複雑・ファジー小説

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エターナルウィルダネス
日時: 2020/02/13 17:55
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

 乾いた土、枯れた草木、その上に零れ落ちた血の跡・・・・・・復讐の荒野は果てしなく、そして永遠に続いていく・・・・・・

 ディセンバー歴1863年のオリウェール大陸。
西部諸州グリストルと東部諸州ハイペシアとの内戦が勃発。
かつて全盛期だった大陸は平穏の面影を失い、暗黒時代への一途を辿っていた。

 王政派の勢力に従軍し、少尉として小隊を率いていたクリス・ヴァレンタイン。
戦争終結の後、退役軍人となり、両親が残した農場で妹であるリーナと平穏に暮らしていた。
しかし、突如として現れた無法者の集団による略奪に遭い、家は焼かれ、リーナを失ってしまう。
運よく生き残ったクリスは妹を殺した復讐を決意し、再び銃を手にするのだった。

 彼女は頼れる仲間達と共に"ルフェーブル・ファミリー"の最高指導者"カトリーヌ"を追う。


・・・・・・・・・・・・


 初めまして!ある理由でカキコへとやって来ました。"死告少女"と申します(^_^)
本作品は"異世界"を舞台としたギャングの復讐劇及び、その生き様が物語の内容となっております。
私自身、ノベルに関しては素人ですので、温かな目でご覧になって頂けたら幸いです。


・・・・・・・・・・・・

イラストは道化ウサギ様から描いて頂きました!心から感謝いたします!

・・・・・・・・・・・・


・・・・・・お客様・・・・・・

桜木霊歌様

アスカ様

ピノ様

黒猫イズモ様

コッコ様

Re: エターナルウィルダネス ( No.95 )
日時: 2023/06/13 19:48
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

 慣れない地に野営地を移してから5日間の時が流れた。
仲間の死で負わされた心身の傷を癒すため一旦は復讐を忘れ、優雅な一時を過ごす。
ここ数日間のギャング達の暮らしは平凡な日常生活に等しかった。

「誰かを撃たなくて済むのは別に嫌じゃないし、平和なのはいいんだけど。何か物足りなく感じてくるのよね」

 リチャードとチェスを楽しむ事が新たな日課となったローズが不満足そうにぼやいた。

「いいじゃないか。暇な毎日のお陰で新たな退屈しのぎを見出せたんだ。俺はまだまだ、今の暮らしに酔いしれていたい気分だな」

「おっさん。家ん中で頭を使うのはいいが、たまには真剣な空気でも吸いに外に出ろよ?狩りに出てねぇだろ?」

「はっ。老体に無理をさせるんじゃない。父親と手を繋いでお散歩する年じゃないだろ?」

「その内、寝た切り爺さんになっちまうぞ?」

 手で追っ払う仕草をするリチャードにアシュレイは半笑いしながら去って行く。

「ところでユーリはどこ?」

「ユーリさん?彼女でしたら、30分程前に野営地周辺の偵察に向かわれました。いつもの事です」

 ルイスから事情を聞き、ローズは呆れた苦笑で生真面目さを笑う。

「あの子はちょっと、神経質過ぎるのよ。こんなワニの楽園と言える最果ての沼地までファミリーが追って来るとは思えないわ」

「オリウェールを隅々まで探索しない限り、俺達の居場所を把握するのは難しいだろう。まあ、慎重な性格じゃなきゃ狙撃兵は務まらん。その神経質な性格で実際に俺達の安全が保たれてるのも事実だと言える」

 長い台詞を述べたリチャードが勝ち誇った顔でマスに駒を置く。

「そこ。置けない場所よ」

「ん?あ・・・・・・」

「お!正に"上履きを擦れば"・・・・・・ですね」

 ステラが瞳を黄色に変色させ、ユーリの帰りを知らせる。

「ステラ。"噂をすれば"だよ?僕が出迎えて来るよ」

「私もお供致しましょう。」

 クリスが玄関のドアを開け、ルイスも相好を崩してついていく。

「ちょっと待て!・・・・・・あいつ、何か様子がおかしくないか?」

 2人を追い越したアシュレイが妙な発言をして、こちらと距離を縮めるユーリを不自然に凝視する。

「アシュレイ?ユーリがどうかしたの?」

 ヴェロニカが彼の隣に行き、同じ方向を眺めた途端、白く透き通った肌は青ざめる。
苦しそうに腹部を押さえ、頬が膨らんだ。

「うぅ・・・・・・おえぇぇ・・・・・・!」

 ヴェロニカが嘔吐し、その上に蹲った。
汚らしい咳を吐きだし、胃に残った消化物を吐き戻し続ける。
その出来事に驚いた全員がざわめき、その内の数人が窓や扉から外を覗いた。

