複雑・ファジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- エターナルウィルダネス
- 日時: 2020/02/13 17:55
- 名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)
乾いた土、枯れた草木、その上に零れ落ちた血の跡・・・・・・復讐の荒野は果てしなく、そして永遠に続いていく・・・・・・
ディセンバー歴1863年のオリウェール大陸。
西部諸州グリストルと東部諸州ハイペシアとの内戦が勃発。
かつて全盛期だった大陸は平穏の面影を失い、暗黒時代への一途を辿っていた。
王政派の勢力に従軍し、少尉として小隊を率いていたクリス・ヴァレンタイン。
戦争終結の後、退役軍人となり、両親が残した農場で妹であるリーナと平穏に暮らしていた。
しかし、突如として現れた無法者の集団による略奪に遭い、家は焼かれ、リーナを失ってしまう。
運よく生き残ったクリスは妹を殺した復讐を決意し、再び銃を手にするのだった。
彼女は頼れる仲間達と共に"ルフェーブル・ファミリー"の最高指導者"カトリーヌ"を追う。
・・・・・・・・・・・・
初めまして!ある理由でカキコへとやって来ました。"死告少女"と申します(^_^)
本作品は"異世界"を舞台としたギャングの復讐劇及び、その生き様が物語の内容となっております。
私自身、ノベルに関しては素人ですので、温かな目でご覧になって頂けたら幸いです。
・・・・・・・・・・・・
イラストは道化ウサギ様から描いて頂きました!心から感謝いたします!
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・お客様・・・・・・
桜木霊歌様
アスカ様
ピノ様
黒猫イズモ様
コッコ様
- Re: エターナルウィルダネス ( No.75 )
- 日時: 2022/05/26 20:20
- 名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)
その頃、今度はクリスがステラの行方を探しにまたもや、街中を彷徨っていた。
頻繁に辺りを見回し、気がつけば、隠れ家から随分と遠い所まで足を運んでいた事に。
「・・・・・・ん?」
ふいに低い壁の裏側から、ガサゴソと物音がした。
上手く聞き取れないが、言葉をボソボソと呟いている事から人である事が分かる。
「・・・・・・ステラ?」
僅かな確信を持って、クリスは壁から顔を覗かせ仲間の名を呼んだ。
しかし、いたのは探している人物とは別人だった。
しゃがんで何かを漁っている背中からは清潔感のない異臭が鼻に伝わり、一見すると、物乞いのようだった。
その人物はこちらを振り返り、フラフラと立ち上がる。
クリスの顔が蒼白したのは、その直後だった。
物乞いらしき男は皮膚がただれ、膿が溢れた傷口がいつくつもあった。
赤黒い目からは、血の涙液を零し口からも同じ体液を垂れ流している。
鮮血が滴る装飾ナイフを握り、足元の裏には彼が殺害したと推測できる引き裂かれた死体が・・・・・・
(こ、こいつは・・・・・・!?)
