複雑・ファジー小説
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- エターナルウィルダネス
- 日時: 2020/02/13 17:55
- 名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)
乾いた土、枯れた草木、その上に零れ落ちた血の跡・・・・・・復讐の荒野は果てしなく、そして永遠に続いていく・・・・・・
ディセンバー歴1863年のオリウェール大陸。
西部諸州グリストルと東部諸州ハイペシアとの内戦が勃発。
かつて全盛期だった大陸は平穏の面影を失い、暗黒時代への一途を辿っていた。
王政派の勢力に従軍し、少尉として小隊を率いていたクリス・ヴァレンタイン。
戦争終結の後、退役軍人となり、両親が残した農場で妹であるリーナと平穏に暮らしていた。
しかし、突如として現れた無法者の集団による略奪に遭い、家は焼かれ、リーナを失ってしまう。
運よく生き残ったクリスは妹を殺した復讐を決意し、再び銃を手にするのだった。
彼女は頼れる仲間達と共に"ルフェーブル・ファミリー"の最高指導者"カトリーヌ"を追う。
・・・・・・・・・・・・
初めまして!ある理由でカキコへとやって来ました。"死告少女"と申します(^_^)
本作品は"異世界"を舞台としたギャングの復讐劇及び、その生き様が物語の内容となっております。
私自身、ノベルに関しては素人ですので、温かな目でご覧になって頂けたら幸いです。
・・・・・・・・・・・・
イラストは道化ウサギ様から描いて頂きました!心から感謝いたします!
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・お客様・・・・・・
桜木霊歌様
アスカ様
ピノ様
黒猫イズモ様
コッコ様
- Re: エターナルウィルダネス ( No.15 )
- 日時: 2019/12/19 20:34
- 名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)
「く、くそ!囲まれてる!・・・・・・ど、どうしたら!?・・・・・・ああっ!!」
戦意を喪失し、慌てふためく若い男にメルトと彼女が振り下ろした斧が迫った。
太い刀身の一線が縦に頭から通過する。
亀裂の入った胴体は真っ二つに裂かれ、剥いたバナナの皮のように上半身の半分半分が横に広がった。
「下手な弾なんて、当たらないよ〜だ」
楽しそうに挑発して、的を掠りもしない弾幕をやり過ごす。
連射音が止んだ時、1発の銃弾がメルトの横を過り、小銃を持った男を貫通した。
音速の弾は血しぶきと共に背中を突き破り、真後ろに飾られた人物画の心臓をも見事に撃ち抜く。銃声は、その後に聞こえた。
メルトの傍にはもう1人の女がいたのだ。
優しい面影はなく、獲物を狩ろうとする殺意の形相でこちらを睨んでいた。
ライフルの照準が重なった頃
「ひっ・・・・・・!」
丸腰の手を上げ投降しようとするも、容赦ない2発目の銃弾に顔面を撃ち抜かれてしまう。
弾頭は眼球を潰し、更に奥を突き進んで頭蓋骨を貫いて後頭部から排出された。
穴から漏れた脳みその液体が床に零れ落ちる。
「ユーリお姉ちゃん凄い!」
ユーリがメルトの喝采に微笑んだのも束の間、足元の雪が連射音に合わせ跳ね上がった。
彼女は再び顔を強張らせ、銃弾の通らない壁に背を預けると別荘の内側に転がり込む。
跪いた姿勢とライフルの構えを同時に取り、上に向けて1発撃った。
「ぐわぁっ・・・・・・!」
敵は銃口が逸れ、いい加減な方向に弾を発砲する。
致命傷を負った体は手すりを乗り出し、下階へと落下した。
頭がめり込んだテーブルが真っ二つに割れ、置かれていた食物や食器が豪快に散乱する。
ステラも飛び交う銃撃を掻い潜り、接近戦に持ち込む。
剣が届く範囲まで距離を狭めると振りかざしたシルヴィアの刀身を下ろし、老けた男の肩を心臓ごと両断した。
横から殴りかかって来た銃床打撃をかわし、低い回し蹴りをお見舞いする。
受けた足払いにバランスを崩し、横転した青年の胸にカラドボルグを突き刺し、体重をかけて刃を深く押し込む。
「ステラ!右だ!」
クリスが叫んでステラは、はっ!と言われた道筋を向くとナイフを突きつけ、勢いよく迫って来るルシェフェルの女を捉えた。
しかし、その刃が敵の体を抉る事は叶わず、散弾の餌食となった。
口と体中に開いた無数の穴から吐血して倒れる女の後ろでローズが口の端を吊り上げ、空薬莢を弾き出す。
