複雑・ファジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

エターナルウィルダネス
日時: 2020/02/13 17:55
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

 乾いた土、枯れた草木、その上に零れ落ちた血の跡・・・・・・復讐の荒野は果てしなく、そして永遠に続いていく・・・・・・

 ディセンバー歴1863年のオリウェール大陸。
西部諸州グリストルと東部諸州ハイペシアとの内戦が勃発。
かつて全盛期だった大陸は平穏の面影を失い、暗黒時代への一途を辿っていた。

 王政派の勢力に従軍し、少尉として小隊を率いていたクリス・ヴァレンタイン。
戦争終結の後、退役軍人となり、両親が残した農場で妹であるリーナと平穏に暮らしていた。
しかし、突如として現れた無法者の集団による略奪に遭い、家は焼かれ、リーナを失ってしまう。
運よく生き残ったクリスは妹を殺した復讐を決意し、再び銃を手にするのだった。

 彼女は頼れる仲間達と共に"ルフェーブル・ファミリー"の最高指導者"カトリーヌ"を追う。


・・・・・・・・・・・・


 初めまして!ある理由でカキコへとやって来ました。"死告少女"と申します(^_^)
本作品は"異世界"を舞台としたギャングの復讐劇及び、その生き様が物語の内容となっております。
私自身、ノベルに関しては素人ですので、温かな目でご覧になって頂けたら幸いです。


・・・・・・・・・・・・

イラストは道化ウサギ様から描いて頂きました!心から感謝いたします!

・・・・・・・・・・・・


・・・・・・お客様・・・・・・

桜木霊歌様

アスカ様

ピノ様

黒猫イズモ様

コッコ様

Re: エターナルウィルダネス ( No.45 )
日時: 2021/01/12 21:51
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)



ザッ・・・・・・ザッ・・・・・・ザッ・・・・・・

 微かな意識を眠い感覚と共に取り戻した頃、奇妙な音が脳内に木霊する。
聞き覚えがある音・・・・・・土を抉る音・・・・・・何かを掘っているような・・・・・・
傍に人がいるらしく、数人の会話が聞こえるが、うまく聞き取れない。

 現状の理由に答えを見出そうと頭を鮮明に働かせる。
すると、先ほどの出来事の記憶が呼び覚まされ、はっ!と平生の心境に戻った時、こめかみに強く殴られた痛感がした。

「う、うう・・・・・・」

 光に照らされた眩しさに目をヒリヒリさせながら、ゆっくりと目蓋を開いた。
視界には、こちらを見下ろす誰かがぼやけて見えるが、形はだんだんとはっきり、修正されていく。

「よう。ようやくお目覚めか?淑女面した虐殺野郎」

 ニヤニヤと舌を出し、悪魔の笑みをしたアシュレイがしゃがんだ姿勢で起床の挨拶をする。
その手にはナイフが握られ、刀身をぎらつかせていた。
彼の両脇には明らかに敵意のあるステラ、メルト、サクラの姿も。

「ひっ!ひぃ・・・・・・!」

 ノーラは逃げようと立ち上がろうとしたが、体が意思に従わず、再び横たわってしまう。
手足を束に固定され、縛られている事に気づく。

「町中の兵士を差し向けて、とんずらこくたぁ、なめた真似してくれたじゃねえか・・・・・・まあ、俺にとっちゃあ、ちょっとは楽しい鬼ごっこだったけどな」

「アドニスの人々はあなたの人柄を必要としていた。それなのに、街の人達を平然と裏切り、多くの罪のない命を冷酷に死に追いやった。あなたには、人の心というものがないんですか!?」

