複雑・ファジー小説

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エターナルウィルダネス
日時: 2020/02/13 17:55
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

 乾いた土、枯れた草木、その上に零れ落ちた血の跡・・・・・・復讐の荒野は果てしなく、そして永遠に続いていく・・・・・・

 ディセンバー歴1863年のオリウェール大陸。
西部諸州グリストルと東部諸州ハイペシアとの内戦が勃発。
かつて全盛期だった大陸は平穏の面影を失い、暗黒時代への一途を辿っていた。

 王政派の勢力に従軍し、少尉として小隊を率いていたクリス・ヴァレンタイン。
戦争終結の後、退役軍人となり、両親が残した農場で妹であるリーナと平穏に暮らしていた。
しかし、突如として現れた無法者の集団による略奪に遭い、家は焼かれ、リーナを失ってしまう。
運よく生き残ったクリスは妹を殺した復讐を決意し、再び銃を手にするのだった。

 彼女は頼れる仲間達と共に"ルフェーブル・ファミリー"の最高指導者"カトリーヌ"を追う。


・・・・・・・・・・・・


 初めまして!ある理由でカキコへとやって来ました。"死告少女"と申します(^_^)
本作品は"異世界"を舞台としたギャングの復讐劇及び、その生き様が物語の内容となっております。
私自身、ノベルに関しては素人ですので、温かな目でご覧になって頂けたら幸いです。


・・・・・・・・・・・・

イラストは道化ウサギ様から描いて頂きました!心から感謝いたします!

・・・・・・・・・・・・


・・・・・・お客様・・・・・・

桜木霊歌様

アスカ様

ピノ様

黒猫イズモ様

コッコ様

Re: エターナルウィルダネス ( No.65 )
日時: 2022/01/06 21:47
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

「今だ!ヴェロニカ!行け!」

 クリスが声を張り上げ、合図を出した。
その後ろを医療道具を抱えたヴェロニカが横切る。
無事、デズモンドの元へ駆けつけると2人でローズへの医療処置を急ぐ。

「ステラ!これが使えんだろ!?てめぇも手当てしろ!」

 アシュレイが言って、彼がいる方から何かが投げ渡された。
先端が燃えた吸いかけの葉巻が手元に落ちる。

「これは・・・・・・少しは役に立ちそうですね・・・・・・」

 ステラは軽く破顔すると、葉巻を手に取り、火がついた部分を銃創へと押し込む。
切れた血管を焼いて塞ぐ事で出血を止める荒治療だ。

「うっ・・・・・・うぐぅっ!!」

 ステラは激痛に聞くに堪えない唸り声を上げ、即座に反対側の傷にも同じ処置をした。
一旦は粗末な手術をやめ、痛みが和らぐのを待つ。

「うぐっ・・・・・・はあはあ・・・・・・腕はもう大丈夫・・・・・・問題は背中の傷をどう塞ぐか・・・・・・」

 鎮圧部隊は幅広いシールドを横に整列させ、守りが万全な態勢で前進を開始し、接近して来る。
距離を縮められた事で銃弾の狙いは正確性を増し、ただせさえ不利であるこちらの抵抗をより困難なものとさせた。

「・・・・・・くっ!」

 苦戦を強いられながらもクリスは銃弾から身を隠し、何とかリボルバーを発砲した。
撃った大口径の弾丸は、2発とも敵兵の額を撃ち抜き、驚異の数を減らす。
しかし、銃の腕が立つと言えども、弾幕を避け、頑丈な盾の裏にある生身を狙うのは至難の業だ。

 サクラも僅かな隙を突いて、高威力の魔弾を発射する。
すると、銃弾とは異なり、魔力の球体は厄介なシールドを砕き、人の身を削った。
敵兵は呆気にとられ、接近に躊躇いが生じる。

「サクラ!君の魔法はシールドでも防ぎ切れないようだ!いいぞ!その調子でもっと、集中砲火を浴びせるんだ!」

「は、はい!全力でやります!」

 弱点を知ったサクラは戦力が劣っていても、勝てる希望を見い出した。
魔法の杖にありったけの魔力を蓄積させ、一気に放出した。
魔弾を散弾のように乱れ撃ち、鎮圧部隊に浴びせる。

 物理とは法則が違う攻撃を前にシールドなど役に立たず、紙を同然に破られた。
被弾した肉体は頭部、胴体、四肢など、至る所に向こうにある物を覗けるくらいの風穴を開け、肉や骨もろとも消し飛んだ。   
鎮圧部隊は無防備に等しいほどに甚大な被害を被る。
あっという間に10名近くが犠牲となり、生き残った者は僅かとなった。

