二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- 【ポケモン対戦小説】BOHパ対戦記録譚
- 日時: 2016/12/29 15:48
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
- 参照: https://www.youtube.com/watch?v=cSKjiY3FnrQ
はじめましての方は初めまして、そうでない方はこんにちは、モノクロです。
本作品は前作『バトル・オブ・ホウエン対戦記』に続く続編作品です。前作ネタなどもあると思いますが、今作だけでも内容は分かるように努めています。
前作の続編ということで、基本形式は前作と変わりませんが、今作はポケモン対戦をするにあたって、BOH——バトル・オブ・ホウエン縛りで対戦します。
バトル・オブ・ホウエン縛りというのは、前作品で題材にしたインターネット大会『Battle of Hoenn〜バトル・オブ・ホウエン』に出場可能なポケモンのみを使用する、という意味です。バトル・オブ・ホウエンに出場できるのは、ホウエン図鑑に登録されているポケモンのみ、作中に出て来るのもそれらのポケモンだけです。
では、次にこの作品の根本について説明しますと、言うなれば『ポケモン対戦小説』です。
対戦小説とはなにかと言いますと、『ゲームにおけるポケモン対戦そのもの』を題材とした作品で、動画投稿サイトに投稿される『ポケモン対戦実況動画』を小説風に書き起こしたものです。
なので本作には、種族値、努力値、個体値といった三値、ABCDSVといった略式記号、ガブ、バナ、クレセドラン、ゴキブロス、ドロポン、月光乱舞といった略称愛称蔑称などなどの、ポケモン廃人が多用する専門用語が多発します。できるだけ初心者の方にも分かるような作品を心掛けたいのですが、基本はある程度その手のことを知っている前提なので、ご了承ください。
作品の向上には全力を尽くすので、分かりにくい、もっとこうしてほしい、などの要望があればいくらでも申し付けてください。
そして、もしもこの作品で、対人戦やランダムマッチに興味を持った方がいたら幸いです。雑談板にモノクロの雑談スレ『DM第4相談室』というスレッドがあるので、よろしければお立ち寄りください。フレコ交換やフレ戦希望なども受け付けています。
勿論、普通に雑談したいという方も歓迎しますよ。
ちなみにこの映像板では同じものを題材としている作品に、モノクロも合作として参加している『俺と携帯獣のシンカ論』。舞台は違えど世界観を共有している、タクさん著の作品『ポケモンバトルM・EVO』があります。よろしければそちらもご覧ください。
というわけで、自称前置きが長いカキコユーザーのモノクロが、最後に注意書きを残して本編へと移ります。
※注意
・本作における対戦はほぼ“ノンフィクション”です。バトルビデオを見返して文字に起こしています(しんどい)。
・対戦相手の名前は改変して使用しています(物語の都合とプライバシーの問題に配慮)。
・対戦相手への誹謗中傷はおやめください(♂のメガクチートにじゃれつかせます)。
・ポケモンが喋ります(ポケモンしか出ないから仕方ない)。
・擬人化要素(イラストを描いて頂きました。許可を貰えたらそのうち紹介したいです)。
・茶番(前作より増量)。
・メタ発言(特に後語り)。
・にわか発言&下手くそプレイング(モノクロへの批判はOK!)。
・分かりにくい解説と文面(簡潔になるよう努めております)。
・BGMの種類増加(選出画面のURLのリンクからBGMに飛びます。種類はポケモンに限らず)。
・BOH縛り(詳細は冒頭の通り)。
・後語り担当は作者代理(名前はまだない)。
以上のことを留意して、どうぞ、モノクロのポケモンたちによるポケモン対戦を、お楽しみください——
オリキャラ募集的なものをしています。詳細は三戦目以降の後語りにて。投稿条件はこの作品が理解できること、ということで。
目次
零戦目「プロローグ」「を装ったあらすじです」