「今のは1つ借りにしておくわ」
別の廊下から何発もの銃弾を浴びせられ、後退りした死体が倒れた。
リリアとデズモンドが左右対称に顔を出す。
「こっちは片付いたわ。いつまで撃ち合ってるつもりなの?」
「そう急がせるな。お前ら、やけに来るのが早かったな。そっちには誰もいなかったのか?」
リチャードが死にかけの男に止めの1発を放って、聞いた。
「まあね。こっちは運よく敵の数が多くなかった。怪我もしないで済んだけど、リリアにとっては不満だったようだね」
「長年積んだ経験の読みが外れるなんて、私にも焼きが回ったのかしら?クリスの事、言えなくなるわね」
銃声のオンパレードは終結を迎え、別荘は冬の風だけが寒さを誘う静寂の場となった。
両勢力の描いた銃痕のアートが壮絶な戦いを裏付ける。
会談、床、部屋にはファミリーに属した者の無残な死体が溢れ、流れ出た血の生臭い臭いが心地悪さを生む。
「ファミリーのクソ共は殲滅したな。これだけ、くたばったんだ。上階にも生き残った連中はいねえだろ?さっさとカトリーヌの皮をはいでやろうぜ?」
アシュレイが唾を吐き、ピストルを手の内で回す。
「なら、早くしよう。あの女だけは絶対に逃がすわけにはいかない」
クリスが言葉に怒りを募らせ、呼吸をやや荒くする
その感情からは憎悪だけではなく、焦りとプレッシャーも感じられた。
「メルト、ちょっといいかな?」
「な〜に〜?」
ステラの生真面目な問いにメルトがマイペースな返事を返す。
「姉の過ちを正したいと言っても、カトリーヌは君のたった1人の家族だ。その手を姉妹の血で汚す覚悟はできて・・・・・・」
すると、メルトは穏やかな目つきを一変させ、気迫のある面持ちを作った。
今まで知り得なかった一面に圧倒され、ステラは言葉を失う。
「いらない愚問、あなた達の仲間に加わった時から覚悟はとっくに決めてる。カトリーヌは私が知ってるお姉ちゃんじゃない。最早、あの人はもう悪魔そのものの殺人狂。振り落とす斧の力を緩めたりはしない」
「なら、二言はないね。信頼しているよ?頼もしい妹さん」
デズモンドが軽いノリでメルトの肩を優しく叩く。
「2階を除けば、あとはこの広間だけか?」
リチャード達が壁に背を預け、残った部屋への突入準備を整える。
「もう一度、奇襲を仕掛けてカトリーヌをビビらせてやろうぜ?俺とローズのババアが爆薬を投げ込んだら、部屋にいる連中を一掃しろ。奴を撃つ権限はてめえらにくれてやる」
「ふ〜ん・・・・・・私を年増呼ばわりするなんて、いい度胸ねアシュレイ?ダイナマイトをケツに詰めて放り込むわよ?」
口の悪さにローズは本気にしか聞こえない脅迫をする。
晴れやかな笑顔を繕っていたが、微小に頬が怒りで震えていた。
2人は爆薬の導火線に火を点け、息が合ったタイミングでホールに投げ込む。
火薬の量が多いだけに爆発が広範囲に広がり、強い震動を引き起こす。
クリスとサクラは押し寄せる煙に紛れ、ホールの入り口に駆けると銃弾と魔弾を連続で放つ。
大口径の銃弾にふらつく男の胸を抉られ、もう1人のルシェフェルも宙を舞い、三度回転した。
魔弾に吹き飛ばされた小柄な女は、壁を突き破って外へ放り出される。
「・・・・・・っ!」
クリスは逃走を図ろうと死角から飛び出した初老の男を捉え、銃口を下に向けると1発撃って足の動きを封じる。
「がひゅっ・・・・・・!」
脚をやられた男は奇声を漏らし、目蓋と口を限界まで開けながら地べたに這いつくばった。
どくどくと血が溢れる傷を押さえ、耐え難い痛みに女々しく唸る。
間もなく、クリス達が部屋に流れ込んだ。
- Re: エターナルウィルダネス ( No.16 )
- 日時: 2020/01/13 18:11
- 名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)
「き、貴様らぁ・・・・・・!」
男はクリス達に憎悪をたぎらせ起き上がろうとするが、足に力が入るはずもなくリチャードに問答無用で殴り倒された。
「見事な腕だ。だが何故、殺さずに生かした?」
「こいつはカトリーヌじゃないけど、格好も他の連中とは違う。つまり、ルフェーブル・ファミリーの幹部だ」
「なるほど。逃げる術を奪ったついでに、尋問しようと言うわけだね?」
デズモンドが感心しながら目的を推理し、
「あんな短時間でファミリーの幹部である事を即座に判断し、生け捕りにするなんてね・・・・・・頭は悪いけど、その反射神経に関しては素直に敬服するわ」
リリアが褒めているのか、呆れているのか断定に迷う発言をする。