「嫌。やめて・・・・・・嘘に決まってるわ・・・・・・」

「あ・・・・・・ひぁ・・・・・・ああああああ!!」

 リリアが目に飛び込んだ現実を拒んだ一方でフィオナが彼女らしからぬ絶叫を響かせた。

 野営地に戻って来たのはクリス達の知るユーリではなかった。
彼女の片腕片脚はもがれ、代わりに椅子の脚が粗末に縫い付けられている。
片目をくり抜かれた顔もツギハギに縫い付けられ、元の形の原型は大方留めていない。

「ユーリッ!!」 「ユーリさん!!」

 クリスとアシュレイ、ルイスが家を飛び出し彼女の元へ急いだ。
無惨に変わり果てたユーリを馬から下ろし、腕に抱く。

「おい!しっかりしろ!ちくしょう!何があったんだ!?」

「ああ!神よ!あなたは何故、このような仕打ちを赦し・・・・・・!どなたかっ!直ちに医療品をここへ!」

 ユーリがブツブツと何かを呟いており、クリスが沈黙を促す。

「喋るな!出血が酷くなる!」

「だめ・・・・・・わた・・・・・・しからは・・・・・・はなれ・・・・・・うぶっ!げぼぉっ!」

 ユーリが残った力を振り絞り、警告を告げる途中で血の泡を吐き洩らした。
その台詞に違和感を覚えたアシュレイが彼女の腹部をめくる。
彼女の腹部はつぎはぎに縫い合わされ、微妙に膨らんでいた。
明らかに何かが詰め込まれている痕跡が窺える。

「伏せろぉぉっ!!」

 アシュレイがとっさにユーリを投げ捨て、クリスを突き飛ばした。
自身もルイスに覆い被さり地面に伏せる。
1秒も経たずユーリが大爆発を引き起こし、人の原形が粉々になる。
彼女の肉片と血の雨が降りかかり、クリス達の背後が赤く塗り潰された。

「ユーリィィ!!やだああああ!!」

「バカ!行くんじゃない!あいつはもう・・・・・・!」

 ユーリのあまりにも悲惨な最期にメルトが泣き叫んだ。
彼女を強引に引き留めるリチャードも死を自覚させるのに必死だった。

 クリス達がいる付近で激しい爆発の連鎖が引き起った。
それから間もなくして、集団で走る馬の足音が耳に伝わる。  

「ちっ!くそ!襲撃だぁ!!」

「襲撃ってルフェーブル・ファミリーが!?こんな沼地の奥にまでどうして!?」

「ユーリさんと共に偵察に出向いていましたが、尾行はされてなかったはず・・・・・・何故、奴らは僕達の居場所を突き止められたんだ!?」

 瞳を橙色にしたステラが野営地を特定された原因を推理しようにも、そんな些細な悠長さえも与えられなかった。

「余計な考えはするな!全員、武器を持って交戦に備えろ!戦えない奴は部屋の奥に避難するんだ!誰かバルコニーに行ってクリス達を援護してくれ!」

「狙撃なら私がやる!リリア!あんたはヴェロニカをお願い!」

「心得たわ!サクラ!あんたはここでリチャードと応戦して!」

 リリアは立てそうにないヴェロニカを抱き上げ、銃弾が届かない安全な場所へ運ぶ。

「わ、私も共に戦わせて下さい!」

 フィオナも小口径の自動拳銃を手にして行った。
病弱な雰囲気を感じさせない勇ましい勢いで加勢に加わろうとするが

「ふざけるな!病人は足手まといだ!犬死した死体をデズモンドの隣に埋めるなんて御免だぞ!」

「私はクリスのために戦う道を選びました!守られてばかりのお荷物でいるくらいなら、惨めに殺された方がマシです!」

 フィオナは引こうとはしなかった。
貴重な時間を削る余裕がない中、リチャードは一旦は興奮を鎮め、"やれやれ"と鼻で溜息をつく。
一応、信用する気になったのか、真顔を繕い優しく頼み込んだ。