 サクラが怒りを抱いて責め立て、メルトも遠慮のない罵声を浴びせる。

「あんたはルシェフェルの恥さらしだよ。ううん、違う。存在するべき命ですらない」

「言うだけ言葉の無駄使いです。いくら、この女に正論を並べても、良識が腐った心には届かない。犯罪者を治療できる唯一の薬は裁きだけです」

 ステラは赤い瞳で悪党に対し、最もな意見を述べる。
憤怒が宿る眼差しには人間性を疑い切った敬遠も映していた。

「お願い・・・・・・殺さないで・・・・・・」

「ああ?今、なんて言いやがった?」

「殺さないで・・・・・・く、下さい・・・・・・何でも言う事を聞きますから・・・・・・」

 ノーラの女々しい命乞いにアシュレイの顔はどうしようもない呆れで歪む。
次の刹那、感情は逆鱗へと変わった。

「ふざけんなよ?てめえ、裏切りといった汚いやり方で何人の連中を殺した?武器の扱いも分からねえガキや年寄りを何人殺した?散々、他人の人生踏みにじっておいてな・・・・・・自分が危なくなったら、助けてくれなんて都合のいい事ぬかしてんじゃねえよ!!」

 語尾の一喝により激しく怯えたノーラは無意識に頭を抱え、丸めた体を縮こませる。

「波止場で親父が言った因果応報の話をした事を覚えてるよな?俺からも、1ついい事を教えてやる。"殺す奴はな、殺される"事になってんだ。死ぬ前に世の中のルールを学んどけ」

「アシュレイ、終わったよ」

 クリスがノーラの背後を回って、ギャングの一団に加わる。
その手には土がびっしりとこびりついたシャベルを手にしていた。

「どれくらい、掘ったんだ?」

「う~ん。結構な深さはあると思う」

 簡単な質問と簡単な返答。

「そんだけありゃ、十分だな」

 アシュレイは単純な評価を送り、ノーラが着たコートの首の部分を掴み、彼女を引きずろうとするが

「待って下さい」

 ステラが少しばかり、不服そうな態度で呼び止める。

「んだよ?」

「忘れられては困ります。まだ、約束の報酬を貰ってません。標的をここまで追い込んだんだ。やるべき仕事は果たしたも同然です」

 その目には、いつもなら喜ぶ彼らしい面影はなかった。
アシュレイは執念深い要求に舌打ちし、面倒くさそうにノーラを粗末に横たわらせると、全身を漁る。

Re: エターナルウィルダネス ( No.46 )
日時: 2021/02/02 20:39
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

「うわ・・・・・・女の子の体、ベタベタ触ってる・・・・・・あり得ないんだけど・・・・・・」

 紳士的とはお世辞にも言えない下品な行いにメルトの表情が更に歪む。
サクラも思っている事は同じだったが、反感を抑え、口をつぐんでいた。
ノーラのポケットから、箱が没収される。
中身を確認すると、模様が掘られ、見事な細工が施された金色の皿が陽の光で眩い輝きを放つ。

「それ、金細工の食器じゃない?多分だけど、純金製に違いないよ」

 クリスが物珍しい代物について尋ねると

「ああ、これは2世紀前のリベリオ帝国の王立記念に作られた限定品だ。売れば相当な、値打ちがつくだろう。マクレディ家の家宝って奴か?」

「金食器を僕に下さい。そうすればこれ以上、鬱陶しい要求はしませんよ」

 しかし、アシュレイは非情にも、その交渉を受け入れなかった。

「断るぜ。これは、この女を殺した証拠としてヴェロニカのとこに持ってくんだ。欲深いお前には別のをやるよ」

 アシュレイは金食器を自身のバッグにしまい込むと、再びノーラの体を漁って所持品を奪う。
財布を含め、宝石つきの指輪とネックレスを1つ1つ、ステラに投げ渡した。

「それだけありゃ、しばらくは欲は満たされんだろ?んじゃ、最後の後片付けといくか」

「・・・・・・い、いや!何をするつもりなの!?お願い!やめてぇ!」

「うっせえよ。暴れんな」

 アシュレイは嫌がるノーラを無理矢理引きずり、今、立っていた場所から十歩くらい離れた位置に移動する。
そこには短い野草が生える草原を抉って作った土の窪みだった。
底は大人1人が座れば全身が入れるほど深い。

 アシュレイは投げ入れる形でノーラを穴の中へと放り込んだ。
虐殺を働いた少女は土の上に落とされ、"ぐふっ・・・・・・!"と痛そうな声を漏らした。
クリス達が、その様子を上から覗き込む。

