コメディ・ライト小説(新)
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- 噛ませ犬が愛しすぎてツラい
- 日時: 2021/12/31 02:54
- 名前: mono (ID: RO./bkAh)
醜いですが、どうぞ読んでみてください。
なんか見知らぬ間に賞をいただいていました…!
ありがとうございます。作者の多忙な時期が過ぎましたら、また再開するのでどうぞよろしくお願いします。
- Re: 噛ませ犬が愛しすぎてツラい ( No.67 )
- 日時: 2019/06/03 22:57
- 名前: mono (ID: RO./bkAh)
電車に乗り、最寄り駅で降りた。改札を抜けたあとも日南は走り続けた。病院の外にはカメラを構えたテレビ局のオッサンが何人かいて、でもそんなの気にしなかった。
「礼は?」
受付のお姉さんが目を丸くした。
「運ばれた、茅野礼の友だちです。会わせてください」
拙い敬語で伝わったのか、お姉さんは受話器を手に取り誰かと連絡を取っている。
「ここにお名前を記入してください」
日南は思い切り殴り書きをした。見舞者のカードを首から下げ、病室に案内された。個室である。礼の顔を掌で優しく撫でていた。「キレイなお顔だね」と呟いたのもつかの間、日南の激しいローファーの音に新しい父親の手は宙に舞った。
「おい、お前誰だよ」
「…へ?」
「名乗れや」
「は、橋場です。礼ちゃんのパパです」
聞いた瞬間、日南は男のだらしない腹を蹴飛ばした。
「お前のせいだよ!分かってんのか」
胸ぐらを掴んで、男に食いかかった。
「はぁ?だ、誰か助け、」
「お前が礼にした事全部知ってんだからな」
日南は胸ぐらを掴んでいた手を、自分から突き放すと男は倒れた。男は形相を変えて、日南を睨みつけながら立ち上がった。
「余計なことを」
日南の頭を鷲掴みにして、床にたたき落とした。まだ傷こそないものの、日南は抵抗に必死である。男は日南の腹に馬乗りになると、首に手を掛けて床へとその手の圧を強めた。死ぬ、死ぬ!!男の手首を強く握りしめ、自分から離そうと試みるが出来ない。頭に血が上るように、息が苦しくなってきた。誰か、来いよ。
「おい、何を…やめろ!」
医師や看護婦らに男は取り押さえられた。看護婦の1人が呼び出しのボタンを押した。日南はぐったりと、床に倒れていた。礼の新しい父親はその場で駆けつけた医師たちに連行され、そのうち警備員たちがやってきた。
「大丈夫ですかー?聞こえますか?」
日南は何とか頷いて、ゆっくりと身を起こした。礼は目を閉じたままである。
- Re: 噛ませ犬が愛しすぎてツラい ( No.68 )
- 日時: 2019/06/05 22:51
- 名前: mono (ID: RO./bkAh)
日南は何故か警察と話をしている。
「礼との約束だから、ぜってえ話さねー」
警察の方々は日南の頑なな態度に、困り果てている。
「次期に分かることもあるし、我々も少しは分かってることもあるから…情報提供というより茅野礼さんのためにもお願いしますよ」
日南は3秒ほど考え込んで、
「あいつが礼に手出してたんだよ。新しい父親なのに」
「はぁ…いつから?」
「高一の秋だった気する」
「茅野礼さんが御家族と関係が良くなかったというのは?」
「…ある」
警察は最後に「やはり…」と頷くと、日南に礼を言って病室を後にした。日南は礼のベッドに近づいて、椅子に座った。少し痩せたようだ、クマも酷い。左手首には包帯が巻かれていて、周りには機械が繋がれている。
「礼、ごめん。力になれなかった」
女々しく謝っても、礼は目を覚まさない。
「今度、タピオカ飲みに行こーよ」
日南はそれだけ言うと、礼の手を握ってベッドに突っ伏した。泣いているのか一緒に目をつむっているのかはわからなかった。しばらくすると、病室に足音が響いた。
「あ、」
日南が礼の手を握って眠っている。稜が足を踏み入れたときに2人の姿が見えた。
「日南も礼も、ほんとにすまなかった」
聞こえて居ないはずの2人に頭を下げた。
