複雑・ファジー小説

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エターナルウィルダネス
日時: 2020/02/13 17:55
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

 乾いた土、枯れた草木、その上に零れ落ちた血の跡・・・・・・復讐の荒野は果てしなく、そして永遠に続いていく・・・・・・

 ディセンバー歴1863年のオリウェール大陸。
西部諸州グリストルと東部諸州ハイペシアとの内戦が勃発。
かつて全盛期だった大陸は平穏の面影を失い、暗黒時代への一途を辿っていた。

 王政派の勢力に従軍し、少尉として小隊を率いていたクリス・ヴァレンタイン。
戦争終結の後、退役軍人となり、両親が残した農場で妹であるリーナと平穏に暮らしていた。
しかし、突如として現れた無法者の集団による略奪に遭い、家は焼かれ、リーナを失ってしまう。
運よく生き残ったクリスは妹を殺した復讐を決意し、再び銃を手にするのだった。

 彼女は頼れる仲間達と共に"ルフェーブル・ファミリー"の最高指導者"カトリーヌ"を追う。


・・・・・・・・・・・・


 初めまして!ある理由でカキコへとやって来ました。"死告少女"と申します(^_^)
本作品は"異世界"を舞台としたギャングの復讐劇及び、その生き様が物語の内容となっております。
私自身、ノベルに関しては素人ですので、温かな目でご覧になって頂けたら幸いです。


・・・・・・・・・・・・

イラストは道化ウサギ様から描いて頂きました!心から感謝いたします!

・・・・・・・・・・・・


・・・・・・お客様・・・・・・

桜木霊歌様

アスカ様

ピノ様

黒猫イズモ様

コッコ様

Re: エターナルウィルダネス ( No.25 )
日時: 2020/05/27 16:08
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

 峠の上でギャング達は馬の足を止めた。
煙の正体とふもとの広地を目の当たりにし、全員が心理的な衝撃を受ける。
奇跡と平穏の象徴であったはずのアドニスは灰と化していたのだ。
点在する家々は焼け落ち、田畑は荒れ、焦げた臭いが喉を心地悪く刺激する。
形ある物全てがぐちゃぐちゃに破壊され、最早、居住地と呼べないほど原形を留めていなかった。

「どうなってんだよ・・・・・・こりゃぁ・・・・・・!?」

 見るに堪えない地獄絵図にアシュレイはまともな思考が止まり、意思と関係なく囁いていた。
ショックのあまり、自我が崩壊する。

「酷い有様・・・・・・まるで戦場の跡地ね」

 リリアは冷静に単純な発言と感想を順次に述べた。

「一体、何があったんだ?」

 クリスが声を鋭く、焦った口調で聞くと

「まさか、大規模な火災があったんじゃ・・・・・・!?お酒が盛んな街なら、至る所にアルコール貯蔵をしているはずですよね!?爆発や火災で引火して集落全体に燃え広がったんじゃないでしょうか?」

 ユーリは事故である事を説に上げ、至った経緯を推測する。

「いいや、違う。火災にしては不自然だ。畑や木は燃えていない。お前の言い分通り、本当に火事なら全てが全焼しているはずだ」

 リチャードはいち早く、双眼鏡のレンズを覗き、遠くの集落を偵察していた。
隣にいたステラも行動を真似、原因に繋がる手掛かり眺める。

「あれは事故じゃない。間違いなく街は襲撃に遭った直後だ。惨劇の幕引きから5分が経過したってところか・・・・・・道端に血を流して死んでいる奴が何人かいる。恐らく、撃たれたんだろう・・・・・・犯された後の女の全裸死体もあるな。うっ、何て事だ。子供達も木に吊るされ果実のように晒されている。何を考えたら、こんな惨いやり方で・・・・・・」  

「誰の仕業か見当は付きませんが、確実なのは犯人は複数・・・・・・端から、街そのものを滅ぼすつもりで凶行に及んだのでしょう。とにかく、やった奴らは人を名乗る資格もないクズ野郎ですね。殺しを生業としてきた僕ですら、気分が悪い」

