複雑・ファジー小説
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- エターナルウィルダネス
- 日時: 2020/02/13 17:55
- 名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)
乾いた土、枯れた草木、その上に零れ落ちた血の跡・・・・・・復讐の荒野は果てしなく、そして永遠に続いていく・・・・・・
ディセンバー歴1863年のオリウェール大陸。
西部諸州グリストルと東部諸州ハイペシアとの内戦が勃発。
かつて全盛期だった大陸は平穏の面影を失い、暗黒時代への一途を辿っていた。
王政派の勢力に従軍し、少尉として小隊を率いていたクリス・ヴァレンタイン。
戦争終結の後、退役軍人となり、両親が残した農場で妹であるリーナと平穏に暮らしていた。
しかし、突如として現れた無法者の集団による略奪に遭い、家は焼かれ、リーナを失ってしまう。
運よく生き残ったクリスは妹を殺した復讐を決意し、再び銃を手にするのだった。
彼女は頼れる仲間達と共に"ルフェーブル・ファミリー"の最高指導者"カトリーヌ"を追う。
・・・・・・・・・・・・
初めまして!ある理由でカキコへとやって来ました。"死告少女"と申します(^_^)
本作品は"異世界"を舞台としたギャングの復讐劇及び、その生き様が物語の内容となっております。
私自身、ノベルに関しては素人ですので、温かな目でご覧になって頂けたら幸いです。
・・・・・・・・・・・・
イラストは道化ウサギ様から描いて頂きました!心から感謝いたします!
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・お客様・・・・・・
桜木霊歌様
アスカ様
ピノ様
黒猫イズモ様
コッコ様
- Re: エターナルウィルダネス ( No.35 )
- 日時: 2020/10/18 21:20
- 名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)
「襲撃が起きた際、2人は何をしていたんですか?患者達はどこへ?」
すると、ヴェロニカが罪悪感に囚われたような面持ちに一変させ
「襲撃の際、私と神父さんは患者の皆様の避難を優先させました。でも、患者の皆様は我々を死なせたくなかったのか、逆に自らを犠牲にして我々を匿ったんです」
「本当に自己犠牲の強い勇敢な方々でした。大勢の迷える人々が自分の命に代えてまで、ヴェロニカさんの恩に報いたのです。彼らがエデンへの門を潜れる事を心からお祈りします」
神父も悲しみに鼻を啜り、冥福を祈る。
「なるほどな。診療所の連中は、そんだけヴェロニカを好いてやがったんだな・・・・・・この貸しは大きいぜ。二度と返してやれねえけどな・・・・・・」
アシュレイも珍しく胸に手を当て、死者に謝意を示した。
ステラが一足先に診療所を出て、出入り口から体を覗かせながら手を招く。
「とにかく、僕達の目的は果たせました。これ以上の惨事が降りかかる前にアドニスを離れましょう。外で味方が待機しています」
探していた少女を連れ、煙の中から帰還する3人の仲間を認識した時、ギャング達の歓喜は最高潮に達した。
相好を崩し、全員がクリス達の帰りを歓迎する。ステラに飛びついて抱きつくメルト。
リチャードも豪快に笑い、クリスとアシュレイの首を腕に挟んで髪を加減のない力で撫で回した。
感激のあまり、サクラも嬉し泣きした素顔を両手で覆う。
「へえ、なかなかの美少女じゃない。アシュレイには勿体ない人材だわ」
ローズは嫌みを含ませながらも、幸福な結末を素直に祝福する。
「わざわざ、滅んだ街に足を運んで深手を負った甲斐があったわ・・・・・・まさか、死体の山にお目当ての生者が埋もれていたなんてね・・・・・・」
デズモンドに肩を貸されたリリアも痛みに耐え、目的を成し遂げた達成感に苦し紛れな笑みを作った。
「アシュレイ。この人達があなたが言っていたギャングの・・・・・・?」
「ああ、こいつらがそうだ。頭は足りねえが、いざという時に頼りになる連中だ」