「うう、ぐぅ・・・・・・!」
クリスは自身が傷を負わせた男に良心の呵責もなく、弾が切れたリボルバーから空薬莢をばら撒く。
スピードローダーを用い、6つの穴全てに弾の装填を済ませると、回転させたシリンダーを戻しハンマーを倒した。
銃口の狙いをしわが寄った額に重ねる。
「貴様ら・・・・・・ルフェーブル・ファミリーに楯突いたら、どうなるか分かっているんだろうな・・・・・・!?」
敗北を喫した立場である事にも関わらず、幹部は命乞いするどころか強きに出た。
クリスも積極的な態度で言い返す。
「ああ、ファミリー恐ろしさを知ってる上でお前達を襲った。僕達の目的はカトリーヌ・ルフェーブルを抹殺する事だ」
「何だと・・・・・・はっ!自ら、死に急ぐ行為に走るとは、愚かな連中よ・・・・・・!」
「くだらない御託はいい。カトリーヌはどこだ?この別荘にいるんだろ?」
クリスが声を尖らせ、銃口をより間近に迫らせる。
「ふざけているのか・・・・・・?素直に情報を明け渡すと思っ・・・・・・ぎぃああっ!!」
きしんだような悲鳴、幹部の笑みが歪む。
赤い目をしたステラが銃創を負った足を乱暴に踏みつけた。
強引に上半身を立たせると、カラドボルグをギラつかせ
「僕はクリスと違って、優しいお願いはしないぞ?傭兵は残虐な殺し方をいくつも知ってる。正直者になった方が身のためだ」
「くっ・・・・・・!カ、カトリーヌ様は、ここにはいない・・・・・・」
反抗的だった幹部も脅しに屈し、観念してクリスの質問に答えた。
「嘘をつくと、激しい後悔が待ってるわよ?」
リリアは証言を疑い、弱みが漏れた亀裂に更に圧力をかける。
「ほ、本当だ!カトリーヌ様はこ、ここにはいない・・・・・・!だが、あの方は1週間後にここを訪れる・・・・・・!」
「マジかよ!?くそっ、あの女がいないんじゃ襲った意味が丸っきりねえじゃねえか!何のために俺達は命を懸けたんだよ!?」
落ち着きを失い興奮するアシュレイとは裏腹に、冷静なローズは最初から確証があったように、"そんな事だろうと思った"とため息をつく。
「とんだ外れくじを引いてしまったわね・・・・・・」
「ふ、ははは・・・・・・カトリーヌ様を敵に回すなど、死神を敵に回すようなもの。あの方は100人の騎兵隊を連れてやって来るだろう。そうなれば、お前らなど一捻り・・・・・・!」
広い空間に反響した轟音が言葉を遮る。
目と鼻の先にあった銃口が火を噴き、幹部は頭の半分を吹き飛ばされた。
全員がその情景を脳裏に焼き付ける。
「いたのはカトリーヌではなく、たかが口先だけの男だったか・・・・・・」
リチャードが横たわる幹部の死体を見下ろし、皮肉を吐き捨てた。
愛用のリボルバーをしまうと煙草をくわえ、火をつける。
「すっきりしない幕引きね。わざわざ冬支度までして、雪山に馬を走らせた自分が愚かしいわ」
どうしようもない展開にリリアもため息をつかずにはいられなかった。
「今度こそ、お姉ちゃんを追い詰めたと思ったのになぁ・・・・・・あ〜あ、しらけちゃったよ」
メルトも深い失望を隠せない様子だ。
「始めから変だと思ってたんだ。組織の最高指導者が宿泊する別荘にしては、あまりにも警備が手薄過ぎるし、見張りの兵装も親衛隊とは思えないほど粗末なものだった。さて、僕達は見事に目的を果たせなかったね。皆はこれからどうしたいんだい?」
デズモンドが誰を指名するわけでもなく、後先の提案を求める。
誰も何も答えられない中、リチャードがどこか深刻な表情で仲間に次の行動を促した。
「死体や別荘を漁れ。金目の物を持てるだけ奪ったら、すぐにここを出るぞ。急いだ方がいい」
「ちょっと待って!カトリーヌは1週間後には別荘に来ると言っていたんだ!だったら、ここで待ち構えれば・・・・・・!このチャンスの逃す手はない!」
ただ1人、クリスだけは納得がいかず別荘に留まるよう訴えるが、リチャードは肯定する兆しさえもなく
「お前が頭をぶち抜いた幹部は他に何て言っていたか、覚えているか?カトリーヌは100の騎兵隊を引き連れてくると証言していた。俺には、あれが単なる脅しには聞こえなかった。もし、本当にそれだけの数が押し寄せて来たら俺達に勝ち目など微塵もない。1週間後とも言ったが、奴らの到着は思うより早いかも知れん。すぐにここを離れるべきだ」
「クリスの気持ちは理解できないわけじゃないけど、今の僕はリチャードに賛成したい。多分、その騎兵隊はカトリーヌ直属の精鋭部隊だろうね。そんな奴らをこれだけの人数で迎え撃つなんて、あまりにも無謀だ。命あっての物種だよ」
