複雑・ファジー小説
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- エターナルウィルダネス
- 日時: 2020/02/13 17:55
- 名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)
乾いた土、枯れた草木、その上に零れ落ちた血の跡・・・・・・復讐の荒野は果てしなく、そして永遠に続いていく・・・・・・
ディセンバー歴1863年のオリウェール大陸。
西部諸州グリストルと東部諸州ハイペシアとの内戦が勃発。
かつて全盛期だった大陸は平穏の面影を失い、暗黒時代への一途を辿っていた。
王政派の勢力に従軍し、少尉として小隊を率いていたクリス・ヴァレンタイン。
戦争終結の後、退役軍人となり、両親が残した農場で妹であるリーナと平穏に暮らしていた。
しかし、突如として現れた無法者の集団による略奪に遭い、家は焼かれ、リーナを失ってしまう。
運よく生き残ったクリスは妹を殺した復讐を決意し、再び銃を手にするのだった。
彼女は頼れる仲間達と共に"ルフェーブル・ファミリー"の最高指導者"カトリーヌ"を追う。
・・・・・・・・・・・・
初めまして!ある理由でカキコへとやって来ました。"死告少女"と申します(^_^)
本作品は"異世界"を舞台としたギャングの復讐劇及び、その生き様が物語の内容となっております。
私自身、ノベルに関しては素人ですので、温かな目でご覧になって頂けたら幸いです。
・・・・・・・・・・・・
イラストは道化ウサギ様から描いて頂きました!心から感謝いたします!
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・お客様・・・・・・
桜木霊歌様
アスカ様
ピノ様
黒猫イズモ様
コッコ様
- Re: エターナルウィルダネス ( No.80 )
- 日時: 2022/09/19 18:02
- 名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)
リンカーンとの面会から数日後・・・・・・
ニューエデンズに戻ったクリスは街の理髪店に寄る。
鏡の手前の椅子に腰掛け、ケープをかけた理髪師に髪を微妙に短く整えて欲しいと頼んだ。
「お客さん?これからパーティーにでも出向くのかい?」
理髪師が聞くと、クリスは”ふふっ”と小さく笑い、"まあそんなところです"とだけ答えた。
散髪を済ませ店を出ると、普段着とは異なる洒落た富民の服装を着こなしたギャング達が馬に股がり、出かける準備を既に整えていた。
「どう?似合ってる?」
クリスが少々自慢げに新しい髪型について感想を求めると
「凄く似合ってます!初めはクリスさんだと気づきませんでした!」
サクラが興奮気味に言って
「人って髪を少しカットするだけで、イメージがガラリと変わるもんなんですね」
ステラが言って
「街中の女の子もメロメロだよ~!今度、一緒にデートしない?えへへ、冗談冗談!」
メルトが自身のジョークに笑った。
しかし、ローズに限っては前向きな評価はしなかった。
「もっと、マシな髪型にしてもらえなかったの?ますます、男の子っぽくなっただけじゃない」
「ローズ?傷はもう、平気?」
クリスが先にミシェルを乗せていたフリューゲルに股がり、怪我の具合を聞く
「1番最悪なのは、傷じゃないわ。死にかけてる間はウイスキーを楽しく飲めなかった事よ」
「全然、問題なさそうね。さっ、早いとこ出発しましょう。これから"地獄の宴"が私達を待っているわ」
ギャング達は、"はあ!"、"やあ!"と鞭を打って馬を走らせると、街中から街外れへと出て、ニューエデンズに別れを告げる。
人を乗せた馬の群れは広大な緑が大半を占めた平原を駆け抜けていく。
「昨日のユーリが作った鹿肉のソテーが最後の晩餐にならなきゃいいが・・・・・・」
先頭を走るリチャードが妙に落ち着かない様子で独り言を呟く。