「ねえ?ちょっと、残酷過ぎない?本当にやるの?」

 メルトは正気など意に介さないやり方についていけず、アシュレイ本人に一応、問いかける。

「こいつの犯した事に比べりゃ、慈悲が過ぎるくらいの刑罰だ」

「早く、やりましょう」

 ステラが事の始まりを促し、ギャング達はシャベルを使って掘った土を次々と穴に放り込む。

「ごふっ・・・・・・!い、いや・・・・・・お願い!やだ!やめ・・・・・・うぷっ!・・・・・・げほっ!いやあああ・・・・・・あ!!」

 自身に下された制裁の執行にノーラは無意味な命乞いを繰り返す。
しかし、どんなに泣き叫んでも凶行は止まらず、容赦なく土を被せられる。
やがて、重さで全身が動かなくなり、ついに顔も埋まって騒々しい悲鳴は聞こえなくなった。

「終わったな・・・・・・これでアドニスの連中も成仏できんだろ。帰るぞ」

 アシュレイが人が埋まった地面を叩き、平らにして言った。
ギャング達は生者が埋葬された粗末な墓地に背を向け、その場を離れる。

「どうか、悪く思わないで下さい。あなたの苦しみが一刻も早く、和らぎますように」

 墓にはサクラ1人が残り、せめてもの情けとして冥福を祈る。

「サクラ。早くランガシリスに戻ろう。街に1人残ったルイスさんを迎えに行かなくちゃ」

「は・・・・・・はい!待って下さい!」

 クリス達はそれっきり、二度と背後を振り返る事はなかった。

「墓石は必要だった?」

 クリスが返答が分かり切った質問をする。

「いらねえな。あんな仕打ちで済んだだけ、御の字なんだよ」

「色々言いたいけど。やっぱ、アシュレイってさ~。人間性を一言でまとめると悪魔だよね。これまで会って来た悪人の中で1番最悪かも・・・・・・」

「はっ、好きに言ってろ。悪ガキ」

 メルトの皮肉をアシュレイが気が抜けた苦笑で聞き流す。

「それにしても、こんな人の立ち入らない森の奥で、どうやってシャベルを手に入れたんですか?」

 サクラの疑問にステラが難しく考える必要のない事情を語る。

「向こうの木の切り株に偶然、置いてあったんです。恐らく、どこかの木こりが置き忘れたんでしょう。アシュレイさんは、あれがなかったらノーラを木に吊るして死体を鳥の餌にするつもりだったらしいです」

「ふ~ん」

 メルトの関心がない納得。
クリス達は木に巻き付けてあった手綱を解くと跨った馬を走らせ、"生き埋めの森"を後にした。

Re: エターナルウィルダネス ( No.47 )
日時: 2021/03/07 19:54
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

 朝の激戦が終わり、危険を代償とした勝負に打ち勝ったギャング達は半日ぶりに仲間がいる場所へと帰還した。
血と暴力で手を汚したばかりの、たった1日の出来事だったが、無事に生還した今は数週間の間を開けたような遠い感覚に包まれる。
意識を環境に向ければ、空に清々しい朝の面影はなく、夜が近い夕暮れに染まって辺りに広がる森林が不気味な錯覚を生む。
その奥には灯りが灯った野営地があり、馬を止めなければ、数分もしないうちに辿り着けるだろう。

「半日ぶりの野営地だ。帰ったら夕食を食べて、さっさとベッドの上で眠りたい」

 クリスが到着に喜び、個人的にやりたい単純ないくつかを並べる。

「全員、死なずに無事に帰って来れましたね・・・・・・」

 サクラが疲労し切った声で言って、背後を振り返った。
視線の先には生還を果たしたルイスがいて、嬉しそうなこちらに微笑みを返す。

「正義の戦いだったのかも知れませんが、あそこまで窮地に追い込まれる戦争はこれっきりにしたいですね」

 ステラが腹正しく、淡々と文句を吐き捨てる。
危うく死にかけた事とケチな報酬に満足していない件、両方の意味で機嫌を損ねていた。

「ホント、ムカついちゃうよね~。でも、神父さんが無事でよかった。街に戻ったら、ちゃんと生きててくれたし」

 メルトもニッコリとしながら、嬉しさと安堵を同時に抱く。

「皆さんの方こそ、無事に使命を果たし終えてきたようで胸を撫で下ろしましたよ。私も皆さんのためにと、悪しき者の亡骸から衣装と金品、それと弾薬を譲ってもらいました。多大な利益に繋がるはずです」

