二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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【ポケモン対戦小説】BOHパ対戦記録譚
日時: 2016/12/29 15:48
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
参照: https://www.youtube.com/watch?v=cSKjiY3FnrQ

 はじめましての方は初めまして、そうでない方はこんにちは、モノクロです。
 本作品は前作『バトル・オブ・ホウエン対戦記』に続く続編作品です。前作ネタなどもあると思いますが、今作だけでも内容は分かるように努めています。
 前作の続編ということで、基本形式は前作と変わりませんが、今作はポケモン対戦をするにあたって、BOH——バトル・オブ・ホウエン縛りで対戦します。
 バトル・オブ・ホウエン縛りというのは、前作品で題材にしたインターネット大会『Battle of Hoenn〜バトル・オブ・ホウエン』に出場可能なポケモンのみを使用する、という意味です。バトル・オブ・ホウエンに出場できるのは、ホウエン図鑑に登録されているポケモンのみ、作中に出て来るのもそれらのポケモンだけです。

 では、次にこの作品の根本について説明しますと、言うなれば『ポケモン対戦小説』です。
 対戦小説とはなにかと言いますと、『ゲームにおけるポケモン対戦そのもの』を題材とした作品で、動画投稿サイトに投稿される『ポケモン対戦実況動画』を小説風に書き起こしたものです。
 なので本作には、種族値、努力値、個体値といった三値、ABCDSVといった略式記号、ガブ、バナ、クレセドラン、ゴキブロス、ドロポン、月光乱舞といった略称愛称蔑称などなどの、ポケモン廃人が多用する専門用語が多発します。できるだけ初心者の方にも分かるような作品を心掛けたいのですが、基本はある程度その手のことを知っている前提なので、ご了承ください。
 作品の向上には全力を尽くすので、分かりにくい、もっとこうしてほしい、などの要望があればいくらでも申し付けてください。

 そして、もしもこの作品で、対人戦やランダムマッチに興味を持った方がいたら幸いです。雑談板にモノクロの雑談スレ『DM第4相談室』というスレッドがあるので、よろしければお立ち寄りください。フレコ交換やフレ戦希望なども受け付けています。
 勿論、普通に雑談したいという方も歓迎しますよ。

 ちなみにこの映像板では同じものを題材としている作品に、モノクロも合作として参加している『俺と携帯獣のシンカ論』。舞台は違えど世界観を共有している、タクさん著の作品『ポケモンバトルM・EVO』があります。よろしければそちらもご覧ください。

 というわけで、自称前置きが長いカキコユーザーのモノクロが、最後に注意書きを残して本編へと移ります。


※注意
・本作における対戦はほぼ“ノンフィクション”です。バトルビデオを見返して文字に起こしています(しんどい)。
・対戦相手の名前は改変して使用しています(物語の都合とプライバシーの問題に配慮)。
・対戦相手への誹謗中傷はおやめください(♂のメガクチートにじゃれつかせます)。
・ポケモンが喋ります(ポケモンしか出ないから仕方ない)。
・擬人化要素(イラストを描いて頂きました。許可を貰えたらそのうち紹介したいです)。
・茶番(前作より増量)。
・メタ発言(特に後語り)。
・にわか発言&下手くそプレイング(モノクロへの批判はOK!)。
・分かりにくい解説と文面(簡潔になるよう努めております)。
・BGMの種類増加(選出画面のURLのリンクからBGMに飛びます。種類はポケモンに限らず)。
・BOH縛り(詳細は冒頭の通り)。
・後語り担当は作者代理(名前はまだない)。



 以上のことを留意して、どうぞ、モノクロのポケモンたちによるポケモン対戦を、お楽しみください——



 オリキャラ募集的なものをしています。詳細は三戦目以降の後語りにて。投稿条件はこの作品が理解できること、ということで。



目次

零戦目「プロローグ」「を装ったあらすじです」
>>1

一戦目「確率世界」「と呼びたくなるほど理不尽です」
>>4 >>5 >>6 >>7 >>8 >>9 >>10

二戦目「ランダム対戦」「はレートもフリーも魔境です」
>>14 >>15 >>16 >>17 >>18 >>19

三戦目「永遠の宿敵」「は旧友にして戦友です」
>>20 >>21 >>22 >>23 >>24 >>25 >>26 >>27 >>28 >>29

四戦目「ポケモンなしで対戦とは笑止千万」「ポケモンなら拾いました」
>>30 >>31 >>32 >>33 >>34 >>35 >>36 >>37 >>38

五戦目「後輩」「私のことですか?」「それは違うよ」
>>39 >>40 >>43 >>44 >>45 >>46 >>47 >>48 >>49

六戦目「先輩」「その中は百合の園でした」
>>52 >>53 >>55 >>58 >>59 >>60 >>61 >>62 >>63 >>76 >>77

七戦目「トンベリ君」「の憂鬱です」
>>91 >>94 >>95 >>96 >>97 >>101 >>104 >>105 >>106 >>107 >>108 >>109 >>110 >>111


バトル・オブ・ホウエンパーティー名簿一覧
>>78



タクさんより『BOHパ対戦記録譚』のタイトルロゴ(または表紙絵)のイラストを頂きました。
>>54

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選出画面2 ( No.106 )
日時: 2015/05/21 00:31
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: rGbn2kVL)
参照: https://www.youtube.com/watch?v=YUT4Gew75n4

(やばい……どうする、どうするオレ……なにが、最善なんだ……)

 焦り、焦り、焦り。ただそれだけだ。
 時間はある。しかし、だからと言って永遠に悩み続けられるわけではない。どこかで必ず、その思考をやめなければならない。
 いつものように明確に時間制限が設けられていない分、どこで思考をやめればいいのかが分からない。そのことが、さらに彼の焦燥感を加速させる。

(……いや、待て……落着け、落ち着くんだ、オレ……こういう時、あいつなら……雷切なら、どうする……?)

