二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 薄桜鬼×緋色の欠片
- 日時: 2012/09/26 13:48
- 名前: さくら (ID: cPNADBfY)
はい。
初めましてな方もそいうでない方もこんにちは。
またさくらが何か始めたで。と思っている方もいると思いますが
薄桜鬼、緋色の欠片好きの方には読んで頂きたいです
二つの有名な乙女ゲームですね
遊び感覚で書いていくので「なんやねん、これ」な心構えで読んでもらえると嬉しいです←ここ重要
二つの時代がコラボする感じです
あたたかい目で見守ってやって下さい
それではのんびり屋のさくらがお送りします^^
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.87 )
- 日時: 2013/06/20 22:19
- 名前: さくら (ID: 4BMrUCe7)
「土方さん」
「千鶴か。入れ」
副長室の前で膝を折り、声をかけると少しだけ上擦った声が返ってきた。
静かに入室すると土方の広い背が目に飛び込んでくる。疲れているような寂しい背中を見つめてまた胸が痛んだ。
その広い背中がくるりとこちらを振り返った。
「話がある。単刀直入に聞くが、千鶴」
「はい」
疲れた背中とは少し違って土方の表情は若干強張っていた。何か緊張しているようにも見える。
「お前酒は飲めるか?」
「はい?」
あまりに唐突すぎて千鶴は素っ頓狂な声を上げてしまった。険しい表情の土方の口から出た台詞が思いもよらぬものだった。
「いや、飲めなくても構わんねぇんだが。宴会の席は苦手か?」
「いえ…お酒は飲めませんけど…宴会の席は大丈夫です。それが何か?」
小首を傾げる千鶴に土方の表情はさらに険しさを増す。
「原田が会津藩からの報酬を貰ってその金で今夜角屋に行こうって話がでてんだが…お前もたまには羽根伸ばしてぇんじゃないかと思ってな」
「え?」
「酒は飲めなくても料理は上手いはずだからな。行って損はねぇと思うぜ。原田に甘えてきたらどうだ?」
土方の言葉から思いやりが伝わってきた千鶴はさらに胸が苦しくなった。
身を粉にして働いている土方を差し置いて自分だけ楽しんで来いと言っているのだろうか。
千鶴のそんな考えを読み取ったのか土方は咳払いの後に珍しく言葉を濁しながら補足した。
「あー…その、何だ。仕事も片付いたことだし…俺も行くつもりだ」
何故か視線を逸らせて口ごもる土方に千鶴は目を瞬いた。それは、つまり———
「私が以前言ったことを…気にして下さったんですか…?」
千鶴の問いに土方は取り乱したように慌てて訂正する。
「別にそういうわけじゃねぇぞ。たまたま今日は仕事が速く終わりそうだからだな———」
「ありがとうございます、土方さん」
「…礼を言われる意味がわからねぇんだが…」
慌てる土方を見て千鶴は微笑んだ。
以前千鶴が土方の体を心配していた。土方が多忙なことはわかっていたが、それでも言わずにはいられなかったのだ。
その千鶴の気持ちを痛いほど感じた土方は居た堪れなかった。その気持ちは有難いのだが、自分が休息をとらないと千鶴は安心しない。
悩み悩んだ末、事情を知る原田が唐突に提案してきたのだ。
『宴会に幹部達を誘うつもりだけどよ、土方さん。あんたも来たらどうだ?千鶴も呼べばもう心配させることもねぇんじゃねぇか?』
「それでも、嬉しいんです」
「そうか」
目を細めて微笑む千鶴は心から安堵したような柔らかいものだった。その笑顔につられて土方も笑ってしまった。
人に心配されたり気を遣ってもらえるのはこんなにも心地よい。土方はふっと微笑する。
たまには誰かの思慮に身を委ねるのも悪くは無い。自分のために笑って、心配してくれる人がいる。それだけで幸せを感じることができた。
「ふぅん…」
冷たい風が青年の髪を弄ぶ。
晴天の空の下、青年———正彦はほくそ笑んでいた。
「あら、正ちゃん。こんなところで盗み聞き?」
「正ちゃんはやめろ。ここでは正彦って呼べ。さっき言ったところだろ」