その事を聞いていたルイスが彼の隣に並び、同じく緊張感を絶やせない言い方で言った。
「これからディオールの邪悪なる魔女であるシャルロッテの仮面舞踏会へと向かうのですから、恐怖に駆られるのも無理はございません。ですが、ご安心下さい。女神ジャネールが私達を安全な道へとお導き下さいます。例え、彼女の加護がなくとも、私があなた達の盾となり、清廉な魂を守って差し上げましょう」
「あんたの事はいつだって頼りにしている。だが、神が俺達の祈りを聞いてくれるかどうかは疑問だが・・・・・・」
すると、デズモンドも片脇から2人の会話に加わって苦笑を無理に繕いながら
「いやはや、クリスの衝動的な性格には困ったもんだよ。妹さんの仇の討つためとは言え、組織には1人1人の命があるんだって事を少しは考慮してほしいものだね」
「全くだ。カトリーヌの抹殺に関しては否定しないが、後先もろくに考えずにリスクしかない危険に飛び込んでいくのは許容範囲外だ。この先が死に場所になろうものなら、あの世であいつを永遠に殴りつけてやる」
時刻が午後に入って、またしばらく経った頃、ギャング達はシャルロッテの別荘へと辿り着いた。
別荘は森林に近い自然地帯にポツリと置かれ、それ以外の建造物や集落らしき物は見当たらない。
人里離れた環境なだけに静寂と薄い闇夜に包まれ、灯りは唯一、屋敷だけに灯されていた。
舞踏会は既に始まっており、その場に適した格好の客人が賑やかに集まっている。
クリス達は馬から地面に足を降ろすとゾロゾロと列を成して、別荘の門へと向かう。
歩く途中で仮面で素顔を覆い、数日かけて企てた計画を説明する。
「いいか?シャルロッテの舞踏会に招かれた客のふりをして奴の財産か、それに関係した証拠を探し出す。全員、武器を隠し持ってるだろうが、強硬手段は最後の切り札だ。最悪な事態に陥らない限りは、ただの紳士淑女を演じていろ」
リチャードが仲間内だけに聞こえるトーンで真剣に告げる。
「ニューエデンズの時はお姉ちゃんが隠していた秘密を略奪できたけどさ~?今度も当たりくじなんて引けるのかな?」
乗り気じゃないメルトは本調子を出せない反面、アシュレイは早くも敵陣に乗り込みたい一心で勘を当てにする。
「少なくとも、何かしら有益に繋がる秘密くらいは隠し持ってんだろ。案外、今回の賭けは前よりも勝算が高いかもな」
門に差し掛かると、黒いタキシードを着た仮面の使用人がいて、ギャング達に対して行儀のいい一礼を行う。
「この度はシャルロッテお嬢様の誕生日を祝う記念すべき仮面舞踏会に足を運んで下さり、誠にありがとうございます。チケットを拝見なさっても、よろしいでしょうか?」
リチャードは黙って頷きもせず、言われた通りにする。
使用人は全員分のチケットを確認し、2回ほど頷いて
「はい、確かに。もし、武器などを所持しているのであれば、こちらが大事にお預かり致します。安全に舞踏会をお楽しみ頂くためにご協力下さいませ」
開いた門を潜ると、広い庭園がギャング達を出迎えた。
自然のアート作品として、細工が施された薔薇はどれも赤黒く不気味なほど鮮血に酷似した色合いを帯びている。
そこに何人かの招待客がいて、"実に見事だ"などと高く評価しながら、興味津々に見て回っていた
「ディオールの影の王女シャルロッテの宴と言っても・・・・・・案外、普通のパーティー会場ですね?」
在り来たりな光景を見渡し、サクラが正直な感想を述べる。
「ええ。普通過ぎて、逆に嫌な予感がしてきました」
ステラも胸騒ぎを覚えながら辺りに目を配る。
一国の最高権力者が滞在している別荘の割には、あまりにも警備が薄く、兵士の数も10人もいるのか?と疑わしいくらい少人数だ。
・・・・・・だが、宴の本場である屋敷に行き着いた時、正面の入り口から堂々と姿を現した鬼将の如く猛々しい女将校。
スターリック銀行で警備兵を指揮していたエリーゼ・フランゲル中佐がいたのだ。
更に運が悪い事に他の招待客など見向きもせず、真っ先にクリス達に関心を示してしまう。
「・・・・・・ん?貴様ら、そこで止まれ!」
(エリーゼ・フランゲル・・・・・・!)
