頑張りやがれクズ野郎

作者/ トレモロ

【素人ですよ】―壱


人は闘争が好きだ。
平和を愛する心、友愛を大切にする心。確かにそういうモノも存在する。
だが、人と言うモノは闘争が好きだ。
だからその猛獣を抑えようと常に努力し、生きている。
闘争は悲劇を生む事が多いからね。
そして人は友愛の心で、闘争の精神を抑え込む。
何とも美しく下らない事じゃないか。

さてはて、私の友愛の精神は後何秒持つかねぇ?
君も早く逃げた方がいいかもしれんぞ。
ご友人兼闘争相手さん?
おおっと、そんな怯えないでくれ。
ただ単に私の部屋へ行って、手榴弾の一つでも持ってくる程度の。
【闘争】なのだからね。


―――アキラムスト・デ・ラル
            自らに批判的な学者との対談内容より抜粋。






床にモノが擦れる音。
耳障りな不快音。
一旦止み、直ぐに再開される。
不規則で断続的な怪音。
「殺す。殺す。殺す。殺す」
勝手に俺の口が言葉を紡いでいく。
ぶつぶつと、口から【音】が零れてくる。
殺意。
それが今の俺を動かす理由。
病院の入口に居た屑共。そいつらから奪ったアサルトライフルを、だらしなく下げた腕で掴みながら歩く。
床に接触する銃口部分が、人間の耳には明らかに拒絶したくなる音階を出していく。
だが、俺にとっては。今の俺にとっては、これ以上ない素敵なメロディだ。
「殺す。今ここで、ここに居る馬鹿共は。すべて殺す。八つ裂きにして殺す。八分裂きにして殺す。腕を肛門にぶち込んで、みっともなく失禁させてから殺し尽くす」
低い声で静かに、自分でもわかるほどに憎悪の念を込めて、呟き歩く。
恐らく俺は今、途轍もなく楽しそうに笑っているだろう。
昂っている。
別に人殺しが好きとかではない。
殺人享楽者ではない。別に仕事が殺し屋とか言う訳でもない。
だが、俺を殺そうとする奴等を、殺し返すという事は。
余りに。余りに楽しい事なのだ。
ああ、分かっている。
最低最悪の思考だって言うのは解っている。
こんな事を考える奴は、地獄に落ちて、煉獄の炎で焼かれてもまだ足りない。
どうしようもない、外道だって言うのは解っている。
でも、だからなんだというんだ?
そんな事が何だというんだ?
知らない。
俺の身がどうなろうと、しった事か。
誰にどう思われようと、知った事じゃない。
殺す事が出来るのなら、それでいい。
唯、あの屑達を殺せるというのなら。



【それで良い】。


【素人ですよ】―弐


「止まれっ!」
病院の入口から、直ぐの所にある大きく開けた広間。
健康を維持するための施設の癖に、こ汚い色をした灰色の壁。
訪問者を歓迎してない、ゴミや血などが散在した汚らしい床に、目印が置いてあるだけの簡素な受付。
そんな受付にはナース服を来た女達が、怯えながらこちらをうかがっている。
これから巻き起こるであろう【厄介事】に、巻き込まれたくない。
そんな意思がくみ取れる。
まあ、そうだろうな。
俺に今制止の声を投げかけた奴等は、明らかに物騒な連中だしな。
だが、俺にとってはそんな奴等どうでもいい。
無視してまた歩き出す。
「てめぇっ! 止まれって言ってんだろうがっ! 体に風穴開けんぞっ!!」
銃を構える音。
仕方なしに俺は視線をそいつらに合わせる。
視界に入ってきたものは、大きさがまばらな【黒い穴】の行列。
即ち数々の種類の銃器の銃口が、俺に向いていた。
「おめえ、さっき外に居た仲間殺した奴だな? 随分と派手に音鳴らしてたじゃねえか、中からでも丸聞こえだったぜ?」
俺が立ち止まり、意識を自分たちに向けた事に満足したのか、銃を持った一団の前に居る奴がペラペラしゃべりだす。
黒色のシャツに、男物のズボン。服装は男性のそれだが、上半身にある二つの膨らみと、口調に反して整っている顔から女だという事がわかる。
しかし、男っぽい女だな。構えている銃がショットガンってのが、また女に似合わない。
そして、お喋り女の後ろには複数の人間。
数は大体六人程度だが、構えている銃器たちが凶悪すぎる。
拳銃、散弾銃、突撃銃なんてのは可愛いもので。
機関銃なんかを持ちだしている阿呆までいやがる。
「その銃はあいつらから奪ったんだろ?」
俺が持っている銃を見て、漢女が冷徹な声色で言う。
だが、目にははっきりと敵意と殺意が見て取れた。
「許せねえっ!」
「謙二と君塚をよくも!」
「ぶっ殺して土に埋めてやる!!」
口々に後ろの取り巻きどもが、俺に怨嗟の声を投げかけてくる。
五月蠅い奴等だ。
「おい、黙ってないでなんとか言えや。それとも、遺言を語る時間は要らねえか?」
漢女が挑発的な笑みで言葉を発する。
遺言。
遺言ねぇ。
「く、くははっ。遺す言葉か、そう来たか。はははっ」
「なんだ? 何がおかしい?」
突然笑い出した俺を訝しがって、チンピラ共が銃を構えながら聞いてくる。
全く持って間抜けだ。
俺が人に何か残す言葉があると思っているのか?
俺みたいな人間が、誰か他人に遺志を伝える?
ハッ! 全く持ってお笑いだ。
なんとも詰まらないジョークだ。
それに、これから遺言を言いたくなるようになるのは俺じゃない。
じゃあ誰だ?
決まっている。
決まっているじゃあないか。

