複雑・ファジー小説
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- エターナルウィルダネス
- 日時: 2020/02/13 17:55
- 名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)
乾いた土、枯れた草木、その上に零れ落ちた血の跡・・・・・・復讐の荒野は果てしなく、そして永遠に続いていく・・・・・・
ディセンバー歴1863年のオリウェール大陸。
西部諸州グリストルと東部諸州ハイペシアとの内戦が勃発。
かつて全盛期だった大陸は平穏の面影を失い、暗黒時代への一途を辿っていた。
王政派の勢力に従軍し、少尉として小隊を率いていたクリス・ヴァレンタイン。
戦争終結の後、退役軍人となり、両親が残した農場で妹であるリーナと平穏に暮らしていた。
しかし、突如として現れた無法者の集団による略奪に遭い、家は焼かれ、リーナを失ってしまう。
運よく生き残ったクリスは妹を殺した復讐を決意し、再び銃を手にするのだった。
彼女は頼れる仲間達と共に"ルフェーブル・ファミリー"の最高指導者"カトリーヌ"を追う。
・・・・・・・・・・・・
初めまして!ある理由でカキコへとやって来ました。"死告少女"と申します(^_^)
本作品は"異世界"を舞台としたギャングの復讐劇及び、その生き様が物語の内容となっております。
私自身、ノベルに関しては素人ですので、温かな目でご覧になって頂けたら幸いです。
・・・・・・・・・・・・
イラストは道化ウサギ様から描いて頂きました!心から感謝いたします!
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・お客様・・・・・・
桜木霊歌様
アスカ様
ピノ様
黒猫イズモ様
コッコ様
- Re: エターナルウィルダネス ( No.55 )
- 日時: 2021/08/08 18:50
- 名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)
その時、食事の準備が整った事を知らせるベルが鳴る。
「っしゃあ!続きは後にして、俺達も飯にしようぜ!」
アシュレイが、中途半端だった武器の手入れを放棄し、これから全員が集うであろう野営地へと駆け出していく。
馴染みであるヴェロニカの手を引きながら。
「僕達も行きましょう。のんびり過ごせる日でも、しっかりと体力を補いませんとね」
「武器の手入れは、正直、退屈でしたが、いい腹ごしらえになりましたね」
ステラも清々しそうに背伸びをして、サクラも嬉しそうに手を休め、今度は足を動かす。
「皆、待ってよ~!大盛りのご飯は私が食べるんだから!」
メルトも、無邪気に焦って、彼らの後を追おうとした矢先
「・・・・・・メルト、ちょっといいかい?」
後ろにいたクリスは、メルトだけを引き留める。
彼女は、笑顔が残った横顔を振り向かせて、聞き返した。
「な~に~?」
「大事な話があるんだ。君と2人きりで・・・・・・」
クリスのただならぬ希薄にメルトの笑みが崩れ、ようやく生真面目なものとなった。
「どうかしたの・・・・・・?」
「実は・・・・・・釣りに出かけた時、湖で君のカトリーヌと鉢合わせしたんだ」
その告白に、メルトの顔色が一変し、瞳孔が狭まる。
何かを言おうとした最初だけ、言葉を詰まらせると
「お姉ちゃんが、いたの・・・・・・!?」
メルトは、詳細が知りたいと言わんばかりに、勢いよく詰め寄る。
「もしかして、お姉ちゃんを殺したの!?」
否定を望んだ姉妹の情を目に宿し、更に質問を重ねた。
クリスは、少しだけ苦い顔をすると、頭を横に振る。
「残念ながら。襲いたいとは、思ったさ。だけど、流石はルフェーブル・ファミリーの指導者。常に警戒を絶やさず、右手をホルスターから離す事はなかった。向こうは僕が敵である事を認識してなかったんだ。それに関してだけは、本当にラッキーだったよ」
「私の事は、何か言っていた?」
「いや、カトリーヌの口からは、君の名前は出なかった」
その件についても、クリスは正直に否定する。
メルトも落ち込んだ顔を俯かせ、簡単な返事を返した。
「そう・・・・・・」
「代わりに彼女の愛馬を、盗んで来た。この事は、リチャード達には内緒にしてほしい」
「うん・・・・・・誰にも言わない・・・・・・」
クリスは、どう慰めていいのか分からないまま、腰につけたポーチに手を伸ばす。