これ以上ない厄介な事態にクリスの顔が蒼白になる。
(やれやれ・・・・・・どうしてこうも、僕達は1番会いたくない奴と行く先々で鉢合わせてしまうのか・・・・・・)
デズモンドは最早、自身の運のなさを呪う意欲すら失っていた。
- Re: エターナルウィルダネス ( No.81 )
- 日時: 2022/10/02 17:51
- 名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)
「貴様ら。どうも見慣れないな?この別荘には初めて来たのか?」
いきなりの図星にクリス達の全身に冷や汗が滲む。
動揺した顔が仮面で見えないのが、せめてもの救いだった。
「はい。シャルロッテお嬢様には今日、初めてお目にかかります。僕達はディオールのとある貴族の方の元で働く使用人なのですが、当主様が突然の病に伏せてしまいまして。故に代行者として、シャルロッテお嬢様にお祝いのお言葉を届けに伺った次第でございます」
クリスは言葉を慎重に選び、偽証を述べる。
エリーゼは厳格で強張った面持ちを緩めず、何も言い返さなかった。
架空の証言が通用し、信用を得られたのだと、誰もが期待を芽生えさせた。が・・・・・・
「仮面を脱げ」
エリーゼは率直に素顔を明かすよう、命令した。
左手の位置が軍刀のグリップへと移動する。
「・・・・・・え?」
クリスが震えを帯びた声を出すのとは裏腹にエリーゼは太く刺々しい怒声で喚く。
「仮面を外せと言ったのだ!貴様ら、全員だ!命令を拒めば即不審者と見なし、粛清する!」
片側が一方的に攻撃的なやり取りを周囲の招待客達が近寄り難い仕草をして眺めていた。
「あらぁ?だめよ?フランゲル中佐?この方々は私の大切なお客様なのよ?丁重に扱って下さらないかしら?」
ふいに聞こえた若い女の声。
派手なドレスを着た1人の少女がエリーゼの後ろに立っていた。
現れ出た少女にクリス達の蒼白していた顔はより青ざめ、表情が凍りつく。
それは彼女の持つ鎖の先に繋がれていた・・・・・・
「う・・・・・・うう・・・・・・ぐ・・・・・・ああ・・・・・・」
首輪を付けられ、傷だらけの裸体を晒される女。
片目はくり抜かれ、目蓋を金属の糸でいい加減に縫い合わせられ、四肢も全て切断されている。
四つん這いにさせられ、強引に引きずられるその姿は狂った思考が生み出した"飼い犬"そのものだ。
「剣を向けるのは、主人の言う事が聞けない悪い犬だけになさい?」
(う、嘘だろ・・・・・・こいつ、人の腕と脚を切り落としてペットにしてやがんのか!?マジで有り得ねぇぞこいつ・・・・・・!シャルロッテってのは、ここまでサイコ野郎だったのかよ・・・・・・!)
仮面の内側から覗かせるアシュレイの目が恐怖で淀む。
ヴェロニカも食道から込み上げた胃の内容物が口から漏れないよう堪えるので精一杯だった。
(悪魔も真っ青の鬼畜っぷり・・・・・・よっぽど、頭がおかしい教育を幼子の頃から叩き込まれたのね)
流石のローズもジョークの言い様がなく、少女の一線を越えた悪趣味を遠慮なしに蔑む。
「これは。シャルロッテお嬢様・・・・・・」
エリーゼが恐れ入りながら口にした名を耳にし、少女の正体が例の狂人である事を知った。
(フランゲル中佐がシャルロッテの護衛を務めていたんですね。道理で・・・・・・屋敷の警備が手薄なのはそのためでしたか・・・・・・)
ユーリが納得し、聞こえない範囲の舌打ちを無意識にしていた。
クリスはミシェルとフィオナに寄り添われ、腰と腕を強く締めつけられながら、飼い犬の女を見た。
「う・・・・・・うう・・・・・・痛・・・・・・い・・・・・・助け・・・・・・」
見るに堪えない悲惨な姿で苦痛を訴える人間から逸らした視線をシャルロッテの方へ移す。
悪意が微塵もない微笑みで、こちらに手を振る悪魔が見えた。
次の瞬間、彼女は力づくで鎖を引き寄せた。
締まった首輪が喉を圧迫し、首の骨が折れる痛々しい音が鳴る。
飼い犬は声が出れば断末魔を上げるであろう口から血の泡を溢れさせ、息絶えた。
「フランゲル中佐?この"肉の塊"を細かく刻んで花壇の土に埋めるよう、あなたの部下に頼んで?安い肥料くらいにはなるはずだから」
