二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

薄桜鬼×緋色の欠片
日時: 2012/09/26 13:48
名前: さくら (ID: cPNADBfY)



はい。
初めましてな方もそいうでない方もこんにちは。
またさくらが何か始めたで。と思っている方もいると思いますが
薄桜鬼、緋色の欠片好きの方には読んで頂きたいです


二つの有名な乙女ゲームですね
遊び感覚で書いていくので「なんやねん、これ」な心構えで読んでもらえると嬉しいです←ここ重要


二つの時代がコラボする感じです
あたたかい目で見守ってやって下さい

それではのんびり屋のさくらがお送りします^^

Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29



Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.82 )
日時: 2013/05/12 18:29
名前: さくら (ID: 1RG8a0Ta)

彩音さん

いつもコメントありがとうございます
更新しますね^^

Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.83 )
日時: 2013/05/12 18:32
名前: さくら (ID: 1RG8a0Ta)

今朝方珠紀は夢を見た。真っ白な世界。何も無い場所に珠紀は佇んでいた。
誰かに呼ばれた気がして振り返ると、そこには小さな少女が立っていた。齢を十過ぎたところだろうか。朱袴に白の着物姿はまるで巫女のようだ。
前髪と背中まで伸びている毛先はばっさりと切り揃えられており、艶やかな黒髪が印象的だ。珠紀はにっこりと微笑む少女に声をかけた。

「あなたは…?」
「ようやく、お会いできましたわ…姫君」

そういうと少女は恭しく頭を垂れた。姫君、と呼ばれた珠紀は瞬いた。この子は自分のことを知っている。

「直接お会いすることはまだ叶いませんが…けれどこうして相対することがきて…私は嬉しく思います」
「あの、あなたは一体…」

珠紀が小首を傾げる。少女は丸くて大きな瞳で珠紀を見つめた。

「はじめまして。珠紀様。私は現時代の玉依姫です」

その自己紹介に珠紀は驚いた。まさか目の前の少女が玉依姫とは思えなかったからだ。
自分よりも小さく幼い少女が玉依姫というのか。珠紀ですら継承したのは十七歳の冬だった。それをこの少女は幼いながらにその役目を全うしてきたのか。
驚愕する珠紀に少女は目を細めた。

「あまり時間がありませんので、手短に…どうかその場所で珠紀様には待っていてほしいのです」
「待つ?待つって…何を?」
「私が貴方様を訪ねるその日まで…そう遠くない日に私はそちらへお伺いいたします。ですからそれまで、珠紀様にはそちらでお役目を果たして欲しいのです」
「え?貴方が、こっちに?役目って?」

話の筋が見えない珠紀は困惑した。少女のいう役目とは何のことか。
戸惑う珠紀をよそに白い世界が歪み始めた。同時に珠紀の視界も歪み始める。

「どうか気を強くお持ち下さい。今貴方様には危険が迫っております…どうか守護者とともに…そちらで…待っていて下さい……」

どうして。一体何の話なのか。そう問おうとする珠紀だったが、遠のく少女の声を最後に、目が覚めたときには自分の部屋にいた。
それが夢だと自覚した珠紀は眉根を寄せた。この夢は現時代の玉依姫が見せたものだ。
その玉依姫は何故夢にまで出てきて忠告をしたのだろうか。役目とは何か。一方的だった夢に珠紀は頭を抱えた。




珠紀の説明に一同は一瞬理解が遅れた。会った。夢で人と会うとは一体どういうことなのか。目を瞬く幹部たちに珠紀は更に続けた。

「名前はわからなかったんですけど…その子は私に『そこで待っていて』って言ったんです」
「夢のなかで…その、玉依姫とは一体誰だね?」

今更ながら自分達の説明が少なかったことに気付く。否、説明せずとも受け入れてくれた新撰組の懐の大きさに今は驚くべきか。説明して正体を明かせば、間違いなく封印の戦渦に巻き込んでしまう。
珠紀は当たり障りのないように補足した。

「鬼斬丸を封印し、守ってきた巫女のことです。未来では私なんですけど、この時代の玉依姫に夢で会ったんです」
「夢で誰かと会話することはよくあるが、その言葉が気になるな」

