ダーク・ファンタジー小説
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- ぼくらときみのさいしゅうせんそう(更新停滞中)
- 日時: 2024/04/26 12:25
- 名前: 利府(リフ) (ID: mk2uRK9M)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel2a/index.cgi?mode=view&no=3688
2016年冬大会のシリアス・ダーク部門にて金賞を受賞させていただきました。
本当にありがとうございます。
こちらのページを見てくださりありがとうございます。当方、更新停滞させながらTwitterで普通に生きています。 @flove_last_war までどうぞ。やっぱ書けねー!うわ無理ー!うちの子かわいいー!とかたまに悲鳴が上がる様子が見れます。
※過去話書き直し実施中
内容が修正されておりますので前に見た方も読み返していただければ幸いです!
修正しました >>5 >>6 >>7 >>8
※作品の感想をいただけたら執筆の励みになります!コメントお待ちしています!
題名通り戦争の話です。
処女作と言い張りたいんですが、この作品の前に2本ほど許し難いクオリティのものができてしまったので、これはここに上げた作品としては3作目となります。
毎度のことなんですが息をするように人が死ぬ作品なのでご注意ください。
物語は現代。なんか異能バトルっぽいものです。その中でなんやかんや起こって、そのついでに死人がぽろぽろ出ます。
物語構想は既に完成しているので、死ぬキャラは死ぬ運命です。訣別の時が5話に1回来るペースじゃない?
なんでこいつ殺したんじゃテメー!!という死に方で死ぬキャラも出ます。後々そのキャラの回想的なものを作るかもしれません。
そしてこの小説にコメントが来なさすぎて「この小説価値がないんじゃないのか...?」と思い始めてるので、暇で死にそうだったら「あ」だけでもいいのでコメントしてやってください。作者が深読みして喜びます。
キャラに救いは持たせたい、その一心で一応書いてます。暇つぶしに一部だけでも観戦してください。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
※グロ表現・軽い(?)暴力表現があります。
苦手な方はお気を付け下さい。
※更新があまりにも不定期です。熱意をなくした人間が書いているので失踪したらそのたび合掌してやってください。
prologue…開戦 >>01-19
(黒い雨の日だった)
chapter1…兵器 >>23-36
(その死を見た日だった)
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(FREE…病室 >>38))
(安堵を得た日だった)
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chapter2…盟友 >>41-57
(彼の人が来た日だった)
chapter3…死神 >>58-84
(歯車が一つ噛み合った日だった)
chapter4…兄弟
>>85-97 >>99-105 >>108-114
>>119 >>121-123 >>124 >>125
(探し人を求める二人だった)
以降連載中です。
追記:この小説に関連する短編を集めた「ぼくらときみは休戦中[短編・作者の呟き]」の
リンクを上に貼りました。
また、そのページのNo.42にてこの小説の一部キャラクターの容姿や性格を載せております。
この小説に登場するキャラの短編もありますので、興味があればどうぞ。
一部は本編とリンクする話となっております。その話については本編読読了後推奨です。
*****
コメントありがとうございます!またのお越しをお待ちしています!
>>98 >>106 >>115(芹さん本当にいつもありがとう)
- Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.91 )
- 日時: 2015/08/02 14:47
- 名前: 利府(リフ) (ID: ktFX/uOB)
この暑苦しい廊下を歩くというのは、今までではあまりありえなかったことだ。
この学校では一部にしかクーラーは設置していない。
そのうちの一つが玄関だ。
勿論授業中にはどんな能力を持った生徒であろうとも滅多に玄関には出ないので、
いわば登下校する生徒を冷やして励ますような役割を担っている。
あとはコンピュータ室、図書室、それとあたし達が使っている離れの寮。
職員室はチエリ先生がいるので確実にフル稼働。