 ステラも怒りに震えているのか、その目は深紅を通り越し、赤黒く染まっていた。

「アシュレイ。幼馴染みが住む街だから、僕達よりは街の設備について多分詳しいよね?あそこは警備や武装が充実していた場所だったのかい?」

 デズモンドが聞く。
アシュレイは認めたくなさそうに"くっ・・・・・・"と強張った顔を俯かせた。
これ以上はないほどの震える力で愛馬の手綱を圧迫する。

「あの街に居座る連中のほとんどは殺しの味を知らねえ民間人とキャラバンだ・・・・・・警備つったって、小口径のライフルと古い拳銃を持っただけの自警団が2〜3人いるくらいだ・・・・・・」

 知りたかった答えを耳にし、デズモンドは大いに納得して

「多分、その無防備な弱点を突かれたんだ。ただせさえ、治安が悪いハイペシアでは非武装地帯は格好の獲物となる」

「そうね。犯罪が絶えないこの国では武器を持たない人が決まって、先に死ぬわ」

 リリアも胸の心地悪さは一緒だった。
無抵抗な者達が虐殺された事実を不快に感じているのだろう。 

「戦える人間がいない上に奇跡が生んだ極上の酒がある・・・・・・襲われない方があり得ない話だ」

 リチャードも行き場のない複雑な感情に苦虫を噛み潰したような顔を繕う。

「もっと、早く来ていれば・・・・・・!ちくしょう・・・・・・ちくしょぉぉぉ・・・・・・!!」

 アシュレイは後悔と罪悪感で、とうとう、まともな人格を失う。
いつも強気な性格も皆無に弱みを剥き出しにし、ぎゅっと閉ざした目蓋から大粒の涙液を流した。

「アシュレイさん!ひとまず、落ち着いて下さい!まだ、ヴェロニカさんが死んだって決まったわけじゃありません!もしかしたら、どこかに隠れて・・・・・・!」

 サクラが必死に慰めようとするが

「お前にはあの光景が見えねえのかよ!?燃え盛る建物と死体の山がよ!!あれ見ろ!!あいつの診療所も丁寧にぶっ壊されちまって・・・・・・誰が生きてるってんだ!!?」

 反感を抱き、乱暴な言葉であたり散らす。

「やめて!サクラは悪くないよ!仲間に八つ当たりしないで!」

 メルトは威圧に身が縮むサクラを庇い、乱心したアシュレイを責め立てる。

「うるせえ!!虐殺者の妹は黙ってろ!!」

「はあ!?それどういう意味!?今、最低な発言をしたよね!?」

「いい加減にしろ!ガキのケンカは暇な時にやれ!」

 リチャードは厳しい宥め方で関係が悪化し始めた2人を仲裁する。
アシュレイとメルトは叱られた事で黙ったが、互いに視線を逸らし合う。

「あそこまでしてやられたんじゃ、少しの望みしかないわね。皆の意見はどう?ヒーローを気取って、生存者を探す?それとも、冥福を祈って帰る?」

 ローズが諦めかけた口調で仲間にどちらかの選択肢を求める。

「僕としてはどちらでも構わないよ。誰か、好きに決めてくれるかい?」

 どうしようもないと思い切ったデズモンドも適当に判断を委ねる。

「僕は行くよ」

 その中で1人、クリスが迷わず即答する。
仲間全員を視野に入れ、悪ふざけをの印象がない態度で理由を言い聞かせる。

「少しでも望みがあるなら、僕は僅かな可能性に賭けたい。アシュレイ、君だって本当はヴェロニカが生きているって信じているんでしょ?だったら、迎えに行こう」

「・・・・・・ぐっ!うう・・・・・・」

「お前がそうしたいな勝手にしろ。俺達は流れに沿って、ついて行くだけだ」

「襲撃の後とは言え、危険が去ったとは言い切れません。念のため、アドニスに足を踏み入れる前にちゃんと作戦を練った方がよろしいかと・・・・・・」

 ステラの提案にリチャードは完全に同意し

「こうしよう。まともに戦える奴はなるべく、散り散りになって動くんだ。これで少なくとも、呆気ない全滅は防げるな。ユーリ、お前はここに留まってくれ。ここは街全体を見渡せる眺めのいい峠だ。狙撃にはうってつけだろう」

「援護の役ですか。このユーリにお任せて下さい」

「私も行きたい!クリスの役に立ちたいの!」

 ずっとクリスの腰にしがみつき、馬に跨っていたミシェルも戦力に加えるよう訴えるが

「だめだと言っておく。子供はいい子にお留守番でもしていろ。連れて行くには危険過ぎるし、はっきり本音を明かせば足手まといだ。ユーリ、この子の面倒を頼めるか?あまりにも駄々をこねるようなら、撃ってもいいぞ」