原田が顎に手を添えて考える。

「はい。『そこで待っていて』ということは私達がここにいることを知っているということ。つまり、私達をここに呼んだのはこの時代の玉依姫じゃないかと思うんです」
「おい、珠紀。そんなこと一言も聞いてねぇぞ!」
「先輩たちだって私に内緒にしてたじゃないですか!それにこの夢は今朝見たところなんです!」

珠紀の言葉に言い返したくても言葉が見つからず、真弘は大人しく自分の席に戻る。

「君の物言いだと、まるで本当に会って会話したみたいだね。夢は夢でしょ?信憑性があんまりないよね?」

沖田の鋭い一言に切り替えしたのは祐一だった。

「確かに。夢は夢だ。だが珠紀が見る夢は違う。姫巫女の力は神通力も同じ。珠紀の見る夢は真実であり、偽りなどありえない」
「随分なもの言いだね。ねぇ、珠紀ちゃん。君達。まだ僕たちにちゃんと話さなくちゃいけないことがあるんじゃないの?その鬼斬丸もそうだけど…」

微笑を口に含んではいるが、目は決して笑っていない沖田は更に切り込んだ。

「例えば、君達の本当の正体…とか?」

その言葉に珠紀達は動けなくなった。幹部全員がそろった席だ。下手な言い逃れはできない。だが、本性を明かせば必ず新撰組に害が及ぶことは目に見えている。
珠紀は必死に言葉を捜した。

「拓磨と真弘。君達に初めて出会ったとき違和感はあったんだ。尋常ではない速さで走ったり、人ではありえない腕力で建物を破壊したり…」
「あ、そう言えば!真弘と浪士を捕まえたときも刀もなしに浪士をぶっ倒したんだった!」

沖田に続き、思い出したのか藤堂も声を上げた。

「あぁ、それと。珠紀ちゃん。君も変わった技持ってたよね?お札みたいなものを取り出して侵入者に一撃食らわせたり…」
「総司」

沖田の言葉を固い声音が遮った。声の主を鋭い視線で睨み返した沖田はその顔から笑みを消した。

「そこまでにしておけ。こいつらには特別な力がある。それで十分だろう」
「どうしてですか?新撰組の隊士なのに幹部に正体も明かせないんですか?」
「俺達が知り得ないことなんざこの世には山ほどある。いちいち詮索するな」
「気に食わないなぁ。それじゃ僕は納得できません。だったら拓磨を僕の隊から外して下さいよ。力量も正体も不明な隊士を置いておくなんて、僕はしたくありません」

沖田と土方の間に激しく火花が散った。
恐らく土方は珠紀達の気持ちを汲んで正体を隠そうとしている。だが、その言動が気に入らない沖田は執拗に突っかかるのだ。
沖田の言葉に一理ある。誰だって正体のわからない輩と付き合っていくことは難しい。その上ここは新撰組だ。隊の連携が重視されるこの組織のなかで隠し事があってはその隊務にもかかわってくる。

「子供じゃねぇんだ。それくらい目を瞑ってやったらどうだ」
「僕は何も彼らが正体を明かさないことが気に食わないんじゃないんです。土方さんだけが彼らのことを知っていることが気に入らないんです。情報は共有すべきでしょ?」
「俺も詳しくは知らん。それで構わねぇだろ」
「どこまで本当なんでしょうね?近藤さんだって彼らのこと知らないみたいだし…」

どんどんと重くなっていく空気に、珠紀は後悔し始めていた。自分の杞憂が土方の気を遣わせ、それが気に入らない沖田が文句を並べるのは当然だ。
訳も話さず黙秘するばかりでは沖田達とてやりにくい部分があるのだろう。
珠紀が口を開こうとするより早く、斎藤が口を開いた。

「ところで、副長。この者の配偶はいかように?」
「ちょっと一君。今はそれどころじゃ…」
「あぁ、彼の配偶はトシと話し合って…斎藤君。君の隊に配属することになった。よろしく頼む」

