コメディ・ライト小説(新)

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

噛ませ犬が愛しすぎてツラい
日時: 2021/12/31 02:54
名前: mono (ID: RO./bkAh)

醜いですが、どうぞ読んでみてください。

なんか見知らぬ間に賞をいただいていました…!
ありがとうございます。作者の多忙な時期が過ぎましたら、また再開するのでどうぞよろしくお願いします。

Re: 噛ませ犬が愛しすぎてツラい ( No.36 )
日時: 2018/12/29 00:40
名前: mono (ID: RO./bkAh)

授業が始まる前、毎朝クラスで礼拝が行われる。日南は賛美歌の曲集の冊子開きながら気だるそうに明後日の方向を見ていると、ゆっくりと教室のドアが開いた。

「…」

阪野実里だ。実里は顔を伏せてゆっくりと自分の席に向かう。その実里に寄せられる目線は、目の前で何か数奇な光景が起こったときに向けられるようなものと囁かな笑い声を交えたものだった。実里の顔は左右の垂れた長い髪で見えないが、背中を縮こませて、椅子の背もたれに手を置いて手のひらを握りしめている。おそらく震えているのだろうか。賛美歌が終わった。一斉に賛美歌の本を閉じる。その音に肩を震わせたのがわかった。

「久しぶりだな」

担任が無機質なトーンで実里に声をかけた。

「なんかさ、痩せた?」

隣の席の礼が実里に声をかける。実里は下を向いたまま返事をしない。

「栢野、まだ阪野は本調子じゃないからな」
「はーい」

礼は気前よく返事をした。机上に手を置いて両手を握る。当然、クラスメイトが真剣にお祈りなどするはずがなかった。

「まだ生きてたの?」

礼が千夏に囁く。

「礼ちゃんブラックジョークそれぇ」

千夏は礼の肩を軽く叩きながら、実里を指さした。2人から遠い席の日南は実里を眺めていた。実里は元々自分から口を開く訳では無い。でも1度だけ日南と話したことがある。

「日南ちゃんとずっと話してみたかった」
「は?めずらし」
「ううん、本当は皆そう思ってるよ」
「お世辞胸糞悪い」
「お世辞じゃないけどな…」

確かちょうど1年前くらい、下駄箱で礼を待っていたら実里がやってきた。妙に実里はクラスで浮いていて、なぜだか分からないけど、女子特有のあの1人になる感覚を味わってるであろう最中。日南とたまたまばっちり目があった。この会話を最後に実里は長らく不登校になった。

「実里のやつ、なんで来たわけ?」
「淩に告りに来たんじゃね?」
「やば。うける」

千夏と礼たちは日南と廊下のフリースペースで溜まっていた。日南は口を開くのが面倒になった。

「そう言えば淩がさ、最近めちゃくちゃ説教垂れてくんだけど」
「えぇ、愛されてる」
「もう本当にやだぁ」

あれ?淩と礼って付き合ってたんだ。日南は一瞬顔を上げて、また携帯の通販サイトに顔を戻した。画面を下にスクロールしていると、LINEのメッセージが届いた。

平賀瑛人 今日フリー?

Re: 噛ませ犬が愛しすぎてツラい ( No.37 )
日時: 2018/12/29 02:01
名前: mono (ID: RO./bkAh)

「今日ね、凌オフ日なんだけどさ、早川(サッカー部)と遊びに行かない?」
「…ちょっと待って」

どうしよ。瑛人は学校で携帯の電源切ってるって言ってたから、連絡がつかない。ドタキャンという形になる。

「まさか、瑛人くんとデート?」
「遊びに行くだけだよ」

とりあえずLINEを送った。

今日、礼に誘われたんだけど

今?

うん

って、既読早いしそもそも授業中なんじゃ、学校で電源落としてるのが普通なんじゃ。日南が携帯とにらめっこしていると、礼が日南から携帯を取り上げた。通話をタップして、耳に携帯を寄せる。

「ちょっ、礼っ」

瞬間的に電話は切れた。

「やめろよ」
「こわーい!」

礼は千夏に抱きついた。日南がため息をつくと、瑛人から電話がかかってきた。

Re: 噛ませ犬が愛しすぎてツラい ( No.38 )
日時: 2018/12/29 02:23
名前: mono (ID: RO./bkAh)

古文ってやることないよなぁ。授業を聞かずに瑛人は古文の単語帳を片手に、机の下でスマホを触っている。瑛人は化学を受験科目とするが、数学全般、英語、古典、物理も得意とする。唯一、現代文が苦手らしい。化学基礎と物理基礎、物理、化学、でセンター科目は迷っていた。全て出来てしまうので確実に満点を取るなら、まぁ強いていうなら化学を選択した。進学校では既に数3も始まっているので、瑛人は完全なる「理系」である。

「今日は、職員会議があるから課外はなし」

いつも6時まで缶詰なのに、今日はそれがなしとは嬉しいものだが、しとやかに皆は笑いあうだけである。つまらない。缶詰といっても、毎日5時まで講習のあと6時過ぎまで自習なのだが。瑛人は、日南にLINEをした。

今日フリー?

うん
礼に誘われたんだけど

今?

