ダーク・ファンタジー小説

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ぼくらときみのさいしゅうせんそう(更新停滞中)
日時: 2024/04/26 12:25
名前: 利府(リフ) (ID: mk2uRK9M)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel2a/index.cgi?mode=view&no=3688

2016年冬大会のシリアス・ダーク部門にて金賞を受賞させていただきました。
本当にありがとうございます。


こちらのページを見てくださりありがとうございます。当方、更新停滞させながらTwitterで普通に生きています。 @flove_last_war までどうぞ。やっぱ書けねー!うわ無理ー!うちの子かわいいー!とかたまに悲鳴が上がる様子が見れます。

※過去話書き直し実施中
内容が修正されておりますので前に見た方も読み返していただければ幸いです!
修正しました >>5 >>6 >>7 >>8

※作品の感想をいただけたら執筆の励みになります!コメントお待ちしています!




題名通り戦争の話です。
処女作と言い張りたいんですが、この作品の前に2本ほど許し難いクオリティのものができてしまったので、これはここに上げた作品としては3作目となります。
毎度のことなんですが息をするように人が死ぬ作品なのでご注意ください。

物語は現代。なんか異能バトルっぽいものです。その中でなんやかんや起こって、そのついでに死人がぽろぽろ出ます。
物語構想は既に完成しているので、死ぬキャラは死ぬ運命です。訣別の時が5話に1回来るペースじゃない?
なんでこいつ殺したんじゃテメー!!という死に方で死ぬキャラも出ます。後々そのキャラの回想的なものを作るかもしれません。

そしてこの小説にコメントが来なさすぎて「この小説価値がないんじゃないのか...?」と思い始めてるので、暇で死にそうだったら「あ」だけでもいいのでコメントしてやってください。作者が深読みして喜びます。


キャラに救いは持たせたい、その一心で一応書いてます。暇つぶしに一部だけでも観戦してください。



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
※グロ表現・軽い(?)暴力表現があります。
 苦手な方はお気を付け下さい。

※更新があまりにも不定期です。熱意をなくした人間が書いているので失踪したらそのたび合掌してやってください。



prologue…開戦 >>01-19
(黒い雨の日だった)


chapter1…兵器 >>23-36
(その死を見た日だった)


—————————————————————————————————————

(FREE…病室 >>38))
(安堵を得た日だった)

——————————————————————————————————————


chapter2…盟友 >>41-57
(彼の人が来た日だった)


chapter3…死神 >>58-84
(歯車が一つ噛み合った日だった)


chapter4…兄弟
>>85-97 >>99-105 >>108-114
>>119 >>121-123 >>124 >>125
(探し人を求める二人だった)


以降連載中です。




追記:この小説に関連する短編を集めた「ぼくらときみは休戦中[短編・作者の呟き]」の
   リンクを上に貼りました。

   また、そのページのNo.42にてこの小説の一部キャラクターの容姿や性格を載せております。
   この小説に登場するキャラの短編もありますので、興味があればどうぞ。

   一部は本編とリンクする話となっております。その話については本編読読了後推奨です。


*****


コメントありがとうございます!またのお越しをお待ちしています!
>>98 >>106 >>115(芹さん本当にいつもありがとう)

Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.86 )
日時: 2015/07/11 17:23
名前: 利府(リフ) (ID: ktFX/uOB)

「どうもぉ」

突然ぽん、と腕を叩かれ、ヤシロはびくりと肩を震わせた。
彼が振り返って周りを見回すと、薄手のブラウスとデニムパンツを身に付けたミコトが見えた。

当然ヤシロはぎょっとして、その可憐な姿の少女を引きつった表情のまま突き飛ばす。

「…ってぇ」
「てめぇ、何でここにいるんだ。どうしてあいつの家の場所を知ってるんだ!?」


ヤシロが怒鳴る中で、ミコトは小石を落としつつゆらりと立ち上がる。

その表情は悪戯を成功させた子供の様で、ヤシロは余計に畏怖の感情を抱く。
ミコトは静かに笑い、震えるヤシロの腕を今度はぎゅっと握りしめてくる。
当然その手は振り払われるが、揺れる動きのままにミコトの指は一点を指差した。

そこは小さなカフェ。
ヤシロは一瞬戸惑う表情をした後、やってしまったとばかりに口元を押さえた。


「私って甘党なんですよ、センパイ。ああいう店とかは暇があれば入るんですけど、
 本当に早朝に行かなきゃ食べれないパフェがあるって聞きまして、今ここにいたんです。

 で、今。センパイが家から出てくるのが見えて、挨拶しに行ったんですよ?