いきなり話の矛先が自分に向いたのだと自覚した祐一は目を瞬いた。そしてその視線をゆっくりと斎藤に向ける。斎藤も祐一を見つめ返し、お互いにただ見つめ合った。

「近藤さんまで…まだ話は終わってないんですよ」
「まぁ良いではないか、総司。それはまた彼らが話してくれることだろう」
「…」

納得がいかないのか沖田は黙って立ち上がると、踵を返して広間を後にした。沖田を追おうと腰を浮かせた珠紀を土方が静かに止める。

「気にするな。あいつはときどき子供っぽいところがあるんだ」
「すみません…隠し事をしたい訳じゃないんですけど、皆さんを巻き込んでしまうかもしれないので…これ以上は…」

珠紀が頭を下げると近藤は首を横に振った。

「構わんよ。人にはそれぞれ事情がある。それを無理に踏み込むことはしない。話す機会が来れば話してくれれば良い」

朗らかに微笑む近藤に珠紀は幾分か心苦しさが軽減した。

「では、君達はその季封村に行かなくていいんだな」
「はい。ここで鬼斬丸の捜索をしてみたいと思います」
珠紀が頭を下げると、幹部達は頷いた。
だが、珠紀達は知らない。すぐ近くに危険が迫っていることを。

Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.84 )
日時: 2013/05/12 18:39
名前: さくら (ID: 1RG8a0Ta)

「だーっ!!いつまで待たせる気なんだよっ」

山の峰々から世界を眩しく照らす朝日に不知火は叫んだ。

「うるさいぞ…不知火」

神社に隣接する母屋で寝泊りをしている遼と不知火は朝食を居間でとっていた。
障子を開放して、朝の清々しい空気を部屋に招く。眩い朝日を浴びながら、遼は不機嫌そうに不知火を睨んだ。
朝は弱いのだろう。欠伸を噛み殺しながら、箸を口に運ぶ。

「どうしてお前はそんなに悠長に構えていられんだ!もう三日だぞ!?いい加減説明があってもいいんじゃねぇのか!?」
「仕方ないだろう。玉依姫が倒れてまだ目が覚めないんだ。話はそれからということだろう」

温かい白飯を口に運んで、遼は咀嚼をする。その態度や言葉が今の不知火には癇に障った。
不知火は風間に命じられてからこれまで一切の説明を受けていない。この騒動が一体なんなのか。封印とは。姫とは。あの刀とは。
自分が一体何に巻き込まれているのかを知らない。玉依姫が倒れて連れてこられた場所は荘厳な神社だった。遼は何の疑いもなくこの社に馴染み、くつろいでいるようにも見える。
自分だけ事情を知らないのは遺憾の他ならない。
不知火はつかつかと遼の目の前に腰を下ろした。

「じゃぁまずはお前の話を聞かせてもらおうか、遼。俺はお前の名前以外、何もしらねぇんだ」
「話なら後にしろ。今は飯を食っている」

やはり気に食わない。
不知火は額に青筋を浮かべながらも黙って自分の膳の前に戻る。箸を手に取って、自分も朝食をとることにした。
璞玉が倒れてからここに連れてこられたが、それからの展開が一切ない。ただ部屋を与えられ飯を出される。
平凡すぎる時間を過ごしていた不知火は我慢の限界だった。

「俺は一体ここで何をしてんだ…」

遼が風間を裏切った。その大胆な行動に不知火は楽しみを見つけた。風間はときどき手を組むことはあっても仲間というほど馴れ合ってはいない。
あの傲慢で高飛車な鬼に一泡ふかせるならば、と思ってここまで付き合ってきたが、どうも自分が思っているようにことは運ばないらしい。
不知火は目の前の朝食を平らげると誓った。
ここを出て行こう。何を好き好んでこのような辺境の地にいるのか。自分の見込み違いに呆れてしまう。
立ち上がろうとする不知火より先に、遼がぽつりと呟いた。

「この世が終わらせる刀があったら、あんたはどうする?」
「あ?」

腰を浮かせていた不知火は眉根を顰めた。唐突過ぎる言葉に一瞬呆気にとられる。だがすぐに答えた。

「そんなもん、あるわけ———」
「あるんだよ。実際」

朝食を食べ終えた遼は不敵な笑みを浮かべた。。

「はぁ?何言ってんだ、お前。そんなものがあったら日本中、それこそ世界中が知ってるはずだろう」

いくら記憶を手繰ってもそのような代物は知らない。第一、世界が滅びるほどの危険物が世間が、世界が放っておくはずがない。どうにか対処するはずだ。
現実離れした話題に不知火は鼻で笑った。だが、遼はその不敵な笑みを絶やさない。

