コメディ・ライト小説(新)
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- 噛ませ犬が愛しすぎてツラい
- 日時: 2021/12/31 02:54
- 名前: mono (ID: RO./bkAh)
醜いですが、どうぞ読んでみてください。
なんか見知らぬ間に賞をいただいていました…!
ありがとうございます。作者の多忙な時期が過ぎましたら、また再開するのでどうぞよろしくお願いします。
- Re: 噛ませ犬が愛しすぎてツラい ( No.6 )
- 日時: 2018/11/04 10:07
- 名前: mono (ID: RO./bkAh)
「やっぱ、なんでもない」
「何?なんかあるなら言って」
「言うこと忘れたの」
「ならいいけど」
今日他愛もない会話をして、静かな住宅街に笑い声が響く。それは息もできないくらい面白くて、たまに喧嘩ではないけど嫌な雰囲気になって、小学校に入学してから高校まで11年一緒にいる。因みに雰囲気が最悪のときは日南から謝る。礼は人に頭を下げることをしないので。
「今日の人かっこよくなかった?」
「別に、むしろ死ねばいいのに」
「えー、私LINE聞いちゃおうかなぁ」
「礼なら断られないよ」
「日南もね」
やめろよー、とかなんとかそうこうしているうちに分かれ道に来た。
「じゃあね」
「あ、礼。うち泊まりに来る?」
「ううん、今日はいいや。金曜行くかもだけど」
「おう。じゃっ」
礼の家は母親が再婚して、新しい父親が定期的に礼の家にやってくる。礼はそれがとても嫌で生理的に受け付けなくてキモイので、日南の住むマンションに逃げている。吉木家はそれを黙認している。世の中、グレたりDQNが家庭事情の複雑さを抱えているのは、意外にもはずれた感覚ではなくむしろピンキリである。日南のようにガツガツ働くシンママと、良家の一人娘である礼。
「ママー、ただいま」
「おかえりー」
日南の母・南海子はいつもスーツ姿である。39歳で外資系企業に務めている。でも海外赴任にはならない部署なので、いつも9時過ぎに家に帰っている。顔立ちは日南と似て、キツめである。多分、元ギャル。でも頭がいいことはわかっている。父親のことはよく知らない、母親は喋ってくれないから。
「ママ授業参観行きたい」
「行っても無駄だろ。ろくに授業しないし」
「でも日南は地頭いいからちょっと勉強すれば…」
「あー、はいはい」
別に親子の関係は悪い訳では無い。母親は天然だし、どうやって社会でバキバキに働けるのかが未だに謎である。日南に対してほとんど干渉しないが毎日のように
「日南ちゃんー可愛いー」
とリビングで寝転がる日南を抱きしめて頭をぐりぐりしている。その度に日南は
「きめぇからやめろし」
と軽く弾き飛ばしている。
「あ、そうだ。新しいお弁当箱買ってきたんだけど足りる?」
「うん」
「買い弁しなくて済む?」
殆どから返事である。そんな中、11時を過ぎニュースが始まっていた。
『続いての特集は、今あのCMで話題の大手証券会社・平賀証券の本社に潜入しました!』
『取締役会長の平賀瑛之助さんにもインタビュー!』
「なんだっけこの女優、あぁ永戸沙里か」
若手女優が何やら不思議な踊りをするcmである。それが爆発的に流行ってダンスを真似する中高生が沢山いるのだ。実際、日南も礼や千夏たちと動画を撮ってアプリに投稿した。ぼーっと眺めていると会社のお偉いさんの家が出てきた。
『御家族の方ですか?』
『そうです、うちの孫と息子夫婦です』
綺麗ねー、と母親が言う通り中世の王侯貴族を思わせる家具や内装である。リビングのでかいソファーにはお偉いさんの家族とやらがずらりと座っている。日南でも分かる気品に溢れた集団である。
『でね、これがうちの孫』
「うわっ」
ナレーションで『平賀瑛人さん、17歳』と言われた。あいつだ、あいつ。あのクソ野郎。
「知ってる人?」
「知らないも何も、むかつくコイツ」
母親は日南が言うことが理解できなかった。偏差値74の県内で一番頭のいい高校に通う上、容姿端麗、そして日本で1番大きな証券会社の孫とは、知らなかった。日南は一瞬、絶望的だと思った。こいつと戦っても勝てないんじゃね?いや、わかんない。まだ負けたわけじゃない。学校に通う平賀瑛人の姿が映し出された。そうそう、ここの並木道で礼に「邪魔」って言って…
「お母さんに似て綺麗な顔してるのね」
「顔だけじゃん」
「さっきから、どうしたの?」
「いや、別に?」
『祖父は普段は物静かで、僕ら孫には過干渉ではないですね。父はだいぶ厳しく育てられたようですが、僕なんかは全く怒られたことないですよ』
「うるせぇ。ぶっ殺すぞ」
「日南なんかあった?」