 リチャードの否定と脅しにミシェルはシュンと静まり返る。

「行くぞ。手分けしてアシュレイのガールフレンドを探すんだ」

「生きてるか・・・・・・イカサマの常習犯に勝負を挑んだ方が、まだ有利な賭けね。"略奪したいなら、どうぞのお好きに"でお馴染みの最悪の街、アドニスにようこそ」

 ローズの不謹慎なジョークを最後にギャングは数人を残して再び馬の群れを走らせる。
崖下にある坂を下って、壊滅したアドニスへと降りていく。
峠に残ったユーリは愛用の狙撃銃を用肩から降ろすといくつかの弾丸を地面に添え、うつ伏せになった。
興味深そうに隣で立ち尽くすミシェルも伏せさせ、マウントベースに取り付けられたスコープを覗く。

Re: エターナルウィルダネス ( No.26 )
日時: 2020/05/10 17:14
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

 クリス達はアドニスの近くにあった茂みで馬を降り、集落には徒歩で足を踏み入れた。
歓迎のないゲートを潜り、武器を手に辺りを見て回る。
出迎えた人間は全てが死体で至る所に彼らはいた。
平穏な暮らしを送っていただろう人々は惨い殺され方で命を抉られている。
どれも断末魔を上げ、絶命した顔はまるで死しても苦しんでいるような、ゾッとする眼差しだ。

 壁に整列させられ、処刑されたキャラバン隊。
素顔の原形がなく脳や肉片を撒き散らし、体型でしか性別を断定できない。
家畜の納屋には動物の姿はなく、代わりに人の焼死体の塊が肉汁を溢れ出させている。
公園には服を血で汚した子供が何人かいて、花輪を被った少女を囲んだりブランコやシーソーに乗って遊んでいたり、優雅な光景を描いていた。
勿論、死んでいる。所謂、死体を弄んで作られたアートだ。

「飲みたかったウィスキーを我慢して正解だったわ。でなきゃ、間違いなく吐いてた」

 ローズが下品に安堵し、一面の環境に浮かべた苦い顔を更に強張らせる。 
ショットガンを構え、散弾が噴き出す銃口をあちこちに向けながら、死体だらけの道を歩く。

「これは酷い。女子供も皆殺しだ。生きてる人はいないのか・・・・・・?」

 クリスが不快な思いをしながら、辺りに響かないトーンで独り言を言った。
焦がす火の熱さと屍の生臭い香りを吸い込まないよう、顔下半分を覆う。

「さあな。俺達と死体を喰いにやって来た空の連中以外、気配がしない。虐殺は終わったばかりだ。犯人はまだ遠くには行っていないはずだが・・・・・・」

 違和感が憑りつく環境にリチャードは妙な胸騒ぎと不吉な予感を感じていた。
肉片を咥え、屋根に止まったカラスにチラッっと視線をやり、すぐに警戒を仕直す。

「この死体、銃創の大きさや形状から判断すると45-70口径で撃たれているわ。主にリピーターライフルや大口径ピストルに使用される弾丸よ」

 リリアはどれでもいい亡骸の1つの死体を探り、分析する。

「でしょうね。いくら非武装地帯とはいえ、拳銃だけでは街1つを滅ぼすなんて無理な話よ。キャラバンだって命懸けの職業だから、反撃できるだけの武装はしていたはずよ」

 ローズは大した反応を示さず、話だけ聞いていた。

「気をつけた方がいいわね。敵は殺傷力のある銃器を大量に所持している事になるわ。もしかしたら、爆薬だって・・・・・・」

「あいつの診療所は目と鼻の先だ・・・・・・!中にあいつがいるかも知れねぇっ・・・・・・!」

「気持ちは分かりますが、興奮を鎮めて下さい。静かに。慎重になって下さい」

 急いで前列を行こうとするアシュレイにステラが注意を促す。
緊張で拳銃とナイフにムズムズした震えが起こり、汗が滲む。

 集落を半ばまで進んだところで、クリス達は1ヶ所に合流した。
民家に挟まれた中心の歩道。暑い風が吹き、枯れ草の塊が転がって脇道を横切る。

「不審な物は見つけたか?」

 リチャードが率直に聞く。

「いえ、特には・・・・・・あるのは遺体だけでした」

 サクラは切ない感情で偵察の結果を報告する。

「こっちも同じよ。ここは随分、路上でお昼寝する人が多いようね。ご丁寧に血の寝汗までかいちゃって」

 ローズも意味が通じる報告を告げる。

「さっきから気になっていたんだけど・・・・・・この場所、ちょっとおかしくはないかい?死人しかいないと言っても、あまりにも怪奇染みた静けさが漂っている。妙に引っかかるんだ」

