頑張りやがれクズ野郎
作者/ トレモロ

【胸糞悪いですよ】
さて、五日目だ。
つーか、今思ったんだが自叙伝って、一々前置き要らないのか?
いや、俺にとってはこれを書く事が日課になってるから、何か前置きを入れたくなるんだよな。
いきなり書くのが辛いっていうか。
まあ、次からは無くす事にするよ、そっちの方が読者さんも良いんだろうし。
でも、代わりに何書こうか……。
まあいいや、節目節目に俺の今の気持ちを入れておきゃいいだろ。
じゃ、続き書くぜ。
書いてて胸糞悪くなる。
ノンフィクション物語の続きをな……。
だるい。面倒臭い。かったるい。
何もかもが、俺の邪魔をする為に存在しているかの様な錯覚を覚える。
しかも、それがあながち唯の錯覚じゃねえ所が最悪だ。
俺のこの不快な気分は何時止まるんだろうか?
その何時かは、もしかしたら俺の【終わりの時】なのだろうか?
なら、今すぐ喉にナイフでも突き込めば。
楽になれるのか?
「ハッ、何考えてるんだ俺は」
アホらしい。
誰が簡単に死んでやるものか。
俺は生きてやる。
この【ゴミ箱】で生き抜いてやる。
例えどんなに汚れてたって、汚れたまま生き抜いてやる。
その為なら、どんな障害だろうと排除する。
そいつも同様に生きたいだろうが、知った事か。
堕ちてきた自分を恨む事だな。
それが俺達屑の生き様だろう?
「さて。まずは情報収集だな」
先程の危機を脱して、俺は人の存在が皆無な路地裏に来ていた。
ここはあまり知られてない場所で、俺以外の人間は滅多に来ない。
ビルとビルに挟まれており、通り道が狭いためだ。
だが、その通り道を抜けると意外と開けた場所に行き着く。
その為、荒事等から逃げるのは最適と言える。
つまり、俺の様な存在にはおあつらえ向きという事だ。
俺はそんな、一時の安住地でズボンのポケットから携帯を取り出す。
情報の収集にはあの馬鹿に頼るほかない。
「癪だがな……」
俺は携帯のボタンを幾つか押して、とある奴の番号に掛ける。
しばらく呼び出し音が鳴った後、電話がつながった。
そして、聞こえてくる何時も通りの――
『はいはぁ~い、どもども~、お電話ありがとう! 今日も元気な【死神】ちゃんでぇ~す。どちら様かな?』
――馬鹿の珍言。
「……【死神】が元気ってどういう事だよ。死と元気が近い意味には思えないんだがな」
『あー。この陰鬱な声と華麗な突っ込みは……真木君?』
陰鬱な声ってのは余計だがな。
「ああ、そうだ。お前にちょっと頼りたい事が出来た」
『へぇ~。そいつぁ、珍しいね』
「……」
【死神】の言葉に俺は少々黙ってしまう。
珍しい……か。
そうだろうな。俺が誰かに頼るなんて。
珍しい部類に入るんだろう。
『まあ、いいよ。君の頼みなら喜んで聞くさ。何の御用だい? 何か入用?』
俺は【死神】の言葉を受けて、話を続ける。
「いや、欲しいのは情報だ。【モノ】じゃない」
『情報?』
【死神】が意外そうな声を出す。
ふむ。矢張り情報を貰いたい経緯を、しっかり話した方がいいか。
俺がそう思考し、電話相手に説明をしようと口を開いた瞬間。
全身を凍りつかせるような言葉の羅列が、俺の耳に届いて来た。
『つまりあれかい? 君が今日、起きて服を着て街に出て。その後適当に老婆の財布を奪い、それを助けようとしたチンピラを殺し。その後金髪の女の子に殺されかけたと思ったら、次はグラサンがボスの、チンピラ連中に狙われ。現在絶賛逃亡中の君が求める情報を【売ってほしい】って事かい?』
体がピンと張り詰めるのを感じる。
長々とした言の葉が紡がれた先にあった【意味】は、俺の今日一日のこれまでの【行動】。
こいつ……。
「……視てたのか?」
俺の質問に、【死神】は事もなげに一言。
『勿論視てたよ』
……悪趣味な野郎だ。
こいつは人の行動を逐一把握してやがる。
いや、正確にはこの【ゴミ箱】で起こる大体の事を掌握しているという所か。
そういう事が出来る奴だ、こいつは……。
【死神】って通り名は、別に人に死を届けるって意味じゃない。
人の生を手中に収めているって事だ。
誰もこいつの監視下以外で、生を歩むことは出来ない。
勿論それは【ゴミ箱】での中だけなのだが……。
『それで? どんな情報を御所望かな? 金髪の女の子の狙い? 襲ってきたチンピラ連中の狙い? もしかして、老婆のその後を気にかけてたりする?』
ペラペラと【死神】は喋る。
もし、こいつが俺の敵だったら、俺は真っ先にこいつを殺しに行くだろう。
だが、こいつは敵じゃない。味方……と言い切れるかは疑問だが。
とりあえず、敵じゃない事は確かだ。
だから俺は、お喋りな【死神】に多少の安心と共に目的を話す。
この腐った連中だらけの街で、俺が頼れる数少ない人間。
それが【死神】なんて通り名が付くほどに、人間離れしているという事実に。
俺は少しばかり顔を歪めてしまった……。

小説大会受賞作品
スポンサード リンク