複雑・ファジー小説
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- エターナルウィルダネス
- 日時: 2020/02/13 17:55
- 名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)
乾いた土、枯れた草木、その上に零れ落ちた血の跡・・・・・・復讐の荒野は果てしなく、そして永遠に続いていく・・・・・・
ディセンバー歴1863年のオリウェール大陸。
西部諸州グリストルと東部諸州ハイペシアとの内戦が勃発。
かつて全盛期だった大陸は平穏の面影を失い、暗黒時代への一途を辿っていた。
王政派の勢力に従軍し、少尉として小隊を率いていたクリス・ヴァレンタイン。
戦争終結の後、退役軍人となり、両親が残した農場で妹であるリーナと平穏に暮らしていた。
しかし、突如として現れた無法者の集団による略奪に遭い、家は焼かれ、リーナを失ってしまう。
運よく生き残ったクリスは妹を殺した復讐を決意し、再び銃を手にするのだった。
彼女は頼れる仲間達と共に"ルフェーブル・ファミリー"の最高指導者"カトリーヌ"を追う。
・・・・・・・・・・・・
初めまして!ある理由でカキコへとやって来ました。"死告少女"と申します(^_^)
本作品は"異世界"を舞台としたギャングの復讐劇及び、その生き様が物語の内容となっております。
私自身、ノベルに関しては素人ですので、温かな目でご覧になって頂けたら幸いです。
・・・・・・・・・・・・
イラストは道化ウサギ様から描いて頂きました!心から感謝いたします!
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・お客様・・・・・・
桜木霊歌様
アスカ様
ピノ様
黒猫イズモ様
コッコ様
- Re: エターナルウィルダネス ( No.32 )
- 日時: 2020/07/28 06:50
- 名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)
火を灯されたテキーラは瞬く間に誘発し、大爆発を引き起こした。
鼓膜が破れるほどの轟音と共にキノコ雲が空高くへと突き上がる。
その威力は凄まじく、衝撃波がリリア達の方までも押し寄せ、強引に体をなびかせる。
爆風に飲まれた一帯は全焼し、火だるまとなったファミリーが踊り狂う地獄絵図と化していた。
焦げた肉の塊が力尽きては次々と朽ち果てていく。
散々、暴威を振るっていた機関銃も跡形もなく、消し飛んでいた。
形ある物全てが焼き払われる光景は焼夷弾を撃ち込まれた戦場のようだ。
「ぐっ・・・・・・クソがぁっ・・・・・・」
建物の原形を留めていない残骸から肩を押さえ、フラフラとディヴイットが現れる。
得意の俊敏性を活かして避難を遂げていたのか、落命を免れていたのだ。
だが、あの大規模な爆発で無傷で済むはずもなく、品があった衣服は古着のように破け、露出した肌に重度の火傷を負っていた。
その良心の欠片もない冷たい目には怨讐だけが宿っている。
クリスとリチャードがいた前線は煙が蔓延していた。
熱く濁った気体を肺に吸い込んでしまい、咳を嘔吐に近い症状で吐き散らしながら地べたを這う。
ユーリとミシェル以外のギャングのメンバー達は何が起こったのか分からず、惨劇の内容を把握するのに数十秒の時間を要した。
「何が起こったんだ・・・・・・?」
甲高い耳鳴りと頭痛が脳内で鳴り響く。
爆発の範囲外にいたステラとアルバートも振動に足が崩れ、腹這いにさせられていた。
予期せぬ事態を逆手に取ろうとステラは膝を起こし、土に刺さったシルヴィアに手を伸ばそうとした。
しかし、乾いた銃声がして右脚の両面から血が噴き出した。
"がっ!"と短く硬直し、痛感に歪んだ顔だけを振り返らせると、小型の自動拳銃が最初に視界に納まった。
