二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

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薄桜鬼×緋色の欠片
日時: 2012/09/26 13:48
名前: さくら (ID: cPNADBfY)



はい。
初めましてな方もそいうでない方もこんにちは。
またさくらが何か始めたで。と思っている方もいると思いますが
薄桜鬼、緋色の欠片好きの方には読んで頂きたいです


二つの有名な乙女ゲームですね
遊び感覚で書いていくので「なんやねん、これ」な心構えで読んでもらえると嬉しいです←ここ重要


二つの時代がコラボする感じです
あたたかい目で見守ってやって下さい

それではのんびり屋のさくらがお送りします^^

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Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.52 )
日時: 2013/03/13 00:10
名前: さくら (ID: MmCaxbRG)

不逞浪士を捕縛して連行する道すがら、真弘は腕を組んで考え込んでいた。
先ほど浪士達の罠に嵌った真弘は藤堂の助けを借りて、その状況を打破できた。が、浪士を全員倒したと思ったときだ。
建物の物陰から閃光が走り、真弘を攻撃した。藤堂の咄嗟の行動で事なきを得たが、避けていなければ確実に命中していた。
加えてその閃光には見覚えがある。

「あれは、芦屋がよく使っていた呪符の反応だった…」

鬼斬丸と玉依姫を管理する典薬寮の一員、芦屋は陰陽道を使って呪符や卜部を使ってときに干渉してきた。
その時に得意とする呪符を使って守護五家の邪魔ばかりしていた。呪符を使用したときに起こる閃光の反応が似ている。
だがわかることはそれだけで、なぜ真弘を狙ったのか、その者は何者なのか。考えれば謎は深まる一方で、真弘はふっと溜息をついた。
一つ確信したことは自分“だけ”が狙われたこと。
新撰組に仇討ちを企んでいたなら、近くにいた藤堂も狙ったはずだ。新撰組の羽織を着ていながら真弘を狙ったということは、真弘の正体を知っているということだ。

「ここに俺達の正体を知っている奴なんて…」

新撰組の幹部達と町で出会ったお千という人物くらいだ。
それ以外の者に知られたつもりはない。
真弘達が預かり知らぬ所で何かが動いているのは明確だ。鬼斬丸が絡んでいるようでならない。

「真弘」

隊の先頭の肩を切って歩いていた藤堂が、最後尾を歩いていた真弘のところまで下がってきた。
現実に引き戻された真弘は顔を上げる。

「その、さっきはありがとな。背中を取られるなんて、俺もまだまだだなぁ」

藤堂が先ほど浪士達に襲われたことを言っているのだとわかった真弘は目を瞬いた。
礼を言われるとは思ってもいなかった。
無意識にやっていたことに礼を述べられても困る。だが結果的に藤堂を助けたということになったのだ。真弘はどこかむず痒さに苛まれる。

「ま、俺様がいたから助かったんだな。敬え」
「相変わらず上から目線だなぁ、お前」

照れ隠しのつもりであえて胸を張って威張った。だがすぐに真弘は顔を伏せた。

「えぇっと…俺も助かった…」
「え?」

あまりに小さな声で真弘が言ったものだから、藤堂は目を瞬いた。空耳だろうか、今———

「ったく!このくらい俺だけでどうにかできたんだよっ」
「うっわ、素直じゃねぇな」
「うっせー」

互いに毒づきながらも笑い合っていた。
危機的状況を打開できたのは二人あってのことだ。それは言わずとも二人はわかっている。口にするのが恥ずかしいだけで、互いの欠点を補うことに充実感を覚えた二人の間に新しい関係が生まれた瞬間だった。



捕り物は久しぶりだったらしく、藤堂の帰還に屯所はざわめきたった。

「よくやったな、平助」
「へぇ…すごいじゃない」
「お前が捕り物なんざ珍しいじゃねぇか」

斎藤、沖田、原田が屯所内の清掃を終えて広間で一服してるところに藤堂の朗報に喜んだ。

「その浪士は例の制札騒ぎの…?」
「いや、違うけど俺達に恨みがあるみたいでさ。最初真弘が襲われたんだけど、こいつが頑張ったから捕縛できたんだよ」
「へぇ、君が?」