屋根の上で胡坐をかいていた正彦は同じく屋根を登ってきた清次郎を睨み据えた。清次郎は臆することもなく苦笑して肩をすくめる。いつものやり取りに清次郎はさほど気にしていない様子だ。
「何を盗み聞きしてたの?」
「今夜は新撰組幹部が角屋に繰り出すらしい」
そこまで口にして清次郎はようやく正彦の言いたいことがわかった。
ここは副長室の真上だ。耳の良い彼らは室内の会話を聞き取れる。
口端をを吊り上げて嗤う雅彦に清次郎は呆れた口調で言った。
「その顔、まるで泥棒さんみたいよ」
「泥棒と変わりないだろう、俺達は。ようやく潜入できたんだ。清」
名を呼ばれて清次郎は年下でありながらも頼りになる友を見つめる。
「今夜この屯所を調べる。新撰組について調べるんだ。幹部がいない今夜なら自由に動ける」
「でも他の隊士に見つかったりしないかしら?」
「みたところ、幹部と平隊士は離れて部屋を構えている。厄介なのはあの伊東だ」
正彦は腕を組んで唸った。対立関係にあると聞かされた伊東派と近藤派は酒の席すら同じくしたことはないらしい。
となれば今回も近藤派が角屋に赴くだけで、伊東派は動かないということだ。
「伊東派と近藤派の部屋も離れているとは言え…」
同じ敷地内だ。何が起こるかわからない。
「新撰組に入れて下さった伊東さんを探るのはあまり気が進まないけど…いいわ。じゃぁ私が伊東さんが今夜どんな予定なのか探ってみる」
「頼んだ。俺は屯所のつくりを記憶してくる」
お互いの任務を確認したところで、二人は反対方向へと散っていった。
その様子を遠くから見つめていた影には気がつかずに…
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.88 )
- 日時: 2013/06/22 00:13
- 名前: さくら (ID: 4BMrUCe7)
冷え込むようになった朝晩は、外出するならば着込まなくてはいけないほどだった。
千鶴は長着の下に一枚着物を重ね着した。
そうして軽い足取りで玄関へと向かう。
「遅いぞ、千鶴」
「ごめんね。着替えてたら遅くなっちゃって…」
「これで全員か。よし、じゃぁ行くとするか」
「っじゃぁ!!たらふく食って飲みまくってやる!!」
「あんま調子乗んなよ、新八」
幹部達が玄関に集まり、ぞろぞろと行列をなして屯所を後にする。
千鶴は土方の姿を見止めて微笑した。良かった。
千鶴は皆の和に入ってから首を傾げた。近くにいた珠紀に声をかける。
「珠紀ちゃん、拓磨君は…?」
「それがね。何かよくわからないんだけど、行きたくないって言ってね」
「行きたくない?お腹でも壊したのかな?」
「あいつ馬鹿だよなぁ。美味いもん食えるってのに来ないなんてよ」
珠紀の隣を歩いていた真弘は肩をすくめた。珠紀の同意のようで複雑な顔をしている。
「調べたいことがあるから行かないって…何を調べるんだろう」
珠紀からすれば拓磨一人で何か動いていることが気になるのだろう。不安げな顔の珠紀に千鶴も同調して焦燥を感じた。
「ま、別にどっか外出する訳でもねぇみたいだし。屯所にいるんだったら心配することねぇよ」
珠紀の気持ちに気付いていた真弘は明るく言った。その会話を後ろで聞いていた祐一が振り返り、落ち着いた口調で会話に加わる。
「真弘の言うとおりだ。単独行動で外出するなら否めないが、屯所内ならば危険はないだろう」
ようやく安堵したのか珠紀はひとつ頷いた。杞憂にすぎない。きっとそうだ。
珠紀の顔に笑顔が戻ると千鶴も安堵した。少なくとも千鶴より長い時間を過ごしてきた彼らが言うのだ。きっと何事もおこらない。
静かな夜道を行列が行く。最後尾にいた土方が突然声を上げた。
「———ところでそこのあんたは誰なんだ」
幹部の行列の中に見知らぬ人物がいたことに違和感を感じながらもここまで来てしまった。誰かが説明をするのかと待っていたがそれもなく、気になって口火を切った。
そう思っていたのは土方だけでなく、沖田、近藤も同様に頷く。
見知らぬ人物———大蛇の姿に土方と沖田と近藤以外は顔見知りなのか特に異を唱えなかった。
「これは申し遅れました。私は大蛇卓。こちらの珠紀さんの守護者です。今は」
「あんたが…珠紀たちがずっと捜してたっていう…」