「神父さんよ。今回の戦いじゃあ、あんたが1番大活躍だったな。新参者の割には嘘みてぇに上出来だったぜ」

「私は皆様のお役に立てたでしょうか?」

「ああ、暴力沙汰が無縁で神に祈る事しか能がねえ印象だったが、ここまで使える奴だったとはな。こんだけ、お得な人材をそう易々と死なせるわけにはいかねえな」

 称賛よりも口の悪さが目立つアシュレイだが、彼は彼なりの敬服を表していた。
当然、純粋を泥で汚したような言葉を心地よく耳に入れる者はいなかった。
心が広く、あらゆる事柄を受け入れるルイスを除いて。

「でも、神父さん。すっかり、罪で汚れちゃったね」

 メルトはションボリとしたいい方でルイスの堕落を哀しむ。

「確かに、組織に貢献してくれる事は頼もしいですが、僕も胸が詰まる思いです。平穏を尊重するはずの修道士が多くの命を殺め、死者を冒涜する・・・・・・本音を言えば、ルイスさんには、僕らと同じ道を歩んでほしくなかった」

 橙色の目をしたステラも暗い面持ちを浮かべ、残念でならない気持ちは同じだった。

「過ぎた過去をどうこう考えても意味なんてない。死に急ぐ危険な行為だったけど、ヴェロニカや哀れなアドニスの人達の仇を討って、こうして無事に帰って来られた。今日の僕達はかなり運が向いていた。でも、どうしても問題を挙げたいなら、1つだけ。僕達が無断でファミリーに害を与えた事、リチャード達にどう誤魔化すか・・・・・・僕は今、その事で凄く悩んでるよ」

 生きて帰っても、気を緩めないクリスにアシュレイは緊張感の欠片もない軽い態度でゲラゲラと笑う。

「ひゃはは!だから、おめぇはさっきから、どんよりしてたのかよ!?心配いらねえよ。服に着いた泥も返り血だってよ、全部拭ったんだ。傷を負った理由だってな、狩りで怪我したとかで適当に嘘を並べときゃ、問題ねえよ」

「その偽証が、本当にリチャードさんに通用すればいいんですが・・・・・・」

 サクラは帰る場所が近づくにつれ、膨らんでいく嫌な予感を捨て切れなかった。


 野営地ではいつもと変わらない仲間達の姿があった。
薄暗い夕暮れ過ぎを照らす焚き火周辺に身を寄せてユーリとリリアが夕食の準備に取り掛かり、ローズは相変わらず、愛用の散弾銃の手入れに明け暮れる。
リチャードも斧で割った薪の束を担いで運ぶ。

「あっ!クリス達が帰って来た!」

 林の傍で馬の餌やりの最中だったミシェルが、いち早くクリス達の存在に気づく。
歓喜に溢れた無邪気な表情で駆けつけた。少女の歓声がギャング達の注目を集める。

「お帰りなさい!」

「ただいま。ミシェル」

 微笑んで帰宅の挨拶を返したクリスは馬上から身を降ろし、真っ先に出迎えたミシェルの髪を撫でた。
野営地に残っていたギャング達は家事を中断し、密にファミリーの襲撃を働いたクリス達に歩みを寄せる。
"心配していた"と訴える者もいれば、呆れ果てた顔を向ける者もいた。
次から次へと、押し寄せた集団から質問攻めに遭う。