「素直にリチャードに従うべきね。犬死なんて最悪な死に様だし、あなたとの心中は私にとって最高の屈辱よ」
デズモンドがいつもらしくない真剣さを露にして、リリアも否定を覆さない。
「・・・・・・分かった。皆がそこまで言うなら、これ以上のわがままは言わない」
「どうか、気を落とさないで下さい。カトリーヌは仕留め損ねましたが、彼女の拠点の1つを陥落させたんです。十分な戦果を上げられたと思いますよ。それに別荘の貴重品を奪えば、多大な収入を得られるはずです。この襲撃もあながち無駄じゃなかっ・・・・・・っ!?」
慰めの途中で突然、ガタッ!と何かがぶつかる物音が鳴り、クリス達は緩んでいた気を引き締め武器を構えると、閉ざさられた扉を凝視する。
「・・・・・・誰かいるみたいですね・・・・・・?」
ライフルの狙いを定めながら、近づこうとするユーリをリチャードが止める。
「様子がおかしい・・・・・・ステラ、メルト、扉を開けろ。援護する」
ステラが黙って頷き、メルトが息を呑んだ。
2人は静かに扉を左右に挟んで、配置につく。
リチャードの合図でメルトが振り上げた斧を斜めに叩きつけ、取っ手と鍵穴を破壊。
ステラが扉を退かし、中に踏み込もうとしたが
「ああああああ!!」
鼓膜に響く突然の叫び。
勢いよく飛び込んで来た体当たりにぶつかり、ステラは弾き飛ばされてしまう。
その人物は闇雲にナイフを振るい、クリスに襲いかかる。
- Re: エターナルウィルダネス ( No.17 )
- 日時: 2020/01/13 18:16
- 名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)
物音の正体は幼いルシェフェルの少女だった。
白い短髪を生やし、背の低い細身の体型、その異様な格好にその場にいた全員が愕然としてしまう。
少女は下着さえも身に着けておらず、恥などお構いなしに大勢に全裸を晒した。
「・・・・・・うわっ!?」
クリスはとっさにナイフを握った手を抑えるも、体重のがのしかかり裸体の下敷きとなる。
「おいおい、メルト。お前の姉は随分とチビだな?しかも、人前で裸を晒す趣味でもあんのか?」
アシュレイのジョークにメルトが"はあ!?"とむきになり
「バカ言わないで!この子はお姉ちゃんじゃないよ!ルシェフェルである事は共通してるけども・・・・・・!」
「殺してやる殺してやる殺してやるっ!!」
少女は攻撃を加害行為をやめようとはせず、発狂を繰り返す。
ユーリとデズモンドが取り押さえようとするが、暴れる力は強く手がつけられない。
「落ち着け。俺達は敵じゃない。傷つけたりもしない」
リチャードが暴れる少女をクリスの体から引き離し、没収したナイフを手が届かない場所へ捨てた。
捻じ伏せるような乱暴な手段は避け、温和な対応を取る。
「・・・・・・ああああ!!」
「恐い目に遭ったんだな。もう大丈夫だ」
腕を絡め、そっと小さな体を包み込んだ。
「お兄ちゃんが・・・・・・グスッ・・・・・・お兄ちゃんがぁぁ・・・・・・!!」
少女は敵意を捨て、興奮を冷ましたが今度は大声で泣きわめいてしまった。
ステラは改めて、少女が閉じ込められていた部屋に入った。
内側に隠されていたものを目の当たりにし、彼ら視線を逸らし、込み上げてきた吐き気に口と鼻を覆う。
「うっ・・・・・・これは・・・・・・!」
部屋には無残に殺された青年の死体があった。
両手首にワイヤーを巻きつけられ、吊るされていたのだ。
頭部と手以外の皮は全て粗略に剥ぎ取られ、露出した肉の一部は膿が湧き腐敗臭が漂う。
傍には拷問に使用されたであろう血痕の付着した狂気が揃えられていた。
「多分、この人は・・・・・・うぇっ!」
ステラは喋ろうにも口が開かない。
長年に渡って積み重ねた傭兵の職業柄、猟奇的な境遇には慣れていたが、この地獄絵図には抵抗があった。
とりあえず、死体の指にはめられていた指輪を抜き取り、そそくさと部屋を出た。
「ねえ、ステラ。部屋には何があったの?」
扉を閉ざし、気分が悪そうに額を抱えるステラにメルトが興味本位に聞くが、返された返事は
「見ない方がいいです・・・・・・」
「よく分からないけど、知らないに越した事はないみたいだね。それはそうと、今は早くこの子の服を探そう。こんな寒い所で裸でいたら、間違いなく凍死してしまう」
クリスが深刻になって、事を急がせる。
「これだけ設備が充実した別荘だもの。服ぐらい、どこかにあるはずよ。2階に衣装用のキャビネットがないか探してくるわ。死体のを脱がして着せるわけにもいかないしね」