土方とそう変わらない身長に、今の時代には珍しい、髷を結っていないところをみるとどうやら未来から来た人物だと判断できた。
物腰柔らかそうな優しい笑みに、土方は表情ひとつ変えず問うた。
「あんたも守護者か…なぜここにいる」
「それは———」
「俺が誘ったんですよ、土方さん。珠紀の提案でもあるんだけどな。珠紀達だけじゃ自分達のことを上手く説明できないから適任の人を連れて来たらどうかって」
「なるほど…」
目を細めて微笑を浮かべる大蛇を見つめる。
「お世話になっているというのに素性も説明しないのは失礼と思いましたので…同行すること、ご容赦いただけますか?」
どうやらこの大蛇という男は話がわかるようだ。土方の疑心を感じ取り、新撰組がずっと疑問を解こうという。
「…ふん。この宴会は俺が主催したんじゃねぇ。原田がいいんなら別に俺の許可なんざいらねぇだろう」
土方の返事に大蛇はにっこりと微笑んで頷いた。
その会話を最後まで聞いていた沖田は口を開く。
「じゃ、君達の正体とか聞いてもいいんだね?」
その言葉に珠紀達の顔が凍りつく。大蛇は相変わらず人の良い笑みを浮かべて沖田に目をやった。
「構いません。いつまでも隠し通すものではありませんしね」
「そう、じゃぁ———」
「ただし。私達の正体を知る覚悟はおありですか?」
一行は足を止めて大蛇の言葉の先を待つ。夜の風がひどく冷たく感じられた。
「どういうこと?」
「私達の正体を知りたい…それはごもっともな意見です。私達も正体を隠すなど失礼な真似はいたしたくありません。ですが…私達の正体を知っても尚、今のように私達を見る目が変わらないのか、と言っているんです」
「その言い方じゃぁまるで君達が化け物か何かみたいだね」
「化け物ですよ。私達は」
一陣の冷たい風が一行の間をすり抜ける。緊張感が増す空気に誰も動けない。
「どうかその覚悟をお忘れなく…今夜ゆっくりお話いたしましょう」
大蛇の柔らかい笑みが今では恐怖にも感じる。歩き出した大蛇にならって一行も行進を再会した。
「ま、まぁその話は後々しっかりと聞かせてもらおうではないか。さ、先を急ごう」
「そうそう。近藤さんの言う通りだぜ。そう暗い顔すんなよ。今夜は憂さを晴らしに行くんだしな」
原田の言葉は場を一気に緩めた。不安げだった女二人は特にその言葉に救われる。
「おや、私としたことが…今夜は皆さんの宴会です。ややこしい話は後にして楽しみましょう」
皆が暗い表情になっている原因が自分だと気が付いた大蛇は謝罪した。
「そうそう!堅苦しい話は後で!今夜はぱーっと飲むぞぉ!!」
「新八つっぁん、人の金だと思って張り切りすぎ」
「そう言ってるお前だって嬉しいくせに!」
永倉と藤堂が声を上げるといつもの調子に戻ったのか、一行は再び和やかな雰囲気のまま角屋に到着した。
色町だけとあって夜は常世のように光で溢れ、活気に溢れていた。
最後尾で難しい顔で土方は沖田を呼び止める。
「何ですか、土方さん」
「あんまり口を出すなよ、総司」
「何のことですか?僕何か言いましたっけ?」
とぼける沖田に土方は視線だけで釘を刺した。これ以上場を混乱させるようなことは口にするな。鋭い視線がそう言っている。
一同は入店しはじめ、土方もそれにならって見せに上がった。
その背中を見つめていた沖田に斉藤が近づいてくる。
「お前の気持ちもわからないこともないが、それでも待たねばならないこともある」
「え、それ何の格言?一君?」
斎藤はそれだけを言い残すとさっさと入店した。一人取り残された沖田は面白くない。
まるで自分が悪いことをしたような土方の言い方に少し気分を害した。
知りたいことを知ろうとすることはいけないことなのか。
この苦い感情は二度目だ。一度目は屯所で沖田が珠紀たちの素性について言及したときだった。それから珠紀たちに少し距離を置かれていたようだ。今でもそれは変わりない。
「やれやれ…一体どんな話になるのかな…」
ひとつ溜息をつくと沖田も店に入った。
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.89 )
- 日時: 2013/06/23 14:39
- 名前: さくら (ID: 4BMrUCe7)