愉快な面持ちを浮かべながらアシュレイが言って、釣られてヴェロニカがクスッと笑いを吹き出す。
「頭が悪いのはあんたよ」 「頭が悪いのはあんたよ」
ローズとリリアが口を揃え、皮肉を吐き捨てる。
リチャードはヴェロニカに歩み寄って、歳も身長も離れた子供に行き場を遮るようにして対面した。
そして、普段より真剣に事情と用件を伝える。
「嬢ちゃん、俺達は君に用があってこのアドニスを訪れた。アシュレイの話じゃ、君は軍医に任命されるほどの優秀な医術を心得ていると聞いた。唐突な願い出は紳士的な礼儀に反するが、その才能を俺達のために使ってくれないか?」
ヴェロニカはギャング達の期待が自分を中心に集まっている事を自覚する。
彼女は最初から決めてしていたかのように、すぐさま決断を下した。
「勿論、喜んで協力します。皆さんはこれだけの怪我を負ってまで、知人でもない私を救い出してくれました。断る方が失礼な話です。アシュレイとずっと一緒にいられるなら、私は幸せ。それに・・・・・・」
ヴェロニカは生き甲斐だった診療所の跡に悲し気に満ちた顔を振り返らせ
「今の私に帰る家なんてないから・・・・・・」
「ところでクリスさん。その人は誰なんですか?見たところ、ジャネール教の牧師さんのようですが・・・・・・?」
サクラがクリスの隣にいた神父に関心を引かれた。その言葉が共感を呼び、ギャング達は怪しむ目つきで
「この人は神の教えを請うために最近、アドニスを訪れたんだ。ファミリーの襲撃の際、ヴェロニカさんと一緒に床下に隠れていた」
クリスが言って今度はステラが単純に
「そう言えば、まだ名前を伺っていませんでしたね?僕はステラ・セプティ。あなたは?」
神父は理性的な態度でギャング達に一礼し、はっきりとした声で自己紹介をする。
「私は"ルイス・ベイツ"と申します。バエンシアで生を受け、幼い頃からオリウェール宗教を学びながら育ったのです。30の年齢を迎えて数週間後、教会から聖人の地位を与えられました」
「バエンシアか・・・・・・ちょうど、グリストルとハイペシアの境界にある小さな集落だね」
デズモンドが地名に物珍しさを感じる。
「神父さん、あんたはこれからどうするんだ?アドニスはこの通り、滅んでしまったわけだが・・・・・・どこか行く当てはあるのか?」
リチャードの問いに
「もし、よろしければ私もヴェロニカさんと同様、あなた方の旅に同行させて頂けないでしょうか?無論、迷惑な行為は慎みます」
「・・・・・・分かってるのか?俺達はギャングなんだ。人を殺しては欲しい物を奪い、神の教えなんて耳をすり抜ける雑音でしかない最低な組織だ。俺達に加われば、平和主義で潤った綺麗な手を赤く汚す事になるぞ?」
ルイスは覚悟のこもった形相で睨み返し、
「平和主義は無抵抗という甘い理想とは異なります。愛する者を守る必要があるとすれば武器を手にし、愛を持って誤った者の心臓を貫きます。確かにあなた方を聖者と呼ぶのは難しいでしょう。しかし、悪を裁き、罪なき羊を救った事は大きな徳を積んだと言えます。私はあなた方に恩返しがしたい。それについて行けば、私の知らない壮大な何かを学べる気がするのです」
「神に仕える立場の奴がそんな事を口にするとはな・・・・・・まあ、ただ飯を食う奴よりは心強い戦力になりそうだ。気に入った。ついて来たいなら好きにしろ。飯や寝床は提供してやるが、教会の暮らしと違って、かなりお粗末な物だぞ。それとだ。俺達を売ったり、裏切ったりしたら・・・・・・地獄よりも辛い苦しみが待っているからな?」
執念を認めたリチャードは強迫に等しい忠告を促すと、一足先に馬を取りに向かった。
「その方がいいよ。ここに置き去りにするのも可哀想だし。仲間が増えるっていいね」
メルトが無邪気に言って
「そうね。私達が野垂れ死んだ後、地獄に落ちないよう祈ってくれる人が1人いた方がいいかも。私はローズ。よろしくね?野蛮な神父さん」
ローズは新たにギャングに加入したルイスと友好的に握手を交わす。
「ルフェーブル・ファミリーの野郎・・・・・・俺の幼馴染みに手を出すとはいい度胸してるじゃねえか。この代償は高くつくぜ」