報告を兼ねて広間に同行していた真弘は藤堂に話を振られて目を瞬いた。

「よくやったな、二人とも。後は俺が引き受けよう。ご苦労だった」

広間の上座に腰を下ろして話を聞いていた土方は満足そうに頷いた。
目を吊り上げて厳しい言動が多い奴だと思っていた真弘はこのとき違う印象を抱く。褒められるとは思っていなかった真弘は胸が疼くのがわかった。
その後報告を終えて真弘は自室に戻る。
真弘の胸に去来する感情に我知らず体が震えた。自分が認められたようで嬉しかったことが本音だ。
ここに来て無理やりに隊士に入隊させられ、自分の本意でない部分が多かった。望んで隊士になった訳でもないのに気に食わない隊長の隊に入ったときは嫌気がさしたくらいだ。
だが、悪くない。
真弘は上機嫌で着替え始めた。



一方真弘の心とは裏腹に空模様は芳しくなかった。
先ほどまで晴れ渡っていた空はどこからか現れた黒い雨雲に覆われる。

「やだ、一雨降るのかな?」

広間の掃除を終えて、珠紀は井戸で手を洗っているところだった。急に暗くなり始めた空を見上げて眉を顰める。
振り出す前に部屋に戻ろうと珠紀が足を向けたときだ。
庭の方から声が聞こえた。何となくそちらに足を方向転換して、庭に顔を覗かせる。
洗濯物が埋め尽くす庭を千鶴と拓磨の姿が見て取れた。

「降りだす前に全部取り込まなくちゃ」
「俺も手伝おう」

清掃を終えてからも二人は一緒だったらしい。庭に下りて洗濯物を仲良く取り込み始めた。珠紀の胸の痛みが一層強まった。針で胸を深く突かれたようにひどく痛む。
珠紀がまどかしいと思ったのは洗濯物が邪魔して二人の姿がよく見えないことだ。
だが見なくともわかる。二人の会話が弾んでいること。見え隠れする二人の顔に笑みが浮かんでいること。

「っ…」

見たくない。
そう思った珠紀は背を向けて井戸へと戻る。見なければ良かった。
後悔と痛みが胸に渦巻いて、珠紀は頭を振る。

「千鶴ちゃんと拓磨…そんな、まさかね」

珠紀の呟きは空に虚しく霧散する。井戸の底を覗けば自分の顔が映った。その自分の顔を見つめて珠紀は胸を押さえる。
きっと杞憂に過ぎない。大丈夫。自分は少し心配性なのだ。
そう言い聞かせて珠紀は水面に映る自分に笑いかけた。もっと自分を、拓磨を信じるべきだ。
珠紀は気を取り直して部屋に上がった。
部屋に戻る途中で珠紀は目を瞬く。隊士達が騒がしい。隊服を着てばたばたと何かの準備をしている。

「珠紀」
「原田さん」

広間を覗くと土方と原田、その隣に永倉がいた。

「あれ、永倉さん。今から巡察なんですか?」
「おうよ。ついさっき三条大橋の制札を守護しろって命が下ったところだ。今から晩までちょっくら言ってくるわ」

永倉は刀を腰に提げて颯爽と出て行った。その後姿はやる気に満ちて珠紀は羨望の眼差しを送った。
自分も外に出て何かの役に立ちたい。祐一や慎司の捜索だってしたい。
その眼差しに気付いた原田が肩をすくめる。そして土方に視線を送った。

「珠紀」
「はい」

土方の硬い声音に珠紀は身が引き締まる思いだった。

「原田とともに巡察に出たいらしいな」
「はい」
「回りくどいのは好きじゃねぇ。簡潔に言うが、女の身であるお前が行ったところで足手まといになるだけだ」
「…はい」

土方の言葉は正しい。誰もが刀という凶器を持ち歩く時代だ。いつどんなときに危険に巻き込まれてもおかしくない。
それでも———

「待っているだけは嫌なんです。誰かに守られているばかりも嫌なんです。私は、私にできることを精一杯やりたいんです」

珠紀は真っ直ぐに土方を見つめた。
許可など出ないかもしれない。荷物にしかならい者を外に出して何の得があるともいえない。
土方は珠紀の目を見据えた後厳しい表情を少し和らげた。

「…良いだろう。よく考えればお前は出会ったとき武士相手に打ち負かしたんだ。その力量さえあれば巡察の足手まといにはならねぇだろ」
「ありがとうごさいますっ」

頭を下げる珠紀に土方は呆れたように溜息をついた。

「まったく、どこかの馬鹿とお前は良く似てるよ」
「だな」
「?」

土方と原田が苦笑する訳がわからず、珠紀は小首を傾げた。
ともあれ、許可は下りた。珠紀はもう一度頭を下げて広を後にする。上機嫌で部屋に戻ろうとしたところで、拓磨と鉢合わせした。

