『四』って、なんで嫌われるか、知ってる?

作者/香月

第二話


「行ってきます」

 決して明るいとは言えない声でいい、ドアを押す私。心なしか、ドアがいつもより重く感じられる。

「わーーー!!」

 そんな暗い心持ちの私の目に、嵐の中で叫んでいる人影が映った。狂った人みたいだ。

「・・・何やってるの」
「あっ、蘭!何か言った?」
「何で叫んでるの?」
「え?鍋?」

 すさまじい風のために聞き取りにくいのか、凛は何度も聞き返す。
 面倒くさくなった私は、適当にあしらってから体の向きを変えた。風に舞い上がる髪を押さえつけながら、重い足を動かす。
 まだ雨が降っていないだけましだ。これで雨まで降っていたら、仮病を使ってでも学校を休んでいただろう。

「あっ、待ってよ。塁と玲は?」
「二人とも先に行ったよ」
「あれ、そうなの?」

 すごいことになっている髪を気にもせず、こちらに走ってくる凛を見てから、私は空を見上げた。
 何重にも重なった雲が、すばやく動いている。
 まさしく『曇天』という言葉の響きがぴったりな空模様に、私は少し不安になった。





 『四つ子であることの弊害』は、色々ある。
 というかまず、「四つ子だ」と言うだけで大抵の場合騒がれる。

「えーっ、マジで!?」
「似てる!?」
「今度写真見せてー!」

 ・・・などなど。
 まあ、これがごく普通の反応なわけだが、私にとってはうっとうしくて仕方がないのである。単純な玲や凛は別に気にならないかもしれないけど、ていうかむしろ嬉しいんだろうけど、私は騒がれるたびに、

「もっと静かに会話できないの?」

 ・・・と言いたくなる気持ちを抑えて、愛想笑いを振りまいている。
 これが、意外と精神力を浪費する作業なんだよな・・・。
 本当の自分をさらけ出せないって言うのは、なかなかに疲れる。いつもボロが出ないように、気を張っていないといけないからだ。面倒くさいことこの上ない。
 そんな訳で、私は学校という所が嫌いだ。
 いじめを受けている人からすれば、鼻で笑いたくなるような理由だとは思うけど、私的には結構な悩みの種なんだ。

 話が脱線したので元に戻すと、『四つ子であることの弊害』その2は、『比較』だ。
 これは四つ子だけに限った話ではないが、一応こんな私でも、比べられることに苦しんでいた。
 玲や塁たちとは性別が違うのでまだよかったが、凛と比べられる頻度はかなり高かった。
 一卵性って言うのは本当に拍手したくなるほどに顔が同じで、違うのは中身だけ。中身が残念な私は、やっぱりどんなに猫をかぶっても、凛みたいに人と心からうちとけられなかった。それゆえに、昔はよく凛をうっとうしく思ってもいた。
 けど、よく考えたら、凛も同じなんだよね。・・・っていう当たり前なことに、あるとき気が付いた。
 凛は、勉強面で相当苦労していた。していた、と言うか現在進行形だ。そんなそぶりは見せないけど、周りにも私と比べられて、色々言われているんじゃないかと思う。
 それでも、私みたいにひがんだりしない凛は、本当にすごい。まあ、そんなこと考えもしないだけかもしれないが。
 それに凛は基本的に性格がいいから、今では割と凛が好きだ。昔はわら人形の作成を考えてしまうぐらい、気に食わなかったけど。
 ただ、あのバカさ加減はもう少しどうにかならないものかと、たびたび思う。まあ、それが凛のとりえ(?)でもあるし、仕方ないんだろう。

 『四つ子であることの弊害』は、自分の部屋がない、テレビのチャンネル奪い合い戦争がたびたび勃発する・・・とか、挙げればきりがない。なのでこの辺にしておくが、今思うと、あれも『四つ子であることの弊害』のひとつだったのかも知れない。いや、確実にそうだ。
 まさか、朝に感じた不安が大当たりするとは、思ってもみなかった。


「・・・何それ?」
「えへへ・・・捨てられててかわいそうだったから、連れてきちゃった」
 
 へらへらと笑う凛の腕に抱かれていたのは、大きな瞳が目に焼きつく、黒っぽいかたまりだった。