複雑・ファジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- Love Call
- 日時: 2012/01/24 17:36
- 名前: 葬儀屋 (ID: cX9VSRxU)
- 参照: http://ameblo.jp/686-7777/image-11014716005-11476432890.html
↑王翔さんに翡翠ちゃん描いてもらいました! 参照よりどうぞ。
葬儀屋です、初めまして。
私は初心者&センス全くないです。あくまでも趣味でやっているので、ド素人の文章が苦手な方は今すぐ戻ってください。
更新も一週間に一回程度です。
「こんな小説、意味分からねぇしw」「荒らしちゃお〜っとw」「センスないしw」と思われる方は、見ないようにしてください。
前置きはこれほどで。どうぞ、お願いします。
コメントなどを挟まずに読み物だけを読まれたい方は、下の方から読んでいただけるとスムーズだと思います。
◆読み物◆
〜短編〜
「Love call」
××× >>1
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月曜日 >>8
木曜日 >>9
火曜日 >>10
××× >>11
××× >>12
「ゆるい手錠と誘拐犯の花束と」
>>120
>>121
>>124
>>127
>>128
>>131
>>132
「クリスマス」
>>135
>>136
>>139
〜長編〜
「残り香」
>>13 >>29
>>14 >>30
>>15 >>31
>>16 >>34
>>17 >>35
>>18 >>36
>>19 >>39
>>20 >>44
>>21 >>45
>>24
>>25
>>28
「ネクロフィリアの足跡」
>>48 >>80
>>51 >>85
>>56 >>86
>>58 >>89
>>61 >>92
>>62 >>95
>>68 >>96
>>69 >>97
>>72 >>100
>>77 >>105
>>110
〜短い物語(詩)〜
「コーチョーセンセー」
>>57
☆お客様☆
・春野花様
・ヴィオラ様
・赤時計様
・まろん様
・はとまめ様
- Re: Love Call ( No.139 )
- 日時: 2012/01/05 23:25
- 名前: 葬儀屋 (ID: cX9VSRxU)
おはようおはよう!? まだおねむなの? 大人はそれだけ寝なくても済むんじゃないの!? ねぇねぇ遊んで。遊んでよ。
先生?
身体を起こすと、朝霧が隣で微笑んでいた。
「せんせーチョコレートケーキでよかったぁ? あ、えっとね、ローソク五十本もらってきたよ!」
「馬鹿。二十四で足りるんだよ……あぁ、花狩。大丈夫か。だいぶうなされていたが」
額をなぞると汗がにじみ出ていた。息も切れて、肺が痛い。
「……っわたし……は……!?」
「あぁ、さっき寝て、起きそうもなかったから朝霧とお前の誕生日用のケーキ買って来た。もう買う買うって五月蝿くてよ。まだ寝ておけ。熱が下がってない」
押し倒され、再びベッドに横になった。
まだ、状況がつかめていない。私は死んだはずだ。それともあれは、姉原の言うように、私が寝ている間見ていた夢だったのか。
夢にしては……鮮明すぎた。
「ねぇ、今日ね、教会でろうそくたくさんつけるんだって。見に行っても良い?」
「駄目。夜は一層冷える。さっきも夕飯食べて吐いただろうがお前」
「うぅ……ケチ!」
「お前も気、遣え。花狩は熱で動けないんだから無理させるな。分かったな」
「姉原のばーか。それくらいわかってるもん……」
「馬鹿言うな馬鹿。馬鹿っていう方が馬鹿だ馬鹿!」
「姉原も言ったー! 馬鹿言ったー!」
……夢だったのか。
二人の会話に噴き出した私は、そう考えるようにして、台所へと手探りで進んでいった。動揺する姉原の手から食器を受け取り、刺さるような水へと手をつける。
冷水が心地よいほど、身体がほてっていた。家事は好きな方なので、苦に思ったことはない。袖を上げ、眼鏡に触れてから、スポンジをとり、食器を洗うことに専念した。
みんなが笑ってくれればいい。楽しく会話して、心の傷をいやして、いつか、本当の家族のもとに戻って、本当の愛の中、育ってくれればいい。それだけでいい。