散々に弄んだ命を平然と踏みにじったシャルロッテは変わらぬ笑顔でクリス達を友好的に歓迎する。
「それはそうと、中佐の非礼をお詫びするわ。私の神聖な仮面舞踏会へようこそ。今宵は存分に楽しんでね?」
そう言い残し、手にかけた飼い犬の死体を放置して館へと引き返して行った。
招待客達は凶行に恐れ戦くどころか、感激の喝采を浴びせる。
誰もがシャルロッテを称賛し、中には死体を蔑み、せせら笑う者も少なからずいた。
(舞踏会の参加者は僕達を除いて、全員が異常人格者だ・・・・・・ここには長く留まらない方が身のためだ)
露わになった舞台の真ん中でステラは周囲の真似をしながら内心で囁く。
耐えられなくなったミシェルは意識を喪失し、フラッと倒れかけた体をサクラに抱き抱えられる。
「神よ・・・・・・奈落の底にいる我らに希望の光が差さん事を・・・・・・」
ルイスは祈りを囁き、動悸が止まらない胸に掌を強く押しつける。
リチャードがしっかりと気を保たせるようと、彼の肩を退かして屋敷へ足を進めた。
「祈っても無駄だ。ここに神はいない。生き残りたければ、地獄に上手く溶け込むしかない」
舞踏会の会場内
シャルロッテの舞踏会はあらゆる娯楽会場がエリアによって区分されていた。
スタッフの説明によれば、世にも珍しいメニューが用意されたレストラン。最新作の映画が上映されている劇場、混浴の大浴場など・・・・・・
ホール(大広間)へと向かうと、そこは本格的なカジノとも言ってもいいギャンブルの楽園で狂った紳士淑女がポーカーやブラックジャック、ルーレットに夢中になっていた
部屋の片隅には普通じゃ手に入らない高級酒ばかりが並べられたバーがある。
計画を実行に移す前にクリス達はとりあえず、誰もいない空席を埋める。
ポーカーテーブルを4人が独り占めし、寝ているように気絶したミシェルをリリアの膝に乗せた。
「大富豪の娯楽施設にいられんのも一生でこれっきりだろうな。シャルロッテは頭に蛆が湧いたメス豚だが案外、趣味だけはまともみてぇだ」
アシュレイは"まともなセンス"だけに感服して、偶然通りかかったスタッフにテーブルに座る人数分のシャンパンを配らせる。
- Re: エターナルウィルダネス ( No.82 )
- 日時: 2022/10/14 20:07
- 名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)
「見てよあれ。どれも、買えない高級品ばかりだわ。金塊より値が張る代物よ」
ローズは如何なる時でもアルコールに対し、異常なほどの執着を絶やさなかった。
リチャードは薄笑いし、咥えた煙草に火を点ける。
しかし、すぐには煙を肺に溜めようとはせず、一旦は口から遠ざけ
「これからシャルロッテが隠し持つとされるファミリーの財宝の在処が記された手掛かりを探し出す。屋敷中を調べて、机、棚、金庫、何でも漁れ。怪しい物は全て回収しろ」
「悪くないやり方だ。で?そっちの役目は?席を離れるのが、嫌そうなのは何故?」
クリスは冷静にリチャードのグループの役割について尋ねた。
「屋敷の探索はお前らに任せる。俺達4人はここで報告を待つ」
「ええ~?大変な仕事は誰かに押しつけてリチャードは高いお酒とゲームを満喫してるの~?ずるいよ~!」
不満げに文句を垂れるメルトに対し、やれやれとこめかみを指でかく。
「あのな?誰かが客のふりをしなきゃ、怪しまれるだろ?心配するな。俺もこんな所で寛ぐ気はない。パーティーを楽しむふりをして周囲に目を光らせておく。危なくなったら、援護してやるから安心しろ」
「一応、期待しておきます。何か見つけたら、すぐに伝えますので」
ステラは課せられた任務を忠実に承諾し、いち早くパーティから離脱した。
クリス達もしぶしぶと後に続く。
「ルイスさん?大丈夫ですか?」
サクラが憂鬱そうに頭を垂れるルイスを気にかける。
「申し訳ございません。不純だらけの環境には不慣れなものでして・・・・・・うっ、胃に不快感が・・・・・・」
ユーリはアシュレイが飲むはずだったシャンパンを彼に譲った。
情け深い気遣いも束の間、甘えを許さない厳しい発言で無理にでも現状に体を馴染ませる。