クリスは正体を把握できずとも、殺気だけは鮮明に感じ取れた。
男は、今にも息絶えそうな細い声で謎めいた台詞を漏らしながら、間合いを詰めて来る。
「"今宵は紅い月がを穢れを知らぬ処女を祝福する聖なる夜だ・・・・・・我が膿の蜜を注いだ甘き美酒を飲み干せ・・・・・・"」
「動くな!それ以上、近づいたら撃つ!」
クリスは鋭く吠えて、銃口を脅しに使う。
しかし、男は足の速度を緩める事なく、危険と判断して銃声を響かせる。
弾は男の左腿に命中し、反対側の肉と皮膚を突き破った・・・・・・しかし
「"常春の終焉に祝福をっ!!常春の終焉に祝福をっ!!"」
動きが止まるどころか、男は発狂して飛び掛かって来た。
クリスに抱きつくように覆い被さると、頭部を掴み、首筋に噛みつく。
「がっ・・・・・・!」
クリスはこの上ないほどに苦い顔をして短い悲鳴を上げる。強引に拘束を振り払い、今度は問答無用で額を撃った。
頭部に風穴を開けられ、絶望的な顔を硬直させた男が仰向けに倒れ込む。
クリスは寒気と震えが止まらず、噛まれた首を押さえて死んだばかりの男を見下ろす。
「何だったんだこいつは・・・・・・!?」
そこへ、だんだんと大きくなる足音がこちらに駆けつけて来る。クリスは警戒し、反射的に撃てる構えを取ったが
「・・・・・・え!?ク、クリスさん!?」
「ステラ・・・・・・」
やって来た人物が最も会いたかった仲間であった事で銃を下ろすクリス。
ステラは2発の弾丸を放ったリボルバー。次に足元の死体を視線を移し
「一体、何があったんですか!?この血だらけの男は・・・・・・!?」
「分からない。ここで誰かを殺して、僕をも殺そうとした。だから、反対に殺してやった」
「殺したって・・・・・・って、クリスさん!怪我したんですか!?」
ステラは慌てて、クリスの元へ寄る。
幸いにも傷は浅く、出血が抑えられなくなるほどの致命傷には至っていなかった。
「ところでステラ?君は僕を探しに街に出ていたんでしょ?」
「・・・・・・え?あ・・・・・・ああ。そう、そんなところです・・・・・・!」
ステラは瞳の色を緑色に染め、肯定に焦る。
いつもと違う反応に違和感を覚えたが、疑いは大してなく、気にも留めなかった。
「とにかく、君が大事に至らなくてよかった。一応、ヴェロニカさんに傷を診てもらいましょう。念のため、抗生物質も服用した方が・・・・・・」
「賛成だ。皆がいる所へ戻ろう。君に是非とも、紹介したい人もいる事だしね」
「へ?紹介したい人って・・・・・・?」
一方、隠れ家ではフィオナをギャングに加入させるべきかを複数人で話し合っていた。
「クリスの知り合いなら不信を抱く理由もないし、こっちとしても悪くはない話だ。だけど、これだけは忘れられては困る。僕達と共に過ごしたいとなれば、君も犯罪行為を常として生きて行かなければいけなくなる。その覚悟はあるかい?」
デズモンドは優しい忠告を述べ、慎重に選択を委ねる。
反面、アシュレイは友好的とは言えないやや尖った声を出し、厳しい忠告を告げた。
「・・・・・・っつうかよ?お前、そもそも戦えんのか?体も"もやし"みてぇに細いもんだな。怠慢張ったら、ガキにも負けんぞこいつ」
台詞後半の皮肉が気に入らず、メルトは軽い肘打ちをアシュレイの脇腹に入れる。
だが、そんな彼女も賛成しがたい意見を正直に主張した。
「う~ん・・・・・・戦えないなら戦えないで、別に構わないよ?でもな~、戦力にならない人ばかりが増えちゃうと、色々と不便なんだよね~」
「私は仕立て屋で働いていました。皆さんの衣服や鞄の手入れは私にお任せ頂ければ。勿論、掃除や洗濯、食事作りだって家事は何でもやりますし、戦わなければいけない時は命を懸ける覚悟もあります」
フィオナは長所と決意を訴え、隠し持っていた武器を見せる。
自動式の22口径ピストルで銃身が長く、消音機能が付けられた代物だ。
- Re: エターナルウィルダネス ( No.76 )
- 日時: 2022/06/04 16:39
- 名前: 死告少女 (ID: wUNg.OEk)