「世間にその刀が知られていないのはこの村総出で封鎖してきたからだ。村と言ってもごく一部の人間しかしらないだろな」
「…本気で言ってんのか」

信じられないこともなかった。何かを守るように配置されていた封具。それを死守しようとしていた鬼。そして神通力を持つ少女。
彼らが何かを守ろうとしていることはよくわかった。封具を持ち出そうとした遼を彼らは必死に止めようとしていた。
それがその刀のためか。

「信じる信じないはあんたに任せる。だが、その危険物があの鬼———風間の手に渡ったんだ」
「…あれか」

不知火が呼び出されたとき風間は異様な刀を持っていた。随分と古びた刀を持っていることに少し違和感を感じていたのだ。
風間は刀にはあまり執着しない。切れ味が納得いくものであれば何でも構わないらしい。
その風間が持っていた古刀が不知火は気になっていた。
あんなものが世界を滅ぼす力があるというのか。不知火は信じられなかった。

「昔。昔だ。気の遠くなるような時代に、その姫神はいた。そして最初のカミと呼ばれていた邪神を形成したのが鬼斬丸。凶悪な刀を管理していた玉依姫神は封印が綻びた際に自分の命と引き換えにそれを守った」

ふっと一度息を吐くと遼は茶を口に含んだ。

「…だがその先また封印が解けようとしていた。その際に玉依姫に中世を誓っていた鴉、狐、蛇が死守したんだ…そこからが輪廻の始まり…狂おしいほどの運命に縛られ続けることになる…」
「…どういうことだ?輪廻の始まり?まるで今も続いてるみてぇじゃねぇか」
「今も続いているんだよ。そしてそれはこれからも…ま、“俺達の時代”で鬼斬丸は破壊した」

御伽噺のような話に不知火は首を傾げた。

「“俺達の時代”?今もまだその封印を守ってるんだろ?現に風間が持って…」
「俺は先の世から来た。言っていなかったか?」
「はぁっ!?」

唐突に遼の口から吐かれた言葉が、部屋に響いた。不知火は今度こそ言葉を失う。
こいつはホラを吹いているのか。それとも馬鹿なのか。
唖然とするがしかしすぐに我に返って不知火は一笑した。

「ば、馬鹿じゃねぇのか。そんなことどうやって…」
「俺も何故ここに来たのかわからねぇんだよ。だからたまたま出会った風間が持っていた鬼斬丸に気付いて、あいつについていけば、必ず今の時代の玉依姫に出会えると思ったんだ」

混乱しはじめた不知火は自分の頭を抑えた。一体何がどうなっているのか。突然色々な情報を告げられ思考が追いつかない。
遼はさらに言葉を続ける。

「その封印を守った鴉、蛇、狐とそして後に守護者となる二つの家系が代々その血を受け継ぎ、鬼斬丸と玉依姫を封印してきた。玉依姫も同じだ。何代と輪廻を繰り返し、受け継がれるその血で封印を守ってきた」
「ってことはお前もその守護者ってやつか?」

話を整理するために不知火が確認をとると遼は口端を吊り上げた。

「そうだ。何でわかったんだよ」
「お前は少し変わった気配をしていたからな。人であってそうではない。血に何か混じっている訳でもない。だが人間とその異端の力の狭間にいる、そんな気がしただけだ。お前とあの鬼も…」

不知火の脳裏には鮮やかな赤髪を揺らし、少女に忠実なあの鬼。
あれも守護者というのだろう。納得した不知火は話を整理しようと黙り込んだ。

「お前も鬼だろ」
「あ?あぁ。そうだな」
「俺達のように転生してその力に覚醒しているようではないようだな」
「あぁ。俺や風間は純血の鬼だ。お前達のように転生して受け継がれるわけじゃねぇ。純血の鬼同士が結ばれなければその血は薄まっていく」

不知火の言葉に遼は一つの疑問を抱いた。

「守護者の中にも鬼がいる。あれとお前達とはどう違うんだ」

遼の問いに不知火は答えられなかった。そんなことを考えたことがなかったからだ。
必死に考えてその問いの答えを探す。いつぞやの記憶。天霧が鬼とは何かを風間に語っていたことを思い出した。