「実は、盗んだ物は、これだけじゃないんだ」
取り出した物は銀細工の見事な装飾箱。蓋を開けて、中身を見せる。
花びらの形をした純金に包まれてた深紅の宝石だった。
「これ・・・・・・」
「ん?この宝石を知ってるのかい?」
予想だにしていなかった意外な反応に、クリスが眉をひそめて尋ねると
「これは、お母さんの形見だよ・・・・・・お母さんは、この宝石を誠実と純愛の証だと言ってたの。お母さんが死んだ時、これはお姉ちゃんの手に渡った。私より、お姉ちゃんの方が、色んな面で長けていたからだと思う」
「そうか。だったら、今日からこれは君が持つべきだ」
「・・・・・・え?」
「誠実と純愛の量を天秤にかければ、カトリーヌよりも君の方が遥かに上回っている。仲間を守り、大切にする君こそ、これを持つに相応しい。非常識なやり方だけど、これを君の元へ届けられてよかった」
クリスは優美な言葉を送り、母の形見をメルトに手渡す。
「お母さんの想い、大事にするんだよ?」
「うん、ありがとうクリス・・・・・・!」
「さあ、僕達も昼食にしよう。大盛りのご飯を食べ損ねないようにね」
ユーリの作った料理が、ギャング全員に振舞われる。
こんがりと焼き上がった堅いブレッドと厚切りのベーコンと果物入りのサラダ。
リチャード達が釣った魚は、シチューの具として利用されていた。
焚き火を中心に集い、楽し気な会話と共に、食事会が開かれる。
「それでね!街に言ったら、体の大きい髭を生やしたおじさんにナンパされたの!恐かったけど、私は強い子だったから、勇気を出して断ったんだよ!偉いでしょ!?」
食事の際に必ず始まるのは、メルトの自慢話。
相変わらず、苦笑してしまう内容ばかりだが、メンバーにとっては、癒しの1つだった。
いい所の場面でアシュレイが、からかった横やりを入れ、ヴェロニカが笑う。
「そのナンパの誘いに乗っていたら、その男の人の葬式が4時間後には、行われていたでしょうね」
ステラの発言で、ギャングに属する全員の盛んな笑いを誘う。
「もう、ステラさんったら!笑わせないで下さいよ!」
サクラも目に涙を浮かべ、抑えられない愉快な声を立てた。
「魚なんて、何週間ぶりかしら?たまには、淡泊な味も悪くないわね」
ローズが、お気に召した感想を述べ、クリームを溶かしたスープを飲んで頷く。
「あら、意外な一面を見つけたわ。いつもウィスキーを飲んでいるから、味の濃い物ばかり好むイメージがあったのだけれど・・・・・・」
「私だって、人よ。時にはアルコールを手放す事だって、あるわ。こう見えて、菜食主義でもあるのよ」
そう聞いて、リリアは、"本当なの?"と疑って笑う。
「ミシェル?ちゃんと、よく噛んで食べるんですよ?」
「むぐっ・・・・・・ゴクン。うん、そうしてるよ?モグモグ・・・・・・」
食欲が進むがままに料理を口いっぱいに頬張るミシェルを見て、ユーリが微笑む。
「デズモンドさんはカーノー大陸から、いらいたのですか?オリウェールの南方にある三大陸の1つである?」
「そうだよ。カーノーは飛行機産業が盛んな国でね。あの国は今、オリウェールとは冷戦状態なんだ。最初は、この国に関する有力な情報を集めて祖国に売るつもりだったよ。目的は単純に報酬目当てでね。だけど、ハイペシアの荒んだ環境の中で過ごしているうちに、自分のやっている事が最低だと感じ始めてね。心を入れ替えた僕は、探偵のスキルを活かし、人々の苦しみを解決させる道を選んだというわけさ」
ルイスはデズモンドの故郷と、オリウェールに渡った経緯を聞く。
そこへ、リチャードが会話の内側に流れ込む。
「あれは2年前の事だったか・・・・・・デズモンドとの出会いは、決して綺麗な巡り会いではなかった。俺がクリスに戦う術を教えるために賞金首のアジトを襲撃したんだ。配下を全員殺し、親玉を生け捕りにして帰ろうとした途端、小屋の中で物音がした。敵の生き残りがいたのだと思い、中を覗いたら、痩せ細ったこいつがいたんだ。その時のこいつは、職を失い、行く当てもなかったから、俺が引き取ってギャングの一員にした。それ以来、忠実に働いてくれている。今思えば、腐れ縁と言えるかもな」
視界に映るのは、家族同然のかけがえのない仲間達の姿。
争いや殺しの味を知らないような優雅に溢れ、誰1人、悩ましい顔をする者はいない。
その命を危険に晒した生活の片隅で描かれる平和な光景を見て、クリスは言わずと思った。