「退け!敵の中に魔術師がいるぞ!」

 兵員の1人が敵側の詳細を告げ、鎮圧部隊に脅威が芽生えた。
命令に逆らう理由などなく、シールドを捨てて、我先にと後退していく。
その気に乗じて、クリスも容赦なく銃を撃ち、劣勢に追い討ちをかける。

 しかし、運は非情にも敵側に微笑んだ。
またもやエレベーターが開き、第三の部隊が増援として送られてくる。

「これじゃ、きりがない!サクラ!」

 サクラは黙って頷き、再び、魔弾を放とうとした。
しかし、杖の先に取り付けられた石の光が衰え、輝きを失う。

「そんな・・・・・・魔力切れ!?こんな時に!」

「こいつは、まずいな・・・・・・魔力の補充には、どれくらいかかる!?」

「シリカ(霊石)を取り替えます!すぐに済みますので、援護を!」

 サクラは一旦は身を潜め、杖の先端を取り外し、新たな交換を行う。

「っしゃあ!作業は終わった!後は爆破するだけだ!」

 そんな中、ちょうどアシュレイが爆薬の設置を完了した。
彼は導火線に繋がった安全ピンを外し、クリス達の元へ転がり込む。
分厚い鉄扉に張り付けられた5つのブリーチ爆薬が爆発し、衝撃で部屋が揺れる。
大金庫の蓋が剥がれ落ちるように外れて施錠装置に覆い被さった。

「待たせちまってわりぃな!こん中にある財宝を奪って、ハイペシア一の富豪になってやりうぜ!」

「中身は僕が回収する!アシュレイはステラを運んでくれ!デズモンド!ローズの手当ては終わったか!?」

「何とか、出血は止めたよ!ヴェロニカが致命傷だった腹部の傷を縫合した!他の傷口も塞いだけど、場所を変えてまともな施術をするべきだ!」

 すぐにデズモンドから朗報が届いたが、同時に油断を許されない状況である事も告げられた。
彼はヴェロニカと共にローズの両腕を肩に担ぎ、どこかへと通じる別の鉄扉へ移動する。

 クリスは破壊された大金庫の元へ行き、目的の物を探す。
中には、カトリーヌの財産の一部であろう金塊やウォール紙幣の束が山積みに詰め込まれてあった。
その中に1枚、書類を入れる封筒があった。金目の物には手を触れず、それだけを回収する。

「契約書を奪われたっ!何としてでも取り返せっ!」

 隊長らしき男がクリスを指差し、焦った声で喚いた。
鎮圧部隊は盗まれた書類を奪還するために一気に押し寄せる。
必死の猛攻に出て、銃弾の嵐を引き起こした。

「うざってぇ!火薬玉でも食ってろ!」

 アシュレイは中型の砲弾を改造して作った爆薬を影から放り込んだ。
眩い光が一瞬だけ目をくらまし、大砲に匹敵する威力の爆風が敵兵を跡形もなく吹き飛ばす。 
飛び散った肉片が壁や天井にべっとりと付着し、焦げた臭いと混ざって、吐き気を及ぼす香りが充満した。

「んじゃ、行くとすっか?できんなら、ちったぁ、自力で歩いてくれよ?」

「苦労をおかけして、すみません・・・・・・無事に帰れたら、僕の持ってるウォールの半分をあげます・・・・・・」

「その約束、忘れねえからな?絶対に呼吸だけは、やめるんじゃねえぞ?」

 ギャング達は負傷者を先に行かせ、時間稼ぎのためにサクラが足止めする。

「邪魔しないで!」

 サクラは杖を構え、魔法を発動した。
光る石が放出したのは、魔弾ではなく黄金色に光る液状のようなもの。
直後にそれは烈火となり燃え広がった。
火炎放射に飲み込まれた敵兵は、火だるまになりながら踊り狂い、やがて灰となり崩れ落ちる。

「サクラ!僕達も行くぞ!」

 別の通路の内側で手を招くクリスの姿が映った。
サクラも仲間がいる入り口に飛び込んで、2人で鉄扉を閉ざす。

「クリス!サクラ!俺の代わりにステラの子守をやれ!まだ、重要な仕事が残ってやがった!」

「重要な仕事?」

 アシュレイはステラを2人に預けると、通路を引き返して鉄扉に特殊な爆薬を取り付ける。
それは白い火花を散らす共にジュー!っと音を立てて、厚い金属を溶かした。

「テルミットで扉の隙間を溶接した。こうすりゃ、ファミリーの連中は永遠に入って来れねえってわけだ。奴らの悔しがる様が目に浮かぶぜ」

Re: エターナルウィルダネス ( No.66 )
日時: 2022/01/30 19:30
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