では教室はどうかというと、実は教室ではクーラーを使う必要がないよう学校がある事を考えたのだ。
——水か氷の能力を持つ生徒をクラスに一人ずつ入れる。
これは逆も存在し、火の能力がある生徒も一人ずつ。
なのでこの二人を学級委員同士にするクラスも少なくなく、ごくまれに
その二人がカップルになったという噂も耳にするのだ。
きっとまぁ、水は炎を、炎は水を愛せるとかそういう理論なのかもしれないが。
「…着いたぞ。ここが第一理科室だ」
イサキさんがその位置を指で示すと、イワン君は体を乗り出して感嘆の声を上げた。
「すげー!おいアンタ、タケルだっけ?ニッポンの周期表はどこかしこにあるんだな!」
「…あ、ああ。そうだな。あと俺ら同年代だぞ、イワン君」
イワン君は両手を広げてぐるりぐるりと回り、地味にシンザワさんを突き飛ばしてから
「空が青いぞ!」とぴょんぴょんと跳ね始める。
アホの子か。
巻き込まれたシンザワさんが悶え苦しんでいると、イサキさんが無表情のまま手を出した。
「…シンザワサソリ、床は冷えていて気持ちいいだろうが、立たねば人間としての尊厳はないよ」
「立ちたいけど立てねぇんだよあっし。あーでもイサキちゃんくらいしか優しいのいないな…」
「君らなんなの、付き合ってんの。トヤマさん羨ましいです馬鹿ップル」
狙ったのかは知らないが、何故か俳句もどきで愚痴っているトヤマさんを見て
あたしは眉間にしわを寄せた。
相変わらず目の前ではイワン君がはしゃぎ、タケル君が「目的地そこなんだから早く入れよ」と
それをたしなめている。
するとイワン君は表情を歪ませ、「はぁ?」と今までにない形相でこちらを睨んできた。
あたしとタケル君がぎょっとして身を引くが、相手の表情は一切変わる事はない。
代わりにトヤマさんが「どーしたの」と軽く聞いたのが幸いだったのか、
イワン君は一つ溜息を吐いてから仕方なさそうに言った。
「今は入れないぞ」
「へ?そ、それはどういう…」
あたしの言葉を遮ったのは、轟く爆発音だった。
驚いて室内を覗こうとするが、生憎理科室の窓は全てブラインドがある。
わずかに見える風景に、あたしとタケル君、そして飛び込んできたシンザワさんはぎょっとした。
…水滴があちこちに散ってる?
「Ah...」
室内で悲しそうに響いた声を聞くと、イワン君は嬉しそうに扉へと飛び付いた。
「兄ちゃん!!失敗したんだな!?やったぁ、オレの勝ちだ!出てこいよ!」
なんですと?
白い目でイワン君を覗きこむと、彼はしたやったりといった表情で腕を組んでいる。
すると第一理科室の扉がゆっくりと開き、ふふふと微笑む青年が現れた。
「…I shouldn't have done it.」
(…失敗したよ)
間違いない。
確かにこの姿は。
髪色は栗のように淡い茶色で、イワン君とは違うストレート、切り揃えられた前髪。
あたしと同じくらいの長さの後ろ髪。
そしてシックな黒ぶち眼鏡。
先程職員室で見た、この外国人は。
「………日本語、話せる?」
恐る恐る問いかけてみると、青年はにこりと笑って口を開いた。
「話せますよ。僕はロビン、そこにいるイワンの兄です」
容姿は、ヤシロ君と同じくらいの身長にすらりとした足。多分3年生くらいだろうか。
文句なしに綺麗だ。
「兄ちゃん!まだ水素残ってるよな、次に貸してくれよ!な!な!」
「はいはい」
イワン君をあしらいながら理科室内に全員を引き連れていく彼は、水素の名が
書かれたスプレーを抱えている。
ここでイサキさんがぐっと目を閉じて、ぼそぼそとシンザワさんの耳元で囁くのが聞こえた。
「危惧しろ。…兄弟揃って、相当な能力を持っていると見た」
- Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.92 )
- 日時: 2015/08/09 19:14
- 名前: 利府(リフ) (ID: ktFX/uOB)
「もしもし」
——トヤマ家の屋敷に電話がかかって来たのは、丁度家主のオウムがいつも食事を取る
大広間へ入ろうとした時だった。
この屋敷の廊下は広い範囲まで音が響き、ビー玉を玄関で落とせば寝室にもかすかに音が聞こえる。
これはれっきとしたあるトヤマ一族の考案からできた小さなエゴだった。
「ここで戦う事があれば」という戦闘しか考えない脳筋の理論にオウムは真っ向から反対したが、
こんな見苦しい内戦で争うわけにもいかず渋々屋敷を一部改築した。
電話の音なんて聞こえなかったらよかった、とオウムは小さく舌打ちをする。
不機嫌さを表すため大きく足音を鳴らしながら、オウムは受話器を仕方なさそうに取った。
がちゃんという音が響くと同時に、待っていたかのように電話の向こうにいる相手は話し出した。
「ご用だけお聞かせ下さい。今忙しいのよ」