(復讐に生きず、ただの日常として、こうして過ごしていられたら、どれだけ幸せか・・・・・・ずっと、皆とこうしていたい。誰も失いたくない。それが叶うなら僕は・・・・・・他には何も必要ない)
- Re: エターナルウィルダネス ( No.56 )
- 日時: 2021/08/28 17:33
- 名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)
「あ・・・・・・あああああああ!いっけね!おい!やべえよ!!」
その時、アシュレイが途端に席を立ち、物凄い形相で発狂した事で、その場にいた全員を仰天させる。
全身に寒気が走り、硬直したサクラがブレッドを落とし、ステラがむせて、苦し紛れのを吐き散らす。
ミシェルは、怯えた顔でユーリにしがみつき、リリアは彼を凝視しながら、その身を縮こませる。
「もう、何よいきなり!脅かさないでよ!」
機嫌を損ねたメルトが、文句を叫ぶ。
「いきなり、とち狂った真似をするんじゃないわよ!思わず、ショットガンを、あんたの顔面にぶっ放すとこだったわ!」
ローズも怒りを募らせ、抱えた散弾銃の銃口を彼に向けかけていた。
「ど、どうしたのアシュレイ・・・・・・!?」
ヴェロニカは、特に深刻になって問いかけるが、アシュレイは興奮による喘鳴呼吸を繰り返すだけで、何も答えない。
「アシュレイさん。一体、何事ですか!?」
普段の冷静さを欠いたルイスが改めて、事情を聞くと
「・・・・・・俺ってホントバカだ!退屈な1日を過ごしてたせいで、頭が緩んでやがった・・・・・・すっかり、忘れてたぜ!」
「忘れていた?重要な事でも思い出したのかい?」
デズモンドは真面目に対応するが、リリアは声を尖らせて、皮肉の次に強迫を付け加える。
「あんたの話は、どれを聞いても大袈裟がついて回るのよ。これがくだらない事だったら、拳で殴るわよ?」
「大袈裟なんかじゃねえ・・・・・・!誰が聞いても、シャレになんねえ話だっ!カトリーヌ!あいつがっ・・・・・・!」
「また、カトリーヌの話か。数日くらい、あの女の名前と顔を忘れたいもんだな」
リチャードが呆れ、気の抜けた返答を返す。
「全くよ。食事ぐらい、ゆっくり堪能させてほしいものね。どうして、あんたはいつも、明るいムードを器用に壊すのかしら?」
機嫌を損ねたローズも本心から蔑んだ目で、嫌味を口走る。
だが、クリス達は違った。
「そういえば、ゴールデンバレルの酒場にいた時、あの時の君の焦り様は普通じゃなかった」
「確かに、あの時の君は完全に我を忘れていましたね。少し気になってはいましたが、そのタイミングでデズモンドさんがやって来て、僕達はノーラ・マクレディの討伐に向かった。結局、何を伝えたかったのかは、知らず終いでしたけど」
ステラも、アシュレイが言い出すまでは、その記憶は完璧に埋もれていた。
「アシュレイさん。あなたは、あそこで何を知ったんですか!?言えるなら、今ここで、話して下さい!」
サクラは関心を持って、肝心な内容を問い詰める。
アシュレイは無理に昂った気を鎮めると、やがて、重い口を開いた。
「カトリーヌが・・・・・・あの女、"政治に介入"しようとしてやがる。政府の一員と成り上がって、実質、ハイペシアの支配者になるつもりだ・・・・・・!」
「「は?」」
リリアとローズは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔で、たった今の発言を疑う。
「バカな。あの女は、多くの集落を焼き払い、人々を惨殺しまくった殺人狂だ。政府が、虐殺者を相手にするはずもない。あくまでも、あいつの権力の範囲はファミリーの組織の内だけだ」
リチャードも丸っ切り信用しておらず、鵜呑みにするには無理があった。
「ちなみに、その情報はどこで耳に入れた物?」
クリスでさえも、現実を現実視していない言い方で、念のために確認する。
「酒場のカウンターで、見知らぬ数人の男の話をよ!聞いちまったんだよ!」
「それだけでは、信憑性に欠けるのでは?私も、流石にあの人がそんな野望を叶えられるなど、不可能だと思います。単なる噂では?」
ユーリも、かつて仕えていた人物が企む陰謀説を否定する。
デズモンドの口から、次のような発言が出るまでは。
「いや。決して、あり得ない話ではないかもね。カトリーヌは冷血な殺し屋と恐れられているけど、裏を返せば、迫害の対象とされているルシェフェルからは、女神ジャネールに近い英雄だと崇められている。髪の白いオリウェールの住民を救済し、受け入れて、ルフェーブル・ファミリーの勢力を現状に至るまでに拡大させてきたんだ。ある意味、彼女は政府よりも信頼と影響力を抱える人物とも結論が出せるね」
