複雑・ファジー小説

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エターナルウィルダネス
日時: 2020/02/13 17:55
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

 乾いた土、枯れた草木、その上に零れ落ちた血の跡・・・・・・復讐の荒野は果てしなく、そして永遠に続いていく・・・・・・

 ディセンバー歴1863年のオリウェール大陸。
西部諸州グリストルと東部諸州ハイペシアとの内戦が勃発。
かつて全盛期だった大陸は平穏の面影を失い、暗黒時代への一途を辿っていた。

 王政派の勢力に従軍し、少尉として小隊を率いていたクリス・ヴァレンタイン。
戦争終結の後、退役軍人となり、両親が残した農場で妹であるリーナと平穏に暮らしていた。
しかし、突如として現れた無法者の集団による略奪に遭い、家は焼かれ、リーナを失ってしまう。
運よく生き残ったクリスは妹を殺した復讐を決意し、再び銃を手にするのだった。

 彼女は頼れる仲間達と共に"ルフェーブル・ファミリー"の最高指導者"カトリーヌ"を追う。


・・・・・・・・・・・・


 初めまして!ある理由でカキコへとやって来ました。"死告少女"と申します(^_^)
本作品は"異世界"を舞台としたギャングの復讐劇及び、その生き様が物語の内容となっております。
私自身、ノベルに関しては素人ですので、温かな目でご覧になって頂けたら幸いです。


・・・・・・・・・・・・

イラストは道化ウサギ様から描いて頂きました!心から感謝いたします!

・・・・・・・・・・・・


・・・・・・お客様・・・・・・

桜木霊歌様

アスカ様

ピノ様

黒猫イズモ様

コッコ様

Re: エターナルウィルダネス ( No.10 )
日時: 2019/10/25 18:45
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

 かつて、全ての者が平等に生きる王国は2つの帝政の誕生により、黄金時代は終わりを迎えた・・・・・・
大戦の幕開けによって無秩序の大陸と化した帝国は理不尽な犯罪や悲劇で溢れ、人々は暗黒時代の最中を彷徨うのだった・・・・・・
しかし、どんなに深い闇の中にも、微かな光がある事をこの世界の理は知っていた。
それが示すのは英雄でもなく、救世主でもなかった。

 ある者からは"破邪の礎"と崇められ、ある者からは"死告の影"と恐れられた、オリウェールだけではなく各国を揺るがす事となる無法者達。
そして、これは大切な者を奪われた悲劇の復讐をきっかけに、国そのものの運命を変える事となる1人の少女の物語・・・・・・

Re: エターナルウィルダネス ( No.11 )
日時: 2019/10/14 21:37
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

 空は灰色の暗雲が立ち込め薄暗く、もうすぐ吹雪が吹き荒れそうな兆し。
そこはしんしんと雪の降り積もる山奥だった。
地面も点在する木々も雪に塗りつぶされた真っ白な世界。
冷たい空気を漂わせ、静寂な景色がどこまでも果てしなく広がる。
1匹の鹿が木々の間を横切る。両耳の隣に立派な角を生やした雄鹿だ。
彼は一旦足を止め、黒い瞳で何かを見つめる。
やがて向き直ると、平らな雪の上に足跡の列を残し自然の奥へと姿を消した。

 更にその奥先には、一軒の屋敷があった。
尖った鉄格子が付いた煉瓦の塀の中に囲まれた屋敷は3階建てで、石造りの壁が重ねられた城の一部を切り取ったとも言える外見をしている。
周辺は広々と手入れが施された庭、玄関に続く通路を挟んで大理石の像が並んでいた。
高級感に溢れ、貴族が暮らすには実に相応しい場所と言えるだろう。

 門の前に2人の見張りが立っていた。
冷たい風になびく毛皮のコートを羽織り、ライフルを抱え、腰に吊るしたホルスターにも拳銃が治まっている。
若い男は凍えた手に生温い息を吹きかけ、間が開いた隣の中年の男は煙草を咥え、白い煙を吐き出す。
そこへもう1人、周辺の巡回途中の見張りが雪を踏む音を鳴らしながら、門へやって来た。