「拓磨…」
「さっき広間で何を話してたんだ?巡察がどうとか言ってたが…」
「別に。拓磨には関係ないよ」

しまった、と珠紀は内心後悔した。だがもう遅い。拓磨の顔が曇る。

「それより、千鶴ちゃんはもういいの?」
「は?何で千鶴の話になるんだよ」

拓磨の表情が険しさを帯びる。だが珠紀も引き下がらず、拓磨を睨んだ。

「楽しそうに洗濯物取り込んでたでしょ」
「それとこれとは話が別だろう。いきなり何言い出すんだよ」
「別じゃない!その前だって二人で廊下歩いてじゃない」
「…じゃぁ俺も言わせてもらうけど、お前だって原田って奴と随分仲良くしてるみたいだな」
「何言ってるの拓磨?原田さんは普通だよ。ってかそんな目で見てたの?」

二人の視線がぶつかり合う。火花が散りそうな空気が重い。

「信用されてないんだね、私」
「どっちが」

拓磨が呆れたように言い捨てた。その態度に珠紀は目を見開く。

「千鶴は関係ない。隠し事するお前にとやかく言われたくないな」

追い討ちをかけるように重ねられた言葉に珠紀は今度こそ、自分のなかの何かが瓦解していくのを感じた。
目の前が暗くなる。天候のせいではない。
珠紀は軋む胸を押さえて声を振り絞った。

「…そう。じゃぁずっと千鶴ちゃんの傍に居ればいいでしょ!!」
「おい、珠紀っ」

珠紀はそのまま駆け出した。

Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.53 )
日時: 2013/03/13 22:44
名前: さくら (ID: MmCaxbRG)

珠紀は無我夢中で走った。
馬鹿、馬鹿、馬鹿———私の馬鹿…ッ
意地を張らなければ良かった。素直になれば良かった。
後悔だけが胸を占めて胸が苦しい。肺が悲鳴を上げる。四肢が限界を迎えたところで足を止めた。ふと周りを見れば屯所を抜け、知らない場所まで来ていた。

「ここ…どこかだろう…」

息を整えて自分がやってきた後ろを振り返った。
誰も追ってくる気配はない。拓磨が追いかけて来てくれるのではないかと期待した珠紀は更に胸が軋んだ。

「…やだ、もう…自分が嫌になる…」

その場にへたりこんで、珠紀は溢れる涙を零した。
それに同調するかのようにどんよりと曇った空から冷たい雨が降り出す。
最初は細い雨だったが、次第に雨粒は大きくなり地面を叩きつけるほどの豪雨となった。
体温が次第に奪われていく。冷え切った指先で何度も涙を拭って、珠紀は視線をさ迷わせた。
どれだけ目を凝らしても激しい雨のせいで視界が悪い。それでも懸命に見渡す。
建物は近くの民家だけ。人の姿は見当たらない。この雨で皆家屋の中に非難しているのだろう。近くで川の水量が増水しているらしい。激しい水音が聞こえた。その川の上に橋が架かっている。
その橋を渡ってきたことを何とか思い出して、珠紀はよろよろと立ち上がった。橋に向かって歩く。

「戻らなくちゃ…」

こんなところに居ては皆が心配する。自分の軽率な行動に反省しながら、とぼとぼと橋を歩いた。
戻りたくないと思う反面、足を叱責して歩く。こんな子供染みたことをして何になる。
珠紀が橋の半ばまで歩いたところで、突然頭に激しい痛みが走った。
じんじんと頭痛の波紋を広げ、珠紀は痛みに耐えかねて橋の香蘭に寄りかかった。

「っ…!!封印…っ?」

頭痛が警鐘のように何かを訴えてかける。その鈍い痛みには覚えがある。何もこんなときに。珠紀はその場に座り込む。頭痛が激しくて立っていることもままならない。
どくどくと心臓が早鐘を打つ。体は冷え切っているというのに汗が噴出し、頭痛の波紋は全身にめぐる。そして突如全身を裂かれたような比べものにならない激痛が走った。
知っている。この感覚は———

「封印が…封具がっ…!!」

ひとつの封具が何者かに破られた。体中が痛みを訴える。鬼斬丸を封じる封印具が奪取された。珠紀は力を込めて立ち上がる。どうにかしないと。
だが、足は思ったように動いてくれない。香蘭に寄りかかりながら歩こうとしてみるが、上手くいかない。珠紀は歯噛みした。
焦燥と相まって思うようにいかない。封具が破られた方向を睨む。
行かなくては。そう思って一歩踏み出したときに均衡を崩してその場に倒れこんだ。