「あんた達、どうして急にいなくなったりしたの?正直に説明してもらうわよ?」

 呆れた立場のリリアは鋭い口調で怒り

「随分と遅いお帰りだったわね?1日中、野生の牛でも追いまわしてたの?」

 ローズも腕を組み、感心しないと言わんばかりに軽く苛立った表情を繕う。

「クリスさん達が無事に帰って来て、心から安心しましたよ。何かあったんじゃないかと思って、1日中、街や集落を探して回ったんですよ?」

「あなたに迷惑をおかけしてしまった事は頭を下げて謝罪します。ですが、そこまで深刻に構える必要はありませんよ。ただ、狩りに行ってただけですから」

 ユーリの苦労に関してはステラは謝罪を述べ、平然と実際を欺く。

「本当に?」

 疑いが勝るローズが訝しげになって、しつこく答えを追求する。

「あ、えっと・・・・・・そうです!狩りです!ここから遠くに離れた森でエルクを狩ろうとしていたんです!」

 サクラも焦りを募らせながらも、口裏を合わせる。

「お前ら!1日も姿をくらまして、どこで道草を食ってたんだ!?」

 そこへリチャードがズカズカと突進して来るかのような勢いでリリア側の先頭に立つ。
言い方そのものは普段と変わらないが、本性を映す目は圧倒的で抑えがたい怒りを抱いているようだ。
大柄な男は事実を隠すメンバー1人1人に視線を送り、真っ先にクリスを口頭の対象に選んだ。

Re: エターナルウィルダネス ( No.48 )
日時: 2021/04/04 22:24
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

「お前が断りもなく、野営地を離れるとは珍しい事もあるもんだ。陽が沈むまでの間、どこで油を売っていたんだ?」

「ステラとサクラが皆に説明した通り、僕達は狩りに出向いていたんだ。残念ながら、収穫はなかったけどね」

 クリスは動揺を抑え、嘘を知らない潔白な人格を演じる。

「狩猟に慣れたお前らが兎1匹、捕まえられないなんて妙だな?神父も一緒のようだが、こいつも同行させたのか?」

「そうだよ。ルイスさんがどうしても野生の世界で生き延びる術を学びたいって言うから」

「何故、俺達に黙って出かけたんだ?」

 リチャードはより一層、疑い深くなる。

「行きたかった場所はここから、かなり遠い場所にあって、帰りが遅くなるだろうから、早朝に発つ必要があったんだ。敢えて伝えなかったのは、寝ている皆を起こすのが可哀想だと思ったから。ほら、リチャードって無理に起こされるの、好きじゃないでしょ?」

「・・・・・・そうか。だが、こんな迷子の子供にするような説教は二度とさせるな。こっちはお前らが蒸発した事で事件に巻き込まれたんじゃないかと、生きた心地がしなかったんだ。街や集落を駆け巡って、お前らの探索に明け暮れていたユーリにも謝っておけ」

