ダーク・ファンタジー小説

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ぼくらときみのさいしゅうせんそう(更新停滞中)
日時: 2024/04/26 12:25
名前: 利府(リフ) (ID: mk2uRK9M)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel2a/index.cgi?mode=view&no=3688

2016年冬大会のシリアス・ダーク部門にて金賞を受賞させていただきました。
本当にありがとうございます。


こちらのページを見てくださりありがとうございます。当方、更新停滞させながらTwitterで普通に生きています。 @flove_last_war までどうぞ。やっぱ書けねー!うわ無理ー!うちの子かわいいー!とかたまに悲鳴が上がる様子が見れます。

※過去話書き直し実施中
内容が修正されておりますので前に見た方も読み返していただければ幸いです!
修正しました >>5 >>6 >>7 >>8

※作品の感想をいただけたら執筆の励みになります!コメントお待ちしています!




題名通り戦争の話です。
処女作と言い張りたいんですが、この作品の前に2本ほど許し難いクオリティのものができてしまったので、これはここに上げた作品としては3作目となります。
毎度のことなんですが息をするように人が死ぬ作品なのでご注意ください。

物語は現代。なんか異能バトルっぽいものです。その中でなんやかんや起こって、そのついでに死人がぽろぽろ出ます。
物語構想は既に完成しているので、死ぬキャラは死ぬ運命です。訣別の時が5話に1回来るペースじゃない?
なんでこいつ殺したんじゃテメー!!という死に方で死ぬキャラも出ます。後々そのキャラの回想的なものを作るかもしれません。

そしてこの小説にコメントが来なさすぎて「この小説価値がないんじゃないのか...?」と思い始めてるので、暇で死にそうだったら「あ」だけでもいいのでコメントしてやってください。作者が深読みして喜びます。


キャラに救いは持たせたい、その一心で一応書いてます。暇つぶしに一部だけでも観戦してください。



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
※グロ表現・軽い(?)暴力表現があります。
 苦手な方はお気を付け下さい。

※更新があまりにも不定期です。熱意をなくした人間が書いているので失踪したらそのたび合掌してやってください。



prologue…開戦 >>01-19
(黒い雨の日だった)


chapter1…兵器 >>23-36
(その死を見た日だった)


—————————————————————————————————————

(FREE…病室 >>38))
(安堵を得た日だった)

——————————————————————————————————————


chapter2…盟友 >>41-57
(彼の人が来た日だった)


chapter3…死神 >>58-84
(歯車が一つ噛み合った日だった)


chapter4…兄弟
>>85-97 >>99-105 >>108-114
>>119 >>121-123 >>124 >>125
(探し人を求める二人だった)


以降連載中です。




追記:この小説に関連する短編を集めた「ぼくらときみは休戦中[短編・作者の呟き]」の
   リンクを上に貼りました。

   また、そのページのNo.42にてこの小説の一部キャラクターの容姿や性格を載せております。
   この小説に登場するキャラの短編もありますので、興味があればどうぞ。

   一部は本編とリンクする話となっております。その話については本編読読了後推奨です。


*****


コメントありがとうございます!またのお越しをお待ちしています!
>>98 >>106 >>115(芹さん本当にいつもありがとう)

Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.101 )
日時: 2015/12/19 00:26
名前: 利府(リフ) (ID: W3Oyo6TQ)

まさかの№100に投稿するまで気付かなかった利府さん
BGMはノラガミOPです!賽銭は五円!

