ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- マイナス ちょっとした番外編
- 日時: 2010/06/28 15:53
- 名前: アキラ (ID: PA3b2Hh4)
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まだまだ未熟者ですが、頑張ります。
登場人物>>2
お客様リスト
ユエ様 白兎様 神無月様 風水様
くれは様 結羽様 月兎様
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- Re: マイナス ( No.19 )
- 日時: 2010/06/04 18:06
- 名前: アキラ (ID: PA3b2Hh4)
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帰ってすぐ、いろははトイレで大量に嘔吐した。
咽つつも、弁当の全てを吐き出す。 胃液で消化されたはずのソレは、滝のように流れ出た。
「大丈夫だよ、いろは」
「…………………」
ぼくが差し出すタオルを受け取り、口を拭う。
ヨロリと立ち上がって、ぼくを突き飛ばした。
「信じらんない」
きつくぼくを睨む。 目が大きい分、穴があいてしまうような錯覚を抱く。
「あんな奴と話して、夕衣もいろはを苛めるの?」
「苛めないよ」
「じゃあ、じゃあ何で? 何であんな奴と話すの?」
異常な男嫌い。
いろはの顔色を伺いながら、ぼくは言葉を紡ぐ。
「いろは、ぼくにはいろはだけだよ。 さっきの人はぼくを誰かと間違えてたんだ」
キミが、ぼくをぼくと間違えているように。
「だから、ね」 「────。 ……っ」
また嘔吐感がこみ上げてきたのか、口を抑える。
肩を震わせて、それを呑みこんだのか、なんとも言えない表情でぼくを見る。
「………時々ね、声が聞こえるんだよ。 みんなみんな、いろはをバカにしてる。 ……夕衣には聞こえる?」
耳を澄ましてみる。
聞こえるのは、微かな車の通り過ぎる音だけ。
「聞こえないよ」 「みんな、いろはをバカにして、笑ってるんだよ。 ……いろはがどれだけ泣いても、笑ってる」
耳を抑えて、いろはが訴える。
「いつもいつも、いろはをバカにする」
「大丈夫だから」
頭を撫でて、なるべく優しい声色で宥める。
「いろは、大丈夫。 この部屋にはぼくといろはしか居ないだろ?」
「………夕衣と、いろはだけだよね」
「うん。 だから、ね」
いろはは少しだけ落ち着いたように、震えを止め、強張った表情を溶かした。
「うん、ありがとう。 夕衣のお陰だね」
笑って、ぼくにありがとうと言ってくる。
それがぼくの、最大の罪滅ぼし。
「全部出したらおなかすいたぞーッ!」
「よっしゃ。 何かたべよう」
想出、キミはいろはに謝るべきじゃないよ。 キミがした事はほんの序の口だから。
いろはを完璧に壊したのは、ぼくなんだ。
今では夕衣夕衣と笑顔を向けてくれているけれど。
いろはが正常になったら、ぼくは。
きっと、いろはに殺されるんだろなぁ。
……ただの、独り言。
- Re: マイナス ( No.20 )
- 日時: 2010/06/04 18:12
- 名前: アキラ (ID: PA3b2Hh4)
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ⅴ
「だいすき。 みんなだーいすき」
そっと、キミの髪を撫でてみる。
お風呂に入ってないから、ごわごわしていた。
泣く妹。 そのそばには、死んだ兄。
「だいすきー。 あいらぶゆ〜」
「………………」
「だいすきだいすきだいすきだいすきー」
妹が、そう言いながら泣いている。
恐怖にひきつった顔で。
「だいすきだいすきだいすきだいすき。 だからお願いだから、ここからお願い出してよお願いしますお願いします。 だいすきだからお願い」
ぼくは黙ってそれを見ていた。
妹は、どこまでも必死だった。
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- Re: マイナス ( No.21 )
