コメディ・ライト小説(新)
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- 噛ませ犬が愛しすぎてツラい
- 日時: 2021/12/31 02:54
- 名前: mono (ID: RO./bkAh)
醜いですが、どうぞ読んでみてください。
なんか見知らぬ間に賞をいただいていました…!
ありがとうございます。作者の多忙な時期が過ぎましたら、また再開するのでどうぞよろしくお願いします。
- Re: 噛ませ犬が愛しすぎてツラい ( No.26 )
- 日時: 2018/11/26 23:11
- 名前: mono (ID: RO./bkAh)
「に、290…?」
「63か」
圧倒的である。日南は結局スペアを2回程しか出せなかった上に、瑛人に優に超えられてしまった。
「落ち込むなよ」
「…落ち込んでねーし」
日南はご機嫌斜め(いつもっちゃいつも)になってしまい、瑛人は気にする様子はなかったが日南が歩いてこないので仕方なく立ち止まってやった。拗ねる日南に眉を寄せたが、それを瑛人はどちらかというと喜んでやるようだった。
「おいで」
日南は2、3歩進んだがまた歩行が途絶えた。完全に馬鹿にしてんじゃん。楽しいのが1番なのに、全然楽しくなさそうだし。意味わかんねぇよ。今度は瑛人が日南に手を差し出すので、出来すぎた奴なのが益々憎たらしく思えて瑛人を無視して前を歩いていってしまった。
「平賀瑛人」
「何?」
「カラオケなら多分負けないから」
でかい声で前方から叫ばれた。そんなに悔しかったかな?わからないけど、とりあえず併設してあるカラオケコーナーに行こう。
- Re: 噛ませ犬が愛しすぎてツラい ( No.27 )
- 日時: 2018/12/02 11:03
- 名前: mono (ID: RO./bkAh)
日南はカラオケルームに置かれたクッションを座っているソファーに叩きつけながら大爆死している。瑛人はそこそこ有名な邦楽のバンドの曲を歌い上げている。
「何こいつ、下手すぎんだけど」
瑛人は歌っている時に明らかにしかめっ面と言うよりいつもより目が死んで、歌えていない。というより音階が全てズレているし、まともに何の曲か判別できそうもなかった。お腹痛い、と言いながら泣き笑いに発展する日南を横目に完奏した。
「歌、苦手なんだよ」
「56点とか草」
何故かステージ付きのパーティルームに案内された日南と瑛人は交代で、ステージに上がり歌っていた。確かに日南は上手い。高音が伸びるし声量もある。ママが好きなんだよね、と世紀末から10年前まで流行っていたような女性歌手の歌をうたっている。日南には華があると思う。瑛人は聞き流しながら、歌詞が表示される画面を見ていた。ぴったり音程が合っているが、日南はノリノリでステップを踏んだり手を広げたりしていた。
「97!」
「バケモン」
「平賀瑛人が下手くそなんじゃね?」
離れたところに並んで座る2人は特に距離感など気にしていなかった。日南がフリータイムにしたので、追い出されなければ何時間でもいることができる。
「…もう歌いたくない」
「お前くらい下手だったら死にたくなるな」
「…本当に可愛くないな」
瑛人の喉が限界に来ていた。4時間ぶっ通し、昼飯も食べていないがもう午後4時である。
「平賀瑛人、腹減った」
そうだな、飯食いに行くか。と瑛人が言ったので2人はカラオケルームを出て会計を済ませた。入口に向かうと、途中でゲームセンターがあった。