「これを飲めば、多少は気持ちが楽になるはず。ですが、慣れてもらわなければ困ります。ここであなたの違和感を周囲に抱かれたら、我々の死は確実です」
クリス達は屋敷中を巡り、1つの目的を得るための宝探しに明け暮れた。
スタッフの目を盗んで立ち入り禁止エリアに侵入したり、施錠された部屋にも忍び込んだ。
たまに関わりたくもない招待客から、怪しまれない程度に有力な情報を聞き出しながら合流しては、分かった事を共有し、また散開を繰り返す。
舞踏会に足を踏み入れて、数時間が経過した。
屋敷の探索に当たっていたクリス達は再度、ホールのカジノフロアに集合する。
「どうだ?探していた物は見つかったか?」
リチャードは短くなった5本目の煙草を灰皿に押し潰す。
彼の顔面の皮膚もシャンパンを飲んだ影響で赤く色づいていた。
「全然だ。手分けして隅々まで調べたけど、何も発見できなかった。流石はディオール最高権力者の別荘だ。一筋縄ではいきそうにない」
クリスが皆を代表して、成果のない結果を報告する。
背後に控えていたステラ達もクタクタに疲れ切っていた。
そこへフィオナが最後に帰って来た。
仲間の元へ加わろうとした途中で足を躓かせるが、クリスがとっさに駆け寄り、抱き止められる。
「フィオナ?大丈夫かい?」
「うん、平気。ちょっと目まいがしただけだよ。こんなに歩いたのは久しぶりだったから」
「1人、か弱い体で悪魔だらけの会場を見物して回るなんて、意外と度胸があるのね?」
外見にそぐわない努力にリリアが心底感心した様子で言った。
「長いお散歩で彼氏はできた?」
ローズが自分だけが受けるジョークを言ってクリスの幼馴染みをからかう。
フィオナは首を横に振り、真面目な返答を返した。
「いえ。でも、シャルロッテの寝室へは行きました」
それを聞いたクリス達は話に飛びつき、一気にフィオナへ詰め寄った。
勢いかかった突進が迫り、彼女は思わず後退りをしてしまう。
「シャルロッテの寝室だと?おい!詳しく聞かせろ!」
アシュレイが尋問するかのように最初に誰もがしたい質問を投げかけた。
「さ、最上階です・・・・・・でも、部屋の前には見張りの男が2人いて、誰も入れないように見張っていました」
「そう言えば、僕も最上階には行ってなかったですね」
ステラが記憶を遡っても一致しない場所に"確かに"と指を鳴らす。
リチャードは手を顎髭と擦り合わせ、自信ありげに言った。
「宝を隠すならそこだな。俺も家族がいた頃はウォールの束を寝室に隠したもんだ。ガキが盗んじまうからな」
「しかし・・・・・・私達はここで武器を使えないんですよ?どうやって、警備の壁を突破するんですか?」
サクラが不便な点を突く。
それに対し、デズモンドはすぐさま意見を述べる。
「流血沙汰が御法度なら別の策を練るしかないよ。フィオナ?シャルロッテの寝室に行った時、他に何か気がつかなかったかい?」
フィオナはしばらく考えた末、ふと、はっ!と我に返った。
「確か、見張りの人が寝室に入れるのは、シャルロッテ本人とその関係者だけだって・・・・・・!」
「ええ~!?結局、入れないじゃん!もう、面倒くさいのは懲り懲りだよ~!!いつものように銃や爆弾でド派手にやろうよ!ドーーーンって!」
メルトは駄々をこね、強硬手段の行使を提案するが、それを断固として反対したのはユーリだった。
彼女は怯えた顔を繕い、理由を告げる。
「それは絶対に避けるべきです。ここにフランゲル中佐がいる事を忘れてはいけません」
「暴力も安全策もだめなら、どうすればいいの!?」
八方ふさがりに直面し、ヴェロニカが悔しそうに拳を強く握り締める。
為す術がない状況に納得できないクリス達にローズはもうどうでもよさそうに、"あー!"と声を出し、席を立った。
「あんた達?じっとしてて暇にならない?ちょっと、喉が渇いたから高いウィスキーで潤して来るわ」
- Re: エターナルウィルダネス ( No.83 )
- 日時: 2022/10/27 19:48
- 名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)
その刹那、ホールが耳障りな大喝采に包まれる。
クリス達は何事か?と招待客が向く方へ視線を重ねると、シャルロッテが誉めそやされていた。