 対戦ではあまり頼りないが、策略という面では認めざるを得ない、自分たちのリーダー。
 彼のことを考えながら、トンベリは少しずつ、自分の中に芽生えた、炎上するような焦りを鎮めていく。

(雷切なら……雷切なら、きっと、こう言う……)



 ——とりあえず、トンベリぶっこんどくか。便利だし——



 いつものように聞かされる、忌まわしい言葉。そんなとりあえず一杯、みたいな感覚で自分を選出しないでほしい。
 いつもならそう思っていた。しかし、今はそうではない。

(……とりあえず、オレを、選ぶ……それだけ、オレのスペックは、汎用性が、ある……!)

 この時トンベリは、ふと思い出していた。
 バトル・オブ・ホウエンで戦う前の夜。正に決戦前夜とも言える、あの日の夜を。
 雷切に、今の自分の型を、教えられたあの時を——



 ——トンベリ、お前、もうイカサマいらねーよな。
 ——……は……? いや……それ、したら……ダメージソース、なくなる……
 ——元から大したダメージでねーんだ。気にすることじゃねぇ
 ——でも……積み技、とか……対策に、なるし……
 ——挑発でなんとかしろ。
 ——……鬼火、と、自己再生、だけで……粘れ、って……?
 ——そうは言ってねーよ。ただ、イカサマなんてピンポな技はいらねーって言いたいんだ
 ——……回りくどい……はっきり、言え……
 ——お前にそんなことは言われたかねーが、まあいいか。お前、今度からこれ使え。
 ——……? ……メタルバースト……?
 ——そうだ。それがお前の新しいダメージソースだぜ
 ——……襷……でもない、のに……?
 ——まあな。お前は大抵の攻撃を一撃耐えるだけの耐久力はあるんだ。再生が追いつかなくて、鬼火も効かなくて、押し切られそうな相手でも、一発耐えろ。一発耐えれば、そのメタルバーストで返り討ちにしてやれるぜ。
 ——……襷、の代わりに……耐久調整、する、ってこと……?
 ——そういうこった、物分かりが良くて助かる。これでお前やちーちゃんの、つーか俺らの苦手な骨折焼き鳥野郎にも、一杯食わせてやれるぜ。やってくれるか?
 ——……どうせ、拒否権ないし……やることは、やるよ……



「……オレ……」
「へ? なに? なんか言った?」
「トンベリ君? どうしたのです?」

 ぼそり、と呟くトンベリの声は、誰にも届かない。
 最初はそれでもいいと思った。思い返せば、こんな面倒なことに参加したいわけではなかったし、所詮は学校行事。そんなことに本気になるのも馬鹿馬鹿しい。
 なので、聞こえていないなら聞こえていないで、すぐさま取り消してちーちゃんにでも譲ろうかと、一瞬だけ思ってしまった。
 だが、それではダメなのだ。それでは、いつまで経っても、ダメな自分のままだ。
 気に食わない話だが、それを分からせてくれたのは、あの速いだけが取り柄の、自分たちの司令塔ジェネラルだった。
 たった一歩。小さな一歩でも、前に進むために。
 トンベリは、声を振り絞る。

「最後は……オレが、出る……!」



【選出確定
 ニコラス——[♂:シザリガー]
 いなずま——[♀:ライボルト]
 トンベリ——[♂:ヤミラミ]
           All select】



 最後の一枠は、自ら申し出た、トンベリだった。

「トンベリくん……」
「だ、大丈夫なのですか……?」
「……大丈夫だ……」
「本当にー?」
「あぁ……メタバで、相手の型次第、だけど……全員に、打点が、ある……」

 リーフィアやストライクのような物理アタッカーっぽい面子には鬼火と挑発を撃てば封殺できる。その他の特殊アタッカーにはメタルバーストで技を反射させれば倒せる。
 懸念材料と言えば、オンバーンの眼鏡すり替え。そして、バシャーモの、特に積んでくるメガバシャーモの超火力を耐えられるかだが。
 しかし、相手依存になるとはいえ、トンベリはすべての相手と戦える可能性を秘めている。選出する価値は大いにあるだろう。

「んじゃま、これで決まりだな!」
「頼むわよ、電、ニコラス、トンベリ!」

 かくして、トンベリたちの、新学期初の対戦の幕開けだ。
 たかが新歓の一イベントに過ぎないこの対戦だが、しかしトンベリにとっては、ただのイベント以上の意味があるように感じる。
 この対戦を通して、自分の中で、なにかに決着をつけられるかもしれない。そんな根拠もなにもない、淡い希望を抱いていた。
 そんな折、ふと彼に声がかかる。
 とても聞きなれた、彼女の声が。 

「がんばってね、トンベリくんっ」

 なんということのない。彼女の声援。
 別段、自分にだけ向けているわけではない。彼女の性格上、誰にだって同じことを、同じ気持ちを込めて言う。
 ゆえにこの時も、そこにいたのがたまたま自分というだけであって、ニコラスや電がいれば、彼らにも同じことを言うだろう。
 だがそれでも、その言葉が自分の力になることは感じていた。
 だから、本来ならここは、威勢のいい言葉で景気でもつけるべきだったのかもしれない。
 しかし、今の自分は今の自分のまま。結局、出て来る言葉は消極的なものばかり。

「ん……まあ……やることは、やるよ……」

 そんな自分に、やっぱり嫌気が差すが——


「……やることは……やって来る……」


 それが自分なのだと思えば、そんなに悪い気もしないかもしれない。

(……いや……やっぱ、嫌だな……)

