コメディ・ライト小説(新)
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- 噛ませ犬が愛しすぎてツラい
- 日時: 2021/12/31 02:54
- 名前: mono (ID: RO./bkAh)
醜いですが、どうぞ読んでみてください。
なんか見知らぬ間に賞をいただいていました…!
ありがとうございます。作者の多忙な時期が過ぎましたら、また再開するのでどうぞよろしくお願いします。
- Re: 噛ませ犬が愛しすぎてツラい ( No.1 )
- 日時: 2018/11/02 00:15
- 名前: mono (ID: RO./bkAh)
今日も某私立高校の治安は最悪である。偏差値42で進学率は10.6%、校庭にはタバコの吸殻やビール缶、ライターが投げ捨ててあることはしばしば。サッカー部が全国準優勝という輝かしい結果も収め、野球部やテニス部も全国レベルなのに、大概不祥事で部停である。キリスト教精神に根ざした「隣人を愛する」という言葉も、隣人と喧嘩ばかりしている彼らには全く意味が無い。
「変な噂流してんのお前?」
いきなり隣のクラスに入ってきて、弁当を載せている机を蹴り上げた。弁当の中身は床に色とりどりに散って、タコさんウインナーが顔を出している。女子たちは立ちすくんで俯いている。
「何とか言えや!1番立ち悪ぃんだよ」
誰々の彼氏と寝た。よく分からない話を同じグループの女子から聞いて、思い立ってもいられなくなり、教室まで押し寄せたらしい。
「一緒に…夜…歩いてるとこ見たから…」
「は?他の奴らいたろ」
2週間前、男子3名女子3名で遊んだのだ。夜通しお酒飲んで、夏も終わりかけなのに、公園で花火をした。夜に彼女らとすれ違ったのだ。その時たまたま、その誰々の彼氏と前を歩いていただけだったのだ。
「いい加減にしろよ、返事は?」
「…はい」
女子が座っていた椅子を1つ蹴り飛ばすと、またまた舌打ちをして教室から出ていった。
吉木日南、高校二年生。金髪の肩までつくくらいの髪と短いスカートを揺らして廊下を歩いている。身長は162センチくらいだろうか。顔はクールというより、年相応に可愛いらしいのだが化粧のせいで大分キツめに見える。ハーフに間違えられることが多々あるが鼻の付け根が高いのと生まれつきの平行二重のおかげである。輪郭も綺麗に逆三角で、口元もキュっと小さく、青みピンクのグロスが似合っている。見た目から想像出来ない性格の荒らさと気の強さは会う人会う人を恐怖に陥れている。
上靴を地面に叩きつけるように音を立てて早歩きをする。イライラが止まらないからだ。
「どうだった?」
「たいしたことねーな、裏でグチグチ言ってただけみてーだし」
教室に戻ると大半が昼飯で、日南も友人たちが座る席に着いた。日南の友人もそれぞれ派手で思い思いの格好をしている。
「あんまり暴れないでよ、ありがとうね」
「普通にむかついただけ」
一際美人が日南に笑いかけた。日南はパンを頬張りながら親指を立てた。この美人こそ、半ば日南が忠誠心を誓い慕いまくる存在なのだ。栢野礼、日南の幼なじみである。黒髪で見た目こそ清楚系ギャルなのものの、彼女を敵に回した怖さは笑顔から想像がつかないし、それを知っているのはいつも間近にいる日南なのだ。日南は絶対に礼を裏切らない、また礼も日南に対しては気が置けないのでいつも隣にいる。
「つか、礼も日南もまたスカウトされたんでしょ?やばくね?」
「まじお前ら東京行けって」
「日南が行くなら」
「行かない」
えーとか無理ーとかマジないーとかとか、よく分からないことを言ってスマホを翳しては何やらSNSに載せるの繰り返しである。それで楽しいのだ。
- Re: 噛ませ犬が愛しすぎてツラい ( No.2 )
- 日時: 2018/11/03 07:29
- 名前: mono (ID: RO./bkAh)
「カラオケ行くよ~」
「動きキモすぎー」
「めっちゃウケんだけど」
礼と日南の友人で、よく変な動きをしたりギャグ線の高い川奈千夏がみんなを笑わせている。傍から見たら頭の悪そうな集団だが、それを彼女たちは気にしたことがない。日南は笑い転げていたところから立ち上がり、また階段をおり始めた。あひゃひゃひゃという数名の笑い声が吹き抜けの階段に響き渡る。