親衛隊長であるエリーゼと年老いた執事を傍に置き、自身は笑顔で一礼してステージへと上がる。
群衆は一斉に静まり返り、主催者による演説が始まった。
「親愛なる皆々様。この私、シャルロッテの神聖な仮面舞踏会にお越し頂き深く感謝を申し上げますわ。今宵は快楽の飢えが満たされるまで、パーティーを満喫して下さいね」
再び、大きな喝采が鳴り響いた。
シャルロッテは深くお辞儀をしてステージを降りると、執事の耳元で何かを囁いている。
特に珍しくもないその行為をクリス達は見逃さなかった。
ホールに元の静かさが戻った頃、ギャング達は互いを見合わせ、大半がにやけた表情を繕う。
「たった今、いい案が浮かんだんだけど聞きたい?」
クリスがやや低い声で言って
「多分だけどよ?俺も全く同じ事を考えてるぜ?」
アシュレイもシャンパンを一気に飲み干し、テーブルにグラスを叩きつける。
「ここに来て、初めて奇跡が起きたわね?・・・・・・で、誰が役を演じる?」
ローズも自分がやりたそうに、わざとらしく誰かに役目を押しつける。
クリスに喋る機会を与えず、判断を下したのはステラだった。
「リチャードさんや皆さんはここで屋敷の各エリアで待機し、万が一の事態に備えていて下さい。寝室への侵入は、僕とクリスさん。それとサクラさんとメルトさんにお任せを」
「ふふん。やっと、面白くなってきたね♪」
メルトは鼻息を荒く、戦いの兆候を喜ぶ。
「私も・・・・・・私もクリスのお手伝いがしたい!」
ふいに、さっきまで沈黙していたミシェルの発言に皆の注目が集まる。
あれから、とっくに意識は回復していたが、恐怖が精神を蝕まれている証拠に全身の震えは止まる気配がない。
「やめとけ。下手に出てしくじられでもしたら、たまったもんじゃねぇ」
「右に同じよ。この子を連れて行くべきではないわ」
アシュレイとリリアが気遣いもなく、却下する事に誰も異論はなかったが、クリスだけが唯一、大いに賛成した。
「いや。むしろ、ミシェルがいた方が上手く行くかも知れない。この子がいれば・・・・・・うっ!ごほぉ!げほっ!げほっ!」
台詞の途中でクリスが激しく咳き込んだ。
ギャング達は、その様子を不審に思って眺めていた。
「お前。マジで大丈夫か?ただの風邪にしちゃ、随分と症状が酷ぇな・・・・・・」
普通とは思えない症状にアシュレイは苦い物を口に入れたような顔で言った。
「やれやれ・・・・・・シャルロッテお嬢様のワガママには困ったものですな・・・・・・」
老いた執事が日頃の苦労への愚痴を零しながら、廊下を歩く。
その途中、2人の招待客と出くわし、様子がおかしい事に気を取られた。
少女が腹部を押さえ、苦しそうに唸り、もう1人が背中や肩を擦っている。
「そこの方々。どうされましたか?」
執事は招待客に駆けつけ 事情を問いかけた。
背の高い招待客は顔を上げ、深刻になって答える。
「この子が急に腹痛を訴え出して・・・・・・!動けなくなってしまったんです・・・・・・!」
「それは大変だ!医務室はこちらです!私がお連れ致しましょう!」
執事が少女を抱き上げようと、背中に手を回した瞬間、手首を掴まれ、強引に引っ張られた。
非力な老体は壁に押しつけられ、抵抗する間も与えられずブレードを喉元に突きつけられる。
「ひぃ・・・・・・!」
呆気なく拘束された執事は涙液を滲ませ、女々しい声を上げた。
招待客は殺傷を控えつつも殺意の形相で静かに囁く。
「安心して下さい。命を取るつもりはありません。こちらの指示に大人しく従ってくれればの話ですが・・・・・・」
「流石ですね?クリスさん。ミシェルも名演技でした」
ステラの感心を合図にギャング達がゾロゾロと通路の死角から現れた。
集団で威圧を与え、反抗心を削ぐつもりで執事を取り囲む。
「あ、ああ・・・・・・お願いです!とど・・・・・・ど・・・・・・ど、どうか、こ!殺さないで・・・・・・!」
「僕達をシャルロッテの寝室まで案内して下さい。そうすれば、生かしておいてあげましょう」
執事は背後にいるクリス達に怯えながら、言われるがままに要望通りの場所へと連れて行く。
寝室がある最上階ではフィオナの証言通り、2人組の男が像のように立ち塞がっていた。