 追撃を足止めしたギャング達は脱出を図るため、どこへ通じているか分からない通路をひたすらに進んでいく。
前方からの敵の襲撃を想定し、健全なアシュレイとサクラが後方の仲間を先導する。
列の中心にいたクリスは負傷で立つ事も厳しいステラをしっかり抱きかえて歩行の手助けし、もう片方の手には銃を握って応戦に備えていた。

「ローズ!もう少しで外に出られる!しっかりするんだ!君とはまた、一緒にウィスキーを飲み交わしながら、したい話がたくさんあるんだ!」

 例え、声が届かないと分かっていても、デズモンドはローズを必死に励まし、希望の言葉を投げかけた。

「・・・・・・」

「ローズさん・・・・・・!」

 意識のないローズは無言で項垂れたまま、2人に体を引きずられ、足が床に擦れる。
ヴェロニカも泣きじゃくりたい思いをぐっと堪え、今は患者の搬送に専念した。

 足を止めずにしばらく行くと、やがて、通路に終わりが見えた。
正面に現れた出口の穴はどこかのエリアを覗かせている。

「あれは・・・・・・出口・・・・・・出口ですっ!出口が見えました!」

「あそこが外に繋がってるに違いねぇ!ひゃっはー!賭けってもんは、最後に運が回るから面白ぇんだ!このまま突っ切ろうぜ!」

 サクラとアシュレイは歓喜を繕った表情を振り返らせ、そう遠くない終着点を指差した。
気分の高揚につられ、クリス達の顔にも綻びが芽生え始める。

「ようやく・・・・・・この地獄から、抜け出せ・・・・・・るんですね・・・・・・」

 辛そうながらもステラも安心し切った様子だ。

「僕達の勝利だステラ!だから、頑張れ!絶対に君を死なせはしない!」

 ギャング達は既に勝ったつもりでトンネルを一気に走り抜け、出口から飛び出した。
その途端、彼らの足は急ブレーキに等しい勢いで停止し、全ての感覚が虚ろと化す。
期待は叶うどころか、彼らを出迎えたのは・・・・・・


「侵入者共!!今すぐ、武器を銃を捨てろ!!」


 絶望的な結果だった。
行き着いた先はゴールなどではなく、待ち伏せという罠だったのだから・・・・・・

「冗談・・・・・・だろ・・・・・・?」

 アシュレイは、その一言しか発せられなかった。隣にいたサクラも思考が巡らず、凍えた仕草が固まる。

 不運にも、ここにも鎮圧部隊が配備されていたのだ。
部隊長らしき隊員が今にも飛び掛かってきそうな剣幕で侵入者に怒鳴りつける。
無数の銃口の全てがクリス達に集められ、いつでも発砲できる状態だ。
少しでも妙な動きをすれば、掃射が始まり、こちらは瞬く間に蹂躙されてしまうだろう。

「侵入者に告ぐ!!10秒の猶予をやる!!ゆっくりと武器を地面に置け!!大金庫から盗んだ書類もだ!!それが済んだら、両手を頭の後ろに回し、跪け!!」

 部隊長が二度目の投降命令を下す。

(そんな・・・・・・せっかく、危険を冒してまで、ここまで来たのに・・・・・・)

「私達・・・・・・ここで死ぬの・・・・・・?」

 サクラとヴェロニカが響かぬ思いと声で人生の終焉を受け入れかけた。
為す術がないまま、あっという間に10秒が過ぎ、銃殺刑の号令がかかる。

「撃てぇ!!」

 密閉された空間に銃声が木霊する。
クリス達の射殺を命じた部隊長の片方の眼球が破裂し、共に光線が飛び出した。
彼は血飛沫を部下に浴びせ、ガクガクと頭部を揺らして逆鱗の表情を保ちながら、地べたに伏せる。

 思わぬ事態に動揺した兵員達は侵入者の処刑を忘れて振り返った途端、数発の轟音が鳴って胴体にクルミより、やや大きい銃創を作った。
次々と倒れる死体の前には、白煙が上った銃口を向け、生真面目な面構えをするリチャードとリリアの姿が。

「・・・・・・なっ!?」 「くそっ!後ろだ!」

 不意を突かれ、鎮圧部隊の攻撃対象が2人に切り替わる。
その時、列の端にいた兵士が隣で殺気を感じ取った。
いつの間にか、メルトが横に回り込んでいたのだ。
敵の目に映ったのは、彼女は斧を振りかざし、突進して来る勇ましい猛攻。それが迫ったと認識した時、既に手遅れだった。