「なら、ヴェロニカの傍にいろ。俺達ギャングが死滅を迎える最後の時まで仲間を守ってやってくれ」

Re: エターナルウィルダネス ( No.96 )
日時: 2023/07/15 17:05
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

 兵士を乗せた馬の群れが盛り上がった地平線からなだれ込む。
奇襲部隊として押し寄せたのはルフェーブル・ファミリーの騎兵連隊だった。
高性能のライフルや自動小銃で武装し、装備品をいくつも軍服に取り付けた熟練の正規兵である事が伺える。

 クリスは走り去る途中で後方にリボルバーを発砲し、被弾した歩兵が2人が血を吹き出しながら軍馬から落下した。
アシュレイもルイスに肩を貸し、屋敷への避難を急ぐ。
3人が中に入ると、即座にメルトが扉を閉ざしてキャビネットを押して出入口を塞いだ。

「クリス!無事か!?」

「僕は平気!アシュレイもルイスも撃たれてない!他の皆は!?」

「戦えない奴は地下倉庫へ避難させた!お前の幼馴染がヴェロニカの 護衛についてる!」

「弾が出るもんはとにかく撃ちまくれ!包囲されちまった時点で俺らの負けだ!」

 アシュレイは自動小銃をルイスに投げ渡すと、ヴォルカニックピストルを抜いて装弾を確認する。
外側で再び爆発が引き起り、クリス達は吹き飛ぶように床に倒れこむ。

「ちっ!奴ら、"手榴弾"を使ってるわ!ダイナマイトよりやばい代物をわざわざ用意してくるなんて、ご苦労様な事だわ!」

 敵の装備を把握するローズの表情が事態の厄介さを物語る。
そこへ約束通り、リリアが低い姿勢を取り、ローズの元へやって来た。
手には愛用のリボルバーの代わりにボルトアクション式のライフルを握っている。

「あれだけの重武装の大軍を差し向けて来るなんて・・・・・・奴ら、相当本気だわ!」

「何度も尻を蹴られた事で敵さんも遂に腸が煮えくり返ったようね。今回ばかりは流石にだめかも知れないわ。ローズ。気が早過ぎて笑っちゃうかもしれないけど、あなたと一緒に過ごした日々は最高に楽しかった」

「勝手に人様の命日を決めないでよ。ふふっ、私もよ。ねえ?リリア?もし、ここが人生の終着点だったら、地獄で乾杯しましょう」

 ギャング達は敵側の猛攻が激しいあまり、まともに応戦ができない状態に追い込まれてしまう。
銃弾と爆撃の嵐に反撃の機会すら恵まれなかった。

「ひぃあっ・・・・・・!」

「伏せていろ!脳みそに穴を開けられたくなかったら、下手に頭を上げるな!」

 リチャードは銃弾が頭上擦れ擦れに通過したサクラを強引に伏せさせた。
さっきまで原形を保っていた家具が破壊され、部屋中に木屑や割れた食器の破片が飛び散る。
クリスとアシュレイも銃で応戦するものの敵勢の勢いは鈍らず、大した足止めにもならない。

「正面からの太刀打ちは自殺行為!こちらがいい的になるだけです!」

「私達!ほぼ無抵抗じゃん!この最悪な状況、どうにかならないの~!?」

 ルイスとメルトも地べたに横たわり、叫ぶだけで精いっぱいだった。

「反撃しなければ俺達に明日はないのは確実だが・・・・・・まともな武器もなく、満足に抗えないのも事実か・・・・・・おい!誰でもいい!地下に行って役立つ物がないか見てきてくれないか!?あそこだけはまだ、ろくに調べてないんだ!」

「それなら、僕に任せてほしい!リチャード達は敵の銃撃を凌いでいてくれ!」

「僕も同行させてもらっても異論はないかと。銃を使わない味方が減ったところで戦力に支障はきたさないでしょう」

 クリスとステラは一時、前線を離脱して地下室へと降りて行く。
薄暗く窓のない物置の一室でフィオナが銃のグリップを強く握り、心配そうに上階を見上げていた。
彼女は勢いよく開いた扉に対し、とっさに銃口を向けるも引き金は引かず、むしろ、強張っていた表情が緩んだ。