「・・・・・・異常はないか?」

 巡回中の見張りが現状を手短に聞いた。

「ああ、異常はない。聞くまでもないと思うが、そっちは?」

「異常なしだ。こんな山奥には人は立ち入らないだろう。俺達、『ルフェーブル・ファミリー』のメンバー以外はな。ここいらの脅威と言えば、吹雪と草食を狩る野生動物くらいだ」

 とここにいる全員が分かり切った答えを返した。

「いくら上からの命令とは言え、こんな寒い地帯で退屈な見張りを1日中やらされるなんて、ついてねえな・・・・・・それより、煙草が今朝で切れちまったんだ。1本くれないか?」

「ああ、いいぞ。ほらよ。ライターは自分のを使ってくれ」

 中年の見張りは肯定し、頼まれた物を手渡す。
巡回していた見張りは軽い礼を言って、早速、煙草を口に挟む。
ライターの持つ手の震えを無理に抑え、火を点けようとした時だった。

「・・・・・・ん?」

 若い見張りが何か気づき、目を細く遠くを見通した。

「どうした・・・・・・?」

 一服しようとした2人の見張りも 反射的に彼の視線の先を追った。
違和感を覚える異様なものを目撃した途端、気の抜けたその表情は強張る。
誰もが近寄らないはずの山奥に人がいたのだ。
しかも、そいつはこちらを見つめながら、ゆっくりと近づいてくる。

 現れたその人はボサボサの黒い髪を生やし、大きな目をしていた。
顔の下半分を厚い冬着で覆い隠しており、素顔はおろか、性別すら判別できない。
ただ、低い身長と若い肌をもつ顔立ちからして、十代半ばくらいの子供という事だけは認識できる。
随分と暑苦しい格好をしているせいか、武装を把握できない。

「おい、何でここに人がいるんだよ・・・・・・?」

 中年の見張りが幽霊と鉢合わせしたような、気味の悪さを感じた。
第一発見者である若い見張りは、ライフルを構えエイムに目を重ねる。

「狩人にも見えんな。ここにいてくれ。俺が話をしてくるから、いつでも撃てる準備をしててくれ」

 巡回途中の見張りは一度も吸わなかった煙草を捨て、ホルスターからリボルバーを抜き取った。
厳しい人相で見知らぬ人の所へ向かい、左手で止まれの合図を送る。

「おい、お前!そこで止まれ!見たところ、俺達の仲間じゃないな!?狩人にも見えん!何しにここに来た!?」

「・・・・・・」

 謎に満ちた子供は立ち止まったものの、何も答えなかった。
銃を手にした相手が近づいても引き下がろうとせず、敵意のない目で見張りと対面する。
警戒心を絶やさず、手が届く範囲まで距離を縮めると立ち尽くす子供を見下ろした。

「もう一度聞くぞ。ここへは何しに来た・・・・・・?」

 声を尖らせ質問を繰り返すが、やはり相手は無言のまま、何も喋らない。
子供は正面から視線だけを僅かにずらし、遠い背後で銃口を構える門番を見た。

「答えろ。お前の脳がぐちゃぐちゃになる前にな」

 見張りは脅し文句を吐き捨てると、ハンマーを倒し銃口を額に突きつける。

「・・・・・・」

 改めて、目の前の見張りに視線を戻した子供は動じることなく、2回ほど瞬きをする。
すると、今度は意外にも何も手にしていない両手を上げ、あっさりと投降の姿勢を作った。   
敵意にない仕草に見張りは不安を和らげ、目を丸くした。

「・・・・・・ほう、随分と素直じゃないか?そのまま、じっとしていろ。少しでも動いたら撃つ」

 見張りは気を緩め、一旦はリボルバーを真下にぶら下げた。
武器を隠し持ってないか調べようとようと小柄の体に触れようとした時、子供の手が消える。  
強制的に体の向きをずらされ、関節が絞められる感覚に気づき、いつの間にか見張りはその腕を掴まれていた。

「なっ!?き、きさっ・・・・・・!」

 見張りはとっさに抵抗しようと銃口を向けるも遅く、顔面に拳を喰らった。
頭部がのけ反り、折れた歯が口から漏れて血がケチャップのように鼻から吹き出す。
遠のく意識に立ち直れないまま、背後に回り込まれてしまう。
首を腕に挟まれ身柄を拘束された頃、ようやく嵌められた事を悟った。
奥にいた2人に焦りが芽生えたのは、その数秒後の事だった。

