複雑・ファジー小説

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エターナルウィルダネス
日時: 2020/02/13 17:55
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

 乾いた土、枯れた草木、その上に零れ落ちた血の跡・・・・・・復讐の荒野は果てしなく、そして永遠に続いていく・・・・・・

 ディセンバー歴1863年のオリウェール大陸。
西部諸州グリストルと東部諸州ハイペシアとの内戦が勃発。
かつて全盛期だった大陸は平穏の面影を失い、暗黒時代への一途を辿っていた。

 王政派の勢力に従軍し、少尉として小隊を率いていたクリス・ヴァレンタイン。
戦争終結の後、退役軍人となり、両親が残した農場で妹であるリーナと平穏に暮らしていた。
しかし、突如として現れた無法者の集団による略奪に遭い、家は焼かれ、リーナを失ってしまう。
運よく生き残ったクリスは妹を殺した復讐を決意し、再び銃を手にするのだった。

 彼女は頼れる仲間達と共に"ルフェーブル・ファミリー"の最高指導者"カトリーヌ"を追う。


・・・・・・・・・・・・


 初めまして!ある理由でカキコへとやって来ました。"死告少女"と申します(^_^)
本作品は"異世界"を舞台としたギャングの復讐劇及び、その生き様が物語の内容となっております。
私自身、ノベルに関しては素人ですので、温かな目でご覧になって頂けたら幸いです。


・・・・・・・・・・・・

イラストは道化ウサギ様から描いて頂きました!心から感謝いたします!

・・・・・・・・・・・・


・・・・・・お客様・・・・・・

桜木霊歌様

アスカ様

ピノ様

黒猫イズモ様

コッコ様

Re: エターナルウィルダネス ( No.20 )
日時: 2020/02/13 18:05
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

 ・・・・・・そこは森の奥だった。
あらゆる植物が生い茂る自然の空間。
雨が降っているわけでもないのに、秋の最中のように冬に近い涼しさが漂う。
そこらじゅうで虫の鳴き声や鳥のさえずりが野生の旋律を奏でていた。

 八方に広がる緑の地面の上に1頭の雄鹿がいた。
耳の隣に立派な角を生やした首を垂れ、柔らかい草を食い千切って頬張る。
たまに普段の姿勢に戻り、口を動かしながら辺りを気にして、再び食事を始めた。
ふいに轟音が静寂を切り裂き、数秒の時間を掛けて消えていく。

 1頭の雄鹿は弱々しい細い鳴き声を上げた。
逃げ出そうと足を走らせたが、ふらふらと遠くまで行く事は叶わず、その場で倒れてしまう。
横たわったまま四脚を激しく動かし、ジタバタと暴れ狂う。

 茂みが葉を散らして揺れ動き、数人の人影が現れる。
先頭に立っているのは煙の上ったライフルを抱え、自身の犯した行為に表情を歪ませるメルトがいた。
その後ろにはリチャードとステラが2人、横に並ぶ。
青年の右手には短剣、もう片方には2羽の兎の耳を鷲掴んでいた。

「彼らにも神経がある・・・・・・早く、痛みを和らげてやれ」

 リチャードが指示を出し、メルトは黙って頷く。
ライフルを背負うと代わりに斧を手に持って雄鹿に歩み寄る。
途切れそうな唸りを上げながら、涙目を浮かべる・・・・・・その命乞いは無視した。
重く幅広い刀身を振り上げると、躊躇いを押し殺し、容赦なく振り下ろす。
刀身に首半分を裂かれ、血しぶきで緑の草を赤く染めた鹿は完全に動かなくなり、その目は曇る。

「ごめんね・・・・・・」

 メルトは殺したばかりの死体の傍で跪いた姿勢のまま、涙目で謝罪をした。

「メルト。腕は大分上達したが、まだライフルの扱いに慣れたとは言い難いな。撃った際の反動が抑えられていない。あれじゃ、狙い通りに弾は飛ばん」

 中年の男は慰めるどころか、厳しい忠告を淡々と説教のように垂れた。
彼はメルトからライフルを取り上げると、ボルトをコッキングし、空薬莢を薬室から弾き出す。

「狩りは精神に重い負担をかける。子供にはショックが大き過ぎたか・・・・・・まあいい。これを飲め。疲労があっという間に癒える」

「いらない・・・・・・」

 メルトは差し出されたヘビ油を受け取らず、悲しい目を逸らす。
リチャードは無言で軽く頷き、代わりに小瓶の中身を一気に飲み干した。
ライフルを背にかけ、彼女が仕留めた鹿を肩に背負う。