 スバババッ!と綺麗に裂ける音が途切れずに繋がる。
僅か一振りで、厚く幅広い刀身は数人の兵士の首を一瞬にして刎ねた。
頭部を失った胴体は1人目から順番に赤黒い噴水が噴き出す。

 彼らは舞踊のような鮮やかな襲撃をしかけ、残りの敵を的確に仕留めていく。
鎮圧部隊は一気に形勢を逆転され、僅かな抵抗もできずに全滅した。

 最後の1人を斧で叩き割った後、メルトは殺意の形相がクリス達に向く。
途端にその面持ちは、あざとく柔らかいものへと変わった。

「おっ待たせ~!頼れる助っ人!メルトちゃんの登場だよ~ん!」

 と返り血が付着した笑顔で友好的に手を振った。
その狂喜に満ちた姿にクリス達は再びゾッとさせ、強引な苦笑を誘う。

「ハイペシア最大の銀行相手に強盗をやってのけた気分はどうだ?カトリーヌの秘密に関した手掛かりは得られたか?」

「・・・・・・え?ああ、欲しい物は手に入れた。これだ」

 率直な質問にクリスの返答に遅れが生じる。盗んだ書類を自身の顔の前にかざし、略奪の成功を証明した。

「リチャード達の到着が遅かったら、危ないところだった。でも、どうして皆がここに?」

「言っただろ?逃走経路を確保しておいてやるってな」

「たった今、逃走経路を確保したんじゃない?」

 想像していた計画とは違っていた事にクリスは呆れて気の抜けた薄笑いをしたが、窮地から救ってもらった事に関しては素直に感謝の意を示す。

「あら?アシュレイ、あんたも生きてたの?残念だわ。もう二度と、その悪党面を拝まなくて済むと期待してたのに」

 リリアの嫌みにアシュレイは、けっ!と不機嫌そうに顔を怒りで歪ませ、言葉遣いが汚い文句を垂れた。

「遅えんだよクソアマ!もう少しで全身が穴だらけになるとこだったじゃねえか!」

「あら、ごめんなさい。無事に助けられたんだから、ベストなタイミングだと褒めてほしかったわ。まあ、あなたが殺された後で駆けつけてもよかったんだけど?」

「再会を喜びたいところだけど、ステラとローズが撃たれたんだ。どちらも重傷で特にローズは予断を許さない有様だ。ヴェロニカの医療処置がなかったら、確実に命はなかったよ」

 デズモンドが最も重要な報告をする。
仲間が死に瀕した悲報を聞かされても、リチャードに焦りはなく、冷静な感想と判断を述べた。

「やはり、怪我人が出たか・・・・・・だが、死人が出なかっただけ奇跡だ。ヴェロニカを同行させておいて正解だったな。怪我した奴を馬に乗せるのを手伝え。ここまでの騒ぎを起こした以上、ホテルには帰れん。ユーリがうってつけの隠れ家を確保しておいたんだ。街中の殺し屋に追われる前にさっさと退散するぞ」

Re: エターナルウィルダネス ( No.67 )
日時: 2022/02/13 19:51
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

 カトリーヌの密書を奪い、スターリック銀行から命からがら脱出を果たしたクリス達は裕福な都市部を離れ、貧民街へと身を潜めた。
長い間、誰も住んでいない古い廃屋を新たな隠れ家とし、ギャング達は気を緩められない状況の中でも、ひとまずは休息を取って傷と疲れと癒す。
ニューエデンズを実質、支配したルフェーブル・ファミリーの騒ぎは鎮まる事を知らず、ハイペシア最大の大都市は戦場のように騒然の場と化していた。
街の全域は警備隊で溢れ、警戒網を張り巡らせては、通路という通路に検問所が設置されるまでに・・・・・・


「あれから半日が過ぎたけど。私達がいたエリアは今じゃ、近寄れないくらいの修羅場になってるみたいね。とんでもない事態を招いてしまったものだわ」

 廃屋の上階の家具が粗末な部屋で、リリアは窓のカーテンの隙間から遠くに位置する元いた区域を覗き込んでいた。
リチャードも同じ部屋にいて、彼は椅子に腰かけては煙草の煙を吐き出し、のんびりとした一服を味わう。