「…トヤマさんのお母様ですね」
ピクリとオウムは肩を揺らした後、ほう、と楽しげな声を出した。
彼女は我が子からの電話であっても内容がつまらなかったらすぐさま切り上げる。
これは典型的な短気と言えるが、彼女の権威という名のわがままを考えてみれば
「遊びよりも仕事をやりたがっている」「邪魔するのはいけないことだ」という
自分の正当化を自分が関わる人間すべてに教えているのだ、という理解の仕方が正解だろう。
それでも彼女は受話器を落とさなかった。
相手が相手だからだ。
「先日はそちらから電話を下さったので、今度は私から掛けた方が礼儀としてはいいかと思い」
「…市松先生、口調がまぁ変わったようで。で、それで何の用です?」
「ありがとうございます。お母様、一つ質問をさせていただきたいのですが」
「はぁ」
オウムが間の抜けた声を上げて続きを促すと、電話の向こうのチエリが言った。
「今回転入してきた生徒二人の親ですが、その方の違法実験の隠蔽は何度なさったのでしょう?」
「————————は?」
オウムの表情に困惑の色が浮かぶ。
口を開ける気がわかないのか、暫く受話器を握りしめて彼女は立ち尽くしていた。
「もう一度聞きます。
隠蔽は何度なさったのです」
「5回」
何ともないような声音でオウムは言った。
今度はチエリが息を呑み、オウムは喉の奥で音にならない笑い声を上げる。
今回オウムがチエリの電話を取ったのは、我が子が今この屋敷の中にいないからである。
タケルの能力を行使した盗聴もどきで聞かれることもなく、それは大きな安心とも言えた。
そして電話の内容もある程度察していたオウムは、このタイミングだから話したのだ。
「市松先生、あんまり知ると死ぬか存在自体を消されるから、少しだけ言おうか。
5度目の隠蔽はイサキチヅルの片目を使った検証実験のリーダー、
この件については本人とシンザワサソリ、そしてそいつらの父親代わりが知ってる。
1度目は後々そちらの教え子さんがた全員も知るかもしれない実験だからあえて伏せる。
それ以外は私にだけ教えられた機密実験、特に4度目は教えた瞬間
何人の首が飛ぶか分からないし、知ってる人間は誰にも殺されない自信がある奴だけでしょうね」
「…誰が知ってるっていうの!?」
「生徒に聞かれてるかもしれない時とそうではない時に口調を使い分ける。
こちらは分かりやすいから助かる、市松先生は嘘がうまいね。能力も相当なんだろう。
でもそれを、サエズリケンジが許すかな?」
冷たい声でオウムが呟くと、チエリが受話器を叩き付けて席を立つ音が聞こえた。
誰もいない受話器の向こうをオウムが笑うと同時に、チエリがまた受話器を手に取る音が響く。
(脅しのつもりで言ったのだけど、本気にされたか)
オウムが軽く笑った。
「いい、お前。この世はね、変わり者から消えていくの」
「……変わり者?」
「お前の知る者に、そいつが何人いるかで、今後死んでいく最低減の人数は変わっていく。
忠告よ、探偵は気取るな。じゃあね」
先に落ちたのはオウムの受話器だ。
音が暫く反響するのに耳を傾けた後に、オウムは大広間へと浮足立って歩き出す。
廊下は、まるで迷路のように曲がりくねっているようにも見えるものだ。
「…りんどうは枯れていないけど、もうルピナスは用意できてるから入れるべきかしらね」
誰もいないけどたくさんの灯がある廊下は、心情を表しているんだろう。
オウムは嘲るように笑って、すうっと自分の頬にある刺青の花をなぞった。
———————————————————————————————————————————
伏線たっぷり突っ込めたので満足気味
オウムの言ってる花の花言葉がある事を表してます、検索どうでしょう
イサキとシンザワこのチャプターからメインのはずなのに出ねぇじゃねぇか
リア充が短編でいちゃついてるシーンだけ公開する人こと利府です
- Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.93 )
- 日時: 2021/03/20 22:43
- 名前: 利府(リフ) (ID: FODM/zWG)
「水素ってのはなぁ、水を分けて、分けて分けきって出るものなんだよ」
理科室に入って早々、イワン君はあたしとタケル君を強引に準備室に引きずり込み、
棚の奥に眠っていたビニール包みの水素入りスプレーを取り出した。
「あれ?ロビンさんが使ってたのでいいんじゃないん?」
「分かってないなヘアピン。これはオレの…んっと、『policy』。
兄ちゃんの実験とオレの実験は、同じ内容でも答えがどこか違ってくるんだぜ」
さっぱり分からない、とあたしは悪態をついてやったが、イワン君は「ボンジンだな」と
一言返してくすりと笑った。