「…っ」

情けない。拓磨に焼餅など焼いて、勢いで飛び出してきてこのざまだ。自分だけでは何もできない。出来ないどころかこうして誰かの救いを願う始末だ。自分が嫌になる。
その時だった。
激しい豪雨の音で聞こえなかったが、ひとつの足音が近づいてきた。

「拓、磨…?」

何とか顔を上げた珠紀は雨で霞む視界でも、それは拓磨ではないとすぐにわかった。
漆黒の羽織に白の長着。高貴そうな威厳を放つ男の腰には刀と脇差が提げられている。番傘を片手に首には飾りをつけ、驚いたのはその髪の色だ。薄く茶色がかった短髪が揺れる。そして赤い瞳と目が合った。

「あ…」

怖い。
本能が叫んでいる。玉依姫の血がざわめいた。これは危険だ、と。
だが体が思うように動かない珠紀にはどうすることもできず、ただその人を見上げた。

「女がこんなところで何をしている」

男装をして姿を偽っているにも関わらず、その男は珠紀を女だと見破った。低い声音に何の感情も感じられず、珠紀は硬直する。
怖い。恐い。こわい。
恐怖が全身を金縛る。赤い瞳から視線を逸らせずに珠紀は震えた。

「ふん…怯えているのか」

男が嘲笑って珠紀の前で膝を屈めた。雨で見えなかった男の顔が近づく。
綺麗に整った顔立ちはさらに恐怖を与えた。珠紀はどうすることもできずに男を見つめる。

「…変わった気配をしているな……お前、何者だ?」
「ぁ…わ、たし…は…」

珠紀を凝視して眉を顰める男に珠紀は慄く。体が冷え切っているせいか恐怖のせいか、珠紀は上手く喋れなかった。
ふっと男が手を伸ばす。
珠紀は咄嗟に目を瞑った。くっと顎を持ち上げられ、顔をまじまじと一瞥される。

「鬼の類でも妖の類でもないようだな…いやもっと崇高な…神気すら感じる…」

鼻が触れ合ってしまうのではないかと思うほど男は顔を近づけ、珠紀を見つめる。
どうしよう。拓磨、拓磨、恐い。助けて。

「そう怯えずとも良い。何も取って喰おうなどと思ってはおらん」

男は珠紀の怯える顔を見て満足したのかその手を離した。

「先が楽しみだな。体は若干貧相だが…それもまた良いのかも知れん」

いきなり体を値踏みされて、珠紀は遠のきかけていた意識を引き戻した。雨に塗れて着物が肌に張り付いて体の線が丸見えだ。
珠紀は咄嗟に両手で体を覆う。

「ふっ…おもしろい、気に入った。女、この京に住んでいるのか」

率直に尋ねれらて珠紀は縦に頷いた。

「ならばいずれまた会おう。俺は先を急いでいるのでな…」

男は持っていた番傘を珠紀に渡す。

「ぇ…ぁ…」

戸惑う珠紀を置き去りに、男は立ち上がってそのまま橋を渡って行った。
男の姿が見えなくなるまで見送っていた珠紀は番傘を見つめる。一体何者だったのだろうか。

「珠紀ーっ」
「珠紀ちゃん、どこー!?」

複数の足音と声が雨音に混じって聞こえた。珠紀は顔を上げて安堵した。

「珠紀っ!!」

一番に駆け寄ってきた拓磨は珠紀を見つけると駆け寄って抱きしめた。持っていた番傘を落として珠紀は大きな温もりに安心する。傘も持たず追いかけてきたらしい。拓磨も全身ずぶ濡れだった。

「馬鹿っ!心配させやがって…っ」
「拓磨…ごめん、ごめんね…」

珠紀は拓磨の背中に手を回してほっと溜息をついた。恐かった。勝手に飛び出してごめんね。言いたいことは山ほどあった。だが緊張の糸が切れた上に封印の破壊の威力が体に負担となっていた珠紀は、気を失った。

「珠紀…?珠紀っ、おい!!」
「見つかったのか?」

ともに捜索に出ていた真弘と千鶴は珠紀を見止めて安堵した。だが、失神した珠紀を目の当たりにして血相を変える。

「封具が破られたからか…」
「かもしれない…とにかく屯所に」

千鶴はそのときに橋に落ちている番傘を見つけて、首を傾げた。珠紀は屯所を飛び出したときに持って行ったのだろうか。だが彼女を見れば全身が雨で濡れている。
首を傾げながら拓磨達の後に続いて屯所に戻った。

Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.54 )
日時: 2013/03/15 20:14
名前: さくら (ID: MmCaxbRG)

「何ですか、その格好は」

主を出迎えた天霧は目を細めた。
外はどしゃ降りの雨だ。多少の小雨ならば傘は必要ないかもしれないが、この豪雨のなかを傘なしで出歩こうとは考えない。ずぶ濡れになった主に胡乱気な視線を送る。
外から帰ってきた風間は説明するのも面倒だと言わんばかりに天霧を睨んだ。

「向こうを出るときは雨が降っていなかったのだ」
「どこへ行かれたのかは聞きませんが、あまりふらふらと外出なさらないで下さい」
「俺がどこへ行こうと俺の勝手だ」

風間は天霧の小言を半ば無視して玄関を上がる。

「お待ちを。その体で部屋に上がらないで下さい。風呂が丁度沸いています。風邪を引く前にそちらで体を温めて下さい」

風間を引き止める天霧を一瞬睨んでから、舌打ちをして踵を返す。

「鬼は風邪な引かん。お前もそうだろう」
「体が冷え切っていることは事実でしょう」

風呂場に着くと風間の羽織を脱がしてやる。水を含んだ着物は肌に張り付いて脱ぎづらい。
風間の着物を回収して洗濯桶に持っていこうとしたとき、微かだが血の臭いを着物から臭った。風呂に入った主の背を振り返って目を細める。

「またあの方は…」

ぼやきながら主の着物を片付けに行く。
風呂から上がれば食事か酒を所望するに違いない。天霧は厨に立ちその準備にとりかかる。
簡単な軽食と酒を温め熱燗を用意した。丁度良く風呂から上がった風間が居間に現れる。

「酒だ、天霧」
「ここに」

桶に湯を張って温めていた酒を風間の膳に置いてやる。杯にそれを注いで一気に呷った風間はふっと息をついた。

「今日は誰を斬ったのですか」
「…何のことだ」

風間は用意されているつまみを口に運びながら知らん顔をした。

「着物から血の臭いがしました。また貴方は…無駄な殺生は控えて下さいとあれほど…」
「無駄ではない。絡んできた浪士に灸を添えただけだ」
「全く…」

あっけらかんと言いのける風間に天霧は呆れ返った。誰彼構わず見境がないことには少し考え直してもらいたいものだ。だが、風間にそんなことをいくら説いても理解しないだろう。相手が誰であろうと牙を剥かれれば刀を抜く。それが風間の性分だ。

「そんな話はどうでもいい。例の話はどうなった」
「は。不知火達は無事にあちらに到着した模様です」
「それで?」
「そこから先のことはまだ報告を受けていませんので…」

酒を口に含んで風間は目を細める。

「確か封具とやらを破壊して、あれを開放するという算段だったな。あの男の話が本当であれば、だが」
「今は彼を信じてみましょう。不知火もついています」
「ふん…不知火もどこまで信用できるかは定かではないがな…」

風間は鼻で一笑すると立ち上がって目の前の障子を開けた。客間になるその部屋の奥に設置された刀掛まで足を進める。そして鞘に収まる一振りに手を伸ばした。

「…何だ」

刀が波打っている。否、鼓動を刻むように動いている。手にした瞬間から僅かながら禍々しい気が這い上がってくるようだった。

「風間?」
「ふっ…枷がひとつ外れたようだ」

刀の柄を掴み、抜刀しようと試みるがやはりびくともしない。まだ封印が完全に解けていないようだ。
一振りを刀掛に戻す。

「おもしろい…俺に相応しい刀のようだ…」

外は桶の水をひっくり返したようにどじゃ降りだ。おまけと言わんばかりに暗雲を切り裂くように雷鳴が轟く。雷光は世界を白光させ瞬時に轟音を響かせる。
風間は視線を外に投じた。開け放たれた障子の向こうには群雲と山が連なっている。

「さて…では俺は気長に待つとしよう…狗谷よ…」





紅葉の時期は過ぎ、木々に色づいていた木の葉が雨のように降っている。仰げば青空が見えた。森のなかにぽっかりと開いた空間に二人はいた。

「ったく…風間の野郎、俺は暇じゃねぇんだぞ」

不知火は毒づきながら目の前にそびえる大樹を見上げた。
後から歩いて来た遼も同じく顔を上げる。
神聖な空気は森と一体となり、荘厳に聳え立つ大樹は接近を拒んでいるかのようにも見える。