「き、君達。唐突ですまないが、この方々を寝室にお通ししなさい」
執事が普段通りの振る舞いを演じて命令した。
見張り達は困惑し、短時間の絶句の末に不安定な返事を返す。
「は!?し、しかし・・・・・・ここには誰も入れるなと・・・・・・シャ、シャルロッテお嬢様が・・・・・・!」
「この方々は例外なんだ!いいから早く、道を空けなさい!」
執事の動揺に護衛達は不審に思い始める。
その訳を悟った彼らはとっさに身構えようとしたが、先にクリスとメルト、サクラとメルトが二手に分かれて飛び掛かった。
メルトが男の股間を蹴り上げ、怯んだ隙にクリスが背中に回り込んで両腕を首に絡ませ締め上げる。
骨にひびが入る音が鳴った瞬間、男はグッタリと力が抜けて大人しくなった。
ステラがもう片方男の拳を受け流し、みぞおち目掛けて殴打し返した。
直後にサクラの手刀が脊髄に手刀を喰らわせ、追い討ちをかける。
痛みで硬直した顔が床に寝そべった。
「死んだ?」
クリスが護衛の体を丁重に横たわらせ、率直に聞いた。
ステラはチラッと足元で動かない見張りを見て、即座に判断する。
「一応は手加減したので。多分、死んでません」
1分の時間も要さなかった呆気ない制圧にミシェルと執事は言葉を失い、その場に立ち尽くしていた。
クリスは目が笑っていない暴力的な笑みを振り返らせ
「次はちゃんと、やって下さいね?」
と冗談の欠片もない脅しをかける。
- Re: エターナルウィルダネス ( No.84 )
- 日時: 2022/11/13 20:56
- 名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)
シャルロッテの寝室は覗いてみれば、王室の部屋とほぼ変わらない広いく豪華な一室だった。
揃えられた家具、飾られた装飾品など、地味を微塵も許さないと言わんばかりの派手なデザインをした物ばかり。
略奪すれば、一生遊んで暮らせる大金が手に入るほどの高価な物がいくつも置いてある。
「僕とステラ、メルトが部屋を漁る。サクラはその執事さんが変な真似をしないよう見張ってて?」
サクラ以外のギャングは部屋の物色に取りかかる。
箱やキャビネットを漁っては、外した絵画の裏を見たり、高値がつきそうな小さな貴金属類は欲張らない程度に盗んだ。
主の部屋で盗みを働くのを指をくわえて眺めていた執事はふと、サクラの視線が自分から外れている事に気づく。
彼はこっそりと右ポケットに手を忍ばせ、素早く彼女の後ろへ回り込んだ。
「・・・・・・あっ!がぁ!」
抵抗が遅れたサクラは執事の方を見た瞬間、銃のグリップで頭を殴られ、不意を突かれる。
腕で首を挟んで、人間の盾にしたまま、執事は非力な叫びを上げた。
「う、動くな!少しでも動いたら、この女の頭をう、撃ち抜くぞ!」
執事は上手い作戦を行使したつもりだったのだろう。
しかし、彼のこみかみに何かが当たり、その意味を理解した途端、表情が青ざめる。
「残念。こっちだって銃くらい持ってるんだ」
クリスが大口径の銃口を突きつけ、にやけながら言った。
「ひっ・・・・・・こ、殺さなっ・・・・・・!」
自身の愚行が招いた後悔に命乞いしようとした矢先、ステラの拳が老体にめり込む。
腹部を押さえ蹲ったところにメルトの頭突きが命中し、意識を殺された。
「ここが銃を撃つべき場所でなくて、幸運でしたね」
「斧で頭を割ってもよいいんだけど、殺すのは最後の手段って事にされてるからね。つまんいな~」
「サクラ?大丈夫かい?」
クリスは殴打された後頭部に触れ、フラフラと起き上がろうとサクラを気にかける。
彼女は罪の意識に苛まれながら、何度も頭を下げた。
「私の不注意で皆さんを危険な目に遭わせてしまって・・・・・・本当に申し訳ありません!」
素直な謝罪にクリス達は失敗を責め立てたりはしなかった。
代わりに一緒に部屋の探索を手伝うよう頼んだ。
寝室を大分、調べ尽くしたクリス達。
彼らが注目する先には唯一、手を付けていない固く閉ざされた金庫。
「開けられますか?」
ステラが聞いて、クリスは否定も肯定もしなかった。