「俺さ、日南が好きだったんだ。礼がこんなに傷ついてるの知らないで、家のことは知ってたし(稜の)家も理解あったから、家族ぐるみの付き合いだと思ってた。でも、礼に告白されて、日南失恋してし適当に返事して一緒に居るようになってからは、ちゃんと守らなきゃって。わかってたのに、軽い気持ちで護身用にとか言ってカッター渡してさ。そのときだって礼傷つ…」
「うるせー!」
日南がいつの間にか起き上がっていた。稜は目を丸くして、
「お、起きてたのかよ…」
「けが人の横でピーピーうるさい」
「ごめん」
「お前のそういう女々しいとこガチで腹立つ」
「女々しいとか彼女の前で言うなよ」
「直接言いなよ」
稜の胸ぐらを掴み、日南が座っていたベッドの傍の椅子に座らせた。
「…そうする」
「あいつらは?」
「先生たちなら、なんか礼の保護者とか警察と話し合うみたいだけど」
「ならよかった」
礼、もう大丈夫だね。日南はそそくさと病室を出た。初めて礼が他に信頼できた人なら、きっと支えてくれるはず。私も傍にいよう。
- Re: 噛ませ犬が愛しすぎてツラい ( No.69 )
- 日時: 2019/06/05 23:21
- 名前: mono (ID: RO./bkAh)
模試の結果が返ってきた。瑛人は1枚目の採点の結果に目を通す。800点まで落ちていた。偏差値は65前後、前は全国で1位であり記述式ではありえないような数値を叩き出していたのに。
「校内1位なんだけど」
隆也が横で驚きの声を漏らす。瑛人は12位。点数の低さには若干戸惑いを感じたが、得に危機感はなかった。むしろ、これで親父に見捨ててもらえるいい材料になった。不意に瑛人の口角が上がったのが、隆也の目に入りとてつもなく、別人を見ているような気がした。おしとやかな瑛人ちゃんはどこへ行ったのやら。
「平賀、調子悪かったか?」
「そうですかね?」
愛想よく教師に応える瑛人はいつも通りだった。隆也はちょっと安心した。
「ねぇ、瑛人くんて最近遊んでるらしいよ」
「やっぱ彼女のせいかな?」
「あ、インスタで見た!ギャルっぽいよねー」
「化粧で盛ってるだけだって」
この頃、瑛人は怖い(隆也、その他の友人談)。よく笑うし、髪だって急に短くなって整髪料でオシャレに固めたりしている。第1ボタンをゆるーく開けていたり。今、教室で瑛人の彼女が憶測で何かを言われているのを聞いて、どことなく瑛人は鋭い視線を彼女たちに送った気がした。
「お前、なんか変わったな」
「どこが?」
「雰囲気」
「どこ見て言いよっと?」
「はあ?」
「なんでもない」
瑛人くんの博多弁…!と周りの女子は目を輝かせていた。
- Re: 噛ませ犬が愛しすぎてツラい ( No.70 )
- 日時: 2019/06/06 22:01
- 名前: mono (ID: RO./bkAh)
6時から会う約束をした。日南のお母さんが「瑛人くん疲れてるのに、タピオカに連れ回すのやめなさい」と、日南にLINEで説教したのを受け、2人は日南の家に来た。予備校が休みなので、勉強してると偽って日南とよく遊んでいる。
「これ飲んでみ」
太いストローを吸うと、苦めのアイスミルクティーの後に何か噛みごたえのないようなあるような不思議なものが口に入ってきた。奥歯で噛むと、茹でた納豆餅みたいな食感がする。味は全く違うが。
「美味いだろ」
「微妙」
「は?世界で1番美味いわ」
日南がソファーに座っていると、瑛人がカメラを回してきた。
「ちょっ、今すっぴんだから」
瑛人の肩にもたれかかっていた日南は内カメラに手をかざして、遮ろうとした。
「動画だよ」
瑛人はまもなくインスタのストーリーにそれを載せた。「化粧で盛ってるだけだって」なわけないだろ。日南は終始不貞腐れていたが、瑛人はタピオカを飲んでいた。しばらくすると、日南の母親が帰ってきた。
「ねえ、日南。礼ちゃんのこと聞いた?」
「まぁ」
「なんか、茅野さん家って結構荒れてたみたいよ。お金持ちだったのに」