そう言ってローズがパーティを離れ、広間を飛び出して行った。
「よし、それ以外の奴は死体や別荘のありとあらゆる物資を奪え。食料、金、武器や弾薬、役立つ物は全部だ。それも済んだら、屋敷に火をつけて退散だ」
リチャード率いるギャングの群れは列をなして去る。
その中にはサイズが合わないぶかぶかの冬着で肌を包んだルシェフェルの少女がクリスにしっかりとしがみつく。
彼らの背の向かいには黒煙が巻かれ、直に全焼するであろう別荘があった。
「結局、カトリーヌの殺害は叶わず終いだったな。まあ、奪えたもんは多かった事だしよ。少なくとも、この俺にとっては満足な結果だがなぁ」
アシュレイはわざとらしい意地悪を言って、クリスの反応を窺う。
しかし、全く動じていない空虚な態度に期待を裏切られ、彼はつまらなそうに舌打ちをした。
「キャンプに戻ったら、どうする?僕は陣地を外して、ファミリーに関する情報を集めようと思うんだけど?」
「いや、お前は十分に役目を果たしてくれた。野営地に戻ったら、休息を取れ。あと、温かい食事もな。寒さと疲労で頭もろくに回らん。カトリーヌを殺す計画はまた、そのうち考える・・・・・・が、その前にこのガキをどうするかが問題だ」
リチャードはデズモンドの誠実さを褒め称えるが、疲労を癒す事を第一に促した。
彼は次に探偵から少女に視線を移す。
「・・・・・・」
少女はクリスの後ろに隠れ、見上げた顔を覗かせる。
「恐がらなくても大丈夫。僕達は君に酷い事はしないよ」
クリスは少女の頭上に手を乗せ、安心させると
「僕はクリス。君の名前は?」
「ミシェル・・・・・・ミシェル・アデール・・・・・・」
少女は言いにくそうに氏名を名乗る。
「ミシェル?オリウェールでは珍しい名前ですね?ひょっとして、この子は"ディオール人"なのでしょうか?」
意外な名称にサクラが首を傾げ
「へえ〜、ミシェルってディオール人なの?」
メルトが単刀直入に聞く。
「ううん・・・・・・私はこの国で生まれた。お父さんとお母さんが病気で亡くなって、お兄ちゃんと一緒に孤児院で育てられたの・・・・・・そんなある日、お兄ちゃんはルフェーブル・ファミリーに引き取られ、私も一緒に行く道を選んだ・・・・・・」
「ミシェル。何故、君はあの館に閉じ込められていたの?嫌じゃなければ、教えてくれないかな?」
クリスは皆が知りたいであろう、理由を問いかけた。
すると、ミシェルは曇った表情を俯かせ、静かに語り出す。
「お兄ちゃんは組織のお仕事で失敗を犯して・・・・・・だから、屋敷に連行されて罰として処刑された。使い物にならない私も、明日の今頃には殺される予定だったの・・・・・・!」
家族を失った悲しみと悔しさ、命拾いした恐怖に台詞の語尾は涙声になる。
「今日、私達がここを襲ってラッキーだったわね。無意味に等しい殺戮が1人のルシェフェルの命を救う事になるなんて・・・・・・」
奇想天外な展開にリリアはどう解釈すればいいのか、感情表現に迷う。
「ねえ、ミシェル?」
次はステラがミシェルに話しかける。
差し出された手の平には死体から取った指輪が乗っていた。
「さっき、君のお兄さんから回収したんです。形見として持っていて下さい。余計なお世話かも知れないけど・・・・・・」
ミシェルは、はっと顔を上げて指輪を奪い取るように受け取った。
形見を握った拳を胸に当て、何かを呟く。
「この子・・・・・・本当にどうするつもり?街まで連れて行って、新たな家を探す?」
ローズは曖昧な提案を持ちかけるが
「やめておこう。ミシェルはルシェフェルだ。オリウェールにいる以上、卑劣な扱いは避けられないだろうし・・・・・・ファミリーに属していたのなら尚更、理不尽な目に遭う。この子にとって安全な居場所があるとすれば・・・・・・」
「冗談じゃねえ。俺は子守なんてごめんだぜ。例え、100ウォール貰えても真っ平だ」
クリスが言おうとした事をアシュレイは以心伝心に悟って文句を吐き捨てる。
「確かに、この子は銃の撃ち方を多分知らない。でも、家事くらいはできるんじゃないかな?少なくとも、街に住まわせるよりはずっと安全だよ」
「その小さな脳みそでよく考えなさい。その子、非武装員みたいだけど敵側の一員である事に変わりないわ。こっちが危うくなれば、あっさり裏切るかも知れないわよ?」
リリアも反対意見と危険性を淡々と述べる。
「この子はファミリーに兄を殺された。寝返ろうなんて死んでも思わないはず。それを言うならユーリだって、元はカトリーヌの手下だよ?」