ただ、それが続いてくれればいい。
「…………はぁ」
ゆっくりと息を吐き出す。食器を洗い終え、袖を伸ばしてずり落ちた眼鏡を持ちあげる。視界も、先ほどよりクリアになった気がした。
「終わった? 早く手、拭いてこっち来い。今日はたくさん食べてもらうぞ。ケーキ二個分、明日までに食べてしまう予定だから」
台所をのぞいた姉原に相槌を返し、リビングへと向かうと、朝霧はすでに椅子に座っていた。脚の高い椅子で両足を揺らしている。
「せんせー、どっち好き? 僕ね、ショートケーキが好きかな。姉原のケーキね、すごくおいしいんだよ」
「そう、ですか」
私を隣に座らせると、朝霧は満足げに笑い、二つのケーキを見せる。
ショートケーキと、チョコレートケーキ。
トラウマに近い組み合わせ。一気に視界が霞んでいく。頭をおさえ、机に突っ伏した私に、朝霧が表情を崩さないまま、言葉を変える。
「……そろそろ、起きても良いころじゃないかな」
「………朝霧さん……?」
冷たく突き刺さるような声に、私は思わず身を引いた。
「……これはね。全部全部、幻。君が見たいって言うから、僕が作ってあげた夢。感謝してよ。結構、気持ち悪かったんだから」
視界はさらに霞んでいく。遠くで姉原の悲鳴のような声を聞いた。
「甘ったるいね、こんな戯言。意味分からないよ君。精神年齢が幼すぎる」
全てが闇に包まれ、私は瞳を閉じた。体中がしびれているような感覚に陥り、唯、朝霧の冷たい声だけが、響いていた。
「人を殺した時から、君は何も変わってないね。それは仕方ないかもしれないけど。前に進もうとしてない。そんな勇気もないヘタレ君。
お姉さんが怖い? 幽霊になって自分に憑いて、気を狂わされるんじゃないかって。そんなの考えなくても良いよ。君のお姉さんは君のことなんか忘れちゃって、楽しく暮らしてるんだから」
瞳を開くと、交差点だった。
其処には、冷たくなった私の死体と、血で服が赤くなりながら私の身体に泣き縋る朝霧の姿だあった。
「これが現実。君は死んで、あの子は心に傷を負って。この後の展開、教えてあげようか?
この子は脳に後遺症を受けて家族のことも忘れちゃう。覚えているのは優しかった先生の残り香と姉原って言うさっきの人だけ。勉強もできなくなって学校には行けなくなる。君の残像を追いかける気違い人。何度も何度も生死をさまよって苦しんで苦しんで自殺を選ぶんだ。優しさにも触れることなく、死んでいく。
君の名前を、呼びながら」
視界が揺れる。私は、朝霧に近づき、朝霧の名前を叫ぶ。蹲る朝霧の背中を抱きしめようと手を伸ばす。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
抱きしめるも、朝霧は気付かない。唯、死んだ私の身体の傍らで蹲り、泣くだけだった。
「最後に……君の願いごと、叶えてあげるよ」
背後から、そう問いかけてくる声。振り返ると、朝霧によく似た、少年が微笑んでいた。
「LoveCallの力で、あの子に、君の声。届けてあげる」
街はクリスマスムード一色で、何処からともなくベルの音とクリスマスソングが流れている。
白ひげのサンタににらみを利かせていた翡翠は、淡い匂いに気がつき、周囲を見渡した。
——……私と同じ香水の匂いだね——
こんな安っぽい香水を買うのはそれはたくさんいると思うが、やはり親近感がわくと言うものだ。その残り香を追い、街を走った。
匂いは四方に飛び、ゆったりと周囲に漂っている。これだけ広範囲を移動するのだから、子供か? それとも……。
「……久しぶりの、お客さんだね」
翡翠は、目の前の意思に向かって、微笑みかけた。
「君の最後の後悔を、私に聞かせてくれるかな」
クリスマスの夜。
彼と出会ったのは、ろうそくがきらめく、教会の前だった。
——私の後悔は……——
——守れもしない約束を、心から望んでしまったことです——
- Re: Love Call ( No.140 )
- 日時: 2012/01/22 20:19
- 名前: 葬儀屋 (ID: cX9VSRxU)
- 参照: http://恐らくこれで最終回。
全部、気持ち悪いものばかりで。
僕に悪態をつきながら死んでいった奴ら。これは、君が望んだことなのに。僕は君がみたいと思ったものを見せただけなのに。
人生の最後に、愛しい人の声を聞けて、幸せだろ?