弾切れの隙を想定し、アルバートは愛用のリボルバーだけではなく、切り札として予備の拳銃を隠し持っていたのだ。
「残念だったな?頭の回転が速いのは傭兵だけの特権じゃないんだ」
アルバートは見下した口調で勝者を気取り、銃口の煙を吹いた。
次は確実に命を奪うよう眉間に狙いを定める。
「これもウォールのためだ。悪く思うな。もし、お前が味方なら良き親友になれたかも知れないな」
ステラは銃殺刑を覚悟し、思惑通りに2発目の銃声が響いた。
しかし、どういうわけか、身を持って知るはずの痛みを感じない。
落命とはこんなにも呆気ないものなのか?死んだ自覚が曖昧な感覚に陥りながら、ゆっくりと顔を上げた。
「うう・・・・・・ぐう・・・・・・」
苦しそうに唸るアルバートの手が銃を落とした。
震えた平側を胸元に触れさせ、眼前で眺める。
生温く、べっとりとした黒い体液が付着していた。
撃たれた事はすぐに知った・・・・・・が、犯人に心当たりなどなかった。
直後に発せられる声が耳に届くまでは。
「ぜいぜい・・・・・・お返しだ・・・・・・ルシェフェル野郎・・・・・・」
アルバートの背後でヴォルカニックピストルを構えたアシュレイが暴言を吐き捨てる。
息を切らし、歯をギリッと噛みしめ、限りない殺意を繕う。
「ごふぁっ・・・・・・!」
アルバートは吐血し、膝を落とした。
肉を抉られた痛みと喉を体液で埋め尽くされる息苦しさを同時に味わう。
最早、敵を殺められる士気は完全に損失する。
「アシュレイさん・・・・・・!」
ステラはアシュレイの無事に嬉しさに浸りたかったが、先頭を最中にして情の優先は禁忌。
急ぎシルヴィアを拾い、アルバートに止めを刺そうとするが
「・・・・・・ちっ!」
アルバートは無念の舌打ちを鳴らし、僅かな気力を振り絞って右腕を掲げる。
手には片手で包めるくらいの大きさをした得体の知れないボールを握っていた。
それが地面に叩きつけた途端、球体は破裂し、白煙が充満した。
「煙幕か!?」
ステラはアルバートいた位置に斬りかかった・・・・・・が、手応えはない。
逃走手段を悟った時には間に合わず、煙が気体に溶け込んだ頃には奴の姿はなかった。
その場には2人の負傷したギャングだけが取り残される。
「逃げられたか・・・・・・ちくしょう・・・・・・」
アシュレイは語尾の暴言を弱々しく吐き捨て、ヴォルカニックピストルを落とす。
ステラは武器を投げ捨て、彼の崩れかけた全身を支える。
「アシュレイさん・・・・・・!しっかりして下さい!」
「やめろよ。男が男を心配すんじゃねえよ・・・・・・安心しろ。俺は致命傷すら負っちゃいねえ」
「何言ってるんですか!?あなたは胸部をまともに撃たれたんですよ!?」
ステラは心配をアシュレイは大袈裟だと言わんばかりに苦笑し、撃たれた箇所の服をずらす。
肌に受けた銃弾は体内にめり込んでいるどころか、表面の皮膚を傷つけただけだ。
「俺は服を伊達なお洒落にしちゃいねえ・・・・・・覚えとけ。頭が使える奴ってのはよ、武器よりも先に鎧を身に着けるもんだ・・・・・・」
「よくも・・・・・・この俺をコケにしやがってっ・・・・・・!」
ディヴイットは自軍の大損害を認められず、尚も攻撃を続けようとする。
しかし、体の負傷が災いし、体の自由が利かない。
自動小銃を構えようとしても片手では重く、銃口を敵に向ける事さえも至難した。
「ディヴイット連隊長!」
そこへ生き残っていた部下が彼の腕を掴んで、撤退を促す。
「放せ!ゴミクズッ!!」
ディヴイットが妨げようとする手を乱暴に払い除け、治まらない逆上をぶつけようとするが、部下も後には引かなかった。
「我々に勝機はありません!あまりにも兵を失い過ぎました!アルバート連隊長も既に退却をっ・・・・・・!」
「何だとっ・・・・・・アルバートの奴、逃げやがったのか・・・・・・!?」
悲報に接しディヴイットはようやく、不利な状況に置かれている自身の立場を自覚した。