鋭い八重歯を剥き出しにし、殺伐とした態度を取る。
「アシュレイ、聞いて?アドニスの襲撃は"ただの略奪事件"じゃないんだ」
「はあ?そいつはどういう意味だっ!?」
ヴェロニカの聞き捨てならない発言に既に遠のいたリチャード以外全員が足を止め、彼女に再び注目を浴びせる。
デズモンドに限っては至って冷静だった。
「詳しい事は後で聞くとしよう。まずは野営に戻って、休息を取るべきだ。特にリリアはね。ここにいたら、次はどんな危険が起こるか分かったもんじゃない」
「そうですね。アドニスの戦闘であまりにも負傷者が出過ぎました。怪我人の治療を優先した方が得策かと・・・・・・」
サクラも驚けるほどの気力は残っておらず、傷ついた足を引きずる。
ふと、去り際にアシュレイの視線が偶然にも、地面に転がる樽に重なった。
「おい。ありゃ、アドニスのテキーラじゃねえか?ここにあっても腐るだけだ。土産の代わりにして奪っちまおうぜ?」
「そうだね。死者の手にあっても、どうしようもない。あれは僕が運ぶよ」
クリスが能動的に物資の回収を引き受け、皆を先に行かせる。
- Re: エターナルウィルダネス ( No.36 )
- 日時: 2020/09/13 18:35
- 名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)
「脚の痛みは平気?」
太陽が沈み、茜色が残った夕暮れの野営。
クリスは皆が賑やかに囲む焚き火に加わり、ステラの分の夕食を配る。
「あ、どうも!傷の塩梅は絶好調と言ったところですかね!ほら、僕って常に苦難を恋人にして生きてるようなものですから!昔の偉人も言ってたでしょ!?ほらっ!"おむすび早起き"ってっ!」
「くすっ!あはは!それって、"七転び八起き"?ステラって本当に嘘が下手なんだから。瞳、緑色に染まっているよ?」
痛い所を突かれ、焦りに焦るステラをクリスが愉快に笑い、彼の隣に腰かける。
湯気の立ったスープを兎肉ごとすくい、吐息で冷まして口に運ぶ。
アドニスの救出劇が幕を下ろしてから、数時間が経過していた。
ヴェロニカの協力で傷の縫合を済ませた負傷者達は戦場で受けた痛みを忘れ、仲間同士、陽気な会話を楽しむ。
激戦から生きて帰れた事と目的を果たせたこの2つの達成感に浮かれているのだろう。
「それでね、サクラが私を庇って怪我を負ってしまったの!でも、ここからが凄いんだよ!」
メルトは先ほどの自分達の活躍を伝記のように、仲間に語り掛けていた。
「サクラの作戦で狙撃手が呆気に取られてね!その隙を突いて、私は全速力で走ったんだ。そして、斧で櫓を・・・・・・!」
「お得意のドーーーンで崩したんだろ?そして、最後は狙撃手の額を叩き割った」
肝心な結末をリチャードに横取りされ、メルトは頬を膨らませ
「あーん!私が言いたかったのにぃ!」
むきになった性格にリリアとローズ、デズモンドが笑う。
大人達の列の横でユーリとミシェルも穏やかな笑みで眺めていた。
「私は、大した事なんてしてません・・・・・・あの作戦だって、偶然、閃いただけで・・・・・・」
得意気な演説をするメルトとは異なり、サクラは口数を少なくして腰の低い態度を取る。
被弾した脚を細かく気にしているのをデズモンドは最初から知っていた。
「メルトの突撃も勿論だけど、サクラの策がなかったら狙撃手を仕留める事は不可能に近かっただろうね」
デズモンドは称賛を送るが、一旦はその笑みを崩し、真面目になって過ちを悔んだ。
「僕が無理をさせたばかりに君達に危険な思いをさせてしまった。本当にすまない。サクラの負傷は僕の責任だ。最悪な判断で危うく仲間を殺してしまうところだった。単純なリスクも考えられないで、僕は探偵の風上にも置けない男だよ」
「・・・・・・え?い、いえいえ!そんな・・・・・・!デズモンドさんだって、リリアさんの手当てで手を離せなかった・・・・・・私は平気ですし、皆さんを守れた事を誇りに思っています!だから、自分を責めないで下さい!」
サクラはデズモンドの反省に対し、懸命に気を遣った。
