『四』って、なんで嫌われるか、知ってる?
作者/香月

第十五話
目が覚めた。
「…あれ……」
一瞬、自分がどこにいるのか分からなくなったが、見慣れた天井に、自分の家だと気が付いた。
「はぁ」
今日も、学校という地獄生活が始まるのか…なんて、ため息をつきながらベットを下りた瞬間。
「痛っ……」
急に、激痛が脳を駆け巡った。
額を押さえる私。
どうしたんだろう、急に……昨日、夜中まで勉強したんだっけ。
そう思ったとき、何か違和感を感じた。
……そう、なにか…。
…昨日…あれ?
昨日、何したんだっけ?
一生懸命思い出そうとするけれど、頭の芯がずきずきと痛むだけ。
ヤバいな、もう老化現象が始まったかも。
仕方ない、とりあえず朝ご飯を食べなきゃ遅刻する。
アルツハイマーという言葉を思い浮かべながら、階段を下りた。
「お父さん、お母さん。もう朝だよ!」
例のごとく、まだ起きていない両親を起こすために、リビングの隣の部屋のドアを開ける。
「起きてってば、二人と……」
私は口をつぐんだ。
部屋の中が、もぬけの殻だったからだ。
……え?なんで…?
あの二人がこんな朝早くから出掛けるなんて、私が豚を飼いたいと言い出すのと同じくらい有り得ないことだ。
だからきっと、出掛けたんじゃないはず。
「……お父さん?……お母さん?」
部屋の中に向かって呼びかけるけど、返事はない。
空虚な静寂が、辺りに広がってゆく。
……嫌な、静寂だ。
「………蘭?どうしたの?」
不意に聞こえた背後からの声に、私はすぐさま振り向く。
けど、お母さんでも、ましてやお父さんでもなかった。
「……凛」
「おはよ~う。お母さんたちはぁ?」
「それが……」
私がいきさつを話そうとしたとき。
「………あっ!!」
思い出した!
昨日……シアンが話し出して…!それで、確か…しっぽを振り下ろした瞬間、気を失って…。
……そうだっ…!
「…りんっ、昨日シアンが、邪魔者は排除するって言ってたよね!?」
「……え~?シアン?」
最初は寝ぼけ眼だった凛も、だんだん昨日のことを思い出したのか、
「……そ、そういえば、言ってたかも」
真剣な顔つきになった。
私の心臓が、急に心拍数を上げ始める。
「………あのさ。……お父さんとお母さんが、いないん………だけど、さ」
最悪の事態を思い浮かべて、恐る恐る口にしたとき。
「心配しないで。あの二人は、殺してないから」
下から、何よりも聞きたくない声が、耳に響いてきた。
けど、昨日と比べたら、内容は幾分ましだ。
シアンが本当のことを言っているなら、の話だけど。
「……お父さんとお母さんは、どこ?」
私は半歩下がりながら、けれども声を強くして尋ねる。
「これから、色々と邪魔になりそうだったから、追い出しちゃったわ。国外追放。いいじゃない、殺してないんだから。怒らないでよね」
癇に障る高い声で、おどけたように言うシアン。
でも、次の瞬間に、雰囲気を一変させてほほ笑みを浮かべた。
「まあ、今後はあなたたち次第ね。
余計なことをするようなら」
見る者を奈落の底に突き落とすような、残酷なほほ笑みを。
「死刑にしてあげないことも、無いわよ」
『……もしもし、篠原さんのご家族の方でしょうか?こちら、佐藤大学病院ですけれども』

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