『四』って、なんで嫌われるか、知ってる?
作者/香月

第十四話
凛の表情が、見る見るうちに抜けていく。
血の気も失せて、綺麗なはずの黒い瞳も虚ろになって。
まるで、木偶のようだ。木彫りの人形。
冷静にそんなことを考えている自分が、嫌になった。
「そんな顔をしたって、もう遅いわよ。だって、あなたが選んだんですもの。わたしをこの家に連れてくるっていう選択肢を、ね。分かるわよねぇ、凛ちゃん?諸悪の根源は、あなたなのよ」
…こいつ……凛を精神的に追い詰めて、身動きを取れなくしようとしている。
…目的は?
私は険しい顔つきで、シアンを見つめる。
嬉々とした表情。
その顔を見て、私はゾッとした。
……シアンは、人が絶望するのを見て、愉悦しているだけだ。目的なんてものはない。
…なんて奴…!
「凛ちゃん、も」
「凛っ!」
私は、シアンの言葉を鋭くさえぎる。
こんな奴に、凛を好き勝手にされてたまるか。
私は、横目でシアンをにらんだ。
「凛のせいじゃない。いい、よく聞いて?
りんの、せいじゃ、ないよ」
私は一語一語を区切って、ハッキリと発音する。
凛の心と頭に、刻みつけるように。
「そうだよ、凛。こいつは、凛の反応を見て面白がってるだけだ。
俺たちの言葉じゃない。
俺たちが言ったんじゃないんだ。
凛が責任を感じるようなことは、何一つない」
塁も、いつもより強めの声で凛に語りかける。
その言葉に促されたように、凛が顔をこちらに向けた。
「……」
今にも泣き出しそうな顔。
……よかった。表情が戻ってきた。
凛には悪いけど、私はほっと胸をなでおろした。
表情のない凛の顔は、まるで暖かみのない人形のようで、怖い。凛自身まで抜けていってしまったような、気がして。
「……あーあ、残念。せっかく凛ちゃんのお顔、綺麗だったのにねぇ」
シアンがまた話し出した。
「死体みたいで、ね」
満面に笑みをたたえている。
死体なんて……縁起でもない。
「さてと…もう言うことも無くなって来たし、そろそろ準備に入るとしましょうか?」
「……準備?」
塁が怪訝な目をシアンに向けた。
「そうよ」
うなずいて、豊かな毛に包まれたしっぽを立てるシアン。
「思う存分楽しむために……邪魔者は、取り除かなくちゃいけないわ」
私はそのしっぽが振り下ろされるのを最後まで見ることなく、意識が途絶えた。
「……お父さん?……お母さん?」

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