 センパイ、“あいつの家”の場所なんて、知りませんけど。…もしかして、それってここ?」


ミコトが妖艶に首を傾げ、目を細めると同時に、彼女の体は一撃の拳で吹き飛んだ。
壁に叩き付けられる直前でその背から水がうねり、クッションになったが。
ヤシロが怒りの表情のままにその体にまた一撃を加え、ミコトは僅かにうめく。

次の一撃は腹に当たったが、ミコトの不遜な笑いは消えることなく留まっている。

それがさらにヤシロの恐怖を煽り、遂に彼は声を荒げながらその頭部を蹴り飛ばした。


普通なら死んでいると彼も分かっていたのだろう、動かなくなったミコトを見て
深呼吸をしながらもう一発蹴りを入れた。

ミコトの口元から血が落ち、壁にも一滴、二滴の赤い痕が残されていた。


(…頼む、死んでてくれ。ユリに頼めば、どこにでも埋められるんだから)


彼は踵を返し、ふらつきながら歩き出す。

が、その足は数歩で止まった。



「…ヤシロセンパイ?」

その呼び方をするのは、彼の友人に一人しかいない。


「あぁ!よかった、ちょっと今から学校に行くんですけど、センパイも来ませんか」

「タ、タケ…」

長髪を束ねた中性的な少年は、紛れもなくミコトの弟であるトヤマタケルだった。


「えっ、あ、姉貴…?セ、センパイ、これって、何なんですか」

「俺は…知らねぇよ」


「知ってるからそんなに戸惑ってるんでしょ!?俺に能力使わせないで下さいよ!!」

タケルが表情を歪ませて、叫ぶ。
ヤシロは思わずミコトのいる方向へ後ずさり、ちらりと先程出てきた家を見た。

石でできた表札には、「神崎」の名がある。


(…ここでユリを呼べば、何とか出来る)

自嘲を込めて笑うと、ヤシロはその家を見上げた。
この思考を認めるという事は、犯罪を犯すというのと同意義だと分かっていながら。

彼が口を開いた。


「…ユリ!!敵だ、今すぐこっちに能力を使ってくれ、はや…」




「だれが、敵なんですか」



——ヤシロが一滴、冷や汗を落とした。

ゆっくりと振り返ると、冷たい真顔でミコトがトオルの顔を覗き込んでいる。


そのまま音なき悲鳴を上げて、彼は道の向こうへと走り去って行った。









「…姉貴、トオルセンパイは信用できない。近付かない方がいいと思う」
「いやよ。
 近くで一緒にいた時期があるから、私はあの人と、ハルミを守りたいんだってば」
「それで姉貴が死んだら、俺も皆も死ぬぞ。和平も何もねぇよ」

「和平ぃ?そんなの一度もクソ人間がやれた事がないじゃない。
 どうせ人間、毎日どこでも戦争やってるんだし。
 
 私は、あの二人をそれから少しでも遠ざけたいだけ」


タケルが不満げに「馬鹿姉貴」と呟くと、ミコトは「知ってるくせに」と笑った。

Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.87 )
日時: 2015/07/14 22:13
名前: 利府(リフ) (ID: ktFX/uOB)

「暑い…」

校門の向こうから、この季節にはよく聞く呻き声が聞こえた。

あたしはその時に花壇の右に生えていた花をじっと見ていて、声の主の姿は見られなかったが。
空は相変わらず真っ青で、夏らしさがようやく出てきたという感じだ。
入道雲が大きく見えて、もうあの「どろどろの雨」の欠片などどこにも残ってはいない。


「…この暑さで学校に呼ばれるなんて、正気の沙汰じゃないさね」

ふらりふらりとクーラーが効いているはずの校内を目指し、幾度か力尽きかけつつも
じんじんと暑い校門をくぐる。
最早ここまで来ると上下左右の理屈が頭から消え、もう方角さえ考えなくなった。
ぐらんと揺れる視界に呑まれそうになりながらも、何とか石の地面を踏みしめる。


お母さん、元気ですか。
あたしなんとか歩けてますか。いやむしろ、ここって地面だよね?