>>1
一戦目「確率世界」「と呼びたくなるほど理不尽です」
>>4 >>5 >>6 >>7 >>8 >>9 >>10
二戦目「ランダム対戦」「はレートもフリーも魔境です」
>>14 >>15 >>16 >>17 >>18 >>19
三戦目「永遠の宿敵」「は旧友にして戦友です」
>>20 >>21 >>22 >>23 >>24 >>25 >>26 >>27 >>28 >>29
四戦目「ポケモンなしで対戦とは笑止千万」「ポケモンなら拾いました」
>>30 >>31 >>32 >>33 >>34 >>35 >>36 >>37 >>38
五戦目「後輩」「私のことですか?」「それは違うよ」
>>39 >>40 >>43 >>44 >>45 >>46 >>47 >>48 >>49
六戦目「先輩」「その中は百合の園でした」
>>52 >>53 >>55 >>58 >>59 >>60 >>61 >>62 >>63 >>76 >>77
七戦目「トンベリ君」「の憂鬱です」
>>91 >>94 >>95 >>96 >>97 >>101 >>104 >>105 >>106 >>107 >>108 >>109 >>110 >>111
バトル・オブ・ホウエンパーティー名簿一覧
>>78
タクさんより『BOHパ対戦記録譚』のタイトルロゴ(または表紙絵)のイラストを頂きました。
>>54
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- Re: 【ポケモン対戦小説】BOHパ対戦記録譚 ( No.51 )
- 日時: 2015/03/31 20:28
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: RHpGihsX)
マルガリータさん
タイピングのしやすさからマルガリータさんと呼ばせて頂きます。
既にメンバーが六体もいるのに、三連続で新キャラ登場とか物凄い展開になっていますが、しばらくはこんな感じになると思います。
まあアブソルの擬人化容姿は分かりやすいというか、テールの部分だけが黒で他が白髪なんてもはや確信犯ですよね。
モノクロもアブソルと言えばクールなイメージがあったのですが、とある悪統一使いの実況者の動画を視聴したのもあり、気付けばなんかこんなキャラになっていました。自分でいうのもなんですが、意外とこういうのもアリですね。
メガアブソルの最大火力がメガクチートからすればサブウェポンレベルですからね。覚える技とかも物理に限ればそこそこ似ていますし、ミスティが毛嫌いするのも無理はないでしょうね。まあすべては増田ァ! のせいなわけですが。
ちーちゃんはいい子なので歩み寄るのは簡単ですが、ミスティがあんな性格なので、和解は相当困難かと。この二人についても、今後は掘り下げていきたいですね。
まあその辺は適当に列挙しただけなのであまりお気になさらず。他にもキャラ設定済みなのはたくさんいます。
チルタリスは自分で使うと微妙なんですが、相手に使われるとかなり厄介です。ハイボでドカンと一発かますのか、舞って全抜きしようとするのか判断つかないですし。
ライボルトはモノクロのXY時代の元祖お気に入りでしたね。クチートに出会う前はよく使ってました。その頃はオバヒを火炎放射にしたり、めざ氷個体じゃないからバークアウトを入れてたりしましたが、やはりオバヒじゃないと火力足りないですし、地面タイプがしょっちゅう来るのでめざ氷も必須ですね。
メガジュペッタは上手く使えると強いんですけどね。火力は馬鹿にならないので、モノクロは補助技で相手の攻撃を牽制しながら殴ってます。DPt時代はモノクロもアイテム狩ってましたね。
おぉ、トドゼルガですか。モノクロも小学生の頃、リメイク前のRSで愛用していました。レベル100まで上げたりして、かなり気に入っていましたね。
トドゼルガはまだなにも設定がないので採用できます。NNとか、型とか性格とか、なにか設定を付ける場合はどうぞお申し付けください。