————————————————————————————————————————



「箱は、僕たちの前で人を殺しました」

ロビンさんの失笑が含まれた言葉は、教室内に大きく衝撃を与えていた。
タケル君が冷や汗を流していて、トヤマさんも自分の事となると
大きく関心を持つのかぎりぎりと歯軋りをしている。
周りのような衝撃より白けた、という感情が大きいようだが。

「ムッカつく物言いするねぇ。私と弟の立場悪くする為に来たの?
 話聞かせてって言って悪いけど、もうそこでやめにして。君らが何をしに来たかだけでいい」

珍しく、うろたえていた。
あたしの目で見ても分かるほど。最近まではトヤマさんの威圧感に押されて
彼女を分析だとかそんな大それたことできない、って思っていたのに。
でも何故自分が分かる?トヤマさんの声がいつもと違っても、表情は変わってはいない。

(…トヤマさんの事は今まで深くは考えられなかった。まるで、シャッターを下ろされたように)

そこまで考えてハッとした。
こんな事今考えたって何にもならない。
実際皆はロビンさんの次に紡ぐ言葉を聞き逃さないため、彼とその弟をじっと見ているのだ。
あたしはただでさえ理解力が遅い。ならば一層別のことなんか考えてられない。

「兄ちゃん、言うべきだと思う。ウソを言ってもマコトを言っても、ダメなときはあるんだ。
 オレ、よく…わかってるよ。でも、今はセイロンをのべたほうがいいさ」

イワン君は悲しそうな表情で兄に語りかけたが、ロビンさんは口を真一文字に結んだままだった。

「兄ちゃん!!」

叫んだ彼の瞳が揺れていて、涙が滲んでいるようにも感じる。
…ロビンさんは弟の顔を見てから少し間をおいて、「そうだね」と軽く微笑んで言った。


「僕と弟には探している人がいます。そう思ったきっかけは別々でしたが、その人はあの所長…
 つまり僕と弟の父親の、隠し子の一人です。まぁ、あの男に正妻はいなかったでしょうが」
「へぇ。分かる限りそいつのプロフィールを吐いて。それだけやって君らは私の味方になる」

そこまでせびるのですか、とロビン君が首を軽く横に振って、あたしたちを見上げて口を開く。



「女性です。日本に生まれて、最近までは平穏に暮らしていたとミス・チエリから聞きました。
 名前は分かりませんでした。ただ、性別以外で言えば、この学校に在籍しているという事と…

 強大な能力を持っていて、今は姿をくらましたという情報しか僕と弟は得られていません」


まず第一に、強い能力を持ったこの学校の女生徒。
次点に、平穏に過ごしていたが、現在は姿を消したという情報。

その条件に当てはまるのは…


「…あの虐殺で、死んだ子の中に含まれているの?」

そうとしか考えられない。
イサキさんもシンザワさんもあたしの言葉に頷いた。
タケル君は唖然として、トヤマさんは何も反応を示さずにただ兄弟の表情だけを見ている。


「そういう事ですよ。彼女がサエズリケンジに殺されたという可能性は限りなく高い。
 しかし、強い能力を持った生徒はこの高等学校でも一握りでしょう。
 だから僕と違って、奇跡を信じているイワンはこう考えたんです。


 『あの虐殺に巻き込まれたとしても、その強大な能力で助かっているかもしれない』と、ね」


そんなことあり得るのか。
あたしはまだまだ幼いだろう脳が必死で考えた、ひとつの可能性に愕然とした。

「……確かに奇跡だな。胸が痛くなるような話だ、そう願いたくなるのも分かるよ。
 しかし、シンザワサソリもトヤマミコトも、私もそのような奇跡に似た話も聞いてはいないんだ」

「ざんねーん兄弟君。この通り有能な仲間も知らない。ならチエリもそんな発想信じないでしょ」


トヤマさんがげらげらと笑っている。それには正直いらついた。
もしも彼女が普通の人間なら食ってかかりたいほど、彼女の言い草は人の命を
自分の髪一本とでも考えているようなものだったのだ。


