頑張りやがれクズ野郎
作者/ トレモロ

【逃亡しますよ】
さて、四日目だ。
どうだ、ここまで来たぞ?
三日坊主って言葉は俺には当てはまらなかったようだ。
誰かさんが言ってたが、人間三日続けりゃそれは習慣になるらしい。
つまりこの自叙伝を書くという事は、もう俺の生活の一部ってぇ事だ。
凄いだろ?
まあ、読者様にとっちゃあ凄くねえのかもしれねェが、俺にとっちゃあ凄いんだよ。
褒めてくれ。
誰も褒めてくれねえなら、俺が俺自身を褒めるぜ。
良くやった俺。
さて、三日目に描いた内容は……。
ああ、ここか……。
このころの俺は本当に最低だな。
【アイツ】の行動も行動だが、俺の行動もひでえな。
出会いがしらに人を殺そうとするなんてよ……。
まあ、いい。
話の続き書くぜ。
ちょっとばかし、嫌な過去なんだがな……。
「ひとくず? ってお兄さんの事かな?」
目の前でいまだ俺に髪を掴まれ、地に足がついてねえ糞ガキが何か質問してくる。
「知らねえよ」
一々ガキに律儀に答えるのも面倒だ。
それにしても【人屑】ね……。
こいつら、その言葉の意味分かって言ったのだろうか。
「知らねえってこたぁねえだろ? 小さい女の子にゃ優しくするべきだぜぇ? ほら、教えてやれよ。てめぇがどんな野郎かって事をよ」
サングラスが、俺に向かって厭らしい目を向けつつほざく。
面倒すぎる。
あまりにテンプレートな挑発。しかも、数に頼って俺を潰そうとする姿勢。
ああ、嫌だ嫌だ。腐った人間のする典型的な行動。
俺は嫌いなんだよ、お前らみたいな連中が大っきらいなんだよ。
この糞ゴミ共が。
「俺がどんな奴かって? ケッ、んなとこと始めっから分かってんだろうが。なあ、ガキ」
「え? あ、うん。お兄さんは屑野郎だよね!!」
またも良い笑顔でガキが言ってくる。
だが、その通りだ。
分かってんなら良いんだ。
だから。俺がこれから何をやったって。
恨むなよ?
「おい。チンピラ共。一つてめえらに教えておいてやる。基本的な事だ」
「ああ?」
グラサンが俺の言葉に反応して、疑問の声を上げる。
「なんだよ? 命乞いかぁ?」
「ヒャヒヒヒヒヒヒ!!」
グラサンの厭らしい言葉に、後ろで銃を構えていたチンピラの一人が同調して笑う。
嫌な笑い方だな、オイ。
「違う違う。そーじゃねえ」
「じゃあ、なんだっていうんだよぉ?」
またも後ろのチンピラが馬鹿にした様に言う。
俺はそっちには特に気を向けず、グラサンの方に視線を固定しつつ話し続ける。
「てめえらは今。俺の前で仲良く並んで銃を構えてる様だがな。それじゃあ、駄目だ」
「は?」
「誰か一人を行動停止に追い込むにゃあ、逃げ道を作っちゃいけねえ。囲むように周りを固めねえと……」
言いながら、髪をつかんで拘束していたガキを一回抱きよせ、今度は服をつかむ。
「わわっ!」
ガキが驚いた様に声をあげるが、無視。
そのまま、自分とガキの体重を一旦後ろに移動させ、そのまま弾みをつけて行き良いよく前に戻す。
結果。
「ぶわはっ!?」
「きゃあっ!!」
ガキは先程と似たような感じに吹っ飛び、今度は電柱ではなく前に立っていたグラサンに当たり停止する。
「ボス!!」
「やべぇ、ボスが白目剥いて倒れてやがる!!」
「クソっ! 病院に連れてかねえと!」
「でも、このガキはどうする!?」
「知るか! ほっとけ!!」
取り巻きどもが急いでグラサンに駆けよっていくのが遠目に見える。
そう、【遠目】だ。
投げた瞬間俺はすでに、走って路地の裏に隠れた。
あいつ等が俺の存在を思い出す頃には、既に俺はとっくにどっかに行っちまってるって事だ。
「まあ、こういう事があるから気をつけろってな」
俺は、誰に対してでもなくさっきの言葉の続きを言いながら、路地の裏を歩く。
ガキを置いてきちまった所為で、なんで俺を殺そうとしたか聞けなかったな。
まあいいか。恨みなら沢山買っている。
それこそ数え切れないほどに。
思い出すのも面倒だ。
それよりも。
「人屑……ね」
嫌な名前だ。
どうせならあの馬鹿共みたいに、【死神】とか【狂犬】とかいう名前の方がましだったかもしれない。
つーか、あいつ等は何もんだ?
襲われる理由は一体何だ?
「ああ、畜生……」
面倒臭い事になってきた。
あいつ等がまた絡んできやがったら、どうするかな。
殺すか?
あの人数相手に?
武器も持っていやがるのに?
「ちっ、だから嫌いなんだ、この街は……」
何時も何時も、面倒臭い屑共が蔓延りやがって。
「かったりいなぁ、糞野郎が……」

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