「・・・・・・てっ・・・・・・!」

 中年の見張りは何かを叫ぼうとしたが、声が発せられる事はなく絶命する。
ひゅんと風が切る音がして喉笛に棒状の木が突き刺さり、喉を貫通したからだ。
棒の先は鉄製の矢じりが尖り、その反対の端には立派な矢羽根が取り付けられていた。

 隣にいた若い見張りも矢で心臓の真ん中を正確に撃ち抜かれた。
壁に釘付けにされ、苦し気な表情を繕った首を垂れる。
痙攣した腕からライフルが落ちて雪に沈んだ。

「ひいっ・・・・・・た、頼む!殺さないでくれっ・・・・・・!」

 見張りはさっきまでの態度を一変させ、情けなく命乞いを乞う。
子供は押さえつける力を緩めず、彼の耳元に口を寄せ静かに囁いた。

「別荘の内側にはどれくらいの人数がいる?」

「み、みみ・・・・・・見張りの数か・・・・・・!?庭にす、数人・・・・・・建物の中に十数人くらいだ・・・・・・!」

 すっかりと怯え切った見張りは細い声で、あっさりと味方の情報を明け渡してしまう。

「そうか・・・・・・」

 それだけ言って、広げた右手を首にぶつけた。
見張りは"がっ・・・・・・!"と顔を強張らせ、硬直する。
口から大量の血が溢れ、瞳孔が開いた目はやがて光を失う。
子供は白い吐息を上らせ、間もなく冷たくなる死体を雪の上に押し倒す。
右手を揺らして手首に隠していたブレードの血を掃い、刃を引っ込めた。

Re: エターナルウィルダネス ( No.12 )
日時: 2020/02/02 21:04
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)
参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=1368.jpg

「流石だな。"クリス"。初めて会った時と比べて、かなり腕を上げたもんだ」

 背後にこちらに謝意を示す誰かが立っていた。
この場の環境に適した格好に身を包む老けた男が傍へと歩み寄る。
その手には弓のグリップを握り、弦に矢をつがえていた。
それに続き、広がる冬景色の陰から彼らの仲間が次々と姿を現す。

「弓の扱いなんてあまり得意じゃないんだけど・・・・・・でもまあ、私の作戦が上手くいったのだから、よくできましたと褒められたいわね」

 男と同じ弓を手にしたハット帽子を被る女が自慢気に口角を上げた。
その横をフードを被った青年が過ぎ、楽しそうに死体の服を漁る。
しかし、得られたのは質の悪い略奪品ばかりで、不機嫌そうに眉をひそめた。

「何だこいつ。持ってやがったのは、たった3ウォールかよ。ファミリーの一員にしちゃ、貧乏過ぎんだろ・・・・・・」

 期待を裏切られ愚痴を零す青年の後頭部に、髪の長い女が弱い勢いではたく。

「みっともないからやめなさい。いくら敵でも死者には敬意を払うべきよ。そんな下衆な振る舞いをして恥ずかしくないの?」

 と冷静な口調で生真面目な説教を垂れるが

「うるせえ。死体が金を持ってたってしょうがねえだろ。それによ、この件が片付いたら結局は根こそぎ奪う予定なんだろ?だったらいいじゃねえか」

 と反抗的な態度で女を見上げ、互いに睨み合う。

「今更、死んだ人を敬ったって大勢を殺してきた私達に待ってるのは地獄しかないわ。悪魔に口説かれる日が来るまで、今の人生を楽しみましょう」

 ハット帽の女も軽々しい人格を演じ、青年の肩を持つ。

「世間話は後にして今やるべき事に集中しろ。状況が有利な時ほど命を落としやすいものはない。自惚れや慢心に殺されるんだ。死にたくなかったら常に緊張感を絶やすな。クリス、次はどうするかお前が決めろ」

 老けた男が皆をまとめさせ、指示を求める。
クリスと呼ばれた子供は振り返り、精悍な顔を曝け出す。

「僕が殺したファミリーの一員から別荘の情報を聞き出した。外に数人、建物に10人以上の敵がいるらしい。作戦はこうだ。次は別荘に忍び込む。外の監視を全て始末したら、建物を襲撃して中にいる"カトリーヌ"を殺す・・・・・・いい?」