「しつこいようだけど、あの大爆発は何だったのかしら?あの不祥事のお陰でこっちの立場が優勢になったわけだけど、妙に引っかかるわ」
リリアが相変わらずの事を語り草のようにして、真実を追求すると
「あの爆発は私が原因です」
一瞬で謎が解けたユーリの唐突で衝撃的な発言にギャングの何人かは"え・・・・・・"と一言にした。
「私が酒樽の山を狙撃したんです。その結果、予想以上の大爆発が起きてしまって・・・・・・皆さんに害が及ばなくてよかった。不謹慎ですけど、皆さんの負傷の原因は私のせいじゃないと知った時は胸を撫で下ろしましたよ」
「あの爆発は、ユーリさんが・・・・・・!?」
サクラが皆が口を揃えて言いたかった発言を代表して言った。
「ミシェルのお陰です。お礼なら、この子に言ってあげて下さい」
「・・・・・・え?どうして、ここでミシェルが出てくるの?」
シナリオを把握できないメルトが質問の矛先を
「私が山積みになったお酒いっぱいの樽を見つけたの。ちょうど、敵の真ん中にあったから。撃ったら、あいつらを一気にやっつけられるんじゃないかって・・・・・・」
ギャング達は眉間にしわを寄せると、寄って集ってミシェルを睨んだ。
しかし、その強張った表情が溶け、一瞬にして喝采が鳴り響いた。
1人の幼い少女が英雄視の的になる。
「玩具の銃すら扱えないガキに人生を救われるとはな。よくやった。お前も晴れてギャングの正式なメンバーだ」
「大人に一生の借りを作らせるなんてやるじゃない。ウィスキーを1年分奢っても報酬にならないくらいの偉業を成し遂げたわね。もっと、自分を誇ってもいいのよ」
「君のお陰で、こうして長生きできたんだ。ご褒美は何がいい?1つだけ、欲しい物を買ってあげるよ」
「えへへ・・・・・・」
ミシェルは恥ずかしくなって可愛い照れ笑いを両方の手の平で覆い隠す。
その女の子っぽい仕草にギャング達は一部、手を叩いて愉快に大笑いした。
- Re: エターナルウィルダネス ( No.37 )
- 日時: 2020/10/18 20:25
- 名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)
「・・・・・・ところでよ?ヴェロニカ。さっき、お前が言ってた事なんだが?」
「え?さっきの事って?」
以前の事をすっかり忘れて首を傾げるヴェロニカに呆れたアシュレイは"あん時の事だよ"を語頭に
「言ってたじゃねえか。アドニスの襲撃は、ただの略奪事件じゃねぇってよ。お前が言い出したんだろ」
「僕もそれを聞いてた。アドニスで何があったんだい?詳しく、教えてくれないか?」
話に耳を傾けていたクリスも2人の傍の丸太に移り、内容を聞き出す。
「あの襲撃事件は・・・・・・」
急にヴェロニカは明るい性格を失い、暗い視線を足元に落とした。
紅茶を汲んだマグカップを小刻みに揺らし、燃え盛る焚き火の炎を見つめる。
唇を重く、実に言い辛そうに故郷に降りかかった出来事を話す。
「襲撃が起きる前、街にはたくさんのキャラバンがいた。中には重武装で戦い慣れた兵士達もいたの。そんな時、ルフェーブル・ファミリーの奴らが街にやって来た。奴らは住人を何人か殺すと価値のある物を全部渡すように脅してきた。キャラバンの皆が前に出て兵士達は戦えない人達を庇い、後ろへ控えさせた。数ではこっちが勝っていて、まともに戦えば、奴らに痛手を負わせられるほどの戦力だった。1発の銃声が鳴り響くまでは・・・・・・」
「銃声だと?誰が撃ちやがったんだ?」
アシュレイは気になる点について問いかけると、ヴェロニカはより顔を憎悪でより強張らせ
「"ノーラ・マクレディ"・・・・・・アドニスの市長が裏切ったんだ」
「ノーラ・・・・・・おい、嘘だろ?あの女が街の連中を売ったのか!?」
意外な告白にアシュレイは胸に衝撃を受ける。
その驚愕の声はミシェルを称える歓声に揉み消され、3人以外には聞こえていない。
「なるほど。その市長が1番の戦力となる兵士達を撃ち殺し、アドニス側の兵力を劣勢に覆したんだ」
クリスの推測はヴェロニカが頭を縦に振った事で図星となった。