「鬼も昔は一つの一族だったらしい。だが、人間の力が及ぶにつれ、それはちりじりになりひっそりと暮らすようになった。その封印を解こうとした鬼もきっと俺の先祖だろう。だが、鬼のなかにも特異な奴がいたんだろう。お前達の鬼のような転生を繰り返す者もいたんだろうさ」
「正確には常世神であった鬼が玉依に忠誠を誓い、神意によってその血が受け継がれることになった、というのが事実だ」

部屋に現れた拓魅は仏頂面だった。露草色に鶴が飛んでいる羽織をはためかせ、拓魅はふぅっと溜息をつく。
不機嫌そうに言葉を足して、すっと二人の前に座った。

「そんなことも知らなかったのか」
「俺はお前達みたいに古い血族じゃねぇんだ」
「知らないのか。お前も犬戒の血を引いているのなら、火遠理命の血を引いているはずだ。火遠理命は後に玉依姫神の姉、豊玉姫神と婚姻し、子をもうけた。その子供、天津高日子神と結婚したのが玉依姫神だ。お前は玉依姫とは縁戚関係だぞ。そんなことも知らんとは」
「俺は過去にこだわらない主義なんだよ」

二人の間に激しく火花が散る。時代が違っても鬼の性格は好かん、と再確認した。
何を話しているのか全くわからない不知火はただ黙って二人を交互に見るしかない。

「拓魅。あまりそのような言い方は良くないと思いますわよ」

衣擦れとともに開け放たれた障子から姿を現した璞玉は羽織を肩にかけ、静かに入室する。拓魅の隣に腰を下ろすと深く頭を下げた。

「申し訳ありません。私の体調が優れなかったために、お二方には待っていただく形になってしまい…」
「全くだぜ。ほったらかしは流石になかっただろうよ、姫さん」

大仰に溜息をつく不知火に璞玉は微笑んだ。

「はい。大変申し訳ありませでした。ですが、どうしても私の口から説明したいことがあったのです」

璞玉はすっと息を吸い込んで意を決したように口を開いた。

「鬼斬丸の封印を一度解こうと思うのです」

Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.85 )
日時: 2013/05/24 23:21
名前: さくら (ID: v20iF7Or)

「正気か…」

遼は唖然と呟いた。目の前に鎮座する少女が何を言ったのか一瞬理解が遅れる。
しかし璞玉は毅然とした態度を崩さないまま大きく頷いた。

「封印を解いて、もう一度強固な封印をするんです」
「それがどれほど大変なことか、わかっているのか」

遼の目つきが険しくなる。璞玉が行おうとしていることがどれほど危険なことかわかっているのだろうか。
経験してきた遼はその恐ろしさを知っている。

「俺達は鬼斬丸を破壊した…だがそれは守護五家が揃っていたからできたことだ。守護者も一人。加えて玉依姫は体が弱い。そんなことで封印を解く?本気で言ってんのか」
「本気です。そのためにあなた方、守護者をお呼びしたんですのよ」
「…おいおい。もう一度俺達にあれをやれっていうのか」

遼の顔が引き攣る。無理もない。鬼斬丸を破壊することにどれだけ骨を折ったことか。
何度血を、涙を流したか覚えていない。苦痛を背負い、恐怖と戦い、やっとのことで破壊したものだ。
もう二度と無く経験したくないものだ。
だがそれを目の前の少女は手伝ってほしいというのか。

「ですから、目的は“破壊”ではなく“封印”です。あなた方に負担はかけません。ただ、弱まっている封印を強固なものにしたいのです」
「封印を解けば何が起こるかわかってるのか」

全く話についていけない不知火は二人の舌戦を黙って見ていることしかできなかった。

「…どうかご理解下さい。次の世の姫が、守護者が安寧に暮らせるために…」

畳に手をつき、深く頭を下げる璞玉に遼は黙り込んだ。隣に座っていた拓魅は舌打ちをした。

「お前が危険を冒して封印を強めても、いずれ薄まる。こんな奴に頭など下げずとも…」
「拓魅。何度も話し合ったはずです。私の意志は変わらない。古くから続くこの因果を変えることはできない…ならばせめても先の世に安穏を願いたいのです」