玄関まであと二歩、あと1歩。
ようやく辿り着いたその場所で強化ガラスが張られたドアノブを引く。
はぁ、これでようやくクーラーのある場所へ…

がちゃん、と音が響く。


「…うそ」

鍵が開いていない。
あたしは絶望感のままに崩れ落ちた。

おいおいウソだろ。いや待て、暑過ぎて頭冷えてきた。頭食って体冷やしたいんですが。
嘘だと言ってよタケル君。大体呼んだのあんただろうが。ざけんな。


意識が混濁していく。
葬式どーしようかなーと一人走馬灯を見ている中、突然腹部に激痛が走った。

「っだぁ!?誰!?」

蹴られたと一瞬で分かった。
思わず立ち上がり、攻撃をやめたその影に目を向けると、その表情は驚愕の色に染まっている。
が、今度はそれが腕を伸ばし、突然自分の頬に向かってひゅうっと手のひらを向けてきた。

往復ビンタ確定である。
すぐさま屈み、今度はその腕を察知されないように取った。


パシンという軽い音と共に相手の表情は歪み、そのまま「ごめん」と言って頭を下げる。

ただしその言語は、英語で。





「の、No problem…」


ハイ。
忘れていないだろうか。
あたしは帰国子女だ。それも、アメリカからの。

久々に発した英語だったので、舌をうまく使えなかった気がするが。
それでも相手にはバッチリ伝わったようで、その言葉を聞いてぱぁっと明るい顔を見せた。


「Thanks!…Still, are you all right?」
(ありがとよ!…だけど、ホントに大丈夫だよな、アンタ?)

と思ったら心配そうな顔でこちらを見てくるので、バリバリ外国人といった感じを
見せつけられたような気がする。
コロコロ変わるのには何年たっても付いていけない。


「I'm OK!!」
(大丈夫だってば!!)


「Is that true?」
(本当だよな?)


「うっさい!!元気さね、あたしはぁ!!あんたが何度も聞くからまた暑くなってきた!!」


キーンと甲高い声が響いたところで、影は「Oh」と軽い声を上げた。
さらにいらついて一歩踏み出し、影との距離を縮める。

息を大きく吸い込んで、烈火のごとく叫んだ。

「なぁにが、Ohだぁぁぁぁ!!」





———これを木の隙間からタケル君に見られ、拳骨を喰らったのはこの数十秒後の話である。

Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.88 )
日時: 2015/07/20 00:04
名前: 利府(リフ) (ID: ktFX/uOB)

「姉貴…」
「どうした弟」

タケル君が合流したトヤマさんに悲しそうに呼び掛け、ハンカチを持ってメソメソと泣いていた。
これこそ前に先生に話していた例の親の顔ではないか。ていうかあたし、こんな顔してたのか。
タケル君の様子にトヤマさんが何かを察したのか、「ん?」と言ってタケル君の頬に
顔をゆっくりと近づける。

彼は真剣な表情でトヤマさんを見て、大きく息を吸った。

一体どれだけ重要な案件なのだろう…と思っていると、タケル君の口が開かれた。


「ハルミセンパイが英語喋れてた…」
「おいコラ帰国子女なめんなさね」




———教室に集まったのはあたし、トヤマさん姉弟、そして先程会った外国人だった。

彼は黒に少し茶色がかったショートヘアーをぼさぼさに乱して、その上に麦わら帽子。
そしてうちの学校の制服を脱いで、タンクトップ一枚にショートパンツ。
おまけに少し焼けた肌。
ここでまず違和感を抱くのは、彼は本当に外国人なのかということである。


「ワッチュアネーム」

「What?」
(え?何だって?)

あっ、やっちまった。ていうかやられた。

突然トヤマさんが彼の名前を聞いたが、残念ながらバッチリカタカナ英語である。
あたしは「任せて下さい」とトヤマさんを窓際に誘導し、とりあえず万が一の為
見張りを頼んでおくことにした。

あたしは彼の座っている席に自分の椅子をくっつけ、相手の表情を窺いつつ
ゆっくりと椅子に座り、向かい合った。


(…何だか、覚えがある。これは)

あの時は、後ろに夕焼けが見える窓、前にはモモ。
だけどこの情景とあの時の「繊維」との邂逅は違うし、大体その事実は
トヤマさんやタケル君は勿論、モモだって知らなかった可能性がある。

誰にもそれを悟らせてはならない、とあたしは彼の顔にじっと目を向けた。

「…えっと。What's your name?」
       (君の名前は?)

「My name is Ivan!」
(オレはイワンだ!)


そう言うと彼はにっかりと笑い、「Nice to meet you!」(よろしくな!)と
言ってあたしの肩をばんばんと叩いてきた。
微妙な痛さで顔をしかめていると、彼がぎょっとして「Sorry」と申し訳なさそうに呟く。

変わる表情を見ているとイライラもするが、何かそれ以上のものが
あたしの胸の中で生まれたような気がした。


(何だか、…タケル君とは違う。けど、これって)


無垢な子供。
決して嘘に揉まれることなく生きてきた、純粋な少年。

タケル君は無垢の部類には入るけど、いかんせん発想が姉と同じようなものに囚われている。


タケル君とは違った、信頼を抱ける。
そう考えると、簡単に質問が出来た。


「How old are you?」
(歳はいくつなの?)