「ねぇ、タケルも同意見でしょ。私とお前が嫌いなあのババァに教え込まれてたじゃない」
「……」

「どっちを肯定するかも決められない?まだ確証もない話を信じて馬鹿になるの、
 それとも私の腕にしがみつきでもしてずぅっと嘘つきのままでいる?」

「…姉貴、俺は」

「優柔不断は連れていく気はない。お前がそのまま黙るなら、私は私のやりたいことをやるから」


「俺は!!」


タケル君らしくない叫びだ、と真っ先に思った。
今まで彼が声を荒げることはいくつもあったが、それは優柔不断の様ななにか、
迷いが混ざっているどこか弱々しい、強がりの叫びだったのに。

トヤマさんがその叫びに目を見開いたのだから、きっと彼と一番長く過ごしてきた
彼女にとっても驚くべき変化だったのだろう。


彼はほんの少し言葉を切って、もう一度教室内に響く声で叫んだ。

「俺は信じる。……探して見つけ出す。書類の中であっても、生きた姿であっても!
 見つけ出して、二人に会わせてやる。誰も協力なんてしなくていい!!」


怒りがこみ上げてくるのが止められない、と顔に書いてあるようだ。
彼はイワン君を一瞥した後、少し微笑んでから出口へ駆けて豪快にドアを閉めた。


イワン君が「待て!タケ!!」と叫び、その姿を追ってドアを開けても、彼はいなかった。

Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.102 )
日時: 2016/01/22 23:21
名前: 利府(リフ) (ID: mjEftWS7)

利府帰還。
PCが故障して全然来れなかったんだ。許してくれよ。あとカラ松ガールになったよ。
例のタンクトップ発売おめでとうございます。というわけで、ため込んでいた分の最終戦争!
————————————————————————————————————————————

ドアを開けたまま、イワン君はしばらく立ち尽くしていた。
風がイワン君の腕と体の隙間を通り抜けて入ってくる。夏らしくない、冷え切った風だった。

「…おい、アンタら、追わないのか?タケが…いなくなっちまったのに」

あたしはただ唖然としていた。
タケル君の正義感にただ圧倒されて、足が暑いのにがくがくと震えていた。
時間が止まったような感覚に陥る。
が、イワン君が流す冷や汗を見て、事の重大さをようやく理解してあたしは一歩前に出た。
…そして手を伸ばす。

それと、イワン君が彼を追って教室を出ていくのが同時だった。


「……あ」

駄目だ。
止まっていてはだめだ。彼は単独行動だってその能力を駆使してでも取る。
今のタケル君の行動で身に染みてわかった。だって、姉弟とはいえ彼とトヤマさんは違う。
どうして彼を止められなかったのだ。少なくともここにいるみんなも彼も、人間のはずだ。
感情が昂れば気が動転する。悲しければ涙を流す。同情だってして、奔走する。
ならば、彼を探して協力すべきだ。タケル君の役にだって立ちたい。だから、行かなくては。

「追うの?」

トヤマさんの剣呑な声に、あたしだけではなくその場の全員が振り返る。
あたしは進めようとした足を止めて、勇気を振り絞って彼女の馬鹿にしたような目を睨んだ。

「追わなくて、どうするんさね」
「さぁ。私は君の思考を理解しようとはしないし、できないからね。単純に私は、追わないけど」

「おい、白鳥。お前それでも人間か?黒幕ぶってるつもりでいるの」

口を開いたのはシンザワさんだった。いらつきを隠せない顔立ちで、余裕そうな顔を見る。

「そんな面構え続けるなら、お前の弟でもあっしらの仕事に巻き込んで、化けの皮剥がしてやろうか」
「シンザワサソリ、よせ」
「あっしには、どうにもお前がサエズリに見えて仕方ない。どうなんだ、なぁ———」
「シンザワサソリ!!」


ぱぁん、と乾いた音がした。
イサキさんがシンザワさんの頬を大きく振りかぶって、平手打ちしたのだ。
トヤマさんはくくくっ、と面白そうに笑って傍にあった椅子に座り、足を組む。
それは密かに仲間割れを楽しむ、黒幕の姿そのものだった。