「そう。まんまと騙され、不意を突かれたんだよ。キャラバンも兵士も民間人だって、街の長が裏切るなんて想像もしていなかっただろうから。あんなに優しくて、暴力を嫌っていた彼女の裏にあれほどの邪悪な本性が隠れていたなんて・・・・・・」
「あの野郎がぁ・・・・・・!」
威嚇を通り越し、敵に飛びかからんとする狼のように殺意を剥き出しにするアシュレイ。
怒りを募らせているのはクリスも同じだったが、理性を保ち、更に問いかけた。
「そのノーラという市長は裏切った後、どうしたんだい?」
「彼女はキャラバンが虐殺された後、ウォールを譲り受けて住人達を好きにするように告げてからアドニスを去った。その後は・・・・・・言いたくもないし、思い出したくもない・・・・・・」
惨劇が目に焼き付いたヴェロニカは語尾を涙声にし、額を抱える。
アシュレイは悲しみに暮れる彼女から目を背けたまま、
「これ以上は何も言うんじゃねえ。後は俺達に任せておけ」
「アシュレイ?ひょっとして、君は・・・・・・」
アシュレイの語尾に嫌な予感を募らせたクリスは念のため確認しようとすると
「決まってんだろ。ノーラとかいう偽善者面した虐殺クズ女をぶち殺しに行くんだよ。ご想像の通りだ」
「僕も妹を殺された身だ。君の仇討ち願望には共感できる・・・・・・だけど、僕が賛成したとしても、他の皆はどう説得するつもりなの?」
クリスは境遇が一致している目的に対しても情に流されず、考えを聞く。
「他の奴らが反対意見を投じるのは目に見えてんだ。あくまでも俺達ギャングの目的はカトリーヌ・ルフェーブルの抹殺だからな。リチャードのおっさんは義理堅い野郎だが、わざわざ個人的な仇討ちに付き合ってくれるほど、お人好しじゃねえ。リリアだったら、俺の顔面に唾を吐き捨てるところだ。ローズも信用できねえし、デズモンドも大した戦力にはならねえ」
「じゃあ、今までの話はなしだ。2人だけで奴らに挑むのは自殺行為なだけだよ」
クリスがあっさりと断念し、"はあ?"と怪訝な顔をして呆れるアシュレイ。
「誰も俺と心中してくれなんて、頼んでねえよ。俺だって、劣勢を承知で自分の命の値段賭けんのはごめんだ。こん中にいんじゃねえか。他人の面倒にも好き好んで首に突っ込む連中がよ」
「もしかして、ステラとサクラ、メルトの事を言ってる?」
推薦しているメンバーを当てられ、アシュレイは"はっ"とわざとらしい笑いを吐き出し
「あいつらが加われば、死ねる気がしねえ。クリス、お前が一緒に来るように説得してくれねえか?狩りっていうもんは大勢でやった方が楽しいだろ?」
「アシュレイが行くなら私も行くよ。私も罪のない皆を殺したファミリーが憎い。一緒に仇を討たせて?」
ヴェロニカも戦場に同行させるよう自ら志願するが
「お前はもう、修羅場を味わわなくていい。故郷の1件だけで十分だ。ノーラの抹殺には戦える奴だけ連れて行く。お前は医者らしく、野営に残って怪我人の面倒を見ててくんねえか?裏切り者の首を手土産にして帰って来てやるからよ」
「・・・・・・分かった。あなたがそう言うなら・・・・・・」
想いを否定され、しょんぼりと黙り込むヴェロニカであったが幼馴染みの望みに従い、ここに留まる事にした。
- Re: エターナルウィルダネス ( No.38 )
- 日時: 2020/10/06 20:16
- 名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)
鳥のさえずりも聞こえない翌朝。
クリスとアシュレイはルフェーブル・ファミリーに寝返ったノーラ・マクレディの抹殺を図るための行動に移す。
選んだメンバーを苦労の末に説得すると、唯一事実を知るヴェロニカに他の者には嘘の伝言で誤魔化すように頼むと早朝に野営を発った。
標的の居場所を探るため、探偵であるデズモンドにも協力を要請したのだ。
彼はクリス達よりも先に出発し、入手した情報を提供する場所として、金鉱で繁栄した山岳付近の集落である"ゴールデンバレル"を指定した。
数時間も馬上で揺れて、ようやく辿り着いたゴールデンバレルの街は夜が明けて間もない時刻でも、その活気さを衰えさせなかった。
街は都会のように賑わい 様々な理由で訪れた人々で溢れている。