「認めたくないけど、金庫破りの経験は浅いんだ。デズモンドの手にかかれば、1分もかからないだろうけど・・・・・・一応、試してみ・・・・・・」
「えいっ!」
話の最中にメルトがいきなり斧を振り下ろす。
分厚い刀身は金庫の蓋と箱の部分の隙間に当たり、金属の部品が外れる甲高い音がした。
蓋が輪切りにされた食材のように剥がれ落ち、呆気なく中身を曝け出す。
「わーい!金庫が開いた!メルトお姉ちゃん!金庫破りの天才だね!」
あまりにも手っ取り早い問題解決に単純に喜ぶミシェル以外のギャング達は怪訝な顔をして、唇の端をピクピクと動かしていた。
「開け方が分からなかったら、壊せばいいんだよ♪」
メルトが斧を担いで親指を突き立てた。
ミシェルに尊敬と喝采の的とされ、もっと褒めてほしいと言わんばかりに自慢げな笑顔を作る。
「まあ・・・・・・金庫の開け方は必ずしも1つじゃないんだけど・・・・・・お手柄だよメルト。お陰で手間省けた。早く、中を確認してみよう」
金庫は下段にはウォール紙幣の束が詰まれ、上段にはいくつかの書類と見事な金細工が施された高級感溢れる懐中時計が大事に保管されていた。
クリスは紙幣以外を盗み出し、仲間と共に書類の方に焦点を当てる。
「これは・・・・・・何かの配置場所みたいですね?」
ステラが的確に判断し、真剣に書類の印や文字に目を通していたクリスがやがて呟き始める。
「アニフィス州西部に4つ・・・・・・北東部の位置に3つ・・・・・・医療品や食料が貯蔵された物資の隠し場所。無数の武器や兵器を保管した武器庫。組織の資金源を蓄えた宝物庫・・・・・・これ全部、カトリーヌにとって、失いたくない重要拠点ばかりだ。これを残らず叩かれたら、ルフェーブル・ファミリーは勢力を失い、組織は一気に弱体化する。カトリーヌの政治介入は"夢のまた夢"だろうね」
「それどころか、ハイペシアを散々苦しめてきた獣の群れは狩る立場から狩られる立場になるでしょう。これをこちらの手中に収めない手はない」
ステラの告知に等しい予想に嬉しくてたまらなくなったメルトが上機嫌にはしゃいだ。
「この1枚の書類でお姉ちゃんの組織を一気に一網打尽にできるって事だよね!?やったー!悪い人達にはきついお仕置きが妥当だよね♪これぞ正しく年貢の納め時~♪」
「早くリチャードさん達のいる所へ戻りましょう!」
サクラの言葉に賛成し、クリス達が大きく頷く。
満面の笑みでミシェルがドアを開けようと、真っ先にドアノブに手を伸ばした瞬間、いきなり、ドアが向こうから蹴破られた。
分厚い木材の板に強く弾き飛ばされた小柄な体が床を転がり、苦しそうに蹲る。
「・・・・・・ん!?何だ貴様らはっ!!?」
エリーゼの雷鳴が怒鳴り声が寝室に響き、鼓膜に痛みが走った。
最も望ましくなかった最悪な鉢合わせに全員の表情が凍る。
修羅そのものと言える威圧にクリス達の体に痺れが走り、足が前に出なかった。
恐怖を無心で押し殺したステラは先手を打とうとガラドボルグを抜き、斬りかかる。
サクラも体当たりをぶつけるが、びくともせずに弾かれた拍子に首を掴まれ、片腕の力だけで軽々と持ち上げられた。
加減なしに床に叩きつけられ、背中を足裏で潰された。
「うわあああ!!」
メルトががむしゃらに斧を振り回してが斬りこもうとするも、刀身は当たらず、逆に敵の硬い掌が顔面にめり込んだ。
小柄な体は重力などお構いなしに宙を舞い、壁に背中からぶち当たって落ちた絵画の下敷きになった。
クリスは素早い身のこなしで 横に回り込んで死角から急所を突こうとした。
しかし、その腕さえも容易に掴まれ、手首に忍ばせたブレードも喉笛とは程遠い位置で止まってしまう。
俊敏性を活かした抵抗も空しく、打ち込まれた頭突きが脳震盪を引き起こし、意識が遠のぐ。
額の激痛だけが鮮明に感じる中、胸部に蹴りが入り、強引ベッドに押し倒された。
エリーゼはベッドに飛び乗り、横たわるクリスに馬乗りに被さると容赦なく首を絞めつける。
縄が軋む痛々しい音。その圧迫は機械に挟まれたかのように生身の手で押さえつけられている感覚ではなかった。
白目を剥きながら泡を吹き出し、足掻く力も削られていく。
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