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 マイナス  ちょっとした番外編
日時: 2010/06/28 15:53
名前: アキラ (ID: PA3b2Hh4)

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まだまだ未熟者ですが、頑張ります。

登場人物>>2


お客様リスト

     ユエ様  白兎様  神無月様  風水様
    くれは様  結羽様  月兎様

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Re:  マイナス  ( No.14 )
日時: 2010/06/03 17:44
名前: アキラ (ID: PA3b2Hh4)

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朝、いつものように時計の音で起きて、台所に向かう。
田舎だから、車の通りも少ないため、音が無い。

静かな空気の中で、ぼくは蛇口をひねった。

「………………」

一瞬でその空気は壊されて、水の流れる音が響く。
シンクを打つそれは、とてもとても鬱陶しい。

「卵焼きするかな」

卵を焼くだけの簡単料理。 ぼくの心のような感じだ。
簡単で、それでいてとても複雑。 殻を叩けばすぐに壊れてしまう。 ドロリとした白身が、黄身の重さで落ちる。


「油、ひてねーわ」

独り言。 
卵焼きは完成して、昨日の味噌汁をガス台に乗せて、いろはを起こしに行く。

「いろは、起きてるか?」

起きてるはずないんだけど。 予想していた通り、黒髪を散ばせているいろはが居た。
瞼を閉じて、眠っている。

「いろは、起きろって」  「ぬー……、夕衣?! 」

ガバチョッといろはが上半身を起こし、ぼくの胸倉を掴んだ。

「夕衣夕衣夕衣?」 「うん。 おはよう」

いつもだ。 朝起きて、ぼくがぼくかどうかを確認する。
必死すぎる朝の習慣。 

「………ゆーちゃんだっ」 「早く起きろって」 「ゆーちゃん、ゆーちゃーんー」

むぐっと抱きついてくる。 これもいつもの事。
朝からギューギュー妹とやってるぼくって、かなり寂しい奴だと思うんだけどな。

顔を洗って、制服を着て、いろはは美味しそうにぼくの卵焼きを食べて。

「でわでわ! 夕衣バイバーイ♪」
「ばいばい」

いろはに手を振って、少しばかりの別れを告げる。
彼女の姿が見えなくなるまで。 

「………ぼくは居るのに」

独り言だけど。 

少しだけ、思い出してみる。 
あの事件から、ぼくといろはが初めて会った時の事。

彼女は昔から美人で。 それでいて壊れていて。
ぼくを見た瞬間泣き叫んでは嘔吐していた。 元々、男にトラウマがあるからかも知れない。

ぼくを兄だと認識できず、吐いて吐いて、ぼくの服に胃液を垂らしていた。

「………懐かしいな」

独り言を言いながら下を見ていると、知り合いが歩いていた。
話す事もないから、そのままじーっと見ていると、向こうが気がついた。

「あ、夕衣先輩じゃないか」



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Re:  マイナス  ( No.15 )
日時: 2010/06/03 18:00
名前: アキラ (ID: PA3b2Hh4)

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語部 琴葉。  彼女はいろはのクラスメイトだ。

小学校の時、いろはと仲が良く、ぼくともたびたび話はしていた。
同じアパートに住んでいる数少ない高校生だ。

「二階からあっしを見下すなんて、先輩はいつから神様になっちゃったわけ?」
「なってねーよ。 たまたまお前が居たんだ」
「運命、って奴ですか」

ニカッと笑い、ぼくを挑発してくる。

染めてない短い黒髪に、身長が少し高い。 陸上部のキャプテンで、それなりに勝気な性格をしている。

「お前、早く学校行けよ」 「うーん。 サボりたいんだけどねぇ」 「サボるな」 「いろはは? もう行った?」 「少し前に。 走れば追いつくと思うけど」

語部はうーんと唸るような素振りをして、

「やめやめ。 朝から無駄な体力使うのヤですからー」
「んじゃ学校行け」
「まだまだ時間あるから。 先輩は何してんだ?」
「ぼくはフリーな人生を満喫してるんだ」

うしゃしゃしゃ。 何て事を言うつもりはない。 もう言っちゃったけど。

「フリーねぇ……。 それもいーかもね」
「ぼくみたいになるなよ、語部」
「なーりませんて。 先輩みたいな人間なんか」





「なりたいとも思わない」





本人はボソリと言ったつもりだろうが、ぼくは育ちのせいでかなり耳がいい。
地獄耳だ。 

「学校行けよ、若者」 「だな。 もう焦らないとヤバい」

語部はそう言って、ぼくに笑顔を向けてきた。
こんな、ぼくに。

「またな、夕衣先輩」 「またな」

走ってくる語部を最後まで見送らず、ぼくは中に戻った。

「なりたくもない、か」

別に傷ついてるわけじゃない。 それが一般的な普通というものなのだろうから。

……今日は、何を作って食べようか。

Re:  マイナス  ( No.16 )
日時: 2010/06/04 16:59
名前: 風水 (ID: PA3b2Hh4)