クリス達は群衆の一部として集落に紛れ、いずれ幕を開ける復讐劇に備えていた。
「仔羊のソテーとビールを頼んだ奴は誰だ!?後がつかえてんだ!さあ、早く持ってけ!」
酒場の店主が忙しさに半分怒りを募らせた口調でカウンターに料理を並べる。
アシュレイはそれを受け取り、メニューの金額を支払う。
彼は客席に戻り、クリスの向かいに座った。
「やっぱ、街つったらこうじゃねえとな。バカ騒ぎやケンカが日常茶飯事だった故郷が恋しいぜ」
アシュレイは人ごみで狭苦しく、騒々しい憩いの場に一際浮かれていた。
「うるさ過ぎる場所は性に合わない。飲んでもいないのに酔いそうだ・・・・・・」
反対にクリスは合わない環境に体調を崩し、料理にもほとんど手がつけられていない。
「1週間、滞在してみろ。嫌でもなれるさ。でも、まあよ・・・・・・ありがとな。俺のワガママに付き合ってくれてよ。お前らも恩に着るぜ」
アシュレイは一旦は穏和な人格を演じ、感謝をクリスに送るとその背後にいる別席の3人にも礼を言った。
ステラ、サクラ、メルトは嫌気が差した表情で美味しくなさそうに食事を満喫している。
「アドニスで助けられた借りがありますからね・・・・・・ですが、忘れられは困りますよ?例え、恩は恩でも傭兵は金で動くから傭兵なんです。命を危険に晒した分の報酬は払ってもらいますからね?」
如何なる状況に置いても、ステラは見返りを要求し
「勘違いしないでよね?私はヴェロニカのためにやるんだもん。あんたみたいなゲス野郎。死んだって、誰も悲しまないよ」
メルトは反抗的に中傷を好きなだけ投げかけた。
サクラもスープのすすり方で、機嫌の悪さが窺える。
しかし、日頃以上に嫌悪を抱かれていようが、今回ばかりのアシュレイは反省のない文句を吐き捨てようとはしなかった。
「でよ、デズモンドにノーラの居場所を調べさせてるんだろ?随分と待ってんだが・・・・・・いつ来んだ?」
「心配ないよ。ギャングの頭脳とも称されてる彼の事だ。きっと、有益な情報を持ってきてくれるさ」
ふいに、サルーンドアが開き、1人の人物が酒場に足を踏み入れる。
その格好は羽目を外す人々が集う場所にはお世辞を付け足しても、そぐわないものだった。
その人物は落ち着きのない動きで一帯を見回し、やがて探していた誰かを見つけると真っ先に間合いを詰める。
「皆さん、ここにいましたか・・・・・・!」
「・・・・・・え?牧師様!?」
サクラの反射的な叫びは、まわりの注目を浴びなかった。
予想外の来客にギャングのメンバー達は彼の存在に釘付けとなる。
「ルイスさん。何故、あなたがここに?」
クリスは胸のざわめきを心の回転で鎮め、冷静に聞いた。
想定外な展開にやる気を喪失し、アシュレイは"邪魔しやがって・・・・・・"を舌打ち1つで表現する。
「・・・・・・有り得ねえと思うけどよ?ヴェロニカがあんたにチクったのか?」
「とんでもない。実を言うと・・・・・・今朝、顔を洗おうとしていた時、偶然にも野営を後にするあなた方の見て・・・・・・詮索の誘惑に抗えず、後をつけてしまったのです」
ルイスは自身の行為に良心の呵責を感じながら、尾行した経緯を述べる。
そして、今度は逆に問いかける立場へと回った。
「皆さんは、アドニスを滅ぼした罪深き悪魔達への復讐を謀るために、遥々、この街へと渡ったのですよね?」
「え!?どうして牧師さんが、そんなこと知ってるの!?私達以外、秘密にしていたはずじゃ!?」
知らないはずの真実を知る第三者にメルトが唖然とした口を塞ぐ。
訝し気になったアシュレイが口調を尖らせ、取調室での尋問のように聞いた。
「探偵の掟を尊重するデズモンドが機密を漏らすわけねえ。おい、牧師さんよ。てめえ、随分と物知りじゃねえか?理由次第では血が流れんぞ?」
「それは・・・・・・実は昨日の晩、あなたとクリスさん・・・・・・そして、ヴェロニカさんの秘密の会談を耳にしてしまったのです。この日のための計画はその時に・・・・・・」
「牧師さんは随分と盗み聞きがお上手なんですね?聖職者を志さなかった方がよかったのでは?」
その好奇心の鬱陶しさにステラは瞳を赤く変色させ、皮肉を口走った。