全部モノクロに丸投げしてくれても構いませんが、どうなるかは保証しかねます。まあ、NNだけとか性格と容姿だけとか、部分的に設定をつけて、残りを投げてくれてもいいんですけど。
- 茶番1 ( No.52 )
- 日時: 2015/04/03 11:31
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: RHpGihsX)
「ねぇ、そこの君。三番書類持って来てくれる?」
「調査隊からの報告はまだか? 次の調査班が出られないんだが……」
「掃討班、今から何人出られる? ……え? 無理? そんなこと言われても——」
セントラル・フィールド。
俗称、中央街とも呼ばれるこの区域は、運営の管理とは別に政府が存在する。
その実態は政府というよりも、中央街に住まう者たちによる自治団体といったものだが、要するに役所だ。
その一室では何人もの役人たちがバタバタと駆けまわり、連絡を取り、書類の山に埋もれ、事務的な会話が続く。
そこから少し離れた場所で、一人ぽつんと長机に座った男がいた。ぽつんと、と言っても、彼の場合はそういう仕事だから一人でいるわけであり、孤独だからと言うわけではない。
「——不備はないようですね。了解しました。では、上に通しておきます」
「よろしくお願いします」
彼は先ほどまで手に取っていた書類を机に置いて、事務的な口調でそう言うと、目の前の書類を渡してきた役人は帰っていった。
そしてその姿には目もくれず、先ほど渡された“表面上は”不備のない書類を、机の上にいくつか積んである書類の山に几帳面に置く。
「…………」
「あらあら、相変わらずの仏頂面ですね。一息もつかないなんて」
先ほどの役人と入れ替わりに、また新しい人物がやって来た。
女性だ。そして、彼にとってはただの仕事仲間というだけでしかない他の役人以上に、関係の深い人物だった。
「今日は比較的仕事が少ないですから、このくらいならまだまだ余裕です。それより、なにかご用ですか?」
「調査報告です。確認、よろしくお願いします」
そう言って彼女は、男に何枚か綴られた書類を手渡す。
男はその書類を渡されると、すぐに目を通し始めた。
「ふむ……また単独調査ですか。場所が場所ではありますが、女性一人では危ないでしょうに」
「心配してくれてるんですか? 優しいですね」
「何分人手が足りない職場なので、他部署の方でもいなくなられると困るんですよ」
「実利的な回答ですね」
「まあ、あなたとは見知らぬ仲でもありませんし、心配していないわけではありません。特にあなたの場合だと」
「そうですね、誰かボディーガードでも雇った方がいいかしら? あ、グレンちゃんとかどうでしょうか?」
「他ならぬあなたからの依頼であれば、彼女ならば引き受けるでしょうが……いい顔はされないと思いますよ。それに彼女は協力者であって、正式な役人ではありませんし」
「そっかぁ……いい手だと思ったんですけど」
と、女が言ったところで、男は書類に全て目を通し終わり、
「しっかりまとめられていますね。不備はないので、こちらで預かります」
「よろしくお願いします。経理は大変だろうけど、無理しないでくださいね」
「はい。お気遣いありがとうございます」
女としてはわりと真面目に言ったつもりだが、男は社交辞令的に言葉を返す。とはいえ彼女も、男がそういう性格であることは承知の上なので、それ以上はなにも言わず——
「あ、そうそう」
——ということもなく、部屋から出る途中にくるりと振り返る。
「なんでしょう。まだ、なにか?」
「ただの世間話です」
「仕事中なのですが」
「今日はお仕事が少ないんでしょう? 大丈夫、ちょっとだけ。すぐ終わりますから」
「はぁ……では、手短にお願いします」
本来ならば仕事中に無駄話をするのは気が咎められるが、それを突っ撥ねて絡まれるのも困るし、今は他に仕事がないのも確かだ。
少しだけであれば、聞くだけ聞いておこう。きっと今日の調査でなにか個人的に面白いものでも見つけたのだろうと思って、そんな軽い気持ちで、彼は尋ねたのだった。
「雷切君がね、また皆と色々やってるみたい」