腕と足を組んで椅子に座っていたリリアは"ふ~ん"と感心せずに更なる覚悟を試す。
「武器が扱えるだけじゃだめよ?私達はハイペシア最大の犯罪組織を敵に回しているの。つまり、ここにいる時点で死神を彼氏に選んでるのと一緒よ?もし、あなたがクリスのバカと一緒にいたいと言う生半可な気持ちだけでギャングに加わりたいと言うなら、速やかな退場をお勧めするわ」
「大切なお馴染みを想うフィオナさんの気持ちは深く共感できます。しかし、か弱いお体で私達と同じ道を辿るには、あまりにも辛い苦境になるかと。ここは命を尊び、街に留まった方がいいのでは・・・・・・?」
サクラも気を遣った言い方で思い留まらせようとするが、フィオナの意思は揺らぐ事を知らなかった。
「私は自分の人生に未練なんてない。髪が白いだけで人々から蔑まれ、僅かなウォールだけで明日へと生を繋ぐ日々を送っていました。 どんな災難が降りかかっても、大切な人と戦いを共にする生き方の方が何倍も幸せです」
「けっ!虫も殺せそうにねえ奴が随分とかっけぇ事抜かすじゃねえか」
アシュレイがフィオナを小馬鹿にした時、クリスとステラが帰って来た。
ギャング達は2人に注目し、軽い笑みで歓迎する。
「ようやくだな。こっちもちょうど、お前らの帰りを待ってたんだ。お前らが奪って来たカトリーヌの密書の暗号文をデズモンドが解読した。どんな偉い秘密が記されているのか、ここにいる全員で拝見しようじゃないか」
あれから間もなく、ギャング達はランプだけが唯一、暗闇を照らす薄暗い地下室に集まった。ベル・エポック契約書に記されていた内容の説明は暗号解読を務めた本人であるデズモンドが代表して行う。
「暗号化されていたベル・エポック契約書にはルフェーブル・ファミリーに加担している1人の人物の名前が目立つ形で載っていた。ファミリーに資金を提供しているのは、"シャルロッテ・フランソワ・ジュネ・ド・ウェスティア"と言う貴族令嬢だという事が明らかになったよ」
「シャ、シャルロッテ・フランソワ・ジュネ・ド・ウェスティアだと!?・・・・・・間違いないのか!?」
その名を耳にした途端、リチャードが聞いた事を疑い、恐れ戦く反応を示した。
「シャルロッテ・フラン・・・・・・?・・・・・・初めて耳にする名前です。して、その人物とは何者なのでしょうか?」
ルイスが浮上した人物の名を覚え切れず、詳細を優先して尋ねると
「シャルロッテは西洋に位置する『ディオール皇国』の中でも1、2を争う大貴族の当主だ。軍隊とも呼べる護衛を従え、小さな国の1つなら簡単に買えるほどの資産を持つと聞く。そうか。そいつがルフェーブル・ファミリーを裏で支えていたのか・・・・・・」
「話を聞く限り、かなり厄介な奴みてぇだが、あんたが女にビビるなんざらしくないぜ。そんなにやばい奴なのか?」
今度はアシュレイが聞くと、リチャードの凍えているかのように声を震えさせ
「やばいなんてもんじゃない。シャルロッテは美しい容姿の反面、気紛れや憂さ晴らしを理由に猟奇的な拷問や虐殺を繰り返した悪魔顔負けの狂人だ。人が苦痛にもがき苦しむ姿を見る事を最高の快楽とし、その衝動が抑え切れず、不仲だった家族をも惨いやり方で手にかけた。あの女なら生まれたばかりの赤ん坊ですら、平然と火の中に放り込めるだろう」
「世の中には鬼畜を通り越した鬼畜がいるものですね。聞いてるだけで胃がムカムカしてきます」
ステラは瞳を赤く色づかせ、生きた害悪を憎んだ。デズモンドが話を進めようと、説明の続きを改める。
「書類には他にも、彼女の詳細やファミリーとの関わりの経緯なども記されてあった。その一節によると、シャルロッテは数年前で開催された邸宅地区の舞踏会の際、護衛を雇った。それが第7騎兵連隊の隊長を務めていた、かつてのカトリーヌだったんだ。彼女はそこでシャルロッテの恩人となり、親しい関係を築いたらしい」
「なるほど。それがシャルロッテがお姉ちゃんに手を貸す理由・・・・・・」