「もし、その問いを肯定したとして、あなたはどうするつもりですか?僕達の勝手な計画を野営地にいるリチャードや皆に報告しますか?」
「滅相もない。私はあなた方に命を救われた。一生の恩人を売るつもりなど、毛頭ありません・・・・・・ただ、ご迷惑でなければ、私もあなた方の戦力に加えさせて頂けないでしょうか?私も無念に殺されたアドニスの民への供養を努めたいのです。勿論、足手まといにならないよう、万全な注意を払いますので」
ルイスの意思は紛れもなく、本意だろう。
しかし、ギャングの古参達は歓迎的な顔はしなかった。
その場にいる誰もが、共通の不安を抱えていたためだ。
「牧師様。あなたは戦えるのですか?失礼を言うのは申し訳ないですけど、あまり争い事は得意ではないとお見受けしますが・・・・・・?」
サクラが心配になって、身を案じた問いを投げかける。
「戦場では決まって、弱い者が先に撃たれる。たかが強がりやかっこつけで前線に立てば、最初の犠牲者となりますよ?」
ステラも脅しをかけ、身を引くように促すが、ルイスの決心は揺るがなかった。
「神が試練のためにお与えになったこの地に真の平穏など存在しません。この世の全ての者は生を受けた時点で煩悩に塗れた宿命を背負わされるのです。故に私は死など恐れません。命を危機に晒す決断は自らが望み、築いた運命ですので」
クリスはルイスの勇敢な執念に対しては、素直な関心を抱いた。
しかし、それでも尚、許可を認めず
- Re: エターナルウィルダネス ( No.39 )
- 日時: 2020/10/20 21:10
- 名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)
「覚悟だけは心強いです。ですが、やっぱり僕達に肯定の余地はありません。戦場に連れて行ったとして、ルイスさんはどう戦うつもりなんですか?一見すると、戦おうとする格好が見当たらない。僕は丸腰の仲間を死に追いやる気はないです」
「ああ、同感だぜ。素手で機銃に突っ込んでいくバカをお世話する余裕なんざ、こっちはねえよ」
アシュレイもクリスの意見に偏った同意を示す。
「・・・・・・なら、これなら如何でしょう?」
説得での証明が意味を成さないと確信したルイスはローブをずらし、その誠意をまざまざと見せつける。
彼の腰のベルトには細長い弾倉が何列にも渡って収まっていた。
そして、隠し持っていた武器を背中ら外し、腕に抱える。
弾倉が横に装着されている連射式の自動小銃だ。
武装した証拠を突き出された事に流石のクリス達も目を丸くし、呆然と口を開く。
「聖職者には似合わない切り札ですね」
勇ましい掘り出し物に圧倒され、ステラは強張った態度を緩める。
「そのような、武器は私達の組織では取り扱っていません!一体、どこでそんな物を!?」
サクラが自動小銃を調達した経緯について尋ねると、
「アドニスであなた方に罰せられた悪魔の死体から奪い取りました。これなら、無様な犬死だけは避けられるかと」
「お前、やっぱ牧師には向いてねえな」
アシュレイは敬った要素のない皮肉を浴びせ、席を立つ。
「面倒事にまともに取り合ってたら、喉渇いちまったぜ。もういっちょ酒引っ掻けてくるから、そこで待ってろ」
会談を離脱した彼は人ごみをの隙間を通りながら、再びカウンターの方へ足を運ぶ。
「おい、おっさん。ビールをもう1杯くれ。あの程度じゃ、ほろ酔い気分にもなれやしねえ」
「おう!キンキンに冷えたのを飲ませてやるから、先にカウンターにウォールを置いとけ!」
店主は注文された酒はまだあるか?と怒鳴って、厨房の奥に姿を消した。
「"なあ?知ってるか?最近のルフェーブル・ファミリーの事なんだが"」
「"ん?あのルシェフェルの集まりで構成されたギャングがどうかしたのか?"」
隣で酒を飲む見知らぬ2人組の男。
偶然、居合わせた会話のやり取りがアシュレイの興味を引く。
「・・・・・・ああ?」
嫌でも気に留めてしまうだろう会話をアシュレイは聞き流さなかった。
ファミリーの名を敏感に捉え、その内容に耳を傾ける。
「"聞いたか?ルフェーブル・ファミリーの指導者であるカトリーヌがハイペシアの"政治に参入"しようとしているらしい"」