悔しそうに声を張り上げると自動小銃を扱う意欲を捨てる。
「覚えてろよ、蛆虫の集まり共がっ・・・・・・!この屈辱は晴らしてやるぜ。必ずなっ!」
去り際に報復の宣告を最後に、ルフェーブル・ファミリーの兵達はアドニスから撤退した。
- Re: エターナルウィルダネス ( No.33 )
- 日時: 2020/08/01 20:54
- 名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)
「銃声が、止んだ・・・・・・?終わったの・・・・・・?」
リリアが敵の掃射が納まった静けさの訪れに僅かだが、緊張を解した。
「どうやら、あの爆発で追い払えたみたいね・・・・・・でも、何が起こったのかしら?」
「恐らく、奴らの陣にあった火薬が爆発したんだろうね。こっちは散々な被害を被ったけど、運だけは裏切らなかったようだ」
ローズとデズモンドも悪運に救われ、安堵のため息をつく。
負傷者の手当てもちょうど、巻き付けた包帯の余分な生地を切ったところだ。
「げほっ・・・・・・クリス、生きてるか・・・・・・?」
「ああ、こっちは何とかね・・・・・・リチャードの方こそ、自分の身を心配した方がいいと思うけど・・・・・・?」
クリスは煙の薄い場所まで這いずると大の字に転がり、熱い黒雲で濁った青空を見上げる。
「こんなに恐い思いをしたのは久しぶりだ。生きてる実感を深く味わってるところだよ・・・・・・」
凄まじかった激戦の感想にリチャードは共感し、反省を踏まえる。
「ああ、あれほどの大隊の待ち伏せを見抜けなかったとは、俺も焼きが回ったな・・・・・・もう、満足に戦える歳ではないのかも知れん」
「引退すれば?退職金は出してあげられないけど」
クリスの軽いジョークにリチャードは脇腹の出血を押さえ、2人は苦し紛れに笑った。
「お前らだけじゃ、組織は成り立たん。若い連中をちゃんとしつける頑固な父親が必要だろう・・・・・・まあいい。戦争は多分、終わったんだ。とりあえず、仲間を集めるぞ。連中はどこにいる・・・・・・?」
ただせさえ、酷い有様になっていたアドニスは今の戦闘で世紀末の廃墟と成り果てていた。
街の半分は爆発で破壊され、最早そこは集落とはお世辞にも言えない。
アドニスの結末がもたらしたのは、更なる殺戮と大量の死体だけだった。
ギャングのメンバー達はこれ以上は戦えないほどの疲れを抱え、一箇所に合流する。
そのほとんどが負傷が原因で正常に動ける者は半分しかいなかった。
「リリアもステラも大事に至らずに済んだようだな。聞くのも嫌だが、死んだ奴はいるか?」
「いえ、今回も全員が生き残れたようですよ・・・・・・むしろ、敵に多大な損害を与えてやった。幹部をも仕留めていれば、完全勝利と言ってもいいでしょうけどね」
ステラの無理をした前向きな評価に
「皮肉にしか聞こえないわよ」
ローズが本格的な皮肉をぶつける。
「私とサクラが狙撃手をやっつけたんだよ!サクラが囮を作ってね!櫓をドーンって壊したら、落ちた奴をズシャッて!」
メルトは得意になって、先ほどの経験談を曖昧に再現する。
子供染みた行為を黙視していたクリス達は呆れた表情と仕草を取った。
その中で唯一、デズモンドが活躍を称える。
「2人はよくやってくれたよ。狙撃手を無力化した事こそが、こっちの勝因に大いに貢献していると言えるね。あと、影で僕達を支えてくれたユーリの功績も忘れちゃだめだよ?」
「結局、あの爆発は何だったのかしら・・・・・・?」
リリアが特に誰にでもなく聞いて、ローズが首を傾げる。
「さっぱりですね。僕とアシュレイさんは街の隅にいましたから。こっちとしても、キノコ雲は謎の現象です」
ステラも結論に行き着けず、判断に迷う。
「んなこた、どうだっていいんだよ。俺達はファミリーのクソ共を何人もぶっ殺して返り討ちにしてやったんだ。めでたしめでたし・・・・・・って、おい!そんな事より診療所は無事かっ!?」