「フィオナ!大丈夫!?」

「・・・・・・クリス!」

 フィオナがクリスを抱きしめ、目の当たりにした惨劇を嘆き悲しむ。

「クリス・・・・・・ユーリさんが・・・・・・!」

「悲しむのは後だ。今は生き延びる術を探し出さないと!ヴェロニカは大丈夫?」

「少し落ち着きを取り戻してるみたいだけど、ユーリさんがあんな目に遭わされたショックが大きかったみたい」

「クリスさん!僕達はすぐにでも加勢に戻らなければいけません!早く役に立ちそうな物を探しましょう!」

 クリスとステラは二手に分かれて、念入りな探索を怠っていた地下室のあらゆる棚や箱を漁って回った。
しかし、入っていたのはガラクタを含む生活用品くらいで武器に使えそうな物は何一つ見つからない。

 期待を裏切られる連鎖に失望が膨らんでいく最中、ある物がステラの目に留まった。 
束になった酒樽だと思い込んで、埃が被った布を退かすと自然と言葉にならない声を漏らす。

 大方が錆びついた古びた銃器が粗末に保管されていたのだ。
三脚架が取り付けられ、木製のストックに短い銃身の先にはラッパ型のマズルブレーキ。
歯車のような円形のドラムマガジンを上部にはめ込む珍しいタイプですぐ横にいくつかの予備弾倉が重ねて置かれていた。

「・・・・・・これって機関銃?」

 喜ばしいと言わんばかりにクリスが駆けつけるが、ステラの目は橙色で抱いた感情は決して前向きとは言い難かった。

「M1806。通称"ラスティドアイアン(錆びた鉄)"。オリウェールとローク帝国の間でシリカをめぐって勃発した"第三次大陸戦争"の際に使用された固定式機関銃です。ただ、30口径で装弾数も少なく、現代のタイプよりも重い。こう言ってなんですが、性能は保証できませんよ?事実、何年も手入れされていないようですし、肝心の弾薬も使い物になるか怪しいです」

「ようするに、半世紀前の旧式だね。だけど、少しでも上手くいく可能性があるなら僕はこれに賭けたい。それにアシュレイならこの"老兵"を修理できるかも!」

「僕だったら、悪い方の結果に金貨3枚のウォールを賭けますが、物は試しか・・・・・・上に運ぶのを手伝って下さい。単身で抱えられる代物ではないですから」

「私も手伝う!」

「ありがとう。でも、君はここに残ってヴェロニカを守ってあげてくれ。この子を頼んだよ?」

 フィオナが無理に笑みを繕って頷く。
だが、その刹那にクリスの温和な表情が1秒の内に一変する。

「待って?ミシェルがいない・・・・・・!あの子はどこ!?」

「・・・・・・え?」

 フィオナも怪訝になって同じように部屋中を見渡すが、ミシェルの姿がない事に今になって気づいた様子だった。

「私・・・・・・知らない・・・・・・2階にい、いるんじゃ・・・・・・?」

 ヴェロニカは毛布に包まって縮こまりながら証言する。

「まずい・・・・・・!」

Re: エターナルウィルダネス ( No.97 )
日時: 2023/10/09 15:56
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

「うぉっ!?クリス!んだよ!?んな錆びた塊、どっから引っ張り出して来やがった!?」

「見たところ機関銃とお見受けしましたが・・・・・・うぉわ!くっ!」

 予想だにしなかった代物を連れて来られ、アシュレイ達は味方に対しても実に厄介そうな表情を揃えた。
じっくりと観察しようにも鬱陶しい銃弾の嵐がルイスの行為を卑劣に阻まれてしまう。

「アシュレイ!可能ならこれを修理してほしい!今すぐに頼む!」

「はぁっ!?バカかてめぇは!?いくら何でも唐突過ぎんだろ!?少しは現況ってもんを考え・・・・・・っておい!」

 藪から棒としか言えない役目を押し付けられ、対応に困るアシュレイに構わずにクリスは次にリチャードに詰め寄った。

「リチャード!ミシェルはどこ!?あの子がいないんだ!」

「・・・・・・な!?ちびっ子がいないだと!?・・・・・・ったく!なんでいつもお前はこう!厄介事をデートみたいに誘ってしまうんだ!?なんてこった!俺は知らんぞ!?ヴェロニカと同じ部屋にいるんじゃなかったのか!?」