 と作戦の内容を説明し、異論はないかを確認する。

「別に文句はねーけどよ。隠密行動は俺の得意分野じゃねーんだよな・・・・・・外側は制圧したんだし、派手にやってもいいんじゃねえか?」

「"アシュレイ"、カトリーヌは君が思ってるほど簡単に命を差し出すような奴じゃない。剃刀のように頭が切れる冷酷な女だ。あいつを仕留めたいなら、最初から最後まで慎重にやる必要がある」

「私もクリスの意見になんて従いたくないけど、今回だけはこの子に賛成よ。死体を漁るどこかの罰当たりさんがしくじって、あの女に逃げられでもしたらわざわざこんな雪山の奥地に足を運んだ意味もなくなるもの」

 蔑んだ嫌みにアシュレイは"うるせえ"と裏に返した手を飛ばすが、長髪の女はそれを容易にかわす。

「ここにいても寒いだけよ。作戦があるなら、早く実行に移しましょう。それじゃクリス、私達はどうすればいいか教えてくれない?」

 ハット帽の女が聞いて

「まず、門を開けたら二手に別れて周囲を制圧しよう。好都合にも、バルコニーに狙撃手はいない。でも、決して油断しちゃだめだ」

「鍵の開錠はこの私、デスモンドに任せてくれないかな?私立探偵の器用な指先をこんな場所で使う事になるなんて、誰が予測できたか」

 自ら名の名乗った背の高い男が、自惚れた口調で言った。

(仕事を終われた落ちこぼれがよく言うぜ・・・・・・)

 アシュレイが周りに聞こえないのようにボソッと呟く。

「左側は僕と"サクラ"、"メルト"と"ステラ"が行く。反対側は"リチャード"、"リリア"、"ローズ"、"ユーリ"、それからデズモンドに任せた。隠密が苦手なアシュレイは門の前で待機してて?」

「いい子にしてるのよ?後でお菓子でも買ってあげるから」

「クソ女、てめえ後で覚えてろよ?」

 クリス達は作戦通り2つのチームに別れ門を挟んで、壁に背を預ける。
デズモンドは見張りの目を盗みながら、鍵穴に形が異なる2種類のロックピックを差し込んだ。
片方を固定し、慎重にもう片方を時計回りに動かしていく。
数秒後、カチッとと音がして門の解錠を完了する。

「ようこそ、僕だけの真冬の別荘へ」

 デズモンドがユーモアと共に門を開き、クリス達は建物の敷地内へと一斉に流れ込んだ。
正面玄関付近を警戒し、見張りの不在を確認する。

「そっちは任せた。信用してるが、一応しくじるなと言っておく。裏側で会おう」

 リチャードは一旦の別れを告げると、仲間を連れて右側の区域へと進んで行った。
クリス達も姿勢を低く、反対側へ回る。
姿を誤魔化せる場所へ身を寄せ顔を覗かせると、聞き出した情報は正しく、数人の見張りが警備にあたっていた。
敵に侵入を許した事に気づいておらず、ほとんどが呑気に怠けている。

Re: エターナルウィルダネス ( No.13 )
日時: 2019/12/03 19:55
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

「近くの正面に1人、20メートル先のベンチに2人・・・・・・それから・・・・・・」

「11時の方向、奥にあるガーデンにの建物にも1人いますよ」

 ステラが正確に敵の位置を伝える。

「素早い観察力だね?」

 クリスが感心しながら言った。

「こう見えても、傭兵をやって長いですから」

 ステラは親指を突き立て、ちょっぴり自慢を入れた返事を返す。
その目は橙色に染まっていた。

「敵の数なんてどうでもいいからさ。さっさとやっつけちゃおうよ〜」

 メルトは早く敵を倒したい一心で事を急かす。

「焦らなくても、君の分はちゃんと残しといてあげるから、ちょっと待ってて?まずは僕にやらせてほしい」

 クリスは落ち着いた口調で頼んで冬着を捲り、ベルトに仕込ませたナイフを握った。
傍で待機していた他の3人に、"まだ、じっとしていて"と手の仕草で指示を出し、自身はその身を陰から曝け出す。
そして、短く口笛を吹いた。