本来の目的を思い出し、態度を豹変させたアシュレイは傷の痛みをも忘れ、勢いよく駆け出す。
「バカ!無暗に動くな!奴らの生き残りがいるかも知れんぞ!」
リチャードの警告の足止めなどお構いなしに、彼は未だに濃度が薄まらない煙の中へと消えた。
クリスとステラが呆れ半分で後を追う。
ヴェロニカが経営しているという診療所は運よく、爆風の被害を免れていた。
しかし、襲撃に遭った事実は変わらず、廃屋としか呼べない酷い有様だ。
施設の内容を示す看板は元の位置から外れ、斜めに傾いている。
「ヴェロニカ!!」
アシュレイの叫びがアドニスに木霊する。
玄関の扉を何度も拳を打ちつけ、幼馴染みの名と呼ぶと共に乱暴なノックは繰り返された。
内側に声が届いてはいるだろうが、返事がない。
「・・・・・・ヴェロニカ!!聞こえるか!頼むから返事してくれよ・・・・・・!!」
最悪な予感が脳裏を過り、アシュレイの発声が弱まっていく。
その表情は、自身の望みを強く訴えかけていた。
「アシュレイ、静かに。扉から離れるんだ」
クリスが真剣且つ、落ち着いた口調でアシュレイを遠ざけ、扉の横の壁に背を預ける。
その反対側にはステラが配置に着く。
「僕の合図で扉を開けます。クリスさんが先に踏み込んで下さい」
クリスは頷き、リボルバーをこめかみの手前に当て、突入の姿勢を整える。
- Re: エターナルウィルダネス ( No.34 )
- 日時: 2020/10/18 21:21
- 名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)
- 参照: https://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=2071.jpg
「1・・・・・・2・・・・・・3!」
ステラが3秒目を強く数え終えた直後、取っ手を回してがさつに扉を開く。
クリスが銃口を敏速に構え、建物の内側と相まみえた。
鋭い反射神経は撃つべき標的を捉えなかった。
診療所の中は無人で狭い待合室は荒れており、受付付近の床にあらゆる道具が散乱している。
ファミリーの卑劣な略奪行為は、病人怪我人が集う救済の場にまで及んでいた。
ロッカーや棚に物色された痕跡が至る所に残されているのが揺るがない証拠だ。
「クリア!」
一歩足を踏み入れたクリスは死角に注意を払いながら銃口を様々な方へ向け、異常の皆無を告げる。
ステラも警戒を解かず、後に続いて流れ込んだ。
「妙ですね。この診療所にだって、ファミリーの魔の手が伸びたはずだ。そのはずなのに患者達の死体はおろか、血痕すらない」
「これは僕の勘だ。考えたくもないけど、彼らはここを連れ出されて別の場所で殺されたんだ。惨いやり方でね。虐殺者は弱者をいたぶる事を異常なくらいに好む」
クリスはファミリーの凶行を推測し、ぶつける場所がない怒りを募らせた。
「うう・・・・・・ぐすっ!ヴェロニカァ・・・・・・!」
アシュレイが望みが断たれた泣きじゃくった顔で姿形のない幼馴染みを求めた。
しつこいほどに同じ台詞を繰り返し、診療所の調べてない部屋を回っては探索に明け暮れる。
躍起になる仲間の目にせずとも、その必死な彷徨いがクリス達の胸に深い痛みを刻む。
「認めたくないけど、アシュレイの幼馴染みも既に・・・・・・」
クリスはあえて語尾を喋らず、無念な頭を垂れると共に銃口を床に降ろした。
「彼の言う通りだったのかも知れません。もっと早く、アドニスを訪れるべきでした・・・・・・そうしていたら、助けられた命もいくつか・・・・・・しっ!静かに!何か音がしませんか?」
途端にステラが会話を打ち切り、耳を研ぎ澄ませる。
クリスも彼の行動に合わせ知覚を集中させると、確かにそれは聞こえた。
内容は全く聞き取れないが、誰かがヒソヒソと呟き合っている話し声が聴覚に届いたのだ。