カトリーヌとシャルロッテの関係は実妹のメルトさえも知らない事実であり、配下だったユーリも知らない情報だった。
今度はリチャードがシャルロッテの悪行の数々を知ってる限り話す。
「本来、シャルロッテは自分にとって有益になりそうな者に恩を着せる立場であって、逆に恩を与えられるケースは珍しいと言える。ディオール皇国は奴の意のままだ。王権は乗っ取られ、警察、軍隊、裁判、教会、そして政府関係者すら、奴の操り人形と言ってもいい。国のお偉方は、莫大な資金を提供してもらう代わりにシャルロッテの言いなりとなり、彼女にとって都合のいいだけの下劣な政治を行っているらしい」
「今や、シャルロッテは"影の最高権力者"とも言っても過言ではありませんね・・・・・・聖騎士の都として繁栄を誇っていたディオールが、そこまで腐敗していたなんて・・・・・・」
サクラは衝撃的な事実にショックを受け、無意識に口を覆っていた。
「まさか、これほどまでに危険な勢力を敵に回していたなんて、夢にも思ってなかったわ。もう、迂闊に夜道は歩けないわね・・・・・・今回の勝負はあまりにもリスクが高すぎるわ」
「ああ、全くだ。国そのものに戦争を仕掛けてるようなもんだからな」
リリアもリチャードも強大過ぎる相手に恐れを表に出す。
酒瓶を握る彼女の手が微妙に震えているのを唯一、クリスだけが気づいた。
- Re: エターナルウィルダネス ( No.77 )
- 日時: 2022/06/15 20:23
- 名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)
「問題はどうやって、そいつに近づくかだ。国1番の大貴族となれば、護衛だって相当な数だ。一般人が面会できるわけがないし、ましてやギャングなんて相手にもしてくれないだろう」
「また、ファミリーに成り済まして近づくのはどう?ほら、そうやって私達は怪しまれずにスターリック銀行に潜入できたわけだし・・・・・・!」
ヴェロニカの期待が膨らむ提案をデズモンドは首を横に振り、あっさり否定した。
「残念だけど、その手は多分通用しない。あくまでも推測だけど、シャルロッテに接触できるのはカトリーヌを含むごく一部の大幹部だけだと思うよ?仮に上手く変装しても見破られるのが関の山だろうね」
続いてルイスも俯きながら、ギャングが抱えた数々の欠点をはっきりと指摘する。
「私達は人数はおろか、物資や資金すら遥かに乏しい。そんな状態で悪魔と剣を交えようとも、"よくて犬死、悪くて犬死"・・・・・・でしょう」
「こっちに勝算は、ほぼないって事か・・・・・・」
クリスは自分達の不利な状況に皮肉すら言えなかった。
酒を飲み干したアシュレイは爽快な吐息を吐き出し、濡れた口を拭いながら
「けどよ。カトリーヌを消したきゃ、どの道シャルロッテをどうにかしなきゃなんねぇんだろ?後ろ盾を潰さねぇ限り、ルフェーブル・ファミリーを壊滅させるには非常に困難だ。それどころか、不可能に等しい計算になるぜ」
「でも、相手は国そのものなんだよ!?私達はこのまま一生、カトリーヌをやっつけられないの!?」
ミシェルも兄の仇を討てる望みを絶たれ、失望を膨らませるしかなかった。だが・・・・・・
「・・・・・・いや。僕が知ってる限り、手がないわけじゃない。まあ、望みはかなり薄いし、一か八かの賭けになるけど」
「え?クリス?何か、いい方法を知ってるの?」
フィオナは聞き捨てならない発言に食いつく。
「目には目を歯には歯を・・・・・・権力者には権力者を・・・・・・だ」
「うう~!意味がよく分かんないよ~!誰か当てになる人に心当たりでもあるの?」
メルトの問いに返事を返さず、逆にクリスが全員に聞き返した。
「このハイペシアで権力の頂点に立つ者と言えば、誰だと思う?」
「ハイペシアの権力者・・・・・・おいおい!まさか、"あの男"を頼ると言うんじゃないだろうな!?」
リチャードは正気を疑い、意味を知ったデズモンドとユーリも呆然とする。
「"ジェームズ・リンカーン大統領"・・・・・・」
クリスは声を低く、その名を静かに呟く。