「必要な食料は十分に揃った。キャンプに戻ろう。肉食の連中が俺達の匂いを嗅ぎつける前にな」


 彼らの野営地は湖沿いの林の中にあった。
様々な大きさのテントが点在しており、他にも調理場、武器が積まれた荷馬車、スープを煮ている焚き火、チェスが置かれたテーブルなどもある。
その隅には柵に繋がれた数頭の馬がいて、干し草を頬張ったりながら鼻息を鳴らす。
野営地には数人の男女がいて、それぞれの過ごし方があった。
淹れたてのコーヒーを飲んで話し合う者、単純に休息を取る者、気晴らしに釣りに出かける者、休日のようなプライベートを彼らは満喫する。

「ねえ、ローズお姉ちゃん!何してるの?」

 焚き火の前で武器をいじるローズに興味津々に駆け寄って来るルシェフェルの少女。
その子は丸太に腰かけると、隣にいる彼女に寄り添った。

「ん?あ、これ?自家製の弾薬を作ってるのよ。火薬の量を増やし、アルコールを足せば燃える弾丸の完成よ」

「へえ〜凄〜い!今度、私も使っていい?」

「ふふっ、ミシェルにはまだ早いわ。あと数年経ったら、作り方を教えてあげる。ついでにお酒の味もね」

「え〜?つまんないの〜」

 拗ねるミシェルにローズはクスッと笑い、指で膨らんだ頬をつつく。

「銃なんて危ないだけよ。誰かを平気で殺せる奴だけが、持っていればいいわ」

 一方、野営地と少し離れた距離でサクラは見張りを務めていた。
緊張感を絶やさず、人気のない自然の音しかしない世界に気を配る。
すると、そう遠くない場所から話し声が聞こえ ガサガサと茂みが揺れ動く風景に緊張を走らせる。
彼女は形相を鋭く、魔法の杖を構える。魔力を溜め、いつでも撃てる姿勢を取った。

「撃つな。俺達だ」

 草木を挟んで、こちらに答えた敵意のない声。
魔弾の矛先を向けられる事を想定していたリチャードが手を上げて姿を堂々と彼女の視界に入る。
続いて、笑顔で手を振るステラとしょんぼりとしたメルトも。

「ああ、あなた達でしたか・・・・・・」

 サクラはひとまずは安堵し、息を短く吐き出すと魔力を弱めた杖の狙いを上へとずらした。

「見張りご苦労。異常はないか?」

「ええ、今のところは安全です。皆、楽しそうに過ごしていますよ。かなりの大物を仕留めましたね?数日は食事に困らないでしょう」

「皮の質もいいだろ?メルトが仕留めたんだ。なかなか、いい腕だったぞ。兎はステラがあっさりと捕ってくれた」

 ステラは自慢げに兎をサクラの前に差し出し、ご機嫌な口調で

「別に褒められるような事はしてませんよ。傭兵にとって、食料の調達は基本中の基本ですからね。正直言ってしまえば、どこにでも生えている薬草を探すよりも簡単でした」

 その瞳は気分の高揚を示す黄色に染まっていた。

 リチャード達が野営地に入ると、数人の仲間が歓迎する形で集まって来る。
獲物を狩り、無事に帰って来た彼らを賑やかに褒めそやした。

「お帰りなさい。他の皆もあなた達の帰りを聞いたら喜ぶわ。あら、なんて大きな鹿。今日は豪華な昼食に決まりね」

 リリアが嬉しそうに先ほどのサクラとほとんど同じ事を口にした。

「手に入った獲物の数からして、存分に狩りを楽しめたようだね?次の機会には僕も連れて行ってくれないかな?読書ばかりでは暇なものでね」

 デズモンドもちょっぴり羨ましさを抱き、次回の狩りに期待を寄せる。
ついでに知らせたかった吉報を付け加えた。

「あ、忘れていたよリチャード。数日前、ファミリーの別荘を襲撃した際、大量の金品を奪ったは覚えてないわけはないよね?盗品商に売り渡したら、10万ウォールの金額にまで上ったよ。凄い額だ」

