ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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 マイナス  ちょっとした番外編
日時: 2010/06/28 15:53
名前: アキラ (ID: PA3b2Hh4)

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まだまだ未熟者ですが、頑張ります。

登場人物>>2


お客様リスト

     ユエ様  白兎様  神無月様  風水様
    くれは様  結羽様  月兎様

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Re:  マイナス  ( No.34 )
日時: 2010/06/06 12:17
名前: アキラ (ID: PA3b2Hh4)

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隣に住む音音は、よくぼくに働けとか言うけれど。
笑えないから接客業も無理だし、学力もないし、何しろ、昔を知っている人ならぼくを雇わないだろうな。

ここら小さい田舎だから、ぼくの名前さえ聞けば誰だってあの事件を連想するに決まってる。
色影、なんてそうある名字でもないし。

「お帰り、いろは」

帰ってくるなり、いろはは仏頂面でぼくを睨んだ。
今日はカレーにしようと思い付き、人参を乱切りしている途中だったんだけど。

「意味分かんない」 「どうしたの」 「いろはは何も悪くない。 気色悪い」

吐き捨てるようにそう言い、鞄を壁にむかって投げつける。 バコンッという音がして、鞄が床に落ちる。

「汚い。 もうやだ」
「また何か言われたの?」
「肩にぶつかってきたんだよ? いろはに聞こえるようにわざと、謝れってボヤいたの。 信じられない」

制服のブレザーを脱いで、肩をむき出しにし、

「本当に汚い」

ガシガシと爪で引っ掻く。

「いろはは、それでどうしたんだ」
「思い切り睨んでやった。 消えろ、バカ」

幼稚な悪口を吐き捨て、いろははぼくに後ろから抱きついてきた。

「ぬー、夕衣〜。 ゆーちゃーん」
「はいはい。 カレーまであと少し」

適当に促して、また包丁で乱切りする。

「夕衣は本当に料理が上手だねー、お嫁にもらえるよー」
「……………」

なんか、人種分類で除外されそうな発言したよ、この子。

「……そうだね。 でもぼくは、いろはと居るよ」

いろははぼくを、「男」 と認識してないんだ。
だけど、 「女」 とも思ってない。 だから、ぼくには性別ってものが無い。

ぼく自身、過去の教育のおかげが、今まで異性を好きになった事もない。
……え、同性もだよ? 勿論だけど。

「夕衣可愛いッ」 「うおっ」

急に力がこもり、包丁が滑って、手に軽く痛みが走る。
……………あ、やばい。

この状況は、酷くぼくには弱点だ。

「………ぬ? 夕衣?」
「……………」

あーあーあーあーあーあーあー。
あー??  血だ。

血だよ、これ。 うわ、まだぼく人間なんだ。だってほら、血が出てる。 赤い。 だけどぼくには灰色にしか見えない。 赤は断定できない。 ぼくの血は昔昔、悪い大人たちに全部持っていかれましたとさ。

めでたしめでたし。

「…………っぅ」

酷い嘔吐感がして、包丁を置いてしゃがみ込む。

「夕衣?」 「…………ぁ」

あーやっぱりダメだな。
血が怖い。 痛みは全然慣れてるから平気なんだけど、血が弱点すぎる。

「ゆーいー? 死んだ?」
「…………生きてる、よ」

いろはがニコリと笑う。 ぼくには出来ない、笑い方。

「血が出てるじゃん。 真っ赤だねー」
「………」

ぼくには、血の色が灰色に見えるんだけど。 

「カレー、作らないの?」
「………作るよ」

立ち上がる。 うわー胃液が気持ち悪い。
堪えて指の血をタオルで拭き、また包丁を掴む。

「危ないから、部屋で待ってて」
「ラジャー。 ご飯の時になったら呼んでね」

しばらくして、テレビの音が聞こえた。 しっかし、ぼくもヘタレだな。
ただの少量の血だけでさ。 本当、バカじゃん。

「……いろは」 「なにー?」 「蛍って人、覚えてる?」

しばらくの沈黙の後。

「誰それ。 いらないよ」
「……そっか」

空しいな。
いろは、蛍はね。 キミを最後まで守った人なんだよ。
ぼくなんかより、よっぽど兄らしいね。

Re:  マイナス  ( No.35 )
日時: 2010/06/06 12:43
名前: アキラ (ID: PA3b2Hh4)

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兄に近親相姦の気があると知ったのは、ぼくが10歳の時だった。