拓魅は苦虫を噛み潰したように渋い顔つきになる。遼は二人を交互に見やって二人の関係を何となく悟った。
きっと幼い頃から二人は一緒だったに違いない。姫と守護者。役目のために両家はともに過ごし、その役目すらも超えた関係なのだろう。
互いが大切で、相手のためなら自分の命すら惜しまない。まるで珠紀と拓磨を見ている気分になって遼ははぁっと溜息をついた。

「どの時代の姫も鬼も同じかよ…」

呆れたように、だが同時に慈愛の篭った笑みを湛えて遼はすっと璞玉の前まで移動する。

「やってやろうじゃねぇか。その決意、気に入った」

遼の言葉に璞玉は目を輝かせて喜んだ。

「あぁ、有難うございます。何と心強い言葉でしょう…」

璞玉の横で拓魅は眉根を寄せて黙したままだ。

「あーあのよ」

一人話についていけない不知火はそっと挙手した。

「何の話かわからねぇが、具体的にこれからどうすんだよ」
「お二人に、大役をお願いしたいのです」
「大役?」

璞玉の不敵な笑みに二人は眉を顰めた。



「良かったのか。あいつらはまだ信頼できるかどうかわかないのだぞ」

日も高くなり、澄んだ空は晴れ渡っている。だが、吹き抜ける風は冷たいものだった。木々からは葉が散り去り、紅葉の時期は終わりを告げようとしている。
冬の足音が近づいてくるかのような風の冷たさに、璞玉は少しだけ震えた。
その反応を見逃さず、拓魅は羽織をそっと璞玉の肩にかけてやる。
境内の山道に立つ二人は、遼たちが去ったあとを見つめていた。

「相変わらず人を認めるということができませんのね、拓魅。少しは人を信じようと思わないのですか?」

璞玉が悪戯っぽく笑っておどけて見せたが、拓魅の顔から険しい表情は消えなかった。

「…俺が弱いから…お前に苦労をさせてしまうのだろう」
「拓魅…」

守護者の現役は自分だけ。他の守護家は引退した者や幼すぎるために継承者がいない。そんな状況に鬼斬丸が奪取された。落ち度は自分にある。自分が至らないせいで璞玉に無理を強いているのだ。
自分がもっと強ければ。もっと力があれば。
その思いで胸が苦しくなる。

「俺がもっと強ければ…先の世から姫をお呼びすることもなかった…」
「拓魅、それは…」
「違うと言うか!?俺が不甲斐ないからこんなことになったんだ…っ」

あの鬼が来たときにもっと早く対処していれば。未来の玉依姫や守護者を巻き込むこともなかった。
自分の非力を思い知らされているようで、拓魅は歯がゆかった。

「俺は…守護者失格ではないのか…」
「やめて、拓魅。そんなこと言わないで…!拓魅は立派な守護者よ。私をいつだって護ってくれたわ。だから…」

璞玉は拓魅の背中に抱きついた。年の差もあって拓魅の腰辺りまでしか身長がない璞玉はしがみつくように小さな腕を回す。

「…私の守護者は貴方だけ…お願い、自分をそんなふうに言わないで」
「だが実際お前に負担をかけている」
「違うわ」
「違わない」
「違うわ、拓———」
「ならば日に日にお前が痩せ細っていくのは何故だ!?体調を崩すのは何故だ!?」

拓魅は璞玉の肩を掴んで叫んだ。細い肩は小刻みに震え、戸惑っているように瞳を揺らす。

「何を…」
「お前の体が弱いことは知っている…だが、近頃は倒れることが多い…体に負担がかかっている証拠だろう」
「…拓魅、違うの…これは…」
「先の世から姫をお呼びした…それだけでも巨大な負担があったはずだ…先の世からこの時代に人を呼ぶなど相当な力を使ったのだろう」
「違う、違うの。拓———」

それ以上聞きたくない、言わせないというように拓魅は璞玉を抱きしめた。
胸にすっぽりと埋まる少女の体の細さに驚かされる。こんなにも痩せていたのか。一体いつから無理をさせてしまっていたのだろう。