「だったら、お前がこいつの世話をしろ。言っておくが、情や甘さを捨てられないままでカトリーヌを殺せると思うな。慈悲の意味を履き違える者は悲惨な報いも大きい事を教えたはずだぞ?」
歓迎の欠片もない重い空気にミシェルは不安を募らせる。クリス1人を除いては。
「心配はいらない。僕が守ってあげる・・・・・・」
- Re: エターナルウィルダネス ( No.18 )
- 日時: 2020/01/22 19:55
- 名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)
数日後・・・・・・
ハイペシア ルフェーブル・ファミリーの居城 ミネルヴァ・デン
そこは広々とした豪華な部屋の中だった。
大理石の壁に飾られた紋章旗が横並びに繋がれ、床には白い毛皮をなめして作られた絨毯が敷かれており、天井にも美しい装飾が施されていた。
蓄音器が奏でる演奏、美しい音色が部屋を包み込む。
貴族らしさを目立たせる四柱式ベッドの向かいには本棚があり、その脇には大きな肖像画が飾られ、描かれた少女が微笑む。
その華やかな空間を独り占めしている寝巻き姿の少女が1人。
無垢な赤い瞳に後頭部が長く、結われたボサボサの白い髪。堂々とした精悍な顔を持ち、背が高く脚が長い。品のある格好が凛々しさを引き立てている。
肖像画に描かれた少女と同一人物だ。
少女は美しい音色と歌声を奏でる蓄音器の隣に身を置き、熱い紅茶を嗜みながら城下の街を一望できる街並みを窓の内側から覗く。
後ろからしたノックの音に女は振り返らず、"入りなさい"と訪問者を呼ぶ。
「失礼いたします」
扉が開き、入って来たのは城ので使用人あろう2人のメイドだった。
畳まれた衣装を組んだ両腕に抱え、礼儀のなった深いお辞儀をする。
「衣装をお持ちしました」
前列のメイドが言った。
「時間どおりですね」
少女はそれだけ言うと余った紅茶が揺れるカップをテーブルに置く。
寝巻きを脱ぎ捨て、ベッドの上に放り投げると雪のように白く美しい肌を露出させた。
2人のメイドは裸体に近い格好をした少女を取り囲み、シャツを着せ、肌を覆い隠すと次はセーターを重ね、ジャケットを羽織らせる。
丁寧にズボンを履かせ、素足に靴下と革靴を着用させた。
最後は胸元に紅いリボンを結び付け、端を垂らす。
「悪くないですね」
着替えを済ませた少女は分かりづらく、口をにこやかにして簡単な感想を述べる。
微妙にずれた身なりを整え、首を垂れるメイドを背に部屋を出た。
下階に降りると、違う部屋の前に立つ番兵に扉を開けさせ、そこを潜った。
そこは一見すると王室のための謁見の間。
手前の広間は縦長の形状をしており、辺り一面、宮殿を模倣していた。
無数の太い彫刻柱が並び、巨大なシャンデリアが天井の中心にぶら下がる。
奥部には無人の玉座が更に後ろには翼を生やし、木から果実をもぎ取る女の像が聳え立つ。
「我らが指導者のご到着だ!」
広間には既に多くの物が待機しており、その中の誰かが叫んで主の訪れを周りに知らせる。
瞬く間に群衆は静まり返り、全員の注目がたった1人の少女に集まった。
「・・・・・・」
少女は敬意の姿勢を取る群衆の間を堂々と歩き、玉座へと腰かける。
「"カトリーヌ"様、お待ちしておりました」
カトリーヌと呼ばれた少女の傍に寄る1人の重臣。
黒い長髪を生やし、右目を眼帯で覆うその女は赤いネクタイが印象的な軍服をきっちりと着こなし、膝の関節まであるロングブーツを履いている。
腰のベルトには右に銃を、左にはサーベルを身に着け武装していた。
その鋭い目は戦意に溢れ、大の男もたじろいでしまいそうな気迫を放つ猛将だった。
「"エリーゼ・フランゲル"中佐・・・・・・今日はいつもに増して凛々しいですね?あなたが私の右腕である事が私の自慢でもあります」
「はっ!お褒めのお言葉、光栄の限りであります!」
エリーゼは誇らしい謝意を示す。
「幹部は全員、揃いましたか?」
「いえ、それが・・・・・・」
エリーゼの困惑にカトリーヌは首を斜めに傾ける。
直後に扉が開いて、全員の凝視がそちらの方へ向けられた。
「あ?お前ら、もう来てたのか?悪ぃ。遅れちまったな」
入って来た者の正体は乱れた格好をした背の低い少年だった。
反省の色もない、いい加減な謝罪を吐き捨て、食いかけの塊パンを床に投げ捨てる。
「"ディヴイット"、恥を知れ!カトリーヌ様の前で無礼極まりないぞ!身のほどをわきまえんかっ!」
エリーゼが怒りを抱き、大声を張り上げた。
広間一帯に木霊する怒号に圧倒され、幹部達の一部は俯いて身を縮こませる。
「・・・・・・ちっ!数秒遅れただけだろ?別にいいじゃねえかよ。んな事でキレんな」