「これが封具ってやつか?」
「あぁ。正確にはあの大樹のなかに封具がある」
「なるほど。じゃぁそれを奪っちまえばいんだなっ」

不知火は腰に提げていた銃を抜くと大樹に向けて発砲した。
轟音が森に木霊する。大樹を見つめる不知火は舌打ちした。

「物理的な攻撃は効かないようになっている」

見れば銃弾は大樹の根に転がっていた。驚いたのは大樹に傷すらついていないことだ。まるで何かの膜に守られているようにも見えた。
遼はその大樹に歩み寄った。ざわざわと森が騒ぐ。
大樹にそっと触れるとばりばりと火花を散らした。遼は構わず樹皮に手を押し当ててゆっくりと進入していく。遼の腕を拒むかのように閃光が走り、火花を散らすが構わず進入していくとその反応もなくなった。

「何だ?」

何かが消えたような。目に見得ない膜が崩れていくようだった。
遼は大樹からそっと腕を抜いた。その手には腕輪があった。

「それが封具ってやつか?そんなもんには見えねぇな」
「五つのうちのまだ一つ目に過ぎん。次に行くぞ」

遼の冷たい態度に若干苛立ちを覚えながらも不知火は気を取り直した。
大嫌いな風間の命を受けたときは声を上げた。何せこんな辺鄙な場所まで行って封印具を破壊しろと言うのだ。
話が全然読めなかった不知火はさらに驚く。目の前を歩く青年とともに行けというのだ。

「ったく、久しぶりに呼ばれて行けばろくでもないこと言いつけやがる…」

不知火は嘆息してとりあえず足を進める。
同族としてときに組むことはあるが、それは利潤が一致したときだけに限る。それ以外は身を置く藩も違うため、会うことは少ない。

「これじゃただの使い走りじゃねぇか」
「しっ」

ぼやく不知火に足を止めて遼は囁いた。何かを感じ取っているようで遼は微動だにしない。
聞こえるのは森の梢と風の音。見えるのは雨のように降る落ち葉。二人以外誰もいない。

「おい、何だ———」
「封具を返して貰おうか」

後ろを振り返れば紅葉に負けないほどの髪をした青年だった。白い羽織をはためかせ二人を鋭い眼光で睨み据える。

「あ?てめぇどっから来やがった」
「それはこちらの台詞。よくも封具を…っ」

青年は一瞬身を屈めると地を蹴った。空高く跳躍すると遼目掛けて拳を握る。遼はあっさりとそれをかわして後退した。

「それが何かわかっているのか。黙ってそれを返せ!」
「どうかな。俺から力ずくで奪ってみろよ」
「後悔させてやるっ…!!」

青年は片腕を天に向けると、爪が黒く尖り腕の皮膚は変色し硬い手甲のように変貌した。
目は黄色に変わり、遼を睨む。

「お前、鬼か」
「何、鬼!?」

不知火は目を剥いた。自分たち以外に同族がいたなど聞いたことがなかったからだ。ひっそりと暮らしてきた鬼か。だが、不知火はその考えを否定した。
その青年からは風間とはまた違う威厳と格式を感じたからだ。神々しいというのが不知火の感じた気配だ。
自分たちとは違う。古き鬼。

「冥府に逝く前にそれを返せっ!!!」

青年は瞬時に遼と間合いを詰めて拳を振る。遼は繰り出される拳をかわしていると、木の根に足を取られた。隙を見出した青年は腕を振り上げ力を込めて一発見舞った。

「っ…だから鬼は嫌いだ…!」
「お前っ…」

青年は目を見張った。
青年の一撃を両腕で受け止めた遼は顔を顰めた。爪が鋭く伸び、目は黄金色に変わる。
遼の姿に驚愕する青年は首を振った。

「違う…犬戒家は最近跡継ぎが生まれたばかりだ…守護者であるはずがない…だが、お前は…お前から犬の気配がする…」
「ふん…俺のご先祖はまだ継いでいないのか…俺は狗谷遼。先の世から来た」

Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.55 )
日時: 2013/03/15 20:20
名前: さくら (ID: MmCaxbRG)