あたしの方は体が熱くなってしまい、今にもその頭を殴りそうな手をタケル君に止められたのだが。
「黙ってるタケルはいい奴だな、兄ちゃんみたいにオトナだと思うぜ」
「あ”ぁ!?じゃああたしはなんさねぇ!?」
「センパイ!ここ準備室ですから!危ない瓶とかありますから!というかセンパイ自体が危ない!!」
ぎゃんぎゃんと騒いだ後に般若の顔をしたイサキさんに蹴り技を受け、
体を酷使した事で動けなくなった彼女を見たシンザワさんにも3発ほどビンタを受けた。
理不尽すぎる。
「ヘアピン、オレは頬が痛い」
「うん。あたしも痛い。で、なんの実験するの」
脚が傷だらけの黒い机に置かれているのは、確か理科の先生が使っていたような記憶がある軽そうな棒。
その隣に新品のマッチ、小さな袋、そしてイワン君の手元には先程手に取っていた水素スプレー。
あたし達はそれが並べられている机からは隔離され、「5mくらい離れて下さい」と
ロビンさんに優しい口調で促された。
先程までとはまた違った表情だったが、うっすらと柔らかい笑みを浮かべて
イワン君は手元にあるスプレーのビニールを破っていった。
そのまま机の下にある小さな台に破ったビニールを入れ、今度は小さな袋を
慣れない手つきで棒の端へと結び付ける。
「なぁ、タケルの姉ちゃん」
突然、イワン君が口を開く。
その目線は入り口付近で廊下の監視をしていたトヤマさんに向けられていた。
「ミコトって呼んでほしいんだけど」
「ん、ゴメン…いや、さぁ。チエリから教えてもらったんだけどさ、ミコトの能力。
水を操って、飛べるって。“フカシギ”だよなぁ、オレも兄ちゃんも仕組みがわかんねぇ」
「……分からなくていいんじゃない」
「オレはバカだけど、兄ちゃんはアタマがやわらかいから、二つの考えで答えを出せる。
兄ちゃんが分からないコトはオレが答えを出してやりたいけど、最近それができない。
ムカムカする。だから、分からないコトだらけのミコトに、オレたちの能力を見せてやる」
袋の開け口にスプレーの管が突っ込まれ、しゅー、という音と共に水素が袋の中へ注がれた。
管を抜いてからすぐに開け口を棒に結び付けた紐できつく縛り、棒に袋をぶら下げる。
そして棒を置き、マッチが軽い音を立てて火をその身に纏う。
「みんな耳ふさげ、目はこっちを見てろ!」
叫びに驚いたあたしは瞬発的に耳を塞ぎ、その方向をじっと見た。
ばん、と袋が割れると同時に、頭を揺さぶるような轟音が響いた。
これは確実に、ロビンさんが教室のなかにいたときと同じ、あの爆発音である。
水滴が一瞬、散るのが見えた。
「まだふさいどけ、こっからが“ホンバン”だから」
イワン君が鼻で笑い、大きく手を振り上げる。
その動きに合わせて、日光で輝く何かが天井へ上ったのを見てあたしは愕然とした。
「……水滴が!?」
次々に昇る水滴の一つが、再び轟音を響かせて破裂した。
そこからまた水滴が散り、爆発の音が部屋中にけたたましく鳴る。
どこもかしこも水に濡れて、思わずあたしも引き下がろうとしたその時だった。
水滴よりも大きな粒が、トヤマさんの頬にぴっと小さな音を立てて掠った。
粒はトヤマさんの背にあった扉に当たり、少しずつ下へと垂れていった。
あたしは思わず目をそむける。
「…イワン!!」
ロビンさんの怒鳴り声と同時に、水は今までより相当大きな音を立てて爆発した。
びりびりと頭の底が痺れる。
「姉貴…!?おい、姉貴!」
タケル君の叫びで我に返り、扉の方向を見る。
「…こっちも能力で返してやろうか?わざとなら理由もきっちり頼みたいんだけど、麦藁君」
トヤマさんは心底イラついた顔で水を体に巻き付け、白い羽を広げて浮かんでいた。
その体には傷一つなかったが、損傷しているはずの扉はただ水に濡れているだけだ。
(水を使って、水素交じりの水滴を相殺したのか)
それにしても判断が早い、と思えた。
「おい大丈夫、白鳥?何起きたのか察しつかねーんだけど」
シンザワさんが入口付近の机から体を乗り出し、ぐいっとトヤマさんの手を引く。
ふわりと音もなく床に降りたトヤマさんが首を傾げた。
「とりあえず、こういう仲間っぽいのに反逆されるって初めてだわ。
で、君らの能力をきっかり教えてほしいんだけど」
はは、と楽しげに笑い、イワン君は声高らかに言った。
「オレがバケガク、兄ちゃんがカガクだ。
アンタらと同じ測定不能、つったら、驚く?」
- Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.94 )
- 日時: 2015/08/24 21:47
- 名前: 利府(リフ) (ID: ktFX/uOB)
待たせたな!一週間以上サボるとかクズの極みだと思ってる方多いだろうけど
2回くらい書こうとして没にしてました!言い訳乙!