「これから大事な会談があるというのに!貴様、それでも組織の幹部か!兵を率いる上の立場ならカトリーヌ様が到着する前に来いっ!!」
「はいはい、以後注意する」
動じない性格だが、モラルに欠けた態度に呆れた幹部の視線を気にせず、彼は列に加わる。
「浅ましい場面をお見せしてしまい恥じるばかりです。この者には厳しい罰を受けさせます故・・・・・・」
エリーゼの謝罪にカトリーヌは特に気にする事なく
「構いません。それはそうと、早く始めましょう」
カトリーヌが促した号令で組織の会談が幕を開けた。
エリーゼが手短に演説を行い、内容を下僚たちに告げる。
指示を受け、任務を任されていた幹部数人が前に出た。
「あなた達には我が組織の利益となる重要な任務を与えていましたね?その結果を報告して下さい。吉報を期待していますよ?」
最初にルシェフェルの青年が謹んだ返事を返し、成果を詳しく報告する。
「第二騎兵連隊長"アルバート=ダルニシアン"、100人の兵員で現金を輸送した汽車を襲撃。25名の警備隊と3人の民間人を射殺、こちらの損害はなし。金庫室から大量の現金と金塊を強奪し、任務を無事に遂行しました。得られた金額は1億ウォールを下らないかと」
朗報が叶い、カトリーヌの口角が引きつる。
次の喜ばしい知らせを望んだ面持ちを次にディヴイットに向けた。
目が合った彼は話すのも面倒な実にかったるい態度を改めぬまま、ポリポリと頭を掻きながら
「あ〜?俺か?えっと・・・・・・第六騎兵連隊隊長、"ディヴイット・バルザリー"、75人の手下を使って村から物資を頂いたぜ。あ、違ぇ・・・・・・正確には略奪だな。食いもんがないと生活ができないとか、バカな村人共が逆らってよ。こっちが優しくお願いしてるってのに、その親切を踏みにじりやがったんだ。だから、全員ぶっ殺してやったんだよ。老人も子供も1人残らずな。連中を小屋に押し込んで火を点け、強姦もいくつかやった。集落は全滅、こっちの被害はゼロだ。ま、非武装地帯を狙ったんだ。こっちに犠牲者なんて出るはずもねぇけどな。へへっ」
凶行に及んだ内容を罪の意識さえもなく、淡々と楽しそうに語る。
2人に続いて幹部達は順々に任務の成功と報告を述べていく。
その全てが略奪や暴力、殺人など犯罪に関連したものばかりだった。
彼らが必ず口にする犠牲者の数は計り知れない。
- Re: エターナルウィルダネス ( No.19 )
- 日時: 2020/02/13 17:53
- 名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)
- 参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=1386.jpg
「いつもながら、上出来ですね。今回の働きによって我が組織も多大な繁栄を遂げる事でしょう」
部下のしくじりのない活躍にカトリーヌは彼らを満足げに褒め称えた。
エリーゼは腰を低く、主に賞賛の言葉を送り返す。
「我々が失態のない戦果を上げられるのはカトリーヌ様の指揮があってこそ。これほどの配下や兵員をお一人でまとめ上げる能力には心酔させられるばかりです。ファミリーの指導者に相応しいお方はあなた様以外はおられますまい」
エリーゼは何も言い返さなかったが思いは伝わったのか、当然だと言わんばかりに自信に満ちた表情を浮かべる。
「皆さんの目覚ましい活躍ぶりは大義でした。しかし、我々には足りない物がまだたくさんあります。ここはまた、私のために銃を取ってはもらえないでしょうか?資金と物資は十分に集まりましたね。では、次にやってもらいたいのは・・・・・・」
「カ、カトリーヌ様っ!!」
静かな雰囲気を豹変させる深刻な叫び。
今後の計画を伝えようとした台詞は途中で打ち切られる。
下級兵士の青年が息を切らし、追われて逃げ込む兎のように飛び込んで来た。
ただ事を感じさせない焦った様子に幹部達の怪訝の視線が浴びせられる。
「むっ!?貴様、伝令か!?今は会談の最中だ!時と場所を考えろっ!」
第二の指導者であるエリーゼの忠告をお構いなしに伝令は走り寄った。
つまづいて転んでも足を引きずり、カトリーヌの前で跪く。
落ち着く兆しもなく、玉座に座る最高指導者を見上げ
「カトリーヌ様っ!一大事でございますっ!」
あまりにも沈着とは程遠い慌てぶりにカトリーヌも眉をひそめ、呆然とする。
「落ち着きなさい。何事ですか?」
そうおもむろに問いかけると
「あなた様が所有していた雪山の別荘が敵襲を受けましたっ!」