「…イサキちゃん?」
「行くぞ」
「は?」
「追う。トヤマミコトに構っていても良い知らせが入る事はあり得ないだろう」

ぱちくりと目を瞬かせるシンザワさんの頬をもう一度叩き、「徒歩だ。探すぞ」と
イサキさんが低い声で言ってシンザワさんの襟を掴んで外へと歩いていく。
シンザワさんが納得いかないと訴えるように、足をバタバタさせつつ「痛い!痛いってイサキちゃん!」と
ドアの向こうへとフェードアウトするのを見届けて。

あたしはトヤマさんを見た。

その時のあたしの表情がどう彼女に映ったかはわからなかったが、
彼女は少し間をおいて笑った。
ムッとしてまた睨んでやると、今度は肩を揺らして鼻で笑ってくる。

「どうなの。ハルミ」
「探すって、決めてるさね」
「…そんなにあいつが大事なの?」

何をわかりきったことを。返す返事は、たった一言だった。

「大事な、コウハイさね」


決意は固かった。

できる限りの勇気をもって言った言葉を聞いて、トヤマさんは少し怪訝そうな表情を見せる。
そして、あたしの顔をもう一度見て、素の笑いを見せた。


「…ふっ、そうなんだ。フユノギハルミ、やっぱり君は変わっているわ。
 可哀そうで、一見救いようがない。でも私は、変わり者が好きなのよ。どこかのだれかとは違って」
「…どこかのだれか?」

「その、どこかのだれかに。私とあの愚弟のことを、まず教えてもらいに行きなよ」

Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.103 )
日時: 2016/05/18 19:37
名前: 利府(リフ) (ID: L7bcLqD7)

マットゥリダマットゥリダヘイカモン ハッハ!!

ラッタトゥリ パリラ チュリパレル リラッパッパ


(分かる人には分かる)
———————————————————————————————————————————————

イサキとシンザワは学校内で一考する。

「どうする。イサキ、まず目撃から探るしかないよね」
「…どうかな?あの少年の能力、“黒烏”、移動するときには活用するんじゃないか」
「つまり、まず聞きに行くのはあの先生ってことで」
「あぁ。情報を探るためにはまず不可欠だろうね、…行くぞ」

そこから身を翻して進もうとしたイサキの両肩を、シンザワは突然強く掴む。
驚いて振り返ったイサキをそのまま横へ、流れるように移動させてシンザワは言った。

「敵には備えろ。せめてあっしの横に立って、前には出るな」

イサキは一瞬戸惑ったが、シンザワが「ほら」と指した自分の足の傷を見て納得した表情を見せる。
まるでお手をどうぞお姫様じゃないか。昔にもやろうとして、お前が階段から落ちただろう。
昔の話を思い出して、イサキは薄く笑った。

*****


「その、どこかのだれかって。どこにいるんさね」
「まぁすぐ分かるよ。案内してあげるわ、君をそいつに会わせてやりたかったのもある」

ほら、とトヤマさんが右手を差し出した。
蒸し暑い夏はあっという間に戻ってきた。少しは冷静になった頭を働かせて、トヤマさんの動きを見る。
彼女と教室に二人きり、増してやこの人の本性を垣間見たとなればそうすることがまず第一だった。
ここから出て行ってしまえば楽だろうか。だけど、案内すると言ってくれている。
それならついて行くしかない、タケル君を探す手がかりになるなら。そう決めて彼女の手を取った。

「いいわ。根性あるわねぇ、ハルミは。そういうところが君も無能らしくない」

無能無能って、もうすぐ無能をやめれるかもしれないのに。タケル君には否定されたが。
トヤマさんがあたしの手を引いて、窓へと駆け出す。だがここは3階のはずだ。
まさか、飛び降りようとでも言うのか。