そして、微小だが足元に小さな振動を足裏が感じ取る。
「床下に誰かいます・・・・・・ちょうど、僕達の真下だ」
橙色の目をしたステラが小声で囁き、油断を捨ててカラドボルグを頬の手前に足元を見下ろす。
「どうやら、生存者で間違いないみたいだね」
「・・・・・・生存者だとっ!?」
クリスの発言をアシュレイは聞き逃さなかった。
駆け出した弾みに足を滑らせ重心を失うが、すぐにこちらへ引き返してくる。
「おい!どこだっ!?どこにいやがるっ!?」
圧倒的な勢いで両腕を掴まれ、粗暴に揺さぶられる。
ステラはのけ反り、言葉を忘れて無意識に床を指差す。
アシュレイはくっつくように床を這い、大声で呼びかけた。
「そこにいるのは誰だ!?ヴェロニカ!!お前なのかっ!?」
『"え・・・・・・その声、アシュレイ!?アシュレイなの・・・・・・!?"』
地面の壁を隔てて返って来た返答にクリスとステラは唖然を隠せない互いに見合わせた。
3人は一時武装を解き、急ぎヴェロニカの救助に専念する。
床板を外して床下を覗くとヴェロニカが体を丸め、体操座りの姿勢で潜んでいた。
外の光が差したこちらを見上げ、相好を崩す。
「もう、お前とはあの世でしか会えないかと思ったぜ!怪我はしてねぇか!?」
「うん、平気」
ヴェロニカは差し伸べられた手を掴み、幼馴染みの力を借りて起き上がる。
奇跡的な再会を果たしたアシュレイの満面の笑みは最早、狂喜としか映っていない。
2人は二度と放さないと言わんばかりに抱き合い、嬉し泣きの涙液を溢れさせる。
「さあ、早く。あなたもこちらへ」
床下にはもう1人の生存者が身を隠していた。
その人物は性別も異なり、髪の色も年齢も大きく差がある。
大柄で逞しい体格の持ち主で精悍な顔を持つ。
分厚い本を片手に修道院を連想させる格好からして、神父で間違いないだろう。
彼も薄暗く窮屈な空間から脱し、危機が去った環境に感謝の意を示して指で十字線を描く。
「心配かけやがって!こっちは生きた心地がしなかったんだぞ!無事でよかったぜ!」
叱っているのか、心配しているのか判断に迷う言い方で幼馴染みの頭をクシャクシャに撫で回す。
ヴェロニカは鬱陶しそうに苦笑していたが、満更でもない様子だ。
やがて彼女はクリスとステラの前に行き、祈る形に手を合わせて微笑む。
「本当に感謝しています。神様がきっと私達を生かしてくれたんですね。あの・・・・・・もしかして、あなたがクリスさんですか?」
「・・・・・・え?僕の事をご存じなんですか?」
本人を認識したヴェロニカは嬉しそうに頷き
「ええ、アシュレイが送ってくれる手紙を読むと、必ずクリスさんの名前が載っているんですよ。私の幼馴染みがいつもお世話になっているようで」
「あはは・・・・・・どうも」
礼賛され、照れ笑いするクリスとは裏腹にステラは生真面目な確認を行う。
「生存者はあなた達だけですか?」
「ええ、恐らくは・・・・・・」
神父がはっきりとしない小声で返事をする。
「今日という終焉の日から2週間前、私は教会の命を受け、このアドニスという聖地にて神の教えを広めていました。ですが・・・・・・悪魔の召使達が突如現れ、悪事の限りを尽くしました。平穏の地を汚し、無慈悲に焼き払ったのです」
修道士特有の喋り方を気にせず、クリスが2人の経緯を知るために事情を聞き出す。
- Re: エターナルウィルダネス ( No.35 )
- 日時: 2020/10/18 21:20
- 名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)
「襲撃が起きた際、2人は何をしていたんですか?患者達はどこへ?」
すると、ヴェロニカが罪悪感に囚われたような面持ちに一変させ
「襲撃の際、私と神父さんは患者の皆様の避難を優先させました。でも、患者の皆様は我々を死なせたくなかったのか、逆に自らを犠牲にして我々を匿ったんです」