 クリスは言われた通り、ユーリに丁寧な謝罪を述べる。
上手く偽りを信じ込ませた事で緊張が和らいだギャング達は野営地にいた仲間達を横切り、急速にありつこうとした。

「きゃあ!?」

 突如、力強いリチャードの手がメルトの肩を掴む。
そのまま、抱き寄せるように彼女の胴体を腕で挟んだ。
強張った老けた顔を間近に近づけ、驚愕で凍った表情を凝視する。

「待て。何故、お前の体から血生臭い臭いがするんだ?動物の血じゃない。人の血だな」

 リチャードの鋭い嗅覚にクリス達は青ざめ、背筋が凍りつく。
その発言に衝撃を受けたリリア達も現実感を失い、ざわつき始める。

「ち、違っ・・・・・・!これは・・・・・・」

 混乱したメルトは罰を受ける恐怖に涙ぐむ。
リチャードはメルトを突き飛ばし、憤怒の矛先をクリスに移し変える。

「どういう事か、説明してもらおうか?クリス、お前らがしでかした本当の事を洗いざらい吐け!」

 クリスの胸倉を掴もうとした手を、アシュレイが前に立ちはだかって遮る。
彼はリチャードを反抗的になって睨み返し

「キレる相手が違うぞ。おっさん。こいつは俺の頼みに従っただけだ。こいつらや神父さんだってそうだ。叱るんだったら主犯の俺だけにしろ」

 仲間を庇おうとするも空しく、容赦ない拳がアシュレイの顔面に打ちつけられた。
容赦ない打撃でまともな姿勢が崩れ、全身が仰向けに横転する。

「アシュレイ!」

 ヴェロニカが慌てて、彼の元へ駆け寄り、怪我の処置を施す。

「お前には聞いていない。俺はこいつと話がしたいんだ」

 リチャードは血が垂れた鼻を押さえ、こちらを見上げるアシュレイを視野から外すと、今度こそクリスへの尋問を改める。

「やめて!クリスに乱暴しないで!」

 助けようとしたミシェルをローズが幼い体を抱いて引き止める。
傍に行けず、無力に手を伸ばした末、声を上げて泣き出してしまう。

「最初だけ、優しく聞いておくぞ?本当は何をやらかしたんだ?メルトから漂う血は誰の物だ?」

 クリスは威圧に耐えられず、顔を逸らすと、潔く白状した。

「・・・・・・ルフェーブル・ファミリーの幹部を襲ったんだ」

 その刹那、加減のない張り手が頬にかまされる。最初の告知を無視した無慈悲な暴力だ。
痛々しい情景を見るに耐えかねたサクラは目を覆い、ステラも苦い顔のまま、立ち尽くしていた。

「どこで?どの幹部を襲ったんだ?」

「ランガシリス・・・・・・ノーラ・マクレディを襲った・・・・・・あいつは、アドニスを滅ぼした張本人だったから・・・・・・」

 二度目の張り手が叩き込まれる。拷問に等しい尋問は続く。

「仇討ちと捉えた方がいいのか?・・・・・・そいつはちゃんと、殺せたのか?」

「殺した。証拠もある」

 三度目の張り手。
そこで、リチャードの怒りは本格的なものと化した。

「後先を考えられないガキが、英雄気取りか!?復讐なんて、誰も望んじゃいない!俺達は最低最悪の無法者で、ただでさえ危ない橋を渡っているんだ!義理人情で命を懸けていたらな!命がいくつあっても足りたもんじゃない!お前は自分の命だけじゃなく、仲間の命も危険に晒したんだ!下手をしたら、ここにいる全員が報復に遭って、蹂躙される末路に繋がっていたかも知れないんだぞ!」

 クリスは赤くなった肌の痛みを堪え、沈黙を保つ。
許しを請う事も反抗の意を示す事もなく、唇を閉ざしていた。

「ハイペシアは広い国だ。適当な探索で居場所を突き止められたわけがない。どうやって、その女を探し出せた?お前らを手引きしたのは誰だ!?」

 クリスは目線だけを横にやった。
落ち込んだ顔をしたデズモンドが野営地の隅で俯いている。
自身の与えた甘さがこんな事態を招いてしまった事で良心の呵責に苛まれているのだろう。

「言え!情報を提供したのは誰だ!?」

「・・・・・・酒場だよ。そこで情報を得た」

 怒りが込められた一層強い張り手が激しい痛感を与える。

「誤魔化すと、ろくな事にならないぞ!」

 クリスは冗談の欠片もない真剣な顔をリチャードに向け、言葉で刃向かう。

「・・・・・・嘘じゃない。ノーラの情報は酒場で耳に入れたものだ。他に共犯者はいない。誓ってもいい」

 リチャードは更に顔を強張らせ、殴る姿勢を取った。
しかし、その手の平が頬を打つ事はなく、腰元に垂れ下がる。
胸倉を解放し、クリスを突き放すとギャングの掟に背いたメンバーを交互に見回し

「次に愚かな真似をしてみろ!敵にやられる前に、俺がお前らを殺してやる!カトリーヌ抹殺計画はしばらく延期だ!クリス!俺の許可が出るまで、銃に触れる事は許さん!サクラ!メルト!ステラ!お前らも当分は大人しくしていろ!神父は俺と来い!お前にもたっぷりときつく説教してやる!少しはくだらない正義感で興奮した頭を冷やせ!」

 リチャードが去り、リリア達も失意に満ちた文句を吐き捨てながら、持ち場へと散り散りに引き返していく。
数日は痛みが治りそうにない頬を押さえ、ぐったりとしているクリスの元にデズモンドが真っ先に駆けつけた。