「当然だ。街の中心の大企業であれだけの騒ぎを起こしたんだ。ファミリーの奴らは血眼になって、カトリーヌの切り札の秘密を握った俺達を探してる。連中は住民を強引に捕えては、住宅やあらゆる施設に押し入り、乱暴なやり方で犯人捜しに明け暮れているようだ。俺達のせいで死人が出なければいいが。いつまでも優雅に過ごしていたいところだが、いずれ、ここも安全な場所ではなくなるだろう。ほとぼりが冷め次第、早々にニューエデンズを出た方が利口な判断と言えるな」

 リリアは不信感と不安の両方を抱き、焦り気味の態度で問いかけた。

「その奪った密書の事なんだけど・・・・・・わざわざ、街そのものを戦火に包ませたほどの価値があるんでしょうね?」

「さあな。クリス達の証言からして、一応、期待はしていいと言ったところか・・・・・・俺とあいつで書類を確認したんだが、盗んだ契約書は暗号文になっていて、凡人には読めない文章が記されていた。休息を取ったら、後でデズモンドが解読する予定らしい。後は、何か有力な情報を得られる事を祈るばかりだな」

 リリアは今度は苛立ちを露にして、がさつにカーテンを閉めると怒りが募った拳を震えさせる。

「デズモンドとヴェロニカがいなかったら、ローズは死んでいたのよね?・・・・・・冗談じゃないわ!意識を失い、死にかけた彼女を見た時、一瞬、視界に映る世界が真っ暗に染まった!同時に怒りを抑えるのに必死だったわ!クリスとアシュレイ!あの2人は救いようのない大バカで幼稚な子供よ!たかが、個人的な復讐欲のために、どれだけの仲間が命の危険に晒されなきゃいけないと思ってるのよ!サクラとメルトやステラからしても、いい迷惑だわ!」

 どんなに吐き出しても、リリアの溜まりに溜まった鬱憤は晴れそうにない。その様子にリチャードは、フフッと物静かに笑いを零した。

「お前の言う通りかも知れんな・・・・・・復讐なんて罪と古傷、虚しさを増やすだけだ。だがな?運よくお前の大切なローズは殺されかけようが、死神に手を引かれる事はなかった。だが、あいつらは違う。クリスは妹を、アシュレイは親父さんを、唯一の肉親をカトリーヌに殺されてるんだ。今のあいつらの生きる意味は復讐だけなんだ。俺も過去に最愛の妻と10代にも満たない息子を盗賊に殺され、復讐を人生に捧げたもんだ。だから、大切な者を奪われた2人の気持ちがよく分かる」

「・・・・・・」

「それに他の奴らだって、損得や気紛れでついて来てるわけじゃない。メルトは犯罪を好き放題に撒き散らす実姉の過ちを正そうという大義のために戦っている。ユーリもかつて仕えていた上官の凶行を止めよう聖書を捨てて再び、狙撃銃を手に取った。ステラやメルトとサクラやデズモンドも暴虐が蔓延る世の中から、虐げられる人々を救おうと武器や才知を活かしている。ルイスに関しては、ただの腐れ縁かも知れんが、幼いミシェルだってクリスと同じ宿命を背負い、命を懸ける覚悟だ」

「・・・・・・」

 俺が言いたい事の意味は分かるか?目的が違えども、それぞれがそれぞれの正義を担いで戦っているんだ。ローズ・・・・・・そして、リリア。お前だって、その一員である事を忘れるな?」

 リリアは仲間全員の存在を尊重するリチャードの力説に感想を述べる事はなかった。窓際から遠ざかると、彼に背を向けて階段を下り始める。

「どこに行くんだ?」

 一旦、足を止めた彼女は顔を相手に向けず、去り際に言い放った。

「決まってるじゃない。ローズの容態を見て来るのよ。あと、クリスとアシュレイがいたら、思いっ切り殴り飛ばしてやるつもり。それくらいしなきゃ、私の気が済まないわ」


 下階では大勢のギャング達が集い、意外な事な事に愉快に賑わっていた。
彼らは怯えて物陰に潜むどころか、堂々と姿を晒し、部屋に居座っていたのだ。 
街中にいる敵勢から、追われる身となっている立場を自覚していないように楽しそうで親友や恋人が集うパーティに似た光景が描かれていた。

「ステラさん?傷の塩梅はどうですか?しっかりと消毒して、傷を縫い合わせたつもりなんですが・・・・・・鎮痛剤は必要ですか?」

 応急処置を担当したヴェロニカが薬を手にステラに問いかける。

「え?ああ!大丈夫!大丈夫ですって!撃たれた事なんて、もうすっかり忘れてましたから。僕はいつも通り、元気いっぱい!幸せいっぱいです!傭兵たるもの、大金を拝めるまでは死ねない体なんですから!」