だが、彼女の口からは、意外な名前が出て来る。
軽く聞いただけに、少しだけ驚いたが、
「……そうですか」
と、すぐに素っ気なく返す。
「素っ気ないですね。興味ないですか?」
「特には。彼のことは既に知っています。バトル・オブ・ホウエンの情報は、政府にも流れて来るので」
「そうなんですか。下っ端役人の私は最近知ったのだけれど」
「個人情報を含む関係上、ある程度の上役と、一部の特殊な部署にしか公開されない情報なので」
「それは暗に自分がエリートだって言ってます? 嫌味ですねぇ」
「そんなつもりはありませんが……」
「しかも無意識なんて、ますます性質が悪いです。妬んじゃいますよ?」
「はぁ……では、経理事務と書類審査、その他の諸業務、やりたいですか?」
「いえ、まったく。私は古びたものと睨めっこするのが好きですから」
「私もそれと同じですよ。私にはこの仕事が性に合っている。だから結果として今の地位にいる。それだけです」
「それもそれで聞く人が聞くと嫌味っぽいですけどね……まあいいです」
他愛ない雑談もほどほどにして。
すぐ終わると言った手前、あまり長々と話はできない。本当はもっと言いたいことがあったようだが、彼女は要点だけを短く伝える。
「私も今度、雷切君に会いに行こうと思うんだけど……どうかしら、一緒に来ませんか?」
「結構です。しばらく仕事続きなので、そのような暇はありません」
「そっか、残念です。やっぱり人手不足ね……」
ばっさりと断られたが、あまり残念そうには見えない女。
しかし人手不足、ということについては、ここでは共通の悩みの種だった。
「そうですね。運営は頑なに情報を開示しようとしませんが、ボックスサーバーで起こった“なにか”が原因でしょう。トレーナーに強制送還された者が多いので、今の政府は深刻な人手不足です」
「私が単独調査に出ているのも、他の調査隊がトレーナーの元に戻されて、ほとんど活動がないからですし……どこもそうなのかしら。参っちゃいますね」
「まったくです。優秀だった人員も多くがいなくなってしまいました。新しい人員を雇いたいですが、ここに進んで就職したがる者は少ないです」
「ポケモンが多いだけに、こういう事務的なことは苦手な人が多いですからね」
「そこはある程度資質が求められるので、できる人がやればいいのですが、先ほども言った例の“なにか”の影響なのか、ポケモンの凶暴化や傷害、破損被害など、多くの依頼が寄せられています。こういった細々とした依頼の処理が滞っていることが問題ですね」
その手の依頼の主は、ほとんどがこの街の住人だ。
住人の依頼を遂行すれば、それだけ政府の評価も上がるだろうが、人員不足によりそれがなかなか難しくなっている。だからこそ政府の評価が下がり、募集をかけても人は来ない。そして人員不足がより深刻になり、依頼の達成もさらに困難となるなど、悪循環に陥ってしまっているのだ。
今すぐに打開できることではないだろうが、少しでも今の状況を改善したい。
「……彼がいれば、また変わってくるのかもしれませんがね……」
そう思ったら、ふと口が言葉を発していた。
「それって、雷切君のこと?」
「おや、口に出ていましたか。失礼、忘れてください」
彼はそう言うと、先ほど受け取った書類を山の上に重ねながら言う。
「さて、話はこのくらいにしておきましょう。あまり話に夢中になりすぎて突然、監査官が乗り込んで来ては堪りませんからね」
「……そうですね。では、私はこの辺で失礼します。またね」
女は手を軽く振って別れを告げ、バタン、と扉を閉め退室する。
そして一人部屋に残った男は、なにも音のない無音の空間でまた、ふっ、と言葉を漏らす。
「……雷切、か……」
- 茶番2 ( No.53 )
- 日時: 2015/04/11 09:54
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: RHpGihsX)
「うーん……」
「……どうしたの……さっきから……」
今日も今日とて、日課のように訪れている雷切の家に向かう道中だった。