「日南」
ジャージを来た短髪の男子が階段を上がって来た。日南に声をかけると、日南は後ろを向いていたのを男子の方に向き直る。男子はハーフパンツにハイソックスでウィンドブレーカーのアウターを最大限閉めていた。サッカー部だろうか、この高校のサッカー部は全国レベルである。
「お前、C組のヤツらになんかした?」
「は?」
「昼だよ、昼に教室に怒鳴り込んだって…」
妙に説教臭い。堂々と名前呼びだし、珍しく髪を染めたりピアスを開けておらず見た目からして好青年。うぜぇ、といわんばかりに日南はため息をつく。
「お前には関係ねーよ」
「そうじゃなくてさ…」
男子にもこうやっていつもの調子である。「お前」と呼ばれた好青年は日南に怯むことは無い。
「C組の奴らがお前のことありもしない噂流してたのは分かるけどさ、一々喧嘩ふっかけることないだろ」
「裏で言う方がタチ悪いんじゃないの?」
「殴り混んだ相手に、男いたら太刀打ち出来ないだろ。どうすんだよ」
「つか、凌に関係ないから」
「周りと上手くやれって言ってんだよ」
「くそ迷惑だから消えろし」
「…わかりました。礼も日南が暴れないようにしてほしい」
「おっけー」
礼のやる気のない返事に凌は呆れ顔で階段を登って行った。大多凌、礼と日南と幼なじみである。グレた2人に時たま説教臭いことを言う根っからの真面目のサッカー野郎だが、最近は特に日南にひどい。その度に日南と凌は口論になり、礼はそれを眺めて指をさして笑っている。凌は「うちの高校の最後の良心」と言われる存在。
「本当に大多は清らかね」
「凌やめといた方が良き」
「んだよ、あんなやつといたら精神ぶっ壊れる」
「えー、今どきあんな武士みたいな男子いないじゃん」
「武士は草」
多分、普通の高校に入ればいくらでもいる。日南はとにかく凌が嫌で嫌で仕方がない、学校の先生以上にうるさいから。
- Re: 噛ませ犬が愛しすぎてツラい ( No.3 )
- 日時: 2018/11/03 09:01
- 名前: mono (ID: RO./bkAh)
ぎゃあぎゃあうるさい集団は下校時刻みたいだ。一方、彼らは夕方6時まで課外授業が残っている。テスト前は8時まで残って勉強しなければならない。創立130年になる県内随一の進学校の生徒たちは移動教室でガラス張りの廊下から、他校の生徒たちが見えていた。
「なんなのあの身なり、逆にださいよね」
「でもいいなぁ。私たちも遊び呆けたいよ」
どちらかと言えば芋臭いの方が表現として合っている女子たちは羨ましそうだが、どこか別次元にいるようだ。女子は上下深緑のシックなセーラー服で、皆きっちりと着こなしていて集団では爽やかに見える。ダサいと評判の制服も、他から見れば品の良さがわかる。一方で男子は学ランで、第1ボタンまでしっかり閉めている。あぁなんて品行方正な集団なんだろう。
「あれ?瑛人は?」
「あいつ課外サボったって」
「やばくね?」
第一理科実験室に入った男子生徒たちは声を潜めた。
「でもなぁ、学年で一番頭いいし。模試も全国で3番だろ?1回ぐらい蹴ったって誰も何も言えないよな」
「あいつは天才だよ」
「俺もサボったら、あいつぐらいイケメンになれるかな?」
「無理だろ」
あぁなんて平和な会話なんだろう。そうこうしているうちに授業は始まった。チャイムがなる席で、1番後ろの窓際の席が空いている。
- Re: 噛ませ犬が愛しすぎてツラい ( No.4 )
- 日時: 2018/11/04 14:08
- 名前: mono (ID: Yp4ltYEW)
県内随一の公立の進学校の約1キロ先に日南たちが通うあの私立高校がある。歩いて15分くらいの間隔である。毎朝バカたちが騒ぎ歩道を横並びで占領する中、彼らはおびえながら歩道の端を歩く。今日ではバカたちへの愚痴の横行が後を絶たない。今もその状況にあるわけで、日南たちが駅へ向かうには進学校の前を歩いて通過するのだ。
「自撮り棒ちゃけたし!使えないんですけど」
「千夏雑すぎ」
「礼もっと壊すし」