 最後にそんなことを思わなければ、少しは格好ついたのに。
 そんな自分にまた嫌気が差す堂々巡り。
 だがやはり、嫌々言いながら、自分にも嫌気が差すのが自分なのだ。それはもう、認めるしかない。
 それに今ここで、そんなことを言っても仕方ない。今はただ、目の前の対戦に集中しなければ。
 これが、そんな嫌になるような自分との、決別になるのかもしれないのだから。

「……行くぞ……」

 そして、新歓バトルマッチ。
 2年5組代表パーティーの対戦が、幕を開ける——

対戦パート1 ( No.107 )
日時: 2015/05/30 13:58
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: rGbn2kVL)

【第2学年の6組が勝負を仕掛けてきた】

【行け、いなずま!】



『Information
 いなずま(DM:ライボルト)

 性格:気弱で自分に自信がなく、恥ずかしがり屋。まだ幼さの残る面も多いが、やる時はやる芯の強さも持つ。

 性質:技のバリエーションは少ないが、高い素早さとボルトチェンジに、非メガ時ならすり替え、メガ時なら威嚇撒きなどを絡めて敵を攪乱し、駆逐する。

 攻撃性能[B] 防御性能[C] 機動性能[A] 多様性[D]

 一言:ポケモン要素が薄いのです……
                        End』



「……対戦、開始……先発は、電……」
「先発は重要よ。頑張れ」
「なのです! 電の本気をみるのです!」
「……その台詞、やめろ……」


【6組はサンダースを繰り出した!】

【サンダースは風船で浮いている!】


「お相手の先発はサンダースだねー、これはどうなのかなー?」
「互いにメインウェポンを封じられてるわね。こっちは拘ってるし、ちょっと動きにくいかも」

 ライボルトの特性は、電気技を吸収し、特攻を上げる避雷針。一方、サンダースの特性も、電気技を吸収し、体力へと変換する蓄電。お互い、メインウェポンである電気技がまったく通じない対面となった。

「……眼鏡をかけている分、こっちの方が、火力有利……だけど、オバヒは、危険……」
「ん、なんでだ? まだ眼鏡だってばれてねえし、ここで一発ドカンとぶっ放すのも手じゃね?」
「……オバヒは、隙が大きい……下手に撃って交代されて、起点にされたり、後続に、負担がかかるのは、まずい……それに、ダースも一撃じゃ、落とせない……」

 残念なことに、この場に便利なダメージ計算機は存在しないため、感覚で判断するしかないが、いかに電が眼鏡をかけて拘ろうとも、HP満タンのサンダースを不一致等倍技で倒しきるのは難しいだろう。

「だから……とりあえずは、めざパで、様子見……」
「…………」
「……どうした……?」
「あ、いいえっ、トンベリくんが、そういう風に指示するだなんて、意外だと思って……」
「……気に、障った……?」
「そ、そんなことはないのですっ! と、とりあえず目覚めるパワーですね、わかったのです!」


【いなずまは目覚めるパワーを使った!】
[サンダースHP:7割程度」

【サンダースの風船が割れた!】


 電はトンベリの言うとおりにし、まずは様子身のめざパを撃つが、やはり威力は低い。拘っていてもこの程度だ。
 そして相手からの、砲弾のような攻撃が放たれる。


【サンダースのシャドーボール!】
[いなずまHP:84/145]

【いなずまの特防が下がった!】


「はわわ……!」
「ダメージだけじゃなくて、特防まで下げられたわね。これはきつい……」
「これじゃあ、いなずまちゃん、次の攻撃は耐えられないよ……」

 ここで特防ダウンを引かなければ、まだ殴りあって倒せたかもしれなかったが、しかしここで特防を下げられてしまったことで、次のシャドーボールでやられることは確実だ。

「……というかさー、お相手、こっちより遅かったよねー」
「あ、そういえばそうね」
「130族のアドバンテージを捨ててまで、耐久かどっかに振ってんのか?」

 なかなか不気味な型だが、しかしこちらの方が速いなら好都合だ。
 ここでトンベリは、ある作戦に出る。

「……電、交代……ニックと……」
「え、あ、はいっ、なのです。ニコくん、頼みました」
「はあぁ!? ちょっと待て! 相手は電気タイプだぞ! そこに俺を出すってのか!?」
「まあ……うん……」
「おいいぃ! ちょ、待った、タンマタンマ!」


【よし、いいぞ、いなずま! 戻れ!】

【頑張れ、ニコラス!】



『Information
 ニコラス(DM:シザリガー)

 性格:陽気で人情に溢れた人の良い性格だが、年相応の欲望と中二病が絶妙に入り混じった三枚目気質。愛称はニックと呼んでほしい。

 性質:適応力によるメインウェポンの破壊力がストロングポイント。素は鈍足だが積み技や先制技があり、型も多彩。突破困難な相手でも、ハサミギロチンで強引に斬首刑にすることも可能。

 攻撃性能[A] 防御性能[C] 機動性能[C] 多様性[B]

 一言:親しみを込めてニックと呼んでくれていいぞ!
                        End』



 無情にも電気タイプの前に繰り出されたニコラス。チョッキを着ているとはいえ、タイプ一致の電気技、そう簡単に耐えられるわけが、


【サンダースのシャドーボール! 効果はいまひとつのようだ……】
[ニコラスHP:148/170]


「……あれ? 俺、生きてる?」
「……電相手に、電気技……撃つわけ、ないし……」
「フツーにシャドボ安定の場面よね」
「なのです」
「……あ、あぁ! 俺だってそんなことは分かってたぜ!? ただちょっと、なんだ、観客へのサービスとして、道化を演じてみただけで——」
「ニック、交代……電と……」
「もうかよ! なんのために俺出たの!?」
「……いや、だって……電気技、受かりそうに、ないし……」