「え!…ちょっ、離してトヤマさん!離せさね!!」

当たってほしくないところで能力が当たった。トヤマさんはひょいと窓から飛び、
あたしの手を持ったまま風を切って落ちていく。まずい。死ぬ。
トヤマさんが死ななくてもあたしが死ぬ。

「あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
地面が近い。その絶叫の瞬間だった。

彼女の背から、雲と同じく白い羽がばさぁという音を立てて生えてきた。

そのままトヤマさんは羽をはばたかせ、青い空へと舞い上がっていく。
一瞬の間に、あたしの手ではなく体を掴んでいる彼女の腕力が計り知れなかった。

「なに?怖い?いっつも君たちが可愛い可愛いって言ってる鳥がそんなに怖い?」
「怖いっ!!ちゃんと徒歩でいいから連れてってさね!!」
「鳥は徒歩のほうが苦手。人間は飛べない。だから私は気分で両方やる。今日は飛ぶ日なの、おわかり?」
「分からないって!放せぇぇ!いやあぁぁぁぁ!!」

「死ぬよ」
「あっはい」

大人しく彼女にしがみつくことにして、恐る恐る下を見る。
何もかもがおもちゃに見えてくる。ミニカーや、バービー人形。それで遊んだ記憶はないけど。
…なるほどそうか。
彼女からすれば全てが、矮小に見えるのだ。
膨大に広がるそれらがいくつ壊れても、知ったことがないのだ。

(もしあたしが彼女だったら、…どんなことになっていたのだろう)

下へ白い羽が一枚落ちた。そこは山の麓で、整備もなにもされていない荒れ果てた場所。
そこでひらりひらりと舞った羽は、そのまま地に落ちると思って目を背けようとした、その時。

ぐにゃりと歪んだ“何か”が、形状を留めない手で羽を掴み取った。

言葉には出さずに、ただ戦慄する。
それが何なのかが全く分からない。この世に居ていいものではない、とまず思った。

だって、妙に…
——どこかがあたしたち人間と、似ているような気がしたのだ。
その何かが、顔らしきところから大きな口を開ける。
恐怖で目線を反らせないままだったあたしは、そこから漏れるかすかな音を聞き取った。


「……ミコ……ちゃん…………」

ぶるりと背筋が震える。
それから距離が離れていっても、あたしは声も出せないまま縮こまっているだけだった。

名前を呼ばれたトヤマさんに、何も伝えないまま。

Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.104 )
日時: 2016/04/20 17:34
名前: 利府(リフ) (ID: b1kDOJaF)

「着いたよ。まぁそう長くもない旅お疲れ、少しでも休みなよ」

夏の香りが失せた場所に、夏の日差しに当てられたあたしは降りた。

「…ここ、どこさね」
「どこ、どこってもう能力者のくせにどうして私に頼るのよ。馬鹿?ふっつーに、私の家よ」

トヤマさんの言った言葉は正直信じられなかったが、この、彼女の家系を考えると
このあたしの眼前に広がる風景は、現実であろうことが少しだけ感じられた。
もし旅人が偶然この場所を見つけたとしたら、どれほど感動を抱くだろう。
棘が綺麗に取り去られた薔薇。蝶やミツバチが数匹、花が生い茂る花壇の中で飛んでいる。
頭上に見えたのは風に揺れる木の葉。緑色の、まだ若いと見受けられるものばかり。
遠くに見える濁り一つない池には、薄く色づいた蓮が浮いていて、鏡のような水面の上で揺れていた。
動物の気配はないが、遠くで何とも知れぬ鳥が鳴く声がはっきり聞こえてくる。

そして快晴の下で、その日差しと周辺の包むような美しさを一身に受ける屋敷があった。


「…ここに、誰かいるってこと?」
「そうだよ。君の好きそうな花ぐらい用意してもよかったんだけどねぇ、あの女」
「あの女、って…それが、『どこかのだれか』なんさね?」
「ビンゴ。そう、子供の気遣いもできないババァ」
「ババァって…」