「本当に自己犠牲の強い勇敢な方々でした。大勢の迷える人々が自分の命に代えてまで、ヴェロニカさんの恩に報いたのです。彼らがエデンへの門を潜れる事を心からお祈りします」
神父も悲しみに鼻を啜り、冥福を祈る。
「なるほどな。診療所の連中は、そんだけヴェロニカを好いてやがったんだな・・・・・・この貸しは大きいぜ。二度と返してやれねえけどな・・・・・・」
アシュレイも珍しく胸に手を当て、死者に謝意を示した。
ステラが一足先に診療所を出て、出入り口から体を覗かせながら手を招く。
「とにかく、僕達の目的は果たせました。これ以上の惨事が降りかかる前にアドニスを離れましょう。外で味方が待機しています」
探していた少女を連れ、煙の中から帰還する3人の仲間を認識した時、ギャング達の歓喜は最高潮に達した。
相好を崩し、全員がクリス達の帰りを歓迎する。ステラに飛びついて抱きつくメルト。
リチャードも豪快に笑い、クリスとアシュレイの首を腕に挟んで髪を加減のない力で撫で回した。
感激のあまり、サクラも嬉し泣きした素顔を両手で覆う。
「へえ、なかなかの美少女じゃない。アシュレイには勿体ない人材だわ」
ローズは嫌みを含ませながらも、幸福な結末を素直に祝福する。
「わざわざ、滅んだ街に足を運んで深手を負った甲斐があったわ・・・・・・まさか、死体の山にお目当ての生者が埋もれていたなんてね・・・・・・」
デズモンドに肩を貸されたリリアも痛みに耐え、目的を成し遂げた達成感に苦し紛れな笑みを作った。
「アシュレイ。この人達があなたが言っていたギャングの・・・・・・?」
「ああ、こいつらがそうだ。頭は足りねえが、いざという時に頼りになる連中だ」
愉快な面持ちを浮かべながらアシュレイが言って、釣られてヴェロニカがクスッと笑いを吹き出す。
「頭が悪いのはあんたよ」 「頭が悪いのはあんたよ」
ローズとリリアが口を揃え、皮肉を吐き捨てる。
リチャードはヴェロニカに歩み寄って、歳も身長も離れた子供に行き場を遮るようにして対面した。
そして、普段より真剣に事情と用件を伝える。
「嬢ちゃん、俺達は君に用があってこのアドニスを訪れた。アシュレイの話じゃ、君は軍医に任命されるほどの優秀な医術を心得ていると聞いた。唐突な願い出は紳士的な礼儀に反するが、その才能を俺達のために使ってくれないか?」
ヴェロニカはギャング達の期待が自分を中心に集まっている事を自覚する。
彼女は最初から決めてしていたかのように、すぐさま決断を下した。
「勿論、喜んで協力します。皆さんはこれだけの怪我を負ってまで、知人でもない私を救い出してくれました。断る方が失礼な話です。アシュレイとずっと一緒にいられるなら、私は幸せ。それに・・・・・・」
ヴェロニカは生き甲斐だった診療所の跡に悲し気に満ちた顔を振り返らせ
「今の私に帰る家なんてないから・・・・・・」
「ところでクリスさん。その人は誰なんですか?見たところ、ジャネール教の牧師さんのようですが・・・・・・?」
サクラがクリスの隣にいた神父に関心を引かれた。その言葉が共感を呼び、ギャング達は怪しむ目つきで
「この人は神の教えを請うために最近、アドニスを訪れたんだ。ファミリーの襲撃の際、ヴェロニカさんと一緒に床下に隠れていた」
クリスが言って今度はステラが単純に
「そう言えば、まだ名前を伺っていませんでしたね?僕はステラ・セプティ。あなたは?」
神父は理性的な態度でギャング達に一礼し、はっきりとした声で自己紹介をする。
「私は"ルイス・ベイツ"と申します。バエンシアで生を受け、幼い頃からオリウェール宗教を学びながら育ったのです。30の年齢を迎えて数週間後、教会から聖人の地位を与えられました」
「バエンシアか・・・・・・ちょうど、グリストルとハイペシアの境界にある小さな集落だね」
デズモンドが地名に物珍しさを感じる。
「神父さん、あんたはこれからどうするんだ?アドニスはこの通り、滅んでしまったわけだが・・・・・・どこか行く当てはあるのか?」