 軍医の少女に傭兵は黄金のような黄色いの瞳を輝かせ、前向きな台詞を連発する。

「それと・・・・・・ごめんなさい・・・・・・」

「・・・・・・え?どうして、謝るんですか?」

「私の不注意のせいで、ステラさんやローズさんを苦しい思いをさせてしまいました」

「な~んだ。そんなの100年前の過去の出来事です!気にしてませんから安心して下さい!そんな暗い顔しないで?ほら、笑って笑って♪昔から、よく言うでしょ?"藁(わら)の門にフグが来る"って!」

 その横でアシュレイがテキーラを片手に愉快に大笑いし

「ぎゃははははっ!!それを言うなら、"笑う門には福来る"だろ!?・・・・・・ったくよ!傷を縫った途端、急に元気になりやがって!こっちはてめぇが死んじまうんじゃないかって、マジで心配したんだぞ!?」

 とステラの肩を加減の弱い力で強めに叩く。
偶然とはいえ、張り手が当たったそこは撃たれた箇所だった。

「いてててててっ!!!」

「あ、わりぃ・・・・・・」

Re: エターナルウィルダネス ( No.68 )
日時: 2022/02/28 18:54
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

 一方、キッチンでは、放置されていた調理場を利用し、ユーリが食事の支度を行っていた。
大鍋にたくさんの具が入ったスープを煮込み、食欲を誘う香りを漂わせる。
彼女はブクブクと泡ぶくスープを僅かにお玉ですくい上げ、味見した直後に微小に破顔した。

「ふふっ。我ながら、なかなか悪くない味です」

 と自身の料理を評価した時、サクラとメルト。そして、ミシェルがやって来た。

「ユーリさん。パンが焼き上がりましたよ」

「お肉もこんがり焼けたよ~♪」

「私が果物の皮を全部剥いたんだよ!凄いでしょ!?」

 調理を手伝っていた3人も、それぞれの役割を済ませた事を告げる。

「ありがとうございます。私1人だけだと、大勢の分を作るのは大変なので手伝ってくれて凄く助かりました。後は食事をテーブルに並べるだけですので、他の皆さんに知らせて来てくれませんか?」

「はいは~い!私、1番大盛りね♪」

「私もお腹一杯食べたい!ユーリお姉ちゃんのご飯大好き!」

 メルトとミシェルの無邪気に喜ぶ姿にユーリとサクラも嬉しそうに満面の笑みを送った。


 リリアは、そんな賑わいが栄えた部屋を素通りし、違う一室へと足を運んだ。
やってきたのは、光が灯されていない薄暗い寝室。
そこでローズはベッドの上に孤独に横たわっていた。
死を免れ、意識を取り戻したものの、顔は青ざめ、具合が悪そうに天井を眺めている。まるで身寄りのいない入院患者のようだ。

「気分はどう?」

 リリアが切ない笑みを浮かべ、親友に問いかける。

「気分はどうって・・・・・・?最悪に・・・・・・決まって・・・・・・ぐっ!はあはあ・・・・・・あなたが・・・・・・お見舞いに来るまでは・・・・・・ね・・・・・・」

 ローズも寝たきりの姿勢のまま、無理に弱々しい笑顔を繕った。

「ごめんなさいね・・・・・・できるなら、花束を買って来てあげたかったんだけど・・・・・・生憎、街はご覧の通りだから・・・・・・」

「ううっ・・・・・・!相変わらず・・・・・・優しいのね・・・・・・この組織の中・・・・・・で淑女はあなただけ・・・・・・よ・・・・・・ありがとう・・・・・・気持ちだけ・・・・・・受け取っ・・・・・・ておくわ・・・・・・」

「何かしてほしい事はある?できる範囲の事なら、してあげられるけど?」

「私なん・・・・・・かに・・・・・・気を遣わなくてい・・・・・・いわよ・・・・・・今はとにかく、痛みとか・・・・・・撃たれた記憶・・・・・・が忘れられるウィスキーが飲・・・・・・みたい・・・・・・」

 リリアは微かに安堵の兆しを見せ、彼女の口から珍しくジョークが出た。

「ふふっ。傷が癒えても相変わらず、お酒の執着だけは治らないのね?その執念のお陰で死ななかったのかも?」

「違いないわ・・・・・・仲間と温もりを飲み交わし・・・・・・た時ほど・・・・・・ほろ酔い気分になれ・・・・・・ないけどね・・・・・・」

 ローズも仲間と共に過ごせる時間に愛しさを感じながら、ベッドの上にあったリリアの手に自身の冷たい手を置いて、そっと包み込む。
光が乏しくても、その目には純粋な想いが宿っていた。 