そして、こうも続ける。
「犯罪者が政治家や貴族の仲間入りを果たした者は、このオリウェールでは少なくない。事実、数世紀前に栄華を誇ったアルテミス騎士団の副支部長のルランシス・カリミシアンは戦の際に非武装地帯の村を焼き払い、多くの民間人を手にかけたんだ。だが、彼は戦争裁判にはかけられず、最終的に王室護衛官として王家に仕えたらしい」
「じゃあ、アシュレイの聞いた事は本当なの・・・・・・?お姉ちゃんが、ハイペシアを乗っ取ろうと・・・・・・」
メルトの震えた台詞が、心身の緊張を緩めていた和やかな空気を一瞬で掻き消し、その場にいた全員を震撼させた。
バカバカしいと飛び交っていた不信の蔓延は絶句へと変貌を遂げる。
「もし、カトリーヌがオリウェールの支配者になったら・・・・・・私達、ギャングが太刀打ちできなくなるどころか・・・・・・オリウェールは犯罪や暴虐が蔓延る最悪な国家になっちゃうよ!」
ヴェロニカも最悪なシナリオを想定する。
ステラも、カトリーヌという人柄を短時間で分析し、可能性を考慮した。
「よく考えれば、人の何倍もの悪知恵が働くカトリーヌの事です。あの女なら、実際にやりかねない」
「ルフェーブル・ファミリーを酒も飲めない甘ちゃん集団だと見くびっていた私がバカだったわ・・・・・・で、こうして、カトリーヌの大陸征服計画を知ってしまったわけだけど、皆はどうしたい?」
恐怖を抑えるための苦笑を浮かべるローズが提案を誰かに求め、リチャードが即座に答える。
「呑気に飯を食ってる場合じゃないのは確かだな。俺達は敵の脅威を侮り過ぎていたのかも知れん。休暇は中止だ!すぐに、カトリーヌを叩く計画を練るぞ!」
- Re: エターナルウィルダネス ( No.57 )
- 日時: 2021/09/06 21:09
- 名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)
ギャング達は食べかけの食事を中断し、カトリーヌ討伐の計画に関した緊急会議を始める。
その中で、どうしても解けない謎にわだかまりを感じていたサクラが、ある事を口にした。
「しかし、カトリーヌはどのようにして、政治権力を握るつもりなのでしょう?」
「さあ?ちっとも、分んないよ。お姉ちゃんの組織はたくさんの資金を持っているはずだから、大物の政治家とかに賄賂でも配ったんじゃないの~?」
クリスは、メルトの推測に対し、正解を言い渡すような説を唱える。
「その線は一理あるな。事実、ハイペシアでは、多くの戦果を上げた騎兵隊の隊長には、大量の金塊が与えられるんだ。僕も元々は、ハイペシア軍の騎兵隊長として、少しは名を上げていたからね。お陰で、除隊した後の生活に不自由はなかったよ。カトリーヌの略奪に遭うまでは」
「大量の金塊・・・・・・!?」
報酬の額に素直に驚いたミシェルが、台詞の一部を真似る。
「一生、遊んで暮らせるほどのね。上手くいけば、荒野に街を築いても余るくらいの富だ」
「でも、残念ながら金の力だけでは、カトリーヌの野望は果たせないよ」
「・・・・・・どういう事?」
デズモンドの聞き捨てならない発言が引っ掛かり、リリアがその理由を尋ねる。
「アシュレイ曰く、カトリーヌは自身の勢力を拡大させるだけでは飽き足らず、政治に参入し、ハイペシアを乗っ取ろうと企てているんだよね?ギャングが国を仕切る事を許されるなど、本来なら絶対にあり得ない事だ。カトリーヌは差別対象とされたルシェフェルに英雄視されている。この国じゃ、彼女を支持する人々も少なくない。例え、それが事実だとしてもだ」
「でも、現実にそれが起ころうとしてるじゃない。何故、野望の実現が可能になったのかしら?」
目つきをやや鋭くしたデズモンドは、より真剣になって、自身に注目する皆に確信を告げた。
「考えられるのは、1つ。ルフェーブル・ファミリーには"強大な後ろ盾"がいるに違いない。国をも動かす何かが・・・・・・そう推理すればカトリーヌの政治介入も、彼女の組織がこれほどまでに大規模な勢力に発展したのにも、辻褄が合うんだ」
「つまり、カトリーヌは背後に金塊の山よりも価値がある切り札を隠し持っている・・・・・・という事で間違いないでしょうか?」
ルイスは上手い例えを述べ、考える仕草を取る一方、、リチャードは堂々と恐れを成していない強気な表情で