 デズモンドが街全体に怪しさを感じながら言った。

「ホント、変な気分になるよね〜・・・・・・気のせいかもしれないけど、ずっと誰かに見られている気がして気持ち悪いよ〜」

 メルトも辺りをチラチラと奇妙な雰囲気を察していた。
クリス達はモヤモヤを抱えたまま、沈黙してしまう。
アドニスの悲惨な風景は変わらず、空虚な時間が続く。
その中の1人が気紛れに違う方向に視線を向けた途端、真顔を豹変させた。

「皆、隠れてっ!!」

 いきなり、リリアが冷静さを欠けさせ仲間に向かって叫んだ。

「・・・・・・え、ちょっ!どうし・・・・・・きゃっ!」

 困惑す暇も与えられずメルトはデズモンドに物陰に連れられサクラ共々、彼の下敷きになった。 
直後に破裂音が何発も繋がって響き渡る。
盾となった鉄缶が甲高い音を立てて揺れ、上の木の板に無数の穴が開いた。

「敵襲か・・・・・・!?」

 身を潜めながら、リボルバーのハンマーを倒してクリスが言った。
不意打ちを許してしまった失態にリチャードも自身の不甲斐なさに舌打ちする。

「やはり、潜んでいたか・・・・・・くそっ、罠にはまったらしい・・・・・・!」

 銃弾の雨は、クリス達が辿って来たエリアの反対側から飛んで来た。
アドニスを滅ぼしたであろう集団がゾロゾロとその姿を現す。
2人のルシェフェルが堂々と前に出て来て、ギャング達と対峙すると

「たんまり酒を譲ってもらって、街のゴミ(住人)を掃除して身を潜めてたのはいいが・・・・・・駆けつけた政府の犬や賞金稼ぎからも、ふんだくってやろうと思ったのによ。どうした事だ?やって来たのはただの旅行者かよ?」

 背の低いルシェフェルの少年が期待外れの展開に文句を垂れる。

「読みは外れたなディヴイット。だがな、不満はあるが多少の収入は得られそうだぞ」

 隣に並んだ青年が最初に喋ったルシェフェルに言った。

「あの灰色の服装と黒猫の記章、ルフェーブル・ファミリーね。よりにもよって、1番会いたくない奴らと鉢合わせしてしまうなんて・・・・・・」

 厄介な事態に陥ったリリアも姿勢を低く、弾が当たらない場所でため息をつく。

「くっ・・・・・・あの野郎・・・・・・!」

 アシュレイが湧き上がる殺意に尖った八重歯を剥き出しにする一方、ステラが全ての真相に納得する。

「アドニスの襲撃はルフェーブル・ファミリーの仕業だったんですね・・・・・・敵はただの野盗じゃなかった。道理で気配を掴めなかったわけだ」

Re: エターナルウィルダネス ( No.27 )
日時: 2020/05/23 22:27
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

 ディヴイットは姿の見えないギャング達を方向を正面に意地悪く相好を崩した。

「まあ、いいや。奪えて組織の利益になるもんなら、何でもいいぜ。・・・・・・おい!聞こえるか!?てめえら、持ってるもんを全部よこしやがれ!あと、夜の玩具用の女もな!大人しく従えば命は取らねえ!全裸にするだけで勘弁してやる!」