「ところでクリスはどこ?どの部屋を覗いても見当たらないの。あいつにも大事な用があったんだけど、どこに行ったのかしら?」

「クリス・・・・・・あ・・・・・・ああ、あの子なら・・・・・・街に出かけた・・・・・・らしいわよ・・・・・・?」

「街・・・・・・!?・・・・・・一体、何のために!?」

 リリアは唖然とし、ここにはいないクリスの行動を正気じゃないと言わんばかりに更に理由を尋ねた。

「あの子の・・・・・・元に・・・・・・"手紙"が送られてきた・・・・・・らしいわ・・・・・・差出・・・・・・人は分か・・・・・・らないけど・・・・・・その人に・・・・・・会いに行ったみ・・・・・・たい・・・・・・」



 街は終わったばかりの暴動の跡地のようだった。
ルフェーブル・ファミリーの武装した兵員によって、住人達は粗暴な検問を強いられている。
中には、それを拒んだために集団から暴行を受け蹲る者も少なからず存在した。
普段なら、暮らしに不自由のない都市としての平穏な面影はどこにもない。

 その中を1人の若いシャドーフォルクが堂々と歩き、痛々しい光景とすれ違っていく。

「おい!お前!そこで止まれ!」

 そして早速、奴らに目を付けられ、厳しく命令される。
ファミリーの1人がホルスターに収まったリボルバーを握ったまま、こちらへ駆け寄って来た。

「この街に潜伏していると思われるスターリック銀行の襲撃犯を探している。悪いが、調べさせてもらうぞ?大人しく従ってくれれば、手荒な真似はしない」

「ああ、いいよ。どうぞお好きに」

 クリスは動揺も逃げる素振りもなく、素直に要求に応じた。
両手を上げ、無防備な姿勢を取ると、すぐに殺し屋達は群がって来た。
武器を取り上げ、全身をベタベタと触っては、念入りに服を漁る。

「服装からして、この街の住人じゃないな?別の集落から来たのか?」

 殺し屋の1人が怪しさを抱いた刺々しい視線で質問を投げかける。

「僕は旅行者だ。炭鉱が盛んな街から来たんだけど、久々の長期休暇を楽しもうと思ってね」

 と真実を述べるように器用に誤魔化した。
その人物こそが今日の騒動の犯人である事を気づかずに。

「お前は、俺達が探していた奴とは違うようだ。時間を取らせてしまったな。行っていいぞ?」

 クリスは"どうも"とだけ答え、返却された武器を再び装備し、歩みを再開する。
事件の首謀者を無関係者だと誤認した殺し屋達は、その場から立ち去って行った。

Re: エターナルウィルダネス ( No.69 )
日時: 2022/03/14 20:02
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

 クリスが向かった先は1軒の酒場だった。
田舎集落のよくある酒場とは異なり、建物は一際大きく、高級レストランやホテルにも似つく。
訪れる客人も富豪らしい洒落た服装を着こなした者ばかりだ。

 都会ならではの酒場を見上げていたクリスは無表情に微妙に生真面目が入り混じる。
少し落ち着きを失い、違和感を覚えてむずがゆくなった胸をかいて、店の扉を開けた。

 酒場に足を踏み入れると、そこはまるで貴族の別荘の一室と言っても過言ではなかった。
酒を浴びるように飲んで騒いだりケンカする者はおらず、訪れた客人全員が上品に食事を嗜む。
小さなステージには歌手が耳心地がいい歌声を聴かせ、背後で数人の演奏家達がそれぞれの楽器を奏でる。 

 ここに来て早々、クリスの目に1人の人物が止まる。
その人物はルシェフェルであり、長い白髪は背中半分を覆っていた。 
背はクリスよりも小柄で非力そうな細身の体格。
歌手に注目する中、1人だけ興味がなさそうにカウンターに腰かけ、誰かを待っているかのようにじっとしている。