「先の世、だと…?」

青年———拓魅は眉を顰めた。目の前に立つ遼を呆然と見つめる。

「もしや…璞玉が呼んだというのか…?」
「何ごちゃごちゃ言ってやがる!相手は一人じゃねぇんだぜっ」

銃声が森のなかに木霊する。拓魅は不知火の殺気に気付いて変貌した片腕で銃弾を振り払った。

「ちっ…何で効かねぇんだよ。だが———」

不知火はもう一丁腰に提げていた銃を持ち、両手に銃を構えた。
そして片手の銃は剛腕に見舞い、もう片方の銃は拓魅の足を狙う。

「っ…!!」

腕目掛けて先に発砲された銃弾に気を取られて、同時に狙われた足に遅れを取ってしまった。銃弾は拓魅の足首あたりをかすり、その間に不知火と遼は森の奥へと身を翻す。

「おい、あいつは一体何なんだ!何でいきなり襲ってきやがる!」
「あいつはこの封具と鬼斬丸を代々守ってきた守護者だ。封具を奪おうものなら必ず妨害してくるだろうな」

不知火と遼は森を駆け抜けながら、次の封印域を目指す。
他人事のように言う遼の口ぶりに不知火は苛立ちを覚えた。

「はぁ!?そんな話聞いてねぇぞっ」
「言っていないからな」
「このっ…!まぁいい…とにかくさっさと終わらせて帰るぞっ」

何も話を聞かされていない不知火は苛立ちが積もる。
風間からは遼とともに行動しろと言われただけで、行動内容や意向など全く聞かされていない。否、聞こうとしなかった自分にも責任があるのだろうが、あまりにも無口な遼と話すなど気疲れがしてそんな気にもなれなかったのだ。

「その守護者とやらはまだ出てくるのか?」
「この時代にどの守護者がいるかなど俺が知るか」

やはり馬が合わない。不知火は確信した。遼とは気性も性格も違う。まず遼のこの態度が気に食わない不知火は銃口を今にも向けてしまいそうになる。
しばらく鬱蒼と生い茂る森を抜けていると不穏な気配を感じて遼は足を止めた。不知火もそれにならって足を止める。
そして周囲に視線を散らして舌打ちした。

「今度は何だ」
「囲まれたか…面倒くせぇ」

不知火も周囲を見渡して、目を細めた。まだ夕刻ではないというのに森が急に暗くなる。ざわざわと何か禍々しいものが近づいて来た。

「おい、今度はどうしたんだ」
「封印を解いたから妖やカミが騒ぎ始めたんだ…いちいち説明させるなよ」
「妖だぁ!?ここは一体何だってんだ!!」

じわじわと二人を囲んで近寄ってくる。よく見れば薄汚いなりをした翁のようなものや、子供の背丈ほどのトカゲが牙を剥いてにじり寄ってきた。

「相手にしていたらキリがない。突っ走るぞ」
「あ?おい———」

遼は地を蹴って妖たちを乗り越えるとそのまま森を突っ切る。その後を不知火も追いかけた。

「ったく、何なんだあいつは…」

自分達のような種族ではないことは確かだが、飛びぬけた瞬発力、洞察力に加え臭覚も備わっているように見えた。
人の血に何かが混じっている。否、混じっているようでそうでないような———不知火は考えることをそこで止めた。遼を追いかけているとまた開けた場所に出た。

「どうした、次の封印域に着いたのか———」

問いかけても遼は前を向いたまま黙っている。不知火は不審に思いながら遼の視線の先を追った。
森の中にぽっかりと開けたその場所は広かった。その中心に小さな社を発見する。あれが次の封具か。と不知火が思ったときに、その社の背後から小さな人影を見止めた。

「よくも森の中を暴れ回って下さいましたね。先日鬼斬丸を奪って行かれた鬼ですか?」

小さな影は白い長着に朱袴を着た少女だった。少女は二人の前に立ちふさがり、まるで後ろの社を守っているようにも見える。

「違うが、それと似たようなものだ」
「鬼斬丸を封じる封印具を知っている方がよもやそちら側にいらっしゃるとは思いませんでした。封具を奪われていないからと油断していましたね」