 それが分かっているなら、なぜニコラスをサンダースに後投げしたのか。
 理由はいくつかあるが、一つは電の拘り解除が目的。こちらが上をとれていて、威力60の目覚めるパワーがあの威力。それならば、オーバーヒートを撃ち込めば次の攻撃で倒せるだろうという算段だ。

「それと……あわよくば、電気技、吸収して……避雷針を、発動、させる……」
「あ、そっか。ニコくんには電気技を撃ちたいもんね」
「シャドボやめざパじゃニコちんは倒せないしー、返しの叩きとかクラハンで死ぬから、弱点攻撃を誘発させようってわけだねー?」
「そ、そうだったのか……」
「そこまで考えていたのね」
「トンベリ君、すごいのです」
「ん……まあ……」

 フードを少し深く被り直し、目線を逸らすトンベリ。
 純粋な賞賛を受けて、柄にもなく照れているようだった。


【ニコラス、交代! 戻れ!】

【任せた、いなずま!】


「では、もう一度出撃です!」
「電気技カモン!」

 ここで避雷針を発動できれば、相手の後続次第では、盤面を有利に進めることができる。そうでなくても、電の消耗を少しでも抑えたいので、ここはダメージを吸収する電気技で来て欲しいところだ。
 だが、しかし、

【サンダースのシグナルビーム!】
[いなずまHP:27/145]


「……ま、そうなるよねー」
「流石に露骨すぎたかしら……電が見えてる時に、そりゃ電気技は撃ちづらいわよね」

 まさかシグナルビームを持っているとは思わなかったが、しかし持っているなら、そちらを撃つだろう。
 交代自体は悪い選択ではなかったと思うが、考えが少し甘かった。

「……読み、外した……」

 それを気に病んでか、トンベリがうなだれる。
 確かに読みは外したが、しかしあそこはあのように立ち回るのがベターだったと思われる。そこまで気にすることではないだろう。
 それは他のメンバーも分かっている。

「トンベリくん。だいじょうぶだよ、まだまだこれから」
「そうよ、電はまだ戦えるし、上は取れてる。やっちゃいなさい、電!」
「了解なのです! オーバーヒート、命中させちゃいます!」


【いなずまのオーバーヒート!】


 電は、まるで砲撃のような爆炎を解き放ち、サンダースを火の海へと放り込む。


【いなずまの特攻ががくっと下がった!】

【サンダースは倒れた!】

対戦パート2 ( No.108 )
日時: 2015/05/21 00:38
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: rGbn2kVL)

「一体撃破、なのです……!」

 電はその炎でサンダースを焼き払い、駆逐する。
 その代償として特攻が大きく下がってしまったが、とりあえず一体持っていったので、仕事はしたと言えるだろう。

「……問題は、この先、だけど……」

 なにか、嫌な予感がする。そしてそういった悪い予感は、大抵の場合は的中するものだ。
 今回も、それは例外ではなかった。


【6組はバシャーモを繰り出した!】


 相手の二番手は、激重のバシャーモ。今回の面子では、上手く攻撃を読まなければ、まともに受けられない強敵だ。
 だが、それだけではなかった。
 相手のバシャーモの姿を見るや否や、キャンディが指さして声を上げる。

「あ、あんた!」
「久しぶりねキャンディ! 今日こそ決着をつけるわよ!」
「……誰……?」

 相手はなにやらキャンディに敵意を向けているように見えるが、一体誰なのだろうか。

「去年、隣のクラスの委員長だった子……今年は6組の委員長みたいね」
「当然! 今年こそ、どっちが委員長にふさわしいかを、この舞台で決めるわよ!」
「いや、私は5組の委員長で、あんたは6組の委員長で、どっちがふさわしいとかないから」
「……どうでもいい……対戦、進めるぞ……」

 6組の委員長らしいバシャーモの敵意が、酷く個人的で一方的だと瞬時に理解したトンベリは、とりあえずその私情は無視して対戦に戻る。

「相手はバシャ……たぶん、メガバシャ……となると……」

 ニコラスのアクアジェット一撃では、倒せないだろう。
 通常バシャなら倒せる可能性もあったのかもしれないが、メガバシャーモともなれば、メガシンカで上がった耐久により、確定で耐えられてしまう。

「どうする、トンベリくん」
「……バシャの突破手段は、二つ、ある……」

 一つは、ニコラスのアクジェで、加速を無視して倒す方法。しかしそうするには、事前にバシャを体力をある程度削らなければならない。
 もう一つは、トンベリのメタルバーストで反射する方法。ただし、剣舞型も多いメガバシャーモだ。安定して反射できるとは言いがたい。メタバが読まれなくても、交代読み剣舞だってありうる。なので対面した時に、フレドラ読みメタバか、剣舞読み挑発の択ゲーとなる。

(……バトル・オブ・ホウエンでは……それで、何度も、やられてるし……)

 できれば後者は取りたくない選択だ。

「……とりあえず、ここで退くのは、ハイリスク……電、悪いけど……」
「電ちゃんはここで切るしかねえよなあ……」

 メガバシャーモの火力は、積んでいなくても驚異的。フレアドライブで来る可能性が高いため、軽々にトンベリに代えられるわけもない。
 なので、電はここで捨てることにする。

「り、了解なのです……」
「……悪い……」
「い、いえ、そんな……仕方ないのです。これも、みんなの勝利のためなのですから」
「……相手も、動き出したわよ」


【バシャーモのバシャーモナイトと、6組のメガバングルが反応した!】

【バシャーモはメガバシャーモにメガシンカした!】


 トンベリの予想通り、相手のバシャーモはメガシンカ。メガバシャーモとなる。

「とりあえず、上は取れてるはず。特攻は下がっちゃいましたが、オーバーヒートで少しでも削ります!」

 守るさえなければ、電はバシャの上を取れる。このオーバーヒートで、ニコラスのアクジェ圏内に入れば、ぐっと楽になる。
 仮に守るがあっても、その場合は剣舞がない場合が多いはず。ならば、トンベリのメタバでかなり安全に反射できる。