どーも^^  「マイナス」を影から

こっそり見てました(笑)

いろは可愛いっすね!! 頑張って下さいww

Re:  マイナス  ( No.17 )
日時: 2010/06/04 17:35
名前: アキラ (ID: PA3b2Hh4)

初めましてm(__)m
いろはは個人的に凄く好きです。
頑張りますので応援よろしくです。
>風水さん

Re:  マイナス  ( No.18 )
日時: 2010/06/04 17:55
名前: アキラ (ID: PA3b2Hh4)

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夕日が傾いて、田舎町はオレンジ色に濁る。
アパートの団地にある自動販売機でお茶を買うぼくに、

「よっす。 色影さん」

想出 相馬が話しかけてきた。

「………部活は?」 「あー、足痛めてんで帰ってきました」 「ああそう」 「そしたら、色影さんが居たんで、団地に入ってきました」

爽やかな好青年風のそいつは、人当たりの良さそうな笑顔でそう言った。

「さっさと帰って足見てもらえ」
「俺、病院嫌なんすわー。 あの消毒液の匂いとか」

ぼくが長年居た病院は、消毒液の匂いはなかった。
かわりに、鉄格子とかがあったっけ。

「……半分は分かるよ、その気持ち」
「そーなんすか」

今時の、明るい色に染めている髪が光る。 想出は辺りを気にするように見渡して、

「まだ、色影は帰って来ないんすか?」
「いろははそろそろだと思うけど」

そっすか、と気のない返事をする。

「……高校1年の時、色影に話しかけたんす。 大変だったなって。 そしたら、俺なんか知らないって言われて……。 かなりショックでした」

想出がハハハと笑う。
ぼくにはそんな愛想笑いもできないんだなーと思うと、なんだか、空っぽな気がした。

「あんだけ苛めてたのに……忘れられたんすね」
「小学校の時のお前、最高に可愛げなかったから」

すいません。
そう想出は謝って、バツの悪そうな顔をする。

「あん時、自分もガキだったんで」  「いろはは、もう二度とお前を思い出しはしないと思うよ」

ぼくだって、思い出してくれないんだから。

「分かってます。 だから、余計罪悪感というか……そういうの、分かります?」
「残念ながら、それは分からん」

ぼくは、いろはの間違った純粋さを利用しているんだから。
有効期限は、いつまでなんだろう。

「色影さんは、変わってねーっすね」
「それ、誉めてんのか?」
「……どうでしょう」

想出は、よく小学校の時にいろはをからかっていた悪ガキだった。  髪の毛を引っ張ったり、ランドセルを奪ったり。

いろはも泣きじゃくって、絶対に想出は許さないとか言っていたんだけど……。

「忘れたんだな」 「はい?」 「いや、ただの独り言だよ」

気にしないでと、手を軽く振る。

「もうそろそろ、帰って……あ。 帰ってきた」
「嘘、まじっすか」

駐車場から近寄ってくる、小柄なシルエット。

「…………………」 「………………」

明らかに不思議そうな顔のいろはが、じっと想出を睨む。

「お帰り、いろは」

彼を庇うように、ぼくは前に立っていろはに笑顔を向ける。

「……ゆーちゃん、ダメだよ」
「え?」
「ここにそんな奴入れちゃ」

いろははそう言って、ぼくに近寄り、

「約束したでしょ?」 汗タラリ。 眼球が逃さないと言うようにぼくを貫く。
想出も、焦ったように、

「いや、俺が勝手に入ってきたんだ。 すぐ帰るから」
「早く帰って。 あなたなんて知らない。 顔も見たくない。 消えて」
「え、でも」

想出、それは間違いだ。

いろはの要望を一瞬でも躊躇ったら、ガタが外れてしまう。

「いいから消えてっ!! 」
「っ」

無面だったいろはに怒りが宿り、怒鳴り散らす。
ぼくの胸倉を掴むその手は、震えていた。  想出は逃げるようにアパートの敷地から出て行く。

「………大丈夫だよ、いろは」
「消えちゃえ」
「もう、男の人はいないから。 中に入ろう」
「消えちゃえ」

茫然と消えろと何かに命令する。

手を握ると、驚くほど汗がビッショリだった。


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