一方屯所では闇を縫うように動く影が二つ。
静まり返る屯所内を無駄の無い動きで捜索していた正彦は後ろに続く清次郎に声をかけた。
「伊東達も今夜は飲みに行くと言っていたな」
「えぇ、恐らくは夜半までは戻らないと思うわ」
清次郎の返答に正彦は頷くと振り返った。
「じゃぁお前は伊東派の部屋を調べろ。俺は近藤派の部屋を探る」
清次郎は首を縦に振るとそこで解散となった。正彦は清次郎の背中を見送って、再び静かに廊下を歩く。
目指しているのは西の部屋。端の部屋から順に幹部達の部屋を探るつもりだ。
正彦は西端の部屋に着くと息を殺してそっと襖を開ける。
誰もいないのは当たり前だ。この部屋は斎藤の部屋。今頃は角屋にいる。
「さて、それじゃ失礼しますよ」
捜索を開始する。新撰組に関して多くでも情報が欲しい。ここで珠紀達を見張るためならまずは敷地内を熟知する必要があった。人間関係から新撰組内の事情。知っておけばいかなる状況に陥っても打開の策を講じることができる。
それが潜入した者の役目だ。
「ふぅ…特に情報はないみたいだな…」
斎藤の部屋には私物が少ない。文机に衣装箪笥。押入れには布団があるだけで、捜索にさほど時間はかからなかった。
「次だね」
捜索された痕跡に気付かれないためにあったものは元にしっかりと戻して正彦は斎藤の部屋を後にした。
「だーっ!!やっぱ高い酒は違うなぁ!!」
「喉がきゅうっ!ってなるよな!きゅうって!!」
座敷に入るなり慣れた様子で酒を注文した藤堂と永倉はさっそく酒を口に運んだ。
次々に座敷には料理や酒が運ばれ、鮮やかな創作料理に珠紀は目を奪われていた。
「じっと見てるのもいいが、冷めないうちに食えよ」
向かい側の席に座っていた原田が苦笑して料理を勧めてくれる。珠紀は頷くと箸を手に取って前菜に手をつけた。
「…おいしい!これ、すっごく美味しいよ、千鶴ちゃん」
「本当?私も食べてみるね」
二人のやりとりを微笑ましく見守っていた原田の肩に肘が置かれ、体重がのしかかってきた。
「何だよー。女の子二人見つめてー」
完全に酒が回りはじめて永倉は原田に茶化すように絡んできた。
「別にそんなんじゃねぇよ。ただ、千鶴も珠紀がきて女らしく過ごせてるなって思っただけだ」
原田の台詞に永倉は盛大に噴いた。
「何だそら!お前は千鶴ちゃんのお父さんか!」
駄目だ。完全に酔っている。序盤から度のきつい酒を頼んだせいだろう。すきっ腹にもかかわらず貧乏性から先に高価な酒を注文したから瞬く間に永倉の顔は赤くなっていく。
潰れるのも時間の問題だな。原田はやれやれと溜息をつく。
「おい、真弘。それは…」
「何だよ、祐一」
隣に座っていた真弘の手元を覗き込んで祐一は声を上げた。
「酒ではないのか」
「酒だぜ?ひっく…ちょ、お前も飲んでみろって。すっげぇ美味いから」
ほんのり頬を染めてほろ酔いの真弘に祐一はその手から杯を奪った。
「あー!何すんだよっ」
「未成年は飲酒禁止だろう」
「ふふーん。お前ここは江戸時代だぞ?飲酒禁止は現代の話。今は江戸。というわけで酒飲んでもいいんだよー」
祐一から杯を奪い返して真弘は酌を開始する。呆れた。屁理屈もいいところだ。
再び杯を奪おうとすると後ろから腕を回されてそれもできなくなった。
「何だよー。お前等酒飲めねぇの?」
同じく頬を染めた藤堂が祐一の肩に腕を回す。
「俺達は二十歳を超えないと酒は飲めないんだ」
「はぁ!?二十歳!?何だそれ!俺なんか十四かそこらで飲んでたってのに!なぁ、今の聞いた!?左之さん!」
「へぇ。それはまた何で…」
「法律で決まっている。二十歳で成人式を迎えてからしか酒は禁じられている」
「いいじゃん!ここはあんたらの時代じゃないんだし!その、法律?よくわかんねーけど別に今日くらい飲んだって誰も怒らないって!」
「しかし…」
藤堂から杯を差し出され戸惑う祐一に真弘は横から茶化した。
「祐一は子供だから酒が飲めねぇんだよなー?」
「何、酒飲めねぇの?」
真弘と藤堂の茶化しに祐一の眉がぴくりと動いた。
「へぇ、下戸じゃしょうがねぇようなぁ。何だ飲めないのかぁ」
「飲めないのではない。飲まないだけだ」
「じゃぁ一杯くらいいいじゃんかー。飲めよー」