ちーちゃんは唸るような声を上げる。先ほどからずっとこんな調子だったので、気になってトンベリが尋ねると、
「この前、ミスティさん? っていう人が来たよね」
「……あぁ……雷切の、後輩、とかいう……」
トンベリたちは彼女と出会ってすぐに家から出たのでほとんど話もしていないが、聞いた話によると、雷切に相当惚れ込んでいるらしい。
しかしそれは所詮、聞いた話だ。直で感じた第一印象は、最悪と言ってもいい。少なくともトンベリにとってはそうだった。なぜなら、
「……初対面で、いきなり……罵声を浴びせる……常識、知らず……」
トンベリは直接なにかを言われたわけではないが、ちーちゃんはなにも知らぬままに敵をぶつけられたのだ。
「わたし……なにか、失礼なことしちゃってたのかなぁ……」
「…………」
どうやら、彼女はそのことをいまだ引きずっているようだ。
あの後、雷切は気にするなとフォローはしていたが、しかしちーちゃんの性格上、なかなかそうもいかないようだ。いや、あんなに露骨に敵意を剥きだされては、誰だって気にしてしまう。
とはいえ、ミスティが抱えるちーちゃん——クチートに対する憎悪は簡単に払拭できるものではない。
「……ちーちゃんは、悪く、ない……気にしなくて、いい……」
「トンベリくん……」
ちーちゃんには伏せていたことだが、トンベリは雷切からミスティのことは聞いていた。だからちーちゃんに非がないことは分かっているし、この問題が簡単にどうにかなるものでないことも承知している。
だから、そんなことしか言えなかった。
「それより……早く、雷切の、家に……」
「あ、うん。待って、トンベリくんっ」
どうにもならないなら、今できることはなにもない。
なのでトンベリはそのことをひとまず放置するとして、話題をそらすように歩くスピードを速める。
ちーちゃんも駆け足でその後を追うが、その途中
「……あれ?」
「……どうしたの……?」
「あの人……」
そうちーちゃんが指差す先には、一人の女性がいた。
セミロングと言うにはやや長めの桜色の髪に、緑を基調としたワンピース状のロングスカート。
背は高めで顔立ちも整っており、年齢は雷切たちと同じくらいだろうか。
そんな女性を見て、ちーちゃんは一言。
「すっごい美人さん」
「…………」
ではなく、
「なんだか、困ってるみたいだよ?」
「……道に迷った……とか……?」
確かに、その女性はスマートデバイスと手に持った手帳サイズの地図を交互に見ては、周囲をきょろきょろと見回している。
明らかに迷い人だ。
トンベリとしては放っておいても良いのだが、ちーちゃんが目に留めてしまったからには、そういうわけにもいかなかった。
二人はてくてくとその女性の元へと歩いて行き、
「あ、あのっ」
「?」
「どうかしたんですか? わたしたちでよければ、道案内しますよっ」
と、ちーちゃんは言った。
あまりに唐突だったからか、女性は驚いたように目をぱちくりさせていたが、すぐにこやかな笑みを浮かべ、
「あらあら、可愛らしい案内人さんですね」
膝に手を置いて身体を少し倒し、ちーちゃんたちと同じ目線になって言う。
この時点で、子供だから舐められてるな、とトンベリは思ったが、口には出さないでおく。
実際、女性は困っていたのだから、ちーちゃんたちは助け舟だったのだ。
「じゃあ、せっかくだから訊いちゃおうかしら。昔のお友達に会いに行こうと思ってるんですけど、その人、少し変わったところに住んでるらしくて、道に迷ってしまったんです」
「誰の家ですか?」
「……住所、とか……教えて、貰えると……」
「えっと、ちょっと待ってくださいね……名前で分かるかしら? あまり、あなたたちのような子らには関わらない人だと思うけど……」
そう言って女性がデバイスを操作して、一つの画面を表示する。
そこには簡易な地図と、目的地と思われる場所——友人と思しき名前——だけが書かれていた。確かにこれだけでは、ある程度この辺りの地理を理解していなければ辿り着くのは難しいだろう。トンベリたちだって言ったこともない場所ならそうだ。