「本当か?偉い稼ぎになったな。貴族に仲間入りできる日も夢じゃないだろう」

「当たり前の結果ですよ。戦いに報酬が付くのは当然・・・・・・で、僕への分け前はあるんですよねっ!?」

 ステラも耳にした金額に目の形をせこく、ニヤリと唇の端を引きつって傭兵の性である見返りを求める。

「落ち着けステラ。まずは得られた収入を何に使うかを計画するのが先だ。だが、面倒事は後にしたい気分だろう?まずは飯にして狩りで消耗した体力を補うのはどうだ?俺達は肉の塊をユーリの元へ運ぶ。この組織の連中の中で、まともな調理ができるのはあいつだけだからな」

Re: エターナルウィルダネス ( No.21 )
日時: 2020/03/04 01:28
名前: 黒猫イズモ (ID: V.8mVc0s)

作品拝見させて頂きました
デイビット登場しましたね!
イメージ通りのキャラを再現出来ていたのが、とても嬉しかったです!
今後もご執筆頑張ってください!

Re: エターナルウィルダネス ( No.22 )
日時: 2020/03/10 17:46
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

返信が遅れてしまい、申し訳ありません。
黒猫イズモ様、いつも私の作品をご覧になってくれて、ありがとうございます(≧▽≦)
喜んでもらえて、こちらも幸いな限りです。
私の方こそ、キャラクターを提供して下さった黒猫イズモ様には感謝していますよ♪
あなたの発想を描かせている事、大変光栄です(*^_^*)
これからもこの死告少女と私の作品をよろしくお願いします!

Re: エターナルウィルダネス ( No.23 )
日時: 2020/05/23 22:23
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)
参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=1626.jpg

 野営地の隅にあるポツリと建てられたテント。
近くの木々に結んだ網目状のハンモックに体を預けるクリスがいた。
顔には開いた読みかけの本を乗せ、木の葉の間から差し込む眩しい光を遮る。
風に揺れ、のんびりと静かな休息を味わう。

「おい」

 ふと、こちらを呼ぶ声と草を踏み近づいてくる音が聞こえた。
それでもクリスはゆったりとした姿勢を保ち、反応を示さない。

「おい、起きてるか?」

 クリスは片腕を重そうに動かし、本を少しだけ退かすと寝起きの悪そうな表情でアシュレイを睨んだ。

「アシュレイ、何か用?」

 すっきりしない態度で邪魔した理由を尋ねると

「そんな恐い顔すんじゃねえよ。恨むんだったら、お前を呼びに行けと頼んだリチャードのおっさんを恨め。飯だぞ。メルトが質のいい鹿を仕留めたらしい。あと、ステラが兎を取って来たみたいだぜ。今頃、ユーリが肉入りのシチューを皆に配ってる頃だ」

「もうそんなに時間が経っていたのか・・・・・・あまり、お腹は空いてないんだ。後で食べるから残しといてと伝えてくれないか?」

「そいつは勿体ねえな。これからカトリーヌをぶっ潰す次の計画を立てるとこだってのによ。お前がいないんじゃ、やる意味はねえな」

 アシュレイはわざとらしく言って、意欲を煽る。
彼のペースに乗せられたクリスはガバッと上半身を起こし、単純な正直さを晒してしまう。
そして、呆れたように笑われた。

「それによ。今回は俺にも"ある提案"があるんだ。お前も立ち会ってくれなきゃ、実に都合が悪いんだよな」

「君が提案?珍しい事もあるもんだね?明日は火の雨が降るんじゃないかな?」

「へっ、ほざけ。んで、どうすんだよ?作戦会議に加わるのか?加わらねえのか?」


 先ほど狩ったばかりの獲物の肉で作った料理を手にギャング達全員が焚き火を囲んだ。
心地いい自然を食卓にして、作り立ての食事に在りつく。
空腹を覚えていたギャングのメンバー達は平等にパンを分け合い、シチューの具を頬張った。