「オイ、チンピラ共。おめえらはさっきから間違いばっか犯してやがる」
だらりと腕をぶら下げて、俺は忠告を始める。
そういや、グラサン達が襲ってきた時もこんな事を言ったような気がするな。
頭が頭なら、尻尾も尻尾か。
「あ? なんだ、哂いだしたと思ったら急にほざきやがって。やっぱり、命乞いでもしたくなったか?」
漢女が哂いながら言う。
哂って、笑って、嗤っていやがる。
ああ、屑共が哂う所って言うのは、なんて言うか、本当に、心の底から、奥の奥のそのまた奥の底から。
【不愉快】だ。
「一つ目の間違い。俺を見つけた瞬間に撃ち殺さなかった事」
歩く。
屑共と俺の距離はさしてはなれていない、だからゆっくり歩き近づく。
「止まれつっただろうが! 何勝手に動いてやがる!!」
取り巻きの一人が何か言うが、知ったっこっちゃあない。
無視して歩き続け、しゃべり続ける。
「第二に、てめえらは俺を相手取って喧嘩しようとしている。第三に、実力が解らない相手に対して余裕を見せている」
引き裂くような笑いを浮かべながら、ゆっくりと歩く。
俺は死刑執行人だ。
こいつらクズを殺しつくす、断罪者だ。
「何なんだこいつ。目がいかれてる! 鹿羽、こいつさっさと殺した方が絶対いいぜ!!」
喚くなクソ共。
ウザいんだよ、五月蠅いんだよ、死ね死ね死ね死ね。
てめえらが呼吸するのが許せねえ。存在するのが許せねえ。
許せねえったら許せねえ。だから逝ね
「第四の間違えは――」
そこで足を曲げ、力を込める。
呟きながら、銃を握り直し。
【走る】。
「な……っ!?」
低姿勢に屈んで、一気に漢女の前まで走り寄る。
距離が近かったせいもあるが、突然の俺の行動に対応できない屑共は、只硬直したままだ。
その硬直した連中の一人である、漢女の耳元に口を近づけ。
俺は言ってやる。
「――お前ら殺し合いの仕方が、全くわかっちゃいねえって事だ」
そして、そのまま、固まって動けない様子の女の肩を台座代わりに、銃を構えライフル二丁をを後ろで控えている連中に向ける。
「な、やばっ! う、撃て――」
漢女の部下であろう機関銃を構えた男が、いち早く状況に気付き応戦しようとする。
だが、そこで奴の重火器達が火を噴く事は無かった。
何故か?
それは俺が奴らの仲間越しに、銃を構えているからだ。
俺は今、二丁の銃を漢女の両肩に添えて構えている。
つまり、奴らが銃弾を放ったら、真っ先に死ぬのは自分たちの仲間だ。
それが解っているからこその逡巡。
クズの癖に、仲間を思う行動。
それが奴らの【死】に繋がる。
「や、やめ……ろ!」
漢女がようやく事態を理解して、俺から離れようとする。
だが、もう遅い。
全員ここで消えてもろう。
さあ、絶望に顔をゆがめろ外道共!


「虐殺のお時間だっ!! ヒハハッッ!!」