『四』って、なんで嫌われるか、知ってる?

作者/香月

第十二話


 「あ、それともうひとつ」

 尻尾を一振りするシアン。

 「初めに注意しておくわ。わたしを殺そうとしたって無駄よ。わたしは森羅万象をつかさどる、科学の力が及ばない存在だから」
 「……どういう意味?」

 凛が、訳が分からないと言いたげな顔で私に訊いてきた。

 「…だから…全てのものを操ることができる、非科学的な存在ってこと……?」

 私は、凛にも分かるような言葉で翻訳する。
 とは言え、私も状況は飲み込めていないけど。

 「そうよ。だから、科学的に考えれば不可能なこと…あのウサギを殺すことだって難なくやってのけるし、こうして人間の言葉を話すことだってできる。『科学』なんて所詮、人間が勝手に定めた法則よ。科学には、例外なんて星の数ほどあるわ。わたしもその例外のひとつ。『科学』という妄説に、いつまでもとらわれていてはだめよ」

 ……そんな、有り得ない。
 つまりシアンは、化け物の存在を信じろ、と言っているようなものでしょ?
 そもそも、犬が話すってこと自体、信じられないのに。
 そのうえ、この世の全てのものを、自分の意のままに操れるなんて…。
 ……シアンは、何者なの……?

 「あ、そういえば」

 ふいに声を発したシアンが、どうでもいいことだけど、と前置きをしてから言った。

 「獣医さんが行方不明になったでしょう?あれも、わたしがやったのよ」
 「えっ!?」

 三人……私と凛と塁の裏返った声が、重なった。

 「だってあの人、余計なこと言うんですもの。わたしは、自分の計画を人に荒らされるのが嫌いなのよ。想定外の所でわたしの正体がばれてしまったら、気分悪いもの」

 ……そんなくだらない理由で?

 「獣医さんをどこへやったの?」

 私は、口調を少し強めて尋ねる。
 奥さん、すごく心配していたのに。
 どうでもいい理由付けで人に危害を加える方が、よっぽど気分悪い。気分、というか、気味が悪い。一体どんな神経をしてるの、あんたは。
 そう言いたかったけど、さすがにそこまでの勇気はない。

 「さぁねえ。わたしは知らない」
 「嘘!」
 「嘘じゃないわよ。私はただ、この世から出て行くように命令しただけだから」

 ………!!
 …それって…もう……。

 「あと、今入院している兄弟…玲くんだったかしら?いるわよね。その子の事故も、わたしのしわざよ。もう、うすうす気づいてたとは思うけれど」

 玲の事故まで……!
 そういえば玲、幽霊に突き飛ばされて車にひかれた、とか言っていた。あれは、シアンのせいだったんだ。

 「あの子のは、失敗したわね。本当は殺してしまいたかったんだけれど。…まあ、いいわ。これからが本当のお楽しみよ」
 「……何が、失敗だよ。なんでお前は、こんなことをするんだ?」

 塁。押さえているけど、怒っているのが声で分かる。

 「そうだよ!理由を教えてよ」

 凛も、嫌悪感をあらわにした顔をして言う。
 そんな私たちを見て、

 「……理由?そんなの簡単よ」

 シアンは笑った。

 「『四』っていう数字が、嫌いだからよ」

 怯える子どもたちを前にした、狂ったピエロのように。







 「全部、ぜーんぶ、あなたのせいなのよ」