると吐き気を催す種類の人間を。
まあ、同族嫌悪って奴なんだがな。
だが、そんなこたぁ、どうでもいい。
大事なのは、俺がそういう種類の人間を見るとどうしようもなく、視界から消したくなる。って感情が大事なんだ。
そう、俺はこの世で一番。
【屑な人間】が大っ嫌いだ。
「ひとつ重要な事を教えてやるよガキんちょ」
「ん~? なぁに、おじさん?」
ニコニコと暢気そうに笑っているガキの腕を、自分の腰を強引に捻じ曲げて掴みながら、俺は獰猛な笑みを浮かべる。
「俺はおじさんじゃあねえ……」
ガキは一瞬しまった、といった顔をしたが、もう時すでに遅しって奴だ。
てめぇが子供だろうが、女だろうが関係ねぇ。
俺の目の前から消え失せろ!!
「俺はまだ二十五歳だぁあああああああああああああああああああああああ!!」
腰の捻りを利用して、ブンッ、という音と共に、俺はガキの体を、腕を始点にして。
文字通り【ブン投げた】。
小さい体の為か、面白いように飛んでったガキは、傍にあった電柱にぶつかって制止する。
「がぐ、はっ! げほ、がっ、げほっ」
ガキは、物凄い勢いで電柱に叩きつけられ、口から血を吐きだし、せき込む。
「おいおい、どうしたぁ? 俺を殺すんじゃなかったのか?」
九の字に体を折り曲げながら、ゲホゲホと血を吐き出すガキ。
俺は腰に刺さったナイフを抜き取って、そこらへんに投げつつ、ケタケタと笑いながらガキに近づいていく。
「てめぇさぁ、もしかして俺を殺せるとか思ったのか? 笑えねえなぁ? 笑えねえぞ糞ガキ」
「が、ぐあぁっ!?」
ガキの髪をつかんで、自分の顔辺りまで持ち上げた。
さて、どうやってすり潰してやろうか。
とりあえず俺を怒らせたガキがどんな表情をしているのか見る事にするか。
俺はそう考え、視線を動かしてと目の前のガキの全体像を眺める。
そこで漸く、俺は【少女】をゆっくり観察する事になった。
「う、うぅ」
俺の目の前で、痛みで唸っているガキの容姿は、中々上等なものだった。
髪は短いが綺麗な金色をしている。
顔は整っており、将来確実に美女になりそうだ。
年齢は……14歳程度だろうか?
服装は淡いピンク色のキャミソールを着ていた。
そして、何より印象的なのが透き通った蒼い瞳だ。
ん?
もしかしてこいつ……。
「外……人?」
なのか?
別に外国人を見た事が無いわけじゃあない、だが、外国人の少女というのは、中々俺たちの様な人間には会う機会の少ない人種だ。
「げ、げほげほっ! ……お、おじさんじゃなかったら、お兄さん……だったのかな?」
俺が呆けていると、ガキがニコニコと笑いながら俺に言ってくる。
なんなんだこいつは?
俺にふっ飛ばされて、髪を掴まれても何で笑ってられるんだ?
意味がわかんねぇ。
「おいガキ。なんでてめぇは笑ってやがんだ? 頭沸いてんのか?」
「ごめんねぇ、そんな髭がボーボーだったからおじさんにしか見えなかったの」
俺の言葉を無視して、失礼な事をしゃべりやがる糞ガキ。
……あー、なんかかったるいな。殺すか?
いや、さっき場違いな屑を殺したばっかだ。
一日で殺し二人はマズイ。俺の精神がイカれちまう。
いや、すでに頭はおかしくなっているだろうが、それでもあの不快感はなるだけなら味わいたくはない。
「じゃあ、おじさん改めお兄さん。早く死んでくれる?」
……。
やっぱ、殺しとくか。
なんかこのガキ危ねえし、殺しといたほうがいいだろう。
多分。
え~と、予備のナイフはどこにあったか――。
「動くな」
突然聞こえる重い声。
俺はナイフを探す手を停止する。
理由は、その声色にはかなり純度の高い【殺意】が込められていたからだ。
この感じは……ヤバい。
「ああ?」
俺はその声が聞こえてきた方へ、ゆっくり振り返る。
そこには、今までなんで気付かなかったのか分からないほどの大人数で、俺に【銃】を向けてるチンピラ共がいた。
「なんだてめぇら?」
その十数人のチンピラ連中のリーダー格っぽい、サングラスを付けた汚らしい服の奴に疑問の声を投げかける。
すると、そのサングラスは口の両端を釣りあげながら、俺が嫌いなフレーズをほざきやがった。
「今日がてめぇの命日だぜ。【人屑】さんよぉ!!」

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