「なら、俺達で、その正体を暴き出すんだ。後ろ盾の排除に成功すれば、ファミリーを一気に骨抜きにできるかも知れん」
「メルトさん。君はカトリーヌの実の妹だ。何か、心当たりはないですか?」
更なるヒントを得るため、ステラはメルトに対して、機密情報の有無を問いかけるが
「ううん。ファミリーの秘密については、私も知らないの・・・・・・お姉ちゃんは私なんかには、ちっとも構ってくれないし。いつの時だって、私を置き去りにする・・・・・・」
姉の理不尽な扱いを根に持っていたメルトはションボリとした顔を地面に向ける。
「・・・・・・んで?ファミリーの秘密を探るのはいいとしてよ?どこから、始めりゃいいんだ?奴らの一味を捕まえて、尋問・・・・・・いや、拷問でもしてやるか?」
アシュレイは悪意に満ちた手っ取り早い提案を持ちかける。
しかし、デズモンドは同意しなかった。
「いや。多分、その方法は有効じゃない。これはあくまでも勘だけど、そういう類の重要機密は、組織の下っ端には口外すらしていない可能性がある。恐らく、カトリーヌを含む大幹部しか知らない貴重な情報だ。そして、その幹部の正体すらはっきりしていない今、自力で探し出すしかない。つまり、ここは奴らの『密書』を盗むのが、安全で手っ取り早いかもね」
「その肝心な密書はどこにあるのよ?」
リリアは相変わらず行き詰まるが、ローズには大体の察しが付いていた。
「私も勘で言っちゃうけど、奴らほどの大組織が秘密を隠す場所と言ったら、あそこしか考えられないわね」
「"ニューエデンズ"だな」
リチャードに予想を言い当てられたローズは"今日は珍しく気が合うわね"と付き合いの長い男をからかう。
「ニューエデンズ・・・・・・ハイペシア最大の大都市か。確かにあそこなら、ルフェーブル・ファミリーと関連があってもおかしくない場所だ。行って調べてみる価値はあるね」
クリスは喜ばしく賛成するが
「でも、あの場所は都会なだけに、大変治安が悪いと聞きます。足を踏み入れたら、5分も経たずに犯罪に巻き込まれるとか・・・・・・」
ルイスは逆に、街の悪い印象を述べ、望みが芽生えた空気に水を差す。
アシュレイは、そんな神父の弱腰の性格に苛立ち、脅しをかけた。
「行きたくねぇなら、いい子に留守番でもしてやがれ。言っておくが、ファミリーを敵に回してる以上、ここにいたって安全の保障はねえぞ。俺はあそこに行くのに賛成だ。ルフェーブル・ファミリーを根絶やしにできるなら、犯罪ばっかの街だろうが戦地だろうが、どこへでも向かってやるぜ」
アシュレイは八重歯を剥き出し、好戦的に満ちた気迫を露にした。
隣に座ったヴェロニカも、顔をほころばせる。
「アシュレイが行くなら、私も行くよ。だって、医者が味方にいた方が、いざという時に心強いでしょ?」
「私も、その賭けに乗るわ。何もしないで終わるなんて、人生損じゃない?ちょうど、新たな冒険をしてみかったところよ」
ローズも得意気にショットガンのスライドをコッキングし、やる気をアピールする。
「飯が済んだら、すぐにここを発つ予定だ。野営地に残りたい奴はいるか?そうしたいなら、好きにしてくれて構わん」
リチャードはそう言うが、誰もそうしたいと望む者は現れなかった。
「満場一致だね。行こう。ニューエデンズへ」
クリスが行き先を述べ、メンバーの大半が頷く。
- Re: エターナルウィルダネス ( No.58 )
- 日時: 2021/10/25 20:36
- 名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)
夜の面影が残った早朝、野営地を発ったギャング達は遠い道のりを馬に走らせ、ニューエデンズに辿り着く。
滅多に足を運ばない大都会は田舎の集落と比ベ物にならないほど、活気差で賑わい、近代的な建築物や人ごみで溢れていた。
高級品ばかりの品を売る商店街、様々なショーが行われる劇場。そして、人が歩く通路の中心を歩く路面電車。全てが珍しく、興味を引く光景だ。
「これがニューエデンズ・・・・・・色々と凄い都市ですね・・・・・・」
街中を辿っている最中、ユーリが都会の迫力に圧倒され、苦笑を強いられる。
「ニューエデンズはハイペシアにとっては、軍に様々な物資を前線に送る重要拠点と言っても過言ではない。この街は表だけを見れば綺麗ばかりが目立つが、裏を覗けば富豪と貧民の格差社会という酷い現実が隠れている。ちなみに、この都市の東区域が貧民街だ」