だが、こと今回に限っては、その限りではなかった。なぜなら、
「トンベリくん、これって……」
「……うん……あいつだ……」
その目的地とされている場所に書かれている名前は、『雷切』、だったのだから。
■
「——やっぱCにぶっぱするか……いやだが、そうすると地震で確二どころか確三になりかねない……Sを削るわけにもいかねーし、やっぱCを削るしか……つってもそうすると肝心のメインウェポンが……」
部屋の一角で、ぶつぶつと響く声。同時にカチカチと何度も鳴るクリック音。
今までその様子を黙って見ていたが、耐えきれなくなったのか、遂に彼女は口を開く。
「……ライはさっきから、パコに面と向かってなにしてるの?」
「にらめっこ?」
「新しい型を考えてるそうですよぉ、雷切さん自身の」
ラグナロクがそう答える。
いつもの雷切は、気づけば新しい型を見つけて、いつの間にかその型で調整していたので、こうやって新しい型を模索している様子は初めて見た。
「まあ、熱心なのはいいんだけどね。少なくとも、少し前の賭け事に比べれば」
「でも、どうせ新しい型作っても、使える技はほとんどないのにねー」
「お前には言われたくねーよ、雪姫」
「ありゃりゃ、聞こえちゃってたか」
今までずっとスパコンピ(PC形態)に向かっていた雷切が、くるりとココロたちの方へ向き直る。
雪姫——ユキメノコというポケモンも、実戦で使用に耐えうる技は少ない。
しかし雷切も、その点はジュカインもどっこいどっこいであることを自覚している。
「だが確かにその通りだ。俺たちは、ココロやラグナ以外は技のレパートリーが乏しすぎて、新しい型を作る意義が薄い」
というより、新しい型と古い型の相違点が少ない。技を変えるだけで違う型と言い張れるサーナイトやラグラージとは違うのだ。
「たとえばちーちゃん——クチートは、襷メタバをする以外は、ほぼ確実にメガ型。しかも技も、じゃれつくと不意打ちは確定、残りは炎牙、叩き、剣舞から選択って形だしな。調整だってHAぶっぱがほとんどだ」
「下手に火力を削ぐと、エースとしての性能が落ちちゃうものね。かといって耐久を落とすと役割が遂行しづらいし、鈍足だからSに振っても効果は薄い」
「新しい型って言っても、仮想敵をどの程度明確にするかってくらいの変化しかないもんねー」
「その仮想敵を明確にしても、違う奴が出て来たらその調整は腐りかねないしな」
技がほぼ固定されているちーちゃんやトンベリが、この傾向が顕著だ。一部の特殊な型に限れば技が固定されるということもないが、しかしそういう型は汎用性に欠ける。
ゆえに、いつも同じ型ばかりになってしまうのだ。
「でも、それが分かってるなら、なんでわざわざ新しい型なんか……」
「俺はまだまだ調整の余地があるからな。技は少ないが、両刀は仮想敵によって様々な調整が考えられる。まだ研究が進められるんだよ」
「両刀なら私もー——」
「お前は火力がヘボすぎるから無理だ」
「そんなっ!? あーんまーりだぁー!」
とはいえ、その可能性を完全には捨てきっていない雷切ではあるが、現段階では両刀ユキメノコがまともに運用できるとは思っていないため保留にしている。
そんなわけで、技の少なさを調整でカバーしようとしている雷切は、いっそASベースでC調整した両刀にしてみようか、などと思い立って再びスパコンピへと向かおうとする。その時だ。
コンコン
「ん……客か? 最近多いな」
「それよりインターホン……なんで誰も使わないのよ……」
などと言っていると、今度はガチャリ、と扉が開く音。まだなにも応答していないのに気が早い奴だな、と雷切が思った矢先、次は聞きなれた声が聞こえる。
「らいきりさーん、こんにちはー」
「……来た……」
玄関から聞こえてくるのは二人の少年少女の声だ。
「なんだ、ちーちゃんとトンベリかよ」
「……なんでわざわざノックなんてしたのかしら? あの子たちなら、なにも言わずに入ってきてもいいのに……」
というか今まではそうだったはず。なのに、いきなりどういう風の吹き回しだろうかと疑問を覚える。
しかしその疑問は、新たな疑問に上書きされるのだった。