「クレーンゲームしたい」
「いいよ」
日南が一際大きなぬいぐるみを指さし、ゲーム機に駆け寄り200円を入れた。ポップな機械音と共にアームが日南が押すボタンによって、操作されている。アームの力が弱く、掴んだと思ってもほんの少しだけしかぬいぐるみは持ち上がらない。日南はイライラした。
「かして」
瑛人が半ば強引に日南から操作を奪った。ぬいぐるみをじーっと見たあと、アームを見て一瞬考え込んだようにしたのもつかの間、ゆっくりとした手つきでアームをぬいぐるみに近づけていく。引っ掛けてあったうさぎのぬいぐるみは日南によって倒されてバーにくい込んでいたが、いとも簡単に押し出されてしまった。
「すげぇ!」
取り出し口に転がってきたうさぎのぬいぐるみを拾い上げ、日南は両手で抱えた。
「なぁ、これもらっていい?」
「俺が持っててもしょうがないだろ」
珍しく素直に喜ぶ日南は、ぬいぐるみを抱きかかえたまま入口を出た。袋を貰わずに出てしまった。
- Re: 噛ませ犬が愛しすぎてツラい ( No.28 )
- 日時: 2018/12/04 19:46
- 名前: mono (ID: RO./bkAh)
駅に戻りファミレスに入った。運良く乗れたバスの中では空腹に襲われすぎて、日南は若干酔い気味だった。体を窓側に傾けていて、不意に視線を上げると、目線が合ってしまった。平賀瑛人は相変わらず真顔だったけど綺麗な顔だった。ぬいぐるみを膝に乗せて抱える日南は珍しく弱々しくバスにゆられている。右折したときに瑛人の肩から腕に頭ががくっと倒れてしまった。その時の顔は日南にはわからなかったが、瑛人は拒むことはなかった。
「ガッツリ食いてー」
日南とうさぎのぬいぐるみは並んで座っているのが微笑ましかったが、瑛人の顔には表情は出なかった。メニューを見て日南は颯爽とボタンを押した、店内に呼び出しの合図が響く。日南はパスタとグラタン。瑛人はドリアとステーキを頼んだ。
「こいつの名前、決めて?」
うさぎのぬいぐるみをわしゃわしゃと撫でた。
「それ、雄?雌?」
「わかんねー」
「名前付けようがないな」
他愛もない話をして、そのうちにステーキやらパスタやらデザートがきて、平らげて。あっという間に一日は過ぎてしまった。もう外は冬の夜である。
「日南の家どこ?」
車道側を歩く瑛人に聞かれ、日南は何気なく答えた。2人は駅の改札口を通る。
「なぁ、家は?」
「さぁーね」
瑛人にしては珍しく頭の悪い受け答えだった。
「最寄り駅、同じ?」
一緒に改札を出た。
「暗いし、夜遅いから」
「まだ9時じゃん?」
「だめ」
駅の入口でいざこざしてる日南と瑛人は遠目から見ればただのカップルである。日南はついに折れて瑛人と歩き出した。
- Re: 噛ませ犬が愛しすぎてツラい ( No.29 )
- 日時: 2018/12/09 11:05
- 名前: mono (ID: RO./bkAh)
8時半まで練習だった。朝の9時からで、いつも通り疲れたけど前よかは体力が着いた。大半の部員と違い寮生ではない凌は、校門を抜けて携帯を開く。寮生の部員らは学校の裏門から帰って行った。凌は礼からのメッセージに既読をつける。
凌
助けて
ホテルなんだけど
なんだかよくわからない文章だったので、とりあえず凌は返信をする。
なんかあったの?
部活で一日中殆ど携帯が触れないので、礼からのメッセージから4時間が経過していた。凌は礼の家のことを知っている。母親からの虐待と新しい父親のことも。
凌の家、避難してもいい?