その幸せに偽りがあるのなら、用はない。
君は、死んで当然だったっていうことだ。
「蜜」
「畜生! 待ちやがれこのショタぁ!」
虫取りを振り回す一人のシスター。言葉遣いが荒い。
「待てって言われて待つ馬鹿は幽霊でも電話でもいないよ、シスターさん☆」
それでその虫取り網をよけながらショタと叫ばれたのが僕。Love Call。普通、死に際の人間にしか存在すら分からない僕が何故こんな元気はつらつの彼女に存在が分かるかというと。
彼女に、心臓がないからなんだ。
「兆! 走り回るな埃が舞う!」
「神父〜! アイツがまた私のことおちょくるんだよー!」
「だからと言って夕食の間に走り回る馬鹿がどこにいるか!」
「やーい怒られたぁ」
「ほらぁ! 神父も聞こえてないだけで色々文句言われてるんだから怒ってよぉ」
面倒くさそうにブロンドの髪をかきあげる神父服の男はギルバート。神父と名乗ってはいるがヘビースモーキングで酒飲みの堕落者。ちなみにこれにも僕は見える。ただ、見えるだけだが。
「フィン。やめてやれ」
「えー……僕、つまんな「やめろ、ガキが」
フィンはギルバートだけが僕を呼ぶ時に使う名前。白いという意味があるらしい。確かに見た目は白いし、初めて見たときは「天使の子スプレをやっている夢うつつのガキ」と呼ばれたほどだったが。
彼は左腕がない。そのくせ、料理がうまい。
「もー……気になるよあれ。追っ払ってよ偽エクソシスト」
「偽と言っている時点で俺に期待するな口悪シスター。早く夕飯食って寝ろ。五月蝿い」
「僕も食べたい。ねぇなんで僕の分用意してないの」
「貴様がいつ私の家族になった。唯の通りすがりでしょ君は」
兆は夕飯を食べながら僕を睨みつける。とはいっても、兆に僕は見えない。声だけが聞こえる。
「俺はお前から夕飯を用意しろと頼まれた覚えはない。だからこの先一生作らん」
「口パクで分かるでしょ!? た・べ・た・いぃ!」
「はいはい、お腹いっぱいだって? だったら全部片付けていいな」
ギルバートは器用に皿を重ねて右腕に乗せると、台所へ向かった。
ギルバートに僕の声は届かない。姿だけが見える。触れることもできるからどっちかって言うとギルバートをいっぱいいじめている。
此処までの話でさて問題。僕のことを死人以外にどんな人が見たり聞いたり感じたりできるでしょうか。
はい、正解は……身体のどこかが欠けている人。
機能が停止していても身体にくっついてる人には見えないらしい。切断されて、その傷跡が残っている人。それで心の奥底にその傷を隠し、お面をかぶってから元気をアピールしている人。
この二人はまさに、ぴったりだったらしい。
まぁ今まででも例外はいた。僕がこの人の前に現れたいとかそう願った人。一度は本当に愛してくれた人もいた。死んじゃったけど。
「ざまぁ。あ、そうだそうだ。ギル、この頃この辺で通り魔あってるってさっき警察の人が来て言ってたよ? 気をつけよう、て」
「あーあの快楽殺人犯のグループだろ? 分かってる。こっちにはフィンがいるから無敵だろ?」
「僕、未来予想できないよ」
「死ぬことはないでしょ? 君は人間の死期を知っているんだろうし」
確かに知ることはできる。僕が食事をしたいと思った時だけだが。
「だからと言って助けるわけじゃないし」
「私たちを助けないと居候先が見つかんなくなって、そのすっごーい怖いマニュアル屋さんって人んとこに行かなきゃいけなくなるくせに?」
「……っうぅ。兆イジワル! シスターのくせにイジワルした! ギル、なんか怒って!」
「バーカバーカ。ギルにオメェの声は聞こえねぇんダよ。アホ!」
勝ち誇ったように椅子へとふんぞり返る兆。僕は頬を膨らませて不服をアピールするが、ギルバートは無視。
どうせ……この家に僕の味方はいないんだよ!