「仰る通り、リンカーンはハイペシアの最高権力者ですが、彼を味方につけるとしても、無法者である私達を相手にしてくれるのでしょうか?下手をすれば全員が捕まって最悪の場合、絞首台に送られる可能性もあるのでは?」
サクラは計画に成功に自信がなく、リスクだけを大幅に考慮していた。
「他に望みがないなら、諦めるしかない。でも、復讐を放棄するなんて嫌だ。どんな手を使ってでも、カトリーヌを殺して妹の仇を討つと誓ったんだ。皆が嫌なら別に構わない。大統領には僕1人だけでも会いに行く・・・・・・」
決意を固め、部屋を出ようとするクリスの服の袖をいきなりアシュレイが掴んだ。
強引に引き寄せた耳元に顔を近づけ
「おい。1人でいいかっこしてんじゃねえよ。ファミリーを恨んでるのは自分だけだと思ってんのか?どうしても大統領に会いに行くってんなら、この俺も連れてけ。はっきり言って、お前だけじゃ不安でしょうがねえんだよ」
とアシュレイは本気を訴える鋭い視線で同行を促す。
すると、リチャードも立ち上がり、クリスの頭上に手を置いた。
「まあ、たまには危険な賭けも悪くないか。俺も同行しよう。家族同然のお前らだけを危険な目に合わせるわけにはいかんからな。万が一死なれたら、ギャングのリーダーとしての面目が立たん」
「なら、私も行くわ。大統領との面接立候補の空きはまだ残ってる?」
「リリア・・・・・・」
リリアはクリスをキッと睨み返し
「勘違いしないで。私はあくまでもリチャードの護衛のため。彼が死んだら、誰があんた達を率いるのよ?全く、身勝手な復讐欲に付き合わされている皆の身にもなりなさいよね」
「私も行きたい!」
無邪気にお願いするミシェルにリチャードは鼻で笑い
「ガキは残れ。誰か俺達の不在の間、こいつの遊び相手をしてくれないか?謝礼に10ウォールをくれてやる」
「バカにしないで!子供じゃないもん!」
「ははっ。行ったってつまらないだけだよ。そんな事より明日、湖で釣りをしませんか?君の好きな話、色々聞かせてよ?」
笑った顔で頭を撫で、ステラは器用に子供を扱う。
「・・・・・・釣りって楽しいの?」
「うん、凄く楽しいですよ。あなたが作った魚でソテーを作りましょう」
「決まりだな。大統領閣下には俺とクリス、アシュレイとリリアの4人で行く。お前らは俺達が戻るまで、大人しく身を潜めていろ。間違っても、目立つ真似だけはするんじゃないぞ?」
「勿論です。あなた方が留守の間、私が皆さんのお世話の役を引き受け・・・・・・」
「うっ・・・・・・うげっ!げほぉ!げほっ!ごふぇ!」
ルイスの台詞を遮り、途端にクリスが胃の内容物を残らず嘔吐しているかのように激しく咳き込んだ。
正常とは異なる事態にギャング達の気がかりな視線が一ヶ所に集う。
「大丈夫ですか?」
ヴェロニカが蹲って丸まった背中を摩って、体の具合を気にかける。
密封するかのように口を覆っていたクリスだったが、やがて掌を遠ざけると、平然と健全である事を告げた。
「うん・・・・・・平気。ありがとう」
- Re: エターナルウィルダネス ( No.78 )
- 日時: 2022/06/26 20:59
- 名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)
クリス達は仲間を残しニューエデンズを出ると、数日かけてハイペシア軍の本拠地である街"ダーナレクト"へ向かう。
街に入ると、最も重要な拠点なだけあって、配備されている兵士も相当な数だった。
目的地の最高司令部はリンカーンの住居である屋敷。
戦争が起こっている今はもう、品のある豪邸はバリケードや兵器で改築され、1つの要塞と化している。
トンネルに似た門に差し掛かると、すぐに兵士達の警戒心を煽った。
「貴様らっ!そこで止まれ!少しでも妙な真似をしたら、射殺する!」
彼の言葉は号令となり、周囲にいた歩兵、櫓にいる狙撃手の銃口が一斉にこちらに向く。
クリス達は馬から降りると、両手を上げながら、数歩だけ前へと近づいた。