少女は幼い外見からはかけ離れた大人の口調で淡々と語る。少女の言葉が遼に向けられているとわかった不知火は黙って成り行きを見守ることにした。

「犬戒の者よ。私はどうやら貴方までここに呼んでしまったようですね」
「やっぱり…お前がここに呼んだのか…玉依姫…っ!」

少女は遼の問いに答える代わりににっこりと微笑んだ。

「正確にはそちらの時代の玉依姫だけをお呼びしたつもりだったのですが…どうやら手違いがあったようですわね」

二人の会話に全くついていけない不知火は首を傾げることしかできない。

「では尚のこと。守護者である貴方がどうして封具を狙うのですか?そんなことをすればどうなるかくらい貴方は知っているはずではありませんか?」

少女の問いに遼は答えない。黙したまま少女を睨み据える。

「気でも触れたか…愚かな」

先ほどの青年、拓魅が森から姿を現した。そのまま少女、璞玉の傍に駆け寄る。

「鬼斬丸はこの世に災いしか呼びません。封具をどうしても奪うというのなら私がお相手いたしましょう」

璞玉は両手を広げる。すると少女の体から黄金の光が溢れ、火の玉のように彼女の周りを回り、徐々にその光の玉は大きく弧を描きながら宙にたゆたう。その光の数は徐々に増え、彼女の背後の空に黄金に光る魔法陣のようなものができあがった。

「容赦はしません。大人しく封具をお返しなさい」

璞玉が手を遼に向けて振ると陣円から無数の雷鳴が発生し、遼目掛けて閃光を散らした。
遼は瞬時に跳躍してそれをかわし、璞玉目掛けて間合いを詰める。爪を立て璞玉に掴みかかろうとした遼だったが、彼女が目配せしただけで魔法陣から光が溢れ遼の前に防壁を作り出した。
光の防壁に弾き返された遼は歯噛みした。

「守護者である貴方が玉依姫に逆らえるはずがありません。守護者とは本来玉依の力を借りてこそ力を発揮できるもの。今の貴方では私に勝つことなど到底できません。さぁ、封具を返しなさい」
「だったら俺はどうだっ!!」

不知火が高く飛び上がり璞玉に発砲した。だがそれもまた陣円が作り出す防壁に阻まれる。

「ちっ…またか…」
「鬼よ。貴方もあの鬼の仲間ですか?」

拓魅が素早く駆けて不知火に殴りかかる。顔面に拓魅の拳を受けた不知火はもんどりうって地面に転がった。身を起こして不知火は驚愕する。

「何だ今の馬鹿強い力は…何だその格好は…」

拓魅の姿に不知火は我知らず笑みがこぼれた。玉依の力を受けて拓魅は額から角を生やし、体には模様を浮かびあがらせ、黄金の瞳で不知火を悠然と睨んでいる。

「お前も鬼のようだが、銃を撃つだけしか能がないのか」

拓魅の言葉にぴくりと眉を動かし、不知火はゆらりと立ち上がった。

「あぁん?人間の血が混ざったお前が…俺を馬鹿にすんのか」

不知火は銃を両手に構え焦点を目の前の拓魅に絞る。そして二丁が一斉に火を噴いた。
拓魅は弾道と不知火の目線を見極めて全てをかわす。だが、不知火も素早く身をこなす拓魅の動きを先読みして打ち放った。

「っち…」

両銃が弾切れになった不知火のその隙を突いた。拓魅の拳が不知火の胴に命中する。続けざまに背を屈める不知火に後頭部を両手で拳をつくって地面に叩き落した。

「かっ…!!」

地面に伏した不知火はぴくりとも動かない。それを眼下に見て拓魅は背を向けて璞玉の元に戻ろうとした。

「甘いな…」

ゆらりと立ち上がった不知火は銃を装てんする。

「無理はよせ。俺の拳をまともにくらったんだ。そう簡単に———」
「舐めんじゃねぇぞ、くそが———っ!!」

ゆらりと体を揺らしたかと思うと不知火の姿が消えた。拓魅が次に瞬いたときには眼前まで不知火の銃口が迫っていた。

「っ!?」
「純潔の血とお前とじゃ格が違うんだよ———」

一発の銃声が奥深い森に響いた。

Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.56 )
日時: 2013/03/15 19:01
名前: 通りすがり (ID: 4qcwcNq5)

あの・・・気を悪くしてしまったらすみません(汗)
遼の名前は『狗谷遼』ですが、これは養子に出された際の名前なので実際は違うと思います
遼の本当の血筋は『犬戒』なので『狗の気配』はおかしいんじゃないでしょうか(汗)

こんなふうに今回否定(?)みたいに言ってしまいましたが、さくら様のこのお話は大好きです!!!
嘘偽りなく!!!
なので本当に気分を害されてしまったら本当に御免なさい(汗)

投身自殺して来ます!!!!!!!!


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