夜中。明かりをたどって食堂に行くと、兆が手を組んで、マリア像を見上げていた。
「……なに? 今更お祈りしてるの」
「な、今更とはなんだよ。私にだってお願い事があるんだから……」
一心不乱にぶつぶつと呟く兆しだが、ふと顔を上げ、ぽつりとつぶやいた。
「どうしたの……また、夢見ちゃったの?」
「…………うん」
兆に、僕の姿は見えない。僕は、目じりにたまった涙を拭いた。
「大丈夫だよ……慣れたから」
「……声、震えてる。おいで。寒いでしょ?」
僕がいるところと反対方向に手を差し伸べる兆。可愛いと言えば可愛いけど。悲しくなる。
「僕は……こっちだもん」
そんな兆の背中に抱きつくと、兆は優しく微笑み、見えないはずの僕の髪を撫でる。
「……ヘタレが」「これが巷では人気なんだもん」「ショタが」「筋肉なんて電話に関係ないもん!」
優しく笑う兆の表情に、僕も思わず頬を緩めて。温かい、やわらかい兆の手に、身体を預けた。
「……今日も、監禁されてた?」
「ううん、あの人が……死んじゃうところだった。僕の名前、ずっとずっと呼んでくれてた……」
僕の夢。今までお願い事を叶えてあげてきた人たちの笑顔が、脳裏に焼き付いて離れない。特に、あの人……とうとう名前も聞けなかった……僕に、「冬花」って、名前をつけてくれた人。
「……嫌だよ……死んじゃうの嫌だぁ……僕と一緒にいてほしかった……一緒にいてほしかったのに……」
死に際に、彼は微笑んで、僕の名前を呼んだ。僕は姿が変わっていて、彼は僕が僕だってわかってくれなかった。でも、でも、一番最後に、何か言いかけて、それで「……ごめんね?」って言って、死んでいった。
気づいてくれたのかな……あの時。
「早く次の仕事しないと、マニュアル屋さんも怒るし、君も飢え死にしちゃうんでしょ?」
「……お仕事、もう、したくない」
こんな感受性が強いLovecallはすぐに壊れちゃうんだって。僕が今生きてるのも、奇跡に近いのかもしれない。
「……兆は?」
「ん?」
「兆は……マリア様に何お願いしてたの?」
「えぇー……それは乙女心だからなぁ。教えなーい」
「ケチ! ケチケチするからもてないんだよケチ!」
「あーケチって四回言った! この馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿」
「五月蝿いケチ!」
楽しくて、笑った僕の声に、兆は、本当に嬉しそうに笑ってくれた。僕と反対方向の空気を力いっぱい抱き寄せて。
僕の味方は、此処にいる。
僕の味方は、此処にしかいないケドネ?
- Re: Love Call ( No.141 )
- 日時: 2012/01/06 16:13
- 名前: 赤時計 (ID: u5ppepCU)
え!?最終回!?
あけましておめでとうございます!赤時計です。。。
いや、すみません・・・恐らく。と書かれているのをよそに、勝手に最終回と思い込んでしまいました。うん、やっぱり今年も私は駄目人間のようですね☆
朝霧さん・・・ろうそく五十本は駄目ですよ・・・全部刺してしまったらケーキが穴だらけになってしまいますよ!(笑)
と、思っていたらすごく冷たく・・・!先ほどの可愛らしさは一体何処に・・・
兆さんには心臓がない・・・?じゃあどうやって??ギルバートさんの左腕がないということには分かりますが、どうやって生を受けているのでしょう・・・不思議ですね。
ギルバートさん神父!神父大好きな私です。。。神父!!ブロンド!ヘビースモーキング!!!
更新頑張って下さい。。。
- Re: Love Call ( No.142 )
- 日時: 2012/01/06 22:16
- 名前: 葬儀屋 (ID: cX9VSRxU)
赤時計様、あけましておめでとうございます! そして、コメントありがとうございます!