なんて悪評だ。景色に見惚れていたが、トヤマさんはいつも通り過ぎて雰囲気もぶち壊しに等しい。
この対比が素晴らしいという人間はそういないと思うが、とにかくこの落差は素晴らしく酷かった。
お先へどうぞと促すように背を押してきた彼女の指は白く、振り向いたとき一瞬見えた表情は
すこし笑顔のようで、どこか教会にいるマリアとまではいかなくても
お祈りをしにきた無垢な子供に近く見えた。

足を進めていくと、想像したよりはまだ柔らかいがやはり壮観な門が現れた。
トヤマさんは「チャイムは君が押して」と言って、あたしの肩をぽんぽんと叩いた。
門と比べて豆粒のように小さいボタンを押すと、小さい音が門の隙間から微かに漏れてくる。足音か。
誰が出てくるのかと、表情を強張らせながら家主を待つ。

「……どちらさまでしょうか」

瞬間、あたしの喉から驚嘆の声が出た。
まさか。まさかまさか、この声は。いや、そんなわけは。
いや、そんなことがあったら、…でも、それならトヤマさんがあたしを家に連れてきたわけも…あれ?
だけど、この声は確かに…——

「タケル君?」

いるはずはないと思っていた。だが、教室を飛び出した直後に、家に帰ったとなれば…

「ねぇ、返事して!タケル君、みんな君を探してたんよ!?あたしも!」
「…お帰りください」
「帰れないさね!!君がここから出てくるまで!だから開けて!君がいないと…」
「俺は皆さんに関係ないでしょ。だからもう、帰ってください」
「タケル君!!」

押し問答が続くだけだ。駄目だ、せめて扉だけでも開けてくれはしないのか。
彼の目を見て話せれば、かける言葉も見つかるかもしれないのに。どうすればいいのだ。
らちがあかない、と頭の中で思い、今度は開けて開けてと叫びながら門を叩く作戦に出る。
相手の反応はなくなった。それでも、それでも、門を叩き続ける。

「話だけでも聞いて!お願い、返事してさね!」
「……」
「タケル君、何とか言ってよ!」
「……お嬢さん」
「タケルく…」

ふと、トヤマさんのものとは違う声が聞こえた。無言であたしの後ろに立つ
彼女よりも少し、子供のようで大人びたよく分からない声色だった。

「…誰?」

今の、「お嬢さん」の声の主は明らかにタケル君ではない。
じゃあ、誰なのだ。

がちゃん、と門が開き、ぎいという重い音と共に現れた人影は。


「触らぬ神に祟りなしって言うけどね、ミコト。お前、タケルとは違った意味でクズ子息よ?」


あたしと背が一緒ぐらいの、片頬に花の入れ墨が彫られた綺麗な少女だった。

Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.105 )
日時: 2017/03/19 10:11
名前: 利府(リフ) (ID: TkB1Kk0e)

お待たせしました
トヤマ家の一族どうなるのかしら。タケル君は今頃スケキヨしてるとかそんな怖いこと言わないの!
あと笑顔百科の「謎の一覧」の記事の掲示板に予想通り謎の人の動画貼られてたんだ
また現在進行形でツボりながら書くよ!

*****


イサキとシンザワがチエリを2階の窓際で見つけたのは、二人が行き先を職員室に固めてからだった。
こちらを向かない彼女を、シンザワが「せんせー」と小突いた瞬間、チエリはびくっと体を跳ねさせた。
ロボットのようにゆっくり現代顔の市松のような顔がこちらを向く。
どうやら二人が近付いてくるのにも気付かなかったらしく、少し目を回していた。

「え、えっとね!えっとね…こ、これは!たそがれという、精神統一!」

チエリが「やる気出たぞー!仕事、仕事!」とスキップして職員室に向かうのだが、
左足のつまさきが床につっかかってちょうど腹から転んだ。チエリの喉からぐえっという声が漏れる。
びったーん、とかそういう擬音がつくような転び方を目にしたイサキは、
いつものノートを取り出してさらさらとメモを取った。