リチャードが、この街に関してのちょっとした豆知識を述べる。
「この街に最後に来たのは、3年前の捜査依頼を受けた時だったか・・・・・・久しぶりに来たけれども、ここの空気はいつになっても慣れないね」
デズモンドも久々に堪能する騒々しい環境に落ち着いていられない様子だ。
「気が早いけど、帰る際には高級なウィスキーをお土産にして買うのも悪くないわね」
日々の習慣となったローズの酒の話題にリディアは呆れ
「私達は旅行に来たんじゃないのよ?でもまあ、せっかく来たんだから映画くらいは行きたいわね」
と真面目に言いつつも、共感を浮き沈みさせる。
「不公平と理不尽に塗れた罪の巣窟にカトリーヌの秘密を探し当てるのですね?」
ルイスは癖になった宗教染みた言い方で目的を再度、確認する。
「ええ。ですが、まずはここに滞在するための場所を探しましょう」
ステラが真剣に、最初にすべき事を主張して
「1日で探し当てられる保証なんて、どこにもないしね~」
メルトが呑気に台詞を付け足す。
「そうだな。本題に移る前に、まずは寝る場所を確保するぞ。設備が充実したホテルが最適だろう」
リチャードも同意し、彼と意見を合わせる。
「どこを向いても、始めて見る物ばっかり。本当に凄い所だね。ハイペシアにこんな場所があったなんて知らなかったよ・・・・・・クリス?」
ミシェルは、自身の感想に返事が届かなかった事が不思議に思い、鞍の先頭に座る者の名を呼んだ。
クリスは周囲に気を配っており、そのせいで反応が鈍り、返答に遅れてしまう。
「・・・・・・え?あ、どうしたの?ミシェル?」
「クリス。何でそんなにキョロキョロしているの?クリスも街の光景に夢中になっていたの?」
「別にそんなんじゃないよ。ただ、"あの子"はこの街で元気にやってるだろうかって・・・・・・」
「あの子?」
「うん。まあね」
クリスは肯定したが、それ以上は教えようとはしなかった。
更に大都市の奥地へと進むと、運河に橋が架けられ、地域を区分する川沿いの近くで高く聳えるホテルを発見した。
そこへ行き、馬屋に馬を預けると、真っ直ぐロビーへと向かう。
礼儀作法のなった受付の係員にいくつかの質問をした後にメンバー同士との相談の末、部屋を借りる事を決めた。
案内役と共にエレベーターに乗り、招かれた部屋は豪華の一言に尽きる一室。
衛生的な面は完璧で十分な設備が整い、全員分のベッドが用意されていた。
窓を開ければ、リラクゼーションが味わえるバルコニーがあり、広大なニューエデンズの景色を一望できる。
「控えめに言って、大富豪専用のスイートルームだね。こんな所で過ごせるなんて・・・・・・夢なのかな?」
一時的に与えられた豪華な住まいに自身が置かれた今の現実を疑うヴェロニカ。
「私達、無法者には勿体ないおもてなしね。都会ってベッドまでもが高級感に溢れているんだもの。なんか、田舎暮らしが普通だった自分の存在がちっぽけに思えてきたわ」
ローズも裕福な暮らしに無縁の立場に少しばかりコンプレックスを感じ始めていた。
「へっ!いいじゃねえか!野宿ばかりの最悪な居心地から解放されたんだからよ。たまには、ちゃんとした寝床で寛がねえとな。ヴェロニカ。お前も飲むか?」
即座に非日常的な環境に馴染んだアシュレイは、贅沢なひと息をつこうとサービスとしてテーブルに用意されていたブランデーに手を伸ばす。
メルトとミシェルは、柔らかいベッドにダイブし、小柄な全身を弾ませる。
その姿に和んだサクラとメルトが穏やかに微笑んだのも束の間、すぐに表情を真面目に一変させ、本来の目的についての話をする。
「さて、僕達はこうして遥々とニューエデンズを訪れたわけですが、これからルフェーブル・ファミリーの秘密が記された手掛かりを探さなければいけませんね」
「今回は今までとは比にならないほどの重要な任務です。完璧とも言える計画を立てて、慎重に行動すべきかと」
2人はやる気と意欲に満ちていたが、反面に訝しげになる者も少なくなかった。
「しかし、悪魔の群れが隠していると言われる機密書類は実在するのでしょうか?」
ルイスが最初に拭えない不安を口にする。
「望み通りにいかない可能性は十分にあるよ。何故なら、こっちは予想だけを頼りにして動いているんだからね」
デズモンドも腕を組みながら、悪い結果も視野に入れている事を淡々と述べた。
更にローズはこうも皮肉を言う。