その時13歳だった兄は、いきなりぼくに、いろはを好きかと聞かれた。
正直に答えると、兄は笑って、 「ならよかった」 と言った。

まあ、気付いてはいたんだ。
なんだか、いろはばかりを庇うし、いろはをじっと見ているから。 

「………すっげーな、兄妹の力は」

でも、いろはを庇って兄は死んだのに、それを彼女が覚えてないって、皮肉だよな。

「ただの独り言です」

これも、独り言。

カレーをいろはと食べて、その後いろはは夢の中。
ぼくはアパートの外のベンチで、ぼんやりと空を見ていた。

「………独り言がしやすいな」

これも独り言。 最近、独り言が冗談抜きで多い。 傍から見れば、一人で話してる変態さんだと思われてもしょうがないな。

「………あれ」 「あ……」

語部 琴葉が居た。 
Tシャツに短パンという、ラフすぎる格好で、手には煙草を持っていた。

「…………うわー」
「チクんないでくださいね」

バツの悪そうな顔で、ぼくに近づいてくる。

「単身赴任の親が帰ってきてから、家で吸えないんですよ。 母親は知ってっからいーけど」
「ちょい意外だな。 煙草、全然似合わない」

本心をそのまま伝えると、語部は軽くぼく足を蹴った。

「いて」 「あっしは煙草好いてるから、いーんだよ」

語部はフフンと笑って、ぼくをじっと見てくる。

「……なんだよ」 さっき風呂に入ったから、髪から滴が落ちてきて冷たい。

「先輩、いろはは?」
「寝てるよ。 ああ見えて健康だから」

心意外は。

「もう夜の11時っすもんね。 あっしは普通に5時間睡眠とかヨユーだから」
「お前さ、軽く不良になってないか?」
「まっさか。 煙草なんて、今に始まった事じゃない」

いつから、とは聞かなかった。 

「……なあ、先輩。 先輩は、どうしていろはと一緒に居るんだ?」
「大切なマイシスターだからだ」
「先輩は、なんだか………怖い」
「怖い?」

どこがだろう。 ぼくからして見れば、お前たちの方が怖いんだけど。
何を考えているのか分からない、無機質で雑食な人間。

「どこか遠くを見てる気がする。 あっしはここに居るのに、あっしを見てない、というか……」

不思議そうにぼくの目を観察する語部。

「先輩は、今、どこを見てるんだ?」

ぼくの見てる場所、ねぇ。
どこだろう。 ぼくの全神経は、10年前に置き去りだもんな。

「語部だよ」

平然としようと思ったけど、意外と平然だった。
語部は無表情でぼくを見る。

「ぼくは今、お前を喋ってる。 だから、お前を見てる」
「先輩、男前すぎる」

小学校の時から思ってたけど、語部はぼくの事が好きなんだろうか。 語部はニカッと笑い、

「早く彼女見つけなよ、シスコン」

ぼくの足をもう一回蹴って、アパートの階段をダッシュで駆け上がる。
……なんだそりゃ。

「だから、あんまそういうの興味ないって」

独り言だ。 のあー、だんだんクセになっていく。
どうしたものだろうか。




 
          ☆



「いいなー、いろちゃん。 格好いいおにーちゃんがいて」
「ことちゃん、一人っ子だもんね」

丸い目をした、クラスでも人気の可愛い子。
おかっぱで、どこかへし折れてしまいそうな子だった。

「いろちゃんのおにーちゃん、今4年生か」
「もう一人いるよ。 ちゅーがくせー」

いろちゃんは、中学生のおにーちゃんの方が好きみたいだった。
だけど、二番目のおにーちゃんも格好いいと思う。

「いろちゃん、ズルいなー。 おにーちゃん二人もいて」
「ズルくないよ。 いろ、ズルくない」

些細な、モメ言。

「いろちゃんだけズルい」 「ズルくありません」 「あたしも、夕衣くんみたいなおにーちゃんがほしい」

子供がよくやる、ただの喧嘩。
だけど、いろちゃんはその後学校に来なくて。



別人に生まれ変わって、またやってきた。






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Re:  マイナス  ( No.36 )
日時: 2010/06/06 14:26
名前: アキラ (ID: PA3b2Hh4)

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スモーカー語部と別れて、やる事ないから家、と言ってもアパートの自分の部屋に帰る。
もう深夜の1時だった。  約2時間もベンチに座って、ぼくは何がしたいんだか。

