『四』って、なんで嫌われるか、知ってる?

作者/香月

第十六話


 「……そう、なのか」

 白いベットに横たわり、玲は顔を歪めている。傷が痛むからだろうか……、なんて。
 そんな訳、ない。

 「……うん」

 私たち三人…凛と塁と私は、お母さんとお父さんが外国にいると知らされた日の週末に、玲の所へお見舞いに行こうと決めた。
 目的は、もちろん……すべてを、知らせるため。
 玲は私たちの話を、笑いもせず、疑いもせず、真剣に聞いてくれた。一生かかっても飲み込めないような、途方もない話を。
 もし私が玲の立場だったら、きっと訝しがって、話もろくに聞かなかった。
 どうして玲は、そんなに素直に信じてくれるんだろう。
 そんな様なことを玲に尋ねたら、

 「みんなの目を見れば分かるよ、本気で話してるんだ、って。そんなことも分からないほど俺はバカじゃないし、人が本気で話してるのに、それを茶化すようなマヌケでもねえからな」

 しっかりと前を見据えて、そう答えた。
 ……なんだ。意外と成長してるじゃん。
 私は、玲のその瞳を、少し頼もしく思った。ま、あくまでも少しだけどね。

 「…ほんで、マジで父さんと母さんは外国にいんのか?」

 玲の重い質問に、塁が答える。

 「分からない。携帯に電話しても、この番号は現在使われていません、ってアナウンスが流れるだけ」

 その暗い声に、焦った様に訊く玲。

 「メ……メールは?してみたのか?もしかしたら、メールなら…」
 「……ムリだよ。私たちだってそう思って、何度も…何十回も試したよ。……でも―――」

 凛が、今にも叫び出しそうに顔をくしゃくしゃにしている。
 ……分かる。凛の気持ち。
 私も、不安で、不安で。
 文字通り、胸が潰れてしまいそう、だ。

 「……私…」

 のどの下辺りを押さえて、声を絞り出す私。

 「お父さんの、会社に電話したんだけど。……外国に行ったんなら、転勤になってるはずだ、って思って」
 「……うん」
 「そしたらさ。電話、したらね」

 ……声が、震える。
 うまく息ができない。

 「―――篠原なんて人、いないって…言われて。それどころか、そんな人が勤めていた、っていう記録もない……って」
 「………」

 ―――何度目か分からない。
 不安が増すような無言の空気が、私たちに舞い降りた。




 いつもなら、落ち着く……はずの、家。
 なのに今は、果てしなく心細い。
 まるで底なし沼にはまっているみたい。
 もがけばもがくほど、深みに落ちてゆく。
 ……そして、いつかは―――。

 「!!」

 突然鳴り出した電話の音に驚く。
 …なんだ、ビックリさせないでよ。
 誰からだろう?

 「もしもし?」

 私は、受話器を取った。
 ……それが、どんな知らせかも知らずに。


 『もしもし、篠原さんのご家族の方でしょうか?こちら、佐藤大学病院ですけれども』






 「蘭ちゃんたち、かわいそうにねぇ……ご両親も亡くなったっていうのに」