「要は賭けるしかないって事よ。普段やってるギャンブルと差ほど変わらないわ・・・・・・っていうか、私達が確証を持って行動した事なんてある?」
「探し物がなかったら、素直に諦めるしかないんじゃないかな・・・・・・そうだ!もし、そうなったら、せっかく来たんだし、いっぱい遊んだりするのはどう!?色んな食べ物のお店を回って、映画とかも見て!宝石店にも寄って、あとそれから・・・・・・!」
メルトは前向きになって、旅行に連れて行った子供のようにはしゃぐ。
「お前、ミシェルよりガキなんじゃねえか?」
呆れ果てたアシュレイが、その無邪気さをからかう。
「はあ!?う、うっさいわね!頭がお猿さんのあんたに言われたくないんだけど!」
「あん?誰が猿だこのガキ!」
ケンカの種を芽生えさせたばかりの2人にクリスが薄笑いし、仲裁に入る。
「まあまあ、落ち着いて。やる前からどうこう考えていても、しょうがないよ。行動する時が来るまで、しばらくはここで羽を伸ばしていよう。ほら、ここに来るだけでも、かなりの体力を消耗しただろうから」
「クリスと同意見だ。少しはゆっくり煙草を吸える時間が欲しい。ひとまず、バルコニーで見慣れない景色を眺めながら、煙を味わうとしよう」
「私も、ご一緒させてもらっていいかしら?あなたと2人きりになって、話がしたい気分なのよ」
「ああ。構わんぞ。ついでに酒があった方が、よりいい気分転換になりそうだな」
- Re: エターナルウィルダネス ( No.59 )
- 日時: 2021/11/09 18:12
- 名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)
リチャードとリリアは互いに微笑み合い、バルコニーに移る。
その時、途端にホテルの外の方で大勢の人々が悲鳴を発し、賑やかさが絶えない街はより騒然の場と化した。
「・・・・・・え?何?急に街が騒がしくなったけど?」
ただならぬ事態の発端にヴェロニカが不安感を煽られる。
「ただの犯罪にしては、あまりにも騒ぎが大き過ぎます。暴動のように銃声や罵声は聞き取れないものの、歓喜した際の喝采とは程遠いですね。僕達も外に出て何が起こったのか、調べてみましょう」
騒ぎの理由を探るため、バルコニーに向かうステラの後をクリス達も追いかける。
バルコニーに出て、ここより低い位置にある地上に視線を浴びせる。
一足先に、その場にいたリチャードとリリアも、既に騒ぎが起こった原因を冷静に見下ろしていた。
「クリス。遠くにいる連中が分かるか?」
リチャードが普段の平静さを保ったまま、単純な質問をする。
「聞かれなくても、容易に理解できる・・・・・・最悪の事態だ。よりにもよって、奴らがニューエデンズに来るなんて・・・・・・!」
クリスが想像すらしてなかった厄介な展開に声を震わせた。
街に混乱を招いていた正体。それはルフェーブル・ファミリーの全勢力だった。
ゾロゾロと騎兵隊が押し寄せては、ニューエデンズの住民達を強引に立ち退かせ、橋を通過している。
どれくらいの人数がいるのか?並んだ列は通路を隙間なく埋め尽くし、途切れる事はなかった。
軍隊とも例えられる戦い慣れした精鋭に囲まれ、厳重に護衛されているルシェフェルの女がいた。
カトリーヌ・ルフェーブル・・・・・・どれだけ、距離が離れていても後ろ姿だけで、はっきりと認識してしまう。
愛馬であるフリューゲルをクリスに奪われた事で、代わりとして灰色の大馬に股がっている。
「どうして、ルフェーブル・ファミリーがここへ・・・・・・!?」
サクラも鉢合わせするタイミングの悪さに絶望したかのような苦い表情を浮かべる。
想定外の展開にローズも機嫌を損ね、文句を零した。
「やれやれ。ルフェーブル・ファミリーと旅行先が被るなんて笑えないわね。これじゃ、酒場で1杯やるどころか、散歩にも行けないわね」
「お姉ちゃん・・・・・・」
メルトが遠くにある唯一の肉親の背中を見つめ、切なく呟いた。
「ちなみに、あの女が見えるか?カトリーヌの後方にいる奴だ」
リチャードの関心はカトリーヌとは、別の人物に向いている。
確かに、ファミリーの指導者に続く黒い長髪を生やし、他とは異なる立派な軍服を着こなす女性がいた。
スタイルがいい細身な体格ではあるが、近づくのを躊躇いたくような凄まじい闘気が不思議と伝わってくる。
「全然、知らない奴だ。リチャード。あいつは誰なんだ?」
クリスが率直に尋ねる。
