『四』って、なんで嫌われるか、知ってる?

作者/香月

第一話


 窓がガタガタ鳴っている。幽霊登場シーンで流れてきそうな、怪しい風の音。
 はーあ、超憂鬱。こんな日でも、学校は平常営業。いっそのこと、学校なんて風に飛ばされちゃえばいいのに。火事でもいいけどさ。
 何でもいいからとにかく、無くなって欲しい。

「蘭、蘭!起きて!外見て、そとっ!」

 そんな危ない思考を破る、凛のうるさい声。何をそんなに興奮しているんだ。

「らんっ!起きてる?」
「朝っぱらからうるさいよ。とっくに起きてるよ」

 ドアを壊す勢いで入ってきた凛に、ため息まじりで言う。

「外見た?」
「見たけど」
「やばくないっ?」
「何が?」
「台風八号!すごい風!こんなの生まれて初めてだよ~!」

 無駄に騒ぐ凛。さすが天然おばかさんだ。学校のテスト0点連続取得記録を塗り変えただけのことはある。

「警報出てる?」

 ベットから這い出ながら、少し期待を込めて聞く。もしかしたら、学校が休みになるかもしれない。
 そう思いつつ足を動かすと、鈍い痛みが走る。
 そういや昨日、久しぶりの部活だったな。完全に筋肉痛だ。余計に気分が重くなる。

「出てるよー!さっき塁が言ってたんだけど、何だっけな。えっとー」
「あー、いいよ。塁に訊くよ」

 制服を手に取る。凛の記憶力の悪さは、私が誰よりも知っている。ぬか喜びする羽目になるのはごめんだ。

「今日、学校あるかなー?」
「さあね。警報次第だと思うよ」
「休みになったらやだなあ」
「なんで?」
「え?フツーにヤじゃない?」

 凛の思考回路は理解不能だ。同じ親から生まれたのに、何でこうも違うのだろうか。生命の神秘ってやつ?いやでも、性格は環境によって変わるって、あのハゲ担任が言っていたような気がしなくもない。
 階段を下りながら、好きでもない生物分野のことを考えていたら、

「蘭!社会のノート貸してくんね?」

 玲の日に焼けた顔が目に飛び込んできた。玲は、どんな環境で育てられたらこうなるんだと言いたくなるほどの、スポーツバカだ。そう、スポーツ『バカ』なのだ。

「何でよ、塁に借りてよ」
「俺はもうほかの人に貸しちゃってるんだ。だから無理」

 背後から静かな声。
 塁は、親からすれば理想過ぎるほどの天才で、私の唯一の敵だ。一度でいいから、塁よりいい点がとりたい!・・・というのが、私の目下の目標なのである。

「な!だから、蘭に頼むしかないんだよ」
「私は~?」
「凛のノート、解読不能だからだめだ」
「えっ、ひっど!玲のだって、象形文字じゃん!」

 私は、どんぐりの背比べを始めた玲と凛を無視して、塁に尋ねた。

「塁、今警報出てる?」
「うん。でも、学校からは連絡無いから、休みじゃないよ」

 塁が、私の考えを見透かしたように言う。
 塁が言うんなら、絶対だ。あーあ、超最悪。ちょっと期待してたのに。なんか、胃がむかむかしてきた。朝ごはん食べるの、面倒だな・・・。
 と、思った矢先に、

「ほら、そこの四人!早く食べないと、遅刻するよ!今日は風も強いんだから、飛ばされないようにいっぱい食べておかなきゃ」
 
 お母さんの声。後半のセリフに多少疑問はあるが、私は素直に返事をした。
 我が家には、どんなに遅刻しそうでも、たとえ遅刻をしても、朝ごはんは抜いてはいけないという非常に面倒な決まりごとがある。胃のむかつきだって、決して例外ではないのだ。

「いただきまーす」

 若干ずれてはいたが、そろって声を上げた私たち四つ子は、目の前に用意された食事を黙々と食べ始めた。

 

 そう、私たちは四つ子なんだ。