 と挑発的にたちの悪い要求を持ち掛ける。

「絶対に顔を出すな。クリス、そっちから敵の勢力を把握できるか?」

 クリスは鉄缶の細い間から 敵側のエリアを覗き込んで

「幹部が2人、兵隊の数は40くらいだ。囲まれてはいないけど、こっちが不利だどいう状況は変わらない・・・・・・」

「どうする?大人しく降伏する・・・・・・?」

 ローズの提案にリリアは"とんでもない"を最初の台詞に首を振った。

「ファミリーは捕虜なんて取らないわ。手を上げた瞬間、蜂の巣にされるわよ」


「おいっ!!聞いてんのかクズ野郎共!!」

 返答が返らない事にディヴイットは腹を立て、不愉快な面持ちを浮かべた。
要求に従わない相手側の陣を凝視し、

「お前ら、一斉射撃だ。アルバート、お前の部隊は俺達が撃ってる間に回り込め。弾を無駄にさせるんじゃねーぞ」

「(ガキのくせに威張りやがって・・・・・・)随分と単純な作戦だな。まあ、否定はしないが。お前こそしくじるなよ?」

 アルバートは銃を抜き、作戦のために引き下がる。
自動小銃を手にしたディヴイットに合わせ、部下達も銃器を構えた。
全員が最初から勝利を確信している面持ちを浮かべていた。

「・・・・・・ヴぇ?」

 ・・・・・・が、ファミリーの殺し屋の1人の顔半分が弾け飛んだ。
砕けた脳や頭蓋骨、頭部の中身を露出し、飛び出た眼球が垂れ下がる。
舌を出し、笑顔の硬直を保ったまま、第一の犠牲者が倒れ込む。
逆上を抑えられなくなったアシュレイが銃を撃ったのだ。

「クソ共がぁ!!!全員ぶっ殺してやるぜぇっ!!」

 と罵声を浴びせ、誰これ構わずヴォルカニックピストルを乱射する。
ファミリー達は被弾を避けるため、弾が当たらない場所へに身を潜めた。

「ちっ、やってくれるじゃねえか・・・・・・ま、これで向こうを生かす理由はなくなったな」

 先制を取られ、気に入らない顔をするディヴイットだったが、殺す機会が回った事でニヤリと開戦の合図に微笑む。

「くそったれ・・・・・・あのバカッ・・・・・・!」

 リチャードは暴走した仲間から敵の集中をこちらに向けようと援護を謀った。 
しかし、引き金を引く暇もなく、何倍もの掃射の雨が跳ね返る。
かわしようがない鉛の大群はあらゆる物を粉砕し、建物に無数の穴を作った。

「きゃあああ!」

 サクラはデズモンドの体の下で敵の反撃に悲鳴を上げた。
その上に降り注いだ木の板の破片が背中に当たる。

 全弾を撃ち尽くしたアシュレイをステラが死角へと強引に引っ張り出し、2人は横たわる。
皆を危険に晒した身勝手な行為にステラは目の色を赤く染め、彼を力任せで地面に圧迫した。

「一体、何を考えているんですか!?こんな展開、誰も望んでいなかった!!」

 頭に血が上ったアシュレイは反省の兆しすらなく、ステラを見上げ

「うるせえ!!あいつらだけは俺の手で殺らなきゃ、気が済まねえんだよ!!」

「ギャングは君のための組織じゃないだ!!仲間を危険に晒す判断は下すな!!」

「・・・・・・何だとぉっ!!」

 アシュレイは拘束を振り払おうと抵抗しようとした時

「今の君の醜態を見たら、天国にいるヴェロニカさんが悲しみますよ・・・・・・彼女は仲間を大事にするあなたを愛してるはずだ・・・・・・!」

 その二言で、途端にアシュレイの暴れ狂う力が落ち着く。
何かに気づいたような呆然とした真顔を思いを込めて睨む仲間の面様に捉えられていた。 
次の瞬間、無になっていた面持ちが気味悪く緩んだ。

「はっ、勝手に殺すんじゃねえよ・・・・・・!この傭兵野郎が・・・・・・」

「どうも、それが僕のお節介という悪い性格なんです・・・・・・」

 ステラも軽く笑みを作ると、我に返った仲間に食い込ませた指の圧迫を解放する。

「くっ・・・・・・!」

 クリスは敵の一斉射撃の隙を見計らい、リボルバーを2発、連射する。
敵陣とは異なる発砲音と共に弾は撃った数だけ狙った的に命中した。
反撃を喰らったファミリーの殺し屋は銃創を押さえて蹲り、屋根から転げ落ちる。