【いなずまのオーバーヒート! 効果はいまひとつのようだ……】
[バシャーモHP:8割ほど]

【いなずまの特攻はがくっと下がった!】


「あぅ、全然効いてないのです……」

 特攻二段階ダウンに、タイプで半減されてしまえば、ダメージも低くはなる。しかしバシャの耐久の低さと、眼鏡の火力で、四分の一にしては入った方だ。
 それでも、アクジェ圏内かどうかは、かなり怪しいところだが。

「ぬるい攻撃ね」

 6組の委員長は、そう吐き捨てるように言った。

「……相手は、守らなかった……ということは、剣舞の可能性が、高い……」
「剣舞? まあそういうのもよかったんだけど、そんなありきたりな技じゃ、新入生も飽きちゃうわ。今回は、これよ!」


【バシャーモは爪とぎした!】

【バシャーモの攻撃と命中が上がった!】


「爪研ぎ!?」
「あまり見ない技ね……」

 爪研ぎは、攻撃と命中を同時に上げる、珍しい積み技。
 アタッカーにすると、どうしても命中不安がつきまとうバシャーモとは、相性がよい技ではある。


【バシャーモの加速! バシャーモの素早さが上がった!】


「さあ、これでもうアタシには追いつけない! この勝負もらった!」
「はわわ……まずいのです……」

 流石に一度加速されてしまったら、電もメガバシャーモには抜かれてしまう。
 そうでなくとも、オバヒで拘り、特攻は四段階も下がっている。もはや起点以外のなにものでもない。こうなってしまえば、トンベリのメタバで反射するプランは瓦解したも同然である。

「……爪研ぎ……」

 この時トンベリは、相手の次の一手を考えていた。
 爪研ぎを採用しているということは、相手は命中不安技を抱えているということだ。ブレイズキックも命中不安だが、それ以上に確実に採用されているのは、飛び膝蹴り。
 相手としても、ニコラスのアクジェは警戒するだろう。電の残り体力が少ないとはいえ、フレアドライブで体力が削られるのを良しとは思わないはず。

(……こういう時……あいつだったら、どうする……?)

 自分に指令塔などという役目を勝手に押しつけた、あの男の顔を思い浮かべ、思考するトンベリ。
 バシャーモの突破方法については、いつも頭を悩ませてきた。彼はどうやって、この軍鶏の首を絞め上げてきたか。
 やがて、トンベリは顔を上げる。そして、決断した。

「……電、交代……」
「へ……?」
「……オレに、代われ……」

 トンベリが指示した選択は、自分への交代だった。

「だ、大丈夫なの? もうあんたが受けられる火力じゃないよ、あいつ」
「問題ない……ここで、相手の選択は、爪研ぎ……お陰で、次の一手が、読めた……」
「えー? マジー?」
「マジ……爪研ぎを使うってことは、命中不安技を、採用してる……少なくとも、馬鹿力じゃなくて、膝は採用、してる……」

 電を起点にして、とりあえず積んだのだろうが、相手としても、ニコラスのアクジェの存在がちらつくため、フレドラの反動はできれば嫌うだろう。
 ならばここは、さっき見せたニコラス交代読みも兼ねた、膝を撃ってくると見ることができる。爪研ぎで命中を上げているので、相手の膝は外れることもない。安心して撃てるだろう。
 ただし、

「……オレなら、膝を、透かせるから……」
「あ、そっか。トンベリはまだ見せてないもんね。相手の警戒も薄いはず」
「そんでもって、膝を外したら骨折ダメを受けるからー」
「俺のアクアジェット圏内に入るって寸法だな! よし、その作戦でいこうぜ!」
「膝を透かした後は、わたしを捨ててください。トンベリ君はまだお仕事ができるので、わたしが身代わりになるのです」

 と、メガバシャーモの火力に戦慄していたが、勝機が見え始めてきた5組の面々は、表情を明るくする。
 ただし、ちーちゃんだけは、どこか心配そうだった。

「トンベリくん……」
「…………」

 やはり彼女にはばれているか、とトンベリは思う。
 しかし、勝つためにはこれしか手はない。リスクの高い賭けだが、残された手は一つなのだ。
 ならば、それを実行する以外はあるまい。トンベリは、既にその覚悟ができていた。


【いなずま、戻れ!】

【行け、トンベリ!】


「てっしゅーなのです! お任せしました、トンベリ君!」
「ん……」

 電と交代し、場へと出て来るトンベリ。
 理想的な流れは、ここでバシャの膝を透かしてダメージを与え、電を捨ててから、ニコラスのアクアジェットで仕留めること。
 それが理想だ。
 しかし、世の中、理想的なことばかりが起きるわけではない。
 そして、現実はいつだって非情なのだ。

「……来るか……」



【バシャーモのフレアドライブ!】

対戦パート3 ( No.109 )
日時: 2015/05/21 00:44
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: rGbn2kVL)

「……え?」

 一瞬、なにが起こったのか理解できなかった。
 しかし次の瞬間、途轍もない熱風と爆風が吹き荒ぶのを感じた。
 そして、トンベリは業火の中で、焼かれている姿があった。


【トンベリは倒れた!】


「トンベリイィィィィィッ!」
「ト、トンベリ君が……っ」
「ここでフレドラだなんて、お相手、ベリリンの思考を読んでたのかなー……?」

 素の火力で殴られたって致命傷なのだ、一積みしたメガバシャのフレアドライブを、HB特化でもないトンベリが、どうして耐えられようか。
 プスプスと煙が立ちこめながら、焼け焦げたトンベリが、ゆっくりと倒れ込む。
 その時、彼の口が、小さく動く。