 気配も察していない見張りは異音に釣られ、背中を反対に翻す。
クリスの存在を認識した直後にナイフが当たり、意識を喪失した。
見張りは真顔のまま大の字に倒れ、額の刺し傷から流れ出た血が顔を伝り、積もった雪に染み込む。

「お見事」

 ステラが拍手のない歓声を送る。

「ベンチにいる2人はステラとメルトに任せた。僕はサクラと移動する。」

「はいは〜い、お安い御用〜」

 メルトが喜んで、我先にと指定された標的の方へ近づき、ステラも後に続いた。
足音を立てず、見張りの背後へと忍び寄る。

「でよ、この前行った街の酒場でルシェフェルの女をナンパしたんだよ」

「ホントか?モテないお前がよく女を誘えたな?」

 だらしない姿勢で腰かける2人の見張りは背後を取られた事に気づかないまま、下品な会話に夢中になる。

「へへっ、あの種族は金に飢えてるからな。ウォールを数枚差し出したら簡単に気を許してやんの。しばらく酒を飲んで酔っぱらった所を個室に連れ込んだってわけよ」

「マジか!?やるじゃねえか!」

 右側にいる見張りが興奮し、次に何をしたのか聞いた。

「紳士のふりをして油断させ ベッドから後ろから襲ってベッドに押し倒したんだ。普通は助けを呼ぶだろ?その女、何をしたと思う?あろうことか、スカートを脱いでパンツを下ろしたんだぜ!傑作だろ!?」

 隣の見張りは手を叩き、愉快に大笑いする。

「最高じゃねえか!お前、天才だな!で、次は!?早く教えろよ!」

 すっかり淫らな内容に釘付けになり、続きを促した瞬間、ぐちゃっ!とトマトが潰れたような音がし、目に広がる世界の全てが真っ赤に塗りつぶされた。

「・・・・・・え?」

 突如起こった奇怪に無意識に漏れた間の抜けた声。
晴れた視界に映ったのは頭上に広刃が刺さり、顔が半分に裂けた仲間の変わり果てた姿だった。
興奮が冷め、悲鳴を上げようとするも、後ろから口を塞がれ強引に空を見上げさせられる。
覆った何かを退かそうとするが、先に喉を掻き切られ、大量の血を噴水みたくぶちまけた。
足掻く力も徐々に弱まり、やがて命が散る。

「いっちょうあがり。地獄に落ちろ変態」

 メルトは深々と脳を割った斧を抜き、罵った死体を押し倒した。
ステラも短剣を腕の関節に挟み、付着した血を拭う。

「ターゲットダウン。偉いぞカラドちゃん」

「よし、メルトとステラが2人を仕留めた。サクラ、次は君が遠くにいる最後の1人をやってくれないか?できる?」

 クリスが可能かを問いかけると、サクラは腰の低い態度で肯定した。

「大丈夫です。ユーリさんには遠く及びませんが、遠距離戦は私の得意分野です」

 そう言ってオブジェクトから身を乗り出し、両手持ちの杖を固定して構えた。
集中力を高めながら全身の気を送り、先端に魔力を蓄積させる。

「距離は40メートル・・・・・・威力は300程度・・・・・・」

 観測を済ませ、サクラは杖から魔弾を放ち高威力の反動が伝わり、少し後ろへのけ反った。
それは狙った位置からずれた標的を追尾し、的確に命中する。
頭半分を見事に吹き飛ばされ、思考を失った見張りはふらふらと無意味に彷徨い歩き、倒れた。

「仕留めました」

「よし、このエリアの敵は全て無力化した。裏で皆と合流しよう」

 クリスは近くにいたサクラに微笑み、遠くの2人には手で合図を伝えた。

「僕達も行きましょう」

「もう終わりなの?つまんないな」

 物足りなさそうに文句を言って移動しようとした時、横に扉が開き、メルトはビクッ!と硬直した。
出て来たのは、彼女との身長が30センチほどの差があるガタイのいい大男でショットガンを片手に煙草を指に摘まむ。
そいつは鉢合わせした侵入者を凝視し、目の色を変えた。