「食べながらで構わん。俺の話に耳を傾けてくれ」

 リチャードが皆の注目を自身に浴びせ、場を取り仕切る。

「数日前の襲撃は最大の目的を果たせず終いだっだが・・・・・・少なくとも、得がなかったわけじゃない。奪った略奪品でかなりの収入を得られた。当分は野で暮らす生活に困る事はないはずだ。十分な装備を整えられるだろう」

 リチャードはそう凄まじくない喝采にふっと笑みを零した。
その直後に一層、力の入った顔を強張らせ

「だが、優雅な休日を過ごしてる暇はない。俺達はついにハイペシアで悪名高いルフェーブル・ファミリーのケツを本気で蹴飛ばしたんだ。今回の件で奴らは血眼になって、俺達の行方を探し回るだろう。敵は国も手が出せないほどの強大な犯罪組織だ。例え、ファミリーとは無関係だとしても、この地に住む連中を無暗に信用はするな。誰が奴らと繋がってるか、分かったもんじゃない」

「今頃、街では僕達の手配書があらゆる建物に張られているかも知れないね」

 デズモンドのジョークは本人が受けているだけで他は誰一人も笑わなかった。
不安を募らせるネガティブな冗談は逆に反感を誘うような不快な雰囲気を生んだ。

「・・・・・・で、これからどうするの?」

 リリアが真剣に話の趣旨を改めると

「本当にルフェーブル・ファミリーが警戒網を張り巡らされた場合、街や集落に出向くのは、あまりにも危険過ぎます。ほとぼりが冷めるまで身を隠すというのはどうでしょう?」

 サクラは計画的で安全を考慮した提案を持ちかけるが

「甘いですね。ああいった組織は外敵の存在を決して許しません。一度、敵と見なした者は抹殺するまで追い続けるでしょう。いかなる手段を用いてでも・・・・・・リチャードさんが言った通り、これからはもっと周囲に気を配る必要性が出てくるでしょうね」

 ステラが有効に欠けた意見を認めず、リチャードの考えに肩を持つ。

「目立った行動は避け、ファミリーの戦力を少しずつ削っていくのが最善の方法では?幹部を葬って行けば、ファミリーの指揮系統にも少なからず混乱が生じるはずです」

 ユーリのもっともな意見にアシュレイは愉快になって

「はっ、お前の得意な狙撃でカトリーヌの額を撃ち抜けば、めでたしめでたし・・・・・・なんだがな。おっと、それじゃこいつが納得できねえか」

 彼はちらりと反対の隣を目視する。
やはり、クリスの形相は納得の皆無を物語っていた。

「クリス、安心しろ。カトリーヌはお前に撃たせてやる。それはそうと、俺の他にもう1人言いたい事があるらしい。アシュレイ、お前の提案とやらを教えてくれ」

 アシュレイは食いかけの昼食を粗末に置き、雑草が潰れた地面を立つ。
本人は目立っているつもりのようだが、期待の視線は大して集まらなかった。

「リチャードのおっさんも言ったが、得られたもんはかなりのもんだしよ?このまま真っ向から勝負を挑んでも無様な死に方はしないはずだぜ?だが、俺達のギャングには肝心な奴が足りない」