あとスランプ!
—————————————————————————————————————
イワンという少年の父親は、出身国では名を知らぬ者はいない著名な科学者だった。
世間の考える彼のイメージは聡明、ミステリアス、魅力的、といった理想だけで作られた。
彼の発表した論文や実験は、人類にとっての夢に届くような素晴らしいものばかりで、
「この人物の手にかかれば周期表の描かれた紙の大きさは何mも広がる」と
彼の実験を目にした実験者は言った。
そんな彼の子供として生まれたイワンは、父の顔をほんの少ししか記憶に留めていなかった。
イワンには優しい母親の存在だけで十分だったし、まずイワンがそんな父親を誇りに思わないのには
一つ理由があった。
母親の背中には、じりじりと焼ける煙草を押しつけられた跡があったのだ。
それを母親はイワンには見せないようにと気遣っていたが、同じ家で暮らしていれば
その姿は一度は目に入ってしまう。
彼は母親の傷について探ろうとしたが、母親の「大丈夫よ、イワンはそのままでいいんだから」
という優しい言葉を聞いてそれを止めた。
その代わりに、彼はある日から父親のオフィスに匿名である一文だけを
便せんいっぱいに並べた手紙を送り続けたのだ。
「It is not a science.」
(科学にあらず)
文を英語にしたのは、彼にとってのカモフラージュだった。
その言葉のみを一心不乱に自室で書き続け、母親がその行動を知って
イワンを止めようとしても彼は目に涙を浮かべてペンを握り続けた。
(あんなもの科学じゃない)
(オレは認めない。オマエの理論と周囲のイメージは完璧であっても、母ちゃんの背中にある
あれは科学の恥だ、オマエの犯した罪として一生残るんだ)
世間はその手紙を大きく批判したが、母親はイワンが傷つかないために
敢えてイワンをその記事が届かない地に送った。
日本。
そこには父親と顔見知りの「ボン チエリ」という教師がいて、彼女は
彼のバックアップを行おうという契約を彼の母親と交わした。
イワン本人も見知らぬ異国の地での生活に目を輝かせ、周りの友人にも
「うらやましいだろ」とはしゃぎながら日本の存在を話していた。
彼は日本で言えば高校一年くらいの歳になっており、母親の希望でイワンは
日本の小さな農業高校に入学した。
彼は周囲の人々にも愛され、その明るい性格と笑顔で一気に親しまれるようになった。
少し理数以外では抜けているのも日本の人々には受け、彼もロシアで生活していたころとは
まったく違う性格になって過ごしていた。
ある日、高校で「バケガク」という存在を教えられたイワンは、それについて詳しく知るため
実験室で寝泊りをしだした。
校内の人間もそれに付き合い、彼に「バケガク」を教えるために彼の問いに答え続けた。
そしてある冬に、彼は「カガク」という言葉と、それに関する実験を知る。
彼はそれを激しく嫌い、母親に「オレはバケガクをしたい、カガクはいらない」という手紙を送った。
母親から帰ってきた返事は、「イワンのカガクなら、お父さんとは違ったすごいものになるわ」
と、柔らかい文字で書かれた励ましの言葉だった。
3学期の終わる数日前、イワンは試験管を手にとって、全校生徒を体育館へ呼び出した。
皆がイワンの実験を見るために喜んで集まり、彼も「やってやる」と教師に言った。
彼は試験管の中に水素の入ったスプレーの管を入れ、水素を注いでゴム栓で蓋をした。
そこから彼は馴れたような手つきでマッチを擦り、試験管の中へそれを突っ込んだ。
観客が轟く爆発音の中で拍手をする中、彼は爆発が終わっても何故か空気を見つめている。
唖然としているような表情を見せた後、静かになった体育館の中で彼はゆらりと日焼けした手を伸ばした。