二人に迫られ祐一は渋々杯を受け取った。そして一気にそれを煽る。
「おー。良い飲みっぷり!」
「な?美味いだろ?」
「…確かに。ほのかに甘い味がする…」
「もう一杯、もう一杯」
三人で酒盛りを開始した。それと同時に襖が開いて、灯篭の光を浴びた妖艶な女性が姿を現した。
「おばんどすえ。旦さん達のお相手をさしていただきます、君菊どす。今夜はゆっくりしていっておくんなまし」
「おおー!!舞妓さんだ、舞妓さん!やっと京都にきたって感じだな!」
「真弘君。彼女は舞妓さんではなく芸者さんですよ」
君菊の登場に相当嬉しかったのか真弘は声を上げた。
「先輩飲みすぎですよ。鼻の下伸びてるし」
「馬鹿言え!鼻の下なんか伸びてねーよ!!」
美人には目が無い真弘の視線は君菊に釘付けだ。呆れた珠紀は幻滅の表情を浮かべる。
「お姉さん!俺にも酒注いで!」
「はい」
真弘は杯を掲げて君菊を呼びつける。
宴もたけなわとなり、座敷は盛り上がる。そうして話題はあの夜の話となった。
「なぁ左之さん。こんだけ報酬が貰えたんならもっと捕まえてればたんまり報酬貰えたんじゃねぇの?どうして取り逃がしたんだよ?数人は捕らえたんだろ?」
新八の言葉に面々は同意の様子で原田を見つめた。
「あー…その…一旦は全員捕まえたんだけどよ…」
「けど?」
「一人乱入してきて捕らえていた浪士を逃がしたんだよ…」
言葉を濁しながら原田は視線を泳がせる。その様子に一同は首を傾げた。珠紀だけはその場にいたからわかっている。どうして原田が口ごもっているのか。
そうして隣に座る千鶴にそっと視線を移す。
「…千鶴ちゃん、あの晩。どこにも行ってないよね?」
「え?」
突然話をふられて困惑した。千鶴は何のことだと目を丸くする。
「本当に?あの晩、お前は屯所にいたか?」
「…?はい。三条になんて行ってませんよ。第一、私一人で三条まで行けませんし…」
原田の疑心の視線にたじろぎながらもきっぱりと千鶴は言い切った。それを聞いて原田は安堵したように笑った。
「そうか。悪かったな。疑ったりして」
「いえ。でも、その逃がした人が私の顔に似てたんですか?」
「あぁ。あの晩は月も明るかったし、見間違えるはずがねぇ」
そんなことがあるのだろうか。千鶴は考え込むとひとつの声が上がった。
「あの子じゃない?ほら、前に巡察のときに町で会った…南雲薫だっけ?平助も居たよね」
「え?あ、あぁ。そうかなぁ?総司は似てるって言ってたけど、俺はそうは思わなかったんだよなぁ」
「何だそれ」
「何せ向こうは娘さん姿だったしなぁ」
藤堂が千鶴に視線を投じて思案しているのか首を傾げる。
「何の話?」
「あ、あのね。前に町で浪士に絡まれて困ってた人を助けたんだけど…その人が私とそっくりだって沖田さんが…」
「もしその者が浪士を逃がしたのなら、目的は?」
斎藤の問いには誰も答えられない。何だか不思議な話だ。
「まぁ、そう気に病むなよ、千鶴。別にお前のせいじゃないんだからな」
「はい」
原田の言葉に千鶴は頷いた。そこでその話題は打ち切られた。摩訶不思議な話だが、誰も答えがわからない。浪士を取り逃がしたことは残念だが、今は宴会の席だ。
時化た話はなしだ。再び座敷が盛り上がりをみせる。
原田が恒例の腹芸を始め、座敷は一気に盛り上がった。
土方が酔い醒ましに座敷を離れたのを見止めた千鶴は、腰を上げて土方を追う。
隣の部屋で出窓に腰掛けていた土方は千鶴の登場にさほど驚くこともなく、どうしたと視線だけで問うた。
「良かったです」
「何がだ」
急に安堵の表情を浮かべる千鶴に土方は首を傾げた。
「宴会、楽しんでいるみたいで…無理に休息をとっているんじゃないかって思ってしまって…」
「たく、お前も心配性だな。休息のときはちゃんと休んでる。それに、昔じゃ試衛館に居た頃じゃ宴会なんてしょっちゅうだ。あの頃は金もなくて、でも毎晩のように酒を飲んで盛り上がって…あの頃が夢みたいだ…」
「夢、ですか?」
冷たい夜風が火照った今の体には心地よい。土方は目を細めて色町の光景を眺めながら優しい口調で続ける。
「薬箱背負って商売していた昔の自分が、今こうして刀を差してお上からも頼られるようになっている…長くて幸せな夢を見てる気がしてならねぇんだ」