「肝心な奴?私達以外に必要な人材がいるって言うの?」

 湧かない興味にローズが呆れた問いかけをした。
その反面、ユーリは生真面目になって 肝心な発言を待つ。

「分かんねえか?"医者"だよ。医者」

 アシュレイは平然と言いたかった答えを明かす。

「医者?」

 意外な発言にリリアは、ぽっかりと正論を述べたつもりのアシュレイを見上げる。

「ああ、このギャングはガンマン、傭兵、調理師、探偵とかよ、色々揃っているが、医療を心得ている奴だけが欠けているんだよ」

「お医者さんって言っても、誰か心当たりなんてあるの?」

 メルトが肝心な部分を尋ねると

「もしかして、君の言う医者って言うのは・・・・・・」

 クリスが悟って、まさかと言いたそうな顔をした。
その勘が的中したのか、アシュレイはより気分を高揚させ

「そうだ。俺の幼馴染みの"ヴェロニカ"だ。故郷の隣街に住んでて、今頃は診療所を経営してる頃だろう。ここからそう遠くないはずだぜ?」

「ヴェロニカ?君が酔っぱらうと、いつも名前を出すあの子かい?」

 聞き慣れた名前にデズモンドが苦笑した。

「でも、聞いた話じゃ、あの子って医者と言うよりも薬売りじゃなかったっけ?」

 クリスが疑問を持ちかけると

「そりゃ、間違っちゃいねぇ・・・・・・が、あいつは外科医の心得もある。言ってなかったが、ヴェロニカは今起きてる戦争に軍医として従軍していた。大勢の死にかけを救ったんだよ」

「本当ならこの組織にとっても大きな戦力となるでしょうね。でも、あなたと性格が瓜二つだった場合は例外よ。あなたみたいなのが2人になったら、こっちが病気になってしまうわ」

 リリアの嫌味にアシュレイは舌を出し、親指を下に突き立てる。

「ですが、アシュレイさんの提案には一理ありますね。事実、いつ時も兵隊を影で支えているのは紛れもなく医師なんです。決して聞き流すべき悪い話ではないかと」

「私も医療に詳しい人がいる方が心強いと思います。薬の力だけじゃ、限界がありますからね」

 ステラとサクラは素直に賛同する。
頼りになる仲間が増える事に期待が芽生えた様子だ。

「クリス、お前はこの件についてはどう思う?」

 リチャードがクリスに意見を求める。

「僕も今回ばかりはアシュレイが正しい事を言っていると思う。僕達はいつ怪我を負ってもおかしくない立場にある。医療経験者がいた方がいざという時に助かるな」

「なら、二言はねぇな?たらふく飯食って、しばらく経ったら出発だ」

 やる気に満ちたアシュレイは元の席に戻り、温くなり始めた料理に手をつける。

「ちなみに、あなたのガールフレンドがいる場所は?」

 ローズが回りくどい事はなしにして聞くと

「"アドニス"だ。テキーラで有名な田舎町だぜ」

Re: エターナルウィルダネス ( No.24 )
日時: 2020/04/15 19:48
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

 ドカドカと馬の群れが辿った道に足跡を残し、湿った土が跳ね上がった。
ギャング達は一直線に馬を走らせ、鞍の上で体を揺らす。
通りかかった名の知らぬ集落を通過し、広大な草原を越え、山道の木々の真下を進んでいく。
地べたを踏みつける音が止む兆しは一向にない。