兵士達は彼らを取り囲むと強引に跪かせ、武器やその他の所持品を全て没収する。
そこへ将校がやって来て、大声で怒鳴った。
「ここは一般人が立ち入っていい場所ではないぞ!何者だ!?」
無数の銃口に捉えられた事態にリリアが目に恨みを宿し、隣にいるクリスを睨んだ。
リチャードが4人を代表して、将校との交渉を行う。
「俺達は怪しい者じゃなければ、害を及ぼす者でもない。ここに来たのはリンカーン大統領と面会するためだ。彼は司令部にご在宅か?」
「・・・・・・大統領との面会だとっ!?何を世迷言を!民間人の分際で我々を愚弄する気か!?身の程を弁えろ!ここを死に場所にしたくなければ、今すぐ素性を明かせ!」
リチャードは動揺を器用に隠し、両脇にいる仲間をチラッと見て一部だけ正しい偽証を述べる。
「俺達はただの賞金稼ぎだ。このガキは数年前までオリウェール内戦に従軍したハイペシア側の騎兵隊だった。むしろ、俺達はあんた達の味方だ。誓って、大統領には危害を加えたりはしない」
敵意の皆無に脅威じゃないと認識したのか、将校の鋭い目つきが緩み、ほんの僅か興奮が鎮み始める。
さっきまで荒々しかった性格も平静さが入り混じった口調へと変わっていた。
「大統領は司令部におられる。面会の内容は何だ?我々にも詳しく説明してもらおう」
「全て話すとなると長くなるが、俺達はハイペシアの裏に隠された危険な秘密を知っている。その事で大統領に警告を伝えに来たんだ」
最高司令部の内側に入り込んだクリス達は兵士に案内され、リンカーンの部屋の前にいた。
開けた扉の先には、初老くらいの年齢で立派な髭を生やした男がいて、山積みになった書類のサインに明け暮れている。
男は見慣れていた兵士とは異なるクリス達を物珍しそうに黙視する。
「大統領閣下。あなたに是非、面会したいという者達をお連れしました。詳細は不明ですが、この戦争に関わる重大な陰謀を知っているとの事です」
オリウェールの半分を統治する最高権力者を前にクリス達は胸に手を当て、敬意を込めた一礼を行った。
アシュレイも性格や容姿に似合わず、その仕草を真似る。
リンカーンはサインを終えたばかりの1枚の書類を書類の束に重ね、静かに口を開く。
「・・・・・・すまないが、君は外してもらえないか?今日は客人だけとゆっくり話をしたい気分でね」
用心を怠った判断に将校は不満な顔をせずにいられなかったが、素直に頼みを承諾し、敬礼をして部屋から去って行った。
扉が閉ざされると、リンカーンは低いテーブルを三方向から囲むソファーに掌を向け、"かけてくれたまえ"と物柔らかな声で言った。
「民間人と対話するのは実に久しぶりだ。近頃は兵士ばかりと過ごす時間が多くてね。さて、わざわざ私に会いに来た理由を教えてくれたまえ」
クリス達はギャングである事は伏せたままにして、有限な時間が許す限り、自分達が知っている限りの事を惜しみなく話した。
カトリーヌの政治界介入の陰謀。ディオール皇国の影の権力者の正体とルフェーブル・ファミリーの繋がり。
そして、ハイペシアの裏に隠された真相。
「ディオール皇国がルフェーブル・ファミリーを裏で支えていたんです。奴らがあれほど、強大な勢力に発展できたのも、その後ろ盾があったため。ファミリーの長であるカトリーヌは莫大な資金とルシェフェルの支持を利用し、政治に参入しようとしている。ハイペシアそのものを乗っ取る気です」
「戦争が激化する中、ディオールはハイペシアに多くの援助を行っているが・・・・・・あの国が本当に味方してんのはあんたの方じゃなく、ファミリーの方だったってわけだ」
「カトリーヌがハイペシアの主導権を握るつもりなら現指導者は無論、邪魔な存在になる。いずれ、あなたの身にも危険が迫ります」
クリスは少し脅しをかけ、事の重大さを訴えかける。
脅迫されても相手は怒りを抱くような様子はなく、1つだけ質問した。
「だとしても、これは私とファミリー、ディオールの問題だ。何故、第三者である君達が危険を冒してまで介入する必要があるのかね?いくら賞金稼ぎとはいえ・・・・・・あんな軍隊とも言える組織に無暗に食って掛かるほど、愚かではあるまい」