どうしよ

俺そっち行くから
4時過ぎ

今来い

愛情表現故の虚構だな

打ち返したところで、瑛人の画面には受話器のマークが出てきた。それと共に、けたたましく電話のコール音が鳴り響く。終わったな、瑛人は黒板に顔向け、自ら教師と顔を合わせた。

「平賀。携帯よこせ」

電話を直ぐに切って席を立ち、教卓に向かってあるいた。

「先生、最後に電話したい人がいるんですが」
「没収終わってからでいいだろ」
「いえ。予定の調節だけしたいのですが、本人に申し訳ないので電話を掛け直してもいいですか?」

渋々教師は了承した。教室が静まり返り瑛人に視線が集まる。

「日南?」

女かよ!といった教師とは対照的に、瑛人は涼しい顔をしていた。

「お前、いい加減にしろよ」
「はぁ?電話かけたの私じゃねーし」
「…とにかく4時過ぎに日南のとこまで行くから校門で待ってて」
「寒いから来たらLINEして」
「日南のせいで携帯1週間没収だよ」
「私じゃないから!!うざ!!」

瑛人のスマホから日南のぎゃあぎゃあとした声が聞こえる。小さく、「ばいばい」と言ってから電話を切った。

「…平賀、お前…女か」
「はい」
「凄い剣幕だったな…電話越しで」
「そんなところも愛らしいです」

瑛人は教師に携帯を手渡した。

Re: 噛ませ犬が愛しすぎてツラい ( No.39 )
日時: 2018/12/29 07:26
名前: mono (ID: RO./bkAh)

放課後、日南は礼に断りを入れた。

「ごめん。今日は瑛人が先約だから」
「瑛人って?」

礼の後ろには凌がいた。

「瑛人くんは日南の彼氏だよ」
「へぇー」
「彼氏じゃねーし」

西川と凌と礼は校門で日南と一緒にいる。もう4時をすぎて、瑛人が来る頃である。

「なんだよ、その瑛人とか言うやつ。かっけーの?」

凌が珍しく不貞腐れている。日南は首を傾げた。「判断し兼ねる」ということらしい。日南の背後には長身のかっけーやつがいる。瑛人は初対面の凌に妙に見られている気がした。

「行くぞ」
「こいつが日南の彼氏?」
「違いますよ」

同い年?高3?確かにかっこよかった。何部だろう、意外と体もヒョロくないしサッカー?でも頭良さそうだから、囲碁とか将棋とかも出来そうだし…こんな奴が日南の彼氏とか。

「瑛人くん!はじめまして!」
「どうも」

礼の甲高い声が響いた。瑛人は軽く会釈をして、日南の横に立った。

「礼でーす。日南と凌の幼なじみ」

凌と日南を指さした。瑛人は何を思い立ったのか、日南をじっと見ている。日南は初めのうちは見返したが、あとからうざくなって瑛人の頬を軽くぱちんと叩いた。

「あの、日南と付き合ってんすか?」
「付き合ってないですよ。普通に友人です」
「…ならいいけど」

分かりやすいな。瑛人は心からそう感じたあと、日南が先に歩いて行ってしまったので後をついて行った。

「礼じゃあね」
「日南ばいばーい!」

勝ち目ないな、エイトとか言うやつじゃ。男から見ても綺麗な顔だなって思うし、第一に日南が隣にいるのも似合いすぎる。凌は心臓が何かで殴られたような、悲痛なものに襲われた。

「失恋できた?」

礼が変なことを凌に聞いた。そうか、この痛みが失恋なんだ。

「やっとわかったね、日南は凌なんか見てないよ」

礼の表情はくったくのない笑顔だった。

Re: 噛ませ犬が愛しすぎてツラい ( No.40 )
日時: 2019/01/01 07:36
名前: mono (ID: RO./bkAh)

2人が駅前まで歩いていると、定期が落ちていた。瑛人が拾い上げて辺りを見渡すと、ちょっと遠く離れた前方に、日南の高校の制服を着た女子生徒が歩いていた。

「定期落ちてっぞー!」

日南がいきなり叫んだので、瑛人は振り向いた周囲の人に軽くお辞儀をした。女子生徒は振り向くとこっちに小走りでやってきた。

「実里の?」
「あ、私のだ。ありがとう…彼氏さん?」
「ちげーよ」
「どうも」

実里は瑛人に挨拶されるとおずおずと頭を下げた。

「そんなこいつ偉くないから頭下げないでいいよ」
「だってなんか…高貴」

あながち間違えてはいない表現。日南は思わず笑ってしまった。

「ありがとう日南ちゃん」
「おう」

日南と実里は互いに手を振って、実里は先を急いだ。

「友だち?」
「嫌いじゃないけど、」
「けど?」
「なんで礼が実里をいじめたのかわかんかい」

実里は普通に明るい子だった。なんなら成績も良くてバドミントン部の副キャプテンで、確か1年前くらいに地方大会まで進んだとかで礼拝のあとで表彰されていた。凌と仲良かったんじゃないっけ。

「ああいう子と連みなよ」
「でも礼が可哀想になる」
「俺、あの人生理的に受け付けない」
「なんでだよ」
「日南も同じ目に合うんじゃないかって心配になるから」

私が礼からいじめられる?意味わからん。

「俺を見る目がゴミみたいだったし、隣のにいた日南の幼なじみくんが俺に食いかかってるときもかなり軽く地団駄踏んでた」
「そんなひどいことしねーよ、礼は」
「でもさ」

瑛人の語勢が強まって

「友だち1人学校に来れなくしてるんだろ?」

日南はなにも言い返せなかった。でも、礼が誰かを傷つけたら私が止めればいいんだ。

「多分、今のでさっきの子はちょっと嬉しかったと思う」
「私なんもしてないけど」
「日南のそういうところ好き」

俺にはない正義感。2人はあと15分で駅にたどり着く。ボブヘアーから耳が覗いた、とても赤くなっていた。


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。