夕飯の支度をしながら母親は言っている。礼とは小学校からの仲であったのに、日南の 母親は礼の母親とあまり顔を合わせたり、あいさつする機会がなかった。PTAや懇談会でも見かけたことがない。
「なにかすることありますか?」
「えぇ~いいわよ!座ってて!」
瑛人はしぶしぶソファーに座り直した。日南は礼の話が気になり、
「それ、誰から聞いたの?」
「あんた中学一緒だった子のお母さん…名前…あっ島ちゃん」
「夏未かぁ」
夏未とは日南の近所に住む友人である。もう噂は広まっているようだ、なんせテレビで少し報道されて、SNSでも色々書かれているからだ。まだ礼の意識が戻っていないのに。
- Re: 噛ませ犬が愛しすぎてツラい ( No.71 )
- 日時: 2019/06/08 12:23
- 名前: mono (ID: RO./bkAh)
八城川まり子は予備校の自習室で自学をしていた。なんだか集中力が切れたので、適当にインスタでも開いてみた。
「あ、瑛人くん」
瑛人のアイコンを押してみると、画面に彼女らしき女が瑛人の胸元にもたれかかっている。
「すっぴんだから!」
若干、日南は怒ったようにスマホのカメラに手を近づけて画面を暗くした。しかし、すぐに瑛人と日南の笑い声に溢れて短い動画は終わってしまった。確かに、ブスでは無い。だけど私の方がケバくないし、大人っぽいし、頭もいい。どうして瑛人くんが私のところに来てくれないのかがわからない。瑛人の投稿には、日南がクリスマスにイルミネーションを眺めている後ろ姿が載っていた。横にスクロールすると、マフラーに顔を埋めて瑛人に笑いかけているような写真もある。きっとこれを見て瑛人は「かわいい」と彼女に言ったのだろうか。日南のアカウントに飛んでみると、瑛人がいくつかいる。プリクラ、まり子も行ったことあるようなディナー、お家デート。2人は付き合って7ヶ月になるらしい。
「こんなバカ女のどこがいいのよ…」
瑛人くんに聞いてみたい。でも、聞いたらますます自分が壊れそうになる。まり子はスマホをカバンに放り、また参考書と向き合い始めた。その頃、日南と瑛人は、日南の母親と夕飯の鍋を囲んでいた。
「礼っていたでしょ」
「うん」
「自殺未遂したんだよね、家で」
瑛人が隣に座る日南を見ると、箸が止まり俯いている。
「日南、礼ちゃんの命が助かっただけでも良かったじゃない。ちゃんとすぐに会いに行ったんでしょ?あなたは礼ちゃんのいい友だちなんだから、退院したら遊べばいいじゃん」
日南は珍しく頷いて、また黙々と食べ始めた。こんなこと言ってくれる母親がいるから、日南は無垢で真っ直ぐ(それ行き過ぎてもはや頑固)に育ったんだろう。父親の機嫌を伺って、影から心配してくれるのは有難いが、いつも優しく父親の言うことを繰り返すだけ。
「ママは礼のお母さんと会ったことないの?」
「そう…あんまり学校行事で見た事ないし、阿澄ちゃん(稜ママ)ともそれはずっと話してて」
「礼、虐待されてたんだけど」
「それは知らなかった」
虐待ってどこから虐待なんだろう。躾?親父に殴られたこと、ないなぁ。母親がよく叱られていたのは見たけど。俺は兄貴より怒られなかったな。兄貴がめちゃくちゃキレられてたけど。瑛人は自分の思いを馳せながら、ちょっと考え込んでしまった。
「あ、ごめんねぇ。夕食で暗い話しちゃって」
「いえ。鍋美味しくて食べ進めちゃいました」
また食事に笑顔が戻ったとき、日南の母親の携帯がなった。ご飯なんだけどー?と仕事かと思いブーブー言いながら通話を始めた。
「わかったぁー、8時ぐらいからそっち行くから…うん、うん。大丈夫そ?…おっけー、はーい。じゃあね~また後で~」
「どうしたの?」
「この後、阿澄ちゃん家で飲んでくるわ」
稜の母親もショックを受けていたりするはずだ。
「日南のお母さん、すごくいい人だね」
またバタバタし始めた日南の母親を見ながら、瑛人は日南に呟いた。
「うざいけどな」
あ、それ私食おうとしてたんだけど。瑛人が日南の掴もうとした牛肉の塊を食べてしまった。
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