とうとう母親が心配そうに日南を見た。なんもねーよ?と日南は人生最大の知らんぷりをかました。平賀瑛人を見る度に今日の放課後を思い出してムシャクシャするので、自分の部屋に戻った。恐らく、誰一人ニュースは見ることは無いだろう、特にLINEもなかった。
- Re: 噛ませ犬が愛しすぎてツラい ( No.7 )
- 日時: 2018/11/04 11:44
- 名前: mono (ID: RO./bkAh)
もう10月も中旬に差し掛かっている。昨日、エアコンをタイマー設定し忘れて布団から出れなくなっている。もう一回寝ようと日南は布団を被った。
「日南!8時だよ!」
母親が勢いよくドアを開けてきた。日南はベッドから浮腫んだすっぴんの顔を出した。いつもは7時に起きる。朝の礼拝は8時から始まる。すなわち、
「遅刻じゃんか!」
朝の礼拝に出ない生徒はハッキリ言って珍しくない。生徒総会もたまに集まる生徒数が少なくて開催されない場合もあった。日南は一瞬焦っても、遅刻は珍しいことではないのでゆっくり起きて洗面台に向かった。朝ごはんを抜きで化粧と髪をセットし、歯を磨いて、8時半に家を出た。母親は既に仕事でいなかったが、勝手に自転車を借りた。駅まで走るより断然速かった。
大通りを出て、いよいよ学校が近くなってきた。前髪が事故に合っているが関係ない。途中、同じ学校の生徒たちがスケートボードを持っている姿が見えた。彼らを避けようと車道側に移動しようとしたが、そこで彼らはスケートボードに乗った。彼らが助走をつけたとき、日南はブレーキをかけても止まるような距離ではなく前方を左右に寄ったりしている。嘘だろ、こっち来たらぶつかんだけど!日南が気がついたときには遅かった。半ばスケートボードを巻き込むところで踏みとどまったが、思い切り車道に横転した。大木に頭をうちつけ、自転車が地面に叩きつけられる音がして車輪が回る音がする。
「いってー…」
スケートボードに乗った彼らは横たわる日南を見て、焦って逃げていった。起き上がろうとするが、こめかみから何か生ぬるいものが伝わり、触れてみると血である。左足と右足は皮膚が完全に擦りむけてもうどこから血が出ているのか分からない。
「おい!止まれや!」
この状態で彼らを引き止めてどうなる、そこまで考えがつかない日南は怒鳴り声を上げたあとすぐさま気に手を付きながら立ち上がった。しかし不意にふらっとして地面に尻もちを着いてしまった。
「…大丈夫か」
声がして、地面に手を付きながら後ろを振り返った。
「平賀…瑛人…」
学ラン姿の平賀瑛人が立っていた。
「無様だな」
何かと思えば、昨日のテレビでの柔らかい笑顔とはうって変わり、表情はただ口角をあげてニヤリとしただけだった。日南はもう一度木に手を付き、ゆっくり立ち上がった。
「お前…頭いいからって調子乗ってると…」
どんどん血の匂いが巡ってきて気持ちが悪くなってきた。日南は今度は地面に倒れ込むようにしたが、日南が地面にドサッと倒れることはなかった。
「君は、本当にバカだ」
瑛人の腕の中にぐったりとしながら収まっている。瑛人は日南をおぶると、日南の高校ではなく自分の通う高校に向かった。あんな学校の保健医は信用できないからな。けが人を見過ごすというのは、多分どんなに性根が腐っても出来やしない。
- Re: 噛ませ犬が愛しすぎてツラい ( No.8 )
- 日時: 2018/11/04 12:07
- 名前: mono (ID: RO./bkAh)
「とりあえず、救急車呼びましょう」
保健医がそう言った。病院に運ばれる際、瑛人も付き添った。瑛人が血だらけの金髪の女子高生をおぶって校門をくぐったときは、校門で服装チェックをしていた風紀委員も、清掃のパートの人も、瑛人を見た人全員が驚いていた。保健室に行くと、ベッドに寝かされ、血が拭かれた。膝も消毒され、ガーゼが貼られているがどうやら額がぱっくり割れたらしい。
「ん…」
日南が目を覚ますと病室のベッドだった。頭が地味に締め付けられた感覚があると思ったら、包帯が巻かれその中には何やら貼ってある。
「あ、」
「俺は帰る」
瑛人が席を立った時、日南は思わず呼び止めた。
「お前、学ランに血…」
「気にするな。金は後で君に請求するから」
日南の足を抱えた肘と脇腹あたりに血がついていた。言い方は上から目線で腹立つが、今回のことは仕方ない。瑛人に寄りかかった所まで記憶にあるからだ。
「わかったよ…LINE教えて」
「嘘に決まってるだろ」
「は?」
瑛人は久しく笑った。鼻で。
「学ランなんて買い直せばいいから」
日南は枕元にあった自分のスクールバッグを投げつけた。
「お前なんかに助けられて、損したわ。早く帰れ」
「君はそうやって…」
「つか君、君ってクサイんだよ!」
「じゃあなんて呼べばいい?」
「…日南」