- 日時: 2010/06/04 19:07
- 名前: ユエ (ID: ucWXZRi/)
本当に男が嫌いなんですね。
最後のが気になるっ。
- Re: マイナス ( No.22 )
- 日時: 2010/06/04 21:58
- 名前: アキラ (ID: PA3b2Hh4)
いろはの男嫌いは、少し異常すぎます。
ただの男性恐怖症というわけにはいかないのです。
- Re: マイナス ( No.23 )
- 日時: 2010/06/04 22:59
- 名前: アキラ (ID: PA3b2Hh4)
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第2章
未だ残る傷跡
今更だけど、いろはは学校で友達が居ない。
これは、いろはも望んでいた事だ。 同級生、特に異性との交流は絶対いろはは拒否していた。
他の地域から来た生徒で、いろはの事情を知らずに彼女に話しかけたらしい。 いろはは美人だから、異性の目を惹きやすいのだろう。
その彼らの前で、いろはは嘔吐したらしい。
この小さな田舎町。 ぼくといろはと同じ世代の人は、ぼくらの事情を知っているせいか、あまり話しかけてはこない。
不意うちに話しかけられたいろはは、抵抗もできず、耳を塞ぐ事もできず、
「今日も学校かー」
大嫌いな学校に足を運ぶ。
いろはは本当に嫌そうに顔をしかめ、味噌汁を啜る。
「嫌だな。 だって、今日もいろはをバカにする」
「我慢しろよ。 ぼくはいつでもここに居るから、帰って聞いてあげる」
いろはが嫌悪している学校に行く理由は一つ。
ぼくが、「学校に行かないとぼくは消えてしまう」 と言ったからだ。
「いいよ、帰ったらいっぱいお話する」
「楽しみにしてる」
いろはは嬉しそうに笑い、足をばたつかせる。
そんな彼女を横目に、先ほどからついているテレビの画面を見る。
「………女児誘拐だって。 遠い県だけど、こういうの終わらないな」
独り言、のつもりだったんだけど、
「だよね。 こういうの、本当に嫌」
いろはも乗ってきた。 どこか、遠くを見るような目。
味噌汁のお椀を置いて、じーっとテレビを見る。
「可哀想」
いろはの口から出てきた言葉に、素直に驚いた。
「可哀想だよね、こういう子たち。 誘拐とか殺されたりしてさ。 凄く可哀想」
「……いろはも、そう思う?」
いろはは、テレビからぼくの方を向いて、
「思わないよ。 言ってみただけ」
「………ふうん」
だよねー。 いろはは喜怒哀楽っていう単純細胞だけで構成されてるからねぇ。
「夕衣は?」 「え?」 「夕衣は、誰か知ってる人が死んだり、消えたりしたら、哀しい?」
ザラリと、ざらついた感触が心をなぞった。
何だ、コレ。 気持ち悪い。
「……哀しい、よ?」
言葉を生みだす。
生み出さなきゃ。 いろはが見ている。
「ぼくの知ってる人間なんて、いろはだけだから。 いろはが死んだらぼくは哀しいし、生きていけないし、混乱する」
だって、いろはは、
「いろはは」 ぼくが壊したんだから 「ぼくの大切な人だから」
ノイズのような機械音が響いて、頭が痛む。
「うん。 いろはの大切な人も夕衣だよ。 夕衣はいつだって、いろはの味方で居てくれるしね」
いろははそう言い、席から立ち上がる。 鞄を持って、キレイな黒髪を振る。
「だから、いろはも頑張る」
頑張らなくていいよ。 何を頑張るっていうんだ。
独り言だよ。
いろはをいつもの通りに見送って、そのすぐ後に語部も登校してたけど、話す気分じゃなくて中に入った。
「………くそったれ」
まだ、完全に捨てきれない。
少しだけ、思い出してみる。 いろはとの過去。
虫の名前の兄に、笑い声が大きい両親。
そこまで思い出して、最悪な気分になる。
「………あ、」
掠れた声しか出せない。 気持ち悪い。 胃液が充満していく。
「あああああ、」
ぼくが犯してしまった罪。 それはきっと、許されることじゃないんだろうけれど。
「糞野郎……」
ただの、独り言だ。
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