いつもは日南の家に逃げ込むのに。どうしたのか分からないけど、別に断る理由もないし、彼女だとか知らない女とか話に上がるような女子ではなかったので普通にOKした。家には母親と妹がいたはず、とりあえず母親に電話をした。
「あ、母ちゃん」
「なに」
「礼来るから、よろしく」
「もういるわよ。純玲と遊んでくれてる」
「お、おう」
もういたんだ。
- Re: 噛ませ犬が愛しすぎてツラい ( No.30 )
- 日時: 2018/12/12 23:52
- 名前: mono (ID: RO./bkAh)
「あ、凌おかえり」
凌が家の玄関を開けると廊下から礼と妹の純玲が出てきた。小三の妹はまだまだ可愛い。
「お兄ちゃん!」
純玲が足元に飛びついて来ると、凌は純玲を抱き上げてリビングに向かった。
「ただいま」
「おかえり。もうすぐ夕飯だから」
「私、やります」
キッチンで忙しく動く母親の横に礼がつく。階段を上がって自分の部屋に行き、寒いから着替えるのも億劫だったけどとりあえず部屋着に着替えてまたリビングに戻った。
「うまそ」
「あんたもボサっとしてないでー」
「はいはい」
妹と礼が仲良く箸を並べたり、ご飯を装ったりしている。椅子に座って4人で手を合わせた。
「ねぇー、あたしがわける」
でかい浅い鍋に入ったパエリアを目にして純玲が騒ぐので、皿をあげるといそいそとスプーンで具材をすくっていた。礼は母親と何やら世間話をしながら笑っていた。
「ねぇ凌?」
「え、何が?」
「あんたは大学どうすんの?」
またその話か。
「推薦でサッカー強いとこ行くって言ってんじゃんか」
「プロになるわけじゃないんだし、ちゃんと勉強したらいいのに。ねぇ礼ちゃん?」
礼に同情を誘っているのも、話をしていて無駄だと思った。別にプロになる訳じゃないから、いや、そんなこと誰が決めたの。
「でも、うちの高校でキャプテンだったらわんちゃんいけるんじゃない?」
今度の大会で三冠取ったら固いはずなんだ。四六時中、ボールを追いかけて大学入ったらつーか、年取っただけでいきなりサッカーとさよならなんて無理に決まってる。
「そうかしら?まぁ気が済むまでやらせるだけよ」
「そしたら、ずっとやることになると思うけど」
話にならないと感じて食前に箸を置いた。椅子を立つ凌に母親は何かをいいかけて、諦めたようにため息をついた。礼は、自分が唯一この事態の収集が効く人間だと思い、
「凌、ご飯食べよ?」
「いらねぇよ。…飯まずい」
「じゃあ食べなくていいわよ!そうやっていつまでもダラダラしてるから、」
「してねーだろ!」
「いつまでも自分の好きなことばっかり。ちょっとは勉強したり、進学先決めたり、将来のこと考えなさいよ!」
典型的なぶつかり方だった。凌はそのまま自分の部屋にこもってしまった。
「ごめんなさいね。礼ちゃん。ごめんね、純玲」
自分のために真摯になって、守ろうとしてくれる大人がいることほど幸せなことはないのに。どうしてみんな分からないんだろう。礼は思い立って
「ちょっと、凌と話してきます」
母親の制止を聞かずに凌の部屋をノックした。
「凌、開けて」
イライラして横になっていた凌は礼の声に、ドアをそっと開けた。
「ご飯、本当に不味かった?」
「雰囲気でなんとなく味気なくなった気がしたから」
「そっか」
「ごめんな。余計な心配させて」
むしろ、凌と2人は嬉しかった。
「凌はプロになりたいんだね」
「まぁ」
じゃあ地元離れちゃうかもしれない、そしたら私1人になるじゃん。
「でもさ、幸子おばさん(凌の母親)が言うことも一理あるよね?」
「…そりゃ、まぁ」
凌に詰め寄る礼は、微かに頷く凌に目線を合わせてニッコリと笑みを浮かべた。
「でも、凌がずっとサッカーしたいって言ったときはかっこいいって思ったよ?」
「そんなこと言ってくれんの、礼くらいだわ」
凌に笑顔が戻った。
「あ、そういや。お前大丈夫だった?」
「…おじさん。あの男が本当に気持ち悪いの」
自分に向けられる目線が、つま先から目までずっと目まぐるしく見つめられているのが本当に気味悪い。そして、今日はトイレにも着いてきた。あのハゲオヤジ殺してやりたい。憎い、みんな。
「なんかされた…?」
凌なんかに分かるはずない。でも、簡単に同情はして欲しくないけど、わかって欲しい。
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