吉木日南、と日南が言い放ったところで急に自己紹介をしたみたいで恥ずかしくなった。瑛人は日南のスクバを拾い上げて、ベッドの横に置いてやった。
「日南、じゃあね」
「待て…」
遮られるようにして、平賀瑛人は立ち去ってしまった。入れ替わりのように、日南の母親が病室に駆け込んできた。
「日南!」
「ママ、仕事は?」
「ごめんね。朝遅刻しそうだったのに、送ってけなくて」
日南をきつく抱きしめると後頭部を摩った。
「別にママのせいじゃな…」
「今、お医者さんのお話聞いてくるからね」
日南より焦っている母親は病室から飛び出てしまった。今日は不幸中の災難の日だ。日南は、携帯を開く。通知が凄いことになっている。大方、礼ですぐさま礼に折り返し電話をかけた。
- Re: 噛ませ犬が愛しすぎてツラい ( No.9 )
- 日時: 2018/11/05 00:35
- 名前: mono (ID: RO./bkAh)
放課後、礼と千夏が病室にやってきた。お菓子やらケーキやら持ってきて、ハロウィンも近いしとかなんとか言いながらむしろ見舞いに来た2人がよく食べている。
「7針?」
「そう、しかも自分の血で気持ち悪くなって気ぃ失った」
「日南自転車でズッコケるとかまじ笑う」
千夏はクッキーで噎せている。笑い事じゃねーよ、と日南も笑っている。
「もうすぐで、凌来るって」
「なんで?」
日南が怪訝そうな顔をした。
「なんでって、心配だからでしょ」
妙に礼の口調がキツくなったのが、日南には気になった。千夏は何かを察してか咳をするのを我慢して、静かにジュースを飲んでいる。
「…そうか、ごめん。そうだね」
日南が軽く謝ると礼は忽ち笑顔に戻り、食べよ食べよ、とお菓子を広げた。朝から何も食べていなかったので日南もスナックを口に入れた。
「あ!凌!」
礼が駆け寄った先に凌がいた。ジャージ姿で椅子に座る凌は、日南の包帯姿を見て口を開いた。
「大丈夫かよ」
「一週間後、抜糸」
「元気そうだな」
久しぶりに凌が日南に笑ったのを見た。
「なんで転んだの?」
「前でスノボのやからが彷徨いてて、引きそうになって避けたら転んで木にぶつかって頭きれた」
「誰か助けてくれたの?」
平賀瑛人って言って知ってたら皆驚くし、昨日私がブチ切れた人だよと言っても黄色い声に変わるだけ。
「他校の男子に担いでもらった」
「なにそれ!めっちゃドラマやん!」
「バカ言ってんなよ」
「な、なんでそんな怒んの」
平賀瑛人のあの妙に人を見下す感じが1番鼻につく。
「とにかくもう怪我すんなよ」
「今回は事故だから仕方ねーだろ」
「だからお前そうやってさ…」
「また説教しに来たのかよ」
もういい、帰るわ。凌はリュックを背負って病室を出て行った。凌は一体何をしたいのか分からない。嫌味を言うためにわざわざ来るような奴ではないし、ただ真面目すぎるのが今のところ日南とは合わないだけかもしれない。
「日南、凌わざわざ部活抜けてきたんだよ」
「けが人にあの言い草はない」
珍しく礼に日南がきっぱりと言った。礼は慌てて凌を追った。
「凌、」
「どうしていつもこうなるんだろ」
凌はちょっと悲しそうに、半分諦めがついたようにも見えるように笑った。礼は吐きそうになる。自分にそれが向けられないことで。
- Re: 噛ませ犬が愛しすぎてツラい ( No.10 )
- 日時: 2018/11/07 07:55
- 名前: mono (ID: 9AGFDH0G)
日南は家に帰ってきた。色々あって夜中だったが、夕方にスケートボード集団が日南の病室まで謝りに来た。よく分からないが4人で合計3万円を置いて行って粛々と去って行った。
「え、いらないんだけど」
「もらっときなって」
「まじ?遠慮なくもらうわ」
「…日南、アンタ…」
千夏の呆れ顔をものともせず、日南は思い切って平賀瑛人に助けて貰ったことを話した。
「じゃあ、おんぶしてもらったの?」
「おう」
「日南」
千夏に腕をがっちり掴まれて、じーっと見つめられた。何言い出すんだこいつは。
「その3万は、平賀瑛人にお礼するためにあるよ!」
「なわけねーよ。私の服買うお金だってば」
「わかってないねー日南は」
千夏曰く、お礼と題してご飯を奢り、連絡先を交換して、仲良くなって、平賀瑛人と付き合って、玉の輿に乗るための3万らしい。
「お前バカだろ」
「は?日南がバカっていうか、ただのアホでしょ」
「死んどけや」
些細な口論である。確かに母親からも、平賀瑛人には何かお礼をせねばならないしそれを日南自身もなんとなくわかっている。でも、あの全面的に自分を馬鹿にしてくる平賀瑛人と、そいつに頭を下げる自分が嫌なのだ。日南は考えるのが面倒になり、布団に潜った。頭が包帯で巻かれているので少しむず痒しさを感じた。
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