二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- 【ポケモン対戦小説】BOHパ対戦記録譚
- 日時: 2016/12/29 15:48
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
- 参照: https://www.youtube.com/watch?v=cSKjiY3FnrQ
はじめましての方は初めまして、そうでない方はこんにちは、モノクロです。
本作品は前作『バトル・オブ・ホウエン対戦記』に続く続編作品です。前作ネタなどもあると思いますが、今作だけでも内容は分かるように努めています。
前作の続編ということで、基本形式は前作と変わりませんが、今作はポケモン対戦をするにあたって、BOH——バトル・オブ・ホウエン縛りで対戦します。
バトル・オブ・ホウエン縛りというのは、前作品で題材にしたインターネット大会『Battle of Hoenn〜バトル・オブ・ホウエン』に出場可能なポケモンのみを使用する、という意味です。バトル・オブ・ホウエンに出場できるのは、ホウエン図鑑に登録されているポケモンのみ、作中に出て来るのもそれらのポケモンだけです。
では、次にこの作品の根本について説明しますと、言うなれば『ポケモン対戦小説』です。
対戦小説とはなにかと言いますと、『ゲームにおけるポケモン対戦そのもの』を題材とした作品で、動画投稿サイトに投稿される『ポケモン対戦実況動画』を小説風に書き起こしたものです。
なので本作には、種族値、努力値、個体値といった三値、ABCDSVといった略式記号、ガブ、バナ、クレセドラン、ゴキブロス、ドロポン、月光乱舞といった略称愛称蔑称などなどの、ポケモン廃人が多用する専門用語が多発します。できるだけ初心者の方にも分かるような作品を心掛けたいのですが、基本はある程度その手のことを知っている前提なので、ご了承ください。
作品の向上には全力を尽くすので、分かりにくい、もっとこうしてほしい、などの要望があればいくらでも申し付けてください。
そして、もしもこの作品で、対人戦やランダムマッチに興味を持った方がいたら幸いです。雑談板にモノクロの雑談スレ『DM第4相談室』というスレッドがあるので、よろしければお立ち寄りください。フレコ交換やフレ戦希望なども受け付けています。
勿論、普通に雑談したいという方も歓迎しますよ。
ちなみにこの映像板では同じものを題材としている作品に、モノクロも合作として参加している『俺と携帯獣のシンカ論』。舞台は違えど世界観を共有している、タクさん著の作品『ポケモンバトルM・EVO』があります。よろしければそちらもご覧ください。
というわけで、自称前置きが長いカキコユーザーのモノクロが、最後に注意書きを残して本編へと移ります。
※注意
・本作における対戦はほぼ“ノンフィクション”です。バトルビデオを見返して文字に起こしています(しんどい)。
・対戦相手の名前は改変して使用しています(物語の都合とプライバシーの問題に配慮)。
・対戦相手への誹謗中傷はおやめください(♂のメガクチートにじゃれつかせます)。
・ポケモンが喋ります(ポケモンしか出ないから仕方ない)。
・擬人化要素(イラストを描いて頂きました。許可を貰えたらそのうち紹介したいです)。
・茶番(前作より増量)。
・メタ発言(特に後語り)。
・にわか発言&下手くそプレイング(モノクロへの批判はOK!)。
・分かりにくい解説と文面(簡潔になるよう努めております)。
・BGMの種類増加(選出画面のURLのリンクからBGMに飛びます。種類はポケモンに限らず)。
・BOH縛り(詳細は冒頭の通り)。
・後語り担当は作者代理(名前はまだない)。
以上のことを留意して、どうぞ、モノクロのポケモンたちによるポケモン対戦を、お楽しみください——
オリキャラ募集的なものをしています。詳細は三戦目以降の後語りにて。投稿条件はこの作品が理解できること、ということで。
目次
零戦目「プロローグ」「を装ったあらすじです」
>>1
一戦目「確率世界」「と呼びたくなるほど理不尽です」
>>4 >>5 >>6 >>7 >>8 >>9 >>10
二戦目「ランダム対戦」「はレートもフリーも魔境です」
>>14 >>15 >>16 >>17 >>18 >>19
三戦目「永遠の宿敵」「は旧友にして戦友です」
>>20 >>21 >>22 >>23 >>24 >>25 >>26 >>27 >>28 >>29
四戦目「ポケモンなしで対戦とは笑止千万」「ポケモンなら拾いました」
>>30 >>31 >>32 >>33 >>34 >>35 >>36 >>37 >>38
五戦目「後輩」「私のことですか?」「それは違うよ」
>>39 >>40 >>43 >>44 >>45 >>46 >>47 >>48 >>49
六戦目「先輩」「その中は百合の園でした」
>>52 >>53 >>55 >>58 >>59 >>60 >>61 >>62 >>63 >>76 >>77
七戦目「トンベリ君」「の憂鬱です」
>>91 >>94 >>95 >>96 >>97 >>101 >>104 >>105 >>106 >>107 >>108 >>109 >>110 >>111
バトル・オブ・ホウエンパーティー名簿一覧
>>78
タクさんより『BOHパ対戦記録譚』のタイトルロゴ(または表紙絵)のイラストを頂きました。
>>54
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- 茶番6 ( No.101 )
- 日時: 2015/05/10 19:14
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: RHpGihsX)
ニコラスをパーティー加え、出場メンバー六体が揃った、その放課後。
もう土日を挟んだらすぐに新歓が訪れるということだが、まだ六人ともパーティー入りをしたというだけで、ロクに自己紹介すらしていない。
なので、放課後に自己紹介も兼ねて、軽くミーティングっぽいことでもしようかということになったのだ。特に去年クラスメイトでなかったニコラスには必要だろう。
「さて、みんな揃ってるわね。私が2年5組の学級委員、キャンディよ」
「……いや……全員、知ってるし……」
「別にいいでしょ、改めてよ、改めて。ほら、次。トンベリ」
「……それだけで……自己紹介、終わってる……」
「屁理屈こねてないで、自分で言う。ほら!」
「…………」
お節介だ、と思うトンベリだが、しかしキャンディの言うことももっともだ。
トンベリは億劫に思いつつも、自分の口で、名を名乗る。
「……トンベリ……」
「……それだけ?」
「……それ以外……言うこと、ないし……」
「もっと他に言うこともあるでしょう。ほら、バトル・オブ・ホウエンに出たとか」
「あー、そっか。お前、バトル・オブ・ホウエンに出てたんだっけ」
ニコラスが思いだしたように言う。
トンベリとちーちゃんがバトル・オブ・ホウエンに出場したことは、石窟中学内では周知の事実であり、そのこともあって二人は結構な有名人だ。
そうでなくてもちーちゃんは主人の嫁と宣言されているポケモンであり、そんなちーちゃんといつも一緒にいるトンベリもそれに伴って名が知れている。
なのでニコラスも、トンベリの名は知っていて、それをさっき思い出したのだろう。
もっとも、最初にトンベリが推薦された時にもその名はでていたので、その時点で思い出していて然るべきなのだが、ニコラスの記憶力はあまりよろしくないのかもしれない。
「へえ、そっかそっか。お前がバトル・オブ・ホウエンに出たトンベリか! 名前は聞いてるぜ! すげえ有名人らしいじゃねえの!」
記憶力は悪くてもテンションの高いニコラス。目の前の根暗は少年が、あの名の知れた
トンベリだと分かるや否や、さらに気が紅葉していく。
そのようなテンションが苦手なトンベリにとっては、非常に絡みづらい。
「え……あ、あぁ……えっと、ニコラス、だっけ……」
「ニックでいいって! これからよろしく頼むぜ!」
「わ、分かった……痛い……痛い……痛い……」
バンバンとトンベリの背中を叩くニコラス。テンションが上がりすぎて、なおのこと絡みづらくなっている。
「男子同士仲がいいようで助かるわ。ま、そうでないとニコラス誘った意味がないしね。ほら、じゃあ次、フレイヤ」
「あいあいさー。あたしフレイヤだよー、ハッピーうれピーよろピクねー!」
「……なにそれ」
「気にしない、方が……いい……」
いつも混沌とした発言を一斉掃射している、ベンチクーラーな知人も口にしていた言葉だ。なんとかという漫画で使われたフレーズだという。
つまり、無視してもいい言葉なので、トンベリはスルーを推奨。
「よく分かんないけど、次は……そうね、電、お願い」
「は、はいっ! えっと……」
指名されて、少しばかり驚いたような電だが、しかしいくら気弱でも、名乗るくらいはできる。顔の知らないニコラスがいるとはいえ、キャンディたちも傍にいるのだ。
だがそれでも、やや控えめに、おずおずと電は名乗った。
「電です。どうか、よろしくお願いいたします」
「そんなに固くならなくてもいいのに。ちーちゃんみたいに、もっと気楽にすればいいの。同級生なんだし。ねぇ、ちーちゃん」
「そうだよ、これから一緒にパーティーを組む仲間なんだから。だからよろしくね、ニコくん」
「おう! あと、俺のことは親しみを込めてニックと——」
「じゃあこれで自己紹介は終わりね」
親しみのこもらない無慈悲な一言で、自己紹介タイムは終わりとなった。
だが、しかし、
「……で、どうするんだ……?」
問題はこの先だった。
自己紹介をして親睦を深めた(?)のはいい。だが、そこからどうするのだろうか。
わざわざ集まっておいて、これでお開きなんてことは流石にないと思うが、
「そうねぇ……相手パーティーも分からないわけだし、ここであーだこーだ言ってても仕方ないわ。この時間じゃ偵察だってできやしないし、今日はもうお開きにしましょうか」
……思うが、そういうこともあった。
確かにキャンディの言う通りではある。対戦なんて、相手のポケモンに対してどのポケモンが有利かを考えて選出する場合がほとんど。つまり、選出は相手によって変わる。言い換えれば、その場の判断だ。
事前に相手の手がある程度透けていれば、それに対するメタも用意できるが、これもキャンディの言うとおり、今更他のクラスに偵察などできない。今までメンバー集めに東奔西走していたせいで、そんな暇はなく、金曜日の放課後であるこの時間に、残っているクラスもそうないだろう。
そういうわけで、今日はこれ以上動けない、2年5組の面々であった。
「今日は解散! 各自、本番までに型の準備と、しっかりとした休息を取っておきなさい!」
というキャンディの締めの一言で、本格的に終わりとなった。
メンバーが集まっただけで、どう戦うのかは全くの未知数。
こんなことで本当に大丈夫なのか。
「……はぁ……大丈夫、なのかよ……」
トンベリは、またしても大きく暗い、不安の渦に取り囲まれ、溜息を吐くのだった。
- Re: 【ポケモン対戦小説】BOHパ対戦記録譚 ( No.102 )
- 日時: 2015/05/10 22:40
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)
どうも、コメントに参りましたタクです。
さて、今回はトンベリやちーちゃんサイドの話なんですね。最近、彼らが戦闘に出る場面が無かったので地味に嬉しかったり。
そして石窟中学とかいうのはセントラル・フィールドにあったんですね。初代学長は就任した瞬間に辞めたらしいですが。
どうなってんだ、これ、トレーナーが学校作って良いのだろうか、いよいよ謎が深まってくるセントラル・フィールドのシステム……。こっちのマスター(自分)よりも優秀な点でしょうか、この辺は。
それはともかく、今回は一気に新規キャラが出ましたね。何体かはフレ戦でも戦っているので種族を知っていたりしますが、ニコラスだけはフレ戦でも見たことはありません。
つーか電ってやっぱりあの電ちゃんだったよ、CV:洲崎綾さんだよ、どっからどう見ても電ちゃんだよ、良いのかコレ。
しかもフレイヤってフレイヤって、完全に自分が名前ブン取ったようなものじゃないですか、すいませんでした、そして懐かしいなオイ。
何であれ、彼ら6人が新歓でどのように戦っていくのか、どのようなパーティなのか。
そして、最近あんまり活躍できなかった燃焼……じゃなかった、年少コンビは活躍できるのでしょうか、楽しみなところです。
種族が全く分からないのが1人いますしね。
それでは、また。
- Re: 【ポケモン対戦小説】BOHパ対戦記録譚 ( No.103 )
- 日時: 2015/05/11 00:11
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: RHpGihsX)
タクさん
一回やってみたかった、トンベリ君が主人公のお話です。ちーちゃんもそうですが、特に彼について掘り下げますよ。もしかしたらシリーズ化するかもしれません。
そうですね、石窟は石の洞窟から取っていますが……建てちゃいました。まあいいよね、データの世界ですし。
細かいことを気にしては、大きなことを見逃すんですよ。きっと、たぶん。
ニコラスもフレ戦には出したことがあります。ただし、その時と名前が変わっているんですがね。
それでも一応、作中にヒントはあるんですよ。これは彼の二つの型のうち積むタイプの型を知っていて、かつ初代組以外の面子は型違いだとNNが変化するという法則から、予想ができる範囲だと思います。まあ、何度もフレ戦しているタクさんくらいしか、答えにはたどり着けないと思いますけどね。
電、洲崎綾……はて、なんのことでしょうか。艦これの電は「いなづま」であり、こちらの電は「いなずま」なので、別人ですよ? 他人の空似というやつです……と言うと、流石に見苦しいですね。はい、やっちゃいました。まあたまにはこんなのもいいかな、と。
いやー、しかしポケモン要素は皆無に近いですけど、版権キャラを引っ張るとネタが作りやすくていいですね。物書きとしてそれはどうなんだろうとも思いますが。まあ、たまにはね?
フレイヤはまあ、まんまあの子です。名前だけが違う感じですね。なので再現度は微妙に欠けていますが、まあ、そちらのフレイがいなければこいつを育成しようとも思わなかったので、あまりお気になさらず。
この六体はですねぇ……初代組に負けず劣らずの問題児だとモノクロは思っています。むしろ、あいつらよりヤバいかもです。マイナーどころが多くなってしまったので。
まあそれでも戦えることは戦えますし、今回は出番の少なかった年少組が軸ですからね。彼らの活躍を乞うご期待です(活躍するとは言ってない)。
- 茶番7 ( No.104 )
- 日時: 2015/05/12 00:13
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: RHpGihsX)
新歓も明日に迫ろうかという日曜日の夜。
トンベリは家にいた。ゲームをしていた。
口数が少なく、自己主張の乏しいトンベリだが、彼だって趣味の一つや二つはある。明らかにアウトドアなタチではないので、家にこもって読書なりテレビなりゲームなりPCなり、俗に言うサブカルチャーに該当するものを彼は嗜んでいた。
その点では、あの雪女とも共通する趣味を持つのだが、あそこまでオープンにはなれない。これは単なる性格の問題だが。
さて、それはさておき、今は夜なので、流石に中学生が易々と外出できようもないのだが、それにしても明日が新歓バトルマッチの本番だというのに、余裕である。
と、いうのは語弊があった。なにも彼は、余裕だから家でゲームをしているわけではない。むしろ不安だった。
(こんなんで……本当に、大丈夫なのか……?)
金曜日に解散してから、彼らとは一切合切連絡を取っていない。ちーちゃんだけは家が近所ということもあって顔は合わせるが、作戦会議らしい話は一切なかった。明日の新歓バトルマッチ楽しみだね、というような類の話ばかりだ。
確かに相手の面子が分からない以上、メタを張ることはできない。しかし、こちらの基本選出、基本戦術を固めることくらいはできるはずだ。
いつもの対戦ならこんなに不安にはならない。いつもなら、あの口の悪い参謀が、しっかりと戦略を固めている。バトル・オブ・ホウエンに出場したときだってそうだ。あの時は、緊張こそしたが、不安なんてなかった。
自分だって、自信がないとまでは言わないが、自信満々でもない。緊張だってするし、不安も感じる。
「……………」
いつもなら不安なんて感じず、今になって不安になっているのは、やはり、彼の存在の有無だろう。
認めるのは癪だが、あの男は本当に優秀で、頼れる存在なのだ。
自分の憧れの、一形態と言ってもいいかもしれない。
しかしそこまで認めるのは、トンベリの安いプライドが許さず、彼は今までの考えを振り切るように首を振った。
だが、彼ならば、今の自分の不安を払拭できるのではないか。そんな考えが、新しく浮かんだ。
「……まだ、起きてるか……?」
トンベリはゲーム機をパタンと閉じると、充電中だったスマートデバイスを充電器から引っこ抜き、ある番号をコールする。
しばらくコールすると、やがて諦めたように相手は通話に応じた。その声は、どこか億劫そうだった。
『んだよ一体。ミスティ、夜中にはかけてくんなっつって——』
「……雷切……今、いいか……?」
『あ……? トンベリか?』
通話の相手——雷切は、意外そうな声を上げた。
『珍しいな、お前から俺に電話かけてくるって。しかもこんな夜に。なんだよ、なんの用だ?』
「……相談が、ある……」
『……ガチな話っぽいな。話してみろ——と、その前に』
「……?」
ゴトッ、と雷切がデバイスを置いた音が聞こえた。そして、トコトコとどこかへ歩いていく。話が長くなりそうだから、先にトイレにでも行くのだろうか、と思っていたら、
『おら雪姫! お前もういい加減に帰れ!』
「……!?」
雷切の口から飛び出たのは、違う知人の名前だった。
雷切の怒声が轟き、すぐさま声が返ってくる。だがその声は、どこか切羽詰まっていて、焦っているようだった。
『待って待って! こいつだけでも沈めさせて! 私にはこの駆逐艦隊(デストロイヤー)で深海棲艦をすべて駆逐して、世界の海を救うって使命があるんだ!』
『わけわかんねーこと言ってねーで、さっさと帰れ! 電気代がもったいねーだろ! 今度からお前に全部払わすぞ!』
『だってスパコンちゃんのスペック最高なんだもん! 速い、きれい、クリア! イベント攻略には欠かせないよ!』
『お前の都合なんざ知ったこっちゃねーんだよ! いいから帰れ! おら!』
『あぁぁぁぁぁ! やめて! 触らないで! 乱暴にしないで! 私の嫁たち(第六駆逐艦隊)が! 電ちゃんがあぁぁぁぁぁぁぁ——』
と、そこで。
彼女の絶叫が途切れた。ドスン、と遠くてなにかが落ちる音がしたので、家の外に投げ飛ばされたのかもしれない。
「……電……?」
『あぁ? あー、雪姫がやってたゲームのキャラクターだよ。なんつったか、最近人気らしいブラウザゲーム。艦隊なんちゃらとかいう……』
「……あぁ……」
知り合いの名前が出てきたので少し驚いたが、まあそんなとこだろうとは思っていた。それより、あの女はこんな夜まで人の家に入り浸ってなにをしているのか。
『ま、ともかく雪姫の奴は放り出した。もう気兼ねすることもねーな。言え』
「……えっと……」
思わぬ珍事が受話器の向こうで起こっていたために、少々困惑するトンベリだが、すぐに気を取り直し、口を開く。
明日に迫った、新歓バトルマッチのことについて。
雷切はそれを黙って聞いていた。トンベリの口調は決して聞き取りやすいものではなく、内容もお世辞にもまとまっているとはいい難い。それでも彼は、じっくりと、苦言を挟むこともなく、聞いていた。
そして、トンベリが話を終えた、直後だ。
『くだらねーことで悩んでんのな、お前。やっぱガキか』
「な……!」
まさかいきなりそんなことを言われるとは思いもせず、トンベリは面食らう。
最初は驚きが大半を占めていたが、同時に湧き出た小さな怒りが、徐々に驚きを上塗りし、侵食して大きくなっていく。
「……オレは、これでも、真剣に悩んで——」
『あー、はいはい。ガキの真剣なんざたかが知れてんだよ。お前の悩みなんざな、俺の借金問題に比べりゃ些事でしかねーよ』
「……それは……」
確かにその通りかもしれない。雷切の抱える借金は膨大で、家賃も込みでどんどん膨れ上がっている。
そんな現実的問題と比べてしまえば、トンベリの悩みなんて、気にするほどのことでもないだろう。
しかし現実問題と心情問題。単純比較できるものでもないので、そんな軽んじなくてもいいのではないか、とも思う。
しかしそれを口にする前に、雷切が次の言葉を紡いでいた。
『大体な、もう明日だろ? 今更お前に、その新歓なんとかを辞退することができるのか?』
「……それは……」
『無理だろ? もう賽は投げられてんだ。今頃になってじたばたしててもしゃーねぇ。腹括って覚悟を決めろ』
雷切の言い分はもっともだった。もうトンベリは新歓に出ないわけにはいかない状況に陥った。いくら明日が不安だからといって、今になってできることなどないに等しい。
これでは、ただ雷切に愚痴をこぼしただけのようだ。そう思うと、トンベリは自分が恥ずかしくなってくる。
『……つーかよぉ。お前、なにがしたいんだ?』
「……え……?」
唐突な質問に、トンベリはまた面食らう。
『明日が不安なのは分かる。だが、そんなことはお前だけがそうじゃねーし、お前だって、今まで不安を感じたことがない訳じゃねーだろ』
「それは……そう、だけど……」
『お前は不安だから--なにがしたい? なにをどう、解決したいんだ?』
「…………」
その問いに、トンベリは答えられない。なにをどうしたいのか、トンベリの頭の中には様々な感情、意志が渦巻き、答えがまとまって出てこない。
そんなトンベリを(見えていないが)見かねてか、雷切は、
『……答えやすいように、質問を変えてやろうか。つまりだ』
一呼吸おいて、雷切はと問うた。
『お前は、明日——勝ちたいのか?』
「……!」
その言葉はまるで、閉めていた部屋の鍵を、こじ開けられて中へと入られたようだった。
やはり、この男に核心を隠せるわけがないのだ。電話越しだからといって関係ない。本心を隠し通したまま、なにかいい案を引きだそうだなんて、考えが甘すぎた。
それを思えば、自分はやはりガキだ。大人(雷切)には敵わない。
そんな、弱く小さな自分がまた嫌になったが、同時に、どこか吹っ切れた。
この男に隠し事なんてできないのだ。だったらもう、すべて吐き出してもいいのではないか、と。
そう思った瞬間、彼の口から自然と言葉がこぼれた。
「……たい……」
『あん? 聞こえねーよ、はっきり言え。お前の悪い癖だ』
それもそうだ。これも自分の悪いところだな、と思うが、この時ばかりは嫌な気分でもなかった。
自己嫌悪に陥ることもなく、トンベリは、はっきりと、その言葉を口にする。
「……勝ちたい……!」
『……いい返事だ。やっぱお前は、俺の見込み通り--見所あるぜ、お前』
受話器の向こうで、雷切の声がぼそぼそと聞こえる。よく聞き取れなかったが、見所がある、というところだけははっきりと聞き取れた。
『つってもなに、そんでも俺がお前に言うことなんざねーんだけどな』
「今更……それはない……」
『自分の意志をしっかりと自覚しねーことには、勝てるもんも勝てねーってことさえ分かってりゃ、それでいい。今はな』
今は、というワードが引っかかりを覚え、そこに雷切は続ける。
『お前らはガキだ。精神面でも未熟なところは多い。だからこそ、伸びしろがある』
俺ら以上にな、と雷切は付け加えた。
「……でも、オレは、なにをすれば……」
『はぁ? ここまで言ってまだ気づかねーか……お前も大概、鈍感だな』
なんだかイラッとする発言だったが、雷切は今まで、そのことを伝えており、自分はそれに気付けていなかった、それは事実だ。
なのでトンベリは、大人しく反論しないことにする。
『ちーちゃんもいることだし、お前にもできるぜ。なに、お前のことは俺が認めた。この俺が、お前の才能については保証してやるぜ』
なにがだ、とトンベリは心中で呟く。お前になにを認められているというんだ。粘り強さか? 耐性か? 補助技のバリエーションか?
などと思ったが、それのどれでもない。そんな分かりきったことではなかった。
『明日の新歓バトルマッチ。当然だから俺は出れねぇ。だから——』
雷切は既に見抜き、見出していたのだ、トンベリの内に眠っていた、秘められた才能という奴を。
最後に彼は、その鍵を、開け放った。
『——お前が指令塔(ブレイン)だ、トンベリ。俺の代役だと思って、行ってこい』
- 選出画面1 ( No.105 )
- 日時: 2015/05/21 00:28
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: rGbn2kVL)
きたる月曜日、新入生歓迎会当日。
最初に退屈な学校紹介や授業、教師の紹介といった定例の紹介をさっさと済ませてしまい、その後は部活紹介へと移り変わる。
運動部は練習風景の再現、文化部は創作物を持ってきたり、活動の様子を映像で流すなどして、それぞれのアピールをする。
そしてそれらの紹介が終わると、遂に本日のメインイベント。
新歓バトルマッチの開催である。
■■■
「うわー……人いっぱい……」
「新入生がたくさんなのです。この人たちみんな、私たちの後輩になるのでしょうか……?」
「理屈としてはそうだねー」
バトルマッチ専用のステージが造られた体育館、その舞台袖で、トンベリたちは待機していた。
バトルマッチは年々トーナメント制にしていたらしいが、生徒数の増加に伴い、クラスの数が増え、同時に教師や部活の数も増えたために、バトルマッチに時間を割くことができなくなり、今年から1クラス一戦ずつとなった。
そしてトンベリたちの相手は、隣の6組らしい。
「ん? 委員長がいねえぞ?」
「あめちゃんなら、先生のとこにいったよ、ニコくん」
「6組さんのパーティーを聞きにいったそうなのです、ニコくん」
「おう、そうか……ところで、俺のことはニックと呼んでほしいんだが……」
「まあまあ、呼び名なんてどうでもいいじゃないのー。ねー、ニコちん」
「その呼び方はやめろ」
「…………」
対戦直前だというのに、緊張した面持ちの見られない我が5組。不安なのはトンベリだけなのだろうか。
ただでえさえバランスの悪い面子が揃っているというのに、気楽すぎではないかと思う。
バトル・オブ・ホウエンのメンバーもバランスが悪かったが、あの時はまだ、個々のスペックが高かったし、参謀が優柔すぎるほど優秀だったため、ここまで不安ではなかった。
しかし今回、その参謀はいない。どころか、自分が指令塔だと、彼から任命されてしまった。
トンベリのメンタルは型に反してそこまで図太くないのだ、そろそろ精神的に参ってきてしまいそうである。
(……でも、そんな甘えも、言ってられないか……)
もうここまで来たら乗りかかった船だ、諦めようと自分に言い聞かせる。
と、ちょうどその時、キャンディが戻ってきた。
「みんな揃ってるわね? 相手のメンバーが分かったわ」
その手には、相手パーティーが映し出されたタブレットがある。
「相手はどんなのー?」
「怖い人たちじゃなければいいのですが……」
「そんな怖がらなくても。相手は私たちと同じポケモンで、しかも同級生なんだから」
「……で……相手の、面子は……?」
「これよ」
そう言って、キャンディは全員に見えるように、タブレットを軽く掲げた。
そのタブレットに表示されている、相手ポケモンは以下の通りだ。
【6組PT
・バシャーモ[♀]
・オンバーン[♂]
・エンペルト[♂]
・サンダース[♂]
・リーフィア[♀]
・ストライク[♀]
Analysis end】
「うぅ、強そうです……」
「こらこら、今から気落ちしてどうすんの。まずは、選出を決めましょう」
相手の面子を見ただけで気圧される電を、キャンディが軽く諌める。
相手のパーティーを見たら、それが強そうに見えるということはよくあることだ。だが、実際は自分も相手も同じ土俵に立っている。そこに差はない。
なので、こちらも自信を持って、相手に勝てるような選出を考えなくてはならない。土台が同じなのだ、勝てない相手ではない。
「とりあえず、私で起点を作って——」
「……待った……」
「トンベリくん?」
キャンディがいつものように先んじて進めようとするのを、トンベリが制止した。
いきなり出鼻を挫かれてしまったキャンディは、やや不機嫌そうにトンベリへと向き直る。
「なによ、トンベリ」
「……まず……オレたちの、型……を、確認……」
「は? なんでそんなことを——」
「いいから……」
「……分かったよ」
いつもとどこか違う雰囲気を醸し出しているトンベリに、キャンディは大人しく身を退いた。
実際、今回はいつものランダムマッチのように選出にかける時間を制限されていない。なので、自分たちの型をしっかりと確認して、選出を決めることには意味も価値もある。
「……じゃあ、まず……オレ、から……」
「トンベリは今回、どんな型なんだ?」
「……タラプメタバ型……性格、呑気で……ガルド抜かれ、調整……」
今回のトンベリの型は、耐久を調整して多くの相手の攻撃をメタルバーストで跳ね返す型だが、その中でも最遅ガルドの後手を取れるように調整していた。
とはいえタラプが発動してからでは、ギルガルドのシャドーボールをメタルバーストで反射しても、倒しきれないのだが。かといってタラプを外すと後出しが利かなくなる。
そもそも今回、相手にギルガルドはいないので、その調整が生きることはないのだが。
「次……ちーちゃん……」
「あ、うん。わたしは、素早さにも努力値を振って、炎の牙と剣の舞を入れた型だよ」
「炎牙はハッサムとかナット対策よね? なら今回は刺さらないかな……」
それでも、ちーちゃんが強く出れそうな相手は少なくなさそうではあるが。
「それじゃあ……次……流れで……」
「私は襷を持って、ねばねばネットと痺れ粉、パワーシェアで起点を作る型よ。吹き飛ばしもあるから、簡単には積ませないわ」
「あたしは物理受けだねー。つっても、ゴツメじゃなくてオボン持ちで、地割れの試行回数稼ぐ感じー」
「わ、私は、眼鏡なのです……メガストーンは、ちーちゃんに譲りました」
キャンディは起点作成、フレイヤは物理受け、電は眼鏡アタッカー——そして、最後。
ニコラスはというと。
「……ニコラス……」
「おう。俺はHAにぶっぱした、チョッキのフルアタ型だぜ!」
「……そういうこと……」
「は? どういうこと?」
とりあえず一通り型の確認は終わったが、いまいちトンベリが言いたいことが分からないでいるキャンディ。
そこでトンベリは、やっと彼女にもわかる言葉で、言いたいことを述べる。
「……つまり……オレたちは……鈍足が、多い……ねばねばネットの効果は、薄い……」
「あ……」
自分たちの面子は、ヤミラミ、クチート、アメモース、コータス、ライボルト、シザリガー。素早さ種族値がほとんど60未満で、唯一高速と言えるのは電のみ。
ちーちゃんがSを振っているとはいえ、ここまで遅いと流石にねばねばネットも刺さらない。そもそも浮いている相手も多い。
「あっちゃー、まずったなー……やる気満々で今回の型を用意したのに、完全に空回っちゃった……」
「俺が龍舞型だったら、またちょっとは違ったかもしれないんだけどな」
「……というわけで、悪いけど……キャンディの選出は、無理そう……」
「仕方ないね。攻撃技もないし、命中不安の痺れ粉に頼るのも心もとないし。私の方こそ悪いけど、みんなに任せるよ」
こちらの選択肢が一つ消え、本格的に選出を考えるトンベリたち。
「……とりあえず……ニック、頼む……」
「おう、俺か? 別に構わねえが、なんで俺?」
「いや……刺さってるし……」
【選出確定
ニコラス————[♂:シザリガー]】
今回のニコラスの型は、HAチョッキの異教徒型ヤザリガー。
アクアジェットを搭載しているため、バシャーモにも先制して弱点を突け、ブイズ以外となら戦えるだろう。
「それから……全体的に、通りもいい……電も、行ける……」
「わ、私ですか? ここは、ちーちゃんとかの方が……」
「……ちーちゃんも、戦える相手は、多い……けれど……有利に戦える、相手は……電の方が、多い……」
【選出確定
ニコラス——[♂:シザリガー]
いなずま——[♀:ライボルト]】
拘っているので小回りは利きづらいものの、避雷針でサンダースの電気技を吸収できたり、エンペルトに打点があるなど、ちーちゃんよりも電の方が、特殊アタッカー相手に戦いやすい。
問題は、拘り状態の中で、如何にして攻撃を通すかだが。
「それで、最後の一枠はどうすんのー?」
「…………」
フレイヤに促され、トンベリは思案する。
キャンディには既に戦力外通告を出しているので、候補となるのちーちゃん、フレイヤ、そして自分。
相手次第とはいえ、ちーちゃんは特殊アタッカーには繰り出しにくく、確定一発にされないとはいえ、オンバーンには炎技もある。
エンペルトだって眼鏡ドロポンで強引に削ってきたり、熱湯で火傷を狙ってくる可能性もある。こちらからの有効打も不意打ちしかない。
サンダースだって、ボルトチェンジで引っ掻き回されたり、どくみが型で攻撃を透かされることも考えたら——などと、様々なパターンが考えられる。
フレイヤを出した場合はどうか? 今回の彼女のダメージソースは、拘束ダメを稼ぐ炎の渦と、一撃必殺の地割れのみ。それこそ、オンバーンなんかには有効打が皆無だ。
そもそも相手には特殊アタッカーが多い。物理受けのフレイヤはあまり刺さっていない。だがバシャーモには強く出れる。
とはいえ後受けでメガバシャーモの攻撃を耐えきれるのだろうか。そもそもこちらだって、バシャーモを倒す手段は地割れしかない。流石に運に頼りすぎだ。
そうこう考えているうちに、トンベリは自分自身の思考がまとまらなくなって、だんだんと焦燥が滲んできた。
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