「大丈夫かしら、返事がなかったけれども……」
「だいじょーぶですよ、らいきりさんなら分かってくれます」
「……そもそも……そんな細かい性格、じゃない……」
「それもそうだったわね」
聞こえてくるのは、ちーちゃんとトンベリの声——だけではない。
もう一人、大人の女性の声が聞こえてくる。
「っ……この声は……! ラグナ!」
「え、えぇ、そうみたいですね……!」
そしてその声にいち早く反応したのは、雷切とラグナロクだった。
どちらも額に玉の汗を浮かべており、なにやら切迫した様子で、ココロはこちらにも疑念の眼差しを向ける。
「ライ……? ラグ……?」
「どったの二人とも?」
そんな二人の疑問になど答えることはせず、雷切はダッと椅子を蹴飛ばすように、窓へと駆け出す。
そしてそれと同時に、ラグナロクへ叫んだ。
「ラグナ、ここは任せた! 俺は先に行く!」
「ちょ、待ってください雷切さん! 一人だけ逃げようだなんて、そうは行きませんよぉ!」
どうやらこの雷切の動きを予測していたらしいラグナロクは、雷切が窓に到達する前に、彼を羽交い絞めにして取り押さえる。
「くそっ! 離せ! キモイんだよてめぇ!」
「一人だけ逃げるなんて僕が許しませんよぉ……ココロさんや雪姫さんだっているんですからぁ……!」
「知るか! 俺はまだ死ぬわけにはいかねぇ……!」
「……なにやってんのよ、二人とも」
急にコントまがいのことを始めた二人に呆れるココロであったが、しかし二人の表情は真剣そのもの。
とその時、この部屋の扉がゆっくりと開く。
部屋の中に入ってきた女性は開口一番、穏やかな笑みを浮かべながら言った。
「あ、雷切君、ラグナ君。お久し振りです」
そして、雷切は切迫したその表情のまま、漏れ出すように言葉を発する。
「み、みゆり先輩……!」
- BOHパ対戦記録譚 タイトルロゴ ( No.54 )
- 日時: 2015/04/09 23:44
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: RHpGihsX)
- 参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs/index.php?mode=image&file=4263.jpg
同業者のタクさんよりイラストを頂きました。
BOHパ対戦記録譚のタイトルロゴです。それか、表紙、と言うべきなのか……ともかく素敵なイラストを頂きました。
わざわざモノクロなんかが説明するまでもないと思いますが、中央が主人公の雷切、後ろが左からココロさん、ちーちゃん、トンベリ君、ラグナ、雪姫です、たぶん(ちゃんと確認取ってないので)。
上記のURLからイラスト板に飛ぶので、よろしければどうぞ。
タクさん、イラストありがとうございました。
- 茶番3 ( No.55 )
- 日時: 2015/04/11 02:41
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: RHpGihsX)
「初めまして、みゆりと申します」
ちーちゃんとトンベリが連れてきた女性——みゆりは、、丁寧にお辞儀をしてそう名乗った。
さらに、続けてにっこりと笑みを浮かべ、
「雷切君の恋人です」
凍える風が吹雪き、空気が凍りついた。
「先輩、そういうのいいんで……普通に自己紹介してください」
「そう? じゃあ……」
雷切が、冗談だからな? という視線を送って誤解を解きつつ、みゆりに再び自己紹介を促す。
そして、
「雷切君の愛人です」
絶対零度が発生し、空気が氷結した。
「……ライ」
「違う、誤解だ、分かるだろ、先輩の冗談だ」
「私は本気にしてもいいんだけど……」
「やめてくださいっていうか、あんたが言ったことですし、あんたが言うことでもないでしょう」
と、雷切は慌てたように訂正しつつ、既に疲れ果てたような溜息をついた。
そして改めて、今度は雷切の口から、みゆりについて話す。
「この人、みゆり先輩は……先輩って付けてるとこから分かると思うが、俺の学生時代の先輩だ」