「おい!そっちは生きてるか!?」

 当たり損ねる弾丸にガタイのいい身をすくませながら、リチャードが延々と響き渡る銃声に負けない声で後方に状況を聞き出す。

「こっちは誰も撃たれてない!だが、このままじゃ動けないし、相手の思う壺だ!」

 最初に自分達に置かれた有様を知らせたのはデズモンドだった。

「こっちも攻撃が激しくて、上手く狙えないわ!誰か援護が可能な人はいる!?」

 リリアも銃を構える余裕すらなく、誰かを頼らざるを得ない状態だった。

「こっちにあるのはピストルと散弾銃・・・・・・それとは逆に敵さんは遠距離戦に特化したリピーターライフルに自動小銃・・・・・・随分とリッチな装備ね・・・・・・もっと危ない武器を用意してくるんだったわ。もし今日、生きて帰れたら大砲でも買わなきゃ・・・・・・」

 先に立たない後悔にローズも冗談を愚痴り、撃てそうな機会を窺う。

Re: エターナルウィルダネス ( No.28 )
日時: 2020/05/30 19:26
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

「んで?奴らはどう出ると思う?傭兵野郎」

 ステラは中傷的なあだ名を聞き流し

「奴らほどの知能犯が無鉄砲に撃ちまくっているとは思えない。恐らく、正面の部隊はあくまでも囮を演じていて、その隙に別動隊が回り込む魂胆なんでしょう。基本的な戦略の一種です」

「完全に囲まれちまったら、俺達は終わりってわけか・・・・・・随分とせこい手を使ってくれるじゃねえか。クソが、なめやがって」

「相手がその気なら逆にこっちが同じ手を利用して、ファミリーを返り討ちにしてやりましょう。僕達は1番端の建物にいます。奴らが撃っている反対側から回り込めば・・・・・・」

「不意を突いてビビらせてやろうってわけか・・・・・・面白そうじゃねえか。玩具を買い損ねたガキみてぇにわめいたら、喉がカラカラになっちまった。奴らのどす黒い血で潤すか」

 2人は仲間が留まる位置の反対側に移動する。
途端にステラは壁際から飛び出そうとしたアシュレイを引き止めた。
二度目の妨害に"今度は何だよ!?"と叫ぼうとした口を塞ぎ、もう片方にある人差し指を鼻に当てる。

「・・・・・・奴らがいます。無暗に顔を出したら、やられますよ?」

 とステラは盲点を把握し、小声で告げる。

「どれくらい、いやがんだ?」

 アシュレイはトーンを合わせ、

「足音からして5人はいます。君は銃を持っているけど、僕は2本の刀剣しか持っていません。まともにやり合えば、まず勝ち目はないと言えるでしょう」

「おい。お前、俺がギャング随一のクラフトパーソン(工作員)だって事を忘れたのか?」

 自信ありげにアシュレイの手にはいつの間にか、ダイナマイトとそれを点火するライターが握られていた。

「ちっ、だから剣なんざ時代遅れだって言ってんじゃねえか。このクソ溜めから生きて帰れたら、デリンジャーでも買っとけ」

「・・・・・・ふっ、約束します」

 目を黄色に染めるステラの反応にアシュレイも笑った。
2人は互いに合図で送り、導火線に火をつける。
タイミングを見計らい、壁際から腕だけを火薬を投げ込んだ。

 驚き、慌てふためく複数の声は凄まじい爆音にかき消された。
押し寄せる爆風や残骸を隠れてやり過ごし、煙が薄くなったのを機に2人は壁を飛び出し、一掃に移る。
アシュレイはダイナマイトで痛手を負わすも生き残ったファミリーにピストルを何発か発砲した。

 撃たれたファミリーは弾に体内を抉られ、死ぬ。
手足が吹き飛び、虫に息になっていた最後の1人も脳天を撃って止めを刺した。
無様な死に様にアシュレイが嘲笑う。

「ひゃひゃひゃ!!見たかってんだ!俺の不意を突こうなんざ、1000億年早えんだよ!」

 原型を半分留めてない死体に言ってやった。
だが、その慢心は太い銃声により、終止符を打たれる。

「・・・・・・あ?」

 アシュレイは短く疑問を漏らし、痛みが走った胸に触れ、血の着いた手の平を眺めた。
向き直って視覚が捉えたのは、何かをこちらに向けて立っていたルシェフェルの青年。
晴れた煙が覆っていたのは、リボルバーだった。