クリスはすぐには何も答えず、間を開ける。
荒くなっていく吐息を抑え、言いにくそうに理由を打ち明けた。
「・・・・・・奴らは僕のたった1人の肉親である妹を無残に殺害しました。何としてでもカトリーヌを抹殺し、復讐をやり遂げると誓ったんです。それが叶うなら、僕はこの世の全てを敵に回しても構わない」
クリスの目的を知ったリンカーンは顔をしかめる。
返答に困ったのか、何とも言えない顔で何回か頷くと
「なるほど、君の信念は伝わった。家族のために大勢を敵を相手にしようとする勇気も尊敬に値する・・・・・・だがしかし、話はそんな単純に片付けられないものなのだ」
「・・・・・・と言いますと?」
「これは国の存亡に関わる問題だ。これまでの君達の証言は全て事実かも知れない。しかし、我が国はディオールの支援があるからこそ、西国グリストルと何とか互角に戦っていられる状況だ。もし、あの国が支援を断ち切ればハイペシアは敗戦する。紙切れが燃え尽きるよりも呆気なく・・・・・・」
「一理あるわね。ハイペシアは産業革命に失敗し、資源が豊富なだけの国。兵力も物資も不足してる。現時点でもこちら側が圧倒されてないのが不思議なくらいの状況よ」
- Re: エターナルウィルダネス ( No.79 )
- 日時: 2022/07/17 21:04
- 名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)
リリアはリンカーンの理論に共感し、共に頭を悩ませる。
クリスが言ったばかりの証言を繰り返し、ルフェーブル・ファミリーの脅威をしつこく示そうとする。
「だがな。戦争に勝とうが負けようが、ファミリーを放っておけば、あんたはどの道消されちまうんだぞ?ディオールが実際に味方してんのはこの国じゃねえ。ハイペシア最大の犯罪組織の方なんだからな」
「大統領閣下。一国の英雄であるあんたに死なれちゃ困る。もし、カトリーヌがハイペシアの指導者になってしまえば、今の戦争よりも最悪な悲劇をもたらすぞ。奴の支配欲はこの国に収まるはずもないからな。下手をすれば、世界中が戦火に飲まれるかも知れん」
リチャードも最悪なシナリオを予測させ、こちらに信頼が向くよう試みるが
「例え、不正や陰謀が裏に潜んでいようと、ディオールの支援を断ち切る事はできない。このオリウェール内戦はこの地に住まうルシェフェルの命運がかかった聖戦なのだよ。兵士達は皆、私を支持し、家族の未来のために前線で血を流して死んでいる。そんな彼らを裏切る事などできないんだ。君達に君達の正義があるように、私には私の正義がある」
リンカーンの長い台詞をきっかけに少しばかりの沈黙が流れた。
「ディオールの背後に潜む巨悪を放っておけば、いずれオリウェールは暴虐の女王に乗っ取られてしまう・・・・・・逆に叩いてしまえば、軍事供給は途絶え、ハイペシアは大敗する・・・・・・実に複雑で厄介な問題だな。何かいい解決策はないのか・・・・・・!」
リチャードは腕と脚を組んで、頭脳を最大限に活用するが、いい案には行き着けなかった。
リリアも完璧な答えなど見い出せるはずもなく、"ここにデズモンドがいてくれれば・・・・・・"と小言を呟く。
「大統領さんよ?ハイペシアの資源量は敵国グリストルより圧倒的に豊富なはずだ。貴重な"金"だってたんまり採れる。それを戦争の資金に回せばいいんじゃねえのか?」
リンカーンは鼻で溜め息をつくとリリアの方へ目線だけを寄せて
「さっき、こちらのお嬢さんも言っただろう?この国は産業技術が発展しておらず、軍事品の製造もままならないのだよ。現在、我が国の兵士に支給されている武器や兵器、物資はディオール製の物が大半だ」
またしても、彼らは難題に行き詰まる。
誰もが諦めを望もうとした最中、ふと、クリスがスッと顔を上げ
「今、行われてるオリウェール内戦を全体から把握すると、オリウェールの西国グリストルと南三大陸の1つ、"ローク帝国"の連合国がディオール皇国に支援を受けているハイペシアと戦っているんですよね?」