 クリスはカウンターに行き、バーテンダーにジンと甘いソーダを注文した。
2つのグラスを手に取ると、ルシェフェルの隣に立ち、片方をテーブルに添える。

 ルシェフェルの少女は頼んでいない飲み物が手元に置かれた事で、やや驚いた表情でクリスを見上げた。
やがて、それはおっとりとした可愛らしい笑みへと変わっていく。

「長い時間、待たせられたせいで喉が渇いてたんじゃないかと思ってね。君はお酒が飲めないから・・・・・・ソーダでよかった?」

 歓喜のあまりか、ルシェフェルの少女は席から立ち上がった。
少しの時間、目の前に立つクリスを黙視し、途端に真剣な表情を繕う。

「久しぶりだね?会えてよかった・・・・・・」

 フィオナと呼ばれた少女は涙声に似た声で再会できた喜びを露にした。

「僕もだよ。"フィオナ"。しばらく、会ってなかったけど、君も元気に過ごしているようで安心した」

 クリスも心から思った感想を述べると同じように笑みを崩し、受け取った手紙を差出人の前に出した。

「だけど、君は僕の事を未だに許せずにいるはずだ。なのに、わざわざ手紙を送って来たって事は、僕に何かを解決してほしい悩みがあるという事だよね?」

 フィオナは小さく頷き、用件を伝える前にもう1つの望みを口にする。

「・・・・・・でも、その前に、あなたと話がしたいの・・・・・・本当に久しぶりだから、話したい事がたくさんあって・・・・・・」

「勿論だよ。ちょうど、僕も君との時間を大切にしたかったんだ。滅多に逢えるものじゃないからね」


 それからというもの、クリスとフィオナは酒場に留まり、色々と喋り合った。
距離を置いていた間、お互いがどのように過ごしていたかについて。昔の暮らしを懐かしむ過去の思い出話。
そして、不純な生き方や理不尽な暮らしを余儀なくされた今と言う現実。
どれだけ時間を費やしても、話題は尽きなかった。

「・・・・・・クリス。本音を明かせば、私は今でも、あなたが好き。でも、数年前・・・・・・あなたは私が知らない違うあなたへと変ってしまった・・・・・・」

「僕が君の反対を押し切って、軍に入った事・・・・・・まだ怒ってるのかい?」

 フィオナは"そうだ"と言わずとも、次の台詞で肯定を示した。

「私はあなたに人殺しになってほしくなかった・・・・・・あなたと私・・・・・・そして、妹のリーナちゃんと悪い事とは無縁のまま、ずっと平和に暮らしていたかった・・・・・・」

「僕も好きで人殺しになりたかったわけじゃないよ。でも、戦場で戦果を上げれば、たくさんの報酬が手に入る。君やリーナにも、もっといい暮らしをさせてあげられると思ったから」

「それで何を得られたの・・・・・・?」

 フィオナは空になりつつあるグラスを強く握りしめ、隣に座るクリスをキッと睨んだ。

「あなたは、かつての優しい自分を殺し、実質、人殺しになっただけ。そして、今度は復讐のために多くの人の命を奪ってる。スターリック銀行で起きた今朝の襲撃事件・・・・・・新聞で読んだよ。あれ、クリスがやったんでしょ?」

 鋭い勘が見事に的中し、笑い所ではなくてもクリスは思わず苦笑してしまう。

「昔からそうだ。どんなに器用に誤魔化しても、君は僕の嘘をすぐに見抜いてしまう」

「もう、こんな事はやめて!こんなの、私が知ってるクリスじゃない!お願いだから、昔みたいに平穏に暮らそう・・・・・・!?」

「それはできない。早くに両親を亡くし、僕はリーナと手を取り合って生きてきた。妹は僕の全てだった。だけど、カトリーヌ・ルフェーブル・・・・・・あいつは彼女を意図も容易く奪い去った・・・・・・僕の目の前で、頭を撃ち抜いたんだ・・・・・・!」

 フィオナは凶行をやめるよう、真剣に訴えかけるがクリスは即座に否定する。理由を語った台詞の語尾は抑えがたい憎悪がこもっていた。

「もうこれ以上、誠実なあなたが殺人という最も残酷な罪で穢れいくのが耐えられないの・・・・・・!」

 理解してほしい想いを伝えた末、遂にフィオナの目に涙液が滲む。クリスは真剣に向き合っていた目線を下に逸らした。しかし、情に流される事なく、誓いを濁らせかけた自身の甘えに抗う。

「すまないフィオナ。いつの時でも、君が絶対的に正しい。でも、亡骸だらけの道を辿る今の僕が本当の僕だ。カトリーヌを殺し、妹の復讐をやり遂げる。全てが狂ったあの時から、その執念だけで生き永らえてきたんだ。例え、君がどんなに正しい方向へ手を引こうとしても、僕に引き返すつもりはない」

「クリス・・・・・・」

「軽蔑したいなら、いくらでもすればいい。蔑まれる生き方には、とっくに慣れているから」

「・・・・・・」

 フィオナは沈黙する。
想いが届かず、深く失望した様子で彼女も幼馴染みを視界から外す。
少しの間、互いに沈黙が続いた末、クリスが口を開く。

「そろそろ、本題に入ろうか?君が手紙で僕を呼んだ本当の理由を教えてほしい」


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