「あ、ああ・・・・・・」

 想定外のハプニングにメルトは混乱に陥る。
斧は届かず、相手の銃口がこちらに向けられるのを為す術もなく許してしまう。

「貴様、どこか・・・・・・がっ!?」

 殺意の鋭声は途中で絶たれ、銃口の狙いは逸れる。
痛感に身をすくませ、彼の心臓をカラドボルグが捉えていた。
ステラはシルヴィアを抜くとメルトを庇い、男の不意を突く。
頭部を裂こうと横に斬撃を喰らわすも、大男はとっさに投げたショットガンを銀剣にぶつけ、刀身を弾いた。
武装が解かれた隙を逃さず、首を絞め上げる。

「ぐっ・・・・・・がぁ・・・・・・(剣先が心臓まで達しなかったか・・・・・・!?)」

 ステラは首を圧迫され、顔を歪ませる。
手を払い除けようと暴れるが、大男の腕力は万力のようにきつい。
このままでは器官は潰され、骨を砕かれるだろう。

「このぉっ・・・・・・!」

 彼を助けようとメルトが斧を振り上げ助太刀に走るが、硬い拳が目前に迫り返り討ちに遭う。
少女は軽々と吹き飛ばされ、小柄な体は地面を転がった。
ステラは霞んでいく意識の中、今度は自分へと降り掲げられたナイフを見た。
それが頭上に落ちる直前、反射的に男の手首を掴む。

Re: エターナルウィルダネス ( No.14 )
日時: 2019/12/03 20:07
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

 サクラは杖を向けるも、ステラと男の取っ組み合いは激しく、満足に標準を合わせられなかった。
こうしている間にも仲間は不利から不利へと追い詰められていく。
クリスも正しい判断力を失い、リボルバーに手を伸ばした。
ハンマーを倒し銃を抜こうと抜いた矢先

「ううっ・・・・・・!」

 急に唸った大男がビクンと体を痙攣させて硬直した。
力づくの手が緩み、マネキンのように横たわる。
圧迫から解放されたステラは、地面に座り込んで何度も咳込んだ。
不思議に思い死体となった男を見ると、1本の矢が背中に深く突き刺さっている事を知る。
ぼやけた視界に弓を構え、矢を放った直後のリチャードが映った。

「危なかったな。生きてるか?」

 彼は歩みを寄せながら、ステラの手を引き体を起こす。
絞められた圧迫痕を診て、大事に至っていないことを確認した。

「がっ、ごふぇ!足を引っ張ってしまいましたね・・・・・・げぅっ!迂闊でした・・・・・・」

「戦場に不意打ちは付き物だ。敵は正面から現れるとは限らん。戦域に踏み込んだら、常に八方を警戒しろ。分かったら、さっさとメルトを起こせ。それとクリス・・・・・・」

 リチャードは説教の矛先をクリスに向け

「銃を撃っていれたら、建物の連中に気づかれていたぞ。基本として教えたはずだ。いかなる状況でも、肝心な判断だけは間違えるな・・・・・・とな」

「そうだったね・・・・・・ごめん、もう同じ過ちは繰り返さないよ」

 クリスは反抗したい面持ちを浮かべるも、素直に自身の失態に謝罪を述べた。
そこへリチャードを追って、リリアやデズモンドたちが合流する。

「ひとまず、外の脅威は排除したわね。後は建物の連中を一掃するだけだわ・・・・・・で、最後の仕上げはどのような作戦で行くの?あんたの事だから次こそは成功するんでしょうけど?」

 リリアが2丁の銃を抜き、意地悪な笑みを零す。
嫌みとしか言いようがない明らかな台詞をクリスは無視して、皆の注目を集めさせた。

「作戦はこうだ。今度は4つの部隊に別れて、建物の全ての方向から攻撃を仕掛ける。逃げ場を遮られた敵は士気を失い、満足に抗えないはずだ。全員が突入の準備が整ったら、正面玄関をアシュレイの爆薬で吹き飛ばす。敵の不意を突き、一気に攻め落としてカトリーヌを殺す」