「やはり、動きを読まれていたか・・・・・・部下を先に行かせて正解だった」

「・・・・・・ごふっ!」

 アシュレイは吐血し、ふらりと倒れた。
鉢合わせしたアルバートは落ち着いた態度を崩さず、部下を死なせた行為に罪悪感は微塵も感じ取れない。

「アシュレイさん!・・・・・・この野郎ぉっ!!」

 ステラは激怒し、アルバートを赤い目で睨んだ。

「そんなに殺気立つな。最初に撃ったのはお前達だ。文句は言えない・・・・・・だろ?」

 アルバートはあたかも自分の潔白を主張し、ステラをも撃とうとした。
トリガーが完全に落ちる前、何かが銃に当たり銃口は上へと逸れる。
弾丸は上空へ消え、地面にカラドボルグが突き刺さる。

「ほう、旅行者のくせにやるじゃないか」

「生憎、お前が殺そうとしているのは旅行者じゃない。熟練の傭兵だ」

 ステラは銀剣シルヴィアを手にそう言い放った。


「ローズ!3時の方向!」

 リリアが敵の存在に気づき、警告を促した。
アシュレイ達がいるエリアの反対側からも不意を突こうと、ファミリーの殺し屋が忍び寄っていたのだ。

「・・・・・・えっ?くそっ!」

 ローズは文句を垂れる暇も与えられず、戦う体制を整える。
しかし、とっさの反撃準備も間に合わず、ショットガンよりも相手の銃口が先に狙いを定めた。
後はトリガーを指で引くだけで命は消える。

 人生の終焉を間近に控え、呆然とした。
鉛の激痛を覚悟した矢先、ひゅんと不自然な風の音が吹く。
一筋の光線がファミリーの額を貫通し、血と中身が後頭部から派手に吹き出す。

「・・・・・・ちぃ!」

 別にいた奇襲兵は仲間の不審死を差し置き、凝りもせずにローズを狙った。
直後に腹部に衝撃を喰らい、いくつも空いた銃創から血を噴射させながら、宙を飛ぶ。
スライドをコッキングしてもう1発、銃声を響かせる。
不意打ちは失敗に終わり、首から上がないファミリーの殺し屋が倒れる。 
ローズは微笑し、3発目を薬室に装填すると遠くにある峠を見上げた。

「最初の1人はユーリの仕業ね。やるじゃない。今度、ウィスキーでも奢ってあげるわ」

 峠にて、ユーリはボルトを引き、弾頭のない薬莢を弾き出す。
リロードを済ませ、次の標的にスコープの照準を合わせる。
その横に耳と目をぎゅっと塞ぐミシェルがいた。

Re: エターナルウィルダネス ( No.29 )
日時: 2020/07/02 20:19
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

「・・・・・・ぎゅびゅっ!」

 また1人、ファミリーの殺し屋が狙撃の餌食となる。
続いて2人目、3人目と急所を的確に撃ち抜かれていった。

「・・・・・・あ?」

 撃ち返されてもいないのに仲間が次々と死んでいく現象にディヴイットは露骨に顔をしかめた。
彼は向きを変えて偶然、峠の上に光を反射した輝きを目撃する。
その正体を瞬時に理解した彼は撃つのをやめ、とっさに体を逸らした。

「・・・・・・っぶね!」

 ディヴイットが立っていた位置に音速の弾丸が着弾した。
地面が深く抉られ、砂や小石の塊が跳ね上がる。

「なんだぁ?スナイパーを配置させていやがったのか?こいつら、ただの旅行者じゃねえな。民間人にしちゃ、やけに戦い慣れてやがるしよ」

 ディヴイットは思い込んでいた勘違いに気づき、自身の失態に苦笑する。 
狙われているにも関らず、その表情は妙な余裕を語っていた。

「まっ、こっちにもいくつも切り札があるんだがな」

 舌舐めずりし、ディヴイットは何かしらの合図を部下に送って一部の部隊を下がらせた。
後退した部隊は数人がかりで何かを運び込んで元の配置につく。
持ち出された物は得体が知れず、覆われた布が剥がされ、太い形状をした機械が晒される。
ファミリーの1人がスライドを引き、筒先の方向を合わせるまで、それが何なのか分からなかった。