「………………なに、してんだよ」

部屋を見て、愕然とした。
夢の中で冒険中だとばかり思っていたいろはが、起きていた。

そして。

「うううううううううううううっ、夕衣? 夕衣、夕衣、夕衣はー?」

夕衣夕衣と、辺りを見回していろはが必死で夕衣を探している。
ぼくじゃなく、「夕衣」 を。

ぼくが居る事に気がつかず、いろはが叫ぶ。

「やだっ、居なくなっちゃやだ──ッ!」
「いろはっ」

馬鹿だ。 何いろはを置いて外でブラブラ、2時間も!!  何してんだ、ぼくは。

「いろは、夕衣は居るから。 ここに居るから」
「ああああああっ、ゆーちゃん、ゆーちゃん」

両手を拡げて、ぼくを抱きしめる。 手が喰いこんで痛い。 必死で捕まってないと、今に死にそうだと言わんばかりに。

必死に。 細い腕で。

「うううううっ、一人にしちゃやだ。 やだ」
「……ぼくはここに居るよ」
「さっき居なかっ……居なかったよ?」
「居たよ。 消えてただけだよ」

PTSDが発症したのか。 何年ぶりだろう。

「消えないでよ」 「うん」 「どこにも……行かないでよ」 「うん」

どこにも行かないよ。 いろはの居る所が、ぼくの居場所。
か細い声で、いろはが懇願する。 必死でぼくを探したんだな。

髪は掻きむしられてワヤクチャで、押し入れや本棚のありとあらゆる扉が開かれている。

「みんな、みんな、いろはをバカにする」
「………」
「声が聴こえるよ。 ……なんで聴こえないの?」

いろはに聴こえる、罵声。 ぼくには聴こえない。 聴こえないように、心を必死で閉じたから。
だけど。

いろはは心を少しだけ、別方向に開けたままだ。

だから、聴こえてくる。 感情を自由自在に、喜怒哀楽に変えられるかわりに、過去のトラウマが襲ってくる。

そんなの、ぼくはごめんだから、逃げた。

「逃げてるから、かな」
「え?」
「ただの独り言」

頭を撫でて、乱れた髪を整える。 美人な顔がぼくを見て、ヘナと笑う。

「いつもの夕衣だね。 安心した」
「……もう寝なよ、いろは。 ぼくはずっとここに居るから」

布団にいろはを寝かせて、そのすぐ傍で寝転がる。
手をしっかり握って、いろはは目を閉じる。 薄い瞼。 眼球は裏でゴロゴロ。

「……………」

いろはを前にして、少しだけ過去に浸る。



兄の蛍は、いろはの事が好きだった。 妹として、ではなく、女として。

虫みたいな、女みたいな名前で、顔も女っぽかった。
そのくせ、性格は最高に良い奴で、ぼくみたいな弟にも優しかった。

ぼくの両親は、なんというか、この世界の狂った感情を団子状にして一まとめにしたみたいな人材で。
表向きは最高に良い両親だったけれど、それは虚像で。


「ホント、立派に演技してたよ」


10年前、それ以前から続いていた暴力やらが、本格的に酷くなってきた。
もうこのままじゃ死ぬのかなーってほど。

学校には、兄妹3人がインフルエンザにかかったと連絡して、近所の奥さま方にも、わざわざ買ったマスクとかを見せて。  ぼくらは気付かれる事もなく、ただただ、崩壊していった。

「………可哀想にな」

ぼくはそこで、完全にいろはを壊した、共犯者だ。

ぼくがいろはにした事。
いろはの、異常な男性恐怖症の原因は、ぼくだ。

「…………………」

変態的な両親のあんな脅しに乗らなければ。 ぼくはいろはを壊さずに済んだのに。

「…………愛しい愛しいいろはちゃん」

リズムに合わせて言ってみる。 気持ち悪い。

「ごめんな、いろは」










10年前、ぼくはいろはを犯した。







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Re:  マイナス  ( No.37 )
日時: 2010/06/06 15:52
名前: くれは ◆2nq4FqQmFc (ID: Rk/dP/2H)

!?
何と言う意外な展開っ…!

両親らが最悪ですね…(=_=;)

Re:  マイナス  ( No.38 )
日時: 2010/06/06 16:35
名前: 風水 (ID: PA3b2Hh4)


お、お、犯した!?

なんか過去がだんだん見えてきて、ほへーってなります。

いろはちゃんの錯乱ぷり、怖いっす。


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