リチャードの問いに
「もし、よろしければ私もヴェロニカさんと同様、あなた方の旅に同行させて頂けないでしょうか?無論、迷惑な行為は慎みます」
「・・・・・・分かってるのか?俺達はギャングなんだ。人を殺しては欲しい物を奪い、神の教えなんて耳をすり抜ける雑音でしかない最低な組織だ。俺達に加われば、平和主義で潤った綺麗な手を赤く汚す事になるぞ?」
ルイスは覚悟のこもった形相で睨み返し、
「平和主義は無抵抗という甘い理想とは異なります。愛する者を守る必要があるとすれば武器を手にし、愛を持って誤った者の心臓を貫きます。確かにあなた方を聖者と呼ぶのは難しいでしょう。しかし、悪を裁き、罪なき羊を救った事は大きな徳を積んだと言えます。私はあなた方に恩返しがしたい。それについて行けば、私の知らない壮大な何かを学べる気がするのです」
「神に仕える立場の奴がそんな事を口にするとはな・・・・・・まあ、ただ飯を食う奴よりは心強い戦力になりそうだ。気に入った。ついて来たいなら好きにしろ。飯や寝床は提供してやるが、教会の暮らしと違って、かなりお粗末な物だぞ。それとだ。俺達を売ったり、裏切ったりしたら・・・・・・地獄よりも辛い苦しみが待っているからな?」
執念を認めたリチャードは強迫に等しい忠告を促すと、一足先に馬を取りに向かった。
「その方がいいよ。ここに置き去りにするのも可哀想だし。仲間が増えるっていいね」
メルトが無邪気に言って
「そうね。私達が野垂れ死んだ後、地獄に落ちないよう祈ってくれる人が1人いた方がいいかも。私はローズ。よろしくね?野蛮な神父さん」
ローズは新たにギャングに加入したルイスと友好的に握手を交わす。
「ルフェーブル・ファミリーの野郎・・・・・・俺の幼馴染みに手を出すとはいい度胸してるじゃねえか。この代償は高くつくぜ」
鋭い八重歯を剥き出しにし、殺伐とした態度を取る。
「アシュレイ、聞いて?アドニスの襲撃は"ただの略奪事件"じゃないんだ」
「はあ?そいつはどういう意味だっ!?」
ヴェロニカの聞き捨てならない発言に既に遠のいたリチャード以外全員が足を止め、彼女に再び注目を浴びせる。
デズモンドに限っては至って冷静だった。
「詳しい事は後で聞くとしよう。まずは野営に戻って、休息を取るべきだ。特にリリアはね。ここにいたら、次はどんな危険が起こるか分かったもんじゃない」
「そうですね。アドニスの戦闘であまりにも負傷者が出過ぎました。怪我人の治療を優先した方が得策かと・・・・・・」
サクラも驚けるほどの気力は残っておらず、傷ついた足を引きずる。
ふと、去り際にアシュレイの視線が偶然にも、地面に転がる樽に重なった。
「おい。ありゃ、アドニスのテキーラじゃねえか?ここにあっても腐るだけだ。土産の代わりにして奪っちまおうぜ?」
「そうだね。死者の手にあっても、どうしようもない。あれは僕が運ぶよ」
クリスが能動的に物資の回収を引き受け、皆を先に行かせる。
- Re: エターナルウィルダネス ( No.36 )
- 日時: 2020/09/13 18:35
- 名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)
「脚の痛みは平気?」
太陽が沈み、茜色が残った夕暮れの野営。
クリスは皆が賑やかに囲む焚き火に加わり、ステラの分の夕食を配る。
「あ、どうも!傷の塩梅は絶好調と言ったところですかね!ほら、僕って常に苦難を恋人にして生きてるようなものですから!昔の偉人も言ってたでしょ!?ほらっ!"おむすび早起き"ってっ!」
「くすっ!あはは!それって、"七転び八起き"?ステラって本当に嘘が下手なんだから。瞳、緑色に染まっているよ?」
痛い所を突かれ、焦りに焦るステラをクリスが愉快に笑い、彼の隣に腰かける。
湯気の立ったスープを兎肉ごとすくい、吐息で冷まして口に運ぶ。