「sixteen years old!」
(16だ!)


「Where are you from?」
(出身は?)

「Russia!」
(ロシアだ!)


隣でぼそぼそと姉弟が話している。

「無能の力ってすげー」
「姉貴…俺も今はそれに同感だよ」

流石にその偏見に痺れを切らして、あたしはイワンと名乗った少年を制止してから席を立った。

「何か質問したいなら言えばいいさね、通訳するから」

こう言ってやると何故か二人は縮こまった。
トヤマさんに至っては「外人っていうか人外だわ、君」と囁く始末である。

まぁ無能が出来る事はこれくらいしかないのだが。


「…あー、緊張する。じゃあ聞いていい?イワン君」
「May I ask you somethi…」

「別にいいぞ!」


ん?



今この子流暢な日本語使ってなかった?
聞き間違いですか?

ん?


「自分の能力答えてくれれば助かるんだけど、分かる?」

「ああ!オレ、すげぇ能力持ってこの学校に来たんだ!兄ちゃんと一緒にな!」


「なっ、何で日本語話さなかったんさねぇぇぇぇぇぇぇ!?」


あたしの絶叫に目もくれず、タケル君がそろりそろりとこちらに近付いてくる。
そしてあたしを心配そうに見守るイワン君の手を取って、あたしを指差しながらこう言った。


「No matter,She is friendly eccentric.」
(気にするな、あの人は親しみやすい変人だから)


ぼかっ。

教室に本日通算二回目の拳骨の音が響くと同時に、いつの間に入ってきた
シンザワさんが「お熱いこった」とけらけらと笑っていた。

Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.89 )
日時: 2015/07/25 15:47
名前: 利府(リフ) (ID: ktFX/uOB)

空き教室へやって来たのは、「仕事」を終えたシンザワさんとイサキさんだった。
特にイサキさんの姿を見て、「かっけぇ!」と騒いだのは初対面のイワン君である。


「いーやぁー、イサキが嘘ついてさぁ。こんだけタケル君の能力が欲しいと
 思った事はないですよ、ねぇ分からず屋ことハルミ」
「分からず屋じゃないさねー。能力手に入れたさねー。…ん?嘘?」


シンザワさんの嫌味に反論しようとしたが、一つの言葉があたしの中で引っかかって
自然にそれが疑問へと変わった。
するとイサキさんがシンザワさんにちょいちょいと指で促され、仕方なさそうに
前に出て薄いスカートの裾をゆっくりとめくる。


「こいつ、怪我したってのに自分は無傷って報告書出しやがったんだよ」
「…右足を負傷した。包帯は使うほどではなかったが、また次に異変が起こった際は
 標的に直接攻撃を加えられない可能性もある。…すまないと思っているよ」


あまりにも無表情に告げられた事実だったが、負傷したと思わしき部分は
青紫色に染まってただただ痛ましい姿へと化していた。


「…Does this hurt?」
(これ、痛ぇだろ?)

イワン君がイサキさんの足元に近付いて、屈むようにしてその傷をじっくりと眺めている。

シンザワさんが眉間にしわを寄せて「おい」と制止の声を掛けたが、
彼はそれも気にせずそこを見たあとに、うーんと低く唸ってから音もなく立ち上がった。
タケル君が駆け寄って心配の目線を向ける中、イワン君は神妙な顔つきで腕を組む。


「…ちょっと、ヘアピン」
「ハルミさね。ニアピンでもなんでもねぇよヘアピンって」

「このガッコにオレの特別教室のセンセがいるんだ、チエリっていう」
「…チエリ先生なら知ってるけど、先生がどうしたんさね?」


「チエリに頼んで“リカシツ”のカギを取ってきてくれ。えっと、“ソーキュウ”に」


イワン君がにっかりと笑って、「頼む」と言う声と共にあたしの頭をぽんと叩く。
残念なことに彼の言葉の発音はまだ外国人感がほんの少し残っている
(さっきの「ソーキュウ」が完全に「So Good」と同じイントネーションだった)
が、それでも言葉からは真剣さが滲んでいた。



あたしは頷いた。

「わかったさね、何をするかは分かんないけど。持って来る…」





教室を足早に出て、職員室がある2階へと階段を下りて向かう。
理科室は1階に二つあるのだから、この場合どっちも借りた方がいいだろう。


そう考えながら、職員室の扉を開いた。

Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.90 )
日時: 2015/07/28 18:22
名前: 利府(リフ) (ID: ktFX/uOB)

