『四』って、なんで嫌われるか、知ってる?

作者/香月

第十八話


 「凛、起きて。今日は玲の退院の日だから、迎えに……」

 行かなくちゃ、という言葉を飲み込んだ。
 凛は、すでに起きていた。
 目を、真っ赤に腫れさせて。

 「うん……」

 弱々しい凛の声。
 もしかして昨日、ずっと泣いていたのだろうか。お父さんとお母さん、おばあちゃんのことを想って。

 「……りん…」

 凛の姿がやたらと小さく見えて、胸がきしんだ。




 「蘭!」

 病院の前で、私を呼ぶ声がする。
 玲、もう病院を出たのだろうか。気が早いな……と呆れていたら。

 「…え…向井くん?」

 立っていたのは、玲ではなかった。
 クラスメイトのサッカー部所属、そして私の彼氏。

 「あれー、ムッキーだ~!」
 「向井、何でここに?」

 向井くんは、おそらく凛に付けられた妙なあだ名に苦笑しながら、片手を上げた。

 「玲が今日退院するって聞いてさ。友人代表として来たんだけど、邪魔だったかな」

 色素の薄い髪を夏の生温かい風に揺らし、日本人離れした顔立ちをさらに引き立てる笑みを浮かべる。
 これでハーフですらないって言うんだから、生命の神秘っていうのはやっぱり謎だ。

 「嘘つけー。そんなこと言って、蘭に会いに来たんでしょ」

 凛の余計な一言に、向井くんはイタズラっぽく微笑んだ。

 「そうかもね」
 「……」
 
 私は咳払いをして、三人に言う。

 「……さっさと玲の所行こう」




 「おお、向井!」
 「玲、久しぶりだね。元気?」
 「見ての通りだよ!明日からでも遊べんぞ!」
 「それは駄目。明日は絶対安静」

 ぴしゃりと言い放った私に、玲が不満そうにボソッと呟く。

 「……オカンかよ」
 「ん?何か言った?」
 「何もー」
 「……そう。別に、今日夕飯抜きでもいいんだけどね?」
 「え?おいおい、それはひどいだろ!!ってか、何で蘭がそんなこと言うんだよ。メシ作るのは母さんだろ」

 玲のその言葉に、私は凍りついた。
 そうだった……玲にはまだ知らせてないんだ…。

 ――お父さんたちは、もういないってこと……。





 
 「……何…言ってんだよ……」