「土方さん…」
懐かしい過去を思い描く反面、これまで辿ってきた苦しくも困難を越えてきたからこそ今の自分が信じられないようだ。努力したその分が今成果として表れている。辛く苦しんだ過去をようやく懐かしむことができる。これはなんという幸せなのか。
幸福を噛み締めているのは酒の力もあるだろう。今まで仕事に追われてそんなことを考える暇さえなかったのだ。余韻に浸ることも今は必要だ。
千鶴はただ微笑んで土方を見つめた。
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.90 )
- 日時: 2013/06/23 14:43
- 名前: さくら (ID: 4BMrUCe7)
座敷の面々も酒が回り、宴席は大盛り上がりだ。珠紀は視線をぐるりと座敷の中を見渡す。原田と永倉、藤堂を中心に騒いでいる。それを近藤は微笑んで眺め、寡黙な斎藤は静かに酒を飲み進めていた。君菊は真弘に付き添い、祐一は酒を飲みすぎたのか黙りこくっている。大蛇はたしなむ程度にしか酒を飲んでいない。
沖田はつまらなそうに料理も手をつけず、一人で酒をゆっくりと飲んでいる。
珠紀は意を決して自分の席を立った。そして開いていた沖田の隣の席に座る。
「…何?」
人を寄せ付けない空気を纏っていた沖田に一瞬挫けそうになったが、珠紀はめげずに口を開いた。
「あの、怒ってますか…?」
「何のこと?」
きっぱりと切り返してきた沖田に珠紀は気が付いた。回りくどい言い方がこの人は嫌いなのだ。珠紀は思案してからもう一度言葉を紡ぐ。
「私達がいつまでも素性を話さないことについて、怒っていますか…?」
「どうしてそう思うの?」
沖田は杯を膳に置いた。珠紀は一度もこちらを見てくれない沖田にまたもめげそうになるが、ぐっと堪えて言葉を考える。
「あの、何となく…」
「何となくで僕が怒ってると思ったの?それっておかしくない?」
確かにそうだ。ちゃんと考えて答えなければ意味が無い。
加えて沖田は相手が返答に困ることを平気で突いてくる。わかってはいたが、やはり一筋縄ではいかない人物のようだ。
珠紀は冷たい沖田の横顔を見つめた。
「すみません…でも沖田さん、あの日から何だか怒っているように見えたんで…」
「そうだね。正直僕は君達が好きじゃない」
沖田の隣に座っていた斎藤がちらりと視線を向ける。珠紀は瞳を揺るがせ、沖田の言葉の続きを待った。
「勝手に現れたと思ったら勝手に入隊して…面倒ごとを押し付けてきたのに、自分達のことはだんまりだし。それってどれだけ勝手なことか、わかってるの?」
沖田の言葉は正しい。だから珠紀は何も言い返せない。黙って並べられる言葉を聞く。
「近藤さんは優しいから…困ってる人がいれば助けちゃうから。今回君達を受け入れたことは認めても、僕は君達を信用してないからね。だって僕たちを信用してないから素性を話さないんでしょ?」
ようやくこちらを見た沖田の目には失念の色が見えた。珠紀は何も言えなくなる。珠紀の沈黙を肯定と受け取った沖田はさらに続けた。
「それってどうなのかな?世話になってる人にそれって失礼になるんじゃないの?」
ここにきて珠紀はようやく理解した。沖田が怒っている理由を。
「…私達が信用してなかったから…」
沖田の眉がぴくりと動く。珠紀は沖田を見つめて確認するように言った。
「私達が信用していなかったから…だから…」
沖田は以前言っていた。どうして素性も知らない者を信用しろというのか、と。
あれは珠紀達のことを言っていたのだ。信頼すら寄せない者達と生活を共にできない。
沖田は自分達をもっと信用して欲しいと言葉の裏で言っていたのだ。
「すみませんでした…」
「謝られても困るんだけど?」
「それでも…すみません…」
珠紀は目を伏せた。自分達の都合で迷惑をかけないように素性は明かさないでおこうと思っていたことがかえって迷惑をかけていたのだ。
「…どうしても言えなかったんです…もし言ってしまえば危険な目に遭わせてしまうかも知れません。もっと迷惑をかけるかも知れません…だから」
「言えなかったんでしょ?それって傷つくなぁ…迷惑とか考えてたの?僕たちは壬狼だよ?多少の危険や困難には慣れてるから」