次の瞬間、落ちた水滴が不自然に煌めき、音を立てて破裂した。
周りが慌てる中でイワンはへたりこみ、「…What is that?」と呟く。
爆発が終わるまで誰もその場から動かず、誰にも傷一つ付かなかったが、
その異常な光景はイワンの心を大きく揺さぶった。
すぐさまイワンは母親にそれに関しての文を送った。
『どうしたらいいんだ、オレはニンゲンじゃなくなったかも知れない』と、彼は震えながら書き殴った。
母親はあることに心当たりがあるという返事を送り、その日チエリに国際電話を掛けた。
『ワタシの子には、能力があるかもしれません』
彼は高校2年生になると同時に、能力高等学校へ転入した。
「バケガク」という異端な力を持って、腹違いの兄であるロビンと共に。
- Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.95 )
- 日時: 2015/09/10 23:53
- 名前: 利府(リフ) (ID: xY9uLQrm)
「…ロビンと、イワン、か」
廊下に重なる足音は、日光の射さぬ廊下だからよく響くのか、それともこの重苦しい空気のせいか。
トヤマさんの呟いた言葉はそれに混じってもよく聞こえて、少なくともタケル君と
名を呼ばれた二人、そしてあたしはその声に少なからず反応した。
「あぁ、いや。止まんなくていいよ、逆に進みながら話すべきだと思ってね」
トヤマさんがぴたりと全員の足取りを止めてしまったその声を撤回し、白い手で先に進むように促す。
イサキさんとシンザワさんが周りを見渡しつつ前列を歩いて、タケル君が後ろでイワン君をじっと見て。
観察をしているという事に違いはないのだろうが、プロと素人の探偵、にも見えた。
「タケルはイワン君を燃えるくらいあっつーい視線で見続けてるけど、
私はそこのインテリ眼鏡のお兄さんにつめったーい視線を向けてるのよね、気付く?」
「ちょーっと毒のように冷たい一言多いぞ姉貴」
ロビンさんがちらりと眼鏡越しに後ろを向き、「なにか?」と呟く。
イワン君もつられたように歩きつつもちらりとこちらを覗き、心配そうな表情を張り付けたままだ。
イサキさん達のいる前方に階段室が見えて、日光が天窓から覗く。
「顔が怪しいとかそういう事言ってるんじゃないのよ。インテリでのほほんなのは違ってない」
「のほほん……?あぁ、柔らかい雰囲気なんですね、僕は」
前方で光が大きく揺らめいて、少し目を離したときにはイサキさんたちの姿は真っ黒だった。
逆光でもイサキさんのシルエットは綺麗で、女のあたしでもちょっと見惚れてしまう。
こんなこと言ったら異端だと笑われるか、シンザワさんに殴られるかだけど。
「とりあえずバカ筆頭格の弟分に聞いてみよー。おーいタケル君くーん、アンサー」
「知るか」
「だよねぇ。じゃあそこで駒鳥気取ってるお兄さんなら分かる?本人の模範解答を頼みたいんだけど」
ひゅう、と夏に似つかわしくない風が吹く。
冷えきっているそれは、階段室の手前の少し開いた窓から入って来たようだった。
大きな鳥が羽ばたくように。
淡い茶色のショートヘアが揺れる。
ひよ、ひよよよよよよ、と、優しいのに何かを訴える鳴き声が廊下に響いた。
——空気が一瞬で荒んだような感覚だ。
「進むのでは、なかったのですか?」
また止まっていたままだった足がゆるやかに進みだし、日光がよく見えてくる。
暑いのに冷えている。
太陽の意味がないようだ。
(…そんなこと考えてたら駄目……、誰かに、…そう言われてる気もする)
鳥。
測定不能の鳥。
冷たい空気は、壁のようだ。
地にいるあたしと、天高くで舞っている鳥たちといえば、正しいだろうか。
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