「この前のみすちーに続いて、雷切君は色んな女の子と関係持ってるねぇ」
「変な言い方はやめやがれ」
「でも、あながち間違ってませんね」
「先輩もやめてください」
雪姫に対する態度とは打って変わって、困ったような表情を見せる雷切。こんな雷切は初めて見た。
というより、
「……ライって、あの人になにか弱みでも握られてるの……?」
「そういうわけではないんですが……雷切さんの頭が上がらない人の一人なんですよ、みゆり先輩は」
それは見たら分かる。誰に対しても不遜な佇まい、乱雑な口調、挑発的な態度だった雷切は、みゆりに対してはやたら腰が低い。
まるでなにかを恐れているかのようだった。
「まぁ、雷切さんよりも、ココロさんと雪姫さんの方が気を付けるべきなんですけどねぇ……」
「なにがよ?」
「いやぁ、それがですね——」
とラグナロクが続ける前に、みゆりの声がそれを遮った。
「そういうわけで、私も雷切君のお手伝いをしようと思いまして。私もパーティーに加えてくれませんか?」
「どういうわけっすか……いや、別にそういうのいいんで、間に合ってるんで。先輩だって忙しいでしょうし、別に俺らに気を遣わなくたって」
「そんなこと言わないで、一緒に対戦しましょうよ、らいきりさんっ。みゆりさん、とっても面白い人ですよ」
「ちーちゃんはこの人の本性を知らねーからそんなことが言えるんだ……」
どこか遠い眼で呟くように言う雷切。
その後もみゆりのパーティー参加を渋る雷切だったが、ふとみゆりが、隣に座る雷切に近づいて行き、
「雷切君」
「は、はい……」
「お願い……ダメですか?」
にこにことした柔和な笑顔で、下から覗きこむように懇願する。
女性にこんなことをされては断るにも断りづらいものがあるが、雷切にとっては、一般的なそれとは違う意味で断りづらさを感じていた。
「う、く……ぐぬぬ……!」
それでも必死の抵抗を試みる雷切。
だが、みゆりの最後の一言で、
「そうですか……では仕方がありません。“今回は”諦めま——」
「分かった! 分かりましたから! 今日だけ! 今日だけ先輩もパーティーに入れますよ」
遂に折れた。
不承不承といった具合に嘆息する雷切とは対照的に、みゆりはその言葉を聞くや否や、ぱぁっと顔が明るくなる。
「本当? 嬉しいです。久し振りに雷切君やラグナ君たちと対戦できるだなんて」
「そすか……そりゃ結構なこって……」
「雷切さん、ここはもう諦めるしかないですよぉ」
「あぁ……」
ことごとく、みゆりの対戦を渋ってきた雷切だが、その顔は完全に諦念を示したそれだった。
だが、外野からすると、そもそも雷切がなぜそんなにもみゆりと対戦したがらないのかが理解できない。
「……ライはどうしてあんなに嫌がるのかしらね。人手が多いに越したことはないし、前にビジュアルがどうこう言ってたけど、あの人なら適任だと思うのだけれど」
「そだねー、でも逆にそこが気がかりなんじゃない? だってほら、みゆりちゃん? だっけ? はさ、スタイルいいし、美人だし、性格いいし、スタイルいいし、穏やかだし、頭良さそうだし、スタイルいいし、ココロちゃんのアイデンティティが危ないよ?」
「なんでそこであたしを引き合いに出すのよ。それと三回もスタイルスタイルって連呼しなくてもいいじゃない」
「べっつにー? 特に深い意味はないよぉ?」
よく分からないが非常に苛立ちを覚えるココロ。
しかしそれをどこかにぶつける前に、
「そうと決まればさっさと対戦に行くぞ! あと、一応言っときますけど先輩、一日に何度も対戦できるほど時間もないんで、一戦だけっすよ。一度も出てないからって、駄々こねないでくださいね」
「はーい。分かりました」
雷切は対戦の準備をとっとと済ませてしまう。
みゆりに釘を刺すように言うも、当人は雷切の言いたいことが伝わっているのいないのか、朗らかな笑みを浮かべたままだ。
「……何事もなく終わればいいんだがなぁ……」
最後にそんなことを呟き、本日の対戦が始まる。
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