その時、珠紀は気付かされた。信用できない、と言っていた沖田の口からそんなことを聞けるなんて。
信用していなかったのは珠紀達の方だった。沖田は信を置いてくれていた。少なくともそれは確かだ。
でなければこんなことを言わない。まるで迷惑をかけてもそれは仲間だから仕方が無い、と言っているようで、珠紀は嬉しくなった。
「はい…っ!ありがとうございます」
「…君ってさ」
「はい?」
「いや…千鶴ちゃんと似てるなぁって思って。特にそうやって大げさに喜ぶところとか」
「嬉しいんだから喜んじゃだめですか?」
珠紀は徳利を取って沖田に突き出す。
「男の子に酌してもらうなんて思っても無かったなぁ」
「失礼ですけど、私は女です」
「あぁ、そうだったっけ?」
意地悪い笑みを浮かべて沖田が笑った。珠紀の不機嫌な顔を見てさらに笑っている。
沖田はすっと杯を差し出しそこに酒を注いでやった。一気にそれを煽って沖田は一言呟いた。
「美味しい」
その後も宴会を楽しんでいた珠紀は厠に席を立った。
それを見計らった沖田は杯を膳に戻す。そうして口を開いた。
「心配性の女の子達もいませんし、今なら話してもらえるかな?大蛇さんだっけ?」
沖田の声にその場が水を打ったように静まり返る。
指名を受けた大蛇は微笑すると居住まいを正した。
「そうですね。珠紀さんも今はいませんし…お話しましょうか。私達のことについて———」
大蛇はすっと目を閉じて、一呼吸の間口を閉ざした。緊張が一気に張り詰める。
次に大蛇が目を開けたときに、空気は一変した。
「昔、遥か昔。気の遠くなるような昔です。神がというものが存在していた時代。私達の運命はそのときから因果を刻んだのです———」
中庭を望みながら廊下を歩いていた珠紀はふっと息をつく。どうも最近緊張した日々が続いて肩に力が入っていたらしい。こうして楽しむことができて気が少し楽になった。
「後で原田さんにお礼言わなくちゃ」
彼の配慮のおかげだ。大蛇も同席を許してくれたことも後であわせて礼を伝えなければ。
口元に自然と浮かんだ笑みに幸せを感じながら珠紀はそっと視線を上げた。
中庭はきちんと手入れされ、季節の花々が咲き誇っている。箱庭状の構造になっている角屋は中庭から、どこの部屋も客が入っているのか部屋が明るい。爛々と光に満たされた中庭の一階に珠紀はいる。
視線を上げれば二階、三階と部屋が並び、どこからも楽しげな声が聞こえてくる。
三階の部屋に芸者が呼ばれたらしい。数人の芸者が一室に向かっていた。
「綺麗だなぁ…」
豪奢な着物に負けないその容姿に珠紀は同じ女でありながら感嘆してしまった。
「特にあの子。身長は私と同じ位かな…可愛いなぁ。あのぱっちりした目なんか、慎司君にそっくり…」
直後、珠紀は目を瞬いた。今私———。
もう一度芸者たちの中にいる一人を見上げて目を凝らした。間違いない、あれは———
「慎司君!!」
鮮やかな着物で着飾ってはいるが、見紛うはずがない。あれは慎司だ。
だが珠紀の声に反応しない。珠紀は部屋の喧騒に掻き消されて聞こえないのだと思い、もう一度息を吸い込んで叫んだ。
「慎司君!!!慎司君っ」
ようやく慎司がこちらを見下ろした。あぁ、やっぱり慎司だ。珠紀が安堵した同時に胸騒ぎがした。
慎司の瞳には何も映っていない。珠紀を見ているはずなのにまるで心がないような———
「慎司君…?」
珠紀も男装しているためわかって貰えないのかと不安になった。だが、慎司は何も聞こえなかったかのように再び前を向いて部屋に入ってしまった。
「え、え?慎司君…?」
いつもの愛くるしい表情はどこにもない。凛として清ましたあんな顔など初めて見た。
「人違い…?」
そんなことはない。化粧をしていたとは言え、あれは慎司だ。
どんどんと不安が胸に広がる。
どうして慎司は女装をしているのか。どうしてここにいるのか。どうしてさっきの呼びかけに応えなかったのか。
珠紀は不安になって駆け出していた。
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.91 )
- 日時: 2013/06/23 14:50