「……ニック……」
「な、なんだ……?」
「……あと……頼んだ……」
「え……?」

 そうして、トンベリは遂にばたりと倒れ込んでしまう。

「ふふふ、まずは一体よ! さあ、次は誰が来るのかしら!?」

 トンベリを倒して勝ち誇った顔を見せる6組委員長。
 確かにほぼ無償でトンベリを突破したことは大きい。相手の裏がなんであれ、トンベリは役割を遂行することが可能なはずなのだから。
 しかしトンベリとて、無駄死にしたわけではなかった。


【バシャーモは反動によるダメージを受けた!】
[バシャーモHP:4割強]


「! 見て! あいつの体力……!」
「あ、反動ダメージなのです」
「あいつ、まさか最初からこれを狙って……!」

 ブレイズキックの採用は、可能性が低いと考えられる。剣舞よりも火力の上がり幅が小さい爪研ぎだ。エースアタッカーならば、威力が大きく劣るブレイズキックより、フレアドライブを選ぶことは簡単に推測できた。
 勿論、膝が来ることも考えての選択だろうが、仮に膝ではなかったとしても、トンベリは自身を捨て駒にすることで、バシャーモの体力を削り、ニコラスのアクアジェットの圏内へと入れたのだ。


【バシャーモの加速! バシャーモの素早さが上がった!】


「……ニコラス、後はあんがた頼りよ。電もかなり消耗してるし、今まともに動けるのはあんただけなんだから」
「分かってるぜ委員長。俺だって男だ、やる時はやるし、トンベリの仇だって取ってくる。あいつの弔い合戦だ!」
「いや……別に、オレ、死んでない……」

 確かに死ぬほど痛い攻撃ではあるが、トンベリは今まで、剣舞を積んだメガバシャのフレアドライブだって嫌と言うほど喰らってきたのだ。もう慣れっこである。


【頑張れ! ニコラス!】


「さあ、行くぜ! 女の子の前だ、かっちょいいところ見せてやろうじゃねえか。ついでに、トンベリの仇も取ってくるぜ」
「オレの仇は……ついでか……」

 しかし、ここでニコラスの存在が非情に重要であることは確かだ。少なくとも、目の前のバシャーモを倒すことができるのは、ニコラスだけなのだから。

「んじゃ、まずは一発! 喰らいやがれ!」


【ニコラスのアクアジェット!】

【効果は抜群だ!】

【バシャーモは倒れた!】


 水流を身に纏い、超高速でバシャーモへと突貫するニコラス。そのスピードは、いくら加速しようとも、追いつくことはできない。
 相手のバシャーモはその一撃を喰らうと、思い切り吹っ飛んでどこかへ消えてしまった。

「……ちっと気合い入れすぎたな。まあいい! 次は誰だ?」

 これで相手の残りは一体。数の上では有利だが、電が瀕死寸前であり、ニコラスも少しばかり消耗していることを考えれば、五分五分といったところだろう。
 なによりも、相手のラスト次第ではあるが。
 そして、6組の最後のポケモンが、現れる。


【6組はエンペルトを繰り出した!】


「……エンペルト……」
「微妙なところね。ストライクやオンバーンとかよりはマシかもしれないけれど」
「でも……技構成次第では……勝ち目は、ある……」

 エンペルトと言えば、有名なのは風船やシュカの実を持たせ、弱点である地面技を受けつつ、冷凍ビームで返り討ちにする型。主にガブリアスを仮想敵として定め、襷持ちでも倒せるように、アクアジェットも持っている可能性が高い。アクジェがあるなら、体力が残り僅かな電は、もう戦闘不能も同然だ。

「でも、エンぺはまだマイナーな部類だし、型は読みづらいよねー。チョッキとか、眼鏡とかもあるかもよー?」
「風船は最初のサンダースが持ってたから、少なくとも風船じゃないよね……なんだろ……?」
「6組さんはSを削ったサンダースや、爪研ぎを積むメガバシャーモもいたのです。なにをしてくるか、読めないのです……」

 テンプレに近い型の多いこちらに対して、相手はそのテンプレから少し外れた型が多く見受けられる。このエンペルトも、その例に沿う可能性は高い。
 だが、しかし、

「……それでも、相手は……大きく、テンプレから、外れてるわけじゃ、ない……」

 トンベリの言うとおり、確かにあいてはテンプレから多少は外れているだろうが、奇形や地雷と言えるほどではない。テンプレにちょっと手を加えた程度だ。
 サンダースは元々技スペが余るので、フルアタにすることも考えられるだろう。爪研ぎだって、積み型メガバシャーモの一種でしかない。
 それならばこのエンペルトも、際だって奇形とは限らない。

「……エンペルトの、基本技は……ドロポン、ラスカノ辺りの、タイプ一致技……サブウェポンに、冷ビとか、草結びとか……あとは、先制技に、アクジェが、あるかどうか……」

 補助技としてステロや欠伸があるかもしれないが、ステロ欠伸型なら先発だろうし、ここまでくればステロも欠伸も怖くはない。

「……エンペルトの、技のほとんどは……ニックが、半減できる……アタッカーなら、タイプ一致技二つと、冷ビは欲しいはず……あと一枠、アクジェなら、ニックに有効打は、ない……草結びでも、押し切れる可能性は、あるし、草結びがあるなら、たぶん、アクジェはないから、電で、押せる……」

 唯一、アクアジェットと草結びを両立されていたら、こちらに大きな負け筋が生まれるが、相手がテンプレに近いアタッカー型なら、その可能性は低いと考えられる。
 なんにせよ、ここからは相手がこちらに有効打を持っていないことを、ただ祈るのみだ。

