頑張りやがれクズ野郎

作者/ トレモロ

【少女再びですよ】―壱


いよう。
また会ったな、俺だ。
俺のこの前文のぼやきの代わりに、とあるオッサンの言葉入れてみたんだがどうだった?
まあ、また次から続きを乗っけようとは思っているんだけどな。
俺のこのぼやきは、適当なときに適当に入れる事にした。
自叙伝なんだから、それくらい許してくれるとありがたい。
まあ、一応説明しておくとだな、アキラムストってのは性格が悪い詩人で有名なんだが、結構俺は好きなんだ。
意識して皮肉を言ってる訳じゃない癖に、異様に風刺的な事言いやがる奴でな。
本とか色々出してるんだが、タイトルは全部編集者がや決める所為で、本人が不本意な題名ばっか付けられてたりして……って、俺の自叙伝に他人の本の事語ってどうするんだろうな? ちょいと脱線のしすぎか。
さて、ここまで読み進めてもらった読者さんなら解ると思うが、俺は本当に酷い人間だ。
【屑】って言葉の意味がよくわかってくれたと思う。
そして今も俺は【屑】だ。だけど、流石にここまでじゃあないぜ?
つーか外道すぎる昔の自分を書いていて、軽く鬱になってきたんだが……。まあいい。
いい加減続きを書こう。
【アイツ】――もう名前は解ってると思うんだが、まだ名字だけだから【アイツ】で通そうと思う――と俺との出会いの物語。
今の俺達に至るまでの、その始めの物語。
その続きを始めよう。


といううか、ひでえ関係から始まったもんだな、【俺達】は……。









「ここか」
階段を登りきって、右に曲がった所。俺の視界にスライド式のドアが設置された病室が、長い通路にいくつも入ってきた。
その中の一つの手前まで来て、俺は呟く。
病室のドアの右側には『参百壱』と言う、珍しい漢数字での病室番号が、銀色のプレートの上に白い字で書いてあった。
先程の漢女が【教えてくれた】通りにした所、奴らのボス。グラサン野郎の部屋までたどり着いた様だ。
だがしかし、あの女の言葉だけでそこまで解る訳がない。
あの女が教えたのは、【階段を登った先の直ぐ右】。と言う情報だけであって、病室番号などの具体的なモノは一切喋っていなかった。
あの状態では喋る事も出来ないと思い、漠然とした情報だけ手に入れて、後は適当に探そうと思っていたので、そこまで知る必要もない。
だが俺は直ぐに解った。
俺を狙ってきた糞野郎どものボスが、どこにいるのか直ぐに分かった。
悩む事もなく、階段を上って少し歩いただけで理解した。
何故か?
それは――