「まずいっ・・・・・・!」

 敵陣の企みを知ってしまったデズモンドの青ざめた顔がより深刻に歪む。
顔半分を引っ込めた途端、鎮まる事を知らなかった弾丸の嵐が何倍もの勢いがある掃射へと変わる。

「ひゃああああ!」

 爆発の連鎖にも似た騒音はメルトの悲鳴など無にしてまう。

「リチャード、伏せるんだ!」

「なっ・・・・・・がっ!」

 デズモンドの警告にも空しく、1発目がリチャードの頭上に当たり、ハットが飛ぶ。
2発目は不注意にもはみ出ていた脇腹を削った。
喘ぎ声と同時にビクッと痙攣を起こし、全身が横たわる。

「リチャードッ!!」

 リリアは彼を助けようと冷静な判断力を捨て、無防備の状態で影から飛び出していた。
当然、弾幕の一部は彼女にも被弾し、健全な片手と片足を破壊した。

「ああ・・・・・・ぐぅ・・・・・・!」

 血を流し、激痛に蹲るリリア。
集中砲火を浴びせられる前にローズが姿勢を低く、彼女を元の隠れ蓑へ引きずり戻す。
木箱に背をもたれさせ、怪我の安否を確認した。

「大丈夫・・・・・・弾はどれも抜けてるし、致命的な箇所は撃たれてない。らしくないわね。頭脳明晰のあんたが作戦もなしに闇雲に突っ込んでいくなんて」

「私とした事が・・・・・・ごめんなさ・・・・・・ぐっ!・・・・・・あなたに説教されるなんてね・・・・・・」

 リリアはぐったりとして皮肉を零し、笑みを浮かべるも、息を切れが激しくなっていく。

「喋っちゃだめ、体力を消耗するわ。医療は不得意分野だけど、傷口を消毒してみる。ポーチに密造酒があってラッキーだったわね」


「機関銃・・・・・・!」

 ユーリが実に厄介な展開にユーリの声音が尖る。
撃つはずだった誰でもいい標的への狙撃を中断し、緊急に狙いを機銃手に切り替えた。
スコープはいつも通り安定し、不自由もなく標的を捉えられた・・・・・・しかし

「ぎゃっ・・・・・・!?」

 突如として、口元をぎゅっと強く締めるユーリ。
痛感を自覚しすぐさま、ほふくのまま後進する。
頬に触れた左の手を確かめると血が薄く、付着していた。

「ユーリお姉ちゃん!どうし・・・・・・きゃあっ!?」

 異変に気づき、立ち上がろうとしたミシェルの足を反射的に掴み、強引なやり方で転ばせる。
彼女の顔があった位置に光線が通過し、後方の木のどこかにめり込んだ。
狙撃手は少女を抱き抱え、光線の当たらない範囲外まで遠ざかる。
ユーリには分析せずとも、自身に危害を加えた犯人の詳細を察した。

 集落のに片隅にある櫓にファミリーの殺し屋がいた。
ストックを固定し、抱えていたのはスコープが取り付けられたライフル銃だ。
奴はさっきまでのユーリの行動の大半を真似、銃口を峠に合わせている。

「まずいな・・・・・・あそこの櫓の狙撃手、ユーリを狙ってる。こっちにも狙撃手がいる事が気づかれたんだ」

「どうしましょう!?これじゃ、こちらがますます不利に追い込まれるばかりです!」

 困惑するサクラだが、デズモンドは冷静に策を練る。

「距離も遠いし、機関銃のせいでここの位置からじゃ狙えない。サクラ、君はメルトと共に回り込んで狙撃手を叩いてくれないか?」

「そ、そんなっ・・・・・・!私とメルトさんだけでは、荷が重すぎます!」

 冷静な意見にサクラは熱烈にプレッシャーを訴えるが、デズモンドは非情だった。

「協力したいけど、手が離せないんだ。僕はここに留まって、負傷したリリアの手当てに専念しなくちゃいけない。ローズだけでは、まともな処置はできない。戦闘に関してなら、君達の方が遥かに最適だろう」

「・・・・・・分かりました。誰かがやらなきゃ、いけませんものね」

 デズモンドの説得とやむを得ない状況にサクラは覚悟を決める。

「大丈夫!危なくなったら、私がサクラを守ってあげるんだから!」

 メルトも張り切って、笑顔で平気で落ち着き払っているように振る舞う。

「ありがとう。君達の戦力があれば百人力だ。でも、1つだけ約束してくれないか?決して、無理はしない事・・・・・・いいね?」


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