「クリス!」

「デズモンド・・・・・・」

「すまない。この悲劇の元凶は僕だ。君達の頼みを断っていれば、こんな苦しい事態を招かないで済んだはずなのに・・・・・・それなのに、君は僕を庇って・・・・・・!」

クリスは彼に責任を押し付け、責め立てるどころか、無理して笑みを繕い

「デズモンドに非なんて、これっぽっちもないよ。君の協力があったから、ヴェロニカやアドニスの人達の仇を討てたんだから・・・・・・」

 体の力を緩めたクリスは地面に横たわると、達成感のある吐息を暗い空に向けて吐き出した。

Re: エターナルウィルダネス ( No.49 )
日時: 2021/05/11 16:28
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)
参照: https://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=2274.jpg

 そこは人気のない深い森の中だった。
新鮮な空気が心地よく、ヒンヤリとした涼しさが心を落ち着かせる。
草のない1本道がどこまでも続いており、緑が生い茂る森林に挟まれていた。
豊かな自然に囲まれた静かな道で1匹の馬がゆったりとした足音を一定のリズムで立てる。 
その背には2人の人を乗せていた。

「ねえ?クリス」

 小柄な少女が前に乗る人の背中を見上げながら声をかけた。

「何だい?ミシェル」

 クリスはすぐさま、聞き返した。

「クリスは今、どこに行こうとしているの?」

「ここをもうちょっと進んだ先に大きな湖があるんだ。キャンプをする場所に選ぶにはとてもいい所でね。大きな魚もいっぱいいるんだ」

「じゃあ、今から魚を釣りに行くんだね」

 納得したミシェルにクリスは肯定の返事を返さなかった。
会話に短い隙間を開けて、唐突に軽く笑うと嫌な経験がまるでなかったような前向きな口調で

「ほら。昨日、僕は悪い事をしちゃったから、リチャードに凄く怒られたでしょ?彼の許可が下りるまで銃を持つのをだめだと言われちゃったんだ。しばらくは戦うのを忘れて気晴らしでもしてろって。せっかく、貴重な休日が取れたんだから、今日はミシェルとの時間を大切にしようと思ってね」

 クリスは横顔を振り返らせ、相好を崩した。
素直な嬉しさが表に出た幼い少女の顔を視野が捉える。

「ミシェルもありがとね」

「え?」

 正面を向き直って、ボソッと囁いたクリスのお礼にミシェルは、その意味を理解できなかった。

「リチャードが僕に掴みかかった時、君は真っ先に僕を助けようとしてくれた。あの時は死ぬほど恐かったけど、それ以上に嬉しかった。あそこまで暴力的な大男に逆らおうとするなんて、僕はその勇気を見習うべきだ」

「大切な人がいじめらていたら、助けるのが当たり前だって、いつもお兄ちゃんに言い聞かせられてたの。お兄ちゃんは悪い人達と一緒に働いていたけど、弱い人をいじめたりなんかしなかった。村を襲った時、悪くない人達を守ったせいで・・・・・・だから、お兄ちゃんは・・・・・・」

「そうか。だから、君のお兄さんは・・・・・・」

 ミシェルの唯一の肉親の死の全貌を知り、台詞を最後まで繋げられなかった。
穏やかだった表情が曇り、生真面目へと変わる。

「お兄ちゃん。私だけ生き残って、恨んでないかな・・・・・・?」

「良識のあるお兄さんが妹に恨みを抱くなんて、有り得ない。むしろ、君がこうして生き永らえる事をこの上なく望んでいると思う。彼はいつだって君の傍にいて、この先もずっと見守ってくれているはずだよ」