これで終わらせることが出来れば……なんとか。最終回に持ってい来たいと思います。ずるずるやっててもどうにもなりませんし。はい、これで恐らく最終回。
朝霧君はろうそくが多ければ多いほどいいと思っていたらしいです。最初は店員に百本のろうそくを要求したとか。可愛いね、うん。確かに穴だらけになりますね……(笑 嫌だな、穴だらけのケーキって(笑
この子の本当はこんな感じ……(笑 頭脳明晰な冷え切った少年ですが普段は甘えているだけです。ツンデレですねいわゆる。
兆さんは……ゾンビ? 一度死んだのですが蘇生させられ、此処にいるような状況。心臓の代わりに人工心臓を埋め込まれてて、一応鼓動はありますね。生きていることは奇跡に近いです。
あはは……とうとうパンドラの名前を(笑 ギルバートさん、神父なのに酒は飲むは女好きだわで兆さんを困らせている人です。結構カッコイイらしい……ブロンドですね。マジで大好きです。
更新がんばります! ありがとうございました!
- Re: Love Call ( No.143 )
- 日時: 2012/01/26 18:40
- 名前: 葬儀屋 (ID: cX9VSRxU)
ナイフを持った男の人たちだった。大きめのナイフで、腕なんかすぐに切断できそうな。それと、大きな機械を持ってる人がいた。あんなものが兆の人工心臓にショックを与えれば、すぐに鼓動は止まってしまうだろう。
古い教会のドアを開ける。すぐに神父がいて、そのナイフで肩を切られている。もう一方の腕もないのか、唯身体をくねらせるだけ。口を開けて、何か叫んでいる様子だったが、すぐに動かなくなった。
次に、小柄な少女が駆け付けてきた。男たちを見て一瞬ひるむが、倒れている神父を見て、表情が一変し、深い絶望を微笑みに浮かべ、両手を組んだ。
「……逃げて……—————」
少女は僕に向かってそう呟いた。一斉に男たちが少女に切りかかる。少女の声は掻き消され、最期に、神の慈悲を乞う声が、小さく小さく、耳に届いた
気がした。
「…ラブ……ラブ? ラブコール!?」
揺り起こされて、眼を開けると、あの死に際だった神父が目の前にいた。
「……誰」
「何処ほっつきまわってたんだ馬鹿が! こっちは徹夜で探しまわって……」
見慣れない顔だった。誰なのか、記憶を探る。不思議そうな表情が顔に出ていたのか。神父は、一瞬、表情をこわばらせた。
「……お前、ラブ、コール……フィン……だよな?」
確かに。そう呼ばれていた気がする。しかし、記憶は鮮明ではない。
「貴方が……マニュアル屋?」
信用できる人だと、誰かにい聞かせられていた気がする。それなのに、神父は目を見張って……僕の身体を持ちあげた。
「へ? ちょっと何を……まさか拉致!?」
「懐かしの居候部屋に帰るんだよ! お前が……っ本当に、
死んでしまったのか。確かめる」
僕は、一度死んだらしい。
身体だけは残って、後全部死んだらしい。それで、新しい人格を作り出して、身体を残そうとしているらしい。
そうやって、この身体を守り続けてきたらしい。
「すまん……拉致ではないことだけは認めてくれ。見慣れないところだとしても」
金髪の神父……ギルバートはそう語る。煙草の煙が辺りに充満していて、僕は目を開けるのも必死なので、そんな話、どうでもいいような気がしてきた。
「……いえ、こちらこそ……っ」
煙を少しでも払おうと手を振ると、頭に強い衝撃が。見上げると、あの時、僕の名前を口走った少女が、赤く腫らした眼で、僕を見つけていた。
「……っ馬鹿、馬鹿ぁぁぁああ!」
そして大きな罵声を浴びせられる。僕はなにもしていない。でも、言いにくい。
強く抱きしめられる。淡い薔薇のシャンプーの匂いが、鼻をくすぐる。
「馬鹿……私の、せいで……あんな、お願い……本当だとでも、思ったっの!?」
何の話だ。以前の僕はどんな仕打ちをこの子にしたと言うのだ。
「……兆、そいつにいくら言ったって、何も分からないぞ」
ギルバートが優しく制するが、少女……兆は僕の身体を離そうとしない。僕が救いを求めている目を向けると、苦笑しながらもギルバートは、口を開いた。
「以前のお前は、生意気で、馬鹿で、阿呆で、無邪気だった。感受性が強くてな、毎晩、自分が看取ってきた人間の夢を見ていたらしい。泣き虫で、それを押し隠すこともできないもろい子だった。そんな奴が……Lovecall。死人と生きた人間をつなげることができる電話のようなものだ……」