「また?分散してリンチするのが好きなのね?まあ、いいわ。後ろは任せて?私の愛銃でファミリーの連中に風穴を開けてやるから」

 ローズはこれからの襲撃に喜ばしく、ショットガンに詰めた散弾を薬室に装填する。

「なるほど、僕も君と全く同じ作戦を頭の中で描いていた。砦のない城を落とすには、包囲戦ほど有効な手段はないからね。だったら僕は横から攻めるよ」

 デズモンドが反論せずに言って

「私も私立探偵さんと一緒に行かせてもらうわ。私の経験上、横を攻めた方が敵に痛手を負わせやすい。背後は意外と危ないのよ?」

 とリリアも相変わらず生意気な口調で二度目の作戦に賛同する。

「異論はないな? 俺もローズと共に行き、上手く背後から不意を突くとしよう。メルトとユーリは左、リリアとデズモンドは右につけ。クリス、ステラ、サクラ、お前らはアシュレイの傍にいてやれ。あのバカは誰かが付き添わないと心配だ。爆薬を仕掛けたら、一気に蹂躙するぞ?真っ正面から派手な花火を打ち上げてやれ」

「リチャード達は先に配置についていて。僕はアシュレイに出番を与えてくる」


「へへっ、グチャグチャに壊してやるぜ」

 アシュレイは舌を出し、悪魔の笑みで自身が作成した爆薬の設置に取り掛かった。
爆薬は数本のダイナマイトがまとめて括り付けられ、起爆装置と繋がっている。
基盤に表示されたタイマーが切れると、銅線を通じて電流が伝わり、本体に点火する仕組みだ。
粘着剤でドアに仕掛け、装置を作動させると急いでクリス達の元へ加わる。

「10秒後に爆発する。鼓膜がイカれたくなきゃ、耳を塞いでおけよ?俺の爆薬は派手な轟音を鳴らすからな」

「念のために伺いますが・・・・・・威力が強過ぎて、こっちまで巻き沿いになるなんてないですよね・・・・・・?」

 ステラがニヤニヤと苦笑し、クリスも表情を合わせた。

「僕達まで粉々にならない事を祈ろう」

 間もなくダイナマイトが破裂し、一気に広がった爆風が火と黒煙を生んで大部分を破壊した。
2階の部屋も瞬く間に崩壊し、バルコニーの半分が崩れ落ちる。
熱風が混ざった衝撃波がこちらまで押し寄せ、細かい残骸が降り注ぐ。

 クリスが顔を出すと、別荘は無残な廃屋と化していた。
剥き出しになった木材が燃え盛り、曲がりくねった骨組みや煉瓦の破片が散らばる。
内側からは、慌てふためく叫びや悲鳴が賑やかに響く。

「ひゃっほー!派手に吹っ飛んだな!流石、俺だぜ!」

「よし、全力で行くぞ!」

「ううっ・・・・・・」

 血に塗れた頭を抱え、外へ這い出た無防備な敵をクリスが射殺する。

「おらおらぁっ!!」

 アシュレイがヴォルカニックピストルと乱射し、ピストルとリピーターで武装した2人の男に銃弾を撃ち込む。
容赦なく放たれた弾丸はどれも急所を撃ち抜き、銃創を負わせた。

「敵襲だぁ!! 正面にて・・・・・・ぐぶゅっ!!?」

 敵の位置を知らせようとした体格のいい男が思わぬ方向から凶弾を受け、呆気ない最期を遂げた。
裏側の扉を蹴破り、リチャードとローズも急襲を開始する。
その場に居合わせた短髪の女が応戦しようとするも、ショットガンが火を噴き、散弾を浴びた胴体に無数の風穴があく。

「命乞いは無視しろ!1人残らず、根絶やしにするんだ!」

 リチャードが怒鳴り、個室に逃げ隠れようとした青年を素早く撃ち抜く。
空いた穴からは血が噴き出し、開いた扉が死体を晒した。

 クリスは次から次へと狙いの矛先を確実に定め、引き金を引く。
響いた銃声の数だけ抗う者は倒れ、命を散らしていった。
ふと、上階からこちらにライフルを向けるルシェフェルの男が視界に入ったので下がろうとしたが、狙撃手は魔弾を喰らい階段から転げ落ちる。

「すまない!サクラ、助かった!」

「援護は任せて下さい!皆さんは前線を・・・・・・きゃっ!」

 アシュレイはサクラを向かいの壁に押しやると新手の銃弾を回避させ、何発か撃ち返した。

「おっと、前に出過ぎるんじゃねえ!敵も必死だ!」

 忠告を付け足し、バレルを開いて弾を込める。


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