「ねえ?クリス」

 ミシェルは哀しみで細くなった声で同じ問いかけ方を繰り返す。

「私もお兄ちゃんみたいに強くなりたい!弱い人を守れるような勇敢な人でありたいの!」

「君は今でも十分過ぎるほど、勇敢だよ」

 実の妹に接するかのように優しく褒めるクリス。
しかし、ミシェルはそれで満足しなかった。

「ううん、今のままじゃだめ。私も敵との戦い方を学びたい。ただ、クリスや皆についていくだけの女の子でいたくないの」

 クリスは、今度は非情に似た冷たい横顔を振り返らせた。
威厳のある尖った口調で少女の真意を確かめる。

「1つ聞くけど、その覚悟は本物かい?」

「本当だよ。私だって、皆と一緒に戦いたい!」

 ミシェルは本気だと、強く訴えるが

「人を殺すというのは鹿や兎を殺すのとは訳が違う。誰かの命を奪った時点で、罪の業を永遠に背負い、地獄に行く日まで過ちという罰に苦しまなきゃいけなくなるんだ。ルイスさんだって、きっと、今の自分を許せずにいる。君はそれでも、屍ばかりが転がる道を辿る僕らについて行こうと思えるかい?」

「クリスが妹の仇を討ちたいように、私だって、お兄ちゃんを殺したカトリーヌが憎い。あいつを殺せるなら、私も地獄に落ちたって構わない。それに私は既に何人もの人を殺してるから・・・・・・」

「え?君が?いつ、どこで?」

「覚えてない?アドニスの爆発・・・・・・あれ、私がきっかけだったんだよ」

「なるほどね・・・・・・」


 時間の感覚を忘れるほど、会話に明け暮れるうちに湖の付近に到着した。
延々と並ぶ木々の間から大きくて透き通った水の溜まり場が窺える。
2人は歩道を外れ、踏み込んだ林で偶然に探し当てた平らな草原で火を焚く事にした。
馬を降りると、手綱を着に巻き付け、クリスは持参してきた折り畳み式の釣竿を手にし、ミシェルがキャンプ用品を抱き抱える。
これから、野外での生活の準備に取り掛かるのだ。

「火は僕がつけるよ。ミシェルは枝や枯葉を集めて来てほしい。その間にテントを立てておく」

 ミシェルは"分かった!"と元気のいい返事をして、森林の奥へと走り去っていく。
彼女が頼まれた物を腕いっぱいに抱えて戻ってきた頃には、キャンプの原型が整っていた。火はパチパチと音を立て、既に灯されている。

「わあ、凄い!もう、ここまでやったの!?」

「お帰り。拾って来た物は、その辺に置いといて」

 クリスは簡単な指示を出して立ち上がると、一旦は焚火を離れ、馬のいる方向へ向かう。

「さて、始めるにはいい頃合いだ」

「え?何を?釣りをしに来たんじゃないの?早く湖に行こうよ?」

 ミシェルは考えが読めず、ポカンとした顔で、その行く末を視線だけで追う。
クリスは馬に吊るしてあったバッグから、ライフルを取り出し、引き返して来た。

「君が戦う術を教えてと言ったんだよ?僕でよければ、教官になってあげる。第一段階としては銃の撃ち方を学んでおかなきゃね」

 "もう忘れちゃったの?"と軽く呆れて可愛げのある少女に微笑むクリス。
ミシェルは震えた手を口の手前に当て、大いに焦った。

「そんな!だめだよクリス!銃は使っちゃだめって、リチャードおじさんがっ・・・・・・!」

「リチャードは、"僕"に銃の使用を禁じたんだ。君が使うには何も問題ない。扱い方は結構、難しいよ?」

「で、でも・・・・・・!クリスはそれでいいの!?この事がバレたら、次はもっと酷い仕打ちを・・・・・・!」

 素直に納得がいかないミシェルはクリスの将来の立場を心配するが

「いい?このハイペシアはね、無法者や犯罪者が蔓延る最悪な場所なんだ。そんな国で丸腰で過ごそうだなんて、明日の太陽を拝める保証はないな。僕は君の命を預かっている。仲間を守る義務があるからこそ、武器は手放せないんだよ」

「・・・・・・」

 シュンと落ち込んだ面持ちを俯かせるミシェルを横切り、すれ違いざまに

「ボーっとしてると置いて行くよ?」

 と冷たい言い方に聞こえてしまうセリフだけを告げ、クリスは森の奥へ遠のいていく。

「あ!待ってよ!」

 ミシェルは躓き、体勢を崩しながらも、慌ててその後を追った。


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。