「そういえば!確かに、あの子だけ姿がありませんでした!2階にも居なかった気がします!建物の中にいないとだとすれば・・・・・・あっ!も、もしかして、裏庭に!」

 サクラが曖昧な記憶を辿って、敵が陣取っている位置とは真逆の方向を指差した。

「そこに行ってミシェルを探して連れて帰る!リチャードやサクラは少しでも奴らを食い止めて時間を稼いでいてくれ!」

「私も探すのを手伝う!1人で行くより誰かと一緒の方が絶対にいいって!」

 聞く耳を持たないまま、クリスは今度はメルトを連れて矢のように持ち場を飛び出して行った。
追いかける意欲さえも消え失せたアシュレイは遂にヤケクソになって

「クソクソクソがっ!しゃあねぇ!一か八か、使い物になるか試してみるか!だが、ここじゃ無理だ!ステラ!このオンボロ野郎を2階に運ぶのを手伝え!」

「やれやれ。ここに来てから荷物運びしかしてない気がするのは僕だけですかね~?」

 苦笑するステラがジョークと溜め息を漏らし、今度はアシュレイの手を借りて機関銃を持ち上げた。


 クリスはリボルバーを片手に窓から顔を出し、左右を確認してから外に飛び出した。
メルトも斧をしっかりと握り、いつもになく慎重になって後に続く。

 銃声や爆音が絶え間なく響き渡る表側よりマシに静かな場所で少女の泣きじゃくる声が聞こえた。
積まれた薪の日陰に顔を覗かせるとミシェルが体を丸めて震えている。
背後に迫った気配に"ひぃ・・・・・・!"と声を上げて振り返ると、恐れおののいた表情で息を切らした。

「ク、クリス・・・・・・!うわあああん!」

 腹部に抱きつくミシェルの髪を撫で下ろし、クリスは切ない笑みで見下ろした。

「怖かったね?もう、大丈夫だから家に帰ろう?」

「ぐすっ!えぐっ・・・・・・!いきなり爆発する音が聞こえたから、ここに隠れてたの!何が起こって・・・・・・?」

「ルフェーブル・ファミリーがここを襲撃して来た。そのせいでユー・・・・・・いや。とにかく!ここに居てはまずい!早く安全な場所に・・・・・・!」

「・・・・・・クリスッ!危ない!」

 台詞の途中で発せられたメルトの警告に温情を捨てたクリスは殺気がした方向へ引き金を引いた。
大口径の1発が兵士の胸部を貫通し、銃弾の的を外した遺体が仰向けに横たわる。

 反対側からも2人の騎兵が突進して来たが、片方はクリスによって顔上半分を吹き飛ばされ、呆気なく仕留められた。
メルトは正面から堂々と迎え撃ち、振るった斧で馬の前胸を裂く。
甲高い悲鳴を上げた愛馬の下敷きとなり、身動きの自由が奪われた騎兵の顔面に分厚い刀身が突き刺さる。 

「裏にも敵の手が!僕達は囲まれている!早く中へ!」


 バルコニーからスコープのないライフルの銃口が標的を追い、尖った鉛を撃ち放った。
胸元から血飛沫を飛ばした騎兵がライフルを投げ捨て、馬から転げ落ちる。
何倍もの報復射撃がこちらへ向けられ、狙撃手はサッと素早く身を潜めた。

「・・・・・・ちっ!1人でも仕留められたら、勲章ものってとこかしら?」

 ボルトを引き、空薬莢を弾き出したリリアが小声で言った。

「悪ぃ年増共!ちょっと、邪魔すんぞ!」

 そこへ女性2人に無作法な呼び方をしたアシュレイが寝室に押し入る。
文句を言い返そうとキッと不機嫌な顔を振り向かせたリリアは瞬時に機関銃に気を取られた。

「は?何それ?半世紀前の機関銃じゃない!展示会なんか開いてる場合!?ほぼ、ガラクタじゃない!」

 ローズの文句の数々を無視し、彼は寝室に機関銃を置いた。

「だから、今こいつを直そうとしてんじゃねえか!とにかく、黙って撃ち返してろ!」

 アシュレイとステラがアンティーク兵器の至る部分を確かめ、どこに問題があるか1つ1つ把握する。

「トリガーが重くて、スライドも引けない・・・・・・弾詰まりでも起こしてるのでしょうか?」

「弾倉と弾薬自体には問題ねぇが・・・・・・肝心の機銃本体の錆が酷過ぎるな。こりゃ、中も怪しいぞ。 ありったけのガンオイルがいるか・・・・・・おい!ステラ!俺の商売道具を持って来い!あの棚の上に置いてある箱だ!急げ!」