アドニスの救出劇が幕を下ろしてから、数時間が経過していた。
ヴェロニカの協力で傷の縫合を済ませた負傷者達は戦場で受けた痛みを忘れ、仲間同士、陽気な会話を楽しむ。
激戦から生きて帰れた事と目的を果たせたこの2つの達成感に浮かれているのだろう。
「それでね、サクラが私を庇って怪我を負ってしまったの!でも、ここからが凄いんだよ!」
メルトは先ほどの自分達の活躍を伝記のように、仲間に語り掛けていた。
「サクラの作戦で狙撃手が呆気に取られてね!その隙を突いて、私は全速力で走ったんだ。そして、斧で櫓を・・・・・・!」
「お得意のドーーーンで崩したんだろ?そして、最後は狙撃手の額を叩き割った」
肝心な結末をリチャードに横取りされ、メルトは頬を膨らませ
「あーん!私が言いたかったのにぃ!」
むきになった性格にリリアとローズ、デズモンドが笑う。
大人達の列の横でユーリとミシェルも穏やかな笑みで眺めていた。
「私は、大した事なんてしてません・・・・・・あの作戦だって、偶然、閃いただけで・・・・・・」
得意気な演説をするメルトとは異なり、サクラは口数を少なくして腰の低い態度を取る。
被弾した脚を細かく気にしているのをデズモンドは最初から知っていた。
「メルトの突撃も勿論だけど、サクラの策がなかったら狙撃手を仕留める事は不可能に近かっただろうね」
デズモンドは称賛を送るが、一旦はその笑みを崩し、真面目になって過ちを悔んだ。
「僕が無理をさせたばかりに君達に危険な思いをさせてしまった。本当にすまない。サクラの負傷は僕の責任だ。最悪な判断で危うく仲間を殺してしまうところだった。単純なリスクも考えられないで、僕は探偵の風上にも置けない男だよ」
「・・・・・・え?い、いえいえ!そんな・・・・・・!デズモンドさんだって、リリアさんの手当てで手を離せなかった・・・・・・私は平気ですし、皆さんを守れた事を誇りに思っています!だから、自分を責めないで下さい!」
サクラはデズモンドの反省に対し、懸命に気を遣った。
「しつこいようだけど、あの大爆発は何だったのかしら?あの不祥事のお陰でこっちの立場が優勢になったわけだけど、妙に引っかかるわ」
リリアが相変わらずの事を語り草のようにして、真実を追求すると
「あの爆発は私が原因です」
一瞬で謎が解けたユーリの唐突で衝撃的な発言にギャングの何人かは"え・・・・・・"と一言にした。
「私が酒樽の山を狙撃したんです。その結果、予想以上の大爆発が起きてしまって・・・・・・皆さんに害が及ばなくてよかった。不謹慎ですけど、皆さんの負傷の原因は私のせいじゃないと知った時は胸を撫で下ろしましたよ」
「あの爆発は、ユーリさんが・・・・・・!?」
サクラが皆が口を揃えて言いたかった発言を代表して言った。
「ミシェルのお陰です。お礼なら、この子に言ってあげて下さい」
「・・・・・・え?どうして、ここでミシェルが出てくるの?」
シナリオを把握できないメルトが質問の矛先を
「私が山積みになったお酒いっぱいの樽を見つけたの。ちょうど、敵の真ん中にあったから。撃ったら、あいつらを一気にやっつけられるんじゃないかって・・・・・・」
ギャング達は眉間にしわを寄せると、寄って集ってミシェルを睨んだ。
しかし、その強張った表情が溶け、一瞬にして喝采が鳴り響いた。
1人の幼い少女が英雄視の的になる。
「玩具の銃すら扱えないガキに人生を救われるとはな。よくやった。お前も晴れてギャングの正式なメンバーだ」
「大人に一生の借りを作らせるなんてやるじゃない。ウィスキーを1年分奢っても報酬にならないくらいの偉業を成し遂げたわね。もっと、自分を誇ってもいいのよ」
「君のお陰で、こうして長生きできたんだ。ご褒美は何がいい?1つだけ、欲しい物を買ってあげるよ」
「えへへ・・・・・・」
ミシェルは恥ずかしくなって可愛い照れ笑いを両方の手の平で覆い隠す。
その女の子っぽい仕草にギャング達は一部、手を叩いて愉快に大笑いした。