女子5人で横一列に並んでいる。ギャルがこれだけ並ぶと逆に絵になるかもしれない。進学校の校門の前を過ぎたところで、後ろから礼に向かって「邪魔」と言う声がした。
「あ?」
礼が振り向いたとき、その隙間を縫って男子が通り抜けた。
「待てや」
日南が大きな声で歩いていく背中に声をぶつけた。男子は立ち止まってこちらを見た。一瞬外国人だと思った。栗色の髪の毛は程よく重たくならない程度に整えられ、すらっとした高身長に学ランが似合っている。目鼻立ちが綺麗で眠たそうにみえるのはまつ毛が長いからだろうか、顎は細いが男らしくがっしりしている。今まで見た中で1番の美青年。だが、日南にはそんなことはおかまいなし。ずんずん美青年の前に進んで行った。
「今、邪魔つったろ」
「君にじゃない」
「礼に言ったろ」
美青年は一瞬礼に目線を移すと、すぐさま日南に向き直る。身長が日南よりだいぶ高いので、日南は見下ろされているのが嫌で、これだから男は嫌だと思った。
「そうだね」
「礼に邪魔って言ったこと、撤回して」
「本来、その礼さんが俺に怒るんじゃないのか」
「いいんだよ!謝れつってんの!」
日南は美青年の胸ぐらを掴もうとしたが、襟元に伸ばした先で手首を捕まれた。
「そうか…それじゃ立派なあの子の」
日南はのぞき込まれた綺麗な瞳から目が離せなかった。
「噛ませ犬だな」
日南の手をぱっと離すと、すたすた歩き出してしまった。日南の手からカバンが落ちた。すぐさま礼たちは駆け寄った。
「大丈夫?」
「もー、怒んないの」
礼が宥めている。
「どっかで見返してやる…」
気に食わない、余裕そうなのが腹立つ。でも力技じゃ太刀打ち出来ないのがわかった。それにしても、なんで自分が手首を捕まれて見つめられたときに動けなかったのかが分からない。でもむかつく、むかつく、むかつく。
「それにしても、あいつまじクソイケメンだな」
「俳優とかいうレベルじゃないわ」
千夏たちは賞賛している。
「私のことは気にしなくていいよ」
「礼は、邪魔じゃないからね」
礼は日南を軽く抱きしめた。
「よし、今日はパーッといこ!」
「おす!」
千夏が音頭を取ると皆が片腕を上げた。
- Re: 噛ませ犬が愛しすぎてツラい ( No.5 )
- 日時: 2018/11/04 08:34
- 名前: mono (ID: RO./bkAh)
「まだイライラしてんの?」
「うるさい」
ほっとけ、と言わんばかりに日南はカラオケルームのソファーに寝転んで携帯画面を眺めている。今日はたまたまパーティールームに案内されて、皆上機嫌である。SNSでライブ配信しながら、歌を歌い適当に騒いでいる。高校生はカラオケの利用時間が10時までだったので、店から追い出された。
「ねー、あたしママが早く帰ってこいって言うからばいちゃするわ」
「マ?じゃあ私も」
「じゃっ!今日は解散ってことで!」
駅の前で解散した。バスに乗ったり、徒歩だったり、それぞれ帰り道を行く。日南と礼は地下鉄に乗っていた。
「最近、凌めっちゃ日南にかまちょだよね」
「まじダルい」
「いいじゃん。凌ばり人気あるから」
「知ってる」
高校入学時、教室のドアの前でどでかい声で「日南?いる?なぁ、教科書持ってる?」と声を掛けてきたときは本当に殺そうかと思った。日南が無視していると「な?ダッツ奢るからさ、お願い」とさらに日南の血管をぶち切る自体になった。日南は凌が嫌いという訳では無いが、しつこいし、だのに他の人には親切だしムードメーカーなのが腹立つ。とにかく日南は何にでも腹を立てる。
「私、全然心配とかされないや」
礼が何やらぼそっと呟いた。日南は気が付かず、地下鉄を降りている。
「あいつはずっと、サッカーしてるときのままでいいわ」
凌が聞いたらどんなに喜ぶか、私は知っている。今の言葉が凌を何とも思ってなくて、むしろ普段よりサッカーにのめり込んだままでいてくれって意味なのも私は知っている。
「あのね…」
階段を登り切ってから、礼が立ち止まり日南は歩幅に合わせようとただ立ちどまり、礼と向かい合わせになった。日南は不思議そうな顔をしている。その顔さえも可愛い。可愛いすぎて、腹立つ。
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