らぶこーる? それでは、僕もその仕事をしなければならないのか。
「マニュアル屋とかなんたら言っていたが……それに聞くのが速いんじゃないのか?」
あぁ、そうだ。信用できる人物だと聞いている。しかし、「マニュアル屋」……とは、人物の名前をさしているとは思えない。何か、職業の名前なのか……。
「よく、分かりません……」
あと少しで思い出しそうなのに。ギルバートは、微かに悲しそうに笑って、僕の身体を抱きしめた。
「ゆっくり休め。俺たちも……まだ、呑み込めていないんだ……」
冷たい身体。ギルバートの、その”両腕”が、僕の体温を奪っていくようで。
縋りついて、泣きたいような、恐ろしくて、傷つけたいような。
愛おしい、けれど、僕は、何も、分からないから。
夢を見た。たくさんの死を見た。
白い部屋のベッドの上で、誰もいないまま死んでいった人、それを追うように死んだ人。
雪が積もった道路の上で、身体が潰れて赤い血が凍ってしまっている人、傍らで蹲って泣いている人。
誰にも見つけてもらえないまま、雪の中で死んだ人、それを探す腕のない人、悲しそうに微笑む人。
愛しい人。死んだ人。僕に……僕自身に名前を、くれた人……。冬花? そうだ。僕は冬花だ……。
苦しんで、苦しみぬいて死んでいく。みんな、僕の名前を呼ぶ。ラブコール……なんで? 君たちが望んだことじゃないか。最期の言葉、嬉しかっただろう? また、また声が聞けて……触れることができて……。
その子は笑う。何も分からないから。
その子は泣く。もう会うこともできないから。
その子は諦める。姿がなくなったから。
僕は叫ぶ。これが正解なんだろ? 僕は望まれたことをしたんだ……僕は、
僕だけが悪いのか?
鋭利な悲鳴が、僕を覚醒させた。
身体には、僕とは違う体温が感じられた。兆が、僕を、抱きしめてくれていた。
「夢……また、夢見たの? 怖いの寂しいの……」
此処で本当の気持ちを言ってしまったらどれだけ楽になるのだろうか。吐きだしたい。この、心を。
でも、駄目だって言う。おかしいじゃないか。吐きだしても良いじゃないか。全部全部、ぶちまけてしまったら、楽になれる……。
——じゃぁ、吐き出した分の重りを、兆に押し付けるの?——
声が響く。
前の……意識の残像。
——僕はただ……兆の、お願い事……叶えてあげたかっただけ……マリア様なんか……こんなとこに来てくれないもん……——
知らない。知らない知りたくもない。僕は僕だ。もう何もかも変わったんだ。だから僕は、楽な方に流される。この人に、僕の重りを全部背負ってもらう。それで良いだろ? それが僕のやり方であって……。
「あ…………。ぼ、くは…… なんでも、ないよ……もう、慣れたから……慣れたんだ、全部」
無理してる。その一言で僕の精いっぱいの言葉は切断された。兆は、泣いて、僕を責め続けた。
「馬鹿……馬鹿。私は……私は確かに、確かにね……? お願いした……でも、それは……それはぁ!」
それは。それは何? 話してよ、早く早く。
声が遠くなる。睡魔が僕を襲う。早く早くとせかそうと差し出した手も、垂直に下へと落ちていく。
「ラブコール……? ラブ……ラブコール!? どうしたの、しっかりし」
負けた。僕は、引きずり落とされるように、意識を手放した。
肩をうしろにひかれた気がする。映像が開かれる。あの時の。肩を切られた神父は、もう冷たくなっていた。少女は、全身を刺されて、赤くなっていた。
吐き気がこみ上げる。眼を瞑る。嗚呼、嫌だないやだな。
——お願いを叶えてあげたから、僕は死んだ——
残像が響く。
——でもね、兆は違うって言った。なんでだと思う?——
知らない。
呟いたら、溜め息が聞こえた。映像が変わっていった。
巻き戻される。そして、その映像が捕らえたのは……前の僕。僕、だった。
——此処が僕の居場所だと思ってた。けど、違ってたのかもしれない……だって、僕は「家族」なんかじゃなかったから……——
残像はそう言うと、書き換えた過去を、僕に見せ続けた。
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