その率直の知らせに幹部達全員がざわつき始める。
驚愕した反応を互いに訴え、騒々しい環境を生んだ。
「こいつぁ驚きだ。俺達にケンカを売るバカがハイペシアにいたとはな」
ディヴイットが予想だにしていなかった事件に苦笑し、アルバートもその知らせに耳を疑った。
「呑気に言ってる場合か。拠点の1つが壊滅だと・・・・・・?まずいかもな。ついにハイペシア政府が俺達の殲滅を目的に動き出したのか?」
「いや、ねぇな。連中が本気で俺達を殺しに来るなら回りくどい真似はせず、真っ先にこの城に総攻撃を仕掛けるはずだ。それに政府は隣国のグリストルと激戦を繰り広げている。ただせさえ、不利な状況だってのに俺達に手を出す余裕まではないはずだぜ?」
「なら、一体誰が?ファミリーに抗える敵対勢力なんて、この国にはいないはずだ」
「静まれっ!!列を乱すなっ!!」
エリーゼの落雷のような声は群衆の賑やかさを打ち消し、幹部達は無意識に姿勢を正す。
普段の静寂さを取り戻し、広間は無音の空間と化した。
「私の別荘が・・・・・・?確か、あそこには幹部であるサイラスに番を任せていたはず・・・・・・ちなみに、どれほどの損害を被ったのですか?」
カトリーヌは伝令に問いかける。
その口調は穏やかだが、微かに刺々しさが入り混じっていた。
「全滅です!我々、別動隊が到着した頃には館は既に燃え尽きた後でした!至る所に同胞の遺体が転がり生存者の姿はなく・・・・・・サイラス連隊隊長も恐らくは・・・・・・」
「襲った者が誰なのかは分かりますか?」
「いえ・・・・・・それが全く・・・・・・!」
「・・・・・・そうですか。聞きたい事は聞きました。ここから立ち去りなさい」
伝令はみすぼらしく肯定し、恐れ多そうに広間を後にした。
カトリーヌは玉座の背もたれに背中を預け、失望に満ちたため息をつく。
彼女が機嫌を損ねた事をその場にいた誰もが実感していた。
「エリーゼ?あなたにはどのような犯人像が?この国で私に楯突く輩がいると思いますか?」
「はて?敵対するギャングの仕業なのか、あるいは我々に反する地下組織が存在しているのか、私にも見当がつきません。ハイペシアに住まう者はカトリーヌ様に逆らえば、どんな恐ろしい仕打ちを受けるか十分に熟知しているはずです。しかし、これは紛れもなくルフェーブル・ファミリーに対する宣戦布告・・・・・・事が重大と化す前にいち早く手を打つべきかと」
「それが賢い判断ですね。甘さを与えれば、蟻は付け上がる。害が群がる前に潰してしまいましょう」
「カトリーヌ様!ここはエリーゼに討伐命令をお与え下さい!直ちに数百の精鋭を動員し、犯人の尻尾を掴んでみせます!」
敵の追撃にエリーゼは自らを推薦するが、カトリーヌは頭を縦に動かさなかった。
「その忠実さは買いますが、あなたには別の重要な役目を果たして頂きます。第二の指揮系統であるあなたに、もしもの事があったら私の組織は大幅の戦力を失ってしまいますから。襲撃者の追撃は彼らにやってもらいましょう」
カトリーヌは頼るに相応しいと抜擢した幹部に視線を運ぶ。
その視界には、こちらを凝視するルシェフェルの2人が映った。
「ディヴイット、アルバート・・・・・・幹部の中でも特に優秀なあなた達にお願いしたいのですが?異論はありますか?」
「はぁ〜?何で俺なんだよ?他にもした事が山ほどあるってのに・・・・・・アルバートだけでも事足りるんじゃねぇのか?」
乗り気が冴えないディヴイットは当然だと異論を唱える。
一方、アルバートの意見は違った。
「ルシェフェルとして虐げられていた俺に居場所を与えてくれたカトリーヌ様に御恩を返すだけです。如何なる時でもお力添えを惜しみません。ただ・・・・・・品に欠ける事は十分に承知の上ですが・・・・・・」
カトリーヌはアルバートのいつもの意思を理解し、クスッと微笑んだ。
「報酬ですね。心配いりません。成功した暁には、それ相応のウォールを授けましょう。忠義を尽くす部下への約束は守ります」
「御意・・・・・・して、襲撃者の正体を突き止めた際、その者達の処罰は如何いたしましょう?生け捕りにして、ここへ連行しましょうか?」
すると、カトリーヌは笑顔を歪ませ、勢いよく玉座から立ち上がる。
優しさの欠片もない冷たい表情は別の人格を映し出していた。
彼女は慈悲を捨てた鋭い声で
「何度も言ったはず・・・・・・私の戦争に捕虜は必要ありません。犯人が明らかになり次第、その者達を殺せ。1人残らずだ・・・・・・」
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