「公務員の弱味は取っておくべきだろ、なぁシンザワサソリ」
「サボり紛いの行為、プラス慣れないスキップでずっこけとかないよねー奥方」
「まっ、待って!待って!私に用があったんだよね!調べたいことあるなら何でも教えるから!」
「言われずとも調べてやろーと思ってるんだよ、あっしら」
「えっ…ひどいなぁ、じゃ、じゃあ、職員室入っていいよ…」

少々涙目のチエリに続いて二人が職員室に入ると、窓を閉め切っていたからか相当中は冷え切っていた。
それでも熱い空間から涼しい場所に入ると人というものは安心するらしく、
机に寄りかかってほうと一息つくシンザワの足を蹴ってイサキはチエリの使うスペースへ向かう。

「それで、それで、二人とも。調べたいことが、あるんだよね?」
「あぁ。先生がまずそれを理解していただければ問題はない」
「まかせて。私も、私も、みんなの力になるなら、何だってやる勇気があるよ。教師だから」

チエリの机の上にはA3サイズの紙もすっぽり入りそうなファイルが置いてあり、
そこから何枚かの紙がちろりと姿を見せていた。調べてから入れ直した、ということだろう。
実際、職員室の金庫ががら空きで、そこは書類を置いていた場所だったのだろうとイサキは冷静に推理する。

「多分この紙、生徒全員の経歴とプロフィールだよな。んで、調べんの。イサキ」
「この位の量なら休日の腹ごなし程度にはやるさ。探偵を舐めるなよ、助手」
「なにそれ。まぁいいや、どいてな先生。あっしのいらない仕事だ」

シンザワがチエリを机から離し、そのままイサキに向けてサムズアップする。ゴーサインだ。

「調査を始める」

イサキは抑揚のない声でそう告げ、次の瞬間ファイルを上に掲げてばっと開いた。

すっと落ちてきた紙をイサキは無表情で取り、整った状態で積み重なっていた書類を
目にもとまらぬ速さで、チエリの小さな机の上に一枚一枚と積み上げていく。
彼女の目線はどちらかといえばその書類に書かれた文ではなく、書類そのものに向いている。
これで内容が分かるものか?とチエリが疑いの表情を見せる中、シンザワはにっこりと笑って呟いた。

「内容も重要だけど、まー書類の管理の下手くそさは見抜くんだよ、うちの探偵。
 イサキの血筋は正直才能から成ってる。あっしじゃあ届かないことは確かだ。

 ほら、残り10枚程度」

——5、4、3、2、1、0。


その時間2分少しほど。
イサキは最後の一枚を置いてからふうっと長い息を吐き、目を閉じた。

そのまま3秒ほど間を置いて、夢から覚めたようにぱっと瞼を上げる。


「全校生徒の数と比べてみたが、1枚足りない。能力や経歴についてはすべて把握したよ」
「そっか、お疲れ。じゃ、あとはこっちで捜索するから。じゃーね、先生」

「えっ…!?まっ、待って!待って!本当にわかったの?ねぇ…」

書類をまたファイルに入れて、イサキとシンザワは一仕事終えたというような表情で去っていく。
チエリも驚嘆の声を上げつつ彼女らを追うが、シンザワによってぴしゃんという
軽い音とともに扉を閉められ、その足は止まってしまった。

「…はぁ」

しょんぼりとしながらチエリは自分の机に置かれた書類を横目で見る。
まさか、そんなことあるはずないだろうけど。軽い面持ちで、苦笑いしつつチエリは
書類を一枚、一枚とイサキには遠く及ばぬスピードで自分の机に並べていった。

——一時間後、確かに全校生徒の分から書類が1つだけ足りないことに
気付いたチエリは床にへたり込み、また大きなため息をついた。


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