がらりという音が響くと同時に、クーラーのきいた職員室内の空気が廊下に流れ込む。
肌にひやりとした風を受けて、あたしはその涼しさにつられて呆然としていた。

「…ハルミさん!どうしたの、どうしたの…って、あ。もう行くの?」


チエリ先生の癖がある声が、突然別の方向を向いた気がした。
あたしもその方向を向いてみると、奥側の扉へと歩いて行く人影が見える。
その人は切り揃えられた前髪にあたしと同じくらいの長さの後ろ髪、そして眼鏡を掛けていた。

少年だろうか。が、その容姿に覚えはない。


ただ、纏う雰囲気が誰かのものと似ている気がして、あたしは思わずその影を凝視してしまう。

影は鍵置き場へ手を伸ばし、金属音を鳴らしながらその鍵の内のひとつを手に取った。

「See you again tomorrow.」
(ではまた明日)


そして流暢な英語で言葉を述べてから、日光が射す廊下へと向かって行く。
白い肌といかにも優等生らしい顔立ちがようやくそこで見えて、あたしは、はっと息を止める。

突然入って来たあたしに目もくれず、少年は扉を閉めていった。



ほんの少しの静寂の後、あたしはチエリ先生に恐る恐る声を掛けた。


「あの人は?」
「き、聞いて、聞いておどろけ!」

「そんな重要な人なんさね!?で、誰!?」


「うん、転校生!!」

「大体察したのと同じだったわ、考えて損さね先生」


本人は顔を輝かせて言っているが、まったくもって自分が考えてたのと同じパターンである。
となれば、あの二人は何か接点があるのだろうか。

うーんと唸りながら考えていると、今度は大きな音を立てて扉が開かれた。


「おい!ヘアピン!!」
「ハルミ!!My name is Harumi!!Not hairpin!!」
      (あたしはハルミです!!ヘアピンじゃねぇさね!!)

「遅いから見に来たら、カギ取ってないな、アンタ!やるって言ったコトはやれよ!」

「うわっ忘れてた、…あれ?」


イワン君に怒鳴られて視線を移したその先は、鍵置き場だったのに。

第一理科室の鍵がない。



「…どうしよう。さっき来た人に、第一理科室の鍵取られちゃったさね」
「バカかアンタ。なんで止めなかったんだよアンタ。もー」


「…イワン君、イワン君、麦わら帽子は?」

「あっ、チエリ!帽子は教室にいるヤツらに預けてきたから安心しろ!
 それとアンタ、カギを誰が取っていったか知らないか?」

チエリ先生の姿を見ると彼は花が咲いたように笑い、年相応の表情で鍵の行方を聞いた。

するとチエリ先生はえっ、と驚いたような表情を見せ、廊下の方向を指す。
あたしとイワン君は両方とも目をぱちくりとさせ、「え?」と声を揃えて言った。


「か、鍵は、鍵は、君のお兄さんが取って行ったよ」


イワン君は心底くたびれたような表情をしてその場にへたり込んだ。
あたしの方は先程出会った人物を「お兄さん」と仮定したが、イワン君の行動に違和感を抱き
溜め息を吐く彼の耳元でぼそぼそと聞いた。

「…お兄さんって?」


「ん、教えてなかったか?兄ちゃんの名前はロビン、Robinだ。覚えとけよ、
 オレの大好きな兄ちゃんだからな!わっはっはっは!」


イワン君は肩を組んで大笑いすると、突然あたしの二の腕を掴んで
扉を豪快に開けてから暑苦しい廊下へと飛び出した。

冷たい空気が一瞬にして薄れる中、職員室の中では先生が無表情で手を振っている。
なにこれ。
え、どういう状況なの。


彼とあたしの足は先程の空き教室がある階へと向かって行き、階段を上るごとに
スピードが加速していく。
全段上った時にはへろへろで、項垂れながら相手の走りに身を任せるしかなかった。

腕と両足が痛い。あっまずい腰がぐきっていった。

やがて加速が弱まって行くと、イワン君は空き教室の扉をがらりと開けた。
イサキさんが「フユノギハルミ、大丈夫か」と心配そうに言ったが、生憎答えを返す気力がない。


ぜぇぜぇと息を吐いていると、イワン君がふふんと笑ってこう言った。




「アンタら全員、第一リカシツに来い!オレと兄ちゃんとで面白いジッケンしてやる!」


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