「お前の苦悩に気付けぬ守護者など…」
「拓魅…くる、し…」

腕に力を込めて抱きしめると崩れてしまいそうな少女を、しかしその腕を緩めることはできずに拓魅は目を閉じた。

「璞玉…」
「ん…」
「誓ってくれ。お前自ら命を投げ打つことなど決してしない、と…」
「拓魅…」

璞玉の頬に顔を寄せて、拓魅は苦しげに呟いた。耳元で紡がれた言葉が慟哭のようで、璞玉は胸の奥が痛んだ。

「…誓いましょう。貴方が私を護ってくれるもの…」
「璞玉…」

拓魅は顔を離して璞玉を見つめるとその赤い唇に己の唇を重ねた。唇の隙間から漏れる吐息が熱くて、璞玉はむずがるような声を上げる。
そっと唇を離すと、拓魅はもう一度璞玉を抱きしめた。今度は優しく、包み込むように。

「俺の前から勝手にいなくなるなよ…」
「心配性ね。拓魅がいれば私は消えたりしないわ」

温かい腕の中で璞玉はその身を委ねる。薄っすらと開いた瞼からそっと拓魅を見やった。
壊れ物を抱くような切ない瞳に璞玉は目を細める。
今はまだ秘めておこう。胸の奥に決めたこの思いはまだ———…


Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.86 )
日時: 2013/06/18 22:34
名前: さくら (ID: 4BMrUCe7)

そうして数日が経ったある日。珠紀はと千鶴は庭で衣類を洗濯していた。晴れてはいるものの、風が冷たい。桶に張っている水に手をつけることも億劫になってきた。
珠紀はそれでも懸命に着物を洗って、絞り、竿に着物を干していく。

「今日は寒いねぇ」
「もう冬に入るもんね。珠紀ちゃん、寒くない?大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。動いていれば寒さなんてへっちゃらだから!」

かじかむ指先を叱咤して竿に洗濯物を並べていく。珠紀は風にはためく洗濯物を見つめて動きを止めた。
竿には隊服も干してある。だんだら模様のあさぎ色の羽織だ。それを見つめて珠紀は呟いた。

「私たち…やっぱりここにいちゃいけないのかな…」
「え?」

着物を洗っていた千鶴は手を止めて、顔を上げた。空を仰いで珠紀は目を細める。

「迷惑かけないようにって思ってたけど…余計皆に迷惑かけてる気がするなぁ…」
「珠紀ちゃん…?」

千鶴は腰を上げると珠紀の横に並んで顔を覗き込む。空を見つめていた珠紀の表情は険しいものだった。

「どうしたの?珠紀ちゃん…何か嫌なことでもあったの?」
「ううん、そういうわけじゃないんだけど…この間ね。私達のことでもめちゃって…幹部の皆さんに迷惑かけちゃって…」
「珠紀ちゃん…」
「沖田さんも言ってた…正体不明の輩を置いておきたくないって…」

今度は地面を見つめて珠紀ははぁっと溜息をついた。どうして自分達はこの時代に来てしまったのだろう。どうしてこの場所なのだろう。
動乱の時代に危機迫る状況が続いている。この幕末に生きる人々は皆懸命に自分の信念のために闘っている。そんな人々に自分達の都合で迷惑などかけられない。鬼斬丸だの封印だのと自分達の事情に巻き込むわけにはいかない。自責の念を感じずにはいられない珠紀は苦悩の日々を過ごしている。どうすればいいのだろう。自分はどう動くべきなのか。

「珠紀ちゃん、でもそれは皆さんを心配してくれたから、今は上手く説明できないだけだよね?そのときが来れば説明してくれるんでしょ?」
「うん。もちろん、そのつもりだよ。だけど今は…」
「珠紀ちゃんは優しいね」
「え?」
「本当なら帰る方法を探したいはずなのに、新撰組を心配してくれてるんだもの。土方さんもそれをわかってると思うよ。だから言及しないんじゃないのかな?」

千鶴も珠紀たちの事情を知らない。だが、それでいいと思っている。こうして生活をともにして千鶴は思った。相手のことを知るのは大切だがそれは自ずとわかることではないのか。焦って素性を知ることもない。
珠紀は一瞬目を見張って、そしてすぐに微笑んだ。

「優しいのは千鶴ちゃんもだよ。私たちの面倒までみてくれて…千鶴ちゃんがいなかったら今頃どうなってたか」
「にーにー!!」
「え!?」
「あっ、こら、おーちゃん!」