Re: エターナルウィルダネス ( No.98 )
日時: 2023/12/19 20:56
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

 敵のしぶとさに業を煮やした隊長らしき将校が1人の部下に指示を出す。
兵士は彼の命令を承諾したのか、すぐさま戦場から離脱した。

 間もなくして、丘の上から1台の車両が現れ、前線の狭間に堂々と流れ込んだ。
奇妙な事にそれは馬車とは異なり、馬に引かれた乗り物ではなかった。
車体は金属製のキャタピラが取り付けられ、背後に取り付けられた細い鉄パイプから黒煙を上げながら自力で動いていたのだ。
先が尖った五角形の形状で全体が黒光りした金属の装甲で覆われている。
正面部分の上部からはガトリング砲の銃身が突き出ていた。


「何、あれ・・・・・・」

 ライフルのエイムに目を重ねていたリリアが不思議な感覚に苛まれながら台詞を零す。
だが、機械の正体が兵器であり、更なる脅威がこちらを脅かそうとしている事をはっきりと感じ取った。

「あ、あれは!"デュランダール戦車"!ハイペシア軍が今の大戦で使用している最新鋭の兵器です!」

「おいおい!嘘だろ?たった1台でグリストルの大隊を全滅させたっていうあの装甲兵器かよ!?たかが十人余りの無法者相手にそんなやべぇもん差し向けて来るなんざ。俺ら、よっぽど毛嫌いされてんだな」

 アシュレイは導入して来た兵器を視野に入れず、他人事のように言った。
銃口に問題がない事を知ると、不満足そうに2回頷く。
続いて、硬いネジを外したりと機関銃の修理に専念する。

「それだけファミリーにとって目の上のタンコブって事よ・・・・・・って、どうやったら倒せるの!?あんなのライフル弾が通用する相手じゃないわ!」

 リリアがボルトを引き、ライフルに2発の弾を装填する。
トリガーの調整を手伝うステラが戦車の詳細を述べた。

「デュランダールは全体が特殊なポリマー合金で覆われていて、爆薬や徹甲弾でも破壊できません!唯一、止められるの物があるとしたら砲弾だけです!」

「私達の中に大砲なんか使ってる人いたっけ?ダイナマイトなら店を出せるくらい余ってるんだけど?」

 いかなる状況の最中でもジョークを絶やさないローズ。
アシュレイは聞きたくなかったと言わんばかりに分解した銃身を抱えながら怒鳴りつける。

「ババア!くだらねぇジョークをほざいてねぇで撃ち返せ!機関銃と対装甲手榴弾、同時に作るなんざ無理な話だ!」


「くそっ!ファミリーの奴ら!手段を選ばないにも程があるぞ!」

 下階にいるリチャード達も装甲車両の姿を認識していた。
あまりにも一線を越えた劣勢に最早、苦い表情をこれ以上に歪ませる事はできなかった。

「神よ・・・・・・清き羊である私達に救いの手を・・・・・・!」

「祈りなど役に立たん!神なんかに頼らず、自力で切り抜けるしかない!」

「リチャード!ミシェルを見つけた!サクラが予想してた通り、裏庭にいたよ!」

 無事に少女を抱き抱えて戻って来たクリス達の声にリチャード達は一旦は安心し切って、平常心を取り戻す。
しかし、回転を始めたばかりのガトリングをルイスの目は見逃さなかった。

「・・・・・・いけないっ!」

 その忠告の意味を即座に察したリチャードとサクラが銃声に負けないほどの大声で叫んだ。

「クリスさんっ!!頭を下げてっ!!」 「屈めぇぇ!!」

 火を噴いた6連装式の銃口が鼓膜に響く轟音を鳴らし、大量の弾丸を放出する。 
騎兵部隊の一斉射撃とは比べ物にならないおびただしい量の弾幕を浴びせた。
クリスが傍にいた2人を地べたに押し付けたタイミングとほぼ同時に鉛の群れが頭上を通過し、形ある物を一瞬で粉砕していく。
柱もことごとく破壊され、倒壊しかけた屋敷の半分が大きく傾いた。