「馬を走らせてから、随分時間が経つな。到着までどれくらいだ?」

 リチャードがアシュレイの乗る馬と同列に並んで聞いた。
野営地を離れてからしばらく経つが、太陽の方向はまだ朝の時刻を示している。

「もう少しだ。この先を行けば峠に行き着き、集落全体を一望できるはずだ」

 と先にある場所について、説明した。
幼馴染みとの再会を前に歓喜してるのか、普段の生意気な薄笑いを浮かべながら

「あいつに会うのはマジで久しぶりだな。元気にやってんだろうか?」

「きっと、診療所の仕事に明け暮れてるよ。今頃、君の事を考えてるんじゃないかな?」

 近くを走るクリスは純真な言葉をかけるが、ローズは裏腹に悪ふざけのジョークを投げかける。

「多分、あんたよりずっと素敵なボーイフレンドができて、元カレの事なんか忘れてるわ。賭けてもいい」

「へっ、ほざけ」

「ねえねえ、ステラ?今から行くアドニスって、どんな所なの?」

 メルトが退屈そうに彼の背中に話し掛ける。

「えっ?アドニスについてですか?・・・・・・はて、困りましたね。傭兵業を生業にして様々な場所を巡った僕でさえも知らない街です。サクラさんはご存知ですか?」

 ぼんやりと景色に黄昏ていたサクラは急にかけられた声に、はっと我に返った。
急な質問に頭の回転が追いつかず、完全に平静さを失いながら

「え、あ!その・・・・・・い、いえ・・・・・・!実は私も名前すら聞いた事あるかないか、記憶が・・・・・・ご、ごめんなさい・・・・・・!」

「え〜な〜んだ。サクラも知らないの〜?」

 期待に背かれ、頬を膨らませるメルト。
行き場のないモヤモヤの取れない気持ちに苛まれた時

「アドニスは半世紀前に荒地を開拓して、生まれた街よ」

 隣との距離を縮め、リリアが口を挟む。

「アドニスの誕生は故郷を終われた放浪者達の集まりだと言われているわ。でも、過酷な環境は彼らに十分な実りをもたらしてはくれなかったの。苦しい生活に路頭に迷う中、開拓者の1人が荒地に生えている"特殊な竜舌蘭"を見つけ、それを材料に1つの酒を作った。ちょうどその時、1人の旅人が訪れていて、そのお酒を味見するとその上手さに感激したらしいわ」

「それでそれで!?」

無邪気に続きを促すメルト。

「旅人はお酒の事を他の街にも広めると約束し、開拓者達に酒場を作らせた。これがアドニスがテキーラで有名になるきっかけとなったの。そして、不毛の地で生活が困難だった地元民にとっても、その集落と新種のアルコールの誕生は奇跡そのものだったようね。開拓された地の噂は瞬く間に広がった後、大勢のキャラバンが訪れるようになり、入居者も増えた事でやがて街へと発展したのよ」

「まさか、目立たない街に壮大な物語が隠されていたなんて・・・・・・小説にしたら売れそうですね」

 知られざる意外な真実にステラは感想を述べ、書籍に例える。

「へぇー」

「リリアさんって、色々な事に詳しいんですね。アドニス・・・・・・そんな素敵な街に行けるなんて、到着が楽しみです」

 メルトとサクラもリリアを尊敬し、彼女が語ったロマンに魅了される。

「その地域で発見された竜舌蘭は"奇跡のアガベ"とも呼ばれていてね。後に医者が調べたところ、あらゆる不治の病に効果を発揮する成分が発見されたんだ。この植物で作られた薬は技術が乏しいハイペシアでは重宝され、半世紀がたった現在でも病気の治療に用いられているんだよ」

 会話を聞いていたデズモンドもやり取りに混ざり、豆知識を付け加える。
それに対しても3人は感心の意を誘われた。

「本にしたくなる程、感動的な物語だけど私にしたらやっぱり、ウィスキーに限るわ。テキーラは癖がないけど、味が薄いのよね」

 ローズは酒にうるさく、好きでもない酒の欠点をネタに愚痴を零す。

「ウィスキーしか飲めない人は、それ以外の酒を飲むと恥ずかしい秘密を漏らしてしまうって、私の叔父がよく言ってましたよ」

 いつもは品のない事は口にしないユーリの珍しいジョークにギャングの大半が笑った。
不意打ちにローズはむきになった顔を作ったが、何も言い返せないまま、だんまりを決め込んでしまう。
皆がユーリに盛り上がり、愉快な雰囲気が漂う。

「おい、ユーリ。お前がそんな冗談を言うなんて夢にも思わなかったぞ。実は皮肉屋だったのか?」

「い、いえ。そんな・・・・・・!」

 ユーリは恥ずかしくなって、赤らめた顔を俯かせる。

「あはは、いや〜まさか、ユーリがそんな意外な一面があったなんて。アシュレイもそう思うでしょ?」

 クリスは半笑いが入った喋り方でアシュレイにも共感を求めた。
しかし、彼はいつものようにせせら笑うどころか、深刻な面持ちで木の葉が光を遮る空を見上げていた。

「・・・・・・アシュレイ?」

 様子がおかしい事を察し、クリスは笑顔を崩して仲間の名を呼んだ。

「煙が上がってねえか・・・・・・?」

 クリスも空を見上げると木々のせいで捉え辛いが、確かに煙が空へ伸びているのが見えた。
黒煙の線は1つだけじゃなく、数ヶ所から上がっていて焼けた気体が暗雲のように立ち込め、大気の一部は淀む。 
やがて、焦げた臭いも嗅覚に伝わってきた。

「煙は街の方からだ。ったく、何だってんだ・・・・・凄ぇ嫌な予感がしてきたんだが・・・・・・・急ごうぜ」


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