突然珠紀の影から飛び出してきた鼠のような生き物に千鶴は声を上げた。

「こ、この動物…珠紀ちゃんに初めて会ったときにも…」
「あ、あのこれはね。えっと…どう説明したらいいのかな…」

珠紀が口を濁している間にもオサキキツネは千鶴の肩によじ登るとその頬に顔を摺り寄せる。

「ふふっ。くすぐったい。可愛い子だね。名前はあるの?」
「あ、うん。おーちゃん。えっと狐の妖でね。私をいつも守ってくれてるの」
「きつねのあやかし…?」
「あ、これは誰にも内緒にしてほしいの!まだ誰にも言ってなくて…」
「うん、わかった。内緒ね。あやかしっていうのは妖怪みたいなもの?」
「うーんそうなるのかなぁ…でも恐い妖怪じゃないから、大丈夫だよ」
「おーちゃん、これからよろしくね」
「にー!」

元気の良い返事に千鶴は微笑んだ。ひとしきり千鶴とオサキキツネは戯れた後、突然千鶴は声を上げた。

「私、井上さんに呼ばれてたんだ!ごめん、珠紀ちゃん、今から行ってくるね!」
「うん。大丈夫だよ。あとは干すだけだし」

千鶴は小走りでその場を後にした。

「あんまり深く聞かない方がいいよね…」

オサキ狐のことをもっと言及したかったが、それでは珠紀を困らせるだけだろう。千鶴はそれをわかっていた。彼女達が何かを隠していること。それは決して疚しいものではなく、優しさを感じた。まるで巻き込むことを恐れているかのように。

「私達だって隠してることはあるんだし…」

千鶴は足を止めた。そうして脳裏に浮かんだ白髪の男達を思い出す。

「…深く首を突っ込んじゃだめ…」

千鶴は自分に言い聞かせるように呟いた。空を仰いで一つ頷くと千鶴は再び走り出す。
庭から玄関に上がり、広間に向かおうとしていた千鶴は前方から歩いてくる二人の男を見止めた。
一人は長身の男、と千鶴は目を瞬いた。男にしては随分と顔立ちが女性らしい美しさがあった。端整な顔はまるで女形を演じる男優のように凛々しい。だが袴を穿いているところと刀を提げているところから男だと考え直す。
その横に並んで歩いていた青年は長髪をひとつに結び上げ、幼さが若干残る表情で前を見据えていた。
二人の横を通り過ぎるときに、千鶴はその青年と目が合った。
ほんの一瞬だったが、千鶴は彼の瞳を通して何かを見通されたような気がして胸が騒いだ。

「…」
「…」

どちらも視線を外さずすれ違う最後まで視線を合わせていた。
完全に横を通り過ぎた千鶴は小首を傾げる。

「隊士さん…かな?」

平隊士の顔はだいたい覚えた千鶴は記憶を手繰る。あんな変わった二人組みなど見たことがない。

「新しく入った隊士さんかな…」
「そうだよ。確か彼らは伊東さんの勧誘で入ったんじゃなかったかな」
「井上さん!」

千鶴の背後でにこやかに微笑む中年の男、井上は目元の皺を深くした。

「すまないねぇ。呼び出したりして」
「いえ、大丈夫です。あの、さっきの方達が伊東さんの勧誘で入ったってことは…」
「うん。あまり皆からは良い目で見られていないようだね。このところ伊東さんの勝手な行動が土方さんの耳にも届いて…屯所内はあまり良い雰囲気とは言えないね」
「そんな…」

千鶴は顔を曇らせる。お上が崩御し、時代は大きく揺らぎはじめている。休息もままならない土方の苦労がまた増えているのだと思い知ると、千鶴は胸が苦しくなった。

「大丈夫だよ、雪村君。君を呼んだのはそんな気分も吹き飛ぶような話だから」
「え?井上さん、それは一体…」
「副長室に行っておいで。私はただの伝言係りだよ」

井上はそう言い残すとその場を去った。その井上の笑みがとても嬉しそうで、千鶴は気になって呼び止めようとしたが、土方が呼んでいるのなら早くそちらに行った方がいいのではないかと思い直して千鶴は方向転換した。


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29



この掲示板は過去ログ化されています。