「うおおっ!?」 「うわぁっ!」

 上階が傾いた方向に機関銃が滑り落ち、アシュレイとステラも床を大きく転がった。
バルコニーの半分が崩落し、足場を失くしたローズがとっさに手すりへにしがみつく。 
リリアが落下しかけた彼女の腕を掴んで何とか室内へと引きずり込んだ。

「痛っ・・・・・・!ああっ!くそったれ!ほんっと!毎回毎回、リリア様々だわ!」

「どういたしまして。あなたの亡骸とウィスキーを飲み交わすのは、気が引けるから」

「おい!聞こえるか下層民共!無事か!?」

 アシュレイが相変わらずの口の悪い喋りで下階にいるクリス達の関心を引いた。 
体の大半が木屑に埋もれ、仰向けに寝転んだリチャードが2階に怒鳴り返す。

「高見で骨董品の見物とはいいご身分だな!さっさと手立てを考えろ悪ガキがっ!」

「無理です!あんなの機関銃で太刀打ちできませんよ!"ハンガーが目立たない"とはこの事です!」

「"歯が立たない"でしょ!?効かないんじゃ意味ないじゃん!早くしないとこっちは全滅だよぉ!」

 ステラのことわざの誤りを指摘し、焦りに焦るメルト。
すると、上の位置からアシュレイが大声で叫んで何かを投げ落とす。

「諦めんな!俺がまともに息してるうちは勝ち目がねぇなんざ言わせるかってんだ!」

 ちょうど、真下にいたルイスがそれを拾って両手に包み込む。
細長い形状をした金属製の筒で上部に指をかける安全ピンが取り付けられている。

「アシュレイさん!これは・・・・・・!?」

「そいつはシリカを原料に作った可燃性の手榴弾だ!暇な時に作っといた甲斐があったぜ!」

「可燃性・・・・・・その手があったか!」 

 クリスがアシュレイの目論みを以心伝心に悟ったのか、表情に僅かな期待が芽生える。
すぐさま、ルイスに手榴弾を別の人間に渡すよう促した。

「サクラ!君が戦車を無力化してくれ!」

「・・・・・・あ?は!?えぇっ!?わ、わわわっ!私がやるんですか!?」

「幸運にも君の位置はガトリングの狙いが集中してない!戦車は視野の狭さが災いして君の姿は把握できないはず!あれを止める方法を教える!それを・・・・・・!」

 唐突に無茶な難題を指名され、平常心を完全に喪失するサクラ。
しかし、他に打開策がない苦況を自覚した時、弱腰な表情に決心が宿る。

「わ、分かりましたぁ!当たって・・・・・・!当たって砕けろです!」

Re: エターナルウィルダネス ( No.99 )
日時: 2024/01/21 14:32
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

 戦車はギャング達の陣営にだんだんと距離を縮めながら、無慈悲な弾幕を浴びせ続ける。
サクラはこっそりと屋敷の外に出て、柱へと背を預けた。
プレッシャーで震える可燃性手榴弾をしっかりと握り、タイミングを見計らう。

 横顔を覗かせ、留まっていると戦車の装甲が敵陣の視界をも遮った。
サクラは自身の姿が覗き窓に重ならないよう戦車に一気に接近した。
装甲にくっつき、一度は指をかけ損なった安全ピンを抜く。

「うっ・・・・・・うぁあああ!!」

 サクラは発狂に等しい叫び声と同時にグレネードを覗き窓に放り込んだ。
ボンッと風船の破裂に近い音を内側で充満した炎が戦車窓から噴き出した。
車内にいた2~3人の戦車兵の悲鳴が断末魔のように響く。
有利な立場を独占した戦車は途端に掃射をやめ、勢いが大幅に衰える。

「がっ!げほぉ!おぇ・・・・・・」

 サクラも喉を熱で焼かれ、戦車の前に蹲ってしまう。
とっさに駆けつけたリチャードが動けない体を引きずり遠ざけた。
彼女が横たわっていた地面をキャタピラが押し潰し、ようやく停止する。

 火だるまになった戦車兵達が後方の装甲板から飛び出し、焼け死んでいく様を丘にいた殺し屋が怪訝な顔で眺めていた。
慢心が災いし、想定外の事態に理解に遅れを取ったのだ。
予期せぬ事態に兵士達が一斉にざわついた。