「あれ? お兄さん!! やっと来たんだね! 待ってたよ!!」


――【先客がいた】ってだけだ。


【少女再びですよ】―弐


朗らかに笑う金髪の少女の周りには、死体が転がっていた。
いたるところに生命活動が停止した生ゴミが転がっていた。
腐っても大病院だという事を誇示するかのように、例え四人程度の患者が出ても、ストレスなく入院生活が送れそうなほどの大きさの病室。
そこに広がっているのは【朱色】だった。
さっき自分が創り上げてきた残酷な殺人現場とは、また違う殺戮現場。
残酷ではなく、凄惨な。少し美化して言えば【美しく】さえもあった。
首が水平に切断され、断面の赤が綺麗に見える死体。その傍には分離された頭が無造作に転がっている。
頭に細い突起状の長い棒が刺さっており、後ろの壁まで到達しているため、張り付けの様になったまま絶命している死体。
何十本ものナイフが等間隔に、一定の奇妙な規則を以てして体に刺さっている死体。
そんな何かの儀式の為の生贄の様な殺人による死体が。部屋に七、八体存在した。
だが、そんな死体だらけの状況なのに、殺人後のあの独特な嫌な感覚がしない。一種の芸術とさえ思える。
神話のワンシーンの様な。そんな一つの特殊な空間が目の前に広がっていた感覚に陥る。
「てめぇ、なんでここにいる?」
とりあえず俺は目の前の、この状況を創り上げたであろうガキに尋ねてみる。
「うん? ああ、さっきあなたになげとばされてか――」
「ひいぁいあああああああああああっ!!」
と、金髪殺戮少女がこの場に不釣り合いな、しかし年相応の笑顔を浮かべながら何か喋ろうとした所を、途中で情けない男の悲鳴が遮る。
声の発信源を目で追うと、そこには病院のベットの上で、青い色の患者服を来た男がガタガタ震えている姿が目に入った。
ん? こいつ、あのグラサン男か。
部屋にガキが佇んでいた時には、病室のいたる所に散在する死体のどれかがグラサンなんだと思っていたが、どうやら生きていたらしい。
命が長らえて運がいいのか悪いのか。どちらに転ぶかはこれからの流れ次第だろうがな。
「ば、ばばば、ばばばけもののののぉっ! ほ、ほほほんものののの、ばけものだぁあああっ!!」
目の前で仲間達が無残にも殺されていく様を見て、精神崩壊でも起こしたのだろう。
グラサン男はベットの端に両手をついて、みっともない姿勢で叫んでいた。
大きく開いた足の間には、恐怖のあまり失禁したらしく、汚らしい液体でベットのシーツが汚れていた。
「あーあ。てめぇ、大の大人をここまで追い詰めるって、どんだけひでえ事しやがった? 末恐ろしいガキだなオイ」
「あははっ! 大したことはしてないよ! こんなのそこらのスプラッタ映画だったら普通にあるんじゃない?」
「映画と現実をごっちゃにするな阿呆」
目の前でニコニコ笑って嫌がるガキに、俺は適当に言葉を掛ける。
本当はグラサンをぶち殺しに来たのだが、正直先程で気分を高揚させ過ぎて今は萎えてしまっている。
それに加えてここまで無様な醜態を晒すおっさんを、いくら屑野郎とはいえ殺すのは正直面倒臭い。つーか、アイツの近くに今寄りたくない。排泄物の臭いが移りそうだ。
「ま、じゃあ、てめぇは一応殺しておくか」
軽い調子で呟きながら、右手に持ったアサルトライフルをガキに向ける。
このガキは色々【ヤバい】。早々に殺しておいた方があとくされもないし、元より殺すつもりだったのだから、手間が省けて一石二鳥だ。
グラサンの方は放っておいても良いだろう。恐らく部下は全て殺された後で、ろくな戦力もあるまい。
俺がここに来るまでに何人か殺しているし、ここにもそこそこ数がいた。
つまり、もうこれ以上の【力】を、目の前の失禁グラサン野郎が持っている筈が無い。
後はこのクソ野郎に武器を渡した、背後関係の【何か】だけだろうが、それはまたそいつらが向かってきた時考えればいい。
今は俺の命を狙っているこのガキ。
ホムサイドのガキを殺す。それだけだ。
グラサンは暇が合ったら、後で殺しておけばいい。
「そんじゃま、殺すけど。遺言とかあるか?」
照準を小柄な体の、一部分。心臓に定めながらガキに尋ねてみる。
するとガキは一瞬悩んだ顔をした後、再度二コリと笑って俺に返事をよこす。
「何で?」
と短く一言。
「なんでって……。そりゃあ、お前。一応?」
なんだか阿呆な返事を返した気がするが、まあ、気にするほどのものでもないだろう。
だが、目の前のガキは、【ホムサイド】は笑いながら。
とても少女らしい笑みを浮かべて、俺よりも【阿呆】な事を言う。
「ははっ! あり得ないよおじ……じゃなくて、お兄さん!!」
「あぁ?」
銃を眉間にぶち込もうとしている男を前にして、さも自分が死なないとでも言う様な顔と言葉。
そしてその俺のあり得ない筈の想像は、全く持って残念な事に――


「だって、私は正義だから、死なないんだもの!!」


――【正解】だった……。