- 名前: さくら (ID: 4BMrUCe7)
しばらく夜風で酔いを醒ましていた土方はゆっくり立ち上がると隣の部屋に視線を送った。
「土方さん?」
「急に隣の部屋が静かになったと思ってな。何だ?」
そう言われれば先ほどまで騒いでいた声は静まり返っている。千鶴も気になって立ち上がろうとしたとき、窓から景色が見えた。
色町を明るく照らす提灯は幻想世界のように淡く照らす。軒を連ねる店の前の道を人々が行き交っている。
その人垣の中に見覚えがある人物を見止めて息を呑んだ。
「…風間さん…っ!!」
「どうした、千鶴」
千鶴の様子に異変を感じた土方は駆け寄って彼女の視線の先を追う。
往来の中に風間の姿を見つけ出し、土方は目を丸くした。
「まさかお前を追って来たのか…!?」
向こうはこちらに気がついていない。単に酒を飲みに来たのか千鶴を狙って来たのかは定かではない。
土方は千鶴の手を取ると隣の部屋に飛び込んだ。
「おいお前等、宴会はここまでだ。ややこしいことになる前に帰るぞ」
「え、え?どうしたんだよ、土方さん」
「ちょっと土方さん何ですか。折角今から話が———」
「風間がいる。面倒くせぇことになるまえにずらかるぞ」
風間という名前に幹部たちの表情が険しくなる。土方の言葉に頷いた幹部は立ち上がり、宴会を仕舞いにした。
「“かざま”って…」
以前お千が危険な男のことか。新撰組の面々も知っているのだろうか。思案する真弘はその男の顔を拝みたいと思ったが、それはどうやらできないらしい。幹部の表情が嫌に険しいのだ。真弘は仕方なく席を立った。
ふっと周りを見渡して大蛇が声を上げた。
「珠紀さんは?」
「え、あれ?厠に行ってそれっきり…」
突然。上階から喧騒が角屋に響いた。何事かと部屋を出て確認すると、三階の部屋で誰かが揉めている。それを確認した一同は目を丸くした。
「珠紀!?」
騒動の中心に珠紀がいた。
「慎司君!!」
三階まで続く階段を駆け上がり、目的の部屋まで急いだ。そして部屋に着くと勢いよく襖を開けた。
「何だぁ?お前」
部屋が霞んで見えるほどの煙霧のなかには男女がひしめき合っていた。芸者は男の胸に抱かれ、男達は思わぬ人物に鋭い視線を送る。全身に痛いほどの一瞥を受けてもなお、珠紀は自分を奮い立たせ、部屋に入った。
「慎司君…」
中肉中背の髭面の男の太い腕のなかに、慎司がいた。男にされるがまま、その腕の中に収まっている。その様はまるで醜い獣にさらわれた姫のようだった。
「慎司君、こんな所で何してるの?どうしてこんな格好…」
「何ごちゃごちゃ言ってやがる!!」
慎司を抱いていた男が腕を振りかざした。
「っ———!!!」
突き飛ばされた珠紀は隣の部屋を仕切る障子にぶつかり、激しい音を立てて崩れた。
「おい、こいつ一体何なんだ」
「人様の部屋にずかずかと入ってきて人の女を横取りしに来たのか、あぁ?」
男達が刀を手に立ち上がる。肘をついて上体を起こす珠紀は男達に取り囲まれた。珠紀は男達の隙間から慎司を探した。
芸者達は騒動に血相を変えて部屋から出て行こうとする。そのなかに慎司の姿を見止めて珠紀は声を上げた。
「待って、慎司君!!ねぇ、私が誰かわからないの!?慎司君!!!」
立ち上がって慎司を追うとするが男達に阻まれてそれも叶わない。珠紀はそれでも腕を伸ばして慎司に触れようとした。
「慎司君!!」
「さっきからうるせぇな。こいつはここの芸者だ。お前みたいなガキが触れていい女じゃねぇんだよ!」
またも男達に突き飛ばされて畳の上に倒れる。背中を強く打ちつけ、肺腑を痛めた。一瞬呼吸が出来なくなる。
痛みに耐えながら珠紀は視線を泳がせた。慎司君。慎司君。
「それに、こいつの名前は慎司じゃねぇぞ、糞ガキ。こいつはお志之だ。なぁ、志之。こいつはお前の知り合いか?」
男が嘲笑うかのように珠紀を眼下に見て、注いで慎司ならぬ志之に視線を投じた。
声をかけられた志之は襖に手をかけ、退出する間際だった。
「慎司く———」
「いいえ。このようなお方、会うたこともありまへん」
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29
この掲示板は過去ログ化されています。