「あの女こそ、ハイペシア最強の軍人にして、戦争では多くの武功を上げた第7騎兵隊隊長、"エリーゼ・フランゲル"中佐。今は軍を除隊し、カトリーヌの右腕としてルフェーブル・ファミリーを支えている。最も戦いたくない恐ろしい人材だ」
「エリーゼ・フランゲル・・・・・・!?本当にあの女で間違いないのか・・・・・・!?」
名を聞いた途端、クリスの血相が変わり、肌が青ざめる。
「直接会ったわけじゃなくとも、お前もかつてはハイペシアの騎兵隊に所属していたんだ。名前ぐらいは耳にしていて当然だな」
「エリーゼ・フランゲル中佐は"ハイペシアの死神"と呼ばれ、敵味方双方から恐れられた猛将です。その戦い方は容赦なく、手にかけた敵兵は数千にも及び、決して捕虜を捕らず、敵陣の全てを蹂躙して焼き払ったとか・・・・・・彼女が指揮するハイペシアの部隊は必ず勝利へと導かれます」
ユーリの長く語った説明にリリアは、ふ~んと気が緩んだ態度で
「そこまで国に尽くした上級将校が何故、犯罪組織の一員と成り下がってしまったのかしら?」
その点については、デズモンドがよく知っていた。
「エリーゼは軍人をやめた。いや、強制的にやめさせられたと言った方が正確と言える。彼女は秀才な軍人だと誰もが認める一方で犯した凶行が一線を越えていた。無慈悲な粛清を繰り返し、武器を持たない民間人までも冷酷なやり方で虐殺したんだ。その凶行は属領であるハイペシア内の集落で行われる事も少なくなかった。さっき、ユーリが大勢の敵兵を殺したと証言したけど、彼女に殺された人は実際は兵士よりも民間人の方が遥かに上回っている事が世間に知れ渡っているよ」
「所謂、組織のナンバー2ってわけだよな?流石はハイペシア最大の犯罪組織だぜ。血と殺しの味に飢えた恐ろしい狂人ばかり従えてやがる」
アシュレイは、"けっ!"とバカにした笑いを吐き出し、不快な目つきで敵勢を睨む。
「理由ははっきりとはしませんが・・・・・・カトリーヌ本人が自ら、これだけの兵力を率いて来たのには、何か重要な目的が・・・・・・!」
その刹那、ステラがあるものを目撃し、彼の発言が途中で止まる。
視線の先でルフェーブル・ファミリーのとある1人が、こちらを凝視していたのだ。
長く白い髪を生やしたルシェフェルの少女。血珀の瞳が印象的で強気な性格をしてそうな精悍な顔つきだ。
彼女は一瞬だけ微笑んだ直後、正面を向き直って去って行った。
「・・・・・・ぁ!」
ステラも思わず声を漏らし、慌てて目を逸らす。
その不自然なただならぬ仕草をギャング数人が気づいた。
「ステラ?どうかしたの?」
ヴェロニカが何食わぬ顔で問いかける。
「い、いえ!何でもありませんよ!あ、ははは!」
「ステラ。顔が赤くなってるよ?瞳の色も緑色に染まっているし」
ミシェルが訝しげになって、誤魔化しが利かない痛い点をつく。
「実に怪しいわね?まさか、ルフェーブル・ファミリーの連中に可愛い子がいて、その子に一目惚れしたなんて冗談はやめてよね?」
「だ、だだだ、大丈夫です!誓って、そんなんじゃないですから!」
ステラは隠しきれない動揺を隠そうと、そそくさとバルコニーを後にした。
「しかしあれじゃ、街を占領されたのと同じだ。非常にまずい状況と言えるな・・・・・・」
「んだから、どうしたってんだ?俺は向こうが軍隊だろうが、ケンカを吹っ掛ける度胸は余裕にあんぜ?」
アシュレイが鋭い八重歯を剥き、自身の掌に力の入った拳をぶつけ
「まさか、カトリーヌを1番殺してぇ奴がびびってんじゃねぇだろうな?俺達は常に死を隣人にして生きてきたんだ。そもそもよ。我先にここに来ようって言ったのはてめえだ。今更、諦めて逃げ帰るってんなら、俺は一生てめーのダチでいた事を後悔するぜ」
親友の言葉に心が勇み立ったクリスも真剣に彼と向き合い、堂々と宣言する。
「誰も諦めるなんて一言も言ってないよ。僕はたった1人の家族を・・・・・・妹の仇を討つと自分の命に誓ったんだ。復讐を叶えるためなら、僕は喜んで心臓だって差し出すつもりだ」
リチャードは疲れ切ったため息をつき、呆れ果てた顔を横に振る。
「やれやれだ。お前らやカトリーヌのお陰で、貴重な休息が台無しだ。たまには体にガタがきてる年寄りを労わってほしいもんだ。まあいい。とりあえず、これからの計画をどのように練るか・・・・・・?今回ばかりは絶対に失敗できない重要な任務になるだろうからな。最悪の場合、軍隊との激戦も想定される。心してかかるべきだな」
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