「"冗談だろ?ルフェーブル・ファミリーと言えば、ハイペシア一の殺戮集団だぞ?その頭領が国の機関に加入するのか?そんなの、政府が承諾しないだろう?"」
「"だが、その噂は事実みたいなんだ。今朝の新聞に載ってたんだが、数人の有力議員があの女の参入を認めているらしい。オリウェール全土のルシェフェルからも多くの支持を集めてるようだぞ"」
「"虐殺者までもが選挙に立候補できるとは、ハイペシアも堕ちるところまで堕ちたな・・・・・・"」
「"全くだ。例え戦争が終わっても、この国の平穏は夢のまた夢だろう"」
2人組の男は不満を抱いた愚痴を最後に会話を打ち切り、静かにウィスキーの味に酔いしれる。
いても立ってもいられなくなったアシュレイはビールの欲求を忘れ、前払いの代金を置き去りにクリス達の方へ慌てて引き返した。
「おい!今、やべー話を聞いちまったんだ!知ったら、腰を抜かすぞ!」
「え?な~に~?どうせまた、隠された金塊の噂でしょ?」
メルトは丸っきり相手にしようとせず、白い目で沈着に蔑んだ。
「そんなしょーもねえ噂、俺だって信じねーよ!もっと、やべえ話だ!ルフェーブル・ファミリーの奴ら・・・・・・!」
「クリス!アシュレイ!」
アシュレイが要点を伝えようとした矢先、突如として割り込んだ声にあっさりと沈黙を余儀なくされた。
クリス達の形相が一変し、全員の注目が一ヶ所に集う。
「随分と待たせてしまったね。おや?どうしてここに神父さんが?」
ようやく、デズモンドが報告を目的に合流した。
彼はルイスという予想だにしていなかったレギュラーに対しては特に気にしたりはせず、本題を重視する。
「あなたが血相を変えて来たって事は・・・・・・」
ステラが探偵の動作を曖昧に推理し、期待を寄せると
「各集落を回って聞き込みを行って、大勢のタレコミ屋に協力してもらった。ご希望通り、ノーラの居場所を掴めたよ」
「本当ですか!?」
サクラは容易に成し遂げられた標的の特定に"信じられない"と肝を潰す。
「相変わらず、頼りになる野郎だぜ!お前、人生で一度も人を失望させた事ねえだろ?んで?早く、居場所を教えろ!奴はどこにいやがるんだ!?」
アシュレイが知りたがりの衝動を露にし、肝心な詳細を促すと
「"ランガシリス"。今、ノーラはそこに滞在しているみたいだ。これは悪い知らせだけど、数時間後には蒸気船に乗って街を離れる気らしい。 そして、おまけの情報だけど、アドニス市長の座を捨てた彼女は今や、ルフェーブル・ファミリーの幹部の一員となっているみたいだ」
「恐らく、行き先はファミリーの本拠地でしょうね。そこで奴はカトリーヌから報酬と正式に地位を授かるつもりだ」
ステラが標的の次の企みと事の成り行きを想定する。
「急がなくちゃ、間に合わないよ!船が出る前に早く、ノーラに追いつかなきゃ!絶対にお姉ちゃんの元には行かせない!」
「ランガシリス・・・・・・川沿いにある石油工業が盛んな集落か・・・・・・すぐにここを発とう!」
早急に酒場を去ろうとするクリス達に対し、デズモンドは愛想に霞をかけ
「君達個人の復讐劇の事はリチャード達には黙ってはおくけれど、唐突で無理なお願いは今回で最後にしてくれないかい?いくら、名探偵でも急な依頼は骨が折れちゃうからね」
その苦情にまともに取り合わず、ギャング達は聞き流しと言ってもいい簡単な謝罪だけを述べて、そそくさと酒場を飛び出していく。
たった1人、クリスを除いては。
「無理をお願いを頼んだのは素直に謝るよ。ありがとう。デズモンドの協力なしじゃ、不可能だった」
クリスはポケットからジャラジャラと音が擦れ合う何かを取り出し、デズモンドの手に握らせる。
探偵は拳を広げ確かめると、数枚の金貨が掌の上で輝きを放っていた。
「報酬、それで足りるかな?じゃあ、僕も皆と行かなくちゃ」
唯一、誠意を怠らなかったクリスの背中を見送りながら、デズモンドはそのままの姿勢で囁いた。
「どうか、絶対に無事に帰って来てくれ」
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