リンカーンは少し気になって
「それがどうかしたのかね?そんな当たり前な事を聞いてどうなるんだ?」
「"リベリオ帝国"と"カリスタ帝国"はどうですか?オリウェールとは良好な関係を築いているとは言えませんが、敵対もしていないはずです。国内で軍事品を生産できないのなら、いっその事、ハイペシアの資源・・・・・・例えば、ルフェーブル・ファミリーの金塊などを奪い、両国に提供し、同盟を結ぶというのはどうでしょう?」
クリスの主張は更に続く。
「これが見事に成功すれば、ディオールを陰で操るシャルロッテの支援を受ける必要もなくなりますし、財産を失ったカトリーヌや奴の組織も甚大な被害が被る。更に言えば、この戦争の不利な戦況を一気に覆せます。言わば、一石三鳥ってところでしょうか?」
あらゆる常識を覆す異例で唐突な発想に面会相手の最高権力者、リチャード達から"は?"と短い台詞が漏れ出す。
「・・・・・・お、おい!何故、お前はいつもとんでもない事ばかり言い出すんだ!?確証もないくせに簡単に言うな!第一、連中が金塊を隠し持っている明白な証拠はないんだぞ!?ハイペシアの劣勢を覆せる保証もだ!そんな思いつきだけで世界が抱える苦悩を解決できるわけがないだろ!?」
リチャードは隣に座るクリスの肩を掴み、物凄い剣幕を間近に迫らせる。
しかし、警告とも捉えられる忠告を無視して、発言は続行された。
「金塊はルフェーブル・ファミリーが独占している可能性が高い。事実、スターリック銀行には奴らの財産が大量に眠っていたのだから。金塊は国内の犯罪組織が持っているため、政府が叩いて奪っても何も問題にはならないはず。決して、悪くない策だと僕は断言できますよ?」
これまでに安定した調子でギャング達と接してきた流石のリンカーンも軽い動悸をきたしていた。
息苦しさの裏側には、"期待"や"感心"が隠れているのを彼だけが自覚して。
首元のリボンをいじり、激しくなりつつあった呼吸を整えた後、震えた作り笑いをした。
「は、ははは・・・・・・とんでもない策略を思いつくものだ・・・・・・だが、その方法は理にかなっているな。確かに、二国もの大陸を味方につければ、この戦争に勝利の光が差すに違いない。だが、百歩譲って君の推測が正しかったとしよう。仮に金塊があるとしても、その隠し場所を誰が突き止めるのかだ」
「僕達にお任せ下さい」
厄介な疑問点を指摘されても、クリスは後先のリスクなど微塵も視野に入れてない言い方で簡単に役目を引き受ける。
即時の承諾にリンカーンは更に衝撃を受け、心臓を刺激された。
「まっ!無理難題だろうが、カトリーヌをぶっ殺せる結末に繋がんのなら、やってみんのもアリだな。俺達は戦場の方がマシな修羅場を潜って生き永らえて来たんだ。今更、軍隊並みのマフィアだろうが、国そのものだろうが、殺り合っても死なない方に賭けるぜ?」
新たなスリルが楽しみになってきたのか、アシュレイも乗り気になってクリスと意見を一致させる。
(この2人、救いようのない大バカ野郎ね・・・・・・密書の略奪の次は金塊の在処を突き止めろってわけ?このギャングを第二の人生に選んだのが、間違いだったのかも・・・・・・)
リリアは言いたくてしょうがない罵声を頭の中だけで想像し、リチャードも愛想を尽かして2人を怒鳴り散らす事はなかった。
リンカーンは性格を掴み切れず、あらゆる面で特殊な素質があるクリスに興味が深まるばかりで最もしたい質問をする。
「初めて会った時から君という人柄には驚かされてばかりだ。今一度聞くが、あそこまで凶悪な犯罪組織に本気で金塊の略奪を働くつもりなのかね?」
クリスは平らに閉ざしていた唇を微妙ににやけさせ、返答した。
「口先だけでは信頼を得るには難しいでしょう。ですが、最初に言ったはずです。僕は妹の仇を討つためなら手段を選ばないと・・・・・・」
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21