「せ、戦車がやられただと・・・・・・!?」

「バ、バカなっ・・・・・・!?一体、どうやって!?」

「う、うろたえるな!敵が壊滅寸前なのは変わりはない!ネズミ共の巣を焼き尽くせ!」

 騎兵隊長の焦った命令に従い、切り札を失ったファミリーの騎兵隊は突撃を開始する。
人を乗せた馬の群れが劣勢側を一気に攻め落とす単純な戦法だ。
銃弾の雨中を駆け抜け、サクラを背負ったリチャードが屋内に入って叫んだ。

「こいつが戦車を仕留めたぞ!クソが!クリスのお陰で危うくミンチになってたところだ!」

「お説教は後にするべきだよ!ほら!奴らが一斉に攻めて来た!やばいって!」


「おい?ステラ?」

 アシュレイがニヤリと意地悪な笑みを向け、ステラの笑みにも同じものが浮かんでいた。

「丁度いいタイミングですね。"老兵"も久々に戦地に出向きたいらしいです」

 ルフェーブル・ファミリーの殺し屋は兵力では勝るも身を潜める場所がなかった。
慢心の突撃は敵側のいい的になる事すらも忘れて。

「とにかく、撃てる奴は撃ちまくるんだ!メルト!こいつ(サクラ)をヴェロニカの元へ連れて行け!」

 リチャードがリボルバーを発砲し、ルイスも自動小銃の弾丸を浴びせた。
ミシェルも不慣れながらも小型狩猟銃を手に応戦する。
その勇敢な姿を隣にいるクリスが微笑み、前線を向き大口径の弾丸を撃ち込む。

 リピーターの弾を撃ち尽くしたローズと交代し、2人は機関銃をバルコニーに置いて身の上に弾倉を叩いてはめ込んだ。
アシュレイがスライドを引き、数秒も経たずにステラの瞳が赤黒く染まり上がる。

「バカが。ヤケクソになった時点でてめぇらの余命なんざ、とっくに尽きてんだよ!」

 ステラがトリガーを加減のない握力で握った。
耳を塞ぐアシュレイの隣で旧世代の機関銃が半世紀ぶりに火を噴く。
どこか間の抜けた連射音と銃弾は騎兵隊の群れを瞬く間にハチの巣にした。 

 頭や四肢が千切れ、胴体を抉られる騎兵。
被弾した馬も地面を転げ回り、死体の上に積み重なっていく。 
ろくに抵抗もできない有り様のまま、犬死にという無様な戦士を遂げて。

「くっ・・・・・・退却だぁ!全軍、退却しろぉ!!」

 事態を重く見た騎兵隊長は撤退を促すも、直後に顔半分が吹き飛んだ。
偶然隣に居合わせた兵士は女声で泣き叫ぶ。   
下半身を尿液で臭わせ、腰が抜けた走りで逃げっ去っていく。

「まあ。大分、痛手は負わせたんじゃないかしら?」

 リリアが将校を仕留めたばかりのライフルを下し、ボルトを引いて薬莢を弾く。
それから間もなくして機関銃の騒音がピタリと止んだ。
至る個所から煙が上がり、異様な焦げ臭さを勝どきの代わりに。


「アンティーク兵器も割と役に立つ物なんですね。アシュレイさんのお陰で爽快な体験が楽しめましたよ」

「若い世代を凌ぐ偉い活躍だったな?これを期に定年させっか」

 アシュレイのジョークにステラも薄笑いし、やがて本格的な笑い声となった。
互いの拳を軽くぶつけ、達成感に酔いしれながら床に心地よく寝転んだ。


 襲撃を退けたクリス達は表庭へ足を運ぶ。
敵兵の死体から価値のある物を奪い、瀕死の負傷兵には迷わず引き金を引いた。
ローズは破壊された戦車を興味本位で見物し、思った感想を述べる。 

「うわぁ。近くで見ると結構、迫力満点ね。あら、やだ。このごっつい部分・・・・・・昔、浮気がバレて頭を吹っ飛ばされた近所のおじさんにそっくり・・・・・・」

「悪鬼の僕(しもべ)達は去りましたね。私はフィオナさんとヴェロニカさんに吉報をお伝えして参ります」

 クリスが頷き、ルイスは居住に利用できなくなった一軒家の方へ走っていく。
ギャング達が後始末に明け暮れる中、メルトが草原に溜まった1つの血だまりの前で立ち尽くし、涙を溢れさせる。

「ユーリィ・・・・・・!」


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