「んじゃ、ここは馬鹿力で一気に吹っ飛ば——」
「……待った……」
「? なんだよ、トンベリ」
「……一度、叩きで、様子見……」

 ニコラスが突っ込んで行きそうになるのを、トンベリは制止。そして、馬鹿力の前に叩き落とすを指示する。

「は? 馬鹿力で弱点突いた方がよくね?」
「いや……相手の、道具……不気味だから、ここで落としとく……」
「うーん、でもここで状況をひっくり返せる道具って、なにかしらね?」
「でも……相手に、有効打がないなら……少し、様子を見るのも、悪くはない、はず……」
「ちょっとひよってる気がするけどなー。ま、でもその辺はベリリンにお任せするよー」
「なのです、ニコ君」
「……分かった。トンベリの指示に従うぜ。まずは叩き落とすからだ!」


【エンペルトの熱湯! 効果はいまひとつのようだ……】
[ニコラスHP:130/170]

【ニコラスのはたき落とす! ニコラスはエンペルトの弱点保険を叩き落とした!】
[エンペルトHP:2割少し]


「じゃ、弱点保険……!?」
「これは……場合によっては、危なかったかもしれないわね」
「それよりも、相手の熱湯が気になるね」

 ここで熱湯ということは、相手はこちらに有効打がなかったのだろう。
 保険ということはアタッカーであることは間違いないだろうし、熱湯を採用しているということは、威力の高い波乗りよりも、三割の火傷に期待していたからだろう。

「ここで草結びが来ないってことは、最後の技はきっとアクアジェットね」
「……ガブ辺りを仮想敵に、耐久調整して、反撃する型、か……?」

 なんにせよ、ここで弱点保険を落とし、火傷も引かなかったのは幸いだ。不一致馬鹿力では、H振りのエンペルトは倒しきれない。次の一撃で、ほぼ確実に決まるだろう。

「じゃあ……ニック、頼んだ……」
「おう、頼まれたぜ! 行っくぜえぇぇぇぇぇぇぇっ!」


【エンペルトの熱湯! 効果はいまひとつのようだ……】
[ニコラスHP:90/170]

【ニコラスは火傷を負った!】


「ちょっと」
「しっかりしてよー、ニコちんー」
「う、うるせえな! 仕方ねえだろ!? 三割引いちまったんだから!」
「……まあ、流石に……ここまで削ってれば、馬鹿力なら、届く、と思う……」

 最初に火傷を引いていればまだ分からなかったが、相手もかなり消耗しており、今更か力が半減しても、威力120の弱点技。流石に耐えきれないだろう。
 ニコラスは全身全霊の力を込め、右拳(鋏)を、エンペルトへと突き出す。


「うおぉぉぉぉぉぉぉ! 二重の極みいぃぃぃぃぃぃぃっ!」


【ニコラスの馬鹿力 効果は抜群だ!】

【エンペルトは倒れた!】


 ニコラスの一撃は、果たしてエンペルトを真正面から捉える。
 そしてその一撃は、相手の装甲を完膚なきまでに粉砕するのではないかというほどの爆発力で、相手を吹き飛ばした。
 わざわざ画面を確認するまでもない。その破壊的な一撃で、エンペルトは戦闘不能。
 それは、即ち——



【第2学年の6組との勝負に勝った!】

対戦後の茶番 ( No.110 )
日時: 2015/05/26 19:27
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: rGbn2kVL)

「…………」

 新歓もすべての行程が終了し、見物していた下級生も、参加していた上級生も、ほとんどが帰るか後片づけをしている中。
 トンベリは一人教室に残っていた。
 特に理由はない。ただなんとなく、一人になりたかっただけだ。
 今日の新歓で、結果としてトンベリたちのクラスは勝利した。6組委員長の悔しそうな顔が、いまだ思い浮かぶ。
 しかし、この新歓で、トンベリはなにかを得られただろうか。
 今までと、なにか変わっただろうか。

「……なにも変わんないなら、オレのしたことって……いったい……」

 今回の新歓のパーティー決めに難航したのは、参加に積極的なクラスメイトがいなかったから。なぜなら、それは自分に自信のある生徒がいなかったからだ。
 トンベリは、自分に自信がないわけではない。一時期、レートパとしてその性能を最大限に発揮していた実績があり、その他のインターネット大会への出場経験もある。
 だが、それは自信と言うよりは、拠り所であった。
 場合によっては、自分が選ばれることなんてなかったかもしれない。自分は単に運が良かっただけなのかもしれない。
 これまでの実績は、彼にとっては鎧のようなものだった。実力はどうあれ、形としてでもその実績があることで、自分の自信と呼べるようなものを持ち、自分自身という自我と個性を、なんとか保ってきた。
 だが、実際はどうだろうか。
 一時、ORAS環境のトップに上りつめたメガボーマンダ。自分なんて奴の起点そのものだ。
 その他、バシャーモやファイアロー、ニンフィアやマリルリといった環境トップメタの面々に対して、非常に弱い。
 それでも多数の型、調整を考え、なんとかそれでも活路を見いだしてきたが、それもそろそろ限界を感じていた。
 トンベリは、ポケモンとしての自分の存在意義に、疑問を感じてしまったのだ。
 さらに、それに追い打ちをかけるように、彼の思考はマイナスへと落ちていく。
 ポケモンである以前の、一生命体としての自分自身は、果たしてどうなのだろうか。
 今でこそ、それなりに人付き合いができるようにはなったが、それはちーちゃんがいたからこそだ。この先、ずっと彼女と一緒というわけにも行くまい。そうでなくても、彼女に頼りっきりではいけないことは理解しているつもりだし、それは彼のプライドが許さない。
 だが、だからといってどうしようもないのが現状だ。自分自身はそう簡単には変えられない。それでも、変わらない自分は嫌になる。
 自己嫌悪と自己否定、自問自答を繰り返し、自分のアイデンティティを常に見つめる。それは非常に辛く、苦しいことだ。 
 そんな自分は、今回の新歓で、決心した。ほんの少しだけだが、嫌になる自分を変えようと、とてもとても小さな、決意をした。
 なんてことはない。今までは逃げてきただろう、流してきただろう、いなしてきただろう、目の前の物事に、取り組んだだけだ。決心というのは、あまりにも当然で小さいこと。
 たったそれだけのことだが、彼にとっては大きいことだったのかもしれない。
 そして、自分はその決心で変われたのか。どうなのか。
 それを、ただひたすら、ぼーっと考えていたら、ふと教室の扉が開いた。

「あ、トンベリくん。ここにいたんだ」
「……ちーちゃん……」
「みんなトンベリくんのこと探してたよ。なんかね、このあと、みんなでどこか遊びに行こうって話になってるの。トンベリくんも行こう」
「…………」

 あれだけの対戦をしておきながら、まだ遊ぶ気力が残っているのか、とトンベリは呆れたが、まあ、要は打ち上げに行こうということだろう。
 それくらいだったあ構わないか、とトンベリは思考を中断して、立ち上がろうとするが、

「あ、そうだ。トンベリくん」
「……なに……?」

 立ち上がったところで、ちーちゃんがこちらへとやってきた。
 自分とほとんど変わらぬ背丈。幼い顔つき。華奢な体躯。それはいつもと変わらないが、夕陽を背にした彼女の姿は、どこかいつもと違って見えたような気がした。
 彼女は無邪気に微笑むと、

「今日のトンベリくん、かっこよかったよ」
「……え……?」

 最初は、なにを言っているのか分からなかった。まさか自分が、地味で嫌悪されるような戦い方しかできない自分が、そんなことを言われるとは思わなかった。
 だからか、つい口をつくようににして、否定の言葉を並べてしまう。

「いや……そんな……オレなんか、別に、大したこと、ない……」
「ううん、そんなことないよ。今日のトンベリくんは、いつもと違って見えたもん。すっごいかっこよかった——」

 そして、彼女は続けた。


「ーー雷切さんみたいで!」


「……そっか……」

 一瞬で脱力した。同時に、トンベリは変に期待した自分が馬鹿だったと、己の自惚れを戒めて、勘違いによって引き起こされた羞恥心を必死で抑え込む。
 確かに、今回は雷切にアドバイスをもらって、そのうえで臨んだ対戦だ。彼の心構えや姿勢が、知らず知らずのうちに出ていても不思議はない。
 しかし、奴のようだと言われても、嬉しくもなんともなかった。

(まあ、でも……あいつには、感謝、しないとな……)

 まがりなりにも、トンベリが今回の対戦で前向きになれたのは、彼のお陰なのだ。
 感謝くらいは、しなくてはならないだろう。
 少なくとも、今回の一件でトンベリは、雷切の言葉があったからこそ、なにかを掴めたような気がしたのだ。

(あぁ……なんだ……)

 と、そこで、トンベリは気づいた。

(オレも……ちゃんと前に、進めてるのか……)

 今まで堂々巡りの無限ループだった自己嫌悪と自己否定の連鎖は、たった一つの発見によって崩壊した。
 自分には進歩もなにもない奴だと思ったが、そうではなかった。
 なにを掴んだのか、それははっきりしないが、しかしなにかを掴んだ、それははっきりしている。
 そのなにかから、また先に進める。つまり、自分でもちゃんと前に進めているのだ。
 今まではそれがないと思いこんでいたが、そうではないことに気づかされ、自分でも進歩するものだと思うと、無性に嬉しくなる。

「……? トンベリくん?」
「え……あ、なに……?」
「いや、トンベリくんが笑ってたから、どうしたのかなって」
「笑ってた……? オレが……?」

 どうやら、気づかないうちに顔が綻んでいたらしい。
 それほどまでに、今までの負の連鎖から抜け出したことが嬉しかったのかと、自分でも驚く。
 トンベリの珍しい笑みに目を丸くしたちーちゃんは、すぐに笑い返した。トンベリのような小さな笑みではなく、無邪気で純粋な、満面の笑みだ。

「トンベリくん!」
「……なに……ちーちゃん……」

 自分の心臓の鼓動が早くなるのを感じる。少し期待してしまうが、しかし彼女が次に紡ぐ言葉は、概ね見当がついていた。
 だが、たとえその期待に外れた言葉であろうと、彼女の心からの言葉なのだ。
 嬉しくないわけがない。そして、嬉しいからこそ、こちらも思うままに、言葉を返すだけだ——

「これからも、よろしくね!」
「……うん……よろ——」



ダァンッ!



「トンベリイィィ! ここかぁ!」
「ベリリンみっけー、ちーちゃんもー」
「一人でふらっと勝手にどっか行かないでよね! この後みんなで打ち上げするんだから」
「ちーちゃん、トンベリ君、はやく来るのです!」

 トンベリの言葉は、扉を叩きつけるように開く音と、扉の向こうからまくし立てるような声によって、かき消されてしまった。

「あ、あめちゃんたちだ。わざわざむかえに来てくれたんだ」
「……締まらねぇ……」
「? どうしたの、トンベリくん」
「……別に……」

 思い切って振り絞った言葉を遮られ、うなだれるトンベリ。
 だが、しかし、こういうのも悪くはないかもしれないと、思わないでもなかった。
 彼らも、今日はともに戦った仲間だ。彼らがいたからこそ、今の自分がある。そんな彼らにも感謝しなければならない。いつもなら断るところだが、今回は、打ち上げくらいはつきあってやろうと思った。
 その時、スッと手が差し伸べられた。

「トンベリくん、いこっ」
「……うん……」


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