『四』って、なんで嫌われるか、知ってる?

作者/香月

第十七話


 ……え?
 病院…?

 「は、はい、篠原ですが……」

 私は戸惑いながら答える。
 どうして、病院から?っていうか、佐藤大学病院ってどこ?
 玲が入院している病院とは名前が違う。

 『実はですね、篠原幸子さんが危篤状態でして』
 「………えっ!?」

 私は思わず声を上げた。
 幸子って……おばあちゃんが!?

 「ほ、本当なんですか!?」
 『はい。ですから、今すぐ来てもらえますか。本当に危険な状態なんです』
 「わ、分かりました!今すぐ行きます!」

 荒々しく電話を切った私は、凛と塁を呼びに、二階へ駆け上がった。
 その時は、気付かなかった。

 シアンが私の横で、口元を歪めていることに。





 「……おばあちゃん…」

 凛が棺の中に呼びかける。
 そこには、眠っているのかと錯覚するほど安らかな顔をしたおばあちゃんが、色とりどりの花につつまれて横たわっている。
 ……優しいおばあちゃんだった。
 お母さんと喧嘩して、いきなり家に泊まり込んだ時だって、何も聞かずに迎え入れてくれて。もう夜遅かったのに、わざわざ夕飯まで作ってくれて。
 その思いやりが、胸に染みた。
 ……なのに…。
 私の目に、じわっと熱いものがにじむ。
 おばあちゃん、どうして急に……。
 うつむいて悲しみに暮れる私の耳に、親戚の人の声がもぐり込んできた。

 「……蘭ちゃん、大丈夫?」

 遠縁のお姉さんだった。お姉さんと言うより、おばさんと言うべきかも知れないけど。

 「……はい、大丈夫です」

 私は力なく答える。気遣いは嬉しいけど、今は話し掛けないで欲しい。
 そんな私の切実な想いはつゆ知らず、お姉さん(というかおばさん)は血管の浮き出た手を、自分の乾燥気味の頬に当てて続ける。

 「蘭ちゃんたち、可哀想にねぇ…ご両親も亡くなったっていうのに」

 その言葉に、思考回路が一瞬で全停止した。

 「………え?」

 亡く……なった……?

 「どういうことですか!?亡くなった、って……誰が!?」

 急に私が大声を出したのにたじろぎながら、おばさんは当然のことの様に首を傾げた。

 「誰って……蘭ちゃんたちのお父さんとお母さんよ?あなたたちが小さい頃、交通事故で亡くなったんじゃない」
 「………そんな……」

 私は、呆然と立ち尽くした。
 ……シアン。
 私の脳裏に、あの憎らしい嘲笑が浮かぶ。
 絶対に、あいつの仕業だ。
 お父さんたちだけじゃなく、おばあちゃんにまで手を掛けたんだ。
 私は、ぎゅっとこぶしを握り締めた。
 ……許せない。
 許さない。
 戦ってやる。どんな手を使ってでも、あのチワワを